東京大学総合研究博物館(東京・本郷)で「アルディの全身化石骨展」が開かれていることを、つい1週間ほど前の新聞で知りました。10月初めから開催され、10月30日には終了するとあるではないですか。ちっとも知りませんでした。そういえば最近、当ブログに「アルディ」で検索してやってくる方が多いと思いました。
これは急いで見に行かなければなりません。ということで、28日(木)の朝、出勤前に本郷に寄ってきました。
10時の開館と同時に入場したので、入場者は私を入れて2人きりです。アルディの展示場所は私の独占でした。
アルディについてこのブログでは、東大博物館でラミダス猿人「アルディ」の骨格を見る、今、映像で蘇る人類最古の女性アルディ、ラミダス猿人「アルディ」が意味するもの、人類の祖先は森と草原のどちらで生まれたのかなどで話題にしてきました。
アルディは、440年前に生きていたラミダス猿人の女性で、直立二足歩行をしていたことが、その骨格化石から判明しています。従来は、「ルーシー」(320万年前のアウストラロピテクス(アファール猿人))が、直立二足歩行をする最古の猿人の全身骨格として知られていました。直立二足歩行の歴史を100万年以上遡らせたのがアルディです。東大の諏訪元教授を含む国際チームが、1992年にエチオピアで発見し、昨年に発表されたばかりです。
昨年の10月に同じ東大博物館で展示されたのは、出土したアルディの骨格を元に再現した、頭蓋骨と骨盤のレプリカでした。色は真っ白でした。
それに対して今回は、出土したアルディの全身の骨をそのまま、形や色も再現したレプリカです。頭蓋骨も骨盤も組み立てていないので、そのまま見たら骨だか何だかわかりません。展示物は、こちらの左写真にある通りのものです。
実はこの全身化石骨レプリカ、本郷の東大博物館で展示される前、エチオピアのエチオピア国立博物館で今年2月から一般公開されていたようです。その展示も、東大博物館が主体となって行ったらしく、国際共同モジュール展 「ラミダス、初公開」 の開催に記載されています。写真や説明は日本の展示紹介よりもこちらの方が豊富で親切ですね。このページの右側に6枚の写真が並んでいますが、上から3、4枚目に見えるガラスケースの中に並べられた標本、これが今回の東大博物館で同じように展示されていました。
エチオピアでは、右の2枚目写真のように、骨盤の模型が展示されていたようですが、日本ではこのような展示はありませんでした。この骨盤の模型、おそらく、右上のクリーム色がルーシー、左の白がアルディ、右下の黄土色がチンパンジーだと思われます。
また、右の一番上の写真に写っている看板に描かれた全身骨格は、ルーシーだと思われます。こちらから明らかです。
さて、日本の展示です。
写真撮影は不可ということなので、説明書きについても時間をかけて手帳に筆記してきました。後でエチオピア展示のページを見たら、メインの説明は同じ文章がこちらにアップされているではないですか。日本展示でのメインの説明、頭蓋骨、骨盤、上肢、下肢それぞれの説明から抜き出してみます。
『アルディピテクス・ラミダス
1992年に初めて断片的な化石として発見され、1994年から97年にかけて女性の全身にわたる化石骨(通称「アルディ」)が発掘された。その後、科学誌サイエンスの2009年10月2日号に、11編の論文として、その全身像ならびに生息環境に関する研究成果が発表された。』
《骨盤》
『ラミダスの骨盤には、その上方部に、アウストラロピテクスと共通する直立二足歩行への適応構造が見られる。』
『骨盤の上部は、ルーシー(アウストラロピテクス)と類似し、上下に低く幅が広く、直立二足歩行の特徴を有している。一方骨盤の下部は長く、座骨とそこに付着する大腿後部の筋がチンパンジーのように発達し、木登り時の蹴り出しが強い。』
《頭骨》
『頭骨においては、その底部がわずかながら短縮しており、その点アウストラロピテクス的である。これは直立二足歩行の脳の構造と関係する可能性が高い。』
--この説明は良く分かりませんでした。頭蓋骨と背骨の接続部の位置は、チンパンジーでは頭蓋骨の後の方であるのに対し、人間は頭蓋骨の下の方に位置しています。そのような関連について述べているのでしょうか。
《犬歯》
『断片的な化石標本をも含めると、犬歯が20個体分以上出土しているが、いずれも小型で類人猿の雄型の特徴が見られない。』
『(チンパンジーなどの類人猿と比較し)人類の系統では、そもそも体サイズと犬歯の雌雄差が小さく、オスの攻撃性が緩和された社会性と行動様式が、早期に存在していたとの仮説を導くことができる。』
《足》
『ラミダスは、アウストラロピテクスとも後続のホモ属とも異なり、把握性の足(親指が外に開く)を持ち、樹上行動への適応形質を多く保持していた。』
『足の骨はかかとが見つかっていないが、外に開く親指は明らかである。このことは、アーチ構造がなかったことを示す。アーチ構造を有していたアウストラロピテクスと異なる。』
--やはりアルディの足は扁平足だったのですね。
《臼歯列》
『サバンナ適応のアウストラロピテクスは臼歯列が大きい。アルディはチンパンジーよりやや大きい程度。』
『ラミダスにはアウストラロピテクスのような咀嚼器(臼歯列のこと)の発達が見られない。歯の形態と磨耗、そして安定同位体分析から、ラミダスは、アウストラロピテクスと異なりC4植物起源の食物をほとんど摂取しなかったものと思われる。豊富な古環境情報と共に総合すると、ラミダスは疎開林を中心とした比較的閉じた環境に主として生息し、サバンナの開けた環境を常習的に利用するようになったのは、アウストラロピテクス以後のことと思われる。』
--「C4植物」とははじめて聞く言葉です。ウィキから抜粋すると、「作物ではトウモロコシや雑穀類がC4植物であり、イネやコムギといった主要作物はC3植物である。」との説明がありますが、やはりよくわかりません。
ところで、こちらにも書いたように、今年6月13日の日経新聞朝刊の“サイエンス”欄で、アルディが紹介され、「化石の歯に含まれる炭素と酸素の分析から草原の草はほとんど食べていなかったとみられ・・・、類人猿と猿人を見分ける歯のエナメル質の厚さを調べた結果は、サバンナの草を食べていなかったことを示していたという。」とありますので、そのような意味を読み取るのでしょう。
一方同じ6月13日の記事中には、米ユタ大学のシュレ・シーリング特別名誉教授などの研究チームが「アルディ草原(サバンナ)で生きていた」とする論文を今年5月28日発行の米科学誌「サイエンス」に発表して諏訪教授らに真っ向から反論しているそうですが、この議論はどのように推移しているのでしょうか。
いずれにしろ、アルディとその祖先が直立二足歩行を手に入れたのは何に適応するためだったのか、興味が尽きません。
ところで、3年前に東京大学「異星の踏査」展で紹介したように、私は同じ東大総合博物館でルーシーの骨格標本レプリカを見たことがあります。博物館の方に聞くと、今でも展示はしていないが保管しているそうです。
そこで係の方に、「チンパンジー、アルディ、ルーシー、現生人類」の骨格標本を、ぜひ同じ場所に展示してほしい。それらをじっくりと観察したら、人類がどのように進歩してきたかがよくわかるのではないか」とお願いしておきました。
これは急いで見に行かなければなりません。ということで、28日(木)の朝、出勤前に本郷に寄ってきました。
10時の開館と同時に入場したので、入場者は私を入れて2人きりです。アルディの展示場所は私の独占でした。
アルディについてこのブログでは、東大博物館でラミダス猿人「アルディ」の骨格を見る、今、映像で蘇る人類最古の女性アルディ、ラミダス猿人「アルディ」が意味するもの、人類の祖先は森と草原のどちらで生まれたのかなどで話題にしてきました。
アルディは、440年前に生きていたラミダス猿人の女性で、直立二足歩行をしていたことが、その骨格化石から判明しています。従来は、「ルーシー」(320万年前のアウストラロピテクス(アファール猿人))が、直立二足歩行をする最古の猿人の全身骨格として知られていました。直立二足歩行の歴史を100万年以上遡らせたのがアルディです。東大の諏訪元教授を含む国際チームが、1992年にエチオピアで発見し、昨年に発表されたばかりです。
昨年の10月に同じ東大博物館で展示されたのは、出土したアルディの骨格を元に再現した、頭蓋骨と骨盤のレプリカでした。色は真っ白でした。
それに対して今回は、出土したアルディの全身の骨をそのまま、形や色も再現したレプリカです。頭蓋骨も骨盤も組み立てていないので、そのまま見たら骨だか何だかわかりません。展示物は、こちらの左写真にある通りのものです。
実はこの全身化石骨レプリカ、本郷の東大博物館で展示される前、エチオピアのエチオピア国立博物館で今年2月から一般公開されていたようです。その展示も、東大博物館が主体となって行ったらしく、国際共同モジュール展 「ラミダス、初公開」 の開催に記載されています。写真や説明は日本の展示紹介よりもこちらの方が豊富で親切ですね。このページの右側に6枚の写真が並んでいますが、上から3、4枚目に見えるガラスケースの中に並べられた標本、これが今回の東大博物館で同じように展示されていました。
エチオピアでは、右の2枚目写真のように、骨盤の模型が展示されていたようですが、日本ではこのような展示はありませんでした。この骨盤の模型、おそらく、右上のクリーム色がルーシー、左の白がアルディ、右下の黄土色がチンパンジーだと思われます。
また、右の一番上の写真に写っている看板に描かれた全身骨格は、ルーシーだと思われます。こちらから明らかです。
さて、日本の展示です。
写真撮影は不可ということなので、説明書きについても時間をかけて手帳に筆記してきました。後でエチオピア展示のページを見たら、メインの説明は同じ文章がこちらにアップされているではないですか。日本展示でのメインの説明、頭蓋骨、骨盤、上肢、下肢それぞれの説明から抜き出してみます。
『アルディピテクス・ラミダス
1992年に初めて断片的な化石として発見され、1994年から97年にかけて女性の全身にわたる化石骨(通称「アルディ」)が発掘された。その後、科学誌サイエンスの2009年10月2日号に、11編の論文として、その全身像ならびに生息環境に関する研究成果が発表された。』
《骨盤》
『ラミダスの骨盤には、その上方部に、アウストラロピテクスと共通する直立二足歩行への適応構造が見られる。』
『骨盤の上部は、ルーシー(アウストラロピテクス)と類似し、上下に低く幅が広く、直立二足歩行の特徴を有している。一方骨盤の下部は長く、座骨とそこに付着する大腿後部の筋がチンパンジーのように発達し、木登り時の蹴り出しが強い。』
《頭骨》
『頭骨においては、その底部がわずかながら短縮しており、その点アウストラロピテクス的である。これは直立二足歩行の脳の構造と関係する可能性が高い。』
--この説明は良く分かりませんでした。頭蓋骨と背骨の接続部の位置は、チンパンジーでは頭蓋骨の後の方であるのに対し、人間は頭蓋骨の下の方に位置しています。そのような関連について述べているのでしょうか。
《犬歯》
『断片的な化石標本をも含めると、犬歯が20個体分以上出土しているが、いずれも小型で類人猿の雄型の特徴が見られない。』
『(チンパンジーなどの類人猿と比較し)人類の系統では、そもそも体サイズと犬歯の雌雄差が小さく、オスの攻撃性が緩和された社会性と行動様式が、早期に存在していたとの仮説を導くことができる。』
《足》
『ラミダスは、アウストラロピテクスとも後続のホモ属とも異なり、把握性の足(親指が外に開く)を持ち、樹上行動への適応形質を多く保持していた。』
『足の骨はかかとが見つかっていないが、外に開く親指は明らかである。このことは、アーチ構造がなかったことを示す。アーチ構造を有していたアウストラロピテクスと異なる。』
--やはりアルディの足は扁平足だったのですね。
《臼歯列》
『サバンナ適応のアウストラロピテクスは臼歯列が大きい。アルディはチンパンジーよりやや大きい程度。』
『ラミダスにはアウストラロピテクスのような咀嚼器(臼歯列のこと)の発達が見られない。歯の形態と磨耗、そして安定同位体分析から、ラミダスは、アウストラロピテクスと異なりC4植物起源の食物をほとんど摂取しなかったものと思われる。豊富な古環境情報と共に総合すると、ラミダスは疎開林を中心とした比較的閉じた環境に主として生息し、サバンナの開けた環境を常習的に利用するようになったのは、アウストラロピテクス以後のことと思われる。』
--「C4植物」とははじめて聞く言葉です。ウィキから抜粋すると、「作物ではトウモロコシや雑穀類がC4植物であり、イネやコムギといった主要作物はC3植物である。」との説明がありますが、やはりよくわかりません。
ところで、こちらにも書いたように、今年6月13日の日経新聞朝刊の“サイエンス”欄で、アルディが紹介され、「化石の歯に含まれる炭素と酸素の分析から草原の草はほとんど食べていなかったとみられ・・・、類人猿と猿人を見分ける歯のエナメル質の厚さを調べた結果は、サバンナの草を食べていなかったことを示していたという。」とありますので、そのような意味を読み取るのでしょう。
一方同じ6月13日の記事中には、米ユタ大学のシュレ・シーリング特別名誉教授などの研究チームが「アルディ草原(サバンナ)で生きていた」とする論文を今年5月28日発行の米科学誌「サイエンス」に発表して諏訪教授らに真っ向から反論しているそうですが、この議論はどのように推移しているのでしょうか。
いずれにしろ、アルディとその祖先が直立二足歩行を手に入れたのは何に適応するためだったのか、興味が尽きません。
ところで、3年前に東京大学「異星の踏査」展で紹介したように、私は同じ東大総合博物館でルーシーの骨格標本レプリカを見たことがあります。博物館の方に聞くと、今でも展示はしていないが保管しているそうです。
そこで係の方に、「チンパンジー、アルディ、ルーシー、現生人類」の骨格標本を、ぜひ同じ場所に展示してほしい。それらをじっくりと観察したら、人類がどのように進歩してきたかがよくわかるのではないか」とお願いしておきました。