弁理士の日々

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パラメータ発明判決の適用範囲

2006-03-14 00:05:00 | 知的財産権
2月8日にパラメータ発明-大合議判決の記事で、日本合成化学事件でパラメータ発明についてサポート要件がどのように判断されたのかを話題にしました。

判決では、パラメータ発明を「特性値を表す二つの技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定」と定義し、パラメータ発明の場合、特許法36条6項1号のサポート要件として、以下の要件を要求しています。
「その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要する」

この大合議判決が適用されるパラメータ発明とは、いったいどのような発明をいうのでしょうか。

パラメータ発明とは、物の特定を、機能・特性等の数値限定によって行っている発明に限定されるのか、数値限定クレームはすべてパラメータ発明として今回判決の影響を受けるのか、という点が気になります。
日本合成化学発明の場合は、「X(フィルム片の熱水中での完溶温度)とY(平衡膨潤度)というフィルムの特性を数値限定してフィルムを特定」した、機能・特性等の数値限定であることは明らかです。

例えば、合金の含有成分の数値限定(C:0.1~0.2%、Mn:0.5~0.7%を含有)は、数値限定ではありますが、含有成分は合金の構成そのものですから、機能・特性等の数値限定ではありません。この場合はパラメータ発明の範疇から外れるのかどうか。

しかし、技術の本質から考えたら、その物の構成を数値限定した場合と、その物の物性値を数値限定した場合とで、具体例の要求度合いが異なるというのはどうも納得できません。

先日、この点について議論するチャンスがありました。
大方の意見では、「物の構成そのものの数値限定であっても、今回のパラメータ発明に関する判決の範疇から外れることはないだろう」ということでした。
「どこまで具体例の記載が要求されるのか」についてポイントとなるのは、判決に言うところの、「技術常識を参酌したところで、どの程度までの具体例がないと、その数式が示す範囲と得られる効果との関係を当業者が理解できないのか」であって、この点を個別具体的に判断することになろう、というところです。
「使用されるパラメータがポピュラーであるほど、当業者が理解しやすい方向にシフトするであろう。また、数式が0次式から1次式になれば、通常は当業者が理解しがたい方向にシフトするであろう。」「当業者が理解しがたい方向にシフトするほど、要求される具体例は増加するであろう。」

審査官は、今回の大合議判決の後押しを受け、サポート要件について強気で拒絶理由通知を打ってくる可能性があります。それに対して有効な反論を展開するためには、今回判決をよく咀嚼し、突然審査官と議論になった場合にも判決の解釈で論陣を張り、審査官を説得することが必要になるかもしれません。
コメント
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