弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

川口マーン惠美著「国際結婚ナイショ話」

2013-10-30 20:35:28 | 趣味・読書
ドイツ・シュトゥットガルトに在住する川口マーン惠美さんの著作については、「ドレスデン逍遥―華麗な文化都市の破壊と再生の物語」ではじめて知りました。その読後感については、このブログにドレスデン大空襲アウグスト強王の時代聖母教会の3編に分けて書きました(2010年)。
この本を読んで、私は川口マーン惠美さんのファンになりました。
その後、2011年にその川口マーン惠美さんが現代ビジネス『川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」』の執筆をはじめてから、私はずっと読者でした。

最近になって、その川口さんが「住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち (講談社プラスアルファ新書)」を出版したということで、さてどんな本なのかとネットで調べてみました。その結果、実は川口さんは多くの著作を出版しており、その中からこの本よりもおもしろそうな本が見つかりました。
それがこの本です。
国際結婚ナイショ話
川口マーン惠美
草思社

内容を一言で表現すれば、現代ドイツと現代日本の社会を比較した、格調高い比較文化論が展開されている、ということになるでしょう。内容の格調の高さと対比して、本の表題「国際結婚ナイショ話」のセンスのなさはどうしたものでしょう。出版社の編集が勝手につけてしまったのでしょうね。残念なことです。

川口さんの来歴は以下のようです。
1956 大阪生まれ
1982 旧西ドイツ・シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科入学
1985 同科卒業
1985 エバーハルト・マーン氏と結婚。
1997 この本を出版
出版当時、シュトゥットガルト市に在住。執筆活動のほか、ピアノ教師、通訳、翻訳を行っている。三児の母。

ドイツに渡って15年、ドイツで結婚して12年で、この本を出版しています。

ご主人は技術者、ということしかわかりません。ピアノで留学し、ドイツで技術者である伴侶を見つけて国際結婚を決意するに至ったいきさつについてはこの本では触れられていません。

以下、印象に残った記述について以下に記録しておきます。
○ 日本人が外国旅行した際の「旅の恥はかきすて」的行為が目に余る。これを見た現地の人に「日本人っていやだ」という印象を植え付けてしまう。(p8)

○ 日本とドイツの初等教育を比較すると、「学力低位の子ども」のレベルに大差がある。ドイツの「学力低位の子ども」のレベルは極めて低い。小さい子どもにピアノを教えていて、譜面の読み方を教えると、日本人の方が呑みこみが百倍もよい。(p14)

○ 日本人は「容姿」では劣等感を感じざるを得ない。日本人が洋服を着ても欧米人にかなわない。しかし、パーティーでも、日本人は和服で出れば絶対に劣等感を感じはしない。(p18)

○ ドイツ人のうち、テレビや雑誌で日本を知った人は、日本のヘンなところしか知らない。マスコミが日本のヘンなところしか報じないからだ。一方、一度でも日本を訪れたことのあるドイツ人は違う。みんな口をそろえて、日本人の礼儀正しさ、正確さ、親切さに感激し、公衆の場の清潔さと治安の良さを賞賛する。(p36)

○ 日本では、夫がわがままをいい、妻がそれを適当にあしらうというのが、よくあるパターンだ。ドイツではその反対で、妻がわがままをいい、夫がそれを聞き入れるのが常である。(p44)

○ 川口さんはつつも成田に着くたびに、口では表現できないほどの開放感を味わう。ドイツでは、人は川口さんを見て「あ、アジア人だ」と思う。その視線にたいして川口さんは無意識のうちに防御態勢を敷いている。(p50)

○ 川口さんは日本語の本を読むのが好きで、読書をしている間の頭脳は完璧に日本語ベースに切り替わっている。そこへ夫が話しかけてくると川口さんはイライラしてくる。これから一生ドイツ語で暮らしていかなければと思ってはうんざりする。(p62)

○ 外国で暮らしている人間は、言葉こそが自分を守る唯一の武器という状況にしばしば遭遇するが、川口さんのドイツ語は日本語水準の80%程度にとどまっており、「国際結婚とは、なんと骨の折れることか」とつくづくうんざりする(p70)

○ 国際結婚をして夫の国で生活を始めると、夫がいつもそばに控えていてくれるわけではない。この現実にぶつかったとき、女性は二派に分かれる。言葉を覚えつつ、外へ外へと人間関係を培い、自立していくグループと、ホームシックにおちいるグループである。(p102)

○ 「夫が亡くなったら」というケースを思うとき、国際結婚は、またしてもふつうの結婚より問題が複雑になる。(p104)

○ 日本人女性がいちばんきれいなのは、着物姿だといつも思う。(p112)

○ 国際結婚の家庭に生まれた子どもをバイリンガルに育てようと努力したが、無理であった。(p130)

○ 日本人には個性がなく、ドイツ人は個性があるといわれる。しかし、ドイツ人は無責任な自己主張が激しいだけだ。(p148)

○ あとがき
国際結婚の問題点を書こうと思って始めた。しかし、問題を分析していくと、それは結局、たんなる「夫婦の問題」であるか、あるいは、「故郷を離れて住んでいる人間の心の問題」であるとわかってきた。
テーマは結局「故郷を離れて住んでいる人間の心の問題」に絞られた。そして、いざ書きはじめてみると、出てくる、出てくる、ただ故郷を離れているだけで、人間はよくもまあいろいろなことを考えるものだと自分でもあきれるほど、実に雑多なテーマが出てきた。
--以上--

川口さんがこの本を出版したのが1997年、ドイツに渡って15年後、川口さん41歳のときです。それからさらに16年が経過しています。現在57歳の川口さんの考え方がどう変わったか変わっていないのか、その点にも興味がわきました。
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Windows 7 マシンでの思わぬトラブル(2)

2013-10-25 20:41:55 | サイエンス・パソコン
前報「Windows 7 マシンでの思わぬトラブル」で報告したように、我が家の新しいWindows 7 パソコンにメールソフトとしてBeckey!を導入し、S/MIME plug-inを用いて暗号化メールの送受信を開始したところ、5MBを超える大きな暗号化メールを復号する際に、
「S/MIME error
復号に失敗しました。
ASN1 メモリ不足です。
(code:80093106)」
と表示されて復号できないトラブルに見舞われました。
メールソフトBeckey!の製造元であるRimArts Inc.に問い合わせましたがらちがあかず、ネット検索したところ、一つの解決策にたどり着きました。
『Windows 7で5 MBより大きいメッセージをデコードするときに「ASN1 メモリ不足です」エラー』(英語原文日本語機械翻訳
所定の手順で修正プログラム「Microsoft Windows (KB2480994)の修正プログラム」を入手して問題のパソコンで実行したところ、見事に問題が解決しました。
そこまでが前報です。

その後、職場のパソコンもWindows XP Pro からWindows 7 Pro 64bit に置き換えました。早速、メールソフトとしてBeckey!を導入し、S/MIME plug-inを用いて、自宅のパソコンで問題となった大容量の暗号化メールを復号してみました。
するとどうでしょう。職場のパソコンでも、同じ「復号の失敗」に見舞われてしまったのです。
この問題は、私の自宅のパソコン1台の特異現象ではなかったのです。

こうなると、今回の問題の原因をどうしても突き止めたくなります。
また、自宅のパソコンで導入した修正プログラムについては、『この修正プログラムはさらにテストを受ける可能性があります。したがって、この問題で深刻な影響を受けていない場合は、この修正プログラムを含む次のソフトウェア更新のリリースを待つことをお勧めします。』という注意書きがありました。このような注意書きを有するプログラムを、職場のパソコンに導入していいのだろうか、という懸念もあります。
実際、職場のパソコンにはまだ修正プログラムを導入していません。大容量の暗号化メールを受信した際には、同じパソコンにインストールしているOutlookを立ち上げて復号しています。

この問題は、あくまでMicrosoft Windows が抱えている問題ですから、適切な回答が出せるとしたらマイクロソフト以外には考えられません。そこで、マイクロソフトに質問しようとしたところ、問題が生じました。
私は、パソコンをTWOTOPというショップからOSプリインストールで購入しています。このようなプリインストールマシンの場合、マイクロソフトはウィンドウズの問題について無償では質問に答えてくれないというのです。4200円の代金を払うとサポートが受けられます。
この際、ぜひとも問題をクリアーにしたいとの希望を私が持っているので、4200円を支払うこととしました。
電話でつながったサポート窓口に対して、「問題が複雑なのでメールでやりとりしたい」と希望し、メールでのやりとりが始まりました。
そして、当方の状況をメールで説明したところ、概略以下のような回答を得ることができました。

『この度の、容量の大きいメッセージのデコード時に発生する現象ですが、誠に恐縮ではございますが、当窓口にても過去に同様の事例がございませんでした。
また、弊社にて、 Becky をインストールし、同じプラグインを使用して、デコードを行いましたが、同様の現象は発生いたしませんでした。
・・・
おそらく、5MBのメッセージをデコードするという作業自体が一般的に行われておらず、また特定のプラグインの設定でのみ発生する現象であるため、過去に事例がないものであると考えられます。
トラブルの発生原因としましては、弊社より提供している修正プログラムのインストールをおこなうことで現象が改善されている状況であれば、Windows 上の既知の不具合が原因となっています。』

まことにびっくりすることに、私が購入した2台のパソコンで2台とも現象が発生しているのに、世の中では、極めて希(というか「過去に事例がない」)ということだったのです。しかし、「Windows 上の既知の不具合が原因」ということは認められました。

次に、職場のパソコンに修正プログラムを導入しても問題がないかどうか、という点です。

『この修正プログラムのインストールを行うという判断は適切であると存じます。
お客様におかれましては、ご自宅で使用しているパソコンでは、特に問題が発生することもなく、現象は改善されていると承っておりますので、そのままご安心してコンピューターをご利用いただければと存じます。
上述いたしました通り、問題が発生しても、修正プログラムをインストールする前の状態に復元することが可能です。
弊社サポート ページに、システムの復元ポイントを作成する手順、および、システムの復元を実行する手順が記載されている Web ページがございます。
修正プログラムのインストールをおこなう前に、システムの復元ポイントを作成していただき、インストール後、何らかのトラブルが発生するようでしたら、システムの復元を実施いただければと存じます。』

そうですか。
それでは、システムの復元ポイントを作成した上で、修正プログラムを導入することとしましょう。
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仙石原のすすき

2013-10-14 18:15:30 | Weblog
東京から箱根の湖尻(芦ノ湖の北端)方面に向かうとき、東名高速を御殿場インターで降り、乙女トンネルを経て仙石原を経由します。仙石原を通過するとき、突然道の両側に草原地帯が現れます。すすきの草原のようです。いつも通り過ぎるだけでしたが、すすきの季節にここはどのような景観になるのだろう、と想像していました。道の両側には駐車場も見当たらず、寂しいところです。

今年10月13日、この場所を訪問しました。ちょうどすすきの一番いい季節だったようです。

山肌に沿って、すすきの草原が広がっています。


草原のど真ん中に一直線の歩道が設けられています。今回訪問すると、そこは人また人の大盛況でした。いつも見る人っ子一人見当たらない寂しい場所から一変していました。
道路も車であふれています。さて、どこに駐車したらいいのか。
湖尻方面から進行したら、すすき草原が尽きるあたりの左方面に駐車場があるようです。とにかく駐車場方向に進んでみました。ずいぶん遠いところに、無料駐車場はありました。入場待ちすることなく駐車できました。このような臨時駐車場が設けられていることは、ありがたいかぎりです。臨時トイレまであります。


草原の遊歩道から撮った写真を2枚、紹介します(上下写真)。

ネットで調べたところでは、仙石原のすすき草原は、江戸時代から存在しています。農作物を育てて「千石原」にしようとしましたが、土壌が悪く、すすきしか育てられなかったようです。そして毎年3月、野焼きをするそうです。そのおかげで、雑木が生えることなく、すすき草原として存続しているとのことでした。

ところで、今回の箱根訪問では、紅葉を観ることが当初の目的でした。去年、「10月17日・箱根」に書いたとおり、10月17日には紅葉の真っ盛りでした。そのときは大雨にたたられたので、今回は晴天の紅葉を観る予定だったのです。ところが、今年の天候のせいで、まだ紅葉の「こ」の字も見当たりませんでした。そのかわり、すすきの一番いい季節に巡り合わせたようです。
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切り餅訴訟と矢嶋雅子弁護士

2013-10-11 12:16:41 | 知的財産権
10月8日(火)日経新聞の1面に以下の記事が載りました。

特集連載『Wの未来』ここで生きる③
『スーパーキャリア』=可能性究め 後進に光=
ここでは、次の3名の女性にスポットを当てています。
○ 世界保健機関(WTO)のメディカルオフィサー・医師・進藤奈邦子氏(50)
○ 西村あさひ法律事務所・訴訟弁護士・矢嶋雅子氏(44)
○ 厚生労働省事務次官・村木厚子氏(57)
このうちの矢嶋弁護士について、記事は以下のように述べています。

『国内最大手、西村あさひ法律事務所の訴訟弁護士、矢嶋雅子(44)は今、「負けたら弁護士を辞める覚悟」で取り組む特許訴訟がある。矢嶋が疑問に思う判決を下した裁判長は、知財高裁所長に栄転したこの分野の権威。だが「どんな相手でも法律で戦える」。
・・・
もちろん常に裁判で勝てるわけではないことも承知している。それでも「納得いかないまま負けるわけにはいかない」と挑み続ける。』

現在の知財高裁所長といえば、言わずとしれた飯村敏明裁判長です。さて、いったいどんな訴訟なのでしょうか。調べた結果、「サトウの切り餅」事件らしいことが判明しました。

波乱の「切り餅」裁判、サトウ食品はなぜ負けた 2012年04月19日 東洋経済オンライン
『切り餅の切り込みの特許権を侵害されたとして、業界2位の越後製菓が業界首位のサトウに損害賠償などを求めた訴訟の控訴審判決で、知的財産高等裁判所は(2012年)3月22日、サトウに約8億円の損害賠償などを命じる判決を下した。サトウはこの判決を不服として、4月2日に最高裁へ上告手続きを取った。一審はサトウの完勝だったが、二審の知財高裁は昨年9月、中間判決の形でサトウの特許侵害を認めていた。
サトウ側は代理人弁護士を変え、新たに大量の証拠を提出して捨て身の挽回を狙った。
中間判決後にサトウの代理人に就任した西村あさひ法律事務所の矢嶋雅子弁護士は、「判決文には巧妙にサトウが不誠実に見えるように書かれた部分が多く、事実にないことまで記載がある」と憤る。
今回知財高裁は、弁論を1回開いただけで審理を終結。一審の記録と双方が追加提出した書面や証拠だけで逆転中間判決を出している。その原因と思われるのが、サトウによる「証拠偽造疑惑」だ。
サトウは一審で、「越後の特許出願の10日前から約1カ月間、イトーヨーカドー向け限定で、上下面十字プラスサイドスリット1本を加えた製品を発売していた。だから越後の特許は無効」と主張している。
これに対し、知財高裁は、その証拠として提出した餅が、当時製造した餅とはいえないとし、サトウの証拠偽造を疑う判断を中間判決で示した。サトウが証拠を偽造したという確信が、属否論に対する裁判官の判断に影響を与えた可能性は高い。
裁判官がサトウの証拠偽造を確信する原因となったであろうファクトは複数ある。提出した証拠も証人も、外部ではなく説得力の面で劣る社内のものであるなど、一審の立証に稚拙さがあったこともその一つ。
一方、中間判決後に提出した大量の証拠の中には、切り餅で競合するたいまつ食品の樋口元剛代表ときむら食品の木村金也代表の陳述書もあり、双方とも「問題の餅を研究のために購入した際、すでに1本のサイドスリットが入っていた」とサトウを擁護。つまり問題の餅は実在したとしている。さらに樋口氏は「越後も当時、問題の餅を確認していたはず」とまで言及した。
「中間判決後に提出した証拠は、中間判決の判断を覆す重要な証拠であるにもかかわらず、時機に後れたという理由で排斥した。訴訟活動の巧拙を理由に真実に目をつぶったも同然だ」と矢嶋弁護士は憤る。』

甘い訴訟対策は命取り、サトウは第2次訴訟で再逆転狙う~「切り餅訴訟」が残した教訓 2012年09月27日 東洋経済オンライン
『切り餅の表面に加えられたスリット(切り込み)の特許をめぐる、切り餅業界最大手・サトウ食品工業と、同2位・越後製菓の訴訟で、最高裁判所は(2012年)9月19日付で、サトウ食品側からの上告を棄却、上告受理申立を不受理とする決定を下した。
これでサトウの敗訴が確定。
第1次訴訟での二審の逆転敗訴は、一審での立証活動が不十分だったことが大きく影響している。二審では1回目の弁論で、裁判官が原告、被告双方に追加の主張がないことを確認して終結、判決期日を11年9月10日に決めている。
最終判決には、この1回目の弁論の際、中間判決を出すことを伝えたうえで、弁論を終結したという記載がある。が、なぜか当日法廷にいた関係者は、被告側のみならず、原告側までもが、弁護士も含めて誰一人として、知財高裁の逆転判決を示唆する重大発言が裁判官の口から出たことを記憶していない。
中間判決は、ほぼ一審の記録をもとに出されており、9月10日当日に出廷してみたら最終判決ではなく中間判決。しかも一審での立証のずさんさがたたってサトウはあえなく逆転敗訴に至り、同社は仰天したというわけだ。
慌てたサトウ側は弁護士を替え、遅ればせながら大量の証拠を出して巻き返しを図ったが、「時機に後れた主張」だとして無視されてしまった。
知財高裁での担当裁判官は、徹底した迅速な訴訟指揮で知られ、今春、知財高裁所長に就任した飯村敏明裁判官である。
飯村判事のクセをよく知る知財系弁護士や弁理士は、「飯村判事の不意打ちはいつものこと」「飯村コートに事件が回った時点で、一審の主張に穴がないかどうか、できることは全部やり尽くしているかどうかをチェックし直して1回目の弁論に臨むのが基本」だと口をそろえる。つまりは雇った弁護士が飯村判事のクセを知らなければその時点で「負け」というのが知財ムラの常識なのだという。
・・・
越後側はまた、今年(2012年)4月27日、最高裁の判断を待たずに新たな訴訟も起こしている(2次訴訟)。第2次訴訟では、それ(1次訴訟)以降の損害の賠償を新たに求めただけでなく、対象製品も、第1次訴訟の対象製品以外に拡大、総額19億円の賠償を求めている。
・・・
現在、東京地裁で第2次訴訟を担当している裁判官は、民事40部の東海林保裁判官である。』

私はかつて判例研究会で、切り餅事件の地裁判決(判決pdf)(被告:サトウ側勝訴)と知財高裁の中間判決(判決pdf)(原告:越後側勝利)の2つを同時に検討したことがあります。そのとき、地裁判決と知財高裁中間判決のどちらの結論を支持するか、私の中では結論が出ませんでした。それ程に、判断がどちらに転んでもおかしくない微妙な案件だった記憶があります。

そのときは気づかなかったのですが、知財高裁の中間判決は、たった1回の口頭弁論を行った後にいきなりなされたのですね。地裁判決を逆転する結論を出すのに、準備手続きも行わずにいきなりですか。これはやっぱりびっくり仰天ですね。
それも、口頭弁論にて「これにて口頭弁論終結」と言われ、「中間判決を出す」と言われなければ「終局判決」のはずで、“損害論”の弁論を経ていないということは、サトウ側の勝訴と誰もが思うでしょう。ところが出たのは中間判決。もし口頭弁論で「中間判決を出す」と聞かされていれば、サトウ敗訴がその時点で判明しますから、サトウ側代理人も打つ手があったでしょうに。

上記記事に
『飯村判事のクセをよく知る知財系弁護士や弁理士は、「飯村判事の不意打ちはいつものこと」「飯村コートに事件が回った時点で、一審の主張に穴がないかどうか、できることは全部やり尽くしているかどうかをチェックし直して1回目の弁論に臨むのが基本」だと口をそろえる。』
とありますが、ここまで配慮しなければ負けてしまうというのでは、代理人に酷すぎます。

しかし、知財高裁の「不意打ち判決」は珍しくありません。私も最近経験しました。主に相手側が不意打ちを食らった事例が多いですが。
私自身、知財高裁に提出する準備書面を作成する上では、「不意打ち判決」を最も危惧しつつ作成します。たとえ相手側が論点にしていなくても、裁判官が証拠を見て「証拠のこの部分が使える」と思ったら、いきなりその点を取り出して判決の主要根拠とする可能性があります。ですから、「どこかに裁判官が着目しそうなアナは残っていないか」よく検討し、すべての点について丁寧に主張・立証することを心がけています。

上記切り餅事件の(一次)訴訟は最高裁の決定も出て確定しています。そうすると、日経新聞で矢嶋弁護士がいう『「負けたら弁護士を止める覚悟」で取り組む特許訴訟』というのは、切り餅の二次訴訟のことですね。二次訴訟は、去年の4月に訴え提起されていますが、まだ地裁判決が出されていない模様です。民事40部の東海林保裁判官ですか。去年3月、東海林裁判官が知財高裁の裁判官だったとき、知財高裁の準備手続きで一度だけお目にかかったことがあります。

矢嶋雅子弁護士の活躍やいかに。しばらくは目が離せませんね。

なお、サトウvs越後、切り餅訴訟が“飛び火”~業界3位、きむら食品も巻き込まれる 2013年07月22日 東洋経済オンライン
伊藤 歩 :金融ジャーナリスト
という記事もありました。
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ピアノ発表会2013秋

2013-10-07 22:01:56 | 趣味・読書
秋のピアノ発表会が、10月6日(日)に無事?終了しました。

私が習っている大城まき先生のクラスでは、春の小発表会(大城先生の大人の生徒だけの発表会)と秋の大発表会(フィガロ音楽院の合同発表会)が定例です。今年は2月に恵比寿「アートカフェフレンズ」での臨時発表会もありました。

今年の秋の大発表会、私の出番は10月6日(日)でした。場所は東部フレンドホール、地下鉄新宿線の瑞江駅から歩いてすぐのところにあります。
  
東部フレンドホール

  
発表会受付                    会場内の様子

立派なホールでした。

私は、4曲を2回に分けて弾きました。

シューマン「子供の情景」より
6.大事件
13.詩人は語る

1.異国の土地と人々
7.トロイメライ

4曲のうち、“1.異国の土地と人々”、“7.トロイメライ”の2曲は、2月の発表会から弾いている曲、“13.詩人は語る”は春の小発表会から、そして“6.大事件”は今回初めて弾く曲です。

やはり、発表会というのは何回経験しても、普段の練習時の半分ぐらいの実力しか出せません。“6.大事件”と“1.異国の土地と人々”では途中で失敗がありました。一方、“13.詩人は語る”と“7.トロイメライ”の2曲については大きな失敗もなく、納得のいく演奏をすることができました。

この1年、ずっとシューマンの「子供の情景」を弾いてきました。その集大成が今回の秋の発表会だったわけです。この発表会が終わり、また次の1年間の目標を決めることとなります。さてどんな方向に行くことになるのか。次回のレッスン日に先生と相談することとなります。

ここで、過去の発表会を振り返っておきます。

2011春 ドン・ジョバンニより「メヌエット」、黒いひとみ
2011秋 パッヘルベル作曲「カノン」
2012春 ロンドンデリーの歌、シューベルト「セレナーデ」
2012秋 シューベルト「セレナーデ」、ベートーベン「さらばピアノよ」
2013冬 ベートーベン「さらばピアノよ」、 シューマン「子供の情景」より「異国の土地と人々」、「トロイメライ」
2013春 シューマン「子供の情景」より「異国の土地の人々」「トロイメライ」「詩人は語る」
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特攻の論理(再掲)

2013-10-02 20:29:12 | 歴史・社会
2006年6月、私はこのブログの記事として「特攻の論理」を書きました。
今回、『百田尚樹著「永遠の0」』、そして「カミカゼは自爆テロか?」を書きましたが、さらに小説「永遠の0」は「神風特別攻撃とは何だったのか」について厳しく問いかけています。この際、この問題を考える上で、6年前の「特攻の論理」をここに再掲します。

--再掲開始--
『第二次大戦中、帝国陸海軍が行った神風特別攻撃は、今にして思えば「若者の命を粗末にする命令が何で出されたのか」とうてい理解することができません。

昭和19年10月、日本が「絶対国防線」と称したサイパン島も陥落し、米軍はフィリピンに迫ります。このとき、日本軍ははじめて神風特別攻撃を敢行します。

それでは、神風特別攻撃とはどのような論理に基づいて導き出されたのでしょうか。
私が思うに、「日本は絶対に負けない。一億玉砕しても、日本は戦い続ける。」という前提を立て、その前提のもと、当時の戦力評価を冷徹に行ったら、「体当たり攻撃が最良」という結論が出たのではないかと思っているのです。

当時の日本海軍は、開戦当初から使用しすでに時代遅れとなったゼロ戦(戦闘機)と一式陸上攻撃機(水平爆撃及び雷撃)を未だに主力として使っていました。それに対し、米海軍のグラマン戦闘機はF4F(ゼロ戦より弱い)からF6F(ゼロ戦より強い)に変わっています。米艦隊の防御網は、まずレーダーで敵来襲を察知し、F6Fが待ちかまえて日本軍機を餌食とし、それでも艦隊まで接近した日本軍機は、VT信管を装備した機関砲で撃墜されます。

一式の乗員は7名で、1機撃墜されると一度に7名の命が失われます。たとえば10機の一式と70名の搭乗員が配備されているとして、1回の出撃で10%が未帰還になるとします。出撃を5回繰り返したら、10機のうち4機は撃墜され、70人中30人は戦死することになります。なおかつ、この時点では爆撃による命中率は極めて低かったようです。

そのとき、体当たり攻撃のアイデアが出されます。ゼロ戦に爆弾を装着し、敵艦に体当たりして搭乗員もろとも敵艦を爆撃しようとするものです。もし5機の体当たり攻撃で得られる戦果が、10機の一式による攻撃戦果よりも大きかったとしたらどうでしょう。
1回の出撃で、体当たり攻撃による戦死者は5名、一式攻撃による戦死者は7名(10機中1機未帰還)です。より戦死者の少ない体当たり攻撃の方が大きな戦果を挙げていることとなります。実際、特攻の命中率は通常爆撃の命中率の10倍だったそうです(草柳大蔵「特攻の思想」)。

統計計算の結果を見ると、戦死者の数は一式による通常爆撃よりも特攻の方が少ないということになりますが、搭乗員の立場からすると全く異なります。通常爆撃であれば、確かに戦死する可能性は高いがそれが自分だとは決まっていません。それに対し、特攻の場合は出撃すれば自分が戦死すると決まっているわけですから。

今にして思えば、「神風特別攻撃までして戦い続ける意味がどこにあったのか」と考えると、意味を見いだすことができません。戦争を始めてしまったのはしょうがないとしても、遅くともサイパン陥落時点で「もうだめだ」と覚悟し、戦争を終了しているべきだったのです。それができず、「一億玉砕してでも戦い続ける」との前提を固守したため、論理の帰結として神風特別攻撃が案出され実行されてしまいました。
国家の品格」(藤原正彦著)にある《「論理」だけでは世界が破綻する》《論理には出発点が必要》からの連想で書きました。

「なぜサイパン陥落時に戦争を終結できなかったのだろう」と考えたことがありましたが、「それができるぐらいなら最初から太平洋戦争を始めなかっただろう」との結論にいたり、納得してしまいました。』
--以上--

小説「永遠の0」によれば、レイテ戦当時、敵攻撃に向かった一式陸攻の未帰還率は実に50%に上っているのですね。上の記事では10%としていましたが・・・。

上記記載した
『統計計算の結果を見ると、戦死者の数は一式による通常爆撃よりも特攻の方が少ないということになりますが、搭乗員の立場からすると全く異なります。通常爆撃であれば、確かに戦死する可能性は高いがそれが自分だとは決まっていません。それに対し、特攻の場合は出撃すれば自分が戦死すると決まっているわけですから。』
という点について、「永遠の0」においても強く主張されています。全くその通りです。
コメント (1)
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