弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

菅次期政権による霞ヶ関支配

2020-09-14 16:16:58 | 歴史・社会
私は一昨日、「安倍長期政権で霞ヶ関がガタガタ」(2020-09-12)において、
『安倍長期政権では内閣人事局を過って運用し、その結果、ちょうど良い「議院内閣制」が生じるのではなく、逆に振れた「官邸忖度内閣制」が生まれてしまったようです。
安倍長期政権には多くの功と罪があるように思いますが、内閣人事局の乱用により、霞ヶ関を機能不全に陥らせてしまったことは最大級の罪と思っています。』
と論じました。
安倍政権による、霞ヶ関に対する強権政治により、まずは官僚が官邸忖度となり、森友問題では「安倍案件」というだけで官邸からの指示もないのに森友側に優遇を図りました。そしてそれが公になると、今度は公文書改竄という恐ろしいことまで行いました。

片山善博氏(元総務大臣)曰く『かつての官僚組織には問題もありましたが、プロフェッショナルとして国民に奉仕するという気概を持った方もたくさんいました。内閣人事局が悪用されている現在よりも過去の方が相対的にマシです。
役所のいいところを潰してしまいました。今の霞が関の雰囲気はこうです。国民のためではなく政権に言われたことをやる。それで失敗したら官邸のせいにして留飲を下げる。国民のためにならないのであれば、直言する気骨が失われてしまいました。』

そしてその弊害は、コロナ対策において顕著な弊害として現れました。コロナにおいては、厚労省が一丸となって強力な政策を打ち出すべきところ、厚労省は何もなしえませんでした。
舛添要一氏(元厚労大臣)曰く、舛添氏が厚労大臣のとき、『優秀な官僚を抜擢して厚労省の大改革を断行した。2009年夏の総選挙で政権が民主党に移り、その後2012年12月の総選挙で自民党が政権に復帰した。民主党政権下でも、私が抜擢した優秀な幹部官僚は大活躍したが、その後を継いだ安倍政権は「民主党政権に協力した」という理由で、彼らを左遷してしまった。その結果、厚労省は幹部に人材が欠け、今回の新型コロナウイルス対策でまともな対応が取れないのである。』

安倍総理の健康問題により、安倍長期政権が終焉を迎えることとなりました。その後の新政権において、現在の霞ヶ関の毀損を、何とか修復しなければなりません。
次の総理総裁はほぼ菅氏で決まりです。その菅さんが、9月13日にテレビ番組で発言したようです。
菅氏、内閣人事局は変えず 「政策反対なら異動」 9/13(日) 共同通信
『自民党総裁選に立候補した菅義偉官房長官は13日のフジテレビ番組で、中央省庁の幹部人事を決める内閣人事局に見直すべき点はないと明言した。政権の決めた政策の方向性に反対する幹部は「異動してもらう」とも強調した。石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長と出演したフジテレビ番組で発言した。
内閣人事局は2014年5月に内閣官房に新設された。幹部人事を掌握するため、官邸主導の意思決定を後押しする一方、官僚の忖度を生む要因と指摘される。』

本来、議論においては、異論を排除することなく、意見を述べさせなければなりません。議論の末に方針が定まったら、異論を述べた官僚であっても、決定された方針に従って政策を実行していかなければなりません。
従って、政策決定後にその政策実行をサボタージュする高級官僚がいたら、それは左遷されてしかるべきです。
ところが、安倍長期政権では、議論の段階で菅官房長官に異論を述べただけで、高級官僚が左遷されているのです。これは明らかに間違っています。霞ヶ関が機能不全になることは目に見えています。
コロナ対策においても、10万円給付の申請をオンラインで行うことには無理があると知っていながら、総務省はその点を官邸に伝えることをしませんでした。『政権の決めた政策の方向性に反対する幹部は「異動してもらう」』を恐れたからでしょう。

マスコミはこの点について強力に報道していかないと、菅新政権における霞ヶ関に対する人事権の乱用は続くことになります。これでは、国として機能していかないことになるでしょう。
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10年前の尖閣対応

2020-09-13 15:12:58 | 歴史・社会
尖閣で中国の船が日本の巡視船に体当たりし、海上保安庁が中国漁船船長の身柄を拘束した後、逮捕、拘留、勾留延長、突然釈放と進行した事件から、10年が経過するのですね。最近になって、当時民主党政権で当事者だった前原誠司氏が、発言しているようです。
ここではまず、その当時に私がこのブログでどのように発言していたのかを回顧してみます。
理士試験~FD改竄~尖閣問題 2010-09-24
--再掲-----------------------------
《尖閣問題》
9月24日の朝日新聞朝刊に「中国、レアアース禁輸」の一面記事が載っています。ネットニュースにも載っていませんでした。わずかにニューヨークタイムスが報じていたようです。これも朝日のスクープでしょうか。
さらにフジタ社員4名が中国で拘束されたとのニュースです。
そして本日15時、那覇地検は中国人船長を釈放しました。鈴木亨次席検事は記者会見で「我が国国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上身柄の拘束を継続して捜査を続けることは相当ではないと判断した」と述べ、日中関係悪化が判断材料となったことを認めました。
○この時期に釈放するぐらいなら、そもそも勾留延長を行わずに釈放する方がはるかに得策だったと思います。勾留延長して中国のメンツまで潰して、何を捜査しようとしたのでしょうか。
○検察が記者会見で「政治判断」を理由に述べるのは異常です。何で「捜査の関係で拘留が必要なくなったから」と述べないのでしょうか。実際に政府から圧力がかかり、それを不服としてこのような発言をしたのでしょうか。
○今回のように極めて政治的に微妙な事件において、相手国と裏取引して釈放時期を決めるなど当然に必要でしょう。ただしそれを公表する必要はありません。そのような大人の外交を、民主党政権は中国・那覇地検との間で遂行することができなかったということでしょうか。

尖閣問題はどうなる? 2010-09-27
--再掲-----------------------------
尖閣諸島をめぐる今回の騒動、結末(まだ終わっていませんが)は何とも後味の悪いものでした。
結果として中国の恫喝に屈するような形で中国漁船船長を釈放しましたが、その後中国は謝罪と賠償を要求し、一方で拘束した日本人4人を釈放する気配は見せず、嵩に懸かってきているようです。
・・・
あの小泉政権ですら、尖閣に上陸して逮捕された中国人を拘留することなく強制送還しました。中国政府は今回もそのような処分であろうと考えていたところが、逮捕され勾留延長され、中国政府は完全にメンツを潰された形となり、強硬な中国世論の攻撃をかわすためには強硬姿勢を取らざるを得ませんでした。
日本側がした勾留延長の理由もよくわかりません。ニュースによると「船長が否認したので自動的に勾留延長」であったようですが、何でそのような杓子定規になるのでしょうか。検察は杓子定規、政府は検察任せということで、「勾留を延長せずに強制送還」というチャンスをみすみす逃すこととなりました。

尖閣問題~初動のいきさつ 2010-09-28
--再掲-----------------------------
尖閣問題で海上保安庁が中国漁船船長の身柄を拘束した後、この事件のポイントは3回ありました。
第1は船長の逮捕に踏み切ったとき、第2は勾留延長に踏み切ったとき、そして第3は釈放したときです。それぞれの時点で日本の政権内ではどのようにして意思決定がなされたのか。
9月28日の朝日朝刊に掲載されていたのでメモしておきます。

《逮捕に踏み切る》
当時国土交通相だった前原誠司氏は7日の事件発生後、鈴木久泰・海上保安庁長官に電話で「中国漁船の船長は逮捕すべきだ」と指示しました。首相官邸にいた仙谷官房長官にも電話で「中国には毅然とした態度を貫いた方が良い」と伝えました。
岡田外相は、外遊先のドイツで事件発生の連絡を受け、電車の乗り継ぎのわずかな合間に前原氏が主張した船長逮捕をあわただしく受け入れました。
7日の夕刻に、仙谷氏は民主党代表選の渦中にあった管首相に代わり、海上保安庁と外務省の幹部から尖閣諸島沖での衝突事件の報告を受けていました。出席者の認識は「事件の悪質性を考えると逮捕はやむを得ない」で一致しました。

逮捕後も、当初は中国側の反応も比較的穏やかだったようです。
逮捕後の成り行きについて、中国側には「日本側は中国との関係に配慮して船長の勾留延長はしないだろう」との読みがありました。異例の5回に及んだ丹羽大使の呼び出しで、「中国側の意図を十分にくみ取り、釈放してくれる」とみていたからです。

《勾留延長に踏み切る》
17日の午後に管首相は内閣改造を断行します。外務大臣が岡田氏から前原氏に代わりました。
2日後の19日が勾留期限です。外務省幹部は「あの時はちょうど内閣改造の最中で、岡田氏も幹事長就任が決まってからは『それは次の大臣がやること』と仕事に手をつけなかった。前原氏も、直後に控えた国連総会の準備しか頭になかった」

しかし、即時釈放を求めてきた中国は19日を境に、急激に態度を硬化させました。後は見てきたとおりです。

副大臣や政務官の人事構想を終えた21日以降、管首相は悪化の一途をたどる日中関係と向き合うことになります。
このころの首相について、政府関係者は「訪米前に『イラ管』が出て、周辺を怒鳴ることもあった」と明かします。
《中国人船長を釈放する》
首相と外相がともに国連総会に出席し、留守を預かる仙谷官房長官の下で緊急回避策が進みました。官邸と協議をした上で、23日に外務省担当課長が那覇地検に行きました。24日に那覇地検の次席検事が中国人船長の釈放を発表した際、「我が国の国民への影響と今後の日中関係を考慮した」と説明したのは、前日に外務省担当課長から聞かされた意見が根拠となったと見られます。
--再掲以上-----------------------------

それでは、最近の前原氏の発言を追ってみましょう。

船長釈放「菅直人氏が指示」 前原元外相が証言 尖閣中国漁船衝突事件10年 主席来日中止を危惧 2020.9.8 06:00政治政策
--記事-----------------------------
--事件発生時の国交相として、どう対応したか
 「当日は参院国交委員会に出ていて、秘書からメモが入った。委員会後に大臣室に戻り海上保安庁の鈴木久泰長官から報告を受け、その日のうちに衝突時の映像を見た。極めて悪質な事案だということで、長官の意見を聞いたら『逮捕相当』ということだった」
 「ただ、外交案件になり得る問題なので、私から仙谷由人官房長官に『海保長官から逮捕相当という意見が上がっている。私も映像を見たが、逮捕相当だと思う。あとは外交的な問題も含め官邸のご判断をお願いしたい』と伝えた」

--船長逮捕は翌日になった
 「岡田克也外相はドイツに外遊中だった。それで連絡に時間がかかったと聞いている。菅(かん)直人首相と仙谷氏と岡田氏で話し合い、逮捕という結論に至ったと思う」

--9月17日に外相に就任した後の対応は
 「下旬に米国で国連総会があり、出発直前にその勉強会で首相公邸に呼ばれた。佐々江賢一郎外務事務次官ら外務省幹部と行った。そのとき、菅首相が船長について、かなり強い口調で『釈放しろ』と。『なぜですか』と聞いたら『(11月に)横浜市であるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に胡錦濤(中国国家主席)が来なくなる』と言われた」
・・・
 「私と菅首相は訪米し、あとは仙谷氏が対応することになった。逮捕すると決めておいて釈放するのは一貫性がない。仙谷氏は泥をかぶった。訪米するときに『オレに任せておけ』と言われた」

--どこで対応を間違えたのか
 「官邸の一貫性がなかったのが最大の問題だった。逮捕相当との意見を上げ、そして逮捕を決めたのは官邸だ。その主が釈放しろと言ってきた。そのつじつまを合わせるために泥をかぶったのが仙谷氏だった」
--記事以上-----------------------------

事件発生時、前原氏は国交大臣でした。
「海上保安庁長官の『逮捕相当』との意見を受け、仙谷官房長官に伝えた。逮捕は、首相、官房長官、(ドイツ滞在中の)岡田外相の話し合いの結論と思う。」ということで、自分は責任ないような言い方です。事件当時、前原国交大臣の意向が「逮捕」に強く影響したような報道でしたが・・・。
拘留期限(9/19)直前、9月17日に前原氏は外務大臣に就任しました。
今回の発言でも、勾留延長の決定に際しての外相としての判断については発言していません。当時の新聞記事の通り、前原外相は国連総会のことしか念頭になく、勾留延長可否については考えが及んでいなかったのでしょうね。勾留延長後、中国政府が強硬路線に態度を急変した後も、外相として勾留を維持すべき、との見解だったようです。それが菅首相の強い意向でやむなく釈放に至ったと。「当時の不当な釈放は、菅首相の責任である」と言いたいようです。

当時の船長釈放に関し、現時点で考えても、「釈放すべきでなかった」とはとても考えられません。逆に、「もっと早く、勾留延長前に釈放すべきだった」との意見です。
岡田克也氏(逮捕時の外相、勾留延長時の幹事長)も、「いま考えてもこれ以外に方法はなかったのではないか」「柔軟な措置をとったことはやむをえなかった」と強調。中国側でも「日本政府が大局的な見地から問題解決したことにほっとした関係者も多かった」との見方を示しています。(尖閣中国船衝突事件、「船長釈放以外に方法なかった」 当時外相の岡田克也氏が見解 9/11(金) 産経新聞)

問題は、釈放の判断の責任を検察に押しつけたことです。
釈放の理由は外交上の理由ですから、政権が判断し、法相が検察に指揮権発動して釈放とすべきでした。民主党政権は、法相の指揮権発動が絶対にいやだったのでしょうね。残念なことです。

それに対して前原氏は、今でも「あのとき釈放すべきでなかった。『釈放しろ』と発言した菅首相が間違っている。」との意見なのですね。そして、検察が責任を押しつけられたことについては発言せず、仙谷官房長官が泥をかぶった、という言い方しかしていません。

前原氏は当時から問題児でしたが、今でもまだ反省はないようです。
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安倍長期政権で霞ヶ関がガタガタ

2020-09-12 15:37:10 | 歴史・社会
ここへきてのコロナ対応政策2020-08-29』に書いたように、未曾有のコロナ禍に見舞われて、国としてどのような対策を打っていくべきか。その政策立案には、専門知識を持ったシンクタンクがデータに基づいて方針を検討し、献策していくべきです。日本においては、最大のシンクタンクは霞ヶ関です。コロナ対策については、厚生労働省の双肩にかかっています。
しかし、この3月からの厚労省の対応を見ていると、惨憺たる有様です。厚労省は機能不全に陥っています。

日本では長い間、議院内閣制ではなく、「官僚内閣制」である、といわれてきました。各省庁の官僚は、自分の省益を第一に考え、省益と衝突する政策については、内閣から指示されてもそっぽを向く、というものです。
官僚が省庁単位で自分勝手に動く理由は、官僚の人事権を各省庁の事務方トップ(事務次官)が握っていたためです。
この、日本特有の「官僚内閣制」を改め、何とか本来の「議院内閣制」を構築しよう、ということで、紆余曲折を経て、「内閣人事局」が誕生しました。
ところが、安倍長期政権では内閣人事局を過って運用し、その結果、ちょうど良い「議院内閣制」が生じるのではなく、逆に振れた「官邸忖度内閣制」が生まれてしまったようです。

安倍長期政権には多くの功と罪があるように思いますが、内閣人事局の乱用により、霞ヶ関を機能不全に陥らせてしまったことは最大級の罪と思っています。

以上は、今年になってからのコロナに対する国の対応から、私が感じている感想です。これをもっと証拠に基づいて論じてくれる人が現れないか、心待ちにしているところです。最近の論述について書き記しておきます。

「安倍政権7年で霞が関はガタガタになった」片山元総務相奥平 力 日経ビジネス記者 2020年9月2日 』
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安倍政権の7年8カ月を振り返って、どのような印象を持たれますか。

片山氏:この7年8カ月で霞が関の官僚機構はガタガタになってしまいました。官僚機構は国民の一つの財産なのでこの立て直しは急務です。
霞が関の官僚機構がのびのびと仕事ができる。地方のことは自主的に地方が運営する。次の首相にはこの2点を実現してほしい。

官僚機構がガタガタになったのは、内閣人事局の創設が理由でしょうか。

片山氏:制度が悪いという人は多いですが、内閣人事局の創設に代表される官邸の権限強化は悪意なき改革です。かつては、「省あって国家なし」と省益の追求ばかりで、霞が関はバラバラだったわけです。国民の代表たる国会がつくった政権の方を向くようにするのは悪いことではない。
ただ、本来は政権の背後に控える国民の方を向いて仕事をするように指導しなければならなかったのに、現政権は人事権を盾に「政権に忠実たれ」と霞が関を抑え込んだ。政権の言うことを聞くか聞かないかを評価軸にして、言うことを聞かないやつはどんどん飛ばす。制度を悪用したわけですね。
見識のある政治家がリーダーとなって、政権と霞が関が一致して国民の方を向いて仕事をするように変えなければなりません。

片山氏:かつての官僚組織には問題もありましたが、プロフェッショナルとして国民に奉仕するという気概を持った方もたくさんいました。内閣人事局が悪用されている現在よりも過去の方が相対的にマシです。
役所のいいところを潰してしまいました。今の霞が関の雰囲気はこうです。国民のためではなく政権に言われたことをやる。それで失敗したら官邸のせいにして留飲を下げる。国民のためにならないのであれば、直言する気骨が失われてしまいました。
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次期首相は「安倍路線の継承」だけでは済まされない
誰が首相になっても引き継いではならない安倍政権のこの「失政」
2020.9.5(土)舛添 要一』
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忖度行政を引き起こすことになった内閣人事局
その関連で、第二に、霞が関の官僚機構の改革の方向が問題である。霞が関の省庁の縄張り争いについて、かねてから「省あって国なし、局あって省なし」と言われるような状況であった。その弊害は、実際に大臣として一つの省の舵取りをするとよく分かる。

 そこで、この縦割り行政を改革し、一省庁のためではなく、国家全体のために働く官僚を養成することを考えたのである。つまり、各省の幹部人事については、内閣総理大臣を中心とする内閣が一括して行い、政治主導の行政運営を行えるように制度を変えようという方向の議論になったのである。

 こうして、第一次安倍政権のときに、「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」が設置され、次の福田康夫内閣に「内閣人事庁」構想として提案された。この提案は「内閣人事局」として法案の成立まで行ったが、次の麻生太郎内閣で設置が見送られた。その後、政権交代があり、構想は頓挫したままであったが、政権に復帰した安倍第二次内閣が、2014年5月30日に内閣人事局を正式に設置したのである。

 私は、第一次安倍、福田、麻生内閣で厚労大臣のポストにあったので、この方向での改革には賛成であった。しかし、内閣人事局の発足から6年余りが経過した今、振り返ってみると、プラスよりもマイナスのほうが大きくなっている。制度自体に問題があるのではなく、運用に歪みがあったのであり、今やその弊害が噴出している。

 それは、忖度行政であり、自民党内における安倍一強体制である。人事権が官邸に移るということは、皆出世したいので、幹部官僚は官邸のご機嫌を伺うようになる。それが、森友、加計、「桜を見る会」に見られるような忖度行政につながったのである。

政権復帰直後、「民主党政権に協力した」として幹部官僚を次々飛ばした安倍政権
 私が厚労大臣だったとき(2007〜2009年)、優秀な官僚を抜擢して厚労省の大改革を断行した。2009年夏の総選挙で政権が民主党に移り、その後2012年12月の総選挙で自民党が政権に復帰した。民主党政権下でも、私が抜擢した優秀な幹部官僚は大活躍したが、その後を継いだ安倍政権は「民主党政権に協力した」という理由で、彼らを左遷してしまった。その結果、厚労省は幹部に人材が欠け、今回の新型コロナウイルス対策でまともな対応が取れないのである。

 しかし、官僚は国民が選んだ政権に従うのが義務であり、私が大臣時代に活躍した役人たちは、民主党政権下でも職責を果たしたのである。少なくとも医療政策、感染症対策については、民主党政権は舛添大臣の政策を継承したのである。それだけに、この人事は許しがたいものであった。

 安倍政権下での内閣人事局の運営は、忖度官僚を生み、世界に誇ってきた日本の官僚制の土台を腐らせてしまった。
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菅官房長官に意見して“左遷”された元総務官僚が実名告発「役人を押さえつけることがリーダーシップと思っている」〈週刊朝日〉 9/10(木) 11:00』
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総務省では2014年、自治税務局長(当時)を務めていた平嶋彰英氏が菅官房長官に対して直接、制度上の問題点を指摘していた。しかし、事務次官候補の一人だった平嶋氏は翌年7月に自治大学に異動となり、省外に出された。ふるさと納税に反対したことによる平嶋氏への左遷人事と言われ、霞が関の官僚を震え上がらせた。
──ふるさと納税の寄付控除の上限枠倍増は、どのようにして求められたのですか。
 ふるさと納税制度をつくった菅義偉さんは、2014年になって寄付控除額の倍増と、税金の還付手続きで確定申告を省略する「ワンストップ特例」の導入、2000円の基礎控除の廃止を求めてきました。
 2014年12月、レクの資料と『100%得をする ふるさと納税生活』(扶桑社)という本のコピーをクリアファイルに入れて、内閣官房長官の執務室に行きました。
 私としては、当時は消費増税の負担を国民に求めていた時だったので、ふるさと納税が高額納税者の節税対策になっている現状を示し、制度の問題点を説明しました。
──翌年の7月に、平嶋さんは自治大学校長に異動となります。事務次官候補だった平嶋さんが省外に出されたことで、安倍政権に異論を唱えた人にたいする「見せしめ人事」との声もあがりました。
クリアファイルの件から年が明けた2015年の初めに、高市大臣から「菅さんと何があったの? 謝りに行ってきなさいよ」と言われたことはありました。ですが、官僚として制度上の欠陥を指摘するのは当然の仕事なので、謝る必要はないと思ってそのままにしていました。

──官房長官に意見することに、怖さはなかったのですか。
 私としては、事実を伝えることは役人としての当然の仕事で、このことについては今でも後悔はありません。
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今回、片山元総務大臣の発言、舛添元厚労大臣の発言、実際に総務省を左遷された平嶋氏の発言を見つけることができたので、上記のようにまとめておきます。

安倍長期政権での安倍内閣の霞ヶ関に対する人事権の乱用は、官邸が内閣人事局を通して行使しているものであり、安倍首相、菅官房長官、あるいはその両方がリードしていることは間違いありません。今回の安倍首相辞任の後に登場する総理大臣が菅氏だとしたら、次期政権でも、内閣人事局による人事権の乱用は続く可能性が高いですね。

以下、関係するこのブログの記事を挙げておきます。
軽度陽性者の扱い PCR件数が増えない 厚労省が機能不全(2020-04-04 )
コロナ対策・日本の惨状(2020-04-25 )
内閣人事局の功罪(2020-05-31 )
内閣人事局はどうなる? 2018-03-25
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