弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

定額減税、事務負担重く

2024-05-30 15:20:48 | 歴史・社会
定額減税、事務負担重く
自治体、追加給付の対象特定 企業は扶養親族再確認
2024年5月30日 日経新聞
『政府が6月に定額減税を始めるのを前に、実務を担う地方自治体や企業は煩雑な事務作業に苦心している。減税額の計算や対象者の特定などを迫られているためだ。納税者本人と配偶者らを含む3200万人程度には減税と給付の両面から対応しなければならない。
定額減税は国の所得税を1人あたり年3万円、自治体の住民税を同1万円差し引く。会社員や公務員といった給与所得者の場合、6月以降の給与とボーナスの納税額を減らす。』
『住民税の非課税世帯など低所得層の1700万~1800万世帯は減税による恩恵を受けられないため、代わりに1世帯あたり10万円を軸に給付する。
・・納税額が少なく4万円分を減税できない世帯には給付を組み合わせる。4万円に足りない分を1万円単位で切り上げて給付する。』
『減税と給付を組み合わせる対象者は3200万人ほどとされる。給付の実務は市区町村が担う。』
『源泉徴収している企業の負担も重い。・・・定額減税の対象者数の把握には扶養親族の再確認が欠かせない。
給与明細には所得税の減税額を明記するよう義務づけられた。』

「減税」といいながら、何千万世帯もが減税と給付の組み合わせ、あるいは給付のみになる、という煩雑さです。そして市区町村は、給付が生じる世帯を割り出して連絡し、本人に銀行口座を含めて申告してもらわなければなりません。それを6月までに終える必要があります。

地方自治体と各企業での事務負担量の増加は半端なさそうです。これを経費に換算したら、大変な金額になるのではないでしょうか。

最近のテレビでのニュース番組では、定額減税の問題が大きく取り上げられています。
しかし、今回始まる制度で、このような問題が生じることについては、税務に携わる人であれば容易に把握できたはずです。主管官庁ならなおさらです。なぜ、このような制度の新設が提案されたときに、「このような問題が生じるので、定額減税はやめるべきだ。給付オンリーの制度とすべきだ」と進言しなかったのでしょうか。
最近の官邸主導の行政では、官邸から政策が降りてきたとき、問題点を指摘することなく、制度が成立して実施段階で大問題が生じても「ざまーみろ」という態度を取っているようです。
今から4年前、菅次期政権による霞ヶ関支配 2020-09-14において私は以下のように記述しました。
片山善博氏(元総務大臣)曰く『かつての官僚組織には問題もありましたが、プロフェッショナルとして国民に奉仕するという気概を持った方もたくさんいました。内閣人事局が悪用されている現在よりも過去の方が相対的にマシです。
役所のいいところを潰してしまいました。今の霞が関の雰囲気はこうです。国民のためではなく政権に言われたことをやる。それで失敗したら官邸のせいにして留飲を下げる。国民のためにならないのであれば、直言する気骨が失われてしまいました。』」

今回の定額減税制度についても、上記のようないきさつで馬鹿げた制度が成立してしまったのでしょうか。
上記記事を書いてから4年近くが経過しますが、霞ヶ関の劣化状況は改善されていないようです。

報道機関も報道機関です。ちょっと専門家の意見を聞けば、このような問題が生じることはすぐに判明するはずです。立法の段階で問題点を大々的に報道すべきでした。それが今になって、このような問題点を指摘されても後の祭りです。
日本の報道機関も劣化が激しいですね。
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朝日新聞「ラピダス秘録」

2024-05-06 09:29:32 | 歴史・社会
朝日新聞朝刊に、半導体製造の「ラピダス」に関する3回連載の特集記事が載りました。
(けいざい+)ラピダス秘録:上 なぜ日本?IBMは突然に
2024年4月30日 朝日新聞
『経済産業省の平井裕秀は2020年7月、商務情報政策局長に昇進した。ハイテク産業を所管する同省の枢要ポストである。着任してまもなく、入省年次で九つ上の先輩が就任祝いのあいさつにやってきた。先輩は平工奉文。製造産業局長を最後に退官し、このときは日本IBMの特別顧問を務めていた。』
このときから、IBMと経産省の密談が始まりました。
『IBM側は「2ナノ技術の導入について日本政府は関心はありますか」と投げかけてきた。』
米国IBMは、半導体の自社開発をあきらめず、オールバニで開発を進めていました。
経産省の平井は、IBM側の申し出を日本のどの企業に伝えるか頭を悩ませました。候補に挙がったのは、ルネサスエレクトロニクス、ソニー、東芝系のキオクシア、それにNTTでした。
IBMが、日本側のリーダー格の候補として唐突に持ち出したのが、半導体製造装置メーカー、東京エレクトロンのトップを長く務めた東哲郎でした。東の頭の中に、日立半導体部門出身の小池淳義の名が思い浮かびました。
『その年の暮れ、小池を中心にして2ナノを日本に導入できるか検証するチームが、ひそかに立ち上がった(マウントフジプロジェクト)。』
『最先端の2ナノの半導体製造に挑む国策会社ラピダスが誕生し、北海道千歳市に急ピッチで工場建設が進む。先端半導体の開発競争からとっくに脱落していた日本が、なぜ復権を目指すのか。その舞台裏を探った。』

(けいざい+)ラピダス秘録:中 台湾に生産集中のリスク、日米重ねた議論
2024年5月1日 朝日新聞
『経済産業相の萩生田光一は2022年1月、初めて「最先端の次世代半導体について検討していきたい」と聞かされた。報告したのは商務情報政策局長の野原諭。萩生田は「TSMCを決めたばかりなのに、もう次の案件を持ってきたのか」と驚いた。台湾のTSMC誘致に巨額補助金を支出できるよう、前年暮れに5G促進法を改正したばかりだった。』
極秘裏にできた「マウントフジ」チームが米国から帰り、野原はリーダーの小池から「IBMの2ナノの先端半導体を日本でも出来そうです」と聞かされていました。
自民党の甘利明氏は、元経産相で半導体戦略推進議連会長を務めます。議連の事務局長の関吉弘衆院議員は「40ナノしか作っていない日本に、2ナノはジャンプしすぎだ」と思いました。
2022年5月、萩生田氏は訪米し、日米会談を行いました。この頃から「米国がフルサポートするなら大丈夫」(甘利)と、自民党内の懐疑的な見方が少しずつ沈静化していきました。
経産省の野原氏は、2ナノ導入にはオランダのASML社が生産する極端紫外線(EUV)露光装置の調達が不可欠と思っていました。萩生田氏と訪米した野原氏は、その足でオランダに飛びました。1台200億円で、2年待ちと言われる装置を、「商用なら2台以上入れた方が良い」と言われました。

(けいざい+)ラピダス秘録:下 異形ベンチャー「やるなら一気に最先端」
2024年5月2日 朝日新聞
『小池淳義は2022年春、もはや自分たちで新しい会社をつくるしかないと腹を決めていた。』
東芝など国内メーカーが相次いでIBMの技術の導入に尻込みしたうえ、「マウントフジチーム」に参集したメンバーの約半分が「20年遅れの我が国には無理」と脱落しましたが、残った仲間は手ごたえを感じていました。
東は、「ラピダス」を22年8月に設立。東、小池とマウントフジチームの12人が個人出資した上、経済産業省幹部も同行してお願いに回り、トヨタ自動車やNECなど8社も出資。後に1兆円近い政府資金が投入されてゆきます。
--連載記事以上-----------------

私は、このブログの過去記事「湯之上隆著「半導体有事」 2023-06-04」、「新会社ラピダスが2nm半導体を目指す 2022-12-24」において、ラピダスについて意見を述べてきました。
流れてくる情報からでは、新興企業であるラピダスが2nmロジック半導体の量産に成功するような匂いを感じることができませんでした。
今回の朝日新聞の特集記事を読みましたが、私の危惧を払拭してくれるような内容は見られませんでした。「米国IBMの開発成果は、2nm半導体の量産を成功させるレベルにどれだけ近づいているのか」「ラピダスは、米国IBMの開発成果をさらに向上し、2nm半導体の量産を実現させるだけの技術力を具備できるのか」といった疑問に、朝日新聞の記事は何ら踏み込んでいません。
1年前の情報では、2nm半導体を量産できるのは台湾のTSMCのみであり、韓国のサムスンもアメリカのインテルも成功していませんでした。TSMCが量産に成功する裏では、膨大な数の試運転を繰り返して最適製造条件を探索してきた実績があります。インテルは7nmでつまずいていました。日本メーカーは、ルネサスが自社生産するのは40nmまでであり、それよりも微細の半導体はTSMCなどに生産委託していました。
日本でのロジック半導体メーカーの最大手はルネサスなのに、なぜルネサスがラピダスに関与していないのか、の裏事情について、今回の朝日記事を読むと、「早々に尻込みして退出した」ということかも知れません。
このような状況下で、半導体生産の経験が皆無であるラピダスが、どのようにして2nm半導体の量産に成功し得るのか、道筋が全く見えません。

朝日新聞の記事から匂うのは、経産省幹部の前のめりの姿勢であり、「経産省はまた以前の失敗を繰り返すのか」との心配しか見えてきません。
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英国富士通の冤罪事件

2024-01-31 15:43:44 | 歴史・社会
富士通が関与している英国での冤罪事件について、このブログでも
英国郵便局での冤罪事件 2024-01-14で記事にしました。

日経新聞に記事が掲載されました。
富士通子会社、英郵便冤罪に加担 不具合隠し訴追手助け
2024年1月31日 日経新聞
『郵便局を舞台にした英国史上最大の冤罪(えんざい)事件を巡り、欠陥のある会計システムを納めた富士通側の責任が浮上している。富士通の英子会社は1999年の納入当初からシステムの不具合を把握しつつ、その事実を隠して郵便局長らの訴追に加担してきた。幹部らの証言で明らかになった。
「不具合があることは配備の当初からわかっていた」。富士通の執行役員で欧州地域の共同最高経営責任者(CEO)を務めるポール・パターソン氏は19日、ロンドンでの公聴会で証言した。「このような恐ろしい冤罪に加担したことを申し訳なく思う」と謝罪した。
99年から全英の郵便局で、窓口の現金がシステム上の残高よりも復亡くなる問題が頻発した。国有企業ポストオフィスは公訴権を使って局長らを次々に訴追。2015年までに700人以上が横領や不正経理の罪に問われた。
のちに残高の不一致は富士通の英子会社、富士通サービシーズが納入した会計システム「ホライゾン」の不具合が原因だと判明した。』
富士通サービシーズの本社には「不正・訴追支援室」が置かれ、支援室のメンバーらは郵便局長の訴追に使われると知りつつ、データを送り続けました。データの信頼性に疑いがあることは社内に認識されていましたが、正しく記載すべきとの意見は黙殺されました。パターソン氏は富士通サービシーズ(以下「英国富士通」と呼びます。)の情報隠蔽について「理由は分からない。恥ずべきことだ」と語りました。
『富士通は1981年、英国の国策コンピューター会社だったICLと技術提携した。日本の通産省(当時)を介して英政府から持ちかけられたICL立て直しの要請に応じた。これが事件に関わるきっかけとなった。
90年に株式の80%を取得、98年に完全子会社化。』
『買収後もICLの多くの役員が残り、富士通本体の統制が利きにくかった、とされる。』

少しずつ、今回の問題が新聞紙上で語られ始めました。しかし、まだ分からない部分は多々あります。
ホライゾンのデータの不具合について、英国富士通は認識していたとして、国営ポストオフィス社にも報告していたのか、それともポストオフィス社にはデータの不具合を一切隠していたのか。ポストオフィス社に隠していたとしたら、英国富士通の責任は極めて重大になるでしょう。
ポストオフィス社には正直に不具合を報告していたとしたら、それを無視して郵便局長を訴追し続けたポストオフィス社の責任は重大です。その場合、英国富士通の責任はどの程度か。日本での当たり前の対応であれば、ポストオフィス社が不具合を知った後も訴追し続けた点はポストオフィス社の罪であり、英国富士通は道義的責任を負う程度でしょう。
ただし、英国富士通に設置された「不正・訴追支援室」が、不正データと知りつつ送り続けていたのだとしたら、英国富士通の責任は道義的責任にとどまらないでしょう。

『富士通は1981年、英国の国策コンピューター会社だったICLと技術提携した。日本の通産省(当時)を介して英政府から持ちかけられたICL立て直しの要請に応じた。』
また通産省(経産省)ですか。
東芝は、アメリカのウェスチングハウス社買収が重荷になって潰れました。この買収にも、裏で通産省が動いていた、との噂があります。
通産省(経産省)は、日本の大企業にとってとんでもなくやっかいなことをしてくれますね。
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自衛隊ヘリコプターの実働機数

2024-01-30 15:36:30 | 歴史・社会
1月1日に発生した能登半島地震は、能登半島山間部および海岸部の集落を直撃しました。陸路は寸断され、港も隆起して海路も寸断されています。自衛隊の中型ヘリコプターを大量導入して、迅速な救援・復興活動が必要であると痛感しました。しかし、ヘリコプターの大量活用についてのニュースが流れません。

1月9日には『能登半島への災害派遣が遅れている! 2024-01-09』にて
『ニュースで現地からの報道をしょっちゅう見るのですが、不思議なことに、ヘリコプターの爆音が聞こえてきません。上記のようなヘリの活動が最大限行われているのであれば、上空には間断なくヘリの爆音が響いているはずです。これだけヘリの爆音が聞こえていないということは、実はヘリの投入が非常に少ないのではないか・・・と勘ぐっていました。』
としました。

1月19日には『自衛隊のヘリコプターは実働何機が救難活動中か 2024-01-17』にて
『その後、自衛隊のヘリコプターが、機種ごとに、どの程度災害復旧活動に投入されているのか、定量的なデータにお目に掛かることがありません。
自衛隊の調達数において、UH-60 ブラックホークを合計で140機弱、UH-1を130機とあります。CH-47 チヌークの保有機数は65機のようです。いずれもウィキペディアから。
機種ごとに、現在の保有機数は何機で、そのうちの何機が震災復旧活動に従事しているのか、そこが知りたいです。』
としました。

最近になって、防衛省の『令和6年能登半島地震への対応|主な活動状況等一覧』を見つけました。活動状況が日報になっており、ヘリコプターの機種ごとに、その日の機数と活動内容が記されています。そこで、この日報の記載から、日々のヘリコプターの機種別活動機数を拾ってみることにしました。
(延べ機数、UH-60はSH-60を含む)
      UH-1 UH-60 CH-47 航空機計
1月2日   5   1    2    
1月3日   0   3    1    22
1月4日   1   3    0    33
1月5日   2   5    1    30
1月6日   2   11   9     30
1月7日   6    3   1    30
1月8日   0    2   0    40
1月9日   1    4   2    40
1月10日  6    3   5     
1月11日  5    2   3     
○ 11日(木)以降、孤立地域からの被災者の二次避難に係る輸送支援を推進
1月12日  1    0   0     
1月13日  3    1   0     
1月14日  0    0   0     
1月15日  1    2   0     
1月16日  0    3   1     
1月17日  0    0   0     
〇 17日(水)、在日米軍の航空機が被災者支援物資の輸送を実施。
1月18日  5    0   2    
1月19日  1    2   0     
〇 回転翼機による孤立地域からの希望者の輸送は終了
1月20日  0    0   3     
〇 孤立集落の実質的解消に伴い、回転翼機による孤立地域からの希望者の輸送は終了
在日米軍の航空機(UH-60)が被災者支援物資を能登空港まで輸送。
1月21日  0    0   0     
1月22日  0    0   0     
1月23日  0    0   1     
1月24日  0    0   0     
1月25日  0    0   0     
1月26日  0    0   0     
1月27日  0    0   0     
1月28日  0    0   0     
1月29日  0    0   0     

陸海空自衛隊は、合計で機種ごとに60~100機を運用していると思われますが、それにしては能登半島での活動機数が少なすぎるように思います。何が機数の増加を阻んでいるのか、そこは未だにわかりません。

在日米軍の航空機(UH-60)が活動した1月20日前後も、自衛隊の実働機数は極めてわずかです。なぜ在日米軍の支援が必要になったのでしょうか。

UH-60 ブラックホーク

UH-1

後方の安全地帯から能登半島の中核拠点までは、CH-47 チヌークで大量輸送が可能です。
CH-47 チヌーク
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JAL機はなぜ全損したのか

2024-01-29 15:47:04 | 歴史・社会
消火栓が使えれば 輪島の火災、なぜ拡大 元消防団員「初期消火で消せたはず」 能登地震
2024年1月25日 朝日新聞
『能登半島地震に伴う大規模火災で、地元の海産物や野菜が並ぶ観光名所「輪島朝市」(石川県輪島市)は壊滅状態となった。なぜ炎は燃え広がったのか。消防団員らの証言からたどった。』
『消火栓が使えていれば』
『元消防団員「初期消火で消せたはず」』
あの大地震と大津波の直後でしたが、消防団員は現場に駆けつけ、消火に励んでいたのですね。ただし消火栓が使えず、あれだけの大火事になってしまいました。

私は、1月1日の輪島における大火事と同様、1月2日の羽田空港事故におけるJAL機の火災が気になりました。
衝突の日航機、全損事故は初 専門家、複合材の性能「検証を」
2024年1月13日 16時49分 (共同通信)
全損したJAL機の写真
『羽田空港で海上保安庁と日航の航空機が衝突、炎上した事故で、日航の機体は欧州航空機大手エアバスの最新鋭機A350―900型だった。軽量化で燃費向上を図るため、炭素繊維と樹脂を組み合わせた複合材料を多く使っているのが特徴で、エアバスによると、A350の全損事故は初めて。専門家は炭素繊維複合材の性能について検証し、安全性向上に生かすべきだとしている。』

私は、羽田航空機事故経緯 2024-01-07に書いたように、事故の直後から、JAL機が燃える状況をリアルタイムでテレビで見ていました。事故発生(17時47分頃)から30分後あたりからずっとです。JAL機の左側です。その当初は、火が出ているものの左エンジン付近でちょろちょろ、右側については良く分かりませんが右翼付近に火が出て切るようでした。いずれにしろ、胴体からは火が出ていません。そのうち、後部付近の窓二つが赤く染まり、人力の放水がその窓めがけてなされるようになりました。
機内からの人命救助に奔走しているような人は見当たりません。機内の全員が脱出したことを、消防も把握していたはずです。しかし消火活動は、極めておとなしい、遠慮がち、に行われていました。機体の側面の多数の窓のうち、後方の二つが赤く染まったら、消防士が手持ちのホースでその窓に放水する、といった程度です。機体の近くには消防車も配置されています。機体の上部から煙が立ち上ると、その煙の部分のみをめがけて消防車からの消化剤散布がなされます。煙はすぐにおさまり、その後はその消防車は消化剤を散布せずに火災を傍観しています。

そうこうするうちに機体の全体に火が回り、最終的に機体は完全に燃え落ちました。

消防車による消化剤散布活動は、何であんなに遠慮がちだったのだろうか。とても不思議でした。
そしてその結果として、機体は全損です。主翼の両端のみが燃えずに残りました。

今回の機体の全損は、消火活動が消極的、遠慮がちであったことが原因と思います。上記ニュースでは、『エアバスによると、A350の全損事故は初めて』とし、全損の理由が機体の材質にある、との推測です。『消火活動が消極的であったため』との推論は全くなされていません。一体どうなっているのでしょうか。
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自衛隊のヘリコプターは実働何機が救難活動中か

2024-01-17 18:02:56 | 歴史・社会
今回の能登半島地震で、自衛隊のヘリコプターによる復旧活動が遅れているのではないか?との記事を、1月9日にアップしました。
能登半島への災害派遣が遅れている! 2024-01-09
今回の被災地は能登半島の山間部で、山間の孤立集落までの陸路が寸断されています。海路についても、海底の隆起で港が使えません。
陸海空自衛隊のヘリコプターを全面投入して、救出・復旧活動に利用すべきです。
山間の孤立集落には広いヘリポートを設ける空き地がないでしょうから、現地に出向くヘリコプターは中型、例えば自衛隊のUH-60 ブラックホークUH-1が最適と思います。
UH-60 ブラックホーク

UH-1

後方の安全地帯から能登半島の中核拠点までは、CH-47 チヌークで大量輸送が可能です。
CH-47 チヌーク
例えば、能登半島の中央に位置する能登空港を中核拠点とし、金沢市の物資集積場所から能登空港まではチヌーク、そして能登空港から孤立集落まではブラックホーク、といった運用が考えられます。

ところが、1月9日の以下のニュース
自衛隊6300人態勢に 木原防衛大臣、墜落事故の陸自ヘリ「UH60」も投入と発表 能登半島地震で、
『去年4月、沖縄県宮古島周辺で墜落事故を起こした陸上自衛隊のヘリコプター「UH-60」をきょう以降、現場に投入すると発表しました。事故発生以降、このヘリコプターが任務での飛行を行うのは初めてで、海上自衛隊の輸送艦から、孤立地域への物資輸送を行うということです。』
と報道されました。

その後、自衛隊のヘリコプターが、機種ごとに、どの程度災害復旧活動に投入されているのか、定量的なデータにお目に掛かることがありません。
自衛隊の調達数において、UH-60 ブラックホークを合計で140機弱、UH-1を130機とあります。CH-47 チヌークの保有機数は65機のようです。いずれもウィキペディアから。
機種ごとに、現在の保有機数は何機で、そのうちの何機が震災復旧活動に従事しているのか、そこが知りたいです。

実は、熊本地震の時も、自衛隊のヘリコプターが満足に投入できなかった事例があるのです。このブログでは、
熊本地震への救援活動 2016-04-18
熊本地震で自衛隊CH-47ヘリはどうしていた? 2016-05-16で記事にしました。
『熊本地震の発生時、自衛隊の大型輸送ヘリコプター「CH47」全約70機の約8割が、緊急点検などのために飛行できなかったことが、関係者への取材でわかった。
防衛省は、被災地への物資輸送が滞ると判断、米軍の支援を受けてオスプレイが投入されたという。』
という体たらくだったのです。

今回も、気になるニュースがありました。
【能登半島地震】在日米軍の支援物資輸送始まる
1/17(水) 16:20配信
『在日アメリカ軍による能登半島地震の被災地への支援物資の輸送が17日から始まりました。
在日アメリカ軍は、日本政府からの要請を受け、17日から航空自衛隊の小松基地を拠点にUH‐60ヘリコプター2機で被災者への支援物資を輸送します。』
『これまで自衛隊が行っていた物資の輸送をアメリカ軍が担うことで、自衛隊が二次避難者の輸送を増やすことができるとしています。』

日本の自衛隊はUH‐60、CH-47ヘリコプターを多数保有しているのに、何で米軍の2機が有用なのか、わかりません。熊本地震の時と同様、自衛隊の実働可能機数が大幅に低下している現状があるのではないか、と疑ってしまいます。
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英国郵便局での冤罪事件

2024-01-14 13:12:08 | 歴史・社会
わが家で購入している日経新聞と朝日新聞で、英国での富士通製システムの問題に基づく冤罪事件が相次いで記事になりました。
私はこの事件のことを今回の新聞記事で始めて知ったのですが、その経緯の不可解さに驚いています。

英郵便の冤罪、富士通批判再び 会計システム欠陥
ドラマ放映契機 被害700人、救済新法導入へ
2024年1月12日 日経新聞
『英国の郵便局で起きた大規模な冤罪事件が、テレビドラマの放映を機に再び関心を集めている。事件の引き金となった会計システムを納入した富士通への批判も高まり、英下院は同社幹部らに証言を求めた。
事件の発端は1999年だった。各地の郵便局に富士通の会計システム「ホライゾン」が導入された後、窓口の現金が会計システム上の残高よりも少なくなる問題が頻発するようになった。
郵便局を束ねる英ポストオフィスは、横領や不正経理をしたとみて、郵便局長らに補償を要求。局長らは借金などで差額を埋めることを余儀なくされた。この結果、破産や自殺に追い込まれるケースもあったという。2015年までに700人以上の局長らが罪に問われた。
その後、富士通の会計システムの欠陥が原因だと判明した。システムを納入した英国子会社の富士通サービシーズは、1990年に富士通が買収した英ICLを母体とする。』

「富士通も補償関与を」 有罪判決受けた女性 英郵便局冤罪事件
2024年1月14日 朝日新聞
『英国史上最大規模の冤罪といわれ、ドラマ化を機に再び注目を集めている「郵便局事件」で有罪判決を受けた女性が、オンライン取材に応じた。判決は後に覆されたが、「失われた時間は戻ってこない」と嘆く。
郵便当局によって訴追された700人以上のうちの1人、ポーリン・ストーンハウスさん(51)。2004年に小さな郵便局をオープンさせた。局内に導入されていた富士通の会計システム「ホライゾン」に度々問題が生じた。端末上に表示されている金額と手元の現金が合わない。1年近くが過ぎ、郵便当局の監査役から盗んだのではないかと嫌疑をかけられ、営業停止処分を受けた。破産宣告、自宅の差し押さえ。
08年に不正会計の罪で刑事訴追された。刑務所に入れられて家族すら奪われるかもしれない。それが怖くて罪を認めた。
その後、ホライゾンの欠陥の可能性が指摘され、21年にようやく、有罪判決が控訴審で破棄された。
富士通のシステムは1999年から導入され、いまも各地の郵便局で使われている。同社は現時点で補償に関与していない。』

英国の(おそらく)すべての郵便局にホライゾンシステムが導入されたのが1999年頃。そしてそのあとから、窓口の現金が会計システム上の残高よりも少なくなる問題が頻発するようになりました。各地の郵便局で同時にこのような問題が発生したら、普通はシステムの不具合を疑うものです。ところが英国の国営ポストオフィスは、システムの不具合を全く疑わず、英国の各地に独立に郵便局を経営する700人の郵便局長が、示し合わせたように同時期に故意に不正を働いた、と断じたわけです。このような意思決定は全く持って理解することができません。
1999年に導入したシステムで問題が発生し、2008年時点でもまだ郵便局長の不正であると断じられ、システムの不具合が原因であるとわかったのが2021年ですか。その間、システムの不具合を疑ってチェックした関係者が皆無だったというのは、どう考えてもあり得ないことです。

富士通の会計システムが引き起こした英郵便局スキャンダル
2022年3月7日 大井真理子、BBCニュース アジアビジネス担当編集委員
『また集団訴訟の結果、2019年12月に、郵政の窓口業務を担当する会社ポスト・オフィスが555人に対し、計5800万ポンド(約90億円)を支払うことで和解している。
長年、ポスト・オフィス側は「システムには問題がなかった」と主張したが、高等法院の判事は、システムのエラーや不良のため郵便局の支店口座で不一致が生じたと判断した。』

システムの問題が原因であると結論づけたのは、国営ポストオフィスでもなく、システムを作った英国富士通でもなく、高等法院の判事だったのですね。

英史上最大の冤罪と闘う郵便局長を描いたTVドラマが「ヴォルデモート」富士通を追い詰める
1/11(木) 木村正人在英国際ジャーナリスト
『すべてを失った元局長らが無実を証明するまでの約23年の闘いを描いた英民放ITVのドラマ「ミスター・ベイツ vsポストオフィス」が1月1日から4日連続で放映されたことが扉を押し開けた。
「信じられないような話ばかりだった。この物語には現実にあった信じられないようなことがたくさん出てくる。ただただ驚いた。ホライズンの端末で現金の不足表示が倍になるのを目の当たりにしたのに自分のせいだと言う人がいるなんて普通あり得ない。みんな現金不足が発生しているのはあなただけだとポストオフィスにウソをつかれていた。狂気の沙汰だ」』

ホライゾンというシステムを作った英国富士通、その実態は、日本富士通が買収したICLという会社だったようです。日本富士通と英国富士通との間の連絡は非常に悪かったようです。システムの不具合を長年にわたって見過ごし、無実の大勢の人々に苦しみを与えた責任はどこにあるのか。国営ポストオフィス、英国富士通、日本富士通、英国政府それぞれの責任がこれから問われていくのでしょうか。
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能登半島への災害派遣が遅れている!

2024-01-09 16:01:49 | 歴史・社会
今回の能登半島地震に対応した自衛隊の災害派遣について、「派遣が遅く、かつ逐次投入だ!」との批判が相次いでいます。
当初の1000人から2000人、そして4000人と増員した点については、例えば『当初から1万人体制を予定し、その先遣・偵察としてまずは1000人を派遣した』のようなことであれば納得できます。しかしそうであればそのように最初からアナウンスすべきです。そうでないと、『当初は1000人で足りると思っていた。足りないのであわてて逐次投入した』と勘ぐられても致し方ありません。
自衛隊の人数はさておき。

今回の被災地は能登半島の山間部で、山間の孤立集落までの陸路が寸断されています。海路についても、海底の隆起で港が使えません。
このようなとき、ヘリコプターの利用が真っ先に思い浮かびます。陸海空自衛隊のヘリコプターを全面投入して、山間の孤立集落に物資を届けて生活の安定を実現し、衛星電話と電源を届けて対策本部との通信を実現し、後方の安全な場所に移動を希望する被災者を迅速に運搬する、という活動を行うことができます。
山間の孤立集落には広いヘリポートを設ける空き地がないでしょうから、現地に出向くヘリコプターは中型、例えば自衛隊のUH-60 ブラックホークUH-1が最適と思います。
UH-60 ブラックホーク

UH-1

後方の安全地帯から能登半島の中核拠点までは、CH-47 チヌークで大量輸送が可能です。
CH-47 チヌーク
例えば、能登半島の中央に位置する能登空港を中核拠点とし、金沢市の物資集積場所から能登空港まではチヌーク、そして能登空港から孤立集落まではブラックホーク、といった運用が考えられます。

ニュースで現地からの報道をしょっちゅう見るのですが、不思議なことに、ヘリコプターの爆音が聞こえてきません。上記のようなヘリの活動が最大限行われているのであれば、上空には間断なくヘリの爆音が響いているはずです。これだけヘリの爆音が聞こえていないということは、実はヘリの投入が非常に少ないのではないか・・・と勘ぐっていました。

そこに以下のニュースです。
自衛隊6300人態勢に 木原防衛大臣、墜落事故の陸自ヘリ「UH60」も投入と発表 能登半島地震
1/9(火) 14:58
『木原防衛大臣は能登半島地震の災害派遣について、自衛隊を6300人態勢に増強し、去年4月に墜落事故を起こした陸上自衛隊のヘリコプターも投入すると発表しました。
木原防衛大臣
「本日も自衛隊は人員約6300名、航空機約40機、艦艇9隻で活動を実施しております」
木原防衛大臣は災害派遣の現状について、「狭い地域にも着陸ができる中型ヘリコプターの運用が必要な状況」だと説明しました。
そのうえで、去年4月、沖縄県宮古島周辺で墜落事故を起こした陸上自衛隊のヘリコプター「UH-60」をきょう以降、現場に投入すると発表しました。事故発生以降、このヘリコプターが任務での飛行を行うのは初めてで、海上自衛隊の輸送艦から、孤立地域への物資輸送を行うということです。』

「狭い地域にも着陸ができる中型ヘリコプターの運用が必要な状況」だ、との認識を、地震発生から9日後にやっと気づいたのですか。
そもそも、最も活躍するであろうと想像できるブラックホークについて、宮古島での墜落事故から今日まで、任務では使われていなかったのですね。それもびっくりです。ブラックホークは長い間、そして全世界で、多数が運用されているのにもかかわらず、です。
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滑走路誤進入が多発している状況

2024-01-08 21:53:12 | 歴史・社会
今回、海保機が滑走路内に誤進入してしまい、事故の原因となった件について

管制(Tokyo tower)から海保機(JA722A)に発せられた指示は、話し言葉で以下の通りです。
17:45:11 Tokyo Tower(管制) JA722A Tokyo tower good morning. No.1. taxi to holding point C5.
JA722A(海保機) Taxi to holding point C5 JA722A No.1. Thank you.

この、"taxi to holding point C5"というフレーズが管制用語(ATC)に導入されたいきさつについて記載された以下の記事が、今回事故との関係で示唆に富んでいると感じました。

JAPA西日本支部
公益社団法人日本航空機操縦士協会 西日本支部 ホームページ
2012年8月21日火曜日
『新しい管制用語を覚えてください" TAXI TO HOLDING POINT ~."
AIRAC 航空路誌改訂版に、2012年9月20日から有効になる、新しい管制用語が掲載されました。
" TAXI TO HOLDING POINT ~."という用語です。

滑走路誤進入が多発し、いろいろな再発防止策を実施していますが、残念ながら滑走路誤進入が減っているとは言えない状況です。
この用語も滑走路誤進入をなくすために導入されたものと聞いています。
パイロットは、この新しい用語を覚えるだけでなく、導入された背景を忘れないで欲しいと思います。

あと、滑走路誤進入が発生するのは、この用語で地上滑走の許可をもらった直後ではなく、この用語で地上滑走の許可をもらい、数分間地上滑走した後というケースが多いのではないかと思います。
地上滑走の許可をもらった直後はその内容をしっかり覚えていても、数分間地上滑走しているうちに、内容を忘れてしまったり間違ったりすることは、人間であれば十分考えられることです。』
------------------------

まずは、
『滑走路誤進入が多発し、いろいろな再発防止策を実施していますが、残念ながら滑走路誤進入が減っているとは言えない状況です。』
という現状認識です。そして、その対策の一つとして、
『" TAXI TO HOLDING POINT ~."という用語です。』
『この用語も滑走路誤進入をなくすために導入されたものと聞いています。』
と、管制用語に改善が施されました。

今回の事故のあとに明らかになったように、滑走路誤進入による事故を防止するために、管制用語の改善(第1)だけでなく、2つの対策がすでに実施されていると言うことです。

第2の対策はSTBL(Stop bar light)です。管制官によるスイッチ操作で、滑走路進入許可が下りる前には、C5の進入路の地面に横一列に赤ランプが点灯し、パイロットに「滑走路進入禁止」を知らせることができます。

第3の対策は滑走路占有監視支援機能です。上記第1の対策、第2の対策にもかかわらず航空機が滑走路に誤進入した場合、管制官のディスプレイ上で、滑走路を黄色に、航空機マークを赤色にすることにより、誤進入の事実を管制官に伝える機能です。

羽田のC滑走路にはこれらすべての対策が実現していました。
しかし、第2の対策のSTBLは、天候不良時のみに使用されることとなっており、さらに昨年12月27日以降は稼働を停止していました。1月2日にたとえ稼働中であっても、天候不良ではないので使われることはなかったでしょう。
第3の対策の「滑走路占有監視支援機能」は事故当時にも正常に機能していたらしいですが、管制官に注目義務はなく、実際にその色の変化に気づくことができませんでした。

第2,第3の対策に対して、管制サイドが非常に否定的であることがわかります。しかし、上記
『滑走路誤進入が多発し、いろいろな再発防止策を実施していますが、残念ながら滑走路誤進入が減っているとは言えない状況です。』
との現状認識に立つのであれば、第2,第3の対策は大喜びで使い始めるべき対策の筈です。

ところで、海保機が滑走路内に誤進入したあと、40秒も静止していたとのことです。この静止の意味がわかりません。
「離陸許可をもらったつもりであった」なら、滑走路進入後に速やかに離陸するはずです。
「滑走路に進入して待て」("Line up and wait")との指令と勘違いしたのでしょうか。真相解明を進める上で、海保機の機長にはこの点を確かめてもらいたいものです。
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羽田航空機事故経緯

2024-01-07 16:06:30 | 歴史・社会
1月2日、羽田空港でのJAL機と海保機の衝突事故発生時、わが家ではテレビを観ていたので、JAL機の様子については事故直後からリアルタイムで見ていました。
事故発生(17時47分頃)から30分後あたりから、JAL機がテレビで放映されていました。JAL機の左側です。その当初は、火が出ているものの左エンジン付近でちょろちょろ、右側については良く分かりませんが右翼付近に火が出て切るようでした。いずれにしろ、胴体からは火が出ていません。そのうち、後部付近の窓二つが赤く染まり、人力の放水がその窓めがけてなされるようになりました。
リアルタイムの映像は流れるものの、乗員の脱出状況については何ら説明がありません。報道には何の情報も流れていないのでしょう。ただし、乗員救出に従事する人の姿は全く見られないので、すでに機内には乗員がいないのであろう、という想像はできました。

その後、乗員乗客の全員が脱出済みであることが報道されました。

管制と飛行機との交信記録が公表されたのは3日の遅くでした。実際の交信は英語ベースのATC(Air Traffic Controll)語であるのに、公表文は日本語翻訳でした。元のATCは以下の通りです。
17:45:11 Tokyo Tower(管制) JA722A Tokyo tower good morning. No.1. taxi to holding point C5.
JA722A(海保機) Taxi to holding point C5 JA722A No.1. Thank you.

ネット検索すると、羽田C滑走路には、STBL(Stop bar light)が設置されているとの記述が見つかりました。ただし、昨年12月27日以降は使用停止されていると・・・。しかし、新聞やテレビではこの設備の存在には全く触れていません。何日かしてやっと報道に登場しましたが・・・。

1月6日、突然各報道に以下の情報が流れました。
『羽田空港の滑走路で日航と海上保安庁の航空機が衝突した事故で新事実が判明した。着陸機が接近する滑走路に別の機体が進入した場合、管制官に画面で注意喚起する「滑走路占有監視支援機能」が、事故当時、正常に作動していたことが分かった。国交省が5日、明らかにした。
・・
事故当時、この機能が作動し、海保機の進入を検知していれば、管制官が使う装置の画面上では、滑走路全体が黄色に点滅し、航空機が赤色に変わっていた可能性がある。
・・
交信記録によると、2日午後5時45分に、管制官が「1番目。C5上の滑走路停止位置まで地上走行してください」と海保機に指示した。機長は8秒後に「向かいます」と復唱したが、そのまま滑走路に進入し、約40秒間停止した。直後の5時47分、着陸してきた日航機と衝突した。

通常、管制の指示は機長と副機長が仰ぐ。機長はこれまでの聞き取りに「許可を得て進入した」と説明し、その後の聞き取りで「他のクルーにも(管制指示を)確認した」と話したという。海保機側が「1番目(の離陸予定だ)」と伝えた管制指示を優先離陸と誤認した可能性もある。』

それまで、私が検索した範囲で、「滑走路占有監視支援機能」に言及した記事は皆無でした。それが、国交省からの情報が5日に出た途端、各報道が一斉にニュースにしました。
事故発生から1月5日までの間に、この「滑走路占有監視支援機能」についての発言がなかったか検索しましたが、非専門家のブログで1件見つかったのみで、専門家の発言は皆無でした。
こちらの情報によると、MLAT(マルチラテレーション)とも呼ばれ、航空機のトランスポンダから送信される信号(スキッタ)を3カ所以上の受信局で受信して、受信時刻の差から航空機等の位置を測定する監視システムだそうです。着陸機が接近中に出発機または横断機が滑走路に入った場合、管制官のディスプレイ上で飛行機が赤色に変わり、滑走路が黄色に変わるようです。

ところが、一般の報道では公表されていませんが、一部で以下の発言があったようです。ミヤネ屋元日本航空機長(杉江弘さん)の発言として、『海保機はトランスポンダーが古いタイプのため、管制官のレーダーには映らず、海保機が何処にいるか分からない状態だった』が紹介されていました。「滑走路占有監視支援機能」で使用可能なトランスポンダーではなかった、という意味のようです。
ということは、羽田の「滑走路占有監視支援機能」システムが事故の当日に正常に動作していたとしても、海保機がこのシステムに対応しない機体であったため、このシステムからは何ら警報は出されていなかったことになります。
--------------------------
1月2日に発生した今回の航空機事故、本日7日時点で、関係機関からの公表、報道機関の報道には違和感が多くあります。

事故当日2日の21時に国交省と海保の合同記者会見がありました。記者からの質問に対する回答は、私がその時点までにテレビ画面で認識できていた内容から一つも追加されませんでした。隠しているのか、それとも本当にそれ以上の知識が得られていないのか、いずれにしても情けない限りでした。

翌3日に管制と航空機の交信記録が公表されましたが、日本語翻訳であって原文ではありませんでした。
"Holding point C5"を「C5上の滑走路停止位置」と訳していますが、これでは「滑走路上の停止位置」のようにも受け取れてしまいます。
そもそも、ATCで使われる英文は厳密に規定され、それぞれ意味が定まっています。
"Holding point C5"は、滑走路内に誤進入しないようにとの意味が込められて定められたようです(こちら)。
離陸するときに滑走路に進入して待機する場合は"Line up and wait"が使われます。以前は"Taxi into position and hold."と言われていたらしく、海保機のクルーは昔の規定が頭の中にあり、"Taxi to Holding point C5"を「C5の滑走路に進入して待機せよ」と誤解したかも知れません。

STBL(Stop bar light)についての報道が事故から数日後まで登場しなかったことも不可解です。羽田のC滑走路にはこのシステムが設置されていたものの、事故当日は作動していなかった、というのは重要な事実です。
このシステム、天候不良時にしか使われないのだそうです。天候良好であれば夜間でも使用しない、ということで、たとえ事故当日に正常であっても、使われていなかったことになります。一方では今回の事故で「夜間だからJAL機から滑走路内の海保機を発見できなかった」と言い訳しているわけで、それならば夜間にはSTBLが有効な事故防止手段になっていたことになります。この矛盾点を報道は指摘しなければなりません。
東芝の資料を見ると、管制官の操作盤においてSTBLの運用卓は独立しているらしく、ということは管制官にとって使いづらいシステムであった可能性が高いです。そのような使いづらいシステムは管制官から敬遠され、必須設備への格上げがなされなかった可能性があります。
報道機関は、STBLの位置づけその他について、厳しく当局を追求する必要があります。

「滑走路占有監視支援機能」(MLAT)についてはわからないことが多すぎます。現時点ではこれ以上追求せず、今後の報道を見守ることとします。
少なくとも、このような機能が現実に実現しているのですから、必須で活用すべきです。着陸滑走路に別の機体が誤進入したら、ディスプレイの色が変わるだけではなく、音でも警告すべきです。「誤警報が多すぎて却って混乱する」が現状であるなら、誤警報を減らす努力をなすべきです。今回の海保機がMLATに対応するトランスポンダーを搭載していなかったのであれば、対応トランスポンダーの設置を義務化すべきです。

p.s. 1/8 滑走路占有監視支援機能と海保機との関係
調べて見ると、今回の海保機は、トランスポンダーは搭載していたがADS-B非対応であった、ということのようです。そして、滑走路占有監視支援機能は、飛行機の位置特定のための三角測量にトランスポンダー信号を用い、航空機便名などの情報取得のためにADS-B信号を用いているようです。そうとすると、羽田の管制ディスプレイにおいて、海保機の位置は特定でき、滑走路への進入を検知して滑走路と飛行機のマークの色を変更し得たものの、航空機便名は非表示であった、ということになりそうです。
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