弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

陸自中心の防衛体制の見直し

2021-12-31 17:42:20 | 歴史・社会
膨らむ防衛費、自衛隊改革迫る 2021年12月31日 日経新聞
陸自中心、海空シフト米中に遅れ 海空シフト、組織の硬直が壁
『政府は国家安全保障戦略の改定に向けた検討に着手する。世界をみると米国や中国などは陸軍から海空軍などへの人員や予算のシフトが進む。日本は冷戦期の体制を引きずり硬直的な側面が目立つ。防衛予算の増額だけでなく構造改革が不可欠となる。』
『米国は10年と20年を比べると20万人規模の戦力を削った。・・・主に陸上戦力が対象になった。
陸軍は66万人から48万人に減り、全体に占める割合は42%から35%に下がった。海軍や空軍の規模は維持した。』
中国、ドイツ、ロシアも、陸軍の比率を下げています。
『日本の傾向はこれらと異なる。陸自は14万人から15万人に増えた。海自は3000人規模、空自は1万2千人規模でそれぞれ増やしているが、陸自の割合は6割でほぼ変わらない。』
陸上自衛隊の配置には冷戦期に旧ソ連を意識した名残が見えます。全国15の師団・旅団のうち4つをロシアに近い北海道に置いています。
--以上、日経記事から------------------
日本に上陸したソ連陸軍との間で、北海道を舞台にして野戦を戦おうというわけです。
現代、沖縄や九州に上陸した中国陸軍に対して、民間人が多く在住する沖縄・九州を舞台に戦車戦を展開するなど考えられません。

私は2014年、『飯柴智亮著「2020年日本から米軍はいなくなる」』を題材としたブログ記事(2014-08-31)で以下のように述べました。
東アジアにおける中国の軍事力が拡張し、以下のいずれかの事態に陥った場合には、日米同盟による日本付近の制空権の確保が難しくなり、在日米軍は日本から後退することになるだろうとしています。
「台湾が中国のものになったあと」
「中国空軍が保有するスホーイ系戦闘機が2000機を超えたあと」
「中国海軍が潜水艦発射型弾道ミサイルJL-2のような長距離高性能ミサイルを200発、実戦配備したあと」
「中国が衛星撃墜能力を持ったあと」
「2014年1月に中国が実験したマッハ10の速度をもつ超高速飛翔体WU-14のような新兵器が登場したときもハワイまで下がる。」(2022.1.20.追記)
そして、その後の日本が対中国で抑止力を確保するためには、日本独自での海空戦力で中国と戦う体制が必要としています。

そのときに必要な日本の陸上戦力については、以下の通りです。
陸上自衛隊が日本本土で中国上陸軍と対峙する事態となっているとしたら、それは、日本及び近海の制空権を中国軍に握られ、中国軍が日本本土に上陸していることを意味しています。日本の負けが確定です。「そうはさせない」との対応が、まさに対中国の抑止力になります。
『対中国は統合空海戦闘だから、陸上兵力の出番はない。もし陸上兵力が必要な状況に陥ればその時点でもう、100%勝負はついている。
Jマリーン水陸両用団は、1500名でよい。
陸自で本当に使えそうなのは、宇都宮の中央即応連隊、九州の水陸両用団の基幹連隊になる西部方面普通科連隊、習志野第1空挺団、松本の山岳レンジャーであり、あとは要らない。
日本に戦車は1台も要らない。
ストライカー(機甲車両)旅団がアメリカに3個あるので、その1個旅団分の装備を買い取るのだ。日本の国産車両より安くて性能は上だ。しかもC-130輸送機で空輸できる。
日本の陸自に必要なのは機動力と展開力だ。米軍の第160特殊作戦航空連隊ナイトストーカーズのような航空部隊が必要。さらにMV-22オスプレイ。
旅団には、CAS(近接航空支援)能力と、JTAC(統合末端攻撃統制官)が必要。1個小隊に2名ほしい。
各方面隊に沖縄を含めて6個旅団必要。オスプレイは各旅団に10機、補用2機の計12機。1個旅団で兵員が600名。
第1空挺団などを含め、全体で7200人。陸自はこれで十分。これに戦闘支援、後方支援を含めると、総兵力は5万人。

これにより、日本は中国にとって攻めがたい国になる。中国は勝てると判断するまでこない。絶えず日本が準備して、中国が勝てない国になっていれば、来ない。』

陸自の必要な総勢力は5万人である、としています。現在は、2010年時点よりも増えて15万人である、ということですか。税金の無駄遣いであるとしか言い様がないですね。防衛費を対GDP比で1%から2%に増やすか否か、との議論がありますが、総枠を増やす前に、現行の枠内で予算配分を見直さなければなりません。

日本の戦前・戦中は、陸軍省と海軍省に別れており、互いに妥協ということを知らずに張り合い、省益の確保のみを目的としていました。戦後はその反省のもと、防衛省の下に陸自・海自・空自が統括されているのですが、それでも、陸自の規模縮小は難しいのですね。
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サグラダ・ファミリアの謎

2021-12-12 19:51:46 | 趣味・読書
最近、スペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリアの話題がニュースになっていました。
「聖母マリアの塔」完成、星輝く サグラダ・ファミリア 12/9(木) 共同通信
『スペイン北東部バルセロナの観光名所サグラダ・ファミリア教会で九つ目となる聖母マリアの塔が完成し、聖母の祝日の8日、塔の先端に設置された巨大な星が初めて点灯した。
聖母マリアの塔は高さ138メートル。完成した塔の中では最も高く、同教会が完成した際には全18のうち2番目に高い塔となる。イベントには市民ら数千人が集まった。
建築家アントニ・ガウディの作品である同教会は1882年に建設が始まった。ガウディ没後100年に当たる2026年の完成を目指していたが、新型コロナウイルスの流行による観光客の減少で不可能となった。完成時期のめどは立っていない。』

私は今から14年前、2007年に家族とスペインに旅行し、バルセロナも訪問してサグラダ・ファミリアを訪れています。そのときの記録をこのブログの
サグラダ・ファミリアの謎 2007-06-02」
として記事にしました。

  図               
その当時、上の図の茶色の部分ができあがっていた部分です。東西の誕生のファサードと受難のファサードが完成形です。それぞれ主に4つの高い塔からなっており、一番高い塔の高さは120mです。下の写真は上から見たその当時の状況です。

  2007年当時
われわれが訪れたとき、教会内部(左下写真)にははるかに高い天井まで届く工事用足場が組まれ、教会外部(右下写真)には工事用クレーンが立ち並んでいました。

教会内部                     教会外部
外からの全景写真を撮り忘れていたのですが、別の箇所からの遠景写真がありました。下の写真です。

遠景写真

帰国してから、協会内のショップで購入した本を読んで、サグラダ・ファミリアの完成形を確認しようとしました。
2007年当時のサグラダ・ファミリアは、東西の誕生のファサードと受難のファサードが完成形でした。それぞれ主に4つの高い塔からなっており、一番高い塔の高さは120mです。
ところがこの教会の建設計画では、もっと凄いことになっているのです。上記最初の図で、茶色い部分が2007年当時できあがっていた部分、空色の部分が今後の建設計画です。教会の中央、東西の両ファサードの間に、高さ170mの大ドームが建設されるというのです。
本年、最初のニュースにあるように、マリアの塔が完成しました。高さ138mということです。上記最初の図で、空色の部分のうちの一番右側の塔がマリアの塔のようです。

今回完成したマリアの塔にしろ、今後建設が進められる高さ170mの大ドームにしろ、地面から塔が立ち上がるのではなく、ドームの下は教会の内部空間(空洞)なのです。どのようにしてこの大ドームを支えるのでしょうか。
ところが図面から読み取るところ、大ドームの重量の大部分は4本の石の柱で支えられています。私が持っている常識から推し量ると、このような細い4本の石の柱で、高さ170mの大ドームの重量を保持できるはずがありません。

私は、この教会の構造として鉄筋コンクリートは採用されていないと想像していました。
石でつくる構造は、圧縮には強いが引張に弱い。石柱などは、だるま落としを高くしたようなものです。簡単に崩れてしまいます。これに対し、鉄筋コンクリートとすると、引張にも強くなります。
鉄筋コンクリートの鉄筋は鉄ですから、本質的には酸化して錆びていくはずです。しかし鉄筋コンクリート中の鉄筋は錆びません。理由は、鉄筋のまわりのコンクリートがアルカリ性だからです。単純化して、ここではCa(OH)₂がアルカリ性を示すとしましょう。
一方、空気中の炭酸ガスがコンクリートの中に浸透し、コンクリート中のCa(OH)₂は徐々に炭酸化してCaCO₃に変化します。表面から炭酸化が進みます。炭酸化した部分は、もはやアルカリ性ではありません。
表面からスタートした炭酸化が内部まで進み、鉄筋部分まで達すると、その時点から鉄筋は錆び始めます。鉄は錆びると膨張し、周囲のコンクリートを破壊します。これが鉄筋コンクリートの寿命です。大体100年程度です。

サグラダ・ファミリアは着工からすでに100年以上が経過し、完成はまだまだ先です。完成しても1000年以上の寿命を想定しているはずです。そうであれば鉄筋コンクリートを採用するはずがない、というのが私の想定でした。

ところが、サグラダ・ファミリアは鉄筋コンクリートを採用しているらしいのです。本にもそう書いてあります。また、実際に工事中の部分で鉄筋が露出しているところをこの目で見ました。例えば下の写真。

 2007年訪問時の建築現場
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クラウドの世界シェア動向

2021-12-08 08:34:39 | 歴史・社会
クラウド「業界特化型」激戦 Amazonは金融・車向け 2021年12月4日  日経新聞
『企業向けクラウドコンピューティングサービスの分野で、特定の業界に特化した製品が激戦区になってきた。最大手の米アマゾン・ドット・コムは金融や自動車といった業界向けの製品を相次ぎ投入する。クラウドの競争激化を背景に大手が個別業界への対応を強めており、IT(情報技術)業界における役割分担の見直しにつながる可能性がある。』
アマゾンのクラウド事業会社である米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は従来、高性能なサーバーやデータベースなどを割安な価格で使えることを前面に押し出していました。業界や企業ごとの対応は「システムインテグレーター」などと呼ぶIT企業が担うことが多かったといいます。
それに対してこれからは、「長年にわたって注力してきた基盤となるサービスの開発に加え、業界特化型のサービスへの需要が高まっていることに対応する」との方針を示しました。
『背景にあるのはクラウドをめぐる競争の激化だ。米シナジー・リサーチ・グループによると、2021年7~9月期のインフラを主体とするクラウドの世界市場は前年同期比37%増の454億ドル(約5兆1000億円)まで拡大した。先行したAWSは首位を守っているが、米マイクロソフトや米グーグルが追い上げて差を縮めている。』
記事に載っている、クラウドの世界シェアの推移を示す図面をトレースしました。

私は12年前、このブログで「クラウドコンピューティングとは何か 2009-11-25」との記事を書きました。2009/4/23発売の「クラウド大全」という書物の内容をレビューした記事でした。
当時、クラウドの御三家は、アマゾン、グーグル、セールス・フォースでした。
クラウドという言葉を初めて使ったのは、グーグルのCEOであるエリック・シュミット氏です。「従来ユーザーの手許にあったデータサービスやアーキテクチャが、サーバー上に移ろうとしている。我々はこれを、クラウドコンピューティングと呼ぶ。(データやアーキテクチャは)“クラウド”のどこかにある。ブラウザのようなアクセスできるソフトウェアがあれば、PC、Mac、携帯電話、BlackBerryなどどのようなデバイスからでも、クラウドにアクセスできる。」
2006年、アマゾンがAmazon EC2(仮想マシンサービス)とAmazon S3(ストレージサービス)を開始しました。
2008年、アメリカのセールスフォース・ドットコムが、同社のアプリケーション基盤を使ったカスタムアプリケーションを第三者が開発できるForce.comの提供を開始しました。
同年、グーグルが第三者のWebアプリケーションをホスティングするGoogle App Engineを開始しました。

12年前の当時、マイクロソフトの名前は挙がっていませんでした。それが変化し、少なくとも2018年にはマイクロソフトが2番手にあがってきたのですね。最近の3年でマイクロソフトはさらにシェアを伸ばしています。
12年前に御三家の一角だったセールス・フォースの様子は分かりません。最近はテレビCMも行っているようなので、上位陣には残っているのでしょう。

さて、元に戻って『クラウド「業界特化型」激戦』です。
米マイクロソフトや米グーグルは、アマゾンのAWSとの違いを出すために、業界特化型に力を入れてきました。それに対して『AWSは企業が老朽化した情報システムからクラウドに移行するのを支援するサービスも拡充。例えば対応技術者の減少が社会的な課題になっている「COBOL(コボル)」で開発したプログラムを、クラウドで使えるように自動変換する製品を加える。プログラミングの知識が乏しくても機械学習を活用できるようにするサービスも発表した。』
COBOLが登場したのにはびっくりしました。
『AWSが基盤となる技術に加えて業界特化型にも注力することにより、技術力や資金力が高い米大手がIT業界をけん引する傾向が一段と強まる。マイクロソフト、グーグルを加えた「3強」のクラウドの世界シェアは7~9月期に63%に達し、3年前より約10ポイント上昇した。巨大IT企業の独占・寡占への批判が高まるなか、新たな火種になる可能性がある。
日本には有力なクラウドのインフラ企業がない。デジタル庁が行政サービスに活用するクラウドの提供企業としてAWSとグーグルを選定したが、官民ともに利用は遅れてきた。
障害などのリスクを冷静に評価して使いこなさなければ、人工知能(AI)やIT人材の活用などでさらに劣後することになりかねない。』

私が「クラウド大全」を参照して記事を書いてから12年間、日本でクラウドインフラに関する技術や事業が大幅に拡大した話を聞くことができません。もちろん、テレビ広告では奉行クラウドなど、クラウドを名乗る商品はよく耳にしますが、いずれも記事にいう「システムインテグレーター」なのでしょうね。あるいは、商品名に「クラウド」は名乗っているものの、実態としてクラウドの良さを十分に活用しているのかどうかはわれわれにはわかりません。
クラウドインフラに関して日本企業の躍進は見られず、デジタル庁が選定したクラウド提供企業も、結局はアマゾンとグーグルなのですね。クラウドインフラを提供する日本発の事業が立ち上がる気配はないのでしょうか。
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日経「官邸変化、心臓部に岸田流」

2021-12-07 08:23:07 | 歴史・社会
官邸変化、心臓部に岸田流 風見鶏 2021年12月5日 日経新聞
『岸田政権の発足後、権力装置である首相官邸はどう変わるのか。霞が関や与党の視線はここに集中するといっても過言ではない。衆院選で勝利した後、早速、変化の兆しが見え始めた。
2021年度補正予算案の柱となる経済対策づくりが官邸、省庁、与党のパワーバランスを映す試金石として関心を集めた。首相周辺はこう明かす。「岸田文雄首相へのレクは最終確認の場だった。そこでひっくり返った案件はほとんどなかった」』
『今回、政策調整を担ったのは官邸の官僚と総裁派閥である岸田派の側近だった。官僚は元経済産業事務次官の嶋田隆秘書官ら、派閥は木原誠二官房副長官だ。
「10万円給付の所得制限は960万円」「企業向け給付金は事業規模などに応じて一括支給」。財務省などの省庁は秘書官室と木原氏に列をなし、首相への説明の前さばきをうけた。
官邸の内部に目をこらすと政策調整の仕掛けに細心の注意を払った痕跡がうかがえる。
心臓部にあたる首相執務室に隣接する秘書官室。首相は菅前政権で8人に拡充した秘書官の定員をフル活用し、省庁との情報共有などチーム力を高めた。
さらに秘書官室に勤務する内閣事務官の人事だ。菅義偉首相時代に交代した職員を呼び戻した。この職員は第2次安倍政権時代から続けていたが、管氏は官房長官時代からよく知る長官室の職員を代わりにあてた。
秘書官室の内閣事務官は政務秘書官のそばに座り、首相の日程調整や来客の整理などにあたる。官邸の運営ノウハウを熟知するようになり、霞ヶ関からも一目を置かれる。』
『岸田政権は官邸と各省との距離にも腐心する。各省から派遣される内閣参事官を数日交替で首相秘書官室に入れるようにした。
参事官のチームを官邸に常駐させるのは小泉政権が導入した。』
『首相、官房長官と副長官らで構成する正副官房長官会議(仮称)は平日ほぼ毎日、開催する。要所で情報を共有し官邸一体で目標や戦略を明確にする知恵を引き継いだ。』
『首相の運営手法は2000年以降の長期政権とは異なる。官邸がこれまで集めてきた力を一部手放すやり方ともいえる。党や官僚に譲りすぎれば統治は揺らぐ。官邸主導の修正は危うさもはらむ。』

小泉政権よりも以前、日本の政治は、「官僚内閣制」と呼ばれていました。国権の最高機関たる国会が方向を定めるのではなく、実質、官僚によって牛耳られていると。そしてその官僚は、政治の方向を「国益」で判断するのではなく、自分たちの「省益」を最優先していると。
「官僚内閣制」の問題について、このブログでは2010年頃、問題意識を持っていました。
公務員制度改革の進捗 2010-01-17
原英史「官僚のレトリック」 2010-08-24
古賀茂明「日本中枢の崩壊」 2011-07-15

その後、政策立案の主体を官僚から政治が取り戻すべく、その手段として官邸の力を強める方向で対策が打たれてきました。ところが、「官邸主導」が行き過ぎ、安倍政権末期から菅政権にかけてはその弊害が目に余るものとなっていました。
このブログでは2018年頃から問題視してきました。
内閣人事局はどうなる? 2018-03-25
内閣人事局の功罪 2020-05-31
検察を官邸忖度型に 2020-06-01
安倍長期政権で霞ヶ関がガタガタ 2020-09-12
菅次期政権による霞ヶ関支配 2020-09-14
以上のブログ記事で明らかにしてきたように、安倍長期政権での管官房長官、菅政権での菅総理が、内閣人事局の権限の濫用によって霞ヶ関官僚を萎縮させ、忖度させ、日本の政治実行力を極めて毀損していることが明らかです。

このブログの記事「新総理は内閣人事局を封印すべし 2021-09-23」では以下のように述べました。
『次期総理には、次のことを提案します。
総理になったら、「内閣人事局は伝家の宝刀であると認識し、濫用は慎み、本当に必要なとき以外は、原局から上がってきた人事案を極力尊重する」と宣言するのです。
これを聞いた霞ヶ関官僚は、安心して官邸に対して政策を献策し、あるいは官邸の示した方向が正しくなければ意見をするようになるでしょう。
また、片山氏が言うような、「今の霞が関の雰囲気はこうです。国民のためではなく政権に言われたことをやる。それで失敗したら官邸のせいにして留飲を下げる。国民のためにならないのであれば、直言する気骨が失われてしまいました。」という状況から脱することができるでしょう。』

冒頭の日経記事によると、岸田政権の運用は、私が望んだ方向に進んでいるような気がします。日経の記者も、末尾で「官邸がこれまで集めてきた力を一部手放すやり方ともいえる。党や官僚に譲りすぎれば統治は揺らぐ。官邸主導の修正は危うさもはらむ。」と警告はしているものの、この変化を全体としては好感を持って報じています。

取り敢えず、岸田政権が具体的にはどのような政権運用を行っているのか、その具体的な内容について今回記事で知ることができたので、引き続き注視していきたいと思います。
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日経「ニッポンの統治 危機にすくむ⑤」

2021-12-06 08:45:06 | 歴史・社会
前回、「ニッポンの統治 危機にすくむ④」について記事にしました。今回は「危機にすくむ⑤」を取り上げます。

本末転倒の政治主導 無気力と無責任の連鎖
ニッポンの統治 危機にすくむ⑤ 2021年11月26日 日経新聞
『日本の政治主導に綻びが目立つ。細かな政策に固執し、国を揺るがす危機への判断は先送りする。
菅義偉内閣だった7月、政府が緊急事態宣言下で酒を出さないよう金融機関から飲食店への「働きかけ」を求める通知を出したのが典型例だ。
銀行が飲食店に圧力をかけるのは独占禁止法が禁じる「優越的地位の乱用」にあたりかねない。それを知りつつ発出した理由を担当の官僚に聞いた。
答えは「やらないと閣僚に怒られるから」。』
『冷戦終結やバブル崩壊後の変化に対応すべく官僚の情報を基に政治家が判断を下す政治主導の流れが生まれた。それ自体は間違った選択ではなかったはずだ。
ところが四半世紀経ち、省庁幹部の人事を内閣人事局が握っても、閣僚は国会答弁を官僚に頼りがちだ。・・・こんな政治主導の下で発言権が弱まった官僚はやる気を失い、無責任がまん延する。
国の舵取りを任されたはずの政治が思考を止め、将来ビジョンを描くはずの官僚は気概を失った。政治も官僚も動かない本末転倒な状況に日本はある。』

日経新聞記事は以上のように記しています。以下に私の意見を述べます。

私はこのブログ記事「新総理は内閣人事局を封印すべし 2021-09-23」で以下のように提案しました。
『安倍長期政権での管官房長官、菅政権での菅総理が、内閣人事局の権限の濫用によって霞ヶ関官僚を萎縮させ、忖度させ、日本の政治実行力を極めて毀損していることが明らかです。
そこで次期総理には、次のことを提案します。
総理になったら、「内閣人事局は伝家の宝刀であると認識し、濫用は慎み、本当に必要なとき以外は、原局から上がってきた人事案を極力尊重する」と宣言するのです。』

さて、岸田政権はどんな様子でしょうか。
オミクロン株出現に対応する水際対策について、政府の動きは迅速ですね。
このブログの記事「厚労省の大罪(続き) 2021-05-16」で以下のように書きました。
『インド変異株が大問題だというのに、インドからの入国者に対する水際対策が遅々たる歩みです。
先日のテレビ番組で、佐藤正久自民党外交部会長が発言していました。『外交部門から厚労省に「インドからの水際対策を強化しろ」とプッシュするたびに、厚労省は小出しで対策を打ってきた。厚労省は、エビデンスが明確になるまで対策を打とうとしない。』ということです。』
厚労省のスタンスは、今年5月段階では「危険性が不明だから何も対策を打たない」でしたが、この12月には「危険性が不明だから最悪を想定した対策を打つ」ということで、様変わりです。「何だ、やればできるではないか」とあきれてしまいます。

一方で、「国際線新規予約の一律停止を撤回、邦人帰国に配慮-国交相謝罪 2021年12月2日 Bloomberg」という問題も出ました。
『政府は、日本に到着する国際線の新規予約停止要請を撤回し、邦人の帰国需要に十分配慮するよう航空会社に通知した。松野博一官房長官が2日明らかにした。
国交省航空局の担当者は、12月は旅客需要が高い月で配慮が必要だったと説明。今回の措置は航空局が独自に判断し、斉藤国交相や官邸などへの報告は1日までしていなかったという。』
私も、内情を十分に把握しているわけではありません。もし「コロナ対策」としての対応なら、国交省単独ではなく、厚労省、あるいは政府のコロナ専門家集団と共同で政策を立案したはずです。そうではなく、国交省のそれも航空局が単独で判断したということは、単に「そうしないと国際航空便が混乱するから」というだけの理由だったのではないか、と推測します。
問題がここまで大きくなることを航空局のお役人が想定できなかった、という点が残念なところです。
しかし、菅政権時代の「役人は官邸から言われたことしかやらない」から、「必要と思うことは官邸から言われなくてもやる」に変化しているようで、私はこの変化は好ましいものと思います。
「岸田政権は官僚の言いなり」との批判もありますが、菅政権時代よりはずっとましだと思います。

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日経「ニッポンの統治 危機にすくむ④」

2021-12-05 09:44:30 | 歴史・社会
前回、「ニッポンの統治 危機にすくむ①」について記事にしました。今回は「危機にすくむ④」を取り上げます。

日本の行政、デジタル化拒む本能 使い勝手より組織優先
ニッポンの統治 危機にすくむ④ 2021年11月25日 日経新聞
『9月に発足したデジタル庁の動きが鈍い。政府内のやりとりからは電子化の推進役とはほど遠い姿勢が浮かび上がる。
「とにかく早くやってほしい」。首相官邸が行政手続きの電子化を求めても「個人情報を扱うのでいいかげんなシステムはつくれない。時間がかかる」と釈明する。政府高官が何度となく見てきた光景だ。』
『デジタル庁の民間人材も突破口になっていない。企業出身の職員が電子化を提案すると、個人情報保護法や自治体実務の慣習を盾に「複雑な業務だから無理」と返される。「技術に詳しくても行政知識で負けるので論破しにくい」とこぼす。』
『壁をつくることで自らの責任が問われるのを避けようとする日本の行政機構。』
《新型コロナウイルスワクチンの接種記録システム(VRS)》
『政府がつくった接種券番号を読み取って自動入力する端末に誤読が相次いだ。』
『VRSは急ごしらえだった。政府は2ヶ月で作れるという提案に飛びついてスタートアップと随意契約を結んだ。・・・閣僚が指示した期限に間に合わせるのが先決だった。』

日経新聞記事は以上のように記しています。以下に私の意見を述べます。

《優良なシステムを作るには時間がかかる》
菅政権時代に政府が掲げた「デジタル化」の成果を得るためには、省庁・自治体の仕事の仕方を根底から変革することが必要です。それがない限り、目的は達せられないでしょう。
そもそも現時点で、政府の仕事の大部分は“デジタル化”されています。問題は、「省庁ごとの縦割りのデジタル化」に過ぎないことです。また、「従来の紙ベース業務形態をそのままに、ただコンピュータ化したに過ぎない」ことです。このような壁を打破して今回目標とする「良好なデジタル化」を成し遂げるためには、まず、「官僚にものが言える人材」と「最新システムに精通した人材」がタッグを組むことが不可欠です。民間人材が徒手空拳で官僚に挑んだって跳ね返されるに決まっています。
また、時間も必要です。菅総理はとにかくせっかちに「早く、早く」とせき立てましたが、それでは間に合わせのシステムしかできあがりません。
このような問題は、デジタル庁が発足する前から十分に予測されていたことです。これを本当に打破できるのか、そこが、岸田政権に問われています。

《VRSで接種券番号を読み取って自動入力する端末に誤読が相次いだ問題》
このブログの「厚労省の大罪(続き) 2021-05-16」で以下のように記載しました。
『ワクチン接種の現場では、被接種者が持参したクーポン券の18桁の数字をOCRで読み取り、本人確認しています。読み取りがうまくいかない問題が多発しているようです。
なぜ、バーコードやQRコードを用いていないのか。厚労省が「クーポン券へのバーコードやQRコードの記述は任意である」と宣言してしまったので、これらを記載していないクーポン券を発行した自治体が出てしまい、後戻りができないことになった、とのことです。』
誤読が相次いだ問題の原因は、システム作りを急がせたことが原因ではなく、バーコードやQRコードを使えなくしてしまった厚労省の失態に原因があります。

今回の日経新聞の特集記事は、デジタル庁の現状を紹介しているところは評価できます。一方で、問題点の掘り下げについては不十分です。今後に期待したいです。

戻る                          続く
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日経「ニッポンの統治 危機にすくむ」①

2021-12-04 18:05:51 | 歴史・社会
11月、日経新聞で「ニッポンの統治 危機にすくむ」と題するシリーズ記事が載りました。面白い観点で問題に切り込んでいるので、備忘としてその一部をここに掲載します。一方、切り込み不足と感じられる部分もあったので、その点について私の意見も述べようと思います。まずは「危機にすくむ①」です。

国をむしばむ機能不全 コロナ下、自宅で尽きた命
ニッポンの統治 危機にすくむ① 2021年11月22日 日経新聞
『「100年に1度」と呼ばれる危機が頻発する時代に日本がすくんでいる。新型コロナウイルスとの闘いで後手に回り、経済の回復が遅れ、台湾有事のような安全保障の備えもままならない。ニッポンの統治はどこで機能不全が起きているのか。立て直せなければ国民の命が失われる。』
《コロナ自宅療養者の扱いについて》
『自民党の国会議員だった塩崎恭久氏は3月・・厚生労働省の幹部に提案した。「保健所が持つ自宅療養者の情報をかかりつけ医に伝えてオンラインで診る仕組みをつくれないか」
想定外の反応が返っていた。「行政情報は出せません。症状急変リスクはしょうがないんです」・・・
幹部は医師免許を持つ「医系技官」だった。事務を担当する官僚とは異なる職種で、国家公務員試験を受けずに入省する。およそ300人の人事はトップの医務技監が握り、閣僚や事務次官の統制が及びにくい。政府内で「ギルドのような独自組織」と呼ばれる。・・・
この医系技官に直接聞くと「法律上、本人の同意なしに感染情報は出せないと説明しただけ」。・・・「今すぐ対応を求める塩崎氏と今の仕組みで可能なことをやる私の議論はかみ合わない」と総括した。・・・
役所内の規則は目標を実現するための手段に過ぎないのに、いつの間にか規則の遵守が最大の目的に置き換わってしまう。
・・・
日本が「コロナ敗戦」と呼ばれる状況に陥った原因の一つはここにある。』
『1990年代後半から続く政治主導のかけ声の下、政策形成は官邸の一握りの集団に権限が移り、人事でも首根っこを押さえられた官僚は内向き志向を強めてきた。
政治が自ら責任を取って官僚機構を動かそうとしなければ、彼らは縦割り組織やルールの壁の内側にこもり、保身を最優先するしかない。』

日本の「コロナ敗戦」を招いた一因が、厚労省の医系技官にあるらしい、ということはよく聞きましたが、どこが悪かったのかなかなか明らかになっていませんでした。今回、日経新聞の一面で医系技官問題に切り込んだこと自体は評価できます。
ただし、切り込みは不十分でした。
役人は法律を根拠にして仕事をする集団です。法律から離れて仕事をすることはありません。
一方で、法律を成立させるのは国会ですが、日本の法律の大部分は「閣法」であり、法律を立案するのは官僚です。ですから、官僚としては、現行法に問題があるのであれば法律を改正する提案を行えば良いのです。
従って、新聞の切り込みとしては、「現在の法律の問題点を解決する政策立案を、現在の官僚、この場合は医系技官が適切に行えていない」点を浮き彫りにしていくべきです。

最近の日本の政治体制の問題は、「官僚内閣制」から「議院内閣制」に戻すべきだったのに、もっと悪い「官邸内閣制」に変わってしまったことです。内閣人事局により、「人事でも首根っこを押さえられた官僚は内向き志向を強めてきた」ことはその通りだと思うのですが、新聞にはその実態に切り込んで明らかにしてもらいたいものです。

                           続く
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