弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

はやぶさ着々と帰還準備

2007-01-30 22:19:49 | サイエンス・パソコン
小惑星イトカワを探査した日本の惑星間探査機はやぶさについては、このブログでも昨年の3月9日6月4日9月8日12月3日とフォローしてきました。

本日1月30日、JAXAのサイトで確認したところ、はやぶさの最新情報がアップされていました。

「概要
「はやぶさ」運用チームは、昨春の通信回復後に故障が発覚したバッテリの再充電を昨秋から今月まで継続したのち、1月17~18日に「はやぶさ」探査機内の試料採取容器を地球帰還カプセルに搬送、収納し、外フタを密閉する運用を実施しました。その結果、バッテリを使った形状記憶合金などの稼動部品は、すべて正常に動作したことが確認されました。今後は、今春に電気推進エンジンを再点火し、地球への帰路に旅立つ準備として、探査機の姿勢制御プログラムの書き換えを行います。」

記事を読むと、この間の運用チームの努力と活躍の成果は凄いです。地球から遥か彼方、電波が往復するのに7分半もかかるところに今のはやぶさは位置しています。このような遠方の飛行体に電波で指令を与えながら、故障したリチウムイオン二次電池の復旧を成し遂げ、その電池を使って、小惑星の試料が入っている(かもしれない)容器を地球帰還カプセルに無事収納したのです。

リチウムイオン二次電池というのは、高いエネルギー密度によって電池を小型軽量にできるため、宇宙用として開発が進められていますが、実際に宇宙機に搭載したのはこのはやぶさが最初だとのことです。リチウムイオン二次電池は、過放電すると電池内部が変質してしまい、充電が困難になという特質を持っているのですが、1年前にはやぶさがイトカワに再着地して離陸した後に猛烈なトラブルに見舞われ、その過放電をやってしまったのです。11セルのうち4セルは使用に耐えない状況でした。
運用チームは電池の専門家と知恵を出し合い、健全セルと不健全セルのいずれにも無理をかけずに健全セルの充電を成し遂げました。

容器の回収は、形状記憶合金を使って動作するらしく、やり直しがきかないワンチャンスのトライです。また機体の温度を上げすぎると、機内に残留して氷結している可能性のあるヒドラジンが蒸発し、機体が異常運動する可能性があります。性能が復帰した電池を動力源として、慎重に運用し、無事にすべての動作を完了したのです。

この間の詳細を記述した運用チームのレポートには力が入っています。チームに大きな自信を植え付けたことがわかります。

「これをもって、復活したバッテリは有終の美を飾り、サンプラーは想定時期を一年以上遅れてなお、全て正常に稼動し終えました。カプセルの次の出番は、三年半後の地球帰還時の分離・放出です。現在は、電気推進エンジンを使って姿勢を安定させながら、地球への帰路に就くための準備作業が始まっています。」

すごいですね。はやぶさは不死身ですね。この調子でこの春にはイオンエンジンを作動させ、ぜひ地球への長旅を成功させて欲しいものです。
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大学発の技術移転

2007-01-28 17:26:56 | 知的財産権
パテント誌12月号に掲載されたパネルディスカッション「大学発の技術移転が抱える課題と解決策」は面白い内容でした。

モデレーター 東大新領域創成科学客員教授 清水初志氏
パネリスト  東大TLO社長       山本貴史氏
       MPO株式会社 社長    大竹秀彦氏
      ヒュービットジェノミクス社長 一圓 剛氏
      日本アジア投資㈱名古屋支店長 辻野誠司氏

山本氏はリクルート社の企画課長から転じて東大TLOの社長を引き受けたのですね。ディスカッションの様子では、東大TLOは実績を挙げているようです。清水氏の紹介では、リクルーティング、人材マネジメント、マーケティングを押さえている山本氏が社長で入ったことが、東大TLOの今の成功を支えているとのことです。
山本氏の話では、米国の大学のTLOは昔は3つのタイプがありました。第1は「特許出願してあとは何もしない」モデル、第2は「大手の特許事務所に全部アウトソースをして任せる」というパターン、第3はマーケティングモデルといわれ、従来はほとんどなかったものです。第3のモデルはスタンフォードのTLOをつくったニールス・ライマースさんが始め、現在はこのモデルが圧倒的にマジョリティーになっています。マーケティングオリエンテッドで、どんどん大学の技術を企業に案内していく。
東大TLOもライマースさんに学び、フットワークの良さが特徴で、失敗している数も日本一とのことです。失敗している中で学んでいます。

今回のパネルディスカッションは東大新領域創成科学のメディカルゲノム専攻が行ったということで、バイオ、ゲノム、薬の話が中心です。
一圓さんはエーザイ勤務の後、今の会社(ベンチャー)に移られた方です。エーザイ社長による古典的教育の話、タリビットという抗菌剤の特許でわずかな時間差で負けた話、アリセプト(アルツハイマー関連薬)を合成して大成功をおさめた杉本さんですら、ある時期、研究所から離れて人事部の採用部署にいたという話が出ています。その杉山氏が採用を担当していたときに良い人材が入り、その後杉本ジュニアとして育っている、という話もありました。

パネリストの各氏が、実際の経験を踏まえて大学発の技術移転が現在かかえている問題、ここ数年間で改善してきた状況などを話されており、数年前とはだいぶ様子が変わっていることを認識しました。
数年前ですと、大学の先生は特許のことを全く知らず、弁理士との付き合い方も知らず、トラブルが多かったようです。私はできるだけそのような領域に近づかないようにしていたのですが、認識を改めなければいけません。

もっとも、目に見えて改善しているのは、東大TLOをはじめとするわずかな機関のみかもしれません。
例えば、産業構造審議会弁理士制度小委員会で、以下のような発言もあります。
東京医科歯科大学技術移転センター長(農工大TLO(株)取締役副社長) 前田委員
「大学というところはお金がありません。半分ボランティア的に料金の安い先生にお願いしなければいけないという状況があります。内容が、ナノサイズで導電性高分子を電気化学重合するというちょっと変わったものだったものですから、技術がわからなかったせいか、「てにをは」しか直していただけなく、とても悲しい思いをした経験があります。」「弁理士の方が単に量だけ増えますと、安かろう悪かろうの一番被害を受けるのがお金のない大学になるのではないかなと思っています。」

今回のパネルディスカッションでの発言から・・・
山本氏:アメリカでは産学連携をやれば利益相反というのは起こるのが当たり前で、ハウ・トゥー・アボイドではなく、ハウ・トゥー・マネージなんです。
一圓氏:(薬の分野で)ほとんどの大学の知財が売れない理由は何かというと、自分たちの研究だけですべて解決するようなことをいうからです。
辻野氏:(ベンチャーキャピタルの立場で)良い社長っていうのはよくわからないが、ダメな社長っていうのはだいたいわかる。だめな社長さえ除けば、まあ、大体、そんな大きな失敗はない。
大竹氏:(大学教授にとって)最近は補助金を取るのが大変になっている。それに比べて、ベンチャーキャピタルのお金が一番取りやすいと思っている先生がけっこういる。共同研究でやればよいものまであえて会社をつくろうとするんです。
大竹氏:ベンチャーをつくるのに向いているのは、リスクが高いものと市場が小さいもの。
一圓氏:化合物というのは共同研究でやった方がいい。実は、薬屋がやっている努力って尋常じゃないんですよね。抗体治療とかワクチン治療というのはベンチャーに向いていると思います。もっとおもしろいのは、若い人にしか考えられない新たな医療のビジネスじゃないかと思います。
辻野氏:僕は、大手との共同研究と聞いた瞬間うがった見方をしてしまうんです。たいがい自分の都合の良い契約書を持ってくるのが大手企業です。ベンチャーの社長は契約書なんて細かく見ませんからそれでオーケーとやってね。ベンチャー企業というのは弁護士さんとあまりつきあないんですね。大手企業が「一緒にやりましょう」ってこと自体疑問に思って欲しい。
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納豆が戻ってきた

2007-01-26 22:17:09 | Weblog
あの納豆が消えた騒動がデータ捏造騒動に発展し、大変なことになっていましたね。ニュースでは、小売からの注文が激減して納豆業者が困っているということでしたが、店頭にはそんなにすぐには戻ってきませんでした。水曜頃まではまだ品薄状態でしたね。
26日金曜の夜8時頃マーケットに行ってみたら、納豆の陳列棚がほぼ満杯に戻っていました。普段購入するコラーゲン入り納豆も並んでおり、久しぶりに購入することができました。

テレビ局の発表では、「体重が減ったというデータは捏造ではない」ということらしいですが、世の中はそれすらも否定してしまっているようですね。
もっとも、捏造が明らかになる前でも、「納豆」でブログ検索すると「納豆ダイエットを続けているが体重が減らない」という発言はありましたので、実態としては効果が出ないのかもしれません。
もし「体重が減った」というデータが捏造でないとしたら、番組参加者は、納豆ダイエットだけでなくそれ以外のダイエットを隠れて行っていたのでしょうか。

毎日コラーゲン入り納豆を1パック食するという日常生活に、やっと戻ることができます。
そう言えば、昨日の健診ではこの1年に4キロも体重が減っていました。まさか納豆の効果ではないでしょうね。
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ドック健診受診

2007-01-25 23:42:17 | Weblog
本日(1月25日)、1年に1回のドック健診を受診してきました。

2年前の検診で体重がピークを迎え、「高脂血症」と診断されました。腹部超音波で「脂肪肝」は数年来続いています。通勤の行き帰りでウォーキングしますが体重はなかなか減りません。
そこで1年半前から、毎日往復のウォーキングをパワーウォーキング(たとえばこちら)に変更しました。
効果はてきめんで、その半年後の検診(今から1年前)で高脂血症が解消していました。
そのときは体重はそんなに減っていなかったのですが、本日の健診では体重がこの1年間で4キロも減っていました。普段自宅で量る体重はそんなに減っていないのですが・・・。
そして腹部超音波で「脂肪肝がなくなっていますね」とうれしいコメントをもらいました。
これは健診結果を受領するのが楽しみです。

私が使っている健診施設は水道橋にある結核予防会の総合健診センターです。首都圏在住の弁理士及び受験生には「丸沼書店の向かい側」と言えば通じるでしょう。
健診が終わった後、丸沼書店に寄ってきました。特に予定していた本はなかったのですが、「会社法入門」(有斐閣)を購入しました。会社法関係の書籍の中でこの本を選択したのは、平積みで大量に置いてあったから、というだけの理由ですが、正しい選択だったでしょうか。この店は新刊本が10%オフで購入できるところがうれしいです。
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審査基準案に意見提出

2007-01-23 22:10:37 | 知的財産権
現在、特許の新しい審査基準案に対してパブリックコメントが求められています。私は以下の意見を特許庁に送りました。

----意見の内容-----
    改訂審査基準(案)への意見
  「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」の審査基準(案)について
                     平成19年1月20日

 以下、改訂審査基準の「第2章 発明の単一性」を「単一性基準」、「第Ⅱ節 発明の特別な技術的特徴を変更する補正」を「シフト補正基準」と略称する。

1.発明の特別な技術的特徴を変更する補正
 以下のような事例について考える。ここで「A+B」とは、「A&B」を意味し、「A or B」を意味するものではない。
[出願当初]
[特許請求の範囲]
 請求項1:A+B
 請求項2:A+B+C
[発明の詳細な説明の記載]
 構成Aは好ましくはA'、より好ましくはA"である。
 構成Bは好ましくはB'、より好ましくはB"である。
 構成Cは好ましくはC'、より好ましくはC"である。

 審査の結果、請求項1に係る発明は特別な技術的特徴を有しないと判断された。
 請求項2に係る発明は請求項1に係る発明に構成Cを付加した発明であって、請求項1に記載された発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの発明であり、かつ構成Cの付加は技術的な関連性の高い技術的特徴を付加したものであり、具体的な関連性も高いものである。従って請求項2は審査対象となる(単一性基準4.2)。
 請求項2に係る発明は、進歩性がないとして拒絶理由の対象となった。この場合、請求項2に係る発明が特別な技術的特徴を有していると判断されても、有していないと判断されても、どちらでも良い。

 補正を行うに際し、請求項1に係る発明が特別な技術的特徴を有していなかったので、シフト補正基準4.3に従って補正要件を検討する。
 請求項2に係る発明に特別な技術的特徴が認められた場合はシフト補正基準4.3.1、認められなかった場合は同4.3.2に従うが、いずれであっても、補正後の請求項①の発明が、「補正前の請求項2に係る発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの請求項」に該当すれば、補正後の請求項①が審査対象となる。

 従って、補正後の請求項①に係る発明が例えば
 請求項1:A+B+C'
であれば、この請求項は審査の対象となる(シフト補正基準4.3)。

 しかし、補正後の請求項①が
 請求項1:A+B"
であった場合、補正後の請求項①が補正前の請求項2の発明特定事項をすべて含むものではないので、審査対象とならない(シフト補正基準4.3)。

 設問のような事例の場合、元の請求項1の下位概念を最初からクレームアップしようとすると、A'+B、A+B'、A'+B'、A"+B、A"+B'、A+B"、A'+B"、A"+B"と果てしない組み合わせが存在する。このような場合、出願当初の特許請求の範囲では請求項1:A+B のみとしておき、審査の結果公知文献が明らかになったところで最適な減縮を図る補正を考えるものである。
 一方、A+BにCを外的付加した発明A+B+Cも重要であるなら、これを請求項2とするであろう。

 新審査基準によると、当初の請求項1に特別な技術的特徴が認められなかった場合には、請求項1を減縮する補正が認められないこととなる。もし元の請求項1を減縮した発明を特許化する可能性があるのなら、最初から可能性のあるすべての減縮発明をクレームアップしておくか、あるいは拒絶理由通知を受けたときに最初から分割出願を覚悟するか、のいずれかが要求されることとなる。これでは出願人に過度に負荷をかけることになるのではないだろうか。

 せめて、「請求項1に特別な技術的特徴が認められない場合」であっても、元の請求項1を減縮する発明(限定的減縮のみに限っても良い)に補正することは認めるべきであると考える。
 その場合、「請求項2についても、補正後の請求項①と直列的関係を有するように補正しないと審査対象から外す」という扱いであっても構わない。

2.発明の特別な技術的特徴の有無の表示
 審査した請求項のうち、どの請求項に係る発明が発明の特別な技術的特徴を有していたのか、という事項は、補正の範囲を定める重要な事項である。上記1.の事例でいえば、元の請求項1に発明の特別な技術的特徴が認められるのであれば、A+B"とする補正が認められる。
 拒絶理由通知において、審査官が判断した請求項毎の発明の特別な技術的特徴の有無はどのように表示されるのであろうか。その点が新審査基準では明確でないように思われる。
 新審査基準において、拒絶理由通知の中で請求項毎の発明の特別な技術的特徴の有無を明示するよう、定めて欲しい。

3.発明の特別な技術的特徴の有無の判断
 単一性基準の第3ページ第3行(注3)では、
「「発明の先行技術に対する貢献をもたらすものでないことが明らかとなった場合」とは、「特別な技術的特徴」とされたものが先行技術の中に発見された場合のほか、一の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合や、単なる設計変更であった場合が含まれる。」
とされている。
 これによると、
(1) 新規性を否定する公知文献が発見された場合には特別な技術的特徴を有しない
(2) 進歩性が否定される場合、一の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合や、単なる設計変更であった場合には、特別な技術特徴を有しない
(3) 進歩性が否定される場合であって上記(2) 以外の場合には、特別な技術的特徴を有する
と区分されるように推察される。このように理解してよろしいであろうか。
 もしこの通りであるのなら、審査基準の中でこの点をわかりやすく明示して欲しい。違うのであれば正しい基準をやはり審査基準の中でわかりやすく明示して欲しい。

4.発明の特別な技術的特徴の有無の判断に対する反論
 拒絶理由通知における審査官の判断に対して、出願人が反論したい場合がある。例えば、
「請求項1に係る発明は新規性を有する」「請求項1に係る発明は進歩性を有する」「請求項1に係る発明が進歩性を有しない点については承服するが、特別な技術的特徴は有する」のように。
 このような反論をどのように展開することが適切であり、審査官はその反論に対してアクションの中でどのように対応するのか、という点について、新審査基準のの中に明記して欲しい。
----以上-----
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世田谷・桜上水界隈

2007-01-21 19:26:57 | 杉並世田谷散歩
京王線の桜上水駅から南に下ったあたりに、日大文理学部キャンパスがあります。本日1月21日はセンター入試の2日目でした(左下写真)。
キャンパスに隣接して日大の陸上競技グラウンドがあります(右下写真)。広いグラウンドですが、いつ見ても陸上競技の練習しかしていません。陸上競技の専用グラウンドなのでしょうね。世田谷区のど真ん中でこのような使い方ができるとはうらやましいです。写真の左端に小さく見える緑色のネット構築物は、ハンマー投げのための防護ネットです。この日は砲丸投げの練習をしていました。
  
 日大文理学部キャンパス    日大グラウンド
日大グラウンドに隣接する、桜上水三丁目20番地あたりでしょうか。勝利八幡神社があります(左下写真)。説明によると、創建は1026年と古く、現存する旧本殿(高さ1m程度)は1788年に建てられたもので、世田谷区内では最古のものだそうです。なお、左下の写真は現在の本殿です。
さらにその南の密蔵院にも寄ってきました(右下写真)。桜上水二丁目24番地付近にあります。
  
 勝利八幡神社         密蔵院
桜上水ではありませんが、明大和泉校舎でも本日はセンター入試が行われていました。

 明大和泉校舎
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椅子を選ぶ

2007-01-18 19:56:15 | 弁理士
私が特許事務所で執務用に使っている椅子は、イトーキ製のごく普通の肘付き回転椅子です。KZシリーズといい、定価で5万円台でしょうか。開業以来この椅子を使い続け、特に不満があるわけではありません。左下の写真です。
  

ところで、以前、鈴木章著「法律事務所を作る!」(右上写真)を読んだところ、その中に椅子の選び方が載っていました。
「率直にいって、「椅子」というカテゴリーにおいては、国産各社の商品は(それぞれ善戦はしていますが)、遠く欧米のものに及びません。椅子文化の伝統の厚みといますか、つい100年前までタタミにだけ座っていた我々にはちょっと追いつかない「何か」を感じさせるものが、欧米の高級な椅子にはあります。
 そしてその違いは、ひとたび座ってみるや誰にもすぐに体感できるのですから恐ろしいものです。」

本の内容についてはこちらでも読むことができます。

椅子についてのこの記述がずっと気になっていました。
最近、事務所で椅子を買い足す話が出たので、この際私の椅子を買い換えようと思い立ちました。
しかし、どのメーカーの椅子が「国産とはひと味違う欧米の高級な椅子」なのか、情報がありません。ネットでいろいろ調べると、米国ハーマンミラーHermanMiller社のアーロンチェアAeron Chair、ドイツヴィトラVitra社のイプシロンなどは人気があるようです。いずれもワーキングチェアの範疇ですが。また、私が読んだ上記の本の著者である鈴木章さんにメールで問い合わせたところ、ご親切に回答をいただき、「ドイツのウィルクハーンwilkhahn社の製品がよい」と教えていただきました。
そこで、ハーマンミラーとヴィトラの製品を置いてあるというhhstyle原宿本店、ウィルクハーンを置いている秋葉原のヤマギワリビナ本館、ウィルクハーンと国産のコクヨ製品の座り比べができるコクヨショールーム、現在私が使っている椅子のメーカーであるイトーキショールームを行脚し、椅子の座り比べが始まりました。

いやいや、各椅子ごとに個性が違うこと、びっくりしました。単純に「良い椅子、悪い椅子」と序列することなど不可能です。それぞれが個性を主張し、座り比べていくうちにわけが分からなくなります。どうも「ひとたび座ってみるや誰にもすぐに体感できる」というわけにはいかないようです。

種々の椅子を座り比べた結果、最も大きな相違点あるいは特徴点が見いだされるのは、「背板で腰部をどのようにサポートするかしないか」という点であるような印象を受けました。
普段の自分自身の執務姿勢を改めて観察してみると、タッチタイプで高速タイピングを行うのであれば背筋を伸ばした姿勢を取ります。骨盤の配置を見ると、デレッとしているときは骨盤が後に傾き、背筋を伸ばすと骨盤が起きあがります。骨盤が起きあがった状態で長時間保つためには、座に深く座り、ベルトの下あたりで腰部を背板に押し付け、骨盤を保持しています。書類を読む際も同じような姿勢です。このとき、腰部が背板で強力にサポートされています。

アーロンチェア、イプシロン、ウィルクハーンのモダスModusなどでは、背板がメッシュである点で共通しています。そして背板がメッシュであると、腰部を強力にサポートすることはできません。メッシュの特徴は、「背中全体をふんわりと包み込む」という点にあるようです。
どうも最近の好評な椅子は、「背中をどっかと背板にあずけて執務する」スタイルを重要視しているようです。私はそのような姿勢で執務しません。その点が、好評な椅子に私が違和感を覚える原因かもしれません。
アーロンチェアには「ボスチャーフィット」という機能があり、メッシュの後に腰を支えるための機構が配置されていますが、モダスにはそのような機能がなかったと記憶しています。

国産各社の高機能の椅子は、「ランバーサポート」と呼んで腰部のサポート状態を調整できるようにしているものが多いです。

そこで、背板による腰部の支持状況を中心に、各銘柄の椅子の印象をまとめてみました。私が普段使っているイトーキのKZチェアを基準としています。

ハーマンミラーのアーロンチェア
第一印象に残る特徴は、「座ると同時に座板の後部が沈み込む」という点です。このような特徴は他の椅子には見られません。私自身はこのような機能を必要としないようです。
腰部支持として、ポスチャーフィットがとりたてて優れているとの印象は持てませんでした。
ヘッドレストが付かない点は減点です。

ヴィトラのイプシロン
私には座板が大きすぎました。座板を限界までスライドしても、深く腰を下ろすと足がつかえてしまいます。

ヴィトラのヘッドラインHeadLine
腰部支持については、特に問題ありません。
ヘッドラインの特徴は座板がフラットである点です。これ以外の大部分の椅子は、座板のおしりの部位が若干へ込んでいます。
背筋を伸ばして腰部を背板に押し付けると、その反力でおしりが前に押されます。ヘッドラインは座板がフラットなので、おしりが前に押し出されるような不安定感がありました。
この椅子の特徴は、リクライニングしても顔が前を向き続けるように背板が変形する点です。しかしその結果、リクライニングしたときに胃のあたりが屈曲して圧迫される気がします。私がリクライニングする目的はリラックスしたり居眠りすることですから、私のニーズからするとマイナスです。

ウィルクハーンのモダス
背板メッシュで腰部の支持が不十分でした。
ウィルクハーンにソリスSolisという銘柄があり、背板はメッシュではありません。ただし強い印象は残りませんでした。

コクヨの椅子:
上位機種中のお勧めであるAGATA/A
説明では、腰部支持に工夫が凝らされているようです。座った印象では、やや腰部支持力が心許ないように感じられました。
コクヨの他の製品のうち、Largoはランバーサポートを売りにしていますが、逆に腰部支持の自己主張が強すぎるようです。
フィロソフィーPhilosophyは、空気調整式のランバーサポートを具備しています。しかし空気枕で腰部支持を行うというのは、強く腰部を押し付けたときに逃げがあり、心許なさを感じます。

イトーキの椅子:
LEViNO
従来のメイン機種です。
ただ1点気になるのは、ランバーサポートの自己主張が強すぎる点です。
Spina
新しいメイン機種です。
腰を浅くかけても、背板が腰部によってくる、という点が売りです。一方、私のように深く腰掛けて腰部を背板に押し付けると、逆に背板が後方に逃げていきます。この点はマイナスです。腰部押し付け力を調整で変更することができません。なぜこのような設定にしたのか理解に苦しみます。
腰部支持という点で、LEViNOは自己主張が強すぎ、Spinaは逆に弱すぎます(私にとって)。ちょうど良い具合の椅子がなかったのが残念でした。

まとめ
定価で10万円~20万円であり、世の中で好評な椅子を中心に見て回りました。しかし現時点での結論は、「定価で5万円台のイトーキKZチェアと比較して明らかに良好な椅子というのが見つからなかった」ということです。
私の椅子選びの着眼点に何か問題があるのかどうか、ご意見をいただけると有り難いです。
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スーパーから納豆が消えた

2007-01-16 23:18:06 | Weblog
わが家では、1日1パック、朝食に納豆を食しています。コラーゲン入り納豆に決めています。この納豆はどういうわけか賞味期限が短く、ひどいときには売っている当日が賞味期限だったりします。そのため買いだめができず、週に2回程度帰宅途中にスーパーによって買い求めています。
昨日15日、夜10時近くに京王ストアに寄ったところ、いつも納豆を置いているあたりに納豆が見あたりません。陳列場所が変わったのかな、ときょろきょろしたところ、いつも納豆が置いてあるあたりに、陳列棚が幅1m弱ほど空っぽになったところがあります。そこが納豆売り場で、すべての種類の納豆が売り切れていたのでした。
掲示されていた説明書きによると、テレビ番組で紹介されたか何かでとにかく納豆が品薄になっているということでした。
本日16日の夜10時前にも寄ってみましたが、同じく陳列棚がほぼ空っぽでした。

納豆が健康に良いという話はテレビ番組で昔から常に聞かされていますから、とりたてて最近になって急に売れ始めたというのも合点がいきません。

一体何があったのでしょうか。
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杉並の塚山遺跡と鎌倉橋

2007-01-13 23:33:10 | 杉並世田谷散歩
京王線と井の頭線は、東京都杉並区の明大前駅で交差します。明大前駅より西側の地域において、神田川は京王線(南側)と井の頭線(北側)の間を流れています。
京王線の上北沢駅と井の頭線の浜田山駅とは、ちょうど南北の関係にあり、両駅を結ぶ道路は鎌倉街道あるいは鎌倉通りと呼ばれているようです。この鎌倉街道が神田川を越えるところにかかる橋は、鎌倉橋と呼ばれています。
  
写真左は鎌倉橋を北側から写した写真、右は鎌倉橋から神田川を写した写真です。

鎌倉橋のすぐ南西側には塚山公園があり、この公園一帯は川から一段高い丘陵を形成しています。上の左の写真の背景に見える樹林地帯がそれです。この公園の一番奥(鎌倉橋から見て)に塚山遺跡が存在します。縄文時代中期の竪穴式住居跡です。
説明によると、この遺跡は昭和10年頃から昭和48年頃までの間に断続的に発掘され、最終的には20軒以上の竪穴式住居跡が見つかり、縄文時代中期の環状集落の跡であることが確かめられました。
  

写真の左は復元された竪穴式住居、右は発掘時の再現です。
集落の位置は、神田川のすぐ近くの丘の上、つまり、すぐに水を手に入れることができ、かつ水害にも遭わないということで理にかなっています。

同じく説明によると、約1万年も続いた縄文時代は、寒期と暖期のくり返しで、集落の周りの植生も変化します。縄文時代中期は今よりも涼しかったと考えられており、今の武蔵野の雑木林のような、くぬぎ、かし、しい、栗、とちなどの、縄文人にとって大切な食料となっていた樹木が生えていた、ということです。

一説によると、縄文時代の日本列島の人口は、東日本に20万人、西日本に2万人だったと推定されています。縄文人の主食である栗などの樹木の生えている量が、その土地の人口を決定していたと考えられ、東日本にそれらの樹木が多かったということでしょう。

ところで鎌倉街道と鎌倉橋についてです。
鎌倉橋のたもとにある説明文によると、鎌倉橋について「武蔵名勝図会」には「民高井戸の境にあり。古の鎌倉街道にて・・・いまは農夫、樵者の往来道となりて、野径の如し」とあるそうです。
鎌倉街道は、東国御家人と鎌倉を結ぶ道で、鎌倉~室町時代に繁栄したものの、江戸時代以降次第に衰え、後半期には一部を残すだけになったようです。
鎌倉橋の名の由来について、武蔵名勝図会には「鎌倉街道ゆえ、鎌倉橋という」と記されていますが、一説には、1457年に太田道灌が江戸城を築くとき、下高井戸八幡神社を建立させ、武士の信仰の厚い鎌倉八幡宮の神霊を勧請したおりに、鎮座地に近いこの橋を鎌倉橋と名付けたといわれているようです。
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岡本薫著「日本を滅ぼす教育論議」

2007-01-10 22:51:57 | 趣味・読書
岡本薫氏というと、私には「文化庁の官僚で著作権の専門家」というイメージがあります。以前、著作権法についての岡本氏の講演を聴き、切れ者であるとの印象を受けました。岩波新書「著作権の考え方」という同氏の著書も持っています。
  
本屋で岡本薫著「日本を滅ぼす教育論議」(講談社現代新書)という本を見つけ、おやっと思って買ってみました。
なるほど、文化庁の課長というのは経歴の一部に過ぎず、OECD研究員、文部科学省課長などを経て2006年1月からは政策研究大学院教授なのですね。専門はココロジー(地域地理学)とあります。いずれにしろ、教育についても氏のテリトリーに入っているということです。

本の内容について一言でいうと・・・
「日本の教育はこうあるべきだ」という方針を述べている本ではありません。
「日本での教育論議はおかしい」として、どのようにおかしいかを述べている本です。

氏は1981~82年、1987~90年の2回にわたって、OECD(経済協力開発機構)の国際公務員として、先進諸国の教育政策・科学技術政策の比較研究に携わっているのですね。そのときの経験が主体となって、「日本の教育、教育論議は先進国外国人からどのように見られているか」という多くの事例をお持ちのようです。
そこで本書では、そのような事例が数多く登場します。

氏は、文部科学省の官僚であったといっても、学校教育はどうあるべきかという施策を直接立案する担当者ではなかったようです。それがために、本書でも、「教育はどうあるべきか」との議論はなされず、「教育論議はどうあるべきか」との議論になっています。それも、「外国人からどう見られているか」という点が多いです。

教育政策に携わる直接の担当者から見たら、「外国かぶれの外野が何か騒いでいる」「外国かぶれの外野は黙っていろ」といった感想しか生まれないかもしれません。
ですから、この本が契機になって日本の教育が良くなるか、というと、それほどの影響力は発揮しない可能性が高いです。

しかし、「日本での教育論議のここがおかしい」という外国人の指摘には、なるほどと思わせるところが多々あります。同じ外野として、興味深く読むことができました。
たとえば・・・

「先進諸国の教育専門家の間では、『学校教育の質を決定づける三要素』というものが、国際的な常識になっている。この三要素とは、①カリキュラムの質、②教員の質、③スクール・マネジメントの質である。」
そして、日本ではマネジメントのプロセスにそったロジカルな思考の欠如という問題があるとしています。
ノモンハン事件(1939)では、東京の大本営は関東軍に対して、「適切に対処せよ」という趣旨の命令を出しているが、この表現は、日本政府の教育行政当局が、地方教育行政当局や大学などに対して発する文書で頻繁に使っているもの、だそうです。

日本でゆとり教育が取り入れられるとき、「日本の学校教育は知識偏重・暗記中心で、考える力が養われていない」との認識が基になりましたが、現状分析や具体的データに基づかない錯誤だったようです。逆にアメリカの調査団が日本の教育を調査した結論は、「アメリカの小学校の理科教育は知識の詰め込みが中心だが、日本の小学校では、実験や身近な事象を通じて、科学的に考える力が養成されている」だったそうです。
つまり、教育行政当局は、「現状」の精緻な検証なしに「世の中のムード」に流されてしまったらしい、というのです。

西欧・北米の多くの国では、1960~70年代、それまでの詰め込み教育への批判と反省が高まり、「子ども達が学びたいことを、学びたいときに、学びたいように学ばせるべきであり、教師は子ども達の『自発的な学びのサポーター』たるべきであって、『教え込む』ということ自体がよくない」という考え方が流行しました。しかしこの考え方に基づく施策は機能せず、大規模な学力低下をもたらしたのです。
最近の日本のゆとり教育への動きを見て、西欧・北米の専門家達は、「日本人は、われわれの過ちを見ていないのか?」と言っていたのです。

「日本の教育基本法に定められた教育の目的を見ると多くの欧米人は驚愕する。それは『平和・正義・勤労』などといったことが『書かれている』からではなく、『知識・技能』という単語が『書かれていない』からである。」

氏は、「すべての子ども達に必要なこと」(「結果の平等」を追求すべき部分)と、「それ以外のこと」(「機会の均等を確保しておけばいい部分)とを区別して議論しなければならないのに、日本ではこれらを区別せずに議論しており、それがために議論が空回りしている、としています。

その他、興味を持って読んだ事項について、そのタイトルだけ抜き出してみると・・・
・ルール(全員が守らなければならないもの)とモラル(各人の自由でよいもの)の混同
・「リスクマネージメント」という発想の欠如
・「大学院」と「プロフェッショナルスクール」の違い
・日本独特の「大学入試」システムは改革されようとしているか?
などなど
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