経産省は10月24日付けの報道発表で「衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員会への東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故原因の検証に必要な資料の提出について」という発表をしています。
『衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員長から別紙1のとおり、経済産業大臣に対して東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故原因の検証に必要な資料を衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員会(以下「委員会」という。)へ提出するよう、要求があり、本日(10月24日)、委員会に対し、別紙2の資料を提出しましたのでお知らせします。
別紙1:書類提出要求について
別紙2:東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故原因の検証に必要な資料の提出について』
別紙1によると、衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員長川内博史の名で、経済産業大臣臨時代理に対して、9月12日付け「書類提出要求について」という書類が出されています。
要約すると、
「衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員会(以下「委員会」)は、福島第一原発事故に伴う様々な事象について審議を進めている。とりわけ、地震発生から津波が到達するまでの間に、同原発で起きた事象を解明する必要から、特に、非常用復水器及び格納容器スプレーの挙動について不自然な点が指摘されていることもあり、経産省を通じて東電に対して資料提出を要求してきた。
しかるに、委員会に提出された資料は、ほとんどの文言が黒く塗りつぶされた判読不可能なもので、回答項目も不十分・不誠実なものであった。
経産大臣は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第67条及び電気事業法第106条に基づき、東電から以下の事項を含む報告を徴収し、本委員会に提出することを要請する。
1 福島第一原発の「事故時運転操作手順書」、シビアアクシデント発生時における手順書
2 同発電所1号機についてのGE社の非常用復水器の設計時における性能計算書及び操作マニュアル
3 直近改訂の事故時運転操作手順書の作業内容
4 過去40年間の事故時運転操作手順書とシビアアクシデント発生時手順書の改訂日及び改訂内容の履歴
5 シビアアクシデント発生時等に備えて実施していた訓練の実施日及び実施内容
6 今回の福島第一原発事故に関して
(1) 1のマニュアルに記載している対処方法と、地震発生後に現場の作業員が実際に行った操作内容とを時系列的に比較できる資料
(2) 地震発生後の対応について作業員にヒアリングを行ったのであれば、その発言録
7 非常用復水器が圧力調整装置であることを証明するもの」
というものです。
衆議院の「委員会」からの上記要求に対し、経産大臣は10月24日付け書類で、『「2」、「3」、「5」及び「7」につきましては、平成23年9月22日付け平成23・09・12原第9号「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故原因の検証に必要な資料について」をもって回答しましたが、今回、「1」、「4」及び「6」につきまして、別紙のとおり回答』するとしています。
別添3「1号機の事故時運転操作手順書の適用状況について」
合計53ページの報告書で、今回の中では中心の資料になっているようです。
ただし、私にとって目新しい情報はさほど発見できませんでした。
1点注目する情報がありました。5ページ4行目に
「IC(非常用復水器)の水源については、交流電源を駆動源とするポンプが停止することから、IC容量(約6時間)を超える場合には、D/D-FP(ディーゼル駆動消火ポンプ)により補給する」とあります。
「D/D-FP」は、原発の設備に組み込まれたディーゼル消火ポンプであり、外部から接続する消防車とは別の設備です。
また、この資料の末尾に、「原子力用語集」が付いており、これは役に立ちます。
別添4「発電所関係者へのヒアリング結果」
「(1)総論
①体制、②所内の情報伝達、③手順書・マニュアル、④劣悪な現場
(2)各論
①電源復旧、②消火系を用いた代替注水、③ベント、④1号機の非常用復水器(IC)の操作、⑤水素漏洩対策」
内容については、今まで公にされてきた情報の域を出ていないようです。
----------------------------
以下、今回の報告資料全体についての感想です。
今回の福島第一原発事故については、事故発生後の対応と事象の推移について詳細に調査することがもちろん非常に大切です。その調査が、どのようになされているのか詳しくは分かりませんが、その中で、今回の資料要求元である「衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員会」がどのような役割を担っているのかがよくわかりません。
そして、原発事故の事象の中で「地震発生から津波が到達するまでの間に、同原発で起きた事象を解明する必要から、特に、非常用復水器及び格納容器スプレーの挙動について不自然な点が指摘されていることもあり、経産省を通じて東電に対して資料提出を要求してきた」とあるように、「特に、非常用復水器及び格納容器スプレーの挙動」のみになぜ異常な興味を示しているのか、不明です。
さらに、委員会からの質問と、それに対する回答との関係から気になった点を挙げます。
「5 シビアアクシデント発生時等に備えて実施していた訓練の実施日及び実施内容」
という質問から、私なら、
「シビアアクシデント発生時、事故の被害を最小限にするために、現場オペレータが最適な行動をとることができるようにする訓練」
をイメージします。しかし9月22日付け回答によると、実際に行った訓練の内容は、「事故後の政府への迅速な報告、消火訓練、負傷者の救護訓練、住民広報・避難訓練、交通規制」といったものでした。事故の被害を最小にするためのオペレータ訓練は行われていなかったのでしょうか。
「7 非常用復水器が圧力調整装置であることを証明するもの」
という質問は何を意図したのでしょうか。このような質問に対して私が回答するとしたら、
「非常用復水器によって(圧力容器の)圧力調整が可能であることを理屈で説明し、実際の実験データに基づいて圧力調整が行われることを実証する」でしょう。
ところが経産大臣の回答は、『福島第一原発原子炉施設保安規定に、第1号機の原子炉がスクラムした場合の操作基準として、「主蒸気隔離弁が閉の場合、主蒸気逃がし安全弁を開又は非常用復水器系を起動して、原子炉圧力を調整する。」との記述があります。(別紙1参照。)
また、福島第一原発原子炉設置(変更)許可申請書に、第1号機については、非常用復水器が、原子炉の圧力が高くなると自動的に作動し、これにより原子炉を冷却減圧するとの記述があります。(別紙2参照。)』というものでした。
私が回答を受ける側だったら「バカにするな!」と怒鳴りそうな回答ですね。
衆議院の「委員会」は経産大臣に対し、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第67条及び電気事業法第106条に基づき、東電から以下の事項を含む報告を徴収し、本委員会に提出することを要請する」としています。
しかし、両法律の当該条文を読みましたが、「経産大臣が事業者に必要な報告をさせる」権限は記載されていますが、衆議院が有している権限については何も規定されていませんでした。今回衆議院「委員会」は、どのような法律的根拠で経産大臣に書類提出を要求したのでしょうか。
続く
『衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員長から別紙1のとおり、経済産業大臣に対して東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故原因の検証に必要な資料を衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員会(以下「委員会」という。)へ提出するよう、要求があり、本日(10月24日)、委員会に対し、別紙2の資料を提出しましたのでお知らせします。
別紙1:書類提出要求について
別紙2:東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故原因の検証に必要な資料の提出について』
別紙1によると、衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員長川内博史の名で、経済産業大臣臨時代理に対して、9月12日付け「書類提出要求について」という書類が出されています。
要約すると、
「衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員会(以下「委員会」)は、福島第一原発事故に伴う様々な事象について審議を進めている。とりわけ、地震発生から津波が到達するまでの間に、同原発で起きた事象を解明する必要から、特に、非常用復水器及び格納容器スプレーの挙動について不自然な点が指摘されていることもあり、経産省を通じて東電に対して資料提出を要求してきた。
しかるに、委員会に提出された資料は、ほとんどの文言が黒く塗りつぶされた判読不可能なもので、回答項目も不十分・不誠実なものであった。
経産大臣は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第67条及び電気事業法第106条に基づき、東電から以下の事項を含む報告を徴収し、本委員会に提出することを要請する。
1 福島第一原発の「事故時運転操作手順書」、シビアアクシデント発生時における手順書
2 同発電所1号機についてのGE社の非常用復水器の設計時における性能計算書及び操作マニュアル
3 直近改訂の事故時運転操作手順書の作業内容
4 過去40年間の事故時運転操作手順書とシビアアクシデント発生時手順書の改訂日及び改訂内容の履歴
5 シビアアクシデント発生時等に備えて実施していた訓練の実施日及び実施内容
6 今回の福島第一原発事故に関して
(1) 1のマニュアルに記載している対処方法と、地震発生後に現場の作業員が実際に行った操作内容とを時系列的に比較できる資料
(2) 地震発生後の対応について作業員にヒアリングを行ったのであれば、その発言録
7 非常用復水器が圧力調整装置であることを証明するもの」
というものです。
衆議院の「委員会」からの上記要求に対し、経産大臣は10月24日付け書類で、『「2」、「3」、「5」及び「7」につきましては、平成23年9月22日付け平成23・09・12原第9号「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故原因の検証に必要な資料について」をもって回答しましたが、今回、「1」、「4」及び「6」につきまして、別紙のとおり回答』するとしています。
別添3「1号機の事故時運転操作手順書の適用状況について」
合計53ページの報告書で、今回の中では中心の資料になっているようです。
ただし、私にとって目新しい情報はさほど発見できませんでした。
1点注目する情報がありました。5ページ4行目に
「IC(非常用復水器)の水源については、交流電源を駆動源とするポンプが停止することから、IC容量(約6時間)を超える場合には、D/D-FP(ディーゼル駆動消火ポンプ)により補給する」とあります。
「D/D-FP」は、原発の設備に組み込まれたディーゼル消火ポンプであり、外部から接続する消防車とは別の設備です。
また、この資料の末尾に、「原子力用語集」が付いており、これは役に立ちます。
別添4「発電所関係者へのヒアリング結果」
「(1)総論
①体制、②所内の情報伝達、③手順書・マニュアル、④劣悪な現場
(2)各論
①電源復旧、②消火系を用いた代替注水、③ベント、④1号機の非常用復水器(IC)の操作、⑤水素漏洩対策」
内容については、今まで公にされてきた情報の域を出ていないようです。
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以下、今回の報告資料全体についての感想です。
今回の福島第一原発事故については、事故発生後の対応と事象の推移について詳細に調査することがもちろん非常に大切です。その調査が、どのようになされているのか詳しくは分かりませんが、その中で、今回の資料要求元である「衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員会」がどのような役割を担っているのかがよくわかりません。
そして、原発事故の事象の中で「地震発生から津波が到達するまでの間に、同原発で起きた事象を解明する必要から、特に、非常用復水器及び格納容器スプレーの挙動について不自然な点が指摘されていることもあり、経産省を通じて東電に対して資料提出を要求してきた」とあるように、「特に、非常用復水器及び格納容器スプレーの挙動」のみになぜ異常な興味を示しているのか、不明です。
さらに、委員会からの質問と、それに対する回答との関係から気になった点を挙げます。
「5 シビアアクシデント発生時等に備えて実施していた訓練の実施日及び実施内容」
という質問から、私なら、
「シビアアクシデント発生時、事故の被害を最小限にするために、現場オペレータが最適な行動をとることができるようにする訓練」
をイメージします。しかし9月22日付け回答によると、実際に行った訓練の内容は、「事故後の政府への迅速な報告、消火訓練、負傷者の救護訓練、住民広報・避難訓練、交通規制」といったものでした。事故の被害を最小にするためのオペレータ訓練は行われていなかったのでしょうか。
「7 非常用復水器が圧力調整装置であることを証明するもの」
という質問は何を意図したのでしょうか。このような質問に対して私が回答するとしたら、
「非常用復水器によって(圧力容器の)圧力調整が可能であることを理屈で説明し、実際の実験データに基づいて圧力調整が行われることを実証する」でしょう。
ところが経産大臣の回答は、『福島第一原発原子炉施設保安規定に、第1号機の原子炉がスクラムした場合の操作基準として、「主蒸気隔離弁が閉の場合、主蒸気逃がし安全弁を開又は非常用復水器系を起動して、原子炉圧力を調整する。」との記述があります。(別紙1参照。)
また、福島第一原発原子炉設置(変更)許可申請書に、第1号機については、非常用復水器が、原子炉の圧力が高くなると自動的に作動し、これにより原子炉を冷却減圧するとの記述があります。(別紙2参照。)』というものでした。
私が回答を受ける側だったら「バカにするな!」と怒鳴りそうな回答ですね。
衆議院の「委員会」は経産大臣に対し、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第67条及び電気事業法第106条に基づき、東電から以下の事項を含む報告を徴収し、本委員会に提出することを要請する」としています。
しかし、両法律の当該条文を読みましたが、「経産大臣が事業者に必要な報告をさせる」権限は記載されていますが、衆議院が有している権限については何も規定されていませんでした。今回衆議院「委員会」は、どのような法律的根拠で経産大臣に書類提出を要求したのでしょうか。
続く