コメの小売価格は、今年3月には4172円/5kgで、1年前に比べて倍の値段となり、備蓄米を放出しているにもかかわらず一向に低下しません。こういうときこそ輸入米を増やして対応すべきと思うのですが、最近になるまで輸入米を増やす話は報道にも出てきませんでした。
最近、以下の2つの記事を読みました。
コメ価格高騰、甘かった政府の需要見通し 西川邦夫氏茨城大学教授
2025年4月14日 日経新聞
『ポイント
○「令和の米騒動」は生産調整の限界を示す
○備蓄米放出は目標価格の設定と合わせて
○事後調整への転換や先物市場の活用必要
市場における価格変動を説明する際には、まずはその商品の需給に注目することが一般的である。しかし今次の米価高騰の要因として指摘されるのは流通スタック(停滞)や転売業者等による投機的な取引であり、なぜか需給関係への注目は避けられている。本論ではコメ市場の需給関係から米価高騰の要因を明らかにするとともに、今後の価格動向を展望したい。』
文藝春秋5月号「コメの値段はこの秋も上がる」久保田新之助
零細農家を守るための政策が元凶だ

《コメ価格の高騰とその対策》
農水省は一貫して、「需要に見合うだけのコメの量は確実にこの日本のなかにはあります」「流通がスタック(停滞)して消費者価格が上がっている。流通に問題がある。」との説明です。重い腰を上げて3月から備蓄米の放出を始めており、農水省はこれでコメの値段が下がると言っていましたが、一向に下がりません。
これに対して上記2つの論説では、「需給バランスで供給不足に陥ったことが価格上昇の原因」との見立てで共通しています。両者とも、「6月末民間在庫」の量に着目しています。従来、180~200万トンで需給が均衡することが言われてきました。2020年産と2021年産の在庫は200万トンを超え、流通業者間の取引価格を示す相対取引価格は21年産で13000円/60kg(1083円/5kg)を下回るまで下落しました。
需要減少には供給削減で対応していました。政府は毎年11月に翌年産の需要見通しと生産見通しを公表し、各道府県はそれにあわせて生産量の枠を作成し、それに沿って生産者が生産します。23年産の6月末民間在庫は197万トンと正常化し、相対取引価格は22年産で15000円/60kg(1250円/5kg)に持ち直しました。
しかし23年産で設定された生産見通しは需要見通し(680万トン)を下回る669万トン、実際の生産量はさらにそれを下回る661万トンでした。作況指数は平年作の100を超えて101でしたが、高温障害が襲い、23年米の一等米比率は61.3%と低い値でした。
もうひとつの誤算として、需要量実績が705万トンとなり、見通し(680万トン)を25万トンも超えてしまいました。供給のずれが19万トン、需要のずれが25万トン、合計44万トンの需給ギャップが発生しました。
その結果、23年産の(24年)6月末民間在庫は153万トンと低い値となりました。
端境期に棚からコメが消えるには十分な量でした。米価はつり上げられ、「令和の米騒動」の要因となりました。農産物について、わずかな需給変動で価格が大きく変動することは、農業経済学の基本です。
ここまでは、2つの論説でほぼ同じ内容です。
今年秋の予想について、両者に相違が出ています。
日経新聞の論説:
24年産については、生産量が需給見通しに対して8万トン多い値です。25年3月に備蓄米21万トンが販売され、4月には10万トンが追加されます。単純計算では需給ギャップは5万トン(=44-8-31)まで縮小することになります。ただし、備蓄米が流通に出てくることが前提ですが、現時点ではほとんど流通に出てきていないようです。
『需給ギャップは3回目の放出まででほとんどが解消されると考えられるので、それでもなお備蓄米の放出を続けるなら、米価が想定以上に急落する可能性も否めない』としています。
文藝春秋の論説:
ある卸売業者のシミュレーション結果として、6月末の民間在庫量は備蓄米を抜きにすれば62万トンにしかならないとのことです。これに備蓄米を加えたとしても適正在庫よりもはるかに低いので、「政府が備蓄米をさらに放出しない限り、非常にまずい状況になるのは目に見えています」としています。
《輸入米について》
コメの輸入について、年間約77万トン(玄米ベース)はミニマムアクセス米として関税ゼロで輸入し、それ以外については341円/1kg(1705円/5kg)の関税がかかります。
現在のように、コメの小売価格が4000円/5kg前後であれば、関税がかかった輸入米でも国産米より低価格で販売されるはずです。今こそ、輸入米を増やして店頭に並べるべきでしょう。
一方、コメの需給バランスが回復してコメの小売価格が2000円/5kg前後まで下がったら、多分関税のかかった輸入米の小売価格の方が高くなるので、輸入米の競争力は失われるでしょう。
コメの小売価格が高い現時点で輸入米が増加したとしても、コメの生産者は何ら恐れることはありません。輸入米が増えるといってもせいぜい数万トン~数十万トンの話です。輸入米に対する現行関税のもとで輸入米が競争力を有するのは、コメ価格が高騰している時期のみです。輸入米の供給が理由となってコメ価格が沈静化して国産米の小売価格が正常値まで下がれば、輸入米は競争力を失ってそれ以上は売れなくなるでしょう。
コメ価格の高騰で誰が儲けているのかが不明ですが、生産者もコメ価格高騰の恩恵を受けているのだとしたら、輸入米の増加に対して生産者は涼しい顔をして眺めていれば良いのです。
《減反》
減反の目的はコメの価格を維持することでした。減反を進めることで、農家の収入を確保し、日本では零細な兼業農家が多数を占めることとなりました。2017年をもって表向きは減反を廃止したことになっていますが、交付金によってコメからの転作を奨励することによって、実質上は(コメの)減反は続いています。
《コメの高温障害》
上述のように、23年産は高温障害に遭って一等米比率が61.3%でした。高温障害は20年以上前から問題になっており、高温に強い品種が開発されました。しかし普及面積は14.7%にとどまっています。兼業農家(当主が定年退職した今は専業農家でしょうが)は、農業で儲ける必要がなく、いまさら高温に強い品種に変えるつもりもないのです。
《備蓄米の放出》
中食・外食事業者の集まりの協会会長が、昨年の8月に農水大臣と面談し、備蓄米の放出を要請しましたが、受け入れられることはありませんでした。
今年3月にやっと備蓄米の放出を決めましたが、1年以内に同等・同量の国産米を買い戻すことが条件です。放出された備蓄米のうち、市場に出回っているのはごく僅かなようです。
《先物市場》
日経新聞の論説では、「生産者にとって収穫前にリスク管理をする方法として、24年8月に設立された先物市場の利用も検討に値するだろう」としています。
文藝春秋の論説に先物市場の経緯が記載されています。2011年、試験上場という形で先物が動き始めました。農家にとってはコメの価格が下落した時への備えと、経営計画の立案に有効だと評価されました。21年はいよいよ本上場することが確実視されていましたが、JAの政治力によって突如廃止に追い込まれました。JAが価格決定権を失うことを恐れたため、としています。
先物市場は24年に再び開設されました。
最近、以下の2つの記事を読みました。
コメ価格高騰、甘かった政府の需要見通し 西川邦夫氏茨城大学教授
2025年4月14日 日経新聞
『ポイント
○「令和の米騒動」は生産調整の限界を示す
○備蓄米放出は目標価格の設定と合わせて
○事後調整への転換や先物市場の活用必要
市場における価格変動を説明する際には、まずはその商品の需給に注目することが一般的である。しかし今次の米価高騰の要因として指摘されるのは流通スタック(停滞)や転売業者等による投機的な取引であり、なぜか需給関係への注目は避けられている。本論ではコメ市場の需給関係から米価高騰の要因を明らかにするとともに、今後の価格動向を展望したい。』
文藝春秋5月号「コメの値段はこの秋も上がる」久保田新之助
零細農家を守るための政策が元凶だ

《コメ価格の高騰とその対策》
農水省は一貫して、「需要に見合うだけのコメの量は確実にこの日本のなかにはあります」「流通がスタック(停滞)して消費者価格が上がっている。流通に問題がある。」との説明です。重い腰を上げて3月から備蓄米の放出を始めており、農水省はこれでコメの値段が下がると言っていましたが、一向に下がりません。
これに対して上記2つの論説では、「需給バランスで供給不足に陥ったことが価格上昇の原因」との見立てで共通しています。両者とも、「6月末民間在庫」の量に着目しています。従来、180~200万トンで需給が均衡することが言われてきました。2020年産と2021年産の在庫は200万トンを超え、流通業者間の取引価格を示す相対取引価格は21年産で13000円/60kg(1083円/5kg)を下回るまで下落しました。
需要減少には供給削減で対応していました。政府は毎年11月に翌年産の需要見通しと生産見通しを公表し、各道府県はそれにあわせて生産量の枠を作成し、それに沿って生産者が生産します。23年産の6月末民間在庫は197万トンと正常化し、相対取引価格は22年産で15000円/60kg(1250円/5kg)に持ち直しました。
しかし23年産で設定された生産見通しは需要見通し(680万トン)を下回る669万トン、実際の生産量はさらにそれを下回る661万トンでした。作況指数は平年作の100を超えて101でしたが、高温障害が襲い、23年米の一等米比率は61.3%と低い値でした。
もうひとつの誤算として、需要量実績が705万トンとなり、見通し(680万トン)を25万トンも超えてしまいました。供給のずれが19万トン、需要のずれが25万トン、合計44万トンの需給ギャップが発生しました。
その結果、23年産の(24年)6月末民間在庫は153万トンと低い値となりました。
端境期に棚からコメが消えるには十分な量でした。米価はつり上げられ、「令和の米騒動」の要因となりました。農産物について、わずかな需給変動で価格が大きく変動することは、農業経済学の基本です。
ここまでは、2つの論説でほぼ同じ内容です。
今年秋の予想について、両者に相違が出ています。
日経新聞の論説:
24年産については、生産量が需給見通しに対して8万トン多い値です。25年3月に備蓄米21万トンが販売され、4月には10万トンが追加されます。単純計算では需給ギャップは5万トン(=44-8-31)まで縮小することになります。ただし、備蓄米が流通に出てくることが前提ですが、現時点ではほとんど流通に出てきていないようです。
『需給ギャップは3回目の放出まででほとんどが解消されると考えられるので、それでもなお備蓄米の放出を続けるなら、米価が想定以上に急落する可能性も否めない』としています。
文藝春秋の論説:
ある卸売業者のシミュレーション結果として、6月末の民間在庫量は備蓄米を抜きにすれば62万トンにしかならないとのことです。これに備蓄米を加えたとしても適正在庫よりもはるかに低いので、「政府が備蓄米をさらに放出しない限り、非常にまずい状況になるのは目に見えています」としています。
《輸入米について》
コメの輸入について、年間約77万トン(玄米ベース)はミニマムアクセス米として関税ゼロで輸入し、それ以外については341円/1kg(1705円/5kg)の関税がかかります。
現在のように、コメの小売価格が4000円/5kg前後であれば、関税がかかった輸入米でも国産米より低価格で販売されるはずです。今こそ、輸入米を増やして店頭に並べるべきでしょう。
一方、コメの需給バランスが回復してコメの小売価格が2000円/5kg前後まで下がったら、多分関税のかかった輸入米の小売価格の方が高くなるので、輸入米の競争力は失われるでしょう。
コメの小売価格が高い現時点で輸入米が増加したとしても、コメの生産者は何ら恐れることはありません。輸入米が増えるといってもせいぜい数万トン~数十万トンの話です。輸入米に対する現行関税のもとで輸入米が競争力を有するのは、コメ価格が高騰している時期のみです。輸入米の供給が理由となってコメ価格が沈静化して国産米の小売価格が正常値まで下がれば、輸入米は競争力を失ってそれ以上は売れなくなるでしょう。
コメ価格の高騰で誰が儲けているのかが不明ですが、生産者もコメ価格高騰の恩恵を受けているのだとしたら、輸入米の増加に対して生産者は涼しい顔をして眺めていれば良いのです。
《減反》
減反の目的はコメの価格を維持することでした。減反を進めることで、農家の収入を確保し、日本では零細な兼業農家が多数を占めることとなりました。2017年をもって表向きは減反を廃止したことになっていますが、交付金によってコメからの転作を奨励することによって、実質上は(コメの)減反は続いています。
《コメの高温障害》
上述のように、23年産は高温障害に遭って一等米比率が61.3%でした。高温障害は20年以上前から問題になっており、高温に強い品種が開発されました。しかし普及面積は14.7%にとどまっています。兼業農家(当主が定年退職した今は専業農家でしょうが)は、農業で儲ける必要がなく、いまさら高温に強い品種に変えるつもりもないのです。
《備蓄米の放出》
中食・外食事業者の集まりの協会会長が、昨年の8月に農水大臣と面談し、備蓄米の放出を要請しましたが、受け入れられることはありませんでした。
今年3月にやっと備蓄米の放出を決めましたが、1年以内に同等・同量の国産米を買い戻すことが条件です。放出された備蓄米のうち、市場に出回っているのはごく僅かなようです。
《先物市場》
日経新聞の論説では、「生産者にとって収穫前にリスク管理をする方法として、24年8月に設立された先物市場の利用も検討に値するだろう」としています。
文藝春秋の論説に先物市場の経緯が記載されています。2011年、試験上場という形で先物が動き始めました。農家にとってはコメの価格が下落した時への備えと、経営計画の立案に有効だと評価されました。21年はいよいよ本上場することが確実視されていましたが、JAの政治力によって突如廃止に追い込まれました。JAが価格決定権を失うことを恐れたため、としています。
先物市場は24年に再び開設されました。