昨日、イージス艦事故海難審判申し立てについて新聞記事をもとにして記事にしました。
調べてみたら、海難審判庁のホームページに海難審判開始申立てのお知らせがアップされています。事故の状況については、こちらに詳しく記載されていることがわかりました。
1マイル(海里)=1852m=2025ヤード
まず、あたご艦長はあたごの「航行指針」を定めています。艦長、航海長、水雷長、船務長は、この航行指針の周知徹底を行っていたか、事故前にこの航行指針に従って任務を行ったか、が問われています。
航行指針によると,「横切り関係で避航船となった場合において,衝突の可能性があるときには,最接近距離(CPA)が2,000ヤード(約1海里)以内に入る目標が,5海里に接近するまでに艦長に報告し,また,更に接近して衝突のおそれが生じたときには,8,000ヤードに接近するまでに,右転又は減速による避航動作を開始してCPAを2,000ヤード以上確保し,4,000ヤードに接近するまでに避航動作を終了すること。」と定められています。
「横切り関係で避航船となった場合」とは、下の図で船Aとなった場合です。また「衝突の可能性があるとき」とは、下の図で①②ではなく③になったとき、という意味でしょう。

《航海長》
航海長の当直時間内において、衝突の恐れのある清徳丸が5海里以内に接近したのに、艦長に報告しなかった、という義務違反があります。
《水雷長》
「更に接近して衝突のおそれが生じたときには,8,000ヤード(約8km)に接近するまでに,右転又は減速による避航動作を開始して」という指針に基づいた行動を行わなかった、また艦長に報告しなかった、という義務違反です。
問題の3時58分(衝突の9分前)前後の状況について、以下のように説明されています。
03時57分
艦橋左舷側前面で見張りを始めた信号員から「右の漁船方位落ちる。」と報告を受けた水雷長は,右舷艦首の漁船群はいずれも「危険性なし。」と申し継がれていたものの,念のため,16海里レンジとしたレーダーで確認したところ,右舷艦首に4ないし6個の映像を認め,捕捉操作を行い,その映像にシンボルを付けたが,右見張り員やCICに対し,漁船群の動静監視を行うよう指示しなかった。
03時58分少し前
水雷長は,右舷艦首41度3.0海里に清徳丸の白・紅2灯を視認し,また,レーダーで各船の映像を探知し,その後清徳丸が前路を左方に横切り,その方位に明確な変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近したが,動静監視を十分に行っていなかったので,清徳丸と衝突のおそれがあることに気付かず,航行指針に従って艦長に報告した上で避航措置について指示を受けなかったばかりか,大きく右転するなり,大幅に減速又は停止するなどして,清徳丸の進路を避けずに自動操舵のまま進行した。
CICでは,電測員が,03時58分8海里レンジのレーダー画面を見ると,右舷艦首41度2.9海里に清徳丸の映像が表示されていたので,捕捉操作を行って映像にシンボルを付けたが,清徳丸の映像の存在を速やかに艦橋への報告を担当しているOPA-3F卓の電測員に連絡しなかったので,水雷長にその旨報告されなかった。
04時00分半
水雷長は,清徳丸がその方位に明確な変化がないまま右舷艦首42度2.0海里のところに接近していたが,依然動静監視不十分で,清徳丸と衝突のおそれがあることに気付かず,同船の進路を避けなかった。
04時03分
信号員は,右舷艦首16度1.3海里のところに接近した幸運丸の方位が左方に変化していることを認めたので,水雷長に「右の漁船,増速,方位上(のぼ)る。」と報告し,清徳丸,金平丸及び康栄丸の3隻については,双眼鏡を使用して目視しただけで,注意を払わず,右方に変化するものと予測して報告しなかった。
このころ,シンボルを付けられた清徳丸の映像は,約1海里に接近してレーダー画面中心部の海面反射を抑制する不感帯に入って表示されていなかった。
04時04分
OPA-3F卓に就いていた電測員に,005度5,000ヤードに映像を探知したことを連絡した。連絡を受けたOPA-3F卓の電測員は,右見張り員に対し,「5度5,000,何か視認できないか。」と問うたところ,右見張り員は,5度が真方位ではなく右舷艦首5度と思い,右舷艦首5度を見て,その方向にいた幸運丸の動静を水雷長に報告した。
04時06分
信号員は,艦尾方を通過すると予測していた清徳丸,金平丸及び康栄丸の3隻の灯火を確認しようとして右舷側を見たところ,右舷前方至近に清徳丸の紅灯を視認し,その方位が急速に左方に変化していたので,水雷長に「漁船増速,面舵。」と報告した。
報告を受けた水雷長は,艦首を通過したばかりの幸運丸のことであると思い,レピーター付近で艦首方を見ていたところ,信号員が「近い,近い,近い。」と連呼しながら右舷側に移動したので,04時06分少し過ぎ右舷艦首方の海面を覗き込んで清徳丸の紅灯を視認し,「両舷停止,自動操舵止め。」を令した。
04時06分半わずか前
水雷長は,艦首に向かっている清徳丸の船影を月明かりで視認し,直ちに汽笛で短音の連吹を始めるとともに「後進一杯。」を令し,一方,右舷ウイングに出た信号員は,探照灯で清徳丸の船尾付近を照射して注意を喚起した。
こうして,あたごは,清徳丸の進路を避けないまま進行中,04時07分少し前,原針路及びほぼ原速力のまま,その艦首部と清徳丸の左舷中央部とが衝突した。
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3時58分頃、清徳丸を視認しかつレーダーで確認していたのは、右見張り員ではなく水雷長だったのですね。しかし水雷長は、清徳丸が衝突の可能性があることに気づきませんでした。「見合い関係」にあったはずなのになぜ衝突の可能性に気づかなかったかは不明ですが、注意散漫だったのでしょうか。
「信号員」が多く登場します。清徳丸衝突の直前、その危険に気づいたのも信号員です。一方、「右見張り員」はほとんど登場しません。4時4分にCICからの問いかけでとんちんかんな方向を探していますが、その直前に清徳丸に気づいていたわけではありません。右見張り員は何をしていたのでしょうか。
《清徳丸の責任について》
03時58分少し前
船長は,左舷船首27度3.0海里のところに,あたごの白・白・緑3灯を視認できる状況で,その後あたごが前路を右方に横切り,その方位に明確な変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近した。
04時06分少し前
清徳丸は,あたごが避航動作をとらないまま間近に接近したが,大幅に減速又は停止するなどして,あたごとの衝突を避けるための最善の協力動作をとることなく,大きく右転し,279度に向首して進行中,原速力で前記のとおり衝突した。
調べてみたら、海難審判庁のホームページに海難審判開始申立てのお知らせがアップされています。事故の状況については、こちらに詳しく記載されていることがわかりました。
1マイル(海里)=1852m=2025ヤード
まず、あたご艦長はあたごの「航行指針」を定めています。艦長、航海長、水雷長、船務長は、この航行指針の周知徹底を行っていたか、事故前にこの航行指針に従って任務を行ったか、が問われています。
航行指針によると,「横切り関係で避航船となった場合において,衝突の可能性があるときには,最接近距離(CPA)が2,000ヤード(約1海里)以内に入る目標が,5海里に接近するまでに艦長に報告し,また,更に接近して衝突のおそれが生じたときには,8,000ヤードに接近するまでに,右転又は減速による避航動作を開始してCPAを2,000ヤード以上確保し,4,000ヤードに接近するまでに避航動作を終了すること。」と定められています。
「横切り関係で避航船となった場合」とは、下の図で船Aとなった場合です。また「衝突の可能性があるとき」とは、下の図で①②ではなく③になったとき、という意味でしょう。

《航海長》
航海長の当直時間内において、衝突の恐れのある清徳丸が5海里以内に接近したのに、艦長に報告しなかった、という義務違反があります。
《水雷長》
「更に接近して衝突のおそれが生じたときには,8,000ヤード(約8km)に接近するまでに,右転又は減速による避航動作を開始して」という指針に基づいた行動を行わなかった、また艦長に報告しなかった、という義務違反です。
問題の3時58分(衝突の9分前)前後の状況について、以下のように説明されています。
03時57分
艦橋左舷側前面で見張りを始めた信号員から「右の漁船方位落ちる。」と報告を受けた水雷長は,右舷艦首の漁船群はいずれも「危険性なし。」と申し継がれていたものの,念のため,16海里レンジとしたレーダーで確認したところ,右舷艦首に4ないし6個の映像を認め,捕捉操作を行い,その映像にシンボルを付けたが,右見張り員やCICに対し,漁船群の動静監視を行うよう指示しなかった。
03時58分少し前
水雷長は,右舷艦首41度3.0海里に清徳丸の白・紅2灯を視認し,また,レーダーで各船の映像を探知し,その後清徳丸が前路を左方に横切り,その方位に明確な変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近したが,動静監視を十分に行っていなかったので,清徳丸と衝突のおそれがあることに気付かず,航行指針に従って艦長に報告した上で避航措置について指示を受けなかったばかりか,大きく右転するなり,大幅に減速又は停止するなどして,清徳丸の進路を避けずに自動操舵のまま進行した。
CICでは,電測員が,03時58分8海里レンジのレーダー画面を見ると,右舷艦首41度2.9海里に清徳丸の映像が表示されていたので,捕捉操作を行って映像にシンボルを付けたが,清徳丸の映像の存在を速やかに艦橋への報告を担当しているOPA-3F卓の電測員に連絡しなかったので,水雷長にその旨報告されなかった。
04時00分半
水雷長は,清徳丸がその方位に明確な変化がないまま右舷艦首42度2.0海里のところに接近していたが,依然動静監視不十分で,清徳丸と衝突のおそれがあることに気付かず,同船の進路を避けなかった。
04時03分
信号員は,右舷艦首16度1.3海里のところに接近した幸運丸の方位が左方に変化していることを認めたので,水雷長に「右の漁船,増速,方位上(のぼ)る。」と報告し,清徳丸,金平丸及び康栄丸の3隻については,双眼鏡を使用して目視しただけで,注意を払わず,右方に変化するものと予測して報告しなかった。
このころ,シンボルを付けられた清徳丸の映像は,約1海里に接近してレーダー画面中心部の海面反射を抑制する不感帯に入って表示されていなかった。
04時04分
OPA-3F卓に就いていた電測員に,005度5,000ヤードに映像を探知したことを連絡した。連絡を受けたOPA-3F卓の電測員は,右見張り員に対し,「5度5,000,何か視認できないか。」と問うたところ,右見張り員は,5度が真方位ではなく右舷艦首5度と思い,右舷艦首5度を見て,その方向にいた幸運丸の動静を水雷長に報告した。
04時06分
信号員は,艦尾方を通過すると予測していた清徳丸,金平丸及び康栄丸の3隻の灯火を確認しようとして右舷側を見たところ,右舷前方至近に清徳丸の紅灯を視認し,その方位が急速に左方に変化していたので,水雷長に「漁船増速,面舵。」と報告した。
報告を受けた水雷長は,艦首を通過したばかりの幸運丸のことであると思い,レピーター付近で艦首方を見ていたところ,信号員が「近い,近い,近い。」と連呼しながら右舷側に移動したので,04時06分少し過ぎ右舷艦首方の海面を覗き込んで清徳丸の紅灯を視認し,「両舷停止,自動操舵止め。」を令した。
04時06分半わずか前
水雷長は,艦首に向かっている清徳丸の船影を月明かりで視認し,直ちに汽笛で短音の連吹を始めるとともに「後進一杯。」を令し,一方,右舷ウイングに出た信号員は,探照灯で清徳丸の船尾付近を照射して注意を喚起した。
こうして,あたごは,清徳丸の進路を避けないまま進行中,04時07分少し前,原針路及びほぼ原速力のまま,その艦首部と清徳丸の左舷中央部とが衝突した。
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3時58分頃、清徳丸を視認しかつレーダーで確認していたのは、右見張り員ではなく水雷長だったのですね。しかし水雷長は、清徳丸が衝突の可能性があることに気づきませんでした。「見合い関係」にあったはずなのになぜ衝突の可能性に気づかなかったかは不明ですが、注意散漫だったのでしょうか。
「信号員」が多く登場します。清徳丸衝突の直前、その危険に気づいたのも信号員です。一方、「右見張り員」はほとんど登場しません。4時4分にCICからの問いかけでとんちんかんな方向を探していますが、その直前に清徳丸に気づいていたわけではありません。右見張り員は何をしていたのでしょうか。
《清徳丸の責任について》
03時58分少し前
船長は,左舷船首27度3.0海里のところに,あたごの白・白・緑3灯を視認できる状況で,その後あたごが前路を右方に横切り,その方位に明確な変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近した。
04時06分少し前
清徳丸は,あたごが避航動作をとらないまま間近に接近したが,大幅に減速又は停止するなどして,あたごとの衝突を避けるための最善の協力動作をとることなく,大きく右転し,279度に向首して進行中,原速力で前記のとおり衝突した。