弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

日本サッカー協会の力量

2008-03-30 17:35:22 | サッカー
その国のサッカーA代表の力量というのは、
○その国の子ども達の中からどのような選手が出現するか
○その国のトップリーグ(日本ならJリーグ)がどのような選手を育て上げるか
○その中から選手を選抜し、代表チームとしてどのようなチームを作り上げるのか
の3点が総合してできあがってくると思います。

その中の3点目については、直接には代表監督の力量にかかります。

代表監督はどのように決まるかというと、その国のサッカー協会が選別するわけです。
代表監督は入れ替え可能ですし、いろいろの事情で頻繁に交代することでしょう。そのような状況の中で、その国の代表チームの方向性を確固たるものにするためには、サッカー協会が「良いサッカー」の方向をきちんと見定め、協会が目指す「良いサッカー」を実現してくれる監督を選別することが大事です。
そのような原則さえしっかりしていれば、たとえ監督が交代したとしても、代表チームの一貫性は保たれます。

そして日本です。
オシム氏が代表監督である間、「考えて走る」が標語となりました。
われわれ一般人には目新しい標語でしたが、湯浅健二氏の評論によれば、ヨーロッパのサッカー先進国の間で「良いサッカー」とされている方向性とまさに一致しており、決して目新しいものではないということでした。ここでも、去年の10月(23日28日)に取り上げました。
オシム氏の目指すサッカーがヨーロッパサッカー先進国での共通認識なのであれば、たとえオシム氏が倒れたとしても、同じ方向を目指す優秀な監督は選別可能であろうと私は考えました

しかし、最近の日本代表の動向を見ていると、どうもそうではなさそうです。

岡田監督が最初に唱えた「接近・展開・連続」には驚かされました。サッカー先進国の知恵ではありません。日本のラグビーの先駆者が唱えた思想を拝借しているのです。例えばこちら。何でまたラグビーから???
しかし、その戦法で臨んだ1月の試合で、日本代表は機能不全の状態でした。私だけでなく、新聞記者も、川淵キャプテンもふくめ、試合後に一様に危惧していました。
岡田監督はさすがに賢い人です。すぐにこの「接近・展開・連続」を封印しました。

ところが2月のタイ戦では別の方向にシフトします。
岡田監督 勝ち点3へ「接近」封印
「タイ戦に向けた練習で、イレブンに指示を出す岡田監督
 岡ちゃんが理想より現実を選んだ。日本代表は2日、千葉県内で6日のW杯アジア3次予選タイ戦に向けて練習を行ったが、岡田武史監督(51)はテーマに掲げている「接近・展開・連続」を“封印”。ロングパスを交えた速攻の練習を繰り返した。タイ代表の予想以上の実力に、急きょ方針転換。3日からは練習を3日連続で非公開にするなど、過剰なまでの警戒心を示した。
 寒空の下に岡田監督の声が響いた。「常にトップを見ろ」「トップが空いてたらトップに入れた方が楽だろ」「FWは守備しなくていいぞ。下がるな」。
   ・・・
 最終ラインやボランチから2トップの高原&巻をめがけて次々にロングパスが蹴り込まれた。FWが落としたボールをMFが素早くサイドに展開し、クロスに対して2、3人がゴール前に飛び込むのが基本パターン。これまで取り組んできた「接近・展開・連続」とは対照的に、手数をかけない攻撃が展開された。
 中村憲は「2、3本パスをつないで縦へ行ければいいが、横パスをさらわれてしまうなら1本で出してもいいんじゃないか」とリスク回避の必要性を強調したが、裏を返せば理想より現実を重視した戦術。ある選手は「今までは細かいパス回しだったけど、違うところに行っている。横浜のときの岡田さんっぽい」と戸惑いを隠さなかった。」[2008年02月03日]

これって、先日のバーレーン戦の日本代表そのものじゃないですか。

上の記事の中に出てくる岡田監督の方針は、湯浅健二氏が唱える「サッカー先進国で言われている『良いサッカー』」からかけ離れています。
湯浅氏は、代表戦における大久保について、「動かないから、スペースに栓をしているようなもの」と批評しています。しかし上の記事によれば、それは岡田監督の指示に従った結果です。


ところが今、状況はさらに進展しています。
岡田監督「今後は思い通りやる」=守備など戦術変更も示唆-サッカー日本代表
「サッカー日本代表の岡田武史監督は28日、代表スタッフ会議で今後の強化方針について話し合い、「今までは前(オシム前監督)のやり方を踏襲している部分があったが、今後は自分の思い通りやらせてもらう」と、戦術面などで変更を行う考えを明らかにした。
 日本は先のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会アジア3次予選でバーレーンに敗戦。岡田監督は「変えるのは3次予選が終わってからと思っていたが、甘かった」と話した。具体的な変更点については明言を避けたが、「今まで人に付くディフェンスをやってきたが、自分のやり方ではなかった」と話した。」3月28日19時31分配信 時事通信


契約により監督に就任した人は、それは自分の目指すサッカーを実現しようとするでしょう。従って、その国の代表チームがどのようなサッカーを目指すかという点については、代表監督を選択するときにほとんどすべてが決まります。
従って、まずはその国のサッカー協会がめざすべきサッカー像を形成した上で、その方向に合致し、同時に優れた指導力を持った人の中から人選すべきです。


今からでも遅くありません。
ドイツの二部リーグチームの監督をしているブッフヴァルト氏と接触し、この夏からでも日本代表監督に就任してもらったらどうでしょうか。
湯浅氏によれば、ブッフヴァルト氏の目指すサッカーは湯浅氏の「良いサッカー」と同じ方向であり、即ちオシム流とも一致します。そして、有能な監督であることは浦和レッズで実証済みです。
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ウェゲナーの大陸移動説

2008-03-29 00:51:35 | 歴史・社会
「爆笑問題のニッポンの教養」という、NHKの番組ですか。3月25日は爆笑問題×京大 独創力!というテーマでした。
大勢の京大生が見守る中、爆笑問題の主に大田が、京大の先生方を相手に大議論していました。
で、ここでの話はその番組についてではなく・・・
途中少しだけ見ていたのですが、壇上の先生方がそれぞれ、独創力に優れた先人の名前を一人だけ紹介するという場がありました。そこで一人の先生が「ウェゲナー」を取り上げたのです。

ウェゲナー、そうです、大陸移動説を提唱したドイツの学者です。

ウェゲナーが最初に大陸移動説を着想したのは1910年、世界地図を見て、大西洋の両岸の海岸線の凹凸が良く合致するのに気が付いたときです。
しかしウェゲナーの偉いところは、その着想に留まらず、あらゆる証拠、地球物理学、地質学、古生物学、動物地理学、植物地理学、古気象学のすべての分野で得られた事実を総動員し、「すべての証拠を説明する仮説としては、大陸移動説しかあり得ない」という結論に達したことです。
得られた知識体系をウェゲナーは、「大陸と海洋の起源」という著書にまとめます。第1版は1915年、その後版を重ね、第4版は1929年に刊行されますが、ウェゲナー自身は1930年にグリーンランド探検中に亡くなります。

しかし世界の学者たちは、「大陸が動くなどあり得ない」という固定観念にとらわれ、ウェゲナーの死後は全く受け入れられませんでした。

大陸移動説が見直されるのは、1950年以降、「本当に大陸は動いている」という直接証拠が見つかってからです。そして現在では、プレートテクトニクス理論として、大陸が動いていることを疑う人はいません。

そのウェゲナーの著書である「大陸と海洋の起源」ですが、
大陸と海洋の起源 上―大陸移動説 (1)
ヴェーゲナー
岩波書店

このアイテムの詳細を見る

調べてみると、この岩波文庫を含め、現在では新刊書で購入することができない状況にあるのですね。

ウェゲナーの大陸移動説が学界で受け入れられなかった理由は、結局、大陸を動かす原動力の説明が当時はできなかったからです。
それに加え、ウェゲナー自身はあらゆる学問分野で得られた知識を総動員しましたが、彼以外の学者は、自分の専門分野をはずれた領域の知識を十分に咀嚼できなかったことがあります。逆にそこにこそ、ウェゲナーの偉いところがあるように思います。

その時点では荒唐無稽に思えるような仮説であっても、「そんなことあり得ない」で片付けてはいけない場合があるということです。ウェゲナーの大陸移動説を例として、私も肝に銘じようと常々思っています。

例えば、大野晋「日本語の起源 (岩波新書)」において、大野先生は「日本語の起源はタミル語である」と主張されています。一見荒唐無稽であり、学界でも受け入れられていないようですが、私はこのような仮説をまずは否定しないようにしています。
仮説のひとつとして受け入れ、新しい証拠が出現するたびに仮説の当てはめを行っていけばいいのです。
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芳野満彦「山靴の音」

2008-03-26 23:24:36 | 趣味・読書
芳野満彦「山靴の音」(二見書房)


最近、何かの雑誌で、お薦めの山岳もの書物が5冊ほど紹介されていました。

そのうちの1冊「処女峰アンナプルナ」については、中学の頃読んでいます。人類がはじめて8000メートル級の山に登頂したときの記録です。中学時代に読んだ本の記憶は深く、私はこの本の登場人物4人の名前を今でもフルネームで言えます。

井上靖の「氷壁」は読んだはずですが記憶がありません。それに、芳野満彦「山靴の音」の他、2冊ほど紹介されていました。

「山靴の音」については、確かに中学の頃、そのような名前の本があると聞いた記憶があります。今回購入して読んでみたら、初出版は昭和35年ということで、ちょうど私の中学時代直前です。

芳野氏は、戦後まもなく、17歳の年の12月に、友人と2人で八ヶ岳に登って遭難し、友は死亡、自分も重い凍傷を負って両足の指全部を切断します。しかしその後も登山を続け、穂高、剣岳などの岸壁で初登攀の記録を続出します。「山靴の音」は、そんな芳野氏が書きつづった記録を、昭和35年までについてまとめたものです。

上高地から槍ヶ岳の方向に川をたどっていくと、徳沢園という宿泊施設があります。夏の間は営業し、冬になると従業員は山を下り、その地での人間活動は休止します。芳野氏は、遭難の2年後、冬の間この徳沢園を一人で守るという越冬の仕事に就きます。その後も、1年のうち半分以上を山の中で過ごし、数々の初登攀記録を打ち立てるわけですが、まあその変人ぶりといったら、極めつきですね。

この変人ぶりは、「雪に生きる」を書いた猪谷六合雄(いがやくにお)氏に匹敵しそうです。猪谷氏は、コルチナダンペッツォで開かれた冬季オリンピックの回転競技で銀メダルを取った猪谷千春氏の父君です。

こういった本が読み継がれるというのも、われわれ一般人が社会人としての枠の中で生活する日常において、超越した自然児の生活を読んで愉快に感ずるからか、と思います。男はつらいよの寅さんの映画を観て、自分が寅さんに感情移入するのと似ています。

しかし私の読書傾向をたどってみると、最近だけでも、米軍少尉の飯柴智亮氏、NGOの大西健丞氏、紛争屋の伊勢崎賢治氏、サッカーコーチの湯浅健二氏、埋蔵金の高橋洋一氏と、「変わった日本人」シリーズが多いような気がします。
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新銀行東京の今後

2008-03-24 22:42:46 | 歴史・社会
新銀行東京については、週明けにも都議会で400億円の追加出資が可決されそうです。都議会与党にとっては、来年夏の都議選の重圧がそうさせているようです。

新銀行東京の経営危機について、銀行による調査報告書では、初代代表執行役の仁司氏がすべての責任者としていますが、取締役、監査委員会にこそ責任があると、ここでは述べてきました


新銀行東京が公開する資料を検索してみました。
新銀行東京のディスクロージャーページには、各種の資料が公開されています。
ディスクロージャー誌2006(pdf)は、開業1年後の平成18年7月に出されたもので、件の仁司最高執行役の時代です。当時の経営陣の名前がわかります。わかった範囲で出身を添え、以下に記載しておきます。
取締役
 森昭彦(取締役会議長)※日本地震再保険社長 元東京海上火災副社長
 石川達紘※東京地検特捜部長と名古屋高検検事長を歴任した弁護士
 鹿島博之※東京地下鉄監査役
 梶原徳二※
 北村歳治※早大大学院教授 元大蔵省審議官
 鳥海巌※東京国際フォーラム社長 元丸紅会長
 仁司泰正 トヨタ自動車
 村田守弘※

執行役
 仁司泰正(代表執行役)
 有吉純
 市川英明 長銀出身
 大塚宗一 前王子信用金庫常勤理事管理部長
 近藤三千哉
 丹治幹雄 長銀出身
 徳田一 前ニュー・メディアジャパン 元住友銀行田園調布支店長

取締役の皆さん、そうそうたるメンバーですね。このような人たちが、代表執行役が指揮する業務に対し、的確な監査を行ってこなかったということになります。
出身を確認できなかった方が2名おられますが、都庁OBでしょうか。
マスコミでは、石原都知事はトヨタと検察を敵に回したといわれてます。


ところで、最近の新聞報道では、
「新銀行東京が、開業直後の平成17年8月に策定した「中期経営目標」で、都が作成した経営指針「新銀行マスタープラン」(16年2月公表)より無担保融資を大幅に増やし、開業3年後の焦げ付き想定額を倍増させていたことが22日、分かった。」
「マスタープランは開業3年目(19年度)の融資・保証残高を9300億円と見込んでいたが、中期経営目標ではプラン策定後の金融情勢の変化などを織り込んで、この額を7370億円に下方修正して一見、融資を慎重に進める姿勢を示していた。
 だが、新銀行の内部資料によると、主力商品で原則無担保の「ポートフォリオ型融資」については逆に、19年度の目標額を当初の2800億円から3600億円へと上方修正。融資・保証残高の半分近くを、不良債権化した場合は回収が難しい無担保融資にあてる方針を掲げた。
 このため、19年度の焦げ付きに伴う貸倒引当金償却額の見込みに至っては、109億円から213億円へとほぼ倍増を想定。融資残高の減少にかかわらず、無担保融資を拡大させ、大量の焦げ付き発生も当初から見込んでいた無謀な経営実態が浮かび上がった。」
と報じています。
あたかも、銀行が策定した中期経営目標の中で、無担保の「ポートフォリオ型融資」を増やしたことが今まで公表されておらず、この22日にはじめて判明したような書きぶりです。

そこで、同じ新銀行東京のページで公表されている中期経営目標について(pdf)05.09.29(平成17年)付けを紐解いてみました。
2ページには、「中期経営目標」と「新銀行マスタープラン(平成16年2月に東京都が策定)」との関係、として、マスタープラン策定後の外部環境の変化を踏まえ、計画を立案したとあります。
6ページには、「3年後の姿」として、平成19年度に融資・保証残高が7320億円、貸倒引当率は融資・保証残高全体に対して3.4%を計上、とあります。単純計算すると、貸倒引当金は250億円になります。11ページには、平成19年度のポートフォリオ型融資の残高が3615億円と記載されています。

即ち、新聞報道で「22日に明らかになった」という情報は、平成17年に銀行によってすべて公開されていた情報であることがわかります。決して、最近まで内部情報であったわけではありません。また、当然に新銀行東京の取締役会で承認されていたはずで、必要なら取締役を通じて株主である東京都が知り得る情報です。

東京都による情報操作、その情報操作に踊らされているマスコミの姿が明らかです。


最近の都知事の発言によると、都は新銀行に対して監視体制を強化する意向のようです。
いやいや、新しい監視体制など必要ありません。委員会設置会社の企業統治として、取締役会と監査委員会が本来の機能を発揮すればいいだけです。取締役は、指名委員会の指名を受けて株主総会で決まります。最大株主の東京都が、責任を果たしうる人材を取締役として送り込めばいいだけです。

ディスクロージャー誌2006(pdf)9ページの「内部統制に係る体制の整備に関する基本方針」には、
「6 監査委員会の職務を補助すべき者・その独立性・委員会への報告・監査の実効性等を確保するための体制」として、
「当社の監査部が監査委員会の職務を補助する。」
「監査部は、監査委員会に直接報告し、その直接の指示を受ける体制とし、監査部を統括する部長の人事については、監査委員会の同意を得る。」
「執行役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直接監査委員に報告するとともに、監査部は、定期的に内部監査を行い、その結果を監査委員会に報告する。且つ、内部監査部門としての監査部は、代表執行役直属部署として、執行部門から独立している。」とうたっています。
今となっては空々しい限りですが、このような趣旨で取締役会と監査委員会が機能すればいいのです。一点だけ、「監査部は、代表執行役直属部署として、執行部門から独立している。」はおかしいですね。執行部門から独立するためには、監査部は代表執行役から独立でなければなりません。
ところで、新銀行で代表執行役は取締役を兼ねています。監査委員会の趣旨に従えば、代表執行役兼務取締役は、監査委員会委員に就任すべきではありません。
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イージス艦衝突事故(3)

2008-03-22 23:04:15 | 歴史・社会
3月21日夕刊によると、イージス艦衝突事故に関し、防衛省は中間報告を発表しました。まずは、新聞に載ったその報告内容を記録しておきます。

午前3時半頃(衝突37分前)前の当直員Aが、右30度の水平線上に白灯を確認し、当直士官に報告。その左右15度にも光を確認。
3時40分前後(衝突23分前)Aは3個の白灯だと確認、再度当直士官に報告。
3時48分(衝突20分前)前の当直員Bが艦橋に上る。目視で右30~50度に赤灯を3、4個確認(距離は9千~1万1千メートル)。漂泊か低速の目標と判断。当直士官にも報告せず
3時50分頃~59分 当直体制交代。
3時56分(衝突11分前、距離5.5km)当直員Cが艦橋に。前の当直から「右20~50度に赤灯を数隻視認、方位が明確に落ちており(相手の角度が右に変化し、衝突の恐れがないという意味)危険はない」と申し継ぎ
3時58分(衝突9分前、距離4.5km)当直員Dは前の当直から「右の白灯群」との申し継ぎ。右30~40度、距離5千メートルと5千メートル以遠に三つの赤灯を確認。右5度の水平線にも白灯二つを視認、4時2分に「白灯二つ」を当直士官に報告。その後、右30度に左に動く白灯を視認
4時4分(衝突3分前、距離1.5km)DがCICから「右5度、5千ヤード(約4.5km)に何か視認できないか」と聞かれ、右30度の目標から目を離す
4時5分(衝突2分前、距離1km)Dは当直士官に「白灯1、右5度、3千メートル、左へ進む」と報告。この時点であたごは進路北北西、速力10.4ノット(時速19.3km)。
4時6分頃(衝突1分前、距離0.5km)Cが右20度、500m付近に左に進む2隻を視認。当直士官と当直員Eが目標の動静を話しあう。当直士官が「この漁船近いなあ」と発言。Eが「近い近い」と右舷ウィングに出ようとする。
Cが右70度、100メートル付近に赤灯をかかげた清徳丸と思われる目標を視認。Dも右70~80度、距離100~70mに白灯と赤灯を掲げた漁船をはじめて視認。
当直士官が「両舷停止、自動操舵やめ」、続いて「両舷後進いっぱい」と下命。当直員Fは「この間5秒から10秒」。Cが当直士官を追って右ウィングに向かうところで衝突音を聞く。
4時7分頃 衝突
(上記で、(衝突○分前、距離△km)は私が付記しました。)
-------------------------
2隻の船が、お互いに航路が交差する方向で進んでいるとき、将来衝突するか否かを簡単に予測することができます。
昼間であって、遙か彼方の背景が見える場合であれば、
①相手の船が背景に対して前進しているように見えれば、相手の船が先に行きすぎる。
②相手の船が背景に対して後進しているように見えれば、相手の船が後に行きすぎる。
③相手の船が背景に対して停止しているように見えれば、2隻は衝突する可能性が高い。

夜であったり、あるいは背景が存在しない場合には上記表現は使えません。その代わり、自船Aの進行方向を基準とした相手船Bの方位θで表現できます。
相手船が右舷側に見える場合、
①相手船Bの方位θが左に移動していれば(θ2<θ1)、相手の船が先に行きすぎる。
②相手船Bの方位θが右に移動していれば(θ2>θ1)、相手の船が後に行きすぎる。
③相手船Bの方位θが変化しなければ(θ2=θ1)、2隻は衝突する可能性が高い。


上記3時56分に行われた当直員Cに対する申し継ぎは、上記②であるとの申し継ぎです。
一方、3時58分の「(4時2分)の後、右30度に左に動く白灯を視認」、4時5分Dの「白灯1、右5度、3千メートル、左へ進む」については、上記①状態であるように思えます。そうであれば、衝突の危険はありません。

ただし、あたごは全長が165mありますから、衝突直前の時点では、上記①であっても「艦橋より前方で交差」であり、船首付近に衝突する可能性があります。4時6分頃の「Cが右20度、500m付近に左に進む2隻を視認。」については、その可能性があります。同時期の「当直士官が「この漁船近いなあ」と発言。Eが「近い近い」と右舷ウィングに出ようとする。」がそれを裏付けます。

一方、同時期の「Cが右70度、100メートル付近に赤灯をかかげた清徳丸と思われる目標を視認。Dも右70~80度、距離100~70mに白灯と赤灯を掲げた漁船をはじめて視認。」については、とても清徳丸のものとは思えません。清徳丸は、あたごの右前方からあたごの航路と交差するように進んでいたはずですから、右70度~80度に見えているのであれば、衝突の危険から回避されたと考えるべきでしょう。衝突の危険がある相手船は、やはり右0度から右45度の間に見えるはずです。

あたごの艦橋における見張りでは、衝突1分前に至るまで、清徳丸を完全に見落としていたのかもしれません。

なお、3時58分の「右30~40度、距離5千メートルと5千メートル以遠に三つの赤灯を確認。」については、方位の変化がわからないので①~③のいずれであるか判別できません。距離は清徳丸の予想位置にぴったりです。


防衛省は、今回の中間報告で幕引きを図る魂胆かもしれませんが、これでは何もわかりません。後続情報に注視する必要があります。


今回報告ではこれ以外にも、本来艦橋の外で見張るべき見張り員が実は艦橋の中にいたとか、CICの当直人数が本来の7人から3~4人に減らされていたとか、ずさんな管理体制が明らかにされています。このような統率の乱れは一体どこにその原因があったのか、以前報告した海上自衛隊の指揮命令系統
防衛大臣 石破茂
 └自衛艦隊 司令官 香田洋二 海将
   └護衛艦隊 司令官 高嶋博視 海将
     └第3護衛隊群(舞鶴基地) 群司令 鍜治雅和 海将補
       └第63護衛隊(舞鶴基地)
         └あたご 艦長 舩渡健 一等海佐
に基づいて明確にしていくべきです。
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新銀行東京-東京都の責任

2008-03-18 21:41:33 | 歴史・社会
前回、新銀行東京の現状が抱える問題点について、取締役会、監査委員会の責任について述べました。

委員会設置会社において、
 ○取締役会が代表執行役に幅広い権限を付与し、
 ○代表執行役がワンマンで、株主から与えられたマスタープランの高い目標(融資残高)を是が非でも実現しようと画策し、
 ○取締役(監査委員会委員を含む)が無能で無責任だった場合、
会社が大変な危機に陥ったとしても、それはそのような取締役を任命した株主がバカだっただけで、つまり株主である東京都の自業自得である、ということになります。

株主の東京都は、なぜそのような無能で無責任な人間を取締役に任命したのか。
前回も記したように、3月12日日経新聞朝刊によると、「(取締役の)大半は社外取締役で知事と旧知である経営者や都OBで構成、銀行業務の知識が乏しい。月一回の会議(取締役会のこと?)では、問題が起きても『長い目でやりましょう』と取締役がとりなすなど『まるで茶話会だった』(関係者)」とのことです。

テレビで見た石原都知事発言によると、「(仁司代表執行役は経済界からの推薦であり)経済界から推薦された人をダメだとは言えない」のようなことを言っていました。都の責任者は誰も、仁司氏が適任者か否かの判断を下していなかったということです。

結局、取締役は知事の知人と都庁OBの無能で無責任な連中であり、都知事が承認して取締役会が強大な権限を付与した代表執行役はただの経済界から推薦された人であった、ということで、東京都が1千億円も投資して巨大な銀行業務をはじめるにしては、あまりにもお粗末な人選だったということです。

新銀行東京および東京都を外から見れば、株主である東京都の自業自得と見えるでしょう。
一方、東京都の内部の一員である都民としての私は、責任者にきっちりと責任を取ってもらわないことには、追加の4百億円投入など以ての外です。


そうそう、新銀行東京の取締役会の無能・無責任については、こんなことも思いました。新銀行東京調査委員会の調査報告書(概要)(pdf)の中に以下の報告があります。
「4 代表執行役への権限の集中~代表執行役による、反対意見を抑え込む経営~
○委員会設置会社においては、代表執行役と執行役の職務分掌については取締役会決議に基づき明確に定めるものとなっているが、当社においては創業期における統一的かつ効率的な業務を確保する必要があることから、代表執行役は業務全般を統轄し、また、他の執行役はその指揮監督に服することを定めた「執行役職務分掌規程」を設けていた。
○代表執行役は、その強い権限を背景に経営の意思決定や他の執行役の人事等に影響力を不適切に行使し、独善的な業務運営を展開した。
○代表執行役と意見の対立した執行役の辞任もあり、開業後僅か2年のうちに、開業時の執行役6人のうち4人までが退任した。
○その後、後任の執行役は全て代表執行役の推薦により招聘されたことから、代表執行役の独善的な体制が確立し、事実上代表執行役に反対する意見は抑え込まれた。」

代表執行役と意見が対立して辞任した執行役は、銀行出身者であったと聞きます。
ところで、執行役の選任と解任は取締役会の専権事項です。従って、現職の執行役が辞任することになり、代表執行役がかわりの執行役を推薦してきたら、辞任を承認し新任者を選任する権限は取締役会が握っています。
従って、気の利いた取締役なら、「銀行出身の執行役は何故辞任するに至ったのだろうか」と疑問に思うはずで、その辞任する執行役を呼んで意見を聞くぐらいすぐにできたはずです。
それを全くしていなかったのだとしたら、その一事をもってしても、取締役の無能・無責任が明らかになるというものです。


こうして見ていくと、銀行設立時に都知事が独断で体制を決めてきた様子が垣間見え、それが銀行をここまで悪くした原因であるように思われます。

都議会民主党はなぜここまで切り込まないのでしょうか。
銀行設立時に賛成票を投じたからといって、ここで弱気になる必要はありません。「銀行設立に賛成したといっても、こんなに悪い経営を承認したわけではない。経済情勢の変化で融資残高が計画通り増やせなくなったのであれば、そのとおりを報告してくれていれば良かったのだ」とのスタンスで、そのような経営を行わなかった取締役会、その取締役を選任した都知事および都の責任を厳しく追及すべきです。
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新銀行東京の失敗の原因

2008-03-16 21:12:17 | 歴史・社会
新銀行東京が大変なことになっています。
起こっている事態を一言でいうと、
  都民から徴収した税金1千億円をドブに捨てた
ということでしょうか。
  
新銀行東京というと、石原都知事が知事選の公約に掲げていたことは知っていましたが、設立されたことはしばらく気づきませんでした。通勤で乗り降りする都営新宿線の改札口近くにATMが設置されており、「新銀行東京」と書いてあるので、一体どこの銀行だろうと疑問に思ったのが最初です。それが石原銀行だと知り、「結局作ってしまったのか」と当時は複雑な心境でした。

設立時に東京都は1千億円を投資しており、今回また4百億円投入しなければ成り立たないといいます。一体どういうことになっているのか。連日の都議会での議論を新聞で読んでも、要領を得ません。

新銀行東京調査委員会の調査報告書(概要)なるものが公表されています(pdf)。

調査報告書によると、悪いのはただ一人、トヨタ自動車出身の初代代表執行役仁司泰正氏ということです。

平成17年4月に発足した新銀行東京は、17年度中に大幅な赤字体質に陥ります。18年3月段階で赤字解消の方向に舵を切れば損害は大幅に少なかったはず、というのが調査報告書の結論です。
それに対し代表執行役仁司氏は、18年度以降も同じ経営を変えません。18年7月以前は取締役会に対し危機的なデフォルト発生の事実を隠蔽、18年8月以降は取締役会にはデフォルト発生防止対策の効果を楽観的に報告します。
18年9月決算期には、会計監査人から、想定デフォルト率を用いるのではなく、実績デフォルト率を用いるように口頭で申し入れがありましたが、代表執行役は「中間監査報告書は不要」と一蹴します。
仁司氏は19年6月に退任します。
そして今回の危機発生に至ります。


ちょっと待ってください。
新銀行東京は委員会設置会社です。会社経営にかかわるのは執行役と代表執行役のみではなく、取締役会、監査委員会をはじめとする3委員会が、会社経営を常に監査しているはずです。問題だとされた平成17年4月から19年3月までの間、取締役は監査委員は何をしていたのでしょうか。


購入したきり本棚に眠っていた会社法入門(前田庸著、有斐閣)を引っ張りだし、委員会設置会社の仕組みをざっとおさらいしました。

「委員会設置会社では、取締役会からの執行役に対する業務執行の決定権限の大幅な委任を認めて迅速な決定をすることを可能にするとともに、取締役会による業務執行に対する監督権能を大幅に強化するために、執行役による業務の執行と取締役会による業務執行の監督とを区別し、かつ、3つの委員会が置かれることによって、取締役会による業務執行の監督権能を強化しようとするものである。」
1.取締役会の権限
 ○執行役に対して大幅に委任することができる
 ○経営の基本方針を決定する
 ○監査委員会の職務遂行のための法定事項を決定する
 ○執行役の職務の分掌と指揮命令関係を決定する
 ○執行役の職務執行に関し、損失の危険の管理、執行役の職務の執行が効率的に行われるための体制、その他を決定する
 ○執行役の選任と解任、代表執行役の選定と解職
 ○計算書類等の承認
 ○取締役会は、取締役及び執行役の職務の執行を監督する。

2.監査委員会
 ○取締役3人以上で組織し、その過半数は社外取締役でなければならない
 ○監査委員会の主要な職務は、執行役等の業務執行を監査することにある

3.代表執行役と執行役
 ○執行役が業務を執行する。取締役は原則業務を執行できない。
 ○取締役と同様、執行役は会社に対して善管注意義務と忠実義務を負う。
 ○会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、ただちに監査委員会にその事実を報告しなければならない。
 ○代表執行役は会社を代表する。会社代表権は、会社の業務執行権の対外的側面だからである。
----以上------

業務の執行が執行役に任されるといっても、執行役の業務は取締役会、なかんずく監査委員会によって厳重に監査されるべきものです。それが委員会設置会社の制度趣旨です。

新銀行東京調査委員会の調査報告書(概要)では、取締役会と監査委員会の責任についてどのように述べているでしょうか。
「3 事実の隠蔽や楽観的見通しの報告~取締役会に対するデフォルト発生実態の不適切な報告~
★18年7月以前:取締役会に対し危機的なデフォルト発生の事実を隠蔽
○代表執行役等は、・・・定例の取締役会への月次報告の際、膨大な報告資料の中で、単に延滞や法的破綻等のデフォルト実績数値を添付するに止め、説明が極めて不十分であった。
○取締役会資料は膨大ではあるものの、これを時間をかけ仔細に検討すれば、取締役会においても、デフォルト発生の状況や収益に与える影響を相当程度把握することが可能ではなかったかと推察される。
○結果として取締役会は、デフォルト発生が経営に与える深刻な影響を、適時的確に認知することができなかった。
★18年8月以降:取締役会にはデフォルト発生防止対策の効果を楽観的に報告
○代表執行役等が行った危機意識を喚起させることがない報告が、社外取締役を中心とした所定の取締役会の判断を誤らせ、業務執行の大きな舵取りを遅らせることとなった。」
「2 取締役の責任の範囲
○取締役会を主に構成していた社外取締役は、日常業務に関わっていなかったことから、知り得た業務に関する情報は、概ね毎月1回開催される取締役会において、執行役から提供される情報に事実上限定された。
○このようなガバナンス体制において、取締役会に報告された内容が不十分若しくは不適切であった場合には、取締役会に求められる所定の監督機能に一定の限界が生じたことは否めない。このことは、監査委員会においても、同様の状況にあったと推察される。
○以上により、取締役の経営責任については、代表執行役及び執行役が積極的に取締役会あるいは監査委員会に情報を提供することがなかった、当社の特殊事情を十分に斟酌する必要がある。」
----以上------

「代表執行役が情報を取締役会や監査委員会に提供しなかったので、取締役会や監査委員会が監督できなかったとしても致し方ない」といったニュアンスです。
取締役や監査委員というのは、ただふんぞり返って上がってくる情報を聞くだけで責任を果たせるのでしょうか。そんなはずはありません。それでは、悪意ある執行役にいいように騙されるだけではないですか。取締役は、株主総会で株主から委任された任務に対し、善管注意義務と忠実義務をもって対処することが要求されます。必要であれば、自分で情報を取りに行かなければなりません。
新銀行東京の取締役は一体何をしていたのでしょうか。

3月12日日経新聞朝刊によると、「(取締役の)大半は社外取締役で知事と旧知である経営者や都OBで構成、銀行業務の知識が乏しい。月一回の会議(取締役会のこと?)では、問題が起きても『長い目でやりましょう』と取締役がとりなすなど『まるで茶話会だった』(関係者)」とのことです。

何ということでしょう。
これでは、仁司代表執行役の暴走を止めることなどとうていできません。

また、社外取締役であることを、業務知識が欠如することの言い訳に使っています。これも決して許されません。会社法で、委員会設置会社の監査委員会委員の過半数を社外取締役と規定しているのは、それによって監査が充実すると考えたためです。全く逆ではないですか。

会計監査人の忠告は、本来であれば代表執行役ではなく監査委員会に出されるべきものです。監査委員会は何をしていたのでしょうか。

ところで、今回の新銀行東京調査委員会は、現職の代表執行役が委員長で、他に執行役一人と顧問弁護士一人が入っています。取締役、監査委員会委員の名前がありません。
そもそも、今回の不祥事における取締役の責任を調査できるのは、執行役ではありません。あくまで取締役です。従って、会社の内部組織全体の問題を調査するのであれば、調査委員に監査委員である取締役が入るべきなのに、何故入っていないのでしょうか。

最初から、仁司氏一人に責任を負わせ、当時の取締役に累が及ばないようにとの配慮があったのでしょうか。
「代表執行役が会社を代表しているので、調査委員長も代表執行役が就任する」という主張でしょうか。代表執行役の会社代表権は、あくまで対外的な会社の顔です。今回のように、会社の内部(株主に損害を与えた)の問題に対し、対外的な会社代表者の顔を用いる必要は全くないと考えられます。本来の職責を有する監査委員が就任すべきです。


都議会は、新銀行東京の取締役会、なかんずく監査委員会の責任を厳しく追及すべきです。民主党の議会での質問はこの点に触れていないようであり、歯がゆい限りです。
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サブプライム問題の謎

2008-03-14 21:57:10 | 歴史・社会
前々回サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉 [宝島社新書] (宝島社新書 254)から読み取れる内容について簡単にフォローしました。

事件の流れはわかるものの、問題がなぜこのように世界的に膨れあがったのかは全く理解できません。

さらに理解を深めるためには、CDOだとかABCPだとかに踏み込まなくてはならないようです。

住宅ローンをもとにした証券化商品がMBS(Mortgage Backed Security)です。
そして、MBSをさらに再証券化し、よりハイリスク・ハイリターンの金融商品に組み替えたのがCDO(合成債務担保証券:Collateralized Debt Obligation)です。

ベアー・スターンズ傘下のヘッジファンドは、投資家から6億ドルを集め、集めた資金を担保に借り入れを重ねるレバレッジ手法を使い、メリルリンチなどから60億ドルという巨額の借金をします。その担保がCDOだったというのです。
10倍のレバレッジであり、投資している資産が10%下落すれば投資家はすべてを失います。そして2007年6月30日、現実にファンドは無価値となりました。
また、CDOは流動性がなく、メリルリンチが少額のCDOを処分したときは、非常に安い価格でしか売れませんでした。
メリルリンチがCDOを売ったというニュースに銀行や証券会社は急速に不安になります。彼らは、ヘッジファンドに多額の金を貸し、担保としてCDOを持っていたのです。そのCDOが担保価値以下の価値しかないと気づいたとき、彼らは「金を返せ!さもなくば担保を積みませ!」と迫りました。

CDOなるもの、不可解極まりないのですが、アメリカのサブプライムローン問題(pdf)には以下のように説明されています。
「そもそもサブプライムローン自体、信用力が低いものであるから、証券化に当たってはその信用力を補完する必要がある。このための信用補完の例としては、高格付の保険会社による付保や超過担保の設定などがあるが、それ以外にも債権の優先・劣後構造への組み直しということが行われている。この組み直しを行ったものがCDOであり」
「こうした複合型の証券については、その担保内容が証券を介しているため、必ずしもはっきりしない側面があり、その中にどれだけのサブプライムローン関連部分があるかどうか(どれだけの延滞が発生しているか)不分明となる可能性がある。こうしたことから、信用不安を指摘する声が上がっている。特にその中でも、MBSをシニア、メザニン、エクイティといった分配金の優先順位により切り分けるようなCDOの問題性が指摘されている。このようなCDOにおいては、例えば、投資適格ぎりぎり(例えば、Fitchの場合BBB:トリプルB格付)のMBSを合成し、その中で分配金を最優先で受け取れるCDO(シニア)、次順位以降のCDO(メザニン)、最劣後のCDO(エクイティ)を発行する。その結果、CDO全体の数%に過ぎないエクイティは無格付となるが、それ以外の、シニアは最上位のトリプルAを、メザニンについても当初のトリプルB以上という格付が得られるという。こうしたCDOは、エクイティ部分が極めて高リスクの商品となるという問題点が指摘されている。さらにこれを上回る高リスクのCDO(エクイティを合成したCDO)が発行されているなど、CDO市場の中には、一部極めて高リスクな商品が存在していることが、懸念に拍車をかけている側面がある。」


次に、ABCP(Asset Backed Commercial Paper:資産担保短期債券)とは、CP(Commercial Paper:企業の短期の運転資金を調達する手段)の一種だそうです。それ以上詳しいことはよくわかりません。
銀行は、資産を増やすと、自己資本規制によって資本も増やす必要が生じます。そこで銀行は、自分の保有する資産を帳簿から消す(オフバランス化する)ため、銀行の資産だったローンや債権を片端から簿外に移してオフバランス化します。このときに資金調達の手段として発行されたのが、ABCPです。
銀行の特定目的会社(SPC)がABCPを発行します。ABCPは1兆3000億ドルに達します。
「今回ABCPが金融危機の最終的な引き金になった理由は、一番安全で現金に近い投資対象とみなされていたABCPの担保に、サブプライム住宅ローンが含まれていたからだ。それが発覚したとき、投資家の反応は、『そんなことは聞いていない。サブプライムとは今問題になっている住宅ローンだろう。そんなものを担保にしたABCPは今後買わない!』といったものだった。」(サブプライム問題とは何かから)


○ アメリカの低所得者層が無理にローンを組んで住宅を購入し、多くの人が返済不能になったからといって、一体どれほどの負債総額になったのでしょうか。それが世界経済を揺るがすほどの金額になったというのは、俄には信じられません。

以下の金額(規模)がわかるとずいぶんすっきりするでしょう。

I.証券化されて世界にばらまかれたサブプライムローンの総額(A)はいくらか。
II.Aのうち、返済不能かつ担保割れで回収不能になると思われる金額(B)はいくらか。
III.上記Aが一部にでも含まれる証券化商品の総額(C)はいくらか。
IV.上記Bが一部にでも含まれる証券化商品の総額(D)はいくらか。
V.「世界のサブプライム問題による損失総額」といわれる金額(E)はいくらか。
VI.上記Eは、上記A、B、C、Dのうちのどの金額に合致するのか。

3月9日日経朝刊に「サブプライムローンの残高1兆ドル」とありました。Aが1兆ドル(100兆円)ということでしょうか。
あるブログでは、Bが30兆円、Dが300兆円とありました。


○ もともと、アメリカの住宅バブルに浮かれ、銀行はモラルを喪失し、返済能力や担保価値のチェックもなしに貸し出したローンです。そんな胡散臭いローンを証券化した商品を、なぜ何の疑いもなく世界中の金融機関や投資家が買いあさったのでしょうか。
「アメリカの格付け機関がトリプルAを付けたからだ」とのことですが、それだけの理由で、金融の専門家が、盲目的に多額の金融商品に手を出すでしょうか。
なぜこのような胡散臭い商品に、アメリカの格付け機関はトリプルAを付けたのでしょうか。

○ 後からふり返ってみると、2002年から2005年にかけては明らかにバブルであり、いつかバブルがはじけることはわかりきっているように見えます。この期間、FRBにしろ米国政府にしろ、なぜ気づいて対策をとることができなかったのでしょうか。

○ 銀行は、住宅ローンを証券化して投資家に売却することにより、貸し倒れリスクを考慮せずに貸すようになりました。銀行のモラル崩壊です。銀行家ともあろう者が、なぜこのようなモラル崩壊に至ったのでしょうか。このあたり、伝え聞く「新銀行東京」のモラル崩壊と酷似しています。本来尊敬されるはずの銀行家といえども、たがが外れると簡単にモラルを失うものなのでしょうか。

○ 「米国の住宅価格の暴騰と暴落」といいますが、住宅価格を土地と建物の価格に分けたら、やはり土地の価格が暴騰し暴落した、と考えて良いのでしょうか。新築建物の価格がそんなに暴騰するようにも思えないので。

いやいや、謎は深まるばかりです。
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NHK「社員みんなで会社を買った」

2008-03-12 21:11:54 | 歴史・社会
3月10日のNHKスペシャルは「社員みんなで会社を買った~地方発 “EBO” の挑戦~」でした。

MSKという太陽電池の中堅メーカーがあるのですね。
MSKは平成18年8月、中国企業の買収を受け入れ、中国企業傘下となりました。これで皆が幸せになれるはずと思っていたのに、平成19年になってからですか、突然大牟田にあるMSK福岡工場が閉鎖されることになったのです。福岡工場の従業員は全員解雇されました。この工場は、Si基板製のセルを購入し、太陽電池スタンダードモジュール(1m×1.5m程度の大きさ)を組み立てる工場です。最新の技術を保有していると考えられていました。

途方に暮れた従業員たちは、元工場長(60歳)の下で相談し、「自分たちで工場を買えないだろうか」と発想します。
元工場長が家計から1千万円をやりくりし、元従業員たち合計で25百万円を集めました。しかし、必要な資金は30億円です。

MSKで財務部長をやっていた西堀氏(まだ若い)は、都銀出身でMSKに転じ、中国企業との提携話を進めました。皆が幸せになると考えて進めたのにこの結末です。責任を感じ、MSKを辞めて単身福岡に馳せ参じました。
九州の銀行廻りの末、従業員たちの夢が叶うことになりました。銀行が金を出すことを決心したのです。
元工場長が会長、西堀氏が社長です。

去年の秋、工場が再稼働しました。
しかし、以前は高品質の製品を製造し世界に受け入れられていたといっても、販売はMSKのブランド力のお陰、営業力、資金力、技術力なども本社の力があったからこそです。地方工場の現場だけで会社経営を軌道に乗せることは至難だと思われました。
実際、去年の11月頃はなかなか良品が生まれません。発電能力200W以上の世界最高水準を目標とするところ、195W程度のそこそこの成績です。

生産現場を任された若者は、そこそこの成績でもいいじゃないかとのスタンスですが、会長は「これじゃだめだ」とOKを出しません。経営と現場の間にギャップが生じます。

福岡で太陽電池のフェアが開かれます。そこを視察した工場の若者たちは、世界の進歩の速さに驚かされます。ここで目を覚ました若者たちは変わります。皆が死に物狂いとなり、成績は徐々に向上します。そしてとうとう、優秀製品として出荷できるレベルに到達したのです。

番組では、今年になってから次々と出荷される製品の映像が流れました。
たった数ヶ月前には頼りなさげだった若者たちが、すっかりたくましくなった様子が画面から見て取れます。やはり人は逆境の中で育っていくのですね。


以上がNHK番組の内容です。ついでにネットでも調べてみました。

従業員たちが再開した会社、YOCASOL株式会社というのですね。1年前の新聞記事「MSK福岡工場閉鎖へ 太陽電池メーカー EBOで存続模索も2007年03月29日」、MSKによる紹介記事(下記)、サイト「ソフトエネルギー」の記事などが見つかりました。

MSKによる紹介記事「従業員による福岡プラント買収(EBO)について」によると、
「株式会社MSKと株式会社ドーガン・インベストメンツは、平成19年10月10日迄に、MSKの福岡プラントにおける太陽電池スタンダードモジュール事業をYOCASOL株式会社(ドーガンが運営管理する投資事業組合等が出資する受け皿会社)に事業譲渡することに合意し、9月14日に事業譲渡契約書を締結いたしましたので、下記の通りお知らせいたします。」
「YOCASOLは、九州事業継続ブリッジ投資事業有限責任組合(無限責任組合員株式会社ドーガン・インベストメンツ)及びYOCASOL経営陣、福岡プラントの主要な従業員等の出資並びに外部からの借入資金等により、本事業を譲受することとなります。
また、丸紅株式会社から出資および非常勤役員を受け入れ、協力関係を構築して事業を展開することで、MSKの経験、国際的にも高い評価を得ている技術水準を継承して参ります。」
「*EBO(Employee Buy-Out):一般的に、従業員が金融投資家と共同して所属する企業や事業部門を買収する取引をいいます。」
「社名:YOCASOL 株式会社
資本金:420百万円(譲渡日時点予定)
主要株主:九州事業継続ブリッジ投資事業有限責任組合 83.00%
丸紅株式会社14.00% (譲渡日時点予定)」

元従業員の出資は結局総株式の3%ということでしょうか。必要金額30億円のうち、42千万円をベンチャーキャピタル等からの投資でまかない、残りを銀行からの融資で賄ったのでしょうね。


九州事業継続ブリッジ投資事業有限責任組合への出資について」によると、「九州事業継続ブリッジ投資事業有限責任組合(九州ブリッジファンド)は、(株)ドーガン・インベストメンツを無限責任組合員とする投資事業有限責任組合です。」とあります。
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春山昇華「サブプライム問題とは何か」

2008-03-10 21:11:16 | 歴史・社会
「サブプライム問題とは何か」と問われると、「アメリカの低所得者向け住宅ローン(サブプライムローン)の破綻により、世界中の金融が、経済が、大打撃を受けている問題」という程度のイメージは湧きます。しかし、実のところ何が起きているのか、よくわかりません。そこで、以下の本を読んでみました。
サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉 [宝島社新書] (宝島社新書 254)
春山 昇華
宝島社

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以下のようなアウトラインが理解できました。

1.アメリカ人というのは、借金ができるかぎり借金をし、欲しい物を購入する性向がある。

2.アメリカでは90年代に消費者ローンが発達した。このような中、低所得者向けのサブプライムローンが誕生した。信用力も担保力もない人にお金を貸す。30年ローンで、最初の2、3年は返済額が安く、残りの28、27年の返済額が急に高くなるような仕組みである。

3.アメリカでは2000年にITバブルが崩壊し、景気が悪化した。政府は低金利政策を採り、人々は金利の安くなった住宅ローンを使って住宅を買い始めた。景気対策のため、サブプライムローンへの規制強化は先送りされた。

4.銀行は、「債権(住宅ローン)の証券化」を導入する。多くの住宅ローンをまとめた上で細分化し、証券化商品として投資家に販売する。
(1) ローンを組む銀行としては、証券化して債権を売ってしまえば焦げ付きの心配がないので、審査を甘くしてどんどん貸してしまう。モラルハザードが起きた。
(2) 米国の格付け会社が、このような住宅ローン証券化商品にトリプルAの格付けを与えたので、世界中の銀行や投資家がこの証券化商品を買いあさった。
(3) 住宅ローンの所有者はローンを組んだ銀行ではなくなるので、債務者が返済に困ったとき、銀行は返済猶予などの救済を行うことができない。ただちに競売にかかってしまう。

5.2000年から住宅販売戸数が急増するとともに、住宅価格も急上昇し始めた。
銀行は、自分のお金を貸すのではなく、貸したそばからローンを証券化して売ってしまう。モラルハザードを起こした銀行は、担保もなく無収入の人にもお金を貸しまくり、米国民はお金を借りまくって住宅を購入した。住宅価格は上昇し続けているのだから、ローンが返せなくなっても個人が破綻することはあり得ない。
日本のバブル時代の土地転がしと何ら変わらず、「浮かれ、悪乗り、非常識」のバブル3要素が見事に現れていた。
アメリカの住宅価格は2005年まで上昇し続ける。

6.2005年8月、宅建業者の株が暴落するという形で、バブルがひそかに崩壊し始めた。
2006年秋以降、住宅価格はピークを迎えジリジリと下げていった。住宅市場の悪化は一気に拡大した。
2004年以降、アメリカの金利が引き上げられたことも、変動金利型ローン返済額の増加につながった。

7.人々がバブル崩壊を認識するのは、2006年12月以降、いくつかの事件によってである。2006年12月、世界的な巨大銀行であるHSBCの株価が暴落、住宅ローン専門銀行が破綻、低所得者向け住宅ローン専門金融機関の業績不振が報道された。2007年2月、高級住宅建設業者のトール・ブラザースが、業績の下方修正を発表した。

8.このときすでに大量に買い取られた住宅ローンは、仕組み債と呼ばれる金融商品に加工されて、世界中にばらまかれていた。

9.2007年2~6月にかけて、初期消火すべき使命を負う中央銀行や金融当局は、状況の深刻さに気づいていないどころか、市場に蔓延する楽観を懲らしめようと傍観を決め込んでしまった。そして、金融市場は8月の悪夢のような17日間へ突入した。
6月12日、ベアー・スターンズは、傘下の2つのヘッジファンド(サブプライム住宅ローンの証券化商品に投資していた)が危機に瀕していることを発表する。この結果、万人が「何か大変なことが起こっている」と認識するに至った。投資家がリスクに怯えて一斉に資金を引き上げてしまう。
8月1~17日、世界中のファンドが次々と閉鎖された。自転車操業していたドイツの一地方銀行は、2兆円の救済資金を必要とする状況に至った。8月9日、欧州中央銀行による無制限の資金供給の発表があった。FRBも同調した。翌週、世界の株式市場は暴落した。

10.以上のような顛末の結果、日本を含め、世界中の金融機関が大打撃を受けたらしい。また、実際にサブプライムローンで住宅を購入した低所得者は、返済開始2、3年後から返済額が急上昇すると、返済できずに家を手放さざるを得ない。
---以上---------------------

定性的な流れはわかりました。
ただし、アメリカの低所得者層向け住宅ローンの返済が滞ったからといって、なぜそれが原因で世界の金融や経済が大打撃を受けるほどの影響力を持ったのか、その点がどうしても理解できません。

また、長々と本の要約を書きましたが、サブプライムローン問題の簡単な解説という意味では、毎日新聞 2008年2月2日がわかりやすいです。
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