公務員制度改革については、安倍政権から福田政権にかけて渡辺喜美担当大臣が推進し、官僚と自民党族議員の抵抗で骨抜きになりながら一定の成果を納めてきました。内閣人事局や官民人材交流センターなどが計画ないし設置されています。
民主党連立政権になって、内閣人事局の見直し、官民人材交流センターの廃止などが打ち出され、てっきり、自民党政権時代の不十分な改革を、徹底した改革に見直していくのだと思っていました。何しろ政権交代直後、「あらゆる天下りを根絶する」という勢いでしたから。
ところがここへ来て、徹底した制度改革どころか、改革を後退させる方向が明らかになりつつあるといいます。一体どうなっているのでしょうか。
長谷川幸洋「ニュースの深層」の「
公務員改革を骨抜きにして増税に走る鳩山政権 野党時代の合意した公務員制度改革法案を骨抜き」、「
「公務員制度改革3年先送り」では日本は破綻する 労組と人事院がぐるになって改革を阻止」によると・・・
公務員制度改革について、現国会で、鳩山政権による政府案と、自民党・みんなの党が議員立法で提出した対案の2案が審議されているようです。
民主党連立政権は「天下りの根絶」をうたっていました。
天下りを根絶するということは、早期退職勧奨(肩たたき)を行わないということで、すべての国家公務員が定年まで役人として勤務し続けることを意味します。しかしそのような制度を実現させるためには、後輩が局長になったときに先輩の課長が部下になることを是認する必要があるし、50~55歳程度で役職を勇退してもらう必要もあります。当然給料は下がります。新規採用を続けるためには定員を増加する必要もあります。
しかし、
公務員制度改革の進捗でも書いたように、そのような方向については何ら議論されている形跡がなく、一体どうするのだろうと懸念していました。
長谷川氏によると、「早期退職勧しないと上がつかえて昇級できない。ほとんど新規採用もできなくなる」(前原誠司国土交通相)などと悲鳴が上がり、原口一博総務相は早期退職勧奨を容認する人事管理の基本方針を策定する方針を決めたそうです。
『脱官僚依存を基本路線に掲げながら、なぜこうなってしまったのか。
ずばり言えば、公務員がつくる労働組合が民主党の有力支持基盤になっているからだ。組合に配慮して給与と定員を減らせないから人件費は膨らみ、やむなく肩たたきも認めざるをえない。
だが、肩たたきを認めたところで、役所は従来のように随意契約など受け入れ先への「手みやげ」を持たせにくくなっているから、民間の受け入れは難しい。結局、またまた独立行政法人や公益法人に潜り込ませる結果になるのは目に見えている。』
公務員制度改革についての政府案と自民党・みんなの党の対案を比較すると、内閣人事局に人事院や総務省、財務省などに散らばっている人事関連機能を集約するかどうかが最大の相違点で、政府案では集約しないが、対案は集約するよう提案しています。
『福田康夫政権で成立した国家公務員制度改革基本法は法律の施行後1年以内をめどに内閣人事局を設置し、そこに総務省や人事院その他の行政機関がもっている人事機能を移管すると定めた(第11条)。
ところが今回の政府案をみると、人事院(級別定数)や総務省(機構定員)、財務省(給与)の機能は移管しない。それでは基本法違反になってしまうから、政府案は「必要な法制上の措置を1年以内をめどとして講じる」という問題の条文を基本法から削除してしまう荒業に出た。そこまでやるか、というような改革先送りである。
基本法は民主党も修正協議に応じて与野党一致で可決成立した。それを政権を握ったとたんに逆コースをたどるのは、いまや民主党が霞が関と公務員組合の連合軍に牛耳られた証拠とみて間違いない。』
給与と定員を握る各省部局の機能を内閣人事局に移さないとなると、政権は効果的に人件費を削減するのが難しくなります。
給与削減には給与法の改正が必要になります。鳩山政権は「給与の抜本見直しには公務員に対する労働基本権の賦与が欠かせない。公務員は労働基本権が制限されており、人事院勧告がその代償措置になっているからだ」という立場ですが、労働基本権の見直しをどうするのかといえば、鳩山政権は「3年以内に見直す」という姿勢をとっています。逆に言えば「3年間は給与体系も現行のまま」という事態になりかねません。
『私(長谷川幸洋氏)は内閣委員会で「労働基本権はさっさと公務員に与える。そのうえで給与法を見直すべきだ」と陳述した。まさか労働組合が支持母体になっている民主党は「労働基本権はいらない。人事院勧告を続けてくれたほうがいい」とでも言うのだろうか。
鳩山政権の姿勢をみていると、どうも、その「まさか」が民主党の本心ではないか、と思えるふしがある。そうだとすると、労働組合と人事院がぐるになって改革を阻んでいるという構図になる。』
公務員制度改革の行方については、大新聞の報道を確認するだけでは不足するようです。内容を注視する必要があります。
そこで、
国家公務員制度改革基本法(平成二十年六月十三日法律第六十八号)を紐解いてみました。
問題の11条とその次の12条および附則は以下の通りです。
(内閣人事局の設置)
第十一条 政府は、次に定めるところにより内閣官房に事務を追加するとともに、当該事務を行わせるために内閣官房に内閣人事局を置くものとし、このために必要な法制上の措置について、第四条第一項の規定にかかわらず、この法律の施行後一年以内を目途として講ずるものとする。
二 総務省、人事院その他の国の行政機関が国家公務員の人事行政に関して担っている機能について、内閣官房が新たに担う機能を実効的に発揮する観点から必要な範囲で、内閣官房に移管するものとすること。
(労働基本権)
第十二条 政府は、協約締結権を付与する職員の範囲の拡大に伴う便益及び費用を含む全体像を国民に提示し、その理解のもとに、国民に開かれた自律的労使関係制度を措置するものとする。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第三章の規定は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
施行が平成20年6~7月ですから、11条に規定する「施行後1年」はとっくに過ぎています。現時点で遅れているということでしょうか。
次に
公務員制度改革推進本部にいってみると、
国家公務員法等の一部を改正する法律案(平成22年2月19日閣議決定・国会提出) がありました。新旧対照表によると問題の11条は改正後、
「第十一条 政府は、次に定めるところにより内閣官房に事務を追加するとともに、当該事務を行わせるために内閣官房に内閣人事局を置くものとし、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする。」
となります。確かに、「施行後1年以内を目途として」が削除されています。
一方、今回改正されない4条を見ると、
(改革の実施及び目標時期等)
第四条 政府は、次章に定める基本方針に基づき、国家公務員制度改革を行うものとし、このために必要な措置については、この法律の施行後五年以内を目途として講ずるものとする。この場合において、必要となる法制上の措置については、この法律の施行後三年以内を目途として講ずるものとする。
となっています。
あと1年で「施行後3年」が到来しますが、どうなっているのか。
ところで、政府案について
法律案骨子をざっと眺めてみましたが、長谷川氏が言うような問題点がどこにあるのか、素人目にはよくわかりません。ここは評論家の批評を待つしかありません。