弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

中央公論 佐藤優・手嶋龍一対談

2007-03-31 19:12:13 | 歴史・社会
起訴休職外務事務官である佐藤優氏は、背任罪等に問われ、一審有罪(執行猶予)、二審も有罪となり、現在上告中です。

背任罪は何かというと、イスラエルの学者を日本に招いたり、イスラエルで開かれる学会に日本人を派遣するのに際し、その費用として、対ロ支援委員会予算を充てたことが、支援委員会の協定違反だということです。
しかし、佐藤氏が外務省に黙って予算を充てたわけではありません。外務省条約局が決済して予算が充当されました。

もしその行為が違法であるとしたら、罪に問われるのは、起案者である佐藤氏ではなく、決済した条約局の責任者であるはずです。ところが、裁判では条約局責任者の罪は一切問われず、佐藤氏のみが背任で有罪判決を受けています。

一審では東郷和彦元欧亜局長の証言はありませんでしたが、二審では証言し、「支出は外務省が組織として認めたことで、佐藤君の責任ではない」と証言しました。しかし判決は、東郷証言は証拠で裏付けられていないとして採用されませんでした。

佐藤氏の「国家の罠」によると、佐藤氏が支援委員会予算を充てようと図ったとき、条約局のノンキャリ官僚のひとりがこれに反対しました。それを聞いた鈴木宗男議員が、佐藤氏から頼まれもしないのに、条約局を怒鳴り上げたのです。その後、決済はおりました。そして条約局の上司は、催促されてもいないのに鈴木議員に詫び状を提出します。
この詫び状が、佐藤裁判では佐藤氏に不利な証拠として外務省から提出されました。

しかし、たとえ怒鳴り上げられたとしても、それに怖じ気づいて意に反する決済をしたのだとしたら、やはり決裁者が処罰されるべきです。議員に怒鳴り上げられて高級官僚が違法行為をすることが無罪だなんて、信じられません。


中央公論4月号で、佐藤優氏と手嶋龍一氏の対談で「外務省は“武装解除”される」という記事が載っています。

外国と結んだ条約の解釈については、外務省条約局が国としての解釈権限を有していると理解されています。裁判所ではありません。例えば、日本とアメリカが結んだ条約について、日本は日本の裁判所が解釈し、アメリカはアメリカの裁判所が解釈するとしたら、条約の解釈はちぐはぐとなり、破綻します。条約局のこの権限を「有権解釈権」というそうですが、佐藤裁判の高裁判決はその権限を否定しているというのです。

手嶋氏「今回の控訴審の判決で、『有権解釈権』を真っ向から否定された外務省は、今後の対外折衝で手負いになってしまいます。どんな条約や協定を結ぼうと、司法当局によっていとも簡単に覆されることが明らかになったのですから。このままでは、日本外交の“武装解除”が急速に進むでしょう。」

外務省は、佐藤氏一人が有罪になれば事足れりと考えるのではなく、自分の役割をよく見つめ直すべきでしょう。
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審査ハンドブック

2007-03-29 21:14:31 | 知的財産権
法改正に伴う特許審査基準の改訂に関し、パブリックコメントで意見した内容のうち、下記事項については反映されなかったと書きました

2.「新審査基準において、拒絶理由通知の中で請求項毎の発明の特別な技術的特徴の有無を明示するよう、定めて欲しい。」
4.「発明の特別な技術的特徴の有無の判断に対する反論をどのように展開することが適切であり、審査官はその反論に対してアクションの中でどのように対応するのか、という点について、新審査基準のの中に明記して欲しい。」

ところが、本日、特許・実用新案 審査ハンドブックの改訂が発表になっていました。その中の
63 拒絶理由通知
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/handbook_shinsa/63.pdf
において、63.09に「第17条の2第4項の規定が適用される出願についての起案の留意点」というセクションが新設され、そこに記載されていました。

--引用開始--
1.「第Ⅰ部第2章 発明の単一性の要件」の4.2に従って審査対象を決定した場合
 特許請求の範囲の最初に記載された発明が特別な技術的特徴を有しておらず、「第Ⅰ部第2章 発明の単一性の要件」4.2の[審査対象の決定手順]に従って審査対象を決定した場合には、最初の拒絶理由通知の起案において、特別な技術的特徴が発見されたか否かに応じて、以下のとおり発明を特定して補正の示唆を行う。

(1)[審査対象の決定手順]①~③により、特別な技術的特徴が発見された場合
 最初の拒絶理由通知において、特別な技術的特徴を最初に発見した請求項に係る発明を示して補正の示唆を行う。
[記載例]<補正の示唆>
 請求項4に係る発明が特別な技術的特徴を有しているため、特許請求の範囲を補正する際には、特許法第17条の2第4項の要件違反とならないよう、当該請求項4に係る発明の発明特定事項をすべて含む発明への補正を検討されたい。

(2)[審査対象の決定手順]①~③により、特別な技術的特徴が発見されなかった場合
 最初の拒絶理由通知において、特別な技術的特徴の有無を最後に判断した請求項に係る発明を示して補正の示唆を行う。
[記載例]<補正の示唆>
 請求項4に係る発明が特別な技術的特徴を有していないため、特許請求の範囲を補正する際には、特許法第17条の2第4項の要件違反とならないよう、当該請求項4に係る発明の発明特定事項をすべて含み、かつ特別な技術的特徴を有する発明への補正を検討されたい。
--引用終わり--

少なくとも、拒絶理由通知を発した審査官が、補正前のどの請求項に特別な技術的特徴を見いだしたのかが、拒絶理由通知でわかるようになるということです。

審査官のその判定に従うのであればその補正の示唆に基づいて補正することになります。
その判定に納得しない場合はどうするか、
① 自分の考えに従って補正を行い、意見書に自分の考えを開陳する。
② 審査官の考えに従って補正を行う。必要があれば分割出願で、特別な技術的特徴が認められなかった請求項を減縮する発明の権利化を図る。
のいずれかになりますね。
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特別な技術的特徴

2007-03-27 21:55:53 | 知的財産権
4月からの出願ではシフト補正が禁止されるため、どのようなクレーム立てにすべきか、事務所内でも議論しています。(特技特=特別な技術的特徴)

例の
「請求項1:A
請求項2:A+B
明細書中に「Aは好ましくはA’、より好ましくはA”」と記載されています。
請求項1、2ともに審査され、請求項1に特技特がないと判断されたとき、請求項1のAをA’、あるいはA”に訂正する補正は認められません。」

という命題について。

そもそも、Aに特技特が認められないのに、A’に補正したくなる場合とはどのような場合でしょうか。

「発明Aは引例1に記載の発明と同一であり、新規性がないとされた。新規性がないからには特技特も有しないだろう。しかし、AをA’に減縮すれば、引例1との関係で新規性はおろか進歩性も具備すると信じる。」
という場合ですよね。

ここで疑問が生じます。
「そもそも、AをA’に減縮補正することにより、引例1に対して進歩性が認められるぐらいなら、A’を包含する発明Aは、引例1との関係で特技特を有しているのではないか。」

例えば以下のような場合です。
本願発明は、組成物Xであって、成分Aを5~15%含有し、効果αを奏します。成分Aは6~10%であればより好ましい効果を奏します。
引例1に記載の発明は、同じく組成物Xであって、成分Aを含有し、効果βを奏します。効果αについては記載されていません。実施例にはA=12%のデータが載っており、この点で本願発明と重複するので、「新規性なし」との拒絶理由が出ます。

成分Aの範囲を5~15%から5~10%に減縮すれば、同一ではなくなり、かつ進歩性も生じるというわけです。

このような場合、補正前の成分A:5~15%のクレームでも、引例1との関係で、特別な技術的特徴を保持しているのではないか。

 発明の単一性の審査基準には、先行技術と特別な技術的特徴との関係について、以下のように述べています。
「『特別な技術的特徴』としたものが発明の先行技術に対する貢献をもたらすものでないことが明らかとなった場合には、ほかに同一の又は対応する特別な技術的特徴が存在しない限り、事後的に発明の単一性の要件を満たさなくなる。」
この記載ぶりから類推すると、「引例と同一であって新規性がないからといって、直ちに特技特が存在しない、ということではないかもしれない。本願発明は、効果αの点で、先行技術に対する貢献をもたらしている。」と思われてきます。


そのように考えると、「将来の審査において、請求項1のAをA’に補正したいと思うような場合が生じるのであれば、そのときは多分Aは特技特を失っていないであろうから、請求項1をA’に補正することが許されるに相違ない」として、出願時のクレーム立ては従来通り、
請求項1:A
請求項2:A+B
でいいのかもしれません。

皆さんはどのようなご意見でしょうか。
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新審査基準発表

2007-03-25 18:23:37 | 知的財産権
この4月から施行される改正特許法に関する改訂審査基準が発表になりました

1月に審査基準案が発表になり、パブリックコメントが求められていました。私はこのパプコメに意見を送っていたのですが、結果はどうだったでしょうか。

1.意見の第1は、請求項1に係る発明が特別な技術的特徴を有していなかった場合の補正範囲についてです。
ところで、「特別な技術的特徴」は言いづらいですね。略称ができないでしょうか。「特技特」「特特」「STF」いずれになるのでしょうね。STF(Special Technical Featureの略でしょうか)は、弁理士会特許委員会の研究発表会で使っていました。ここでは特技特を使います。

請求項1:A
請求項2:A+B
明細書中に「Aは好ましくはA’、より好ましくはA”」と記載されています。

請求項1、2ともに審査され、請求項1に特技特がないと判断されたとき、請求項1のAをA’、あるいはA”に訂正する補正は認められません。

「これでは不便ではないか」ということでパブコメで意見を出したのですが、確定版審査基準ではこの意見は採用されていませんでした。

3.「発明の特別な技術的特徴」の意味について、審査基準でより明確にして欲しい、との意見を出しました。

この意見は採用されたようです。
「発明の単一性の要件」審査基準の3ページ3~10行に、後発的に特技特を満たさなくなる場合が、①~③として明示されました。

2.「新審査基準において、拒絶理由通知の中で請求項毎の発明の特別な技術的特徴の有無を明示するよう、定めて欲しい。」
4.「発明の特別な技術的特徴の有無の判断に対する反論をどのように展開することが適切であり、審査官はその反論に対してアクションの中でどのように対応するのか、という点について、新審査基準のの中に明記して欲しい。」
これらの意見は無視されたようです。


さて、1.に戻りましょう。
《今まで》
請求項1:A
請求項2:A+B
明細書中に「Aは好ましくはA’、より好ましくはA”」
と記載していました。

《これから》は、
請求項1:A
請求項2:A’
請求項3:A”
請求項4:請求項1~3にさらにBを加える
とすべきなのでしょうか。

「当初請求項1のAを補正でA’に訂正できるか」という点は、「発明Aが特技特を有しているか否か」によって変わります。たとえAに進歩性がないとされ、その判断に承服するとしても、Aが特技特を有していれば、請求項1をA’に補正することが可能となります。
今回の発明の単一性の要件についての審査基準によると、以下の①~③の場合に特技特がないと判断されます。
①「特別な技術的特徴」とされたものが先行技術の中に発見された場合
②「特別な技術的特徴」とされたものが一の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合
③「特別な技術的特徴」とされたものが一の先行技術に対する単なる設計変更であった場合

従って、発明Aに進歩性がないおそれがあるとしても、①~③に該当しないだろうと推定できるのであれば、出願時請求項2にA’をクレームアップしなくても大丈夫ということになります。

出願時に、発明Aが「ダメもと」のクレームだと考えるのなら、「少なくとも進歩性は有するだろう」と思われるA’、あるいはさらにA”を当初からクレームアップしておくべきである、という方針になろうかと思います。


ところで、先日3月23日に、東商ホールで開かれた弁理士会の「特許委員会公開フォーラム」に参加してきました。
テーマ:1.改正特許法(いわゆるシフト補正禁止と分割出願制度改正)
の最後に私から質問し、上記
「請求項1:A
請求項2:A+B
明細書中に「Aは好ましくはA’、より好ましくはA”」と記載されています。
請求項1、2ともに審査され、いずれも特技特がないと判断されたとき、請求項1のAをA’、あるいはA”に訂正する補正は認められません。」
について確認した上で、「これでは不便ではないでしょうか」とコメントしました。

回答に立った方は「不便といわれても・・・」とおっしゃっていましたが・・・

フォーラムでの説明によると、今回の審査基準作成に際しては、弁理士会が当初から特許庁に意見を進言していたというのです。そのようないきさつを考慮すると、「不便といわれても」といわれても・・・、とこちらが思ってしまいました。
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手嶋龍一「外交敗戦」

2007-03-24 17:19:08 | 趣味・読書
手嶋龍一著「外交敗戦」(新潮文庫)
外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)
手嶋 龍一
新潮社

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先日ここで紹介した手嶋龍一佐藤優著「インテリジェンス 武器なき戦争」で手嶋龍一氏のことをはじめて知りました。
「外交敗戦」は、1990年から91年にかけての湾岸戦争において、日本という国が世界からどう評価(酷評)されたのか、その酷評の原因はなっだったのか、をたどったドキュメンタリーです。

私も当時、日本が膨大な資金的貢献をしたにもかかわらず、それが国際社会から正当に評価されていないらしい、というのは聞いていました。
戦後にクウェートが各国に対する感謝の新聞広告を出したときに、その中に日本が含まれていないという屈辱をも味わうことになります。
しかし、これほどまでに侮蔑されていたとは知りませんでした。
「日本は特別な批判を受けてしかるべきだ。そのもてる財力を思えば、不承不承、仕方なく財布を開いたと言えないか。だが問題なのは、日本が約束した金額そのものではない。日本に拠出を呑ませるためにわれわれはどれほど大変な思いをしたことか。ようやく金を出すことになったと思ったら、もったいぶってなかなか渡そうとしない。渡されてみると、当初約束したドルベースの金額よりも円建ての金は随分と少ないものだった。おまけに使い道を制限するヒモまでついている。」
米下院軍事委員長アスピンの議会での発言です。
日本は合計で130億ドル近くを拠出し、その財源として国民は増税まで受け入れました。それなのになぜ、このような蔑みを受けなければならなかったのでしょうか。

湾岸戦争当時、日本政府の体制は、
海部俊樹総理大臣、橋本龍太郎大蔵大臣、中山外務大臣、栗山尚一外務次官です。
米国はブッシュ(父)大統領、ベーカー国務長官、ブレイディ財務長官です。

湾岸戦争は、1990年8月2日にフセイン率いるイラクが突然クウェートに侵攻したことから始まります。米国を中心とする多国籍軍がサウジアラビアに集結し、1991年1月17日に空爆開始、2月25日に地上戦開始、2月27日にクウェート市を開放、3月3日には暫定停戦協定が結ばれ戦争が終結しました。

クウェートを占領したイラクは、南のサウジアラビアに侵攻する気配を見せます。この動きを阻止するため、サウジアラビアは自国へのキリスト教国軍隊の進駐を認め、米国は大輸送作戦を展開してサウジアラビアに軍隊を送ります。この時点でイラクがサウジアラビアに侵攻したら、米国も止めることはできなかったでしょう。

《海上輸送支援》
8月14日、ブッシュ大統領から海部総理に直接電話がかかってきます。日本に掃海艇や給油艦の派遣を求めます。海部総理が憲法や国会の困難を理由に抵抗すると、それなら後方支援を頼みたいとブッシュは強く求めました。
その後、海部から石原官房副長官へ、石原から運輸省林事務次官へと話がおりるにしたがって、自分にとって不都合な要素が抜き取られ、「とにかくペルシャ湾に日の丸を揚げた船が浮かんでいればいい」と矮小化されてしまいます。
ところが実は米国は、物資を満載したトラックなどを輸送できるロール・オン・ロール・オフ船の派遣を希望しており、このことは外務省にも伝わっていたのです。外務省は米国発のこの公電を、運輸省に隠していたのです。

外務省はどうしていたのでしょうか。危機勃発以来、外務省では幹部職員が集められて早朝から深夜まで続く会議が行われていました。外務省職員はこれを、栗山次官を頂く「御前会議」と称していました。とにかく皆を集めておかないと不安でならない。延々と続く会議で何も決まりません。
外務省は、危機に際して有効な施策を打ち出すことができず、このため「異質国家ニッポンは危機を前になにもしようとしない」という国際的非難を浴びることとなります。
在日米国大使館は、日本外務省を「オダワラ・カンフェレンス」小田原評定と呼びました。

《人的支援》
海部総理と栗山外務次官はともに、自衛隊が外に出て行くことを嫌い、自衛隊を必要悪と捉えているところがあります。このことが、日本の政策決定に影響を及ぼします。日本の人的支援について、海部総理はせいぜい「平和協力隊」程度のことを考え、法案作成が進みます。

ところが9月29日、ニューヨークでの日米首脳会談で海部総理がブッシュ大統領から自衛隊による多国籍軍の輸送や後方支援などを要求されます。ブッシュは苛立ちを隠さず、日本側の同席者はその対応の冷ややかさにぞっとします。
すると会談の後、海部総理が豹変します。そして栗山次官の思惑を無視し、自衛隊員が自衛隊員の資格で参加する「国連平和協力法案」が作成されることになります。しかし外務省が作成した付け焼き刃の法案は国会審議に耐えられず、法案は廃案となり、日本からの人的支援は実現しませんでした。

《多国籍軍への日本からの戦費の拠出》
日本は、90年8月下旬に10億ドル、9月に30億ドル、91年3月に90億ドル、7月に5億ドルを拠出しています。ところがそのいずれの場面でも、日本側はもたつき、米国をいらだたせて世界から蔑まれる原因となりました。

8月29日、大蔵大臣が既に10億ドルを決断しているにもかかわらず、政府の第一次中東支援策が発表される時点で、大蔵省は拠出金額の公表を許しません。海部首相は金額の入っていない支援策を発表せざるを得ず、後から金額を公表することになりました。これで日本のイメージがどれだけ損なわれたことか。

9月7日、ブレイディ財務長官が日本を訪れ、追加の拠出30億ドルを要求しますが、橋本蔵相は即答でOKしません。日本政府からの正式回答が送られず、いらだった米国は30億ドルを突きつけたことをマスコミにリークします。9月14日にやっと30億ドルを決定しますが、日本が渋々応じたという印象は否めません。

1月20日、渡米した橋本蔵相がブレイディ財務長官と会談します。このとき90億ドルの拠出を求められた橋本蔵相は、何の躊躇もなくその金額を受け入れます。
ところがその後に迷走が待ち受けています。
橋本-ブレイディ会談に際し、日本大蔵省は在米日本大使の同席を許しませんでした。そして会談では、90億ドルがドル建てか円建てか、90億ドルを米国のみが受けるのかその他の国も受けるのか、話しあわれませんでした。そして会談終了後、3月の拠出前にドル高となるのです。
日本は会談時の為替レートで円建てでかつ米国以外にも配布されると解釈し、米国政府は90億ドルきっちりと米国に支払われると解釈し、それぞれ議会で明確にしてしまいます。このとき日本政府は一枚岩になれず、外務省と大蔵省がたがいにいがみあうばかりで、二元外交の弊害が一気に表面化します。

そして拠出金の使い途です。当初日本政府は、拠出金の使い途に制限を加えないつもりでした。ところが補正予算でキャスティングボートを握る公明党が、武器弾薬購入を除く分野に限定すべきと言いだし、政府もこの方向に傾斜します。そして米国政府に頼み込むのです。拠出した金員は全体でプールされるので、だれからの紙幣がどこに使われたか、などと考えることは土台無意味です。しかし米国はなんとかつじつま合わせのコメントをしてくれました。
そしてこのときに、前述の米下院軍事委員長アスピンの議会での発言があったのです。


日本政府が一丸となって荒波を乗りきるべきとき、外務省と大蔵省はそれぞれ情報を自分の中に抱え込み、主導権争いに暗闘し、政府の判断がすべて後手後手に回りました。不都合が生じると、いずれも相手の省が悪いと悪口の言い合いです。ときの海部総理はもともと竹下派の傀儡のような位置づけであり、リーダーシップがとれなかったことも災いしました。


湾岸戦争でのこの経験がトラウマとなったのか、イラク戦争で日本は米国の言いなりでした。本来であれば、湾岸戦争でこそ真っ先に日本は対イラクの運動に貢献すべきであり、イラク戦争では米国を押しとどめる役割を果たすべきでした。


著者の手嶋龍一氏は、こうして湾岸戦争時の真実を究明し、出版してくれました。
日本では、過去の事象を掘り起こして正確に記録しようとする意欲が希薄です。旧ソ連の情報公開と日本でもそれを述べました。また、東海村JCOでの臨界事故 を究明した七沢潔著「東海村臨界事故への道」にしても、私には待ち望まれたルポでしたが、出版は皆から歓迎されたわけではなかったようです。
記録を残さないで責任を曖昧にするというこの傾向は、なんとかして変えていかなければなりません。
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弁理士(試験)制度の方向(3)

2007-03-22 22:53:52 | 弁理士
技術者Aさんの「良く見渡せば、実務能力または法律能力に欠けた弁理士はちょくちょく見かけます。」という問題提起について。

この問題は、試験合格に何を求めるかという①試験制度と、弁理士登録に必須とする②新人研修と、既存の弁理士に必修とする③登録後研修をどうするかという問題と捉えました。

実務能力のうち、技術知識については、まず弁理士受験資格に理系学部卒業か技術系選択科目合格を必須とするかどうかです。必須とするという意見もあり、弁理士の情報開示さえしっかりすれば必須としなくて良いという意見が拮抗しています。
弁理士会が実施する研修で技術知識が身につくことはあり得ませんので、この選択肢は最初から考えません。
技術者Aさんは、研究経験や論文作成経験が多い人に弁理士になって欲しい、従ってそのような人が受かりやすい弁理士試験であって欲しい、というご意見ですね。しかしこのような方向を試験制度によって担保することはやはり困難でしょう。受験資格を理系出身者と理系選択科目受験者に限るとしても、最低限のレベルを担保できるに過ぎず、技術レベルの優秀な人を優先することにはなりません。
技術者Aさんがおっしゃるように弁理士試験をより一層易しくしたからといって、技術レベルの高い人が集まってくるものでもないでしょう。むしろ、弁理士の最低レベルが低下すると、特許事務などの専権を有している意味がなくなります。

技術知識以外の実務能力、例えば明細書作成能力について、現在の試験制度はこのような実務能力を担保する試験ではありませんし、今のところ、「このような試験を行うとよい」というアイデアも持っていません。また、このような実務能力について、私は短時間の座学研修で身につくものではない、という意見の持ち主です。結局はOJTで身につけるしかなく、利用者にとってこのような実務能力を有する弁理士を選別することはとても困難だとは思いますが、とにかく「使ってみて駄目だったら他の弁理士に変える」としていただくことでしょうか。

法律能力に欠けた弁理士について
この問題は、弁理士試験合格直後から能力に欠けた弁理士の問題と、試験合格後年数が経って能力が摩耗した弁理士の問題に分けて考えます。

合格直後の能力について、特許法の審査、審判、審決取消訴訟単独代理、侵害訴訟の共同代理に関しては今まで述べたとおりです。

合格後に知識が摩耗する点については、人間ですから当然に知識は摩耗します。私は2003~2004年に民法民訴法の勉強をずいぶんしましたが、それっきり使う機会がなかったこともあり、最近はほとんど忘却の彼方です。
知識を維持するためには基本的には各自が研鑽するしかありません。弁理士法の改正により、5年間に70時間程度の研修が義務づけられるようになりそうです。この義務研修でどれだけ能力維持が図れるのか。どのような研修が行われるかにもよりますが。

以上、特許法の権利取得と侵害訴訟共同代理のみについて述べました。

商標法については、商標法について試験を受けることによって商標弁理士資格を取得します。受験資格は、初級特許弁理士、司法書士、行政書士に門戸を開放したらよろしいと思います。
例えば行政書士に門戸を開放するといっても、受験資格を与えるというだけです。合格した暁に行政書士として商標を扱うわけではありません。あくまで経産省が主管する商標弁理士であり、弁理士会に登録してはじめて弁理士と名乗ることができます。

最後に
工業所有権4法以外の著作権法、不正競争防止法、関税定率法関連業務、
これら法律に関する契約等の代理、相談
についてです。

工業所有権4法以外の著作権法、不正競争防止法、関税定率法関連業務については、実際に各弁理士が業務依頼を受ける可能性がどのくらいあるのでしょうか。私はこのような業務依頼を受けたことがないし受ける予定もありません。弁理士業務範囲をこのような業務範囲まで広げた結果として、弁理士試験の範囲が広がりました。むしろそれによって大事な特許法の勉強がおろそかになることを心配しています。なぜかというと、合格人数が決まれば合格までの必要合計時間数が決まり、試験範囲が広いということは各科目毎の必要勉強時間が短くなると思っているからです。
私は、弁理士業務範囲を広げるために弁理士試験に著作権法まで入れてしまったのは、得策ではなかったと思っています。

契約等の代理について
これこそ民法の知識を必要とする分野ですね。私自身はこのような業務範囲を弁理士業務範囲に入れてもらわなくても困りませんでした。これが入っているために、初級弁理士試験の中に憲法・民法を入れるべきだ、ということになるのだとしたら、返上してもよろしいと思っています。

技術者Aさんがおっしゃる英語能力についてはどうでしょうか。
弁理士試験の必須科目とするのではなく、やはり弁理士に関する公開情報に基づいて依頼者が選択するということでよろしいのではないでしょうか。
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弁理士(試験)制度の方向(2)

2007-03-20 20:23:02 | 弁理士
前回の議論で、特許法のみの審査・審判代理権限を有する初級弁理士と、審決取消訴訟代理権限を有する上級弁理士と、商標法を扱える商標弁理士とに分けることを提案しました。

初級弁理士が特許法の審判までの権限を有するとしたら、初級弁理士試験はどのような試験であるべきでしょうか。
私は、合格までの必要勉強時間が1500~2000時間で、商標法の勉強をしなくても良いのであれば、審判までの権限を与えてよろしいかと思っています。
民法・民訴法基礎という試験科目はありませんが、前回も書いたように、私が弁理士試験受験勉強をしていた頃は、吉藤著「特許法概説」をそれこそ穴の開くほど読み返しました。特許法は民法の特則であり、民訴法の特則的色彩もありますから、特許法の勉強を通じて何となくリーガルマインドが身についたような気がしています。審判までであればこの程度のリーガルマインドでよろしいのではないかと思っています。

初級弁理士資格取得のために、理系の学部卒あるいは論文試験で理系の科目選択を必須とすべきかどうか。
去年の3月、弁理士会が出した弁理士法改正の方向に関する声明では、弁理士を「技術と法律の専門家」であるとうたっていました。技術の専門家をうたうのであれば、上記条件は必須ということになります。
一方、今回の弁理士法改正で弁理士の得意分野などについて情報公開が必須となりました。公開情報の中に出身学部や選択試験選択科目を公開することとすれば、依頼者がその情報に基づいて弁理士を選ぶことができます。従って、参入障壁を設けなくても、利用者が選択できれば良いではないか、という意見も納得できます。

次に、審決取消訴訟代理権限を有する上級弁理士はどのような試験を課すべきでしょうか。
ひとつの可能性として、現在の特定侵害訴訟代理の付記研修制度があります。民法民訴法基礎を習得していることを前提に、45時間の座学研修を受け、試験に合格することを要求されます。
私は2003年に青山学院大学で民法民訴法基礎の講習を受講し、2004年に付記研修を受けて試験に合格しました。このとき、民法民訴法については随分勉強しました。
しかし現在の能力担保研修制度では、民法民訴法基礎講義の受講を必須とはしていないので、合格者が皆民法民訴法基礎の素養を有しているかどうかは不明です。若干の試験制度改定が必要かとは思います。
私の実感としては、民法民訴法基礎の習得さえ担保されれば、特定侵害訴訟代理能力担保研修及び試験をもって、審決取消訴訟の単独代理権を有する上級弁理士資格を付与してよろしいと思います。

技術者Aさんは、民法民訴法も「基礎」ではなくきちんと習得すべきとのお考えでしょうか。また、憲法も必須とするお考えですね。
米国の制度では、理系出身者は簡単な試験でパテントエージェント資格が取得できます。パテントアットーニーを名乗るためには、パテントエージェント資格を有するとともに、ロースクールを卒業して弁護士試験に合格する必要があります。まずはこの米国制度を導入するという選択肢があります。
しかし現在の日本の法科大学院の実情では、新司法試験に合格するためには膨大な時間の勉強を要求されます。とても弁理士の実務をやりながら夜学で卒業し試験合格できるレベルではありません。審決取消訴訟代理権限のためにそこまで要求するのは、むしろ弁理士が最も必要とする実務能力(明細書作成能力のような)を研鑽する時間を奪うものであり、トータルとしては国民の損失であると思います。
新司法試験合格まで要求しないとして、憲法、民法、民訴法については司法試験合格者並みのレベルが必要でしょうか。私はそこまで必要であるとの実感を持っていません。

技術者Aさんの「憲法は弁理士試験に必要か。弁理士がリーガルを名乗るのであれば、必要だと思います。」とのご意見についてです。
「リーガルを名乗る」の意味がよくわからないのですが、弁護士と同格である、などの意識は持っていません。特定侵害訴訟については弁護士と共同代理できる権限しか有していませんし、実は私はそれでいいと思っているのです。
審決取消訴訟の単独代理権を有しているといっても、必要最低限の民法民訴法知識を有しているのみであって、それでリーガルが名乗れるかどうか私にはわかりません。

残りの問題は次回に譲ります。
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弁理士(試験)制度の方向

2007-03-18 18:42:39 | 弁理士
この一年間、このブログでも弁理士制度(弁理士試験制度)がいかにあるべきかについていろいろと発言してきました。

昨年の3月、弁理士会が弁理士法改正の方向性という声明を出し、これについてこのブログで取り上げました(弁理士会声明・弁理士法改正の方向弁理士試験制度の方向弁理士試験制度の方向(2)弁理士試験制度の何が問題か実務能力評価試験は可能か)。

また、昨年4月以降に産業構造審議会の弁理士制度小委員会が開かれ、第1回小委員会で弁理士会は上記声明に沿って意見を陳述しました。第1回小委員会の議論内容について、弁理士試験制度弁理士試験制度(2)弁理士試験制度(3)で記事にしました。第2回小委員会については、第2回弁理士制度小委員会第2回弁理士制度小委員会(2)第2回弁理士制度小委員会(3)で議論しました。

弁理士試験制度の最近の変化に伴って、合格者の性向がどのように変化したかについて、所長Hさんのブログ記事をもとに弁理士の変貌としてこのブログで取り上げました。

以上をベースにしつつ、技術者Aさんからの問題提起をもとに私の意見を再整理してみます。

私は平成7年合格で、合格に到までの勉強の大変さを身にしみて知っています。受験期間中は実務をおろそかにすることが必然で、そうしなければ合格はおぼつきません。3000~5000時間の勉強時間を必要としました。それだけ時間をかけて勉強した成果が、実務能力の向上に直接は結びつかないという悲しさも味わいました。弁理士試験は法律の素養を問う試験であって実務能力を問う試験ではありませんから、当然のことではあります。
この経験から、私は「弁理士試験は1500~2000時間程度で合格できるようにすべきであり、受験勉強時間が減った分だけ実務能力向上の研鑽を積むべきである」と思っていました。必要勉強時間を減らす手だてとしては、毎年の合格者人数枠を増やす以外になく、その意味では最近の合格者数の増大は歓迎しているところです。

必要勉強時間が減るということは、当然ながら合格者の知識量ボーダーは低下するということです。
弁理士の大部分は工業所有権法のうちの特許法を専門とします。合計勉強時間が減ったことによって特許法の知識が乏しくなることは、ぜひとも避けなければなりません。そこで私の意見は、「弁理士試験から商標法を削除し、弁理士専権から商標法を外すべきである。」というものです。この制度の弁理士を特許弁理士と呼びましょう。これにより、トータル勉強時間が減っても特許法の勉強時間を確保し、特許法については十分な知識を得た特許弁理士となることができます。
商標法については、特許弁理士試験とは別に試験を設け、この試験に合格すれば商標弁理士となれます。商標弁理士試験の受験資格としては、特許弁理士の他、司法書士や行政書士に開放します。

それにしても、勉強時間が減ったことによって、現在の弁理士がカバーするすべての分野について権限を持たせるだけの実力があるのだろうか、という問題を考えます。
弁理士の業務分野を以下のように分類します。
工業所有権4法の審査、審判、審決取消訴訟、侵害訴訟
上記4法以外の著作権法、不正競争防止法、関税定率法関連業務、
これら法律に関する契約等の代理、相談

技術者Aさんのご意見は、「弁理士(初級弁理士)の業務を特許法の審査までとし、それ以外の業務は上級弁理士の業務とすべきではないか。初級弁理士は理系大学卒を条件とし、現在の短答式試験程度で合格とする。上級弁理士は憲法、民法、民訴法を含めた試験合格者とする。」というものですね。

私は、審判を初級弁理士の業務権限から外すのは反対です。特に最近は、いとも簡単に拒絶査定が出されるので、査定不服審判は日業業務です。初級弁理士が査定不服審判を代理できないとなると仕事になりません。
ということで、初級弁理士の試験を技術者Aさんがおっしゃるほどには易化せず、少なくとも審判までは権限を持たせるべきと思います。

審決取消訴訟の代理権限については、私も初級弁理士の権限から外した方がよかろうかと思っています。民法民訴法基礎の知識を身につけていないと、最低限の訴訟活動にも支障をきたすでしょう。今でも、特に査定系の審決取消訴訟で、代理人弁理士の資質が常に問われています。
私が弁理士試験受験勉強をしていた頃は、吉藤著「特許法概説」をそれこそ穴の開くほど読み返しました。特許法は民法の特則であり、民訴法の特則的色彩もありますから、特許法の勉強を通じて何となくリーガルマインドが身についたような気がしています。最近の少ない受験勉強時間でどこまでリーガルマインドが身についているだろうかということです。

それでは、審判までの業務権限を持たせるために初級弁理士試験をどのような試験にするのか、上級弁理士受験資格及び試験内容をどのようにしたらいいのか、という点ですが、長くなったので次回に改めます。
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人生の鉄則

2007-03-17 09:28:03 | Weblog
日経の私の履歴書、ひとつ前はダイキン工業会長の井上礼之さんでした。氏がダイキンの総務課長時代(淀川製作所だったか)、労働組合との困難な交渉を繰り返す中でひとつの境地に達します。
「うそはつかない、約束したことは守る、守れない約束はしない」

3月15日日経夕刊「さらりーまん生態学」で、江波戸哲夫氏がこの記事に関して書いておられます。江波戸氏は、以前同じ欄(私の履歴書のこと?)に同じ言葉を見たのを思い出したのです。インターフェロンで知られる「林原」の林原健氏が、大正製薬の大塚正士氏から「商売はそんなに難しくない、ただし約束だけは守れ。できない約束はするな、これさえ守れば何とかやっていける」と教えられたということでした。

実は私も、最近同じことで驚いたのです。
私の場合は、井上氏の「私の履歴書」を読んだ後、手嶋龍一氏と佐藤優氏の対談「インテリジェンス 武器なき戦争」を読んでいるときです。
その本のまえがきで佐藤優氏が手嶋龍一氏を紹介します。
「私は当時から手嶋さんを尊敬していた。なぜなら、手嶋さんは『約束をしたことは必ず守る』『できないことを軽々に約束しない』というインテリジェンスの鉄則を遵守する人だからだ。」

そうなんですね。井上さんの人事・経営の鉄則も、大塚さんの商売の鉄則も、佐藤さんのインテリジェンスの鉄則も、すべて同じだったということです。

今まではそれほど意識していなかったこの鉄則、これからは肝に銘じることにします。
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分割出願と国内優先出願

2007-03-15 22:08:33 | 知的財産権
緊急で特許の分割出願を行うことになりました。出願期限は翌日です。
親出願は国内優先権主張出願です。
出願人から依頼書がファックスで届きます。分割出願の親出願番号は記載されていますが、国内優先権の先の出願番号が記載されていません。そこで出願人に連絡し、願書に国内優先権の表示を入れる旨伝えました。
程なくして出願人の特許担当の方から電話が入ります。
「特許法44条4項では、『41条4項の規定により提出しなければならないものは、新たな出願と同時に提出されたものとみなす』とありますが、願書に記載しなければならないのですか?」という質問でした。
いわれてみるとたしかにその通りです。41条4項は平成11年法改正で新設された規定で、ユーザーフレンドリーのため、加えられたものです。

この規定ができるまでは、分割出願の出願時に国内優先権主張をし忘れていたら、救済の余地がなくアウトでした。われわれはそれが頭の中に刻み込まれていますから、「忘れたら大変」と反応してしまいます。
これからも、やはり安心のため、分割出願の願書に国内優先権の表示は入れることになるでしょう。

また、たとえ分割出願の願書に国内優先権の表示が省略できるといっても、国内優先権を効かせた出願であることには変わりありません。ですから、出願人の管理システムにおいても、その分割出願が国内優先権を伴っていることをきちんと記録しておくべきでしょう。その意味では、私の指摘も不要ではなかったと思っています。
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