弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

内閣人事局の功罪

2020-05-31 11:14:16 | 歴史・社会
日本の政治機構は、教科書的には「議院内閣制」と呼ばれています。内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決で指名されます。内閣総理大臣が国務大臣を指名し、内閣総理大臣と国務大臣の合議制で内閣が運営されます。各省庁の官僚は、それぞれの長である国務大臣の指揮命令により、内閣の政策を実行していくというものです。

ところが日本では長い間、議院内閣制ではなく、「官僚内閣制」である、といわれてきました。各省庁の官僚は、自分の省益を第一に考え、省益と衝突する政策については、内閣から指示されてもそっぽを向く、というものです。
官僚が省庁単位で自分勝手に動く理由は、官僚の人事権を各省庁の事務方トップ(事務次官)が握っていたためです。
このブログの『高橋洋一「霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」」(4) 2009-08-24』では以下のように論じました。
『・大臣には人事権がない
現状では大臣の人事権はすごく弱くて、事務次官がつくった人事リストをただ承認するだけ。
竹中さんが総務大臣になったときも、事務次官がもってくる人事リストを何度つきかえしても、同じ幹部候補のメンバーを担当だけ入れ替えてもってくるから、なかなか手こずった。
内閣人事庁ができると、こういったバカげたことがなくなる。
大臣が幹部を決めるときには、今までの事務次官がつくったリストに加えて、内閣人事庁が推薦するリストも参照できるようにする。
官僚にとっては、痛いところを突かれたと言ったところでしょう。自分たちが一手に握っていた人事権が弱まり、外部から人材が流入してくれば、営々と築き上げた昇進ピラミッドがぶっ壊れるに決まっている。既得権を失いたくない幹部や幹部昇進が近い上の世代ほど、なにがなんでも大反対するわけだ。』

日本特有の「官僚内閣制」を改め、何とか本来の「議院内閣制」を構築しよう、ということで、紆余曲折を経て、「内閣人事局」が誕生しました。
ところが、内閣人事局ができあがってみると、その結果、ちょうど良い「議院内閣制」が生じるのではなく、逆に振れた「官邸忖度内閣制」が生まれてしまったようです。
2年前のブログ記事『内閣人事局はどうなる? 2018-03-25』で論じました。
その当時、「内閣人事局」の評判が悪くなっていました。高級官僚が安倍総理と総理夫人に「忖度」しているのは、内閣人事局に人事を握られているからだと。
上に述べたように、内閣人事局は本来、それまでは官僚に牛耳られていた政治の主導権を、本来の議院内閣制に戻すための政策の筈でした。
それなのになぜ、最近のように、目の敵にされる事態となったのでしょうか。原因が2つ考えられます。

第1
お役人はそもそも、自らの人事権を持っている人事権者には頭が上がらない、上ばかりを見るいわゆる「ヒラメ役人」が大勢を占めているかもしれません。内閣人事局ができるままでは、省内の事務方トップ(次官)が人事権を握っていたため、省内の事務方トップ(次官)の意向を常に忖度して政策が立案されていました。
内閣人事局ができた結果、人事権者が省内事務方トップ(次官)から官邸に移行しました。ヒラメ役人たちは従来通り、人事権者に忖度する態度をとり続けた結果、今度は官邸に忖度することになってしまった、ということではないかと。

第2
第2代の内閣人事局長は萩生田光一氏です。安倍総理のお友達で、保守志向の強い政治家であることが記憶されます。
安倍総理は、内閣人事局で官僚の人事権を行使するにあたり、もっと穏やかに事を進めるべきだったでしょう。「官僚とは人事権者に忖度する人種である」ということに気づいていれば、今日のような状況に至ることなく内閣を運営できていたかもしれません。

いずれにしろ、内閣人事局という制度そのものが悪者視され、また公務員制度改革が逆行することだけが懸念されます。

さて、以上のように、安倍政権は内閣人事局を過度に自政権に都合の良いように運営し、日本の行政機構を「官邸忖度内閣制」にねじ曲げてしまいました。
そして同じ愚行を、検察に対しても行おうとした、というのが最近の検察騒動の根っこであるように思います。詳細は次回に
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感染者数増減の推移 専門家会議議事録

2020-05-30 10:38:07 | 歴史・社会
感染ピーク、緊急事態宣言の前だった 専門家会議が評価 5/29(金) 朝日新聞
『国内の新型コロナウイルスの感染拡大について、政府の専門家会議は29日、これまでの国の対策への評価を公表した。緊急事態宣言は感染の抑制に貢献したとする一方、感染のピークは4月1日ごろで、宣言前だったことも明らかにした。
専門家会議はこの日まとめた提言で、クラスター(感染者集団)の発生を防ぐ対策は、クラスターの連鎖による感染拡大を防ぐなどの点で効果的だったと分析。3密(密閉、密集、密接)の条件がそろうと感染者が多く発生していることを指摘し、対策を市民に訴えることができたとした。
4月7日に最初に出され、その後対象が全国に広がった緊急事態宣言については、人々の接触頻度が低いまま保たれ、移動も抑えられたため、地方への感染拡大に歯止めがかけられた、とした。
実際にいつ感染したのかその時点では把握できない。新規感染者の報告から逆算して時期を推定したところ、ピークは4月1日ごろで、緊急事態宣言の前に流行は収まり始めていた。休業要請や営業自粛が都市部で早くから行われていた効果や、3密対策を含めた市民の行動の変化がある程度起きていた、と理由を推察した。
ただ会議のメンバーからは「結果的に宣言のタイミングは遅かった」との声もある。』
全国の感染者の推移

朝日新聞(紙)では、5/30朝刊の一面トップで伝えています。しかしこのデータ、すでに5/1に公表済みのデータではないですか。

私が5/7に、「専門家会議の「状況分析・提言」」で述べたように、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」が5月初めに公表されました。
2020年5月1日版
2020年5月4日版
私は5/7ブログ記事の中で、
『5月1日版には、全国と東京都の例が示され、東京都については、縦軸を陽性者数とし、横軸を「確定日」としたもの(図2の左図)、横軸を「発症日」としたもの(図2の右図)、さらには横軸を「推定感染時刻」としたもの(図4)が掲載されています。
・・・
図4は、非常にきれいな図であり、感染時が3/10から3/25にかけて急速に陽性者数が増大し、(そこで下降に転じ)それ以降4/12に至るまで、急速に陽性者数が減少しています。・・・
3月25日の東京都知事による外出自粛の呼びかけで即座に感染が低減しているかのようです。4月7日の緊急事態宣言発出の時点では、感染者数はピーク時(3月25日頃)の半分以下となっています。・・・』
と論じました。
今回報道されている全国のデータは、同じ2020年5月1日版の3ページに掲載された図3そのもの(4/14以降のデータを追加したもの)です。
2020年5月1日版図3ですでに、
「3月中旬から3月いっぱい、全国で新規感染者数が急拡大した」
「3月末に拡大が減少に転じ、それ以降、全国で新規感染者数が急減少した」
点が明らかです。
5月も末になって、何を今更、といった感想を持ちます。

ところで専門家会議の今回評価において、
「クラスター(感染者集団)の発生を防ぐ対策は、クラスターの連鎖による感染拡大を防ぐなどの点で効果的だったと分析。」
と評価しています。ちょっと待ってください。2月以降、クラスター対策は必死に行っていたはずです。それにもかかわらず、3月中旬から下旬にかけて新規感染者数が急増した、という事実がデータで示されているではないですか。

3月末に、新規感染者数はなぜ急拡大から急減少へと転換したのでしょうか。私には、「国民が生活を変化させたからだ」しか思い当たりません。3月3連休の後、小池都知事が態度を豹変させて危機を煽り、志村けんさんの死亡が報じられました。日々の新規陽性者確認数は、2020年5月1日版の2ページに掲載された図1にあるように、3月下旬から急拡大を示し始めました。「今はニューヨークの2週間前だ」と叫ばれたのもこの時期でしょう。人々はこれら情報に基づき、自発的に外出自粛に本格的に取り組み始めた、その効果が新規感染者数の急減速につながりました。
横軸の日付を「確定日」とした図1の急拡大開始時期が、横軸の日付を「感染日」とした図3の急減速開始時期と一致している、というのは、興味深い発見です。

私は、緊急事態宣言を解除した現時点は、3月初めの時期と同じ状況であると理解しています。抗体保持者比率が増えているわけではなく、対策を取らなかったら、すぐに3月中旬から下旬にかけての新規感染者数急増が起こるでしょう。すでに起きているかもしれません。新規陽性者確認数が上昇に転じていますから。

専門家会議の議事録なぜ作らない? メンバーからも異論 5/29(金) 朝日新聞
『新型コロナウイルス感染症への対応を検討する政府の専門家会議の議事録が残されていないことに、批判が集まっている。
・・・
菅義偉官房長官は29日の閣議後会見で、専門家会議は、公文書管理のガイドラインが定める「政策の決定または了解を行わない会議等」に該当すると主張。発言者が特定されない「議事要旨」を作成、公表していることから「ガイドラインに沿って適切に記録を作成している」とし、議事録は残さなくても問題はないとの認識を示した。』

しかし同じ記事の中で、
『加藤勝信厚生労働相も3月2日の参院予算委員会で、専門家会議について「1~3回目は議事概要になるが、4回目以降は速記を入れて、一言一句残す。専門家の了解の範囲で、当面は公表させて頂く」と答弁していた。』
と紹介されています。この答弁がある限り、管長官の言い訳は全く意味を持たないではないですか。「加藤厚労大臣は、3/2に発言した約束に基づいて、4回目以降の議事録を示しなさい」というだけで十分です。
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検事総長の定年延長特例

2020-05-17 14:46:16 | 歴史・社会
国家公務員法等の一部を改正する法律に束ねられた法律のうち、検察庁法の改正に関して議論になっています。
特に、検事総長、次長検事又は検事長の定年が、内閣の定める事由によって最大3年、延長できる旨の改正が問題になっています。

取り敢えずここでは、改正法案の問題となっている部分を、検事総長に限定して抽出してみました。次長検事、検事長に関する部分を省略します。
(1)検察庁法22条2項で「国家公務員法81条の7の規定の適用」とすることにより、検察官の定年に関して国家公務員法が適用されることを明示しています。
(2)検事総長の定年を延長するためには、国家公務員法81条の7第1項に掲げる事由が必要です。同項では、『(検事総長)の退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由』とあります。
国家公務員法等の一部を改正する法律案
[検察庁法]
第二十二条 検察官は、年齢が六十五年に達した時に退官する。
② 検事総長、次長検事又は検事長に対する国家公務員法第八十一条の七の規定の適用について(以下の通り)
[国家公務員法](太字は検察庁法で読み替えた部分)
(定年による退職の特例)
第八十一条の七 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、次に掲げる事由があると認めるときは、同項の規定にかかわらず、当該職員にが定年に達した日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、当該職員を当該職員が定年に達した日において従事している職務に従事させるため、引き続き勤務させることができる。ただし、(次長検事又は検事長の特例・略)
一 前条第一項の規定により退職すべきこととなる職員の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該職二前条第一項の規定により退職すべきこととなる職員の退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由
二 (適用しない)
② 任命権者は、前項本文の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項第一号に掲げる事由が引き続きあると認めるときは、内閣の定めるところにより、これらの期限の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、当該期限は、当該職員が定年に達した日(同項ただし書に規定する職員にあつては、年齢が六十三歳に達した日)の翌日から起算して三年を超えることができない。
③ 前二項に定めるもののほか、これらの規定による勤務に関し必要な事項は、内閣が定める。
------------------------------

(A)本年1月に黒川検事長の定年延長を閣議決定した際、「国家公務員法を適用した」と説明しました。これは、従来の法解釈を変更するものであり、大問題となりました。今回の法改正で、検察官の定年に関して国家公務員法を適用することを、検察庁法の中で明示して、黒川問題の正当性を後付けしたようですね。

(B)検事総長の定年を延長することについて、国家公務員法81条の7第1項では、『(検事総長)の退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由』としました。同法の「人事院規則で」を「内閣が」と読み替えたものです。即ち、(検事総長)の退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由については、内閣が定めるものです。人事院規則の制定を待つ必要はありません。森法務大臣は、人事院規則を隠れ蓑にしてはなりません。

(C)今回の改正法案は、昨年の段階ではできあがっていました。そしてその時点では、検事総長等の定年延長の特例に関しては規定されていなかったようです。本年1月末の閣議決定の前後に、この特例が急遽挿入されたとのことです。
法律改正については、審議会などで詳細に審議された結果として定まります。上記のいきさつから考えると、検事総長等の定年延長の特例については、何ら公の議論無しに超短期間で挿入されたことが明らかです。むしろ森法務大臣には、法律案が修正されたいきさつについて、詳細に説明してもらう必要があります。「いつ」「誰が」「どのような理由によって」検事総長等の定年延長の特例を挿入したのか。
挿入した時期が黒川問題の時期とまさに重なっています。
国会の委員会での質疑を見ても、どうもこの点について森法務大臣に対して明確に質問していないようですね。その点が物足りないです。
コメント (1)
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篠田節子「夏の災厄」

2020-05-12 17:28:12 | 趣味・読書
小説家の篠田節子さんが、勲章を受章しました。私は篠田節子さんの小説を読んでいた時期があって、今回の新型コロナに接したとき、真っ先に篠田節子さんの小説「夏の災厄」が思い浮かびました。従って、篠田節子さんが勲章を受けたときの報道でも、「夏の災厄」が紹介されるだろうと予想していたのですが、私の知る限り、その本は紹介されませんでした。
篠田節子さんは、ウィキに以下のように紹介されています。
『東京都生まれ。八王子の典型的な商業地区で育つ。
東京都立富士森高等学校、東京学芸大学教育学部卒業後、八王子市役所に勤務する。市役所の勤務年数は10年以上にもおよび、福祉、教育、保健(健康管理)など様々な部署に異動、配属された。市立図書館の立ち上げにも携わり、・・・。
趣味はチェロの演奏。
2020年 - 紫綬褒章受章。』
篠田さんの小説は、上記履歴と関連するものが多いです。その中で、「夏の災厄」は市役所における保健(健康管理)職務経験が生きているようです。

夏の災厄 (角川文庫)
単行本 1995年3月 毎日新聞社刊
『東京郊外のニュータウンに突如発生した奇病は、日本脳炎と診断された。撲滅されたはずの伝染病が今頃なぜ? 感染防止と原因究明に奔走する市の保健センター職員たちを悩ます硬直した行政システム、露呈する現代生活の脆さ。その間も、ウイルスは町を蝕み続ける。世紀末の危機管理を問うパニック小説の傑作。  解説 瀬名秀明』(裏表紙)

舞台は、埼玉県昭川市(架空の地名)です。その窪山地区で、日本脳炎に似た病気の罹患者が急増します。ウイルス検査では日本脳炎と出ます。感染すると脳炎を起こすのですが、病状の進行が急速であること、死亡率が極めて高いこと、その他、日本脳炎とは異なっています。
昭川市には富士大学付属病院があります。ここでのウイルス研究、培養したウイルスの紛失(誤って廃棄した模様)、廃棄物処理業者による不法投棄(窪山地区)、などが複雑に絡み合って進行します。現在進行中の新型コロナと酷似した内容です。
新型日本脳炎 - 新型肺炎
富士大学病院 - 武漢の研究所
高い感染率、病状の早い進行、高い致死率など、両者はそっくりです。

冒頭、富士大学病院の奇妙な老医師が、予言じみた発言をします。
『「病院が一杯になって、みんな家で息を引き取る。感染を嫌う家族から追い出された年寄りたちは、路上で死ぬ。知っておるか、ウイルスを叩く薬なんかありゃせんのだ。対症療法か、さもなければあらかじめ免疫をつけておくしかない。たまたまここ七十年ほど、疫病らしい疫病がなかっただけだ。愚か者の頭上に、まもなく災いが降りかかる・・・。半年か、一年か、あるいは三年先か。そう遠くない未来だ。そのときになって慌てたって遅い。』(29ページ)
これも、現在の新型コロナを予言するかのような発言です。

新型日本脳炎に立ち向かう日本の中枢について、
『日本の防疫体制は、そんなに遅れたものではない。厚生省を頂点とした完璧なシステムも、大学病院や企業の研究所の研究者の能力も、薬剤や医療技術の質も、世界のトップレベルにあるはずだ。しかしなぜか、今、このとき機能しない。なぜなのか、だれにもわからない。』(562ページ)
現在の新型コロナに立ち向かう厚労省の体たらくが、この書籍の中で予言されていました。

舞台の主役は、昭川市保健センターの職員たちです。保健センターに夜間診療所が設置されており、新型日本脳炎流行の初期に、複数の患者が夜間診療所に搬送されたことから、職員たちが異変に気づきました。夜間診療所の医師は交代で派遣されますが、看護婦(当時)は2組が交互に勤務します。そのため、看護婦(房代、和子)がまず、複数の患者に共通する異変に気づきました。それと、保健センターの職員(市の公務員)(中西)、町のクリニック医師である鵜川が中心となって、問題の究明が進んでいきます。

感染防止と原因究明の仕事は、市(市役所)、県(保健所)、地元の医師などが錯綜して行っています。保健センターが市の管轄、保健所が県の管轄、ということで、仕事がやりづらそうです。
『疫学調査は県の保健所の仕事ですよ』(71ページ)
『統計については、県の保健所で答えるって決められてるんですよ。』(84ページ)
『保健所と市の保健センターは仕事上のつながりがあり、職員同士は顔見知りだったりする。』(127ページ)

保健師(小説の中の保健婦)の仕事は、私はよく知りません。
『結局のところ一番活躍しているのが、県と市の保健婦たちだ。・・多くの患者は障害を負っている。その家に出かけて、病人の面倒をみたり、家族の相談相手になったりする。』(215ページ)

最近、以下の記事を読みました。
保健所は激減、保健師は激増…コロナで露呈した「保健所劣化」の本質
感染症対応の経験がない人材が多数
 井上 久男
『厚生労働省が発表する「衛生行政報告例(就業医療関係者)概況」などの統計によると、1996年に保健所の設置数は845か所だったのが現時点では469か所に減少したものの、保健師総数は3万1581人から5万2955人に増えている。』
『保健師総数の就業場所別の内訳をみていくと、保健所内勤務は1996年の8703人から2018年は8100人に減少したのに対し、市町村勤務が1万5641人から2万9666人に増加している。この理由は、1990年に高齢化率が12・1%に達したことなどにより、介護や母子の健康管理など身近な公的福祉厚生サービスを、都道府県から住民により近い市町村に移管していく地方分権の流れができたことによるものだ。』

小説執筆時期(1995)は、県(保健所)の保健婦(当時)がまだ多く存在した時期ですね。県の保健婦と市の保健婦が、それぞれの職分のもと、活躍したのでしょう。

さて、国の対応はどうだったのでしょうか。
『厚生省では疫学調査と病理調査の二つの緊急対策委員会の発足に向けて動き出した。・・・担当者はまず、各大学、研究室、病院の医師の名簿を集めた。・・それぞれについて、委員七名、専門部会委員十三名ずつ計四十名がこの中から選出される。
---学界での不仲、派閥、世話になっている先生の処遇などが配慮されます---
「そうすると本当に日本脳炎ウイルスを専門に研究している先生方の枠がなくなりますが」
「それもそうだが、兼ね合いの問題だからな・・・」
・・・議論は果てしなく続いた。そして二日後、門外漢ばかりだが、人事的にはまずまず無難な顔触れが揃った。』(406ページ)
新型コロナでの専門家会議が、上記のような人選でなされたものでなければよろしいのですが。

『住民を対象都市で臨床試験を行い、いくつかの検体を持ち帰った。』(425ページ)「検体」という単語で、新型コロナのPCR検査の「検体」を想起してしまいました。

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「新しい生活様式」とは

2020-05-10 13:01:54 | 歴史・社会
専門家会議の「状況分析・提言」で述べたように、
新型コロナウイルス感染症対策本部のホームページにアップされた、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」
2020年5月1日版
2020年5月4日版
では、以下の提言がされています。

《今後の国民生活》
【地域別に、新規感染者数が「一定水準」まで低減したら、「感染拡大を予防する」「新しい生活様式」に移行する。】
私の予想では、「ワクチンが開発され、国民の多数に接種され、免疫を獲得するまで」は、「新しい生活様式」を継続し、「実効再生産数=1となる程度」を維持することが必要と思われます。

新聞やテレビでは、「新しい生活様式」という言葉は出てきますが、具体的にどのような規制がなされた生活様式なのか、という点には踏み込んでいません。また、「緊急事態宣言を解除する・しない」という議論ばかりで、「たとえ5月末に緊急事態宣言を解除したとしても、「新しい生活様式」は年単位で継続する、という点については言及を避けています。そもそも、専門家会議の提言には、「緊急事態宣言の解除」に関しては一言も記述されていません。

安倍総理にしろマスコミにしろ、「緊急事態宣言の解除」=「生活規制の撤廃」のようなイメージが持たれています。しかしそれが誤解であることは、上記専門家会議の提言から明らかです。ワクチンが開発されて行き渡るまで(1年あるいはそれ以上)は、生活規制は撤廃されず、「実効再生産数=1となる程度」(6割の接触削減のレベル)の「新しい生活様式」維持が必要とされるのです。
行政がよっぼどうまく設計しない限り、外食産業などはほとんど生き残りが不可能になってしまいます。

実効再生産数については、以前「実効再生産数とは」で取り上げ、
「推定実効再生産数Re」
「実績実効再生産数Rr」
を導入しました。
推定実効再生産数Reは、Ro:基本再生産数、p:接触削減率(-)を用いて、
Re=(1-p)Ro     (B)’
で算出されます。西浦教授はRo=2.5を採用しています。
実績実効再生産数Rrは、対数成長速度Kを用いて、
Rr=63・K²+16・K+1    (E)
K=(LOG(過去5日間の感染確認者数計)ーLOG(さらにその前の5日間の感染確認者数計))/5日間     (F)
のように計算されます。

推定、実績ともに、実効再生産数が1より大きいと新規感染者数は増え続け、値が大きいほど増加速度が高くなります。また1より小さいと新規感染者数は減り続け、値が小さいほど減少速度が高くなります。実効再生産数が1であれば、新規感染者数は横ばいとなります。
そして、(B)’式から明らかなように、推定実効再生産数Reは接触削減率pが大きいほど値が小さくなります。ここで、「(実績)実効再生産数が低い値だった」ということは、直近数十日の接触削減努力の結果を表すだけであって、過去数カ月の努力の蓄積ではありません。また、たとえ新規感染者数が大幅に低減した時点であろうと、接触削減率が低下したら、あっという間に実効再生産数が急増してしまいます。
例えば、接触削減努力によって、東京都の新規感染者数が10人/日に到達したとしても、その翌日に従来の生活に戻ってp=0となり、Reが2.5に戻ってしまったら、その日から、「新規感染者数が4日ごとに倍増」となり、解除から4日後に20人/日、16日後には160人/日に増加してしまう、という計算結果となります。

さて、以上のような準備の元、「新しい生活様式」について検討します。
(1)緊急事態宣言が継続となりました。今のままの行動指針を継続すれば、新規感染者数はさらに低減するでしょう。人工呼吸器の使用数が最近減少に転じましたが、さらに減少するでしょう。
(2)「ここまで減少したら、今後は横ばいで良い」というレベル(一定水準)に到達したら、接触削減率を0.8から0.6まで緩和できることになります。しかし、0.6よりさらに緩和してはなりません。また新規感染者数が増加に転じてしまいます。これが厳しいところで、「有効なワクチンが開発されて国民の大多数が接種するまで、接触削減率を0.6に維持しなければならない」という長期戦が続くのです。
(3)「接触削減率pを0.6に維持するためにはどのようにしたらいいか」を今から明確にしておく必要があります。

話の都合上、接触率q(-)を導入します。
 q=1-p     (L)
 Re=q・Ro     (M)
もともと、基本再生産数Ro=2.5というのは、どうもドイツのデータらしいですね。日本ではそもそも、何の対策も打たなくても、2.5よりも低い値だろうと考えます。「BCG効果、土足で家に入らない効果、きれい好き効果」などが影響します。そこで、日本係数J(0~1)を導入します。
新しい習慣として、「手洗いの励行、マスク着用、2m距離」などの行動様式で低減する効果を、行動様式効果Y(0~1)としましょう。
「休校、在宅勤務、外出自粛、会合自粛、自主休業」などで接触が低下する効果を、行動自粛効果G(0~1)としましょう。
国民の抗体保持比率が高くなると、それによる効果もあります。しかし抗体保持効果Cは、現時点ではまだ0.97~0.99程度でしょう(大阪、神戸での評価結果)。
最後に、「検査・隔離効果D」です。新規感染者が発生しても、発生するそばからPCR検査で把握して隔離することができれば、発生はするものの再生産に寄与しません。これをどのようにカウントするかですが、接触率qの一因、とする考えもできます。
 q=J×Y×G×C×D     (N1)
とおきます。
 q=0.4           (N2)
が、新規感染者(のうちの野放し部分)を横ばいとするための条件です。
J(日本効果)、C(抗体保持効果)は現時点では固定の値です。Y(手洗いの励行、マスク着用、2m距離)については、生活習慣にしてしまえば、大きな犠牲なく、現在の値を維持することが可能でしょう。
問題はG(行動自粛効果)(休校、在宅勤務、外出自粛、会合自粛、自主休業)とD(検査・隔離効果)です。

現在の東京は、新規感染者数が減少傾向です。しかし、わずかな減少傾向であり、新たな対策を打たない限り、G(行動自粛効果)を緩和できる緩和しろはわずかでしょう。緩めすぎると、新規感染者数が増加傾向に転じてしまうことになります。即ち、経済活動の急速な再開は不可能です。
では、どのような新たな対策が取り得るのか。
ここで、D(検査・隔離効果)が登場します。
G(行動自粛効果)を現状より緩和して新規感染者数が増加に転じても、その増加分を、PCR検査でキャッチして隔離することができれば、(見かけ上は隔離分として新規感染者数が増加しますが、)再生産に寄与する感染者数は横ばいのままとできます。

D(検査・隔離効果)については、現状ではD≒1でしょう。これを有意な値まで下げることができれば、結果としてGを緩和して1に近づけても、新規感染者数の増大を抑えることが可能です。
以上、まとめると、
(1)日本は、J「BCG効果、土足で家に入らない効果、きれい好き効果」をもともと有している点で諸外国よりも有利です。
(2)Y「手洗いの励行、マスク着用、2m距離」は、今後の努力で生活習慣にすることができるでしょう。
(3)さらに、PCR検査を拡充してD「検査と隔離」を徹底すれば、それによって市中感染率を低減できます。
(4)D「検査・隔離効果」の助力を得て、G「休校、在宅勤務、外出自粛、会合自粛、自主休業」などの真に痛みを伴う対策を緩和しても、q=0.4を実現して新規感染者数横ばいとすることができるでしょう。

政府は、現状のJ、Y、G、C、Dの値を数値化し、q=0.4を実現するために必要なGとDの目標値を定め、Dを目標値とするためにはどれだけのPCR検査が必要であるかを数値化します。
そして、Gを目標値とするためには、どのような行動の緩和まで許されるのか(「新しい生活様式」のうちの行動自粛部分)、それを具体的に示してもらうことが必要です。

ところで、スペイン風邪の記録によると、セントルイスとフィラデルフィアでの感染拡大-収束の時系列グラフを見ることができます。どちらの都市も、感染者数が増大し、その後減少に転じています。減少に転じた理由は、おそらく隔離政策でしょう。それでは、収束後に、なぜ隔離政策を解除できたのでしょうか。上記の理論によると、たとえ新規感染者数が大幅に減少しても、隔離政策を解除したら元の木阿弥になる、との結論です。
いろいろ考えたのですが、スペイン風邪においては、「抗体保持者が急速に増大し、抗体保持比率の増大に伴い、「集団免疫」が成立し、行動自粛度を緩和することができた」としか考えられませんでした。
新型コロナについては、現状でも抗体保持比率はせいぜい1%(大阪)、3%(神戸)との評価結果がある程度であり、とてもではありませんが、「抗体保持比率の増大に伴い、行動自粛度を緩和することが可能」との域には達していません。
D「検査・隔離効果」の助力を得て、G「休校、在宅勤務、外出自粛、会合自粛、自主休業」などの真に痛みを伴う対策を可能な範囲内で緩和し、あとはワクチンの登場を待つ、との対策しかなさそうです。
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PCR相談基準緩和

2020-05-09 13:28:05 | 歴史・社会
新型コロナ、相談の新目安を公表 5/9(土) TBS
『新型コロナウイルスに感染したかどうか相談センターなどへ相談する際の新たな目安を、厚生労働省が公表しました。
厚生労働省は、これまで相談センターなどへ相談する目安を「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合」などとしていました。新しい目安では「37.5度以上」といった文言を削除し、「息苦しさや強いだるさ、高熱などの強い症状のいずれかがある場合」や、「高齢者などの重症化しやすい人で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合」は、すぐに相談するよう呼び掛けています。
また、「発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状が続く場合」でも、すぐ相談することを示した上で、4日以上続く場合は必ず相談するよう求めています。さらに、「これらの症状に該当しない場合でも相談は可能」とし、全国の都道府県などに住民らへ情報発信するよう通知しました。』

厚生労働省「自治体・医療機関向けの情報一覧(新型コロナウイルス感染症)」に、以下の文書が掲載されていました。
新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安(別添)
『2.帰国者・接触者相談センター等に御相談いただく目安
○ 少なくとも以下のいずれかに該当する場合には、すぐに御相談ください。(これらに該当しない場合の相談も可能です。)
☆ 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
☆ 重症化しやすい方で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合
☆ 上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合
(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)
○ 相談は、帰国者・接触者相談センター(地域により名称が異なることがあります。)の他、地域によっては、医師会や診療所等で相談を受け付けている場合もあるので、ご活用ください。
※なお、この目安は、国民のみなさまが、相談・受診する目安です。これまで通り、検査については医師が個別に判断します。』

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(第 13 回)」の配布資料2「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安」からさらに緩和されています。
専門家会議の配布資料2の2ページ目には2月17日版が残っています。今回の目安は、従来とは様変わりの基準となっています。ほぼ私が必要と考えていた内容と一致しています。

ただし、公表されたのは「相談の目安」です。相談を受けた帰国者・接触者相談センター(保健所が管轄)は、PCR検査要否の判断はしないようです。相談センターは、受診機関(帰国者・接触者外来、地域外来・検査センター等)を紹介するだけで、PCR要否は帰国者・接触者外来の医師が判断するのでしょうか。また、相談センターではなくかかりつけ医を最初に受診した場合は、かかりつけ医が今回の「相談の目安」に沿ってPCR検査要否を決定し、地域外来・検査センターに送り込んでくれるのかどうか。
また、「検査決定の目安」が公表されていないということは、「相談の目安」=「検査決定の目安」と考えてよろしいのでしょうね(念押し)。
そうとすると、相談センターの業務は大幅に軽減されます。相談の目安で連絡してきた人を自動的に受診の待ち行列に入れれば良いだけです。連絡先を確認し、受診の順番が到来したらその旨を連絡すれば良いだけです。相談した人は、受診して医師の判断を受けない限りPCRを受けられるか未定のままです。

次の問題は、検査能力です。相談=検査の目安が大幅緩和されたので、検査を受ける人数は大幅に増大するでしょう。
しかし、専門家会議の資料にも、報道発表にも、以下の話は出てきません。
○ 目安変更で、検査を受ける人数はどの程度まで増大すると想定されるのか。
○ そのために必要な検査能力をどのように想定しているのか。
○ もし、現在の検査能力が、想定される必要検査能力よりも劣っているとしたら、必要検査能力を満たすためにどうのような方策が計画・実施されているのか。

これらが立案されていない限り、相談の目安は大幅緩和されたものの、これからは検査待ちで待たされる期間が大幅に延びるだけ、ということになりそうです。

そもそも、今回の配布資料では、相談する先、相談の目安は示されたものの、相談後の流れが何も記載されていません。一方、2月17日版には、
『3.相談後、医療機関にかかるときのお願い
○ 帰国者・接触者相談センターから受診を勧められた医療機関を受診してください。』
との記載があります。この記載が削除され、代わりの記載がなされていないことは謎です。何かを隠しているのではないでしょうか。

また、今回の発表では、病院や介護施設での院内感染の防止を図るための施策が記載されていません。病院の入院患者全員、施設利用者の全員の感染検査を必須とし、医療従事者と施設従事者については頻繁な感染検査を必須とすべきと考えます。その点を早く決めてほしいです。院内感染防止のための感染検査は、PCRではなく、それよりも精度は落ちるといわれていますが、抗原検査でもよろしいと思います。
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専門家会議の「状況分析・提言」

2020-05-07 20:49:26 | 歴史・社会
新型コロナウイルス感染症対策本部のホームページに、
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」
がアップされています。
2020年5月1日版
2020年5月4日版
の2種類です。さっそく読んでみました。

1.今後の国民生活
(1)地域別に、
(2)新規感染者数について「一定水準」を設定する。
(3)新規感染者数が「一定水準」まで低減できていない地域は、引き続き「徹底した行動変容の要請」が必要となる。
(4)「新規感染者数が限定的となった地域」(明確ではありませんが、上記「一定水準」以下となった地域のことと推定されます(ブログ主注))。では、「感染拡大を予防する」「新しい生活様式」に移行する。

[不明確事項]
(A)上記(2)の「一定水準」が具体的に示されていません。例えば、東京で「50人/日以下」であれば、すでに到達しています。一方、「10人/日以下」だとしたら、まだまだ先になります。
(B)上記(3)の「徹底した行動変容の要請」は、取り敢えずは「接触8割減を要望」されている現在の目標行動を意味するのでしょうか。
(C)上記(4)は『「一定水準」以下となった地域』を指すものとします。「感染拡大を予防する」は、「新規感染者数が増えないレベル」と理解しましょう。そうすると、「実効再生産数=1となるレベル」と言い換えることができます。このような理解で良いのか、現時点では不明確ですが・・・。
(D)「新しい生活様式」とはどんな生活様式か?
 多分、これが一番不明瞭でしょう。一言で言えば、「その地域で新規感染者数が横ばいとなる程度」「実効再生産数=1となる程度」の生活様式です。西浦教授の今までのコメントで言えば、「6割の接触削減のレベル」になります。結構厳しいレベルです。
おそらく、地域ごとに、少しずつ規制を緩和し、新規感染者数が増えそうになったらまた規制を強化する、のフィードバックを繰り返すことになるのでしょう。
(E)「新しい生活様式」はいつまで続くのか
 この点については明示されていません。5月1日版の9ページで『「ワクチンが開発されるまで」でも「集団免疫が得られるまで」でもない。』との記述があるものの、「それではいつまでか」記載されていません。5月4日版では「長丁場に備え」(8ページ)、「対策が長期化する中で」(13ページ)との記載はあるものの、それ以上の指針は出されていません。
私の予想では、「ワクチンが開発され、国民の多数に接種され、免疫を獲得するまで」は、「新しい生活様式」を継続し、「実効再生産数=1となる程度」を維持することが必要と思われます。

安倍総理にしろマスコミにしろ、「緊急事態宣言の解除」=「生活規制の撤廃」のようなイメージが持たれています。しかしそれが誤解であることは、上記専門家会議の提言から明らかです。ワクチンが開発されて行き渡るまで(1年あるいはそれ以上)は、生活規制は撤廃されず、「実効再生産数=1となる程度」(6割の接触削減のレベル)の「新しい生活様式」維持が必要とされるのです。
行政がよっぼどうまく設計しない限り、外食産業などはほとんど生き残りが不可能になってしまいます。

2.PCR等検査
「PCR等検査を更に拡充すること・・・が必要」との見解が示されました。(5月4日版18ページ)
「日本においてPCR等検査能力が早期に拡充されなかった理由」
「今後求められる対応」
などの記載がありますが、すでに言い古された話が定性的に語られているだけです。
「いつまでに」「このような対策を打つ」結果として、「いつ頃には」「検査数が○○/日まで増大」の予定。という定量的な計画が待たれるところですが、まだまだ先のようです。

3.実効再生産数
5月1日版には、全国と東京都の例が示され、東京都については、縦軸を陽性者数とし、横軸を「確定日」としたもの(図2の左図)、横軸を「発症日」としたもの(図2の右図)、さらには横軸を「推定感染時刻」としたもの(図4)が掲載されています。
図2の左図をベースとして、どのようなデータ処理を行うことにより、図2の右図に変換され、さらに図4に変換されたのか、その具体的な中身を明確にしてほしいです。
図4は、非常にきれいな図であり、感染時が3/10から3/25にかけて急速に陽性者数が増大し、それ以降4/12に至るまで、急速に陽性者数が減少しています。図2の左図をベースにしているとはとても思えない変貌です。
東京都の発表しているグラフとの乖離も極端です。
3月25日の東京都知事による外出自粛の呼びかけで即座に感染が低減しているかのようです。4月7日の緊急事態宣言発出の時点では、感染者数はピーク時(3月25日頃)の半分以下となっています。このグラフに示されている傾向が普遍的だとしたら、「新規感染者数を横ばいとする程度の行動規制」は、相当に緩くてもよろしいかもしれません。そのさじ加減を見極めるのが、今後、当局者に最も求められる能力でしょう。

ps 5/14 上記東京都の発表しているグラフ、記事記載時は横軸が「都への報告日」でした。現在はそれ(左側の図)に合わせ、横軸を「確定日」とした図が右側に掲載されています。この右側の図が、専門家会議報告の「図2の左図」に対応することになるようです。新型コロナの問題発生から3ヶ月も経過するまで、東京都はこの程度の統計処理しかできていなかったということで、とても残念です。
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実効再生産数とは

2020-05-06 11:22:46 | 歴史・社会
「接触を8割減らさなければならない」
「東京の実効再生産数は、3月14日に2.6,4月10日に0.5だった」
などの話が飛び回っています。

クラスター班の西浦教授などの話を集めると、以下のようなストーリーのようです。
Ro:基本再生産数
Re:実効再生産数
p:接触削減率(-)
新型コロナクラスター対策専門家のツイートを誤解か」の動画に映っているホワイトボードの数式では、
Ro=2.5     (A)
Re=(1-p)Ro<1     (B)
p>1-1/Ro=3/5=0.6     (C)
とあります。
これらから、西浦教授の考え方が分かります。
(1)基本再生産数Roを2.5としている。
(2)基本再生産数Roに(1-接触削減率p)をかけた値が実効再生産数Reとなる。
(3)実効再生産数Reが1未満であれば、新規感染者数は減少していく。
(4)接触削減率pが0.6であれば、新規感染者数は増えも減りもしない。
(5)接触削減率pが0.6超であれば、新規感染者数は減少する。

以上のように、基本再生産数Roと接触削減率pから求めた実効再生産数は、「推定実効再生産数Re」とも言えるものです。
一方、実際の新規感染者数の実績の推移から、実効再生産数が算出できます。それを「実績実効再生産数Rr」とここでは呼びます。

新規感染者数の推移から実績実効再生産数Rrを算出する計算式は、以下のようになっているようです。
実行再生産数(R)の計算式を見つけました。
One of my favorite things is ...
Rr=K²(L×D)+K(L+D)+1     (D)
L=平均潜伏期間(latent period)=7日,
D=平均潜伏感染期間(latent infectious period)=9日,
K=対数成長速度,
Rr=63・K²+16・K+1     (E)

対数成長速度Kは、その直前の感染確認者数の推移から算出します。20日ピッチの推移、あるいは5日ピッチの推移を見ているようです。5日ピッチの場合、
K=(LOG(過去5日間の感染確認者数計)ーLOG(さらにその前の5日間の感染確認者数計))/5日間     (F)

さて、「5日ピッチで感染確認者数が倍増」という場合について見ると、
(過去5日間の感染確認者数計)/(さらにその前の5日間の感染確認者数計)=2
ですから、
LOG(過去5日間の感染確認者数計)ーLOG(さらにその前の5日間の感染確認者数計)
=LOG((過去5日間の感染確認者数計)/(さらにその前の5日間の感染確認者数計))
=LOG2=0.30     (G)
従って、
K=(LOG2)/5=0.06     (H)
となります。これを上記(E)式に代入すると、
Rr=2.19となります。

逆に、「5日ピッチで感染確認者数が半減」という場合について見ると、
LOG(過去5日間の感染確認者数計)ーLOG(さらにその前の5日間の感染確認者数計)
=LOG((過去5日間の感染確認者数計)/(さらにその前の5日間の感染確認者数計))
=LOG(0.5)=-0.30     (I)
K=(LOG(0.5))/5=-0.06     (J)
Rr=0.26

それでは最初の
「東京の実効再生産数は、3月14日に2.6,4月10日に0.5だった」
に戻りましょう。
Rr=0.5の場合について逆算を行うと、K=-0.036となり、途中は省略しますが、「8日間で半減」のペースであると算出できます。
Rr=2.6ではK=0.077、「4日間で倍増」です。

一方、東京の新規感染確認者数の推移実績については、「都内の最新感染動向」にグラフがあります。
3月24日頃に増加傾向となり、4月11日頃まで増加が継続しています。しかしこの間の増加の程度について、
Rr=2.6、「4日間で倍増」
ほどではないように見受けられます。
また、4月11日頃から減少に転じましたが、決して急減ではなく、じわじわ低減、あるいは横ばい、と見るべきでしょう。
Rr=0.5、「8日間で半減」
ほどではないように見受けられます。

結局、政府の専門家会議が発表した
「東京の実効再生産数は、3月14日に2.6,4月10日に0.5だった」
については、どうにも合点がいきません。

取り敢えず、実効再生産数の意味合い、新規感染確認者数の推移との関係、については理解することかできました。
以上のような準備の元、これからの行動指針については、次の記事で検討します。
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新型コロナ・出口戦略

2020-05-02 11:12:03 | 歴史・社会
安倍総理は、5月6日期限の緊急事態宣言を延長するか否かについて、以下のように述べました。
『安倍晋三総理は4月30日、記者会見を開き、5月6日に終了期限を迎える新型コロナウイルス感染症対策の施策である緊急事態宣言について、延長する考えを示した。
安倍総理は、「5月7日からかつての日常に戻ることは、困難と考えます。ある程度の持久戦は、覚悟しなければならない。率直にそう申し上げなければならないと思います」と述べた。』(安倍総理/「かつての日常に戻ることは困難」緊急事態宣言延長 行政/2020年04月30日)

この発言は問題です。上記発言を裏返すと、「5月6日期限の宣言を延長しなかったら、翌日から、かつての日常に戻る」と聞こえます。

私は、緊急事態宣言解除の反作用が恐ろしいと考えています。
思い返してみると、緊急事態宣言発出前に、すでに外出自粛などは始まっていました。宣言発出は、知事が発する休業要請などに法的根拠を付加しただけで、宣言後に縛りが急増したわけではありません。それにもかかわらず、「宣言が解除されれば、宣言発出直前に戻るのではなく、かつての日常に戻り得る」と誤解する可能性が高いと危惧したのです。
その危惧が、まさか安倍総理に当てはまるとは!!
影響ある人たち(専門家会議委員、政府高官、与党重鎮)などは、総理の上記発言で国民が誤解しないよう、直ちに修正発言をすべきでしたが、私は耳にできませんでした。

それに対して吉村大阪府知事が、独自の戦略を発表しました。
大阪府知事「客観的な出口戦略を」独自指標で自粛解除など判断
2020年5月1日 21時52分 NHK
『緊急事態宣言の延長に向けて調整が進む中、大阪府の吉村知事は、ベッドの充足率など医療現場の状況について独自の指標を設けたうえで、その指標を基準に、外出の自粛の解除や、休業を要請している施設などの再開を判断することを明らかにしました。吉村知事は、今月15日時点の指標に基づいて当面の方針を判断するとしています。
今月6日に期限を迎える緊急事態宣言について政府は、対象地域を全国としたまま1か月程度延長する方針です。
これについて大阪府の吉村知事は1日夜、記者団に、「きちんとした客観的な出口戦略がないと何を目指したらよいかわからない。国がやらないのならば、府として客観的な数値基準を決める。府民全員が共有する基準を大阪モデルとして作っていく」と述べました。
そのうえで「医療崩壊を防ぐことを基準値にしたい。ベッドの充足率など、全体の医療のキャパシティーを公開する。その基準を超えるか超えないかを見ながら、休業要請を解除するかしないかなどを、決めていきたい」と述べ、府独自の指標に基づいて、外出の自粛の解除や、休業を要請している施設などの再開を判断することを明らかにしました。
吉村知事は今月15日時点の指標に基づいて当面の方針を判断するとしています。』

これはまさに、私が必要と考えていた戦略です。
私がこのブログの、外出自粛はいつまで続くかコロナ対策・日本の惨状新型コロナ対策・推進責任箇所はどこかで記載した以下の通りです。
『現在、全国的な外出自粛と、特定業種の休業自粛を行っており、経済は大幅に減退しています。国民は皆、「5月6日までの辛抱」と信じて辛抱していますが、実はこの状態が1年から2年は継続することを覚悟しなければならないのです。』
『ではどうしたら、外出自粛を緩和して経済活動を再開できるのか。
経済活動を再開すれば、「接触率」は当然上昇します。
新規重症者数は、接触率が高いほど多くなり、市中感染者比率が高いほど多くなるものと推定されます。
 [新規重症者数]∝[接触率]×[市中感染者比率]
従って、新規重症者の数を、医療崩壊が起こらない範囲内に維持するに際し、市中感染者比率が低いほど、接触率を上昇させる、即ち経済活動を再開することが可能になる、ということです。
従って、日本で一刻も早く経済活動を再開させるためには、以下の対応を可及的速やかに実施することが不可欠です。
(1)市中感染者比率を低減すること
 市中感染者比率を低減するためには、
 (A)PCR検査数を大幅に増大し、判明した陽性者を隔離すること。
 (B)隔離は自宅ではなく、ホテル等の宿泊施設とすること。
(2)医療崩壊を防ぐために
 (A)重症者受け入れ能力の増強
 (B)院内感染の防止(入院患者全員と医療従事者のPCR検査)』

吉村知事の出口戦略は、「医療崩壊が起きないことを指標としつつ、経済活動を順次再開していく」という点で私の主張と同じです。
さらに必要なことは、「医療崩壊を防止しつつ、いかにして経済活動の再開速度を加速するか」です。その点については、吉村知事の発言には見受けられません。鍵は「PCR検査の拡充」です。その点の追加を、ぜひ吉村知事にお願いしたい。
そして私が在住する東京都については、小池都知事に頑張ってもらいたい。
ただし、東京都と大阪府で大きな違いがあります。PCR拡充は、保健所設置機関が権限を有しているようです。大阪府の中心については大阪市であり、大阪府知事と大阪市長は連携しているから大丈夫でしょう。それに対して東京都の中心については、23区(特別区)の区長が担っています。区ごとの対応力の差が出てしまいますし、小池都知事には23区をまとめて一つの方向に導こうとする姿勢が感じられません。
小池都知事に頑張ってもらいたいところです。
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