1月2日にこのブログの記事「
原発事故政府事故調中間報告~津波予防対策」において、今回の原発事故で津波の来襲に事前に備えることができなかったことに対し、東電にはどのような責任があったのかについて、今回の
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会の「2011.12.26
中間報告」から検証を行いました。
一方、津波を予測して予防対策を講じることができなかった点について、もちろん国の責任を第一に考えるべきです。そこで、今回の中間報告において国の責任をどのように評価しているのかについて、中間報告の「
Ⅵ 事故の未然防止、被害の拡大防止に関連して検討する必要がある事項」から抜粋してみました。
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(2)原子力安全に関する規制機関
我が国の発電用原子炉施設は経済産業大臣が所管しており、その安全規制は、経済産業省資源エネルギー庁の特別の機関として、発電用原子炉施設の安全確保等のために設置された保安院(原子力安全・保安院)が行っている。
これらの規制当局が行う安全規制について、内閣府に設置された安全委員会(原子力安全委員会)が、その適切性を第三者的に監査・監視しており、安全規制の独立性、透明性を確保している(図Ⅵ-3 参照)。
また、保安院の技術支援機関として、独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)があるが、JNES は、法律に基づく原子力施設の検査を保安院と分担して実施しているほか、保安院が行う原子力施設の安全審査や安全規制基準の整備に関する技術的支援等を行っている。(368ページ)
(5)改訂指針に基づく耐震バックチェック指示等の経緯(津波評価部分)
a 津波評価に関するバックチェック指示の経緯
保安院は、平成18 年9 月19 日の安全委員会による耐震設計審査指針等の耐震安全性に係る安全審査指針類(以下「新耐震指針」という。)の改訂を受けて、翌9 月20 日、「新耐震指針に照らした既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価及び確認に当たっての基本的な考え方並びに評価手法及び確認基準について」(以下「バックチェックルール」という。)を策定するとともに、各電力会社等に対して、稼働中及び建設中の発電用原子炉施設等について耐震バックチェックの実施とそのための実施計画の作成を求めた。
保安院は、耐震バックチェックの実施・報告の指示時に、バックチェックルールにおいて、津波に対する安全性を含めて耐震安全性評価における評価手法及び確認基準も示したが、その内容及び検討経緯は以下のとおりである。
(a)バックチェックルールにおける津波関連の記述
津波の評価方法として、既往の津波の発生状況、活断層の分布状況、最新の知見等を考慮して、施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性のある津波を想定し、数値シミュレーションにより評価することを基本とし、水位上昇・低下の双方に対して安全性に影響を受けることがないことを確認するとともに、必要に応じて土砂移動等の二次的な影響について確認することを求めている。(388ページ)
(6)貞観津波等についての知見の進展
b 行政機関における津波評価の動向
①推本「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(平成14年7 月)
平成7 年に発生した阪神・淡路大震災を踏まえ、地震防災対策特別措置法に基づき総理府(当時)に政府の特別の機関として地震調査研究推進本部(推本)が設置された(現・文部科学省に設置)。
三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)については、1611 年の三陸沖、1677 年の房総沖、明治三陸地震と称される1896 年の三陸沖のものが知られているが、これら3 回の地震は、同じ場所で繰り返し発生しているとは言い難いため、固有地震としては扱わないこととするとともに、同様の地震は三陸沖北部海溝寄りから房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があるとしている。(392ページ)
(7)津波対策の進展や耐震バックチェック指示等を受けた福島第一原発等に関する東京電力の対応や社内検討の状況
b 東京電力が平成20 年に行った福島第一原発及び福島第二原発における津波評価、対策に関する社内検討
(a)社内検討に至る経緯
保安院による前記(5)a記載の津波評価に関するバックチェック指示を受けて、東京電力は、福島第一原発及び福島第二原発に関する作業を進めたが、津波評価を検討する過程において、平成14 年7 月に公表された推本の「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」で述べられている「1896 年の明治三陸地震と同様の地震は、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性がある。」という知見をいかに取り扱うかが問題となった。
東京電力は、推本の長期評価に基づき津波評価技術で設定されている三陸沖の波源モデルを流用して試算した結果、それぞれ福島第一原発2 号機付近でO.P.+9.3m、福島第一原発5 号機付近でO.P.+10.2m、敷地南部でO.P.+15.7m といった想定波高の数値を得た。
この波高を知った吉田昌郎原子力設備管理部長(吉田部長)の指示で、武藤栄原子力・立地副本部長(原子力担当)(武藤副本部長)らに対する説明及び社内検討が行われることとなった。(400ページ)
(8)福島第一原発等の津波対策に関する保安院の対応
a 保安院が、東京電力による津波評価等を認知した経緯
(a)保安院からの説明要求
東京電力から提出されていた福島第一原発5 号機及び福島第二原発4 号機における耐震安全性評価の中間報告書に対する評価が、平成21 年6 月及び7 月、「総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会地震・津波、地震・地盤合同ワーキンググループ」(以下「合同WG」という。)において行われていた際、合同WGの委員から、貞観三陸沖地震・津波を考慮すべき旨の意見が出された。
かかる貞観三陸沖地震・津波の指摘を踏まえ、保安院の審査官が、平成21年8 月上旬頃、東京電力に対し、貞観津波等を踏まえた福島第一原発及び福島第二原発における津波評価、対策の現況について説明を要請した。
これを受け、東京電力の担当者は、吉田部長に対応ぶりを相談し、これまでに決定された東京電力の方針、すなわち、「①貞観津波については、その知見が確定していないことから、電力共通研究として土木学会で検討してもらい、標準化をする。②耐震バックチェックは、平成14 年の津波評価技術に基づき実施する。③貞観津波については、土木学会による検討や今後実施予定の津波堆積物調査の結果を踏まえ、改めてバックチェックを実施し、必要があれば対策工事を行う。」という方針を、佐竹論文に基づく試算の結果得られた波高の前記数値と共に保安院に説明する意向である旨述べたところ、吉田部長から了承が得られたが、波高の試算結果については、保安院から明示的に試算結果の説明を求められるまでは説明不要との指示がなされた。(401ページ)
(c)平成21 年9 月7 日頃なされた保安院に対する説明
東京電力は、保安院から貞観津波に関する佐竹論文に基づく波高の試算結果を説明するよう要請されたことを受けて、吉田部長の了承を経て、平成21 年9月7 日頃、保安院において、室長らに対し、準備した資料を使いながら、貞観津波に関する佐竹論文に基づいて試算した波高の数値が、福島第一原発で約8.6m から約8.9m まで、福島第二原発で約7.6m から約8.1m まで(全てO.P.)であったことを説明し、これらの説明に使用した全ての資料を室長らに渡した。
このような説明を受けて、保安院の審査官は、波高が8m 台なら、津波がポンプの電動機据付けレベルを超え、ポンプの電動機が水没して原子炉の冷却機能が失われることを認識した。しかしながら、保安院の室長らは、前記説明に係る津波発生の切迫性を感じず、保安院として新しい知見を踏まえた原発の安全性について説明を求められる程度には至っていないと考えたことから、東京電力に対し、担当官限りの対応として福島第一原発及び福島第二原発における津波対策の検討やバックチェック最終報告書の提出を促したものの、対策工事等の具体的な措置を講じるよう要求したり、文書でバックチェック最終報告書の提出を求めることまではせず、森山善範審議官(原子力安全基盤担当)(以下「森山審議官」という。)等の上司にも報告、相談しなかった。また、森山審議官は、自らが原子力発電安全審査課長として出席していた前記(a)記載の合同WGの委員による貞観三陸沖地震・津波の指摘以降、自ら部下に対して貞観三陸沖地震・津波に関する話の進展等を尋ねることはなかった。
東京電力は、前記のような保安院の態度を踏まえ、説明した東京電力の前記(a)記載の方針につき、保安院の了承が得られたものと考えた。(402ページ)
b 東京電力による津波堆積物調査への対応
保安院は、平成22 年5 月、東京電力から、前記(7)c記載の津波堆積物調査の結果について報告を受けた際、東京電力に対し、津波堆積物が発見されなかったことをもって津波がなかったと評価することはできないなどとコメントしたが、具体的な行動を東京電力に求めることはなかった。
なお、森山審議官は、同年3 月、福島第一原発における津波対策の状況を部下に尋ねたところ、「東京電力は、津波堆積物の調査をしている。貞観の地震による津波は、簡単な計算でも敷地高は超える結果になっている。防潮堤を造るなどの対策が必要になると思う。」旨の報告を受け、福島第一原発で防潮堤を必要とする程度の敷地高を超える波高の試算結果が存在することを認識するに至った。ところが、かかる試算結果を認識したにもかかわらず、森山審議官は、具体的な波高数値を部下や有識者に確認せず、貞観三陸沖地震・津波の話を前記合同WGにて様々な新知見を有識者に議論してもらうこともなかった。当委員会によるヒアリングに対し、森山審議官(ヒアリング当時は原子力災害対策監)は、そのときの認識について、「平成21 年に合同WGの委員から指摘を受けたときとあまり認識は変わっていない。この段階でも、(津波が)大きくなるということはあっても、量的な認識はなかった。津波堆積物調査を始めとする様々な調査をして評価をしつつある過程であり、貞観三陸沖地震についての調査はそれほど進展していないと認識していた。津波の認識は低く、情報の受け止め方の感度がよくなかった。」などと供述している。(403ページ)
c 保安院が、平成23 年3 月7 日に実施した東京電力に対するヒアリング
(a)ヒアリングに至る経緯
保安院は、推本が平成22 年11 月に「活断層の長期評価手法(暫定版)」を公表したことを契機として、平成23 年2 月22 日頃、保安院原子力発電安全審査課と文部科学省地震・防災研究課との意見交換を行い、文部科学省から、推本の長期評価につき貞観三陸沖地震に関する最近の知見も踏まえた改訂を同年4 月頃行う予定であるとの情報を得た。
保安院は、国の機関である推本が貞観三陸沖地震の知見を踏まえた長期評価の改訂を行えば、保安院として長期評価の改訂を踏まえた福島原発の安全性確保に関する説明を求められる事態に進展するおそれがあると考え、意見交換会当日のうちに東京電力に連絡し、長期評価が改訂される情報に接したことを告げるとともに、福島第一原発及び福島第二原発における津波対策の現状について説明を要請した。その結果、東京電力が、近日中に、文部科学省と長期評価の改訂を巡る情報交換を行う予定であったので、その報告と併せて福島第一原発及び福島第二原発における津波対策の現状を説明することとなった。
(b)ヒアリングの内容
平成23 年3 月7 日、保安院において東京電力に対するヒアリングが行われた。
東京電力は、同月3 日に文部科学省で開催された推本の長期評価改訂に関する情報交換会の概要を説明するとともに、文部科学省に対し、「貞観三陸沖地震の震源はまだ特定できていないと読めるようにしてほしい。改訂案は貞観三陸沖地震が繰り返し発生しているかのようにも読めるので、表現を工夫してほしい。」などと要請したことを紹介した。
次に、福島第一原発及び福島第二原発における津波評価、対策の現状につき、以下の内容を説明した。
津波評価については、資料を使いながら、①平成14 年の津波評価技術で示されている断層モデルを用いた試算結果、②平成14 年の推本の長期評価に対応した断層モデルに基づいて試算した福島第一原発及び福島第二原発における想定波高の数値が(ケース1)明治三陸沖地震(1896 年)のモデルを用いた場合には、それぞれ福島第一原発で8.4m から15.7m まで、福島第二原発で7.2m から15.5m まで、(ケース2)房総沖地震(1677 年)のモデルを用いた場合には、それぞれ福島第一原発で6.8m から13.6m まで、福島第二原発で5.3m から14m までとなるが、平成22 年12 月の津波評価部会での審議における三陸沖北部から房総沖の海溝寄りプレート間大地震(津波地震)の考察にて、福島県を含む南部領域については前記房総沖地震(1677 年)を参考に波源を設定する旨の方針が出されていること、③貞観津波に関する佐竹論文の断層モデルを用いた場合、それぞれ福島第一原発で8.7m から9.2m まで、福島第二原発で7.8m から8.0m まで(用いた断層モデルは、平成21 年9 月の説明に用いたものと同じ。ただし、潮位データをより安全サイドに立って採用した。)となることを説明した。
さらに、福島第一原発及び福島第二原発の津波対策については、平成24 年10 月を目途に結論が出される予定の土木学会における検討結果如何では、津波対策として必要とされ得る対策工事の内容を検討しているが、同月までに対策工事を完了させるのは無理である旨説明した。
このような東京電力の説明に対し、保安院の室長らは、「4 月の推本の公表内容によっては、保安院から指示を出すこともある。また、女川のバックチェック最終報告の審議において貞観津波が話題になることが予想され、その審議状況によっては口頭で指示を出すこともあり得る。」旨を述べ、さらに、審査官は、「土木学会による検討の結果、平成24 年10 月に津波評価技術の改訂がなされることとなった場合に、その後でバックチェックの最終報告書が提出されれば、世間的に見たらアウトになってしまう。なるべく早く津波対策を検討してバックチェック最終報告書を提出してほしい。」旨を述べた。このように、保安院は、何らかの指示を今後行うことがあり得る旨の予告については行ったが、他方で東京電力に対し、対策工事を実施するよう明確に要求し、バックチェック最終報告書の提出を文書で求めるなどの踏み込んだ対応は行わなかった。また、保安院の室長らは、前記ヒアリングの内容を上司に報告相談せぬまま、3 月11 日の地震の日を迎えた。
他方で、東京電力は、仮に今すぐ平成14 年の津波評価技術を基にしたバックチェックの最終報告書を提出したとしても、貞観津波の最終的な断層モデルが未確立ゆえ合同WG における審議が円滑に進まない可能性があることから、福島地点津波対策ワーキングにおける社内検討を進め、前記土木学会の検討により津波評価技術が改訂された場合に、それに基づく必要な対策工事を終えてからバックチェックの最終報告書を提出するのが現実的であると判断した。(403ページ~)
8 原子力安全委員会の在り方
安全委員会は、保安院等の規制当局が行う安全規制についてその適切性を第三者に監査・監視しており、安全規制の独立性、透明性を確保している。また、規制当局が行った安全審査をレビュー(二次審査)するための評価基準として、専門家の意見を聴取し、安全設計審査指針等の指針類を制定している。このほか、防災基本計画に基づき、特定事象発生の通告を受けた場合、直ちに緊急技術助言組織の招集等を行うことになっている。
安全委員会については、当委員会の調査・検証において同委員会の在り方が問題として浮かび上がっている面は少ないが、これまでの調査では、耐震設計審査指針の改訂作業において十分な体制を取れなかったのではないかとの問題が指摘されており(前記3(4)参照)、原子力発電所の地震・津波対策のための指針の策定が十分かつ迅速であったかなどについて今後も検証を続ける必要があると考えている。
また、安全委員会の策定した指針類への適合性は、保安院での原子炉施設の安全審査において審査されており、安全委員会による二次審査は形骸化しているとの指摘もあり、規制当局の在り方にも関わる事項であるから、引き続き調査を行いたい。(462ページ)
--抜粋終わり-----------------------------
こうして中間報告を読んでみると、原子力安全保安院も、津波の可能性については十分に予測可能であったことがうかがえます。
平成21 年6月及び7月、「総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会地震・津波、地震・地盤合同ワーキンググループ」(合同WG)において、福島第一原発の耐震安全性評価中間報告書に対する評価が行われていた際、合同WGの委員から、貞観三陸沖地震・津波を考慮すべき旨の意見が出されていました。そしてこの議論に基づいて、保安院は東電に検討を命じ、検討結果の説明を受けていたのです。説明を受けた保安院の審査官は、波高が8m 台なら、津波がポンプの電動機据付けレベルを超え、ポンプの電動機が水没して原子炉の冷却機能が失われることを認識しました。
保安院の森山善範審議官(原子力安全基盤担当)をはじめとする責任者がこの問題に真剣に取り組んでいれば、平成23年3月に至るまでに何らかのより好ましい対応がなされていた可能性があります。
今回の原発事故に関しては、保安院の責任を厳しく追及すべきでしょう。
ところで、今回の中間報告では、原子力安全委員会の影が薄いです。報告書で「これらの規制当局が行う安全規制について、内閣府に設置された安全委員会(原子力安全委員会)が、その適切性を第三者的に監査・監視しており、安全規制の独立性、透明性を確保している」と認めているにかかわらずです。
安全委員会については最終報告できちんと評価するのかもしれません。それを期待しましょう。