弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

李鍾植「朝鮮半島最後の陰謀」

2008-01-31 20:46:39 | 歴史・社会
李鍾植著「朝鮮半島最後の陰謀」(幻冬舎)
朝鮮半島最後の陰謀―アメリカは、日本・韓国を見捨てたのか? 「非道な北朝鮮」と「愚かな韓国」
李 鍾植
幻冬舎

このアイテムの詳細を見る

この本は、大韓航空機爆破事件において、金賢姫拘束に至る韓国サイドの動きが記載されているらしいということで、購入したものです。その目的としている内容については、以前紹介しました。

この本の著者である李鍾植(イジョンシク)氏は、国籍が北朝鮮→韓国→日本と変遷した人です。都内某私立大学在学中の1980年初頭に、韓国国家安全企画部から接触を受け、工作部員としての活動を始めました。ある日、北朝鮮側からも協力を依頼されますが、事実を韓国当局に報告したところ二重スパイになることを強要され、身の危険を感じて関係を解消しました。
1990後半以降は依頼を受けての情報活動からは一切手を引き、現在は自身の表現活動のための情報活動を続け、執筆を行っています。

この本は2007年5月発行です。
以下のような内容が記述されています。

日本では、北朝鮮において金正日が絶対権力者であると認識されていますが、金正日は単に祭り上げられているだけで、絶対権力を持っているのは朝鮮人民軍だということです。戦前の日本と同じですね。軍事官僚組織が絶対権力を持っており、誰か一人が独裁者ということではありません。

官僚組織の中で、朝鮮労働党も大きな権力組織ですが、現在のところ、朝鮮人民軍の力が朝鮮労働党の力を上回っています。

もちろん、北朝鮮による日本人拉致事件、大韓航空機爆破事件は、金正日が首謀者です。これは、1975年11月に金正日が朝鮮労働党調査部の実権を握ったことに起因しています。金正日はあくまで朝鮮労働党を動かしたのであって、朝鮮人民軍は金正日の影響下にありません。

2007年2月、アメリカは北朝鮮との二国間協議に応じ、北朝鮮に対して大幅な譲歩をしたように受け取られています。しかしこれは米国の罠であり、北朝鮮がこれによって増長して核開発を推進したら、米国はそれを口実として北朝鮮爆撃に踏み切るというのです。

北朝鮮が核爆弾を完成したら、アルカイダなどのテロ組織に引き渡す可能性があります。
米国は本質的に「覇権主義国家」であり、ならず者国家と認定した北朝鮮が核爆弾を完成し、アルカイダと手を組む可能性が濃厚になったら、必ず北朝鮮を叩きつぶすと予測します。

北朝鮮(具体的には朝鮮人民軍の実力者)にとって、「日本は滅ぼすべき敵国」なのです。米国から攻撃されたら、追い詰められた北朝鮮は、滅びるなら憎き日本を道連れにと、「対日戦争」に踏み切るということです。

「対日戦争」といっても、正規軍が日本に上陸するわけではありません。ミサイル攻撃とテロ攻撃です。

北朝鮮は、短距離ミサイル「スカッド」などを500基、中距離弾道ミサイル「ノドン」を200基、実戦配備しています。また中距離弾道ミサイル「テポドン1号」と大陸間弾道弾「テポドン2号」については、配備数はわかりません。
ノドンは射程距離1300kmで、韓国相手には長すぎる、米国相手には足りません。ノドン200基が狙っているのは日本しかあり得ないのです。「北朝鮮が対日宣戦布告した場合、ノドンは緒戦で出し惜しみせずに発射される」といわれており、米軍の北爆でミサイル基地が叩かれる前に、200基すべてのノドンが日本に向けて発射されます。核弾頭が搭載されているかもしれません。

日本国内に潜伏する北朝鮮工作員は、諜報活動を行う普通の工作員が約1万人、テロ攻撃能力を有する特殊工作員は500~1500人規模といわれています。この特殊工作員が、日本各地の自衛隊基地、在日米軍基地、原子力発電所をテロ攻撃します。北朝鮮工作員は、爆弾のみならず、サリンをも保有しているというのです。

韓国と在韓米軍との関係について、従来は朝鮮半島有事における総指揮権を米軍が握っていましたが、これを韓国に返還するといいだしました。在韓米軍の規模も、最盛時4万人規模だったものが15000人まで縮小します。
韓国は、金大中-盧武鉉の2政権において、「ならず者国家」北朝鮮を応援する政策を採り、これがため米国は韓国を守ることに嫌気が差してしまいました。
米軍が北朝鮮攻撃に踏み切ったとき、韓国が北朝鮮からミサイル攻撃されて火の海になったとしても、わしゃ知らんということです。


私は従来、イラク戦争開始時にしろ、テロ特措法延長問題にしろ、「イラクを第1に考え、アフガニスタンを第1に考えたとき、日本は何をなすべきか、という観点で議論すべきであり、対米追随はよくない」と主張してきました。
しかしもし、李鍾植氏による上記解析があながち荒唐無稽でないのだとしたら、米国に対するご機嫌取りを全く放棄することは危険すぎるかもしれません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

金賢姫拘束の真相(4)

2008-01-29 20:42:34 | 歴史・社会
砂川昌順著「極秘指令~金賢姫拘束の真相」(NHK出版)
李鍾植著「朝鮮半島最後の陰謀」(幻冬舎)
極秘指令~金賢姫拘束の真相
砂川 昌順
NHK出版

このアイテムの詳細を見る

朝鮮半島最後の陰謀―アメリカは、日本・韓国を見捨てたのか? 「非道な北朝鮮」と「愚かな韓国」
李 鍾植
幻冬舎

このアイテムの詳細を見る

昨年12月15日、フジテレビで『大韓航空機爆破事件から20年 金賢姫を捕らえた男たち~封印された3日間~』を見て以来、金賢姫拘束に至る真相にこだわっています。
12月26日の記事では、《在中東日本大使館ルート》と《韓国官憲ルート》がそれぞれ独立で、事件の核心に迫っていったのではないか、との推論を立てました。
テレビ番組で紹介された日本大使館ルートが独立で金賢姫らに迫ったのと独立に、韓国ルートでも事件を押さえており、たとえ日本大使館ルートが失敗したとしても、韓国ルートで結局は金賢姫らが拘束されたのではないかと・・・。

最近になって、テレビ番組の主人公である砂川昌順氏の著書である上記「極秘指令~金賢姫拘束の真相」がやっと手に入り、読み終わりました。テレビ番組やネット検索で得られた以上の情報、特に韓国ルートについての情報が書かれていました。

まず、この本に記載されている《在中東日本大使館ルート》についてです。
砂川氏という人は、著者本人が記述するところによると、実に有能な諜報員として描かれています。こんな人が在外日本大使館のノンキャリア館員として実在していたのか、とまず驚きます。

砂川氏は当時、在バーレーン日本大使館員です。
1987年11月30日午後、アラブ首長国連合の日本大使館から極秘大至急電報が入ります。「大韓航空機が行方不明になったことと、その飛行機からアブダビ空港で降りた客の中に2名の日本人名らしき客がいること、貴国に入国していないか調べてほしい」という内容でした。
ところが砂川氏は、すでにその前日、普段から情報をもらっているフライトアテンダントのエリーナから裏情報として、大韓航空機が行方不明になった状況を詳しく聞いていたのです。

大使館で砂川氏の上司である参事官は、「無理だと思うけれど一応調査してくれ」と砂川氏に指示します。一通りの調査をしてわからなければそのように報告すればいい、というスタンスです。それに対し砂川氏は、「今日中になんとしても見つけ出す。」と決意するのです。時刻は4時6分、中東での就業時間を考えると、1時間以内に手がかりを見つけないと絶望的です。

まず各航空会社に乗員名簿を見せてくれるように電話で依頼しますが、外務省を通した正規の依頼ではないので、みな断られます。そこで彼が取った行動は、裏ルートの諜報員への調査依頼です。そこから、ガルフ航空の乗客名簿にシニチとマユミの2名の名前があることを、あっというまにつきとめます。

砂川氏は直ちに空港に向かいます。出入国管理官室へ向かい、膨大な入国カードの調査を開始します。砂川氏は2人が入国した時刻を勘で予想し、入国カードの山の一部から調査を開始します。勘は当たり、チェックをはじめて6、7分経過後に2人の入国カードが見つかりました。

その日の夜は、本国の外務省から出張でやってきた審議官との夕食会です。その席上で砂川氏は「バーレーン中のホテルに電話をかけまくりましょう」と提案しますが、実は2人の滞在ホテルについては推理し、すでに目星をつけていたのです。まず最初にその目星をつけたリージェンシーホテルに電話をしたら、果たして2人は滞在していたのでした。ホテルのフロントに2人の滞在有無のみを確認しようとしたのに、フロントは2人が泊まっている客室に電話を回してしまいました。砂川氏が蜂谷真一と電話で話をします。話の様子から、砂川氏はこの2人がただの旅行者でないことに気付きました。

砂川氏は、その夜にホテルで見張りを行うことを主張しますが、参事官は「その必要はない!」と拒否します。砂川氏は独断で、リージェンシーホテルに勤める知人に頼み、二人がチェックアウトすることがあったら直ちに連絡するように依頼します。

こうして、調査は砂川氏の推理通りに進み、足を棒にして探し回ることなく、2人に到達したのでした。


砂川氏の著書から、《韓国ルート》との接点について触れます。
翌12月1日の早朝、真由美のパスポートが偽造であることが判明します。砂川氏らは上司の参事官から「バーレーンの官憲には連絡せず、とにかく2人を見張れ」と指示を受けます。しかしリージェンシーホテルで2人がチェックアウトする場面に砂川氏らが居合わせていながら、2人がホテルを出る際に見失ってしまいます。あわてて砂川氏らは空港へ向かい、独断で出入国管理官室に協力を依頼し、やっとのことで出国審査カウンターで2人を足止めします。

そのとき韓国ルートとの接点が生じます。
ボディーチェックで押収した蜂谷真一の所持品の中から、在バーレーン韓国大使館の金書記官の名刺が見つかったのです。名刺には、大韓航空機の墜落を示唆する文字がボールペンでメモ書きされていました。ホテルで金書記官が2人に接触したことを物語っています。

2人が自殺を図り、病院へ搬送された後、韓国大使館の金書記官が空港に飛び込んできます。「ホテルで会った時は、二人は単なる旅行者だと思ったのですが・・・。まさか、こんな事態になるとはまったく想像だにしていませんでした」

以上が、砂川氏と韓国ルートとの接点です。
韓国当局から2名について外務省を通じて在バーレーン日本大使館に照会があったことなど、一切登場しません。
これが真実とすると、韓国ルートにおいて、蜂谷真一と真由美をバーレーンで捕捉し、面会までしていながら、単なる旅行者であって爆破犯人であるとは気付かず、あやうく取り逃がすところだった、ということになります。
金賢姫を拘束できたのは、まさに砂川氏の能力と努力の賜であったことになります。

もう1冊、李 鍾植著「朝鮮半島最後の陰謀」について
この本に大韓航空機爆破について記されています。この中で、
「(30日)夕刻には在バーレーン韓国大使館副領事の金正奇がホテルを訪れ、『蜂谷真一』『蜂谷真由美』に面会、尋問したのですが、2人は、自分たちは日本人の父娘だと繰り返すだけでした。
12月1日午前8時過ぎ頃までには、在バーレーン日本大使館の調査で「蜂谷真由美」名義の旅券が偽造であることが判明したので、韓国当局から通報を受けていた日本政府が、現地の日本大使館員と地元警察官をホテルに差し向けたところ、・・・2人は青酸カリのアンプルを口中で噛み砕き・・・」とあります。
砂川氏の著作とはずいぶん様子が異なることがわかります。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

公用文作成の要領

2008-01-27 12:07:52 | 知的財産権
前回「公用文における漢字使用等について」に続き、今回は「公用文作成の要領」からの抜粋です。

今回話題になった「横書きでは『,』を用いる」については、終わりの方の<注>2.に登場します。

          公 用 文 作 成 の 要 領
                      昭和27年
まえがき
 公用文の新しい書き方については,昭和21年6月17日に「官庁用語を平易にする標準」が次官会議で申し合わせ事項となった。その後,次官会議および閣議では,公用文改善協議会の報告「公用文の改善」を了解事項とし,昭和24年4月5日にそれを「公用文作成の基準について」として内閣官房長官から各省大臣に依命通達した。この「公用文の改善」は,いうまでもなく,さきに出た「官庁用語を平易にする標準」の内容を拡充したものである。しかし,具体的な準則としては,なお,「官庁用語を平易にする標準」その他から採って参照すべき部分が少なくない。そこで,国語審議会では,これらを検討し,必要な修正を加え,「公用文の改善」の内容を本文とし,他から採ったものを補注の形式でまとめ,ここに「公用文作成の要領」として示すこととした。
 公用文を,感じのよく意味のとおりやすいものとするとともに,執務能率の増進をはかるため,その用語用字・文体・書き方などについて,特に次のような点について改善を加えたい。

第1 用語用字について
1 用語について
 1.特殊なことばを用いたり,かたくるしいことばを用いることをやめて,日常一般に使われているやさしいことばを用いる。(×印は,常用漢字表にない漢字であることを示す。) 
  たとえば 稟請→申請、充当する→あてる・・など

 2.使い方の古いことばを使わず,日常使いなれていることばを用いる。
 (略)
 3.言いにくいことばを使わず,口調のよいことばを用いる。
  たとえば 拒否する→受け入れない  はばむ→さまたげる

 4.音読することばはなるべくさけ,耳で聞いて意味のすぐわかることばを用いる。
  たとえば 橋梁→橋、塵埃→ほこり、陳述する→述べる・・・など

 5.音読することばで,意味の2様にとれるものは,なるべくさける。
  たとえば
  協調する(強調するとまぎれるおそれがある)→歩調を合わせる
  勧奨する(干渉する)→すすめる・・・など

 6.漢語をいくつもつないでできている長いことばは,むりのない略し方をきめる。
  たとえば  経済安定本部→経本

 7.同じ内容のものを違ったことばで言い表わすことのないように統一する。
  たとえば 提起・起訴・提訴  口頭弁論・対審・公判

2 用字について
 1.漢字は,常用漢字表による。
  (1) 常用漢字表を使用するにあたっては,特に次のことがらに留意する。
   (略)
  (2) 常用漢字表で書き表わせないものは,次の標準によって書きかえ,言いかえをする。
  5.かな書きにする。
   ア 遡る→さかのぼる、 看倣す→みなす
   イ 漢語でも、漢字をはずしても意味のとおる使いなれたものは、そのままかな書きにする。
    たとえば でんぷん、めいりょう、あっせん
   ウ 他によい言いかえがなく、または言いかえをしてはふつごうなものは、常用漢字表にはずれた漢字だけをかな書きにする。
    たとえば 右舷→右げん、 改竄→改ざん、 口腔→口こう
  6.常用漢字表中の,音が同じで,意味の似た漢字で書きかえる。
    たとえば 車輛→車両、煽動→扇動、碇泊→停泊、編輯→編集
     哺育→保育、抛棄→放棄、傭人→用人、聯合→連合、煉乳→練乳
  7.同じ意味の漢語で言いかえる。
   ア 意味の似ている、用い慣れたことばを使う。
   イ 新しいことばをくふうして使う。
    剪除→切除、毀損→損傷、擾乱→騒乱、譴責→戒告
  8.漢語をやさしいことばで言いかえる。
    隠蔽する→隠す、庇護する→かばう、牴触する→ふれる
    漏洩する→漏らす、破毀する→破る、酩酊する→酔う、趾→あしゆび

 2.かなは,ひらがなを用いることとする。かたかなは特殊な場合に用いる。
(略)

3 法令の用語用字について
(略)

第2 文体について
 1.公用文の文体は,原則として「である」体を用いる。ただし,公告・告示・掲示の類ならびに往復文書(通達・通知・供覧・回章・伺い・願い・届け・申請書・照会・回答・報告等を含む。)の類はなるべく「ます」体を用いる。
 2.文語脈の表現はなるべくやめて,平明なものとする。
 3.文章はなるべくくぎって短くし,接続詞や接続助詞などを用いて文章を長くすることをさける。
 4.文の飾り,あいまいなことば,まわりくどい表現は,できるだけやめて,簡潔な,論理的な文章とする。
 敬語についても,なるべく簡潔な表現とする。
(略)

第3 書き方について
 (略)
<注>
 1.文の書き出しおよび行を改めたときには1字さげて書き出す。

 2.句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いる。
  事物を列挙するときには「・」(なかてん)を用いることができる。

 3.同じ漢字をくりかえすときには「々」を用いる。

 4.項目の細別は,たとえば次のような順序を用いる。
 (略)
-------------------------

しかし、昭和27年に制定したまま修正がされていないということは、現実の文書作成の常識からはかけ離れている可能性もあります。本当のところ、この「公用文作成の要領」はどの程度尊重されているのでしょうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

公用文における漢字使用等について

2008-01-24 20:51:03 | 知的財産権
「,」は日本語として不適切の記事に対するコメントとして、Unknownさんから「公用文における漢字使用等について」と「公用文作成の要領」を紹介いただきました。どちらも文化庁の「公用文に関する諸通知」の項目一覧からたどることができます。

このような公式の申し合わせがあることを私は知らなかったので、とても参考になりました。その中から、特に記憶しておきたい事項を抽出してここに抜粋することにします。
まずは「公用文における漢字使用等について」です。

       公用文における漢字使用等について
                        昭和56年10月1日
                        事務次官等会議申合せ
 昭和56年10月1日付け内閣訓令第1号「常用漢字表の実施について」が定められたことに伴い,今後,各行政機関が作成する公用文における漢字使用等は,下記によることとする。

              記

1 漢字使用について
(1) 公用文における漢字使用は,「常用漢字表」(昭和56年内閣告示第1号)の本表及び付表(表の見方及び使い方を含む。)によるものとする。
 なお,字体については通用字体を用いるものとする。

(2) 「常用漢字表」の本表に掲げる音訓によって語を書き表すに当たっては,次の事項に留意する。

ア 次のような代名詞は,原則として,漢字で書く。
<例> 彼,何,僕,私,我々

イ 次のような副詞及び連体詞は,原則として,漢字で書く。
<例> 必ず,少し,既に,直ちに,甚だ,再び,全く,最も,専ら,余り,至って,大いに,恐らく,必ずしも,辛うじて,極めて,殊に,更に,少なくとも,絶えず,互いに,例えば,次いで,努めて,常に,初めて,果たして,割に,概して,実に,切に,大して,特に,突然,無論,明るく,大きな,来る,去る,小さな,我が(国)

 ただし,次のような副詞は,原則として仮名で書く。
<例> かなり,ふと,やはり,よほど

ウ 次の接頭語は,その接頭語が付く語を漢字で書く場合は,原則として,漢字で書き,その接頭語が付く語を仮名で書く場合は,原則として,仮名で書く。
<例> 御案内,御調査,ごあいさつ,ごべんたつ

エ 次のような接尾語は,原則として,仮名で書く。
<例> げ(惜しげもなく),ども(私ども),ぶる(偉ぶる),み(弱み),め(少なめ)

オ 次のような接続語は,原則として,仮名で書く。
<例> おって,かつ,したがって,ただし,ついては,ところが,ところで,また,ゆえに

 ただし,次の4語は,原則として,漢字で書く。
  及び,並びに,又は,若しくは

カ 助動詞及び助詞は,仮名で書く。
<例> ない(現地には,行かない。)
 ようだ(それ以外に方法がないようだ。)
 ぐらい(二十歳ぐらいの人)
 だけ(調査しただけである。)
 ほど(三日ほど経過した。)

キ 次のような語句を,( )の中に示した例のように用いるときは,原則として,仮名で書く。
<例> こと(許可しないことがある。)
 とき(事故のときは連絡する。)
 ところ(現在のところ差し支えない。)
 もの(正しいものと認める。)
 とも(説明するとともに意見を聞く。)
 ほか(特別の場合を除くほか)
 ゆえ(一部の反対のゆえにはかどらない。)
 わけ(賛成するわけにはいかない。)
 とおり(次のとおりである。)
 ある(その点に問題がある。)
 いる(ここに関係者がいる。)
 なる(合計すると1万円になる。)
 できる(だれでも利用ができる。)
 ・・・てあげる(図書を貸してあげる。)
 ・・・ていく(負担が増えていく。)
 ・・・ていただく(報告していただく。)
 ・・・ておく(通知しておく。)
 ・・・てください(問題点を話してください。)
 ・・・てくる(寒くなってくる。)
 ・・・てしまう(書いてしまう。)
 ・・・てみる(見てみる。)
 ない(欠点がない。)
 ・・・てよい(連絡してよい。)
 ・・・かもしれない(間違いかもしれない。)
 ・・・にすぎない(調査だけにすぎない。)
 ・・・について(これについて考慮する。)

2 送り仮名の付け方について
(1) 公用文における送り仮名の付け方は,原則として,「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)の本文の通則1から通則6までの「本則」・「例外」,通則7及び「付表の語」(1のなお書きを除く。)によるものとする。(以下略)

3 その他
(1) 1及び2は,固有名詞を対象とするものではない。
(2) 1及び2以外の事項は,「公用文作成の要領」(「公用文改善の趣旨徹底について」昭和27年内閣閣甲第16号依命通知)による。
(3) 専門用語又は特殊用語を書き表す場合など,特別な漢字使用等を必要とする場合には,1,2及び3(2)によらなくてもよい。
(4) 専門用語等で読みにくいと思われるような場合は,必要に応じて,振り仮名を用いる等,適切な配慮をするものとする。

4 運用に関する事項
 1から3までの運用に関し必要な事項に付いては,内閣官房及び文化庁から通知するものとする。

5 法令における取扱い
 法令における漢字使用等については,別途,内閣法制局からの通知による。
-------------------------

上記3(2) で引用されている「公用文作成の要領」については、次回紹介します
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

緒方貞子氏が見たアフガニスタン

2008-01-22 20:02:20 | 歴史・社会
1月15日の朝日新聞「私の視点」欄に、国際協力機構(JICA)理事長の緒方貞子氏が意見を掲載しています。

「アフガニスタン 復興から開発へ支援加速を」

緒方氏は昨年12月、3年ぶりにアフガニスタンを訪れました。
日本をはじめとする各国が02年に本格的な協力を始めてから5年余り。アフガニスタンは着実に発展に向けて動き出していました。カブール市内は、建設工事、市場、朝夕のラッシュと、活気にあふれています。タリバーンを中心とした治安問題は厳しいですが、日本にはこのような「陰」の部分のみ報道され、「陽」の部分は伝えられていません。

カルザイ大統領、閣僚、国連等の国際機関トップと会談しましたが、総じて日本がこれまでに行ってきた復興事業に対する評価は高く、今後の継続支援に対する期待も表明されました。
「02年、私は総理特別代表として、東京で行われた『第1回アフガニスタン支援国会合』の共同議長を務め新生アフガニスタンの国家開発支援に関わった。現地でこうした成果を目の当たりにして胸が熱くなる思いであった。」
これはこれは、当時の鈴木宗男議員が、大西健丞氏率いるピースウィズジャパンの参加を妨害した、あの会議ではないでしょうか。鈴木氏はこの騒動を契機として、奈落に落ちてしまいました。

アフガニスタンでは、現在も軍や警察を狙った自爆テロが起きており、日本の多くのNGO等が撤退を余儀なくされていますが、JICA関係者は職員も含めて60人近くが常駐し、事業を継続しているそうです。
日本は、カブール、カンダハル、マザリシャリフにおける道路や学校等の緊急復興・改修、カブール及びカンダハル、ヘラート間の道路整備に代表される大規模な協力を実施してきました。今回の訪問でも、「カブール首都圏開発マスタープラン調査」の実施を決定しました。今夏には、日本の無償資金協力による「カブール国際空港ターミナル」の完成が予定されています。

このような民生支援によってアフガニスタンに平和が定着することこそ、「テロの予防にもつながるということは認識されねばならない」と緒方氏はいいます。まさに、日本が得意とするアフガニスタンにおける「テロとの戦い」ではないですか。


先日の国会で、改正テロ特措法が成立しました。日本の海上自衛隊は再度インド洋に出かけます。
しかし、ここで行うことは、要するに「洋上無料給油所」の開設です。年間たった35億円の油を各国艦艇に提供しようとするものです。
昨年11月10日の記事に伊勢崎賢治氏の意見を取り上げて書いたとおり、この洋上無料給油の枠組みは、米国主導でNATOの集団自衛権行使として始められた「不屈の自由作戦(OEF)」の一環でしかありません。アメリカがOEFとして行っている軍事活動では、旧軍閥の軍人(武装解除の対象)に給料を払って雇ってみたり、最近では空爆による二次被害で民間人の犠牲者が増大し、ISAF(国際治安支援部隊)ですら苦情を言い始めています。

2002年1月に緒方氏が共同議長を務めた上記東京会議で、日本は国策として公的資金を出し、NGOを行かせることを決めました。NGOは今でも現地で働いています。

自衛隊の輸送給油活動の再開騒動のために、日本がOEFに加担していることが大々的に知られることになったとしたら、タリバーン勢力にとって日本は中立国から敵国に変化している可能性があります。そして今、日本政府は待避勧告を出し、NGOに早く帰ってこいといっています。
洋上無料給油を再開するかわりにNGO引き上げをやるなどというのはとんでもないことで、今までアフガンで日本の顔となって国策を背負ってきたのは彼らNGOだ、というのが伊勢崎氏の主張です。

緒方氏の今回の新聞記事からも、実はアフガニスタンの復興とテロ対策に本当に役立っているのは、日本からの支援金をもとにNGOを中心として活動している復興活動であることが見えてきます。
最近新聞で目にする記事といったら、インド洋上無料給油所の再開についてばかりです。アメリカのご機嫌取りに終始しているとしか思えません。まずは、「アフガニスタンのことを第一に考えたときに日本は何をなすべきか」を議論すべきと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親指シフトが読売ウィークリーに

2008-01-20 16:44:28 | サイエンス・パソコン
パソコンでの日本語キー入力は、現在ローマ字入力がほとんどであり、一部にJISかな入力が使われていると思います。
それに対し、私が「親指シフト入力」という変わったキーボードを用いていること、そしてその効用については、このブログでも何回か報告してきました()。
下の写真が、私が使っている親指シフトキーボード(Rboard Pro for PC)です。


その親指シフトが、実に久方ぶりで一般週刊誌の記事となりました。

読売ウィークリー1月27日号(発売日・1月12日(土) )

ジェームス三木、曽野綾子…
“「親指シフト」への熱き思い”
「パソコン入力の一つで「親指シフト」というのをご存じか。ローマ字入力に押され、いつのまにか衰退してしまったが、愛好者は多い。人気の秘密はそのスピード。ローマ字入力の1.7倍の速さで文字が打てるというのだ。」

早速買ってきました。見開きの2ページ記事です。
「IT化、グローバル化が叫ばれて久しいが、パソコンの世界で、主流のローマ字入力ではなく、かな入力の『親指シフト』がどっこい生き残っている。」「愛好者には、文筆業に携わる作家が多いという。愛用する道具へのこだわりを聞いた。」

写真付きで登場するのは、脚本家のジェームス三木氏(72)、作家の曽野綾子氏(76)、そして経済評論家で公認会計士の勝間和代氏(39)の3人です。記事の3/4は三木氏と曽野氏の発言です。
こうして紹介してくださることはありがたいのですが、何か「70歳を超えたお年寄りが、過去の亡霊マシンにしがみついている」といった雰囲気が感じられなくもありません。39歳の勝間氏が「若手の愛好者」ということになっています。

「こんないいものがあるのだから普及させよう」と手放しで誉めているわけではないようです。
ちょっと意味不明の部分もあります。曽野さんの話として「今は両手の人差し指だけで打ってゆく」は何を意味しているのか、「親指シフトで打つときは五本指だが、ローマ字入力のときは人差し指だけ」の意味かも知れません。また、最後に曽野さんの話が載りますが、「筆記用具は何でもいい」という話で、親指シフトの良さで締めくくる文章になっていません。

しかし、こうして週刊誌で紹介してもらえるだけでも嬉しいものです。
勝間和代さんの「年収10倍アップ勉強法」で親指シフトの良さが紹介されて以来、親指シフトへの関心が高まっていることは疑い有りません。読売ウィークリーで 取り上げられたのも、勝間さんの著作が発端だろうと推定しています。
今回記事の中で勝間さんは「親指シフトは日本語を指でしゃべるキーボード入力方法といわれています。」「親指シフトだとローマ字入力の1.7倍のスピードで入力できる。」と紹介しています。

記事では、今でも親指シフトキーボードの顧客となっている業種として、「作家など物書きのほかに、弁護士や、特許事務所、公証役場などに勤めているひとが多い」としています。
特許事務所が登場しましたね。
私も同感です。弁理士の最大の仕事は明細書の執筆であり、大量の日本語を入力しますから、親指シフトを利用するメリットが大きい職種です。
しかし、私の知る限り、親指シフトを使っている弁理士にはほとんど全く遭遇しません。その点がこの記事とは印象が異なります。

「親指シフト・キーボードを普及させる会」発起人で、作家の小森健太朗さんも登場します。この会には私も賛同していて、賛同者の末席に名を連ねていたりします。
小森さんが「腱鞘炎になった知り合いに親指シフトへの転向を勧めたら、腱鞘炎がなくなった」という経験が紹介されます。私も、自分がこの年になっても腱鞘炎にならないのは、親指シフトのお陰だろうと思っています。

三木さんが「まさか、メーカーがユーザーを見放すようなことはしないだろうと楽観していたのですが、見通しが甘かった」と話されていますが、この点も全く同感です。
富士通がDOS-Vマシンに参入してFM-Vを発売したとき、1994年頃と思いますが,私は富士通のショールームに見に行きました。説明員に「親指シフトは使えるのか」質問したところ、説明員は「変な質問をするやつだ」といった顔をし、きっぱりと「できません」と答えたのでした。何で客に対して申し訳なさそうな態度が取れないのか。私ははらわたが煮えくりかえる思いでした。

今となっては、私は人に親指シフトへの転向を勧めようとは全く思いません。自分が一生使い続けられさえすれば、他には何も望まないという心境です。
とにかく、親指シフトを使い続けようとすると、OSが変わったり様々な環境変化が起きるときに苦労が大きすぎます。自分はその苦労を楽しんでいますが、とても他人に強制できることではありませんから。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ガソリン暫定税率の行方

2008-01-18 22:22:26 | 歴史・社会
ガソリン税の暫定税率を廃止するか否かが国会で大議論になっているようです。

道路特定財源はガソリンにかかる揮発油税・地方道路税など6種類あり、年間の税収は国分が3.3兆円、地方分は2.1兆円といいます。このうち5種類では、本来の税率に上乗せした暫定税率の期限が3月末と4月末に迫っており、すべて切れると、国分で1.7兆円、地方分で0.9兆円の税収が消えます。

民主党は暫定税率を延長しないと主張し、自民党は延長すべきとしています。地方自治体は、暫定税率がなくなっただけで代わりの収入がなければ、直ちに自治体の台所を直撃しますから、悲鳴を上げています。
一体どうすべきなのでしょうか。


1年以上前でしたでしょうか、「道路特定財源の一般財源化は是か非か」という議論がありました。「道路特定財源は余っており、その全額で道路を造り続けると無駄な道路が増えるばかりだ。余った分は一般財源化すべきだ。」という議論だったと思います。

私は当時、道路特定財源が余っているのであれば、一般財源化するのではなく、ガソリン税を下げるべきだ、と考えていました。ガソリン税というのは、ガソリンを使う、つまり道路を使う人が、道路建設費を負担すべきだ、という考え方であり、あくまで受益者負担です。ガソリンを使う人のみから徴収した税金を、ガソリンを使わない人も含めた用途に用いるのはおかしいです。受益者負担で考えたら、一般財源は一般税で賄うべきであり、道路特定財源が余っているのならガソリン税を減税すべきです。

ところが、ガソリン税を下げるべき、という声は大きくありませんでした。
ガソリン使用者は、長年にわたって高い税率に馴れてきたので、そのような税金を払っても事業が成り立つような事業構造になっているのでしょう。
結局当時は、「受益者負担原則で税を徴収」するのではなく、「取りやすいところ(文句をいわないところ)から取る」という姿になっていました。

それが最近の原油価格高騰です。
音を上げたガソリン使用者は、今こそ「ガソリン税を下げてくれ」と悲鳴を上げ始めたでしょう。そして、まさに絶妙のタイミングで暫定税率の期限が到来したのでした。

「暫定税率を延長すべきか否か」という今回の議論については、「その税金で何をやるのか、その税金は誰から徴収すべきか」という原則に則って考えるべきと思います。

もし、「造るべき道路はまだ多い。暫定税率を延長してやっと財源が確保できる程度だ。」ということであれば、その財源はガソリン使用者に負担してもらいましょう。暫定税率延長です。
一方、「足りないのは道路ではなく、それ以外の一般財源だ。」ということであれば、その財源は国民が等しく負担すべきです。ガソリン使用者のみに負担させるべきではありません。暫定税率は延長せず、必要な財源は別に確保すべきです。

「別に確保」といって、どこから確保するのか。やはり有るべき姿は消費税の増税でしょうね。
「そんなのすぐにはできっこない。今年の4月から足りなくなる分をどうするのだ」という心配があるでしょう。
いやいやご心配なく。去年の暮れ、財務省で10兆円の埋蔵金が見つかったことを思い出しましょう。暫定税率の非延長で足りなくなる財源は、1年程度であればこの埋蔵金で食いつなげます。埋蔵金は国債償還に充てるでしょうが、その分国債発行額が増えるのは我慢しましょう。これら財源を用いて、当面の地方自治体の悲鳴に答え、その一方で歳出削減や消費税アップの議論を進めていかなければなりません。

ところで、「暫定税率を維持し、得られる道路特定財源のすべてを使って道路を造り続けるべきだ」ということはあるのでしょうか。
一時は「道路特定財源の一般財源化」とまでいわれたのにどうしたことでしょう。
去年の参議院選挙の結果から、「地方の疲弊」がクローズアップされました。地方を疲弊から救うには、必要ない道路を造ることで地方に金を落とすしか方策がない、ということだとしたら、ずいぶんと時代が逆行したものだとあきれてしまいます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

外交敗戦-谷内外務次官の研究

2008-01-16 21:27:01 | 歴史・社会
文藝春秋1月号はおもしろい記事が多いです。
歳川隆雄氏(「インサイドライン」編集長)による「外交敗戦-谷内外務次官の研究」も読み応えのある記事でした。

2005年1月に外務事務次官に就任し、2006年9月に安倍内閣が成立すると、安倍首相就任直後の06年10月に最初の外遊先として中国・韓国を選び、日中関係が大きく前進する成果を生みます。谷内外交の成果だと言われています

谷内氏について私が知っていた情報は、佐藤優氏経由の以下の話でした。
鈴木宗男代議士が外務省に君臨し、外務省のほとんどの幹部が鈴木氏にひれ伏した当時、谷内氏は「僕は鈴木さんに謝らないよ」との態度を堅持したそうです。確か、チェチェン問題への対応で外務省幹部と鈴木代議士の見解が対立し、最後は外務省が総崩れで鈴木氏になびいたときだったと思います。
また、谷内次官の業績を佐藤優氏が評価し、外務省から「佐藤氏による谷内次官の褒め殺しだ」との声が上がったことがありました。

谷内氏にはそのように実力も見識もあり、成果を挙げているように見えた谷内外交が「外交敗戦」と称されるようになっていると言うことでしょうか。
文藝春秋の記事を追います。

「決断力に優れ、各国との『戦略対話』を通して『アジェンダ(課題)外交』を軌道に乗せたその外交手腕は、『近年の歴代次官のなかでも、有数の大物次官』(外務省OB)との評価が高い。
 しかし、最大の懸案だったテロ特措法の期限延長を見ることなく、安倍は首相の座を自ら降りた。テロ特措法は期限が切れ、海上自衛隊の給油艦もインド洋を去った。一方で、対北朝鮮政策でも拉致問題の解決は未だ見えず、六ヶ国協議においても日本の主導権は十分には発揮されていない。そしてなにより、日本外交にとって生命線であったはずの米国との間にすきま風が吹いている。
 安倍の突然の退陣の要因として、得意としていたはずの外交、安保面での行き詰まりは大きかった。日本外交は、なぜ隘路に入り込んでしまったのか?
 その謎を、谷内正太郎という異能の外交官の姿を通じて読み解いてみたい。」

谷内氏は、外務省内の語学研修では「アメリカン・スクール」出身で条約畑を歩み、エリート中のエリートであることは明らかです。
 谷内氏の仕事ぶりを伝えるキーワードは「人遣いの荒さ」と「その能力」です。
2001年9月、9・11同時多発テロを受け、日本の対テロ政策として「新法を制定するしかない」と強硬に主張したのが、当時の谷内総合外交政策局長です。すぐさま大江博条約局条約課長を呼び、一晩で法案の草案を作成させます。そして10月29日に国会の承認を得て成立したこの法案こそが、昨年秋に期限切れとなった「テロ特措法」でした。この立法時、大江課長は傍から見てかわいそうなぐらい激務でしたが、谷内局長は絶妙のタイミングでねぎらいの言葉をかけるのです。

谷内氏の部下だった人は、「必ずしも頭脳優秀な役人とはいえない」と評します。しかし、谷内氏には学識不安を補って余りある、類い希なる胆力があったのです。

谷内次官は、自ら外交当局の事務方トップとしてリーダーシップをとり、この国をどう導くのかの大きな絵図を描こうとします。
第1:日本の外交路線を策定する上で大前提となる日米同盟の必要性を再認識させる。
第2:北方領土問題を含む、日ロ関係の打開。
 チェコ、ウクライナ、ポーランド訪問を契機として、ロシアを囲む国々との外交の幅を広げ、結果として日ロ間での次官級の戦略対話が定例化します。
第3:冷え込んでいた日中関係の打開。
 中国での反日デモが全国に飛び火すると、05年5月、谷内氏は北京へ飛びます。ここでの突っ込んだ意見交換以降、「日中総合政策対話」が開かれるようになります。

06年9月に安倍政権が誕生すると、谷内次官は安倍内閣の外交方針として四つの項目を進言します。それは「対ロシア外交」「中韓との関係改善」「集団的自衛権行使への法整備」「日本版国家安全保障会議(NSC)の設置」です。

日中関係については、06年10月に安倍首相が中国を訪問し、昨年4月には温家宝首相が訪日して日中両国首脳の相互訪問も果たされます。


「しかし、思わぬ落とし穴が待ち受けていた。それは、安倍と谷内が信じて疑わなかった米国の変心である。」
07年1月の米朝会談で、米国は北朝鮮に対して核放棄を求めるかわりに、金融制裁解除へ動き出すという衝撃的なものでした。これには、米政権内で北朝鮮強硬派が去って融和路線が台頭したこと、北朝鮮の核保有を実質的には容認するという世界戦略の転換があったこと、ブッシュの個人的な思惑、などが絡みます。
米政権内では(日本は)「拉致問題解決にとらわれすぎるあまり、柔軟性に欠ける」という北朝鮮政策への批判が強まります。
昨年9月、安倍首相とブッシュとの首脳会談の後、安倍氏はテロ特措法について記者会見で「職を賭して臨んでいく」と発言するもののその4日後に辞任を表明してしまいます。

外務省幹部は安倍政権の1年を振り返って「集団的自衛権の問題を解決できないまま終わったのだから、“谷内外交”は失敗だと思われてもしょうがない」と評価します。福田政権になって、日本版NSCも流産しました。
谷内次官は08年1月に退任して早稲田大学の教授に就任する予定で、後任次官に海老原紳註インドネシア大使を起用する案を官邸に提出していましたが、海老原嫌いの町村官房長官が反対して潰そうとしたそうです。「そのため、谷内は辞めるに辞められない状況。反谷内の西田恒夫註カナダ大使が次官になるようなことがあれば第二の“通産省四人組事件”で、外務省はバラバラになってしまうからです」(外務省担当記者)
最近の報道では、藪中氏が次期次官に内定し、谷内氏は予定通りこの1月に退任するようですね。


最近の外務省幹部にろくな人材がいない中で、谷内氏が3年間次官を務めたことは、日本外交にとって幸いだったのだろうと思います。しかし、いくら有能で余人を持って代え難くても、3年経てば交替する運命です。たった3年でできることはそう多くないのですから、そして「アメリカの変心」という外的要因が加わったのですから、これでも十分に上出来なのではないかと私は思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

文藝春秋の高橋洋一論文(3)

2008-01-14 20:03:39 | 歴史・社会
文藝春秋1月号「大増税キャンペーンに騙されるな~財務省が最も恐れる男が増税論の詐術を論破」高橋洋一(内閣参事官)
財務省と自民党与謝野馨氏らが目論む増税路線「日本銀行の愚かなプライド」に続いて、ここでは同論文中の「余り金をポケットから出せ!」「国有資産を抱えこむな」「日本の公務員の権限は世界一?」についてまとめます。

《余り金をポケットから出せ!》
例の「霞が関の埋蔵金」の話です。
かつて塩川正十郎財務相が、一般会計と特別会計を「母屋でおかゆ、離れですき焼き」と指摘しました。
各省庁が持っている特別会計は資産超過のものが多く、高橋氏が2005年に各特別会計の資産負債差額を洗い出してみたところ、全体で「46兆円のすき焼き」があることが判明しました。
なかでも、財務相の「財政融資資金特別会計」は、金利変動リスクに備えるために26兆円、「外国為替資金特別会計」は為替リスクに備えるために16兆円という巨額の積立金を抱えていました。これは要するに、その適正水準によるが、当面必要のない「余り金」とみることができ、しかも合理的な適正水準は示されず、実際はこれまでの運用益の累積になっています。
「財政タカ派」の主張は、特別会計の積立金等はそれぞれの目的があるので取り崩せない、この意味で埋蔵金はない、ということです。この主張は官僚の意見そのものであり、会社であれば、内部留保があるがその使い方を執行役員が決めているようなものです。内部留保については、その使い途は株主たる国民が決めるべきものです。

《国有資産を抱えこむな》
国有資産の売却も財政再建につながります。日本の政府資産の特色は、金融資産が多いことで、特に財政融資による特殊法人などへの貸付金が4割を占めます。金融資産250兆円のうちかなりの部分は、証券化という手法を使い時間をかければ売却できるだろうとのことです。
しかし各省庁は、天下り確保のためにそれらを手放そうとしません。

国有資産の民間活用も真剣に検討すべきとしています。

《日本の公務員の権限は世界一?》
各国政府の金融資産を比較すると、日本は300兆円以上で先進国で飛び抜けて大きく、日本政府の資産は、GDP比で見るとアメリカ政府の10倍はあります。日本の公務員の数は少なく、官僚一人当たりの権限がアメリカよりはるかに大きいのです。
小泉時代の構造改革路線では、こうした官の大きなプレゼンスをなるべく小さくし、民間でできるものは官がやってはいけないという方針を立てました。2005年に竹中大臣が「改革の本丸は郵政民営化、二の丸が政策金融改革、三の丸は政府の資産負債改革、つまり特殊法人や特別会計の整理だ」と語ったのがその流れです。


「上げ潮派」と「財政タカ派」を比べると、相対的に前者は「小さな政府」、後者は「大きな政府」です。現在は政権与党内で両者が争っていますが、野党内でも同じような対立軸があるのではないか。先頃話題になった与野党間の大連立も、この「小さな政府」対「大きな政府」という「新たな対立軸」への導入になるのであれば、一定の評価ができるだろう、というのが高橋氏の見立てです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

文藝春秋の高橋洋一論文(2)

2008-01-12 17:12:20 | 歴史・社会
文藝春秋1月号「大増税キャンペーンに騙されるな~財務省が最も恐れる男が増税論の詐術を論破」高橋洋一(内閣参事官)
財務省と自民党与謝野馨氏らが目論む増税路線については前回報告しました。
ここでは同じ論文の中の、「日本銀行の愚かなプライド」についてまとめます。

「日本の名目成長率は異常だ。2000年代のOECD(経済協力開発機構)各国では、日本だけが平均0.3%ととびぬけて低い。OECD平均は5.1%、日本の次に低いドイツでも2.0%ある。」
「政府はずっと『デフレ脱却』を目指しているが成功していない。その原因は単純で、日本銀行が資金量を絞っていることだ。・・・日本銀行の出す資金量が少ないことは数字からも明らかだ。」

日本銀行は、インフレ率0~2%がいいといいながら、実は0%を目指してきました。そこで06年3月、インフレ率がプラスになるやいなや、量的緩和政策を解除して金融引き締めに転じ、06年7月07年2月に利上げしました。その結果、今でもデフレが続いています。これは「2006年度デフレ脱却」という政府の公約、「インフレ率が安定的にプラスになるまで金融緩和を継続する」という日銀の公約を破ったことになります。

では何故日本銀行はもっと積極的にデフレ解消をしようとしないのか。
財務省の「財政原理主義」と同様、日本銀行には「反インフレ至上主義」があるといいます。そこにはマクロ経済の観点は感じられません。
仮に2%程度のインフレ率(これが世界標準)を目標とした場合、日本銀行が国債を買えばいいのです。国債を買ってそのかわりにお金を出すことで物価が上昇します。経済学を勉強していれば簡単にわかる方法です。
だが、日本銀行は財務省に対するエリートとしての矜持から、国債を買いたがりません。国債引き受けは、日本銀行の屈辱の歴史なのです。戦前の軍拡路線のため、日銀は国債を無尽蔵に引き受け、終戦後のハイパーインフレとなりました。これに懲りて、経済合理性とは関係なく、組織のDNAとして国債は買わない。
しかし日本以外の国もそのような歴史があるから、現在では、多くの国でインフレ目標政策が採用され、ハイパーインフレにならないように、しかも中央銀行に金融政策手段の独立性が確保されるようになっています。

日本銀行が「デフレを脱却する手立てがない」というのは、国債を買って財務省に屈したと見られるのはいやだというメンタリティの裏返しです。
しかし海外の学者は、まさかメンツのためにデフレ脱却ができないと思わないから、「インフレ目標を採用して日本銀行が国債を買えばいい」と指摘し、そうしない「BOJ(日銀)はステューピッド」という一致した見方をします。全ての一流学者が異口同音に日本銀行の政策は稚拙だと語っていました。

「国債を買わずに『反インフレ(事実上のデフレ容認)』という日本銀行のアイデンティティが、『増税なき財政再建』を邪魔したのだ。かたや財務省は『財政原理主義』の『増税』がアイデンティティである。二つの日本社会のスーパーパワーの、マクロ経済を無視したデフレのままで増税という自己中心主義が、今の日本の経済と財政の窮状につながっている。」

「まず、デフレ脱却できなかった日本銀行総裁の後任人事で政治が試される。デフレ脱却なのか、継続なのか、国民は賢明な判断を求めている。」


高橋氏のこのような見方を念頭に置いて、これからの財政政策を見守っていきたいと思います。

同論文中の「余り金をポケットから出せ!」「国有資産を抱えこむな」「日本の公務員の権限は世界一?」については次回に。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする