ダイヤモンド・プリンセス号での新型コロナウイルス感染症の異常発生について、船内では一体何が起こっているか(起こっていたのか)がさっぱりわからず、ずっとフラストレーションが溜まっていました。今でも良く分かった、というレベルからはほど遠いのですが、取り敢えず私が知り得た範囲で、まとめておこうと思います。
2月1日には、その5日前に香港で下船した乗客のひとりが、新型コロナウイルスに感染していると診断されました。これを受けて日本の厚生労働省は2月4日、検疫のためにダイヤモンド・プリンセス号の航海を24時間差し止めました。
船を運営するプリンセス・クルーズはただちにその後の日程をすべて中止したものの、船内では隔離は行われず、普通の生活が続いていました。
2月5日、10人の乗客の感染が確認され、これ以降、乗客は2週間の間、船内の自室に隔離されることになりました。
その後の検査陽性反応人数の推移は調べて分かるものの、「陽性人数/検査人数」の比率がわかりません。いろいろ調べた結果、厚生労働省の報道発表資料 2020年2月に日々挙げられる日報(例えば2月16日の第10報)を集計することにより、やっと全体がつかめました。
日時 日別 累計
陽性反応人数/検査人数 陽性反応率 陽性反応人数/検査人数
2/5 10/31 32% 10/31
2/6 10/71 14% 20/102
2/7 41/171 24% 61/273
2/8 3/6 50% 64/279
2/9 6/57 11% 70/336
2/10 65/103 63% 135/439
2/11-12 (39/53) (74%) (174/492)
2/13 44/221 20% 218/713
2/14-15 67/217 31% 285/930
2/1 70/289 24% 355/1219
2/17 99/504 20% 454/1723
2/18 88/681 13% 542/2404
2/19 79/607 13% 621/3011
2/20 13/52 25% 634/3068
2/21-24 57/831 7% 691/3894
(うち乗員)55/819
2月5日判明の検査で、31人中10人(32%)の陽性反応率が出ました。この時点で、「乗客・乗員の感染率は相当に高い比率(少なくとも10%あるいはそれ以上)との推定ができたはずです。以下の判断はなされたと思います。
(1)乗客の全員を無検査のままで市中に解放することはできない。
(2)その後、全員の検査が終了するまで、感染率を増大させない対策が絶対に必要。
そこで、乗客は自室に隔離する決定がなされました。
その後、2月15日段階で、合計930人の検査人数で285人の陽性反応が出たわけで、この方たちの少なくとも大部分は2月5日の隔離前に感染していたでしょうから、市中に解放しなかった判断は適切でした。
2月5日隔離以降の2週間について
感染しているのは乗客のみならず、接客をしている乗員にも高い感染率で感染していることが誰にでも分かります。従って、接客対応乗員をどうするのかが、この時点で重要な判断でした。
今から考えれば、接客対応乗員も隔離対象者とすべきでした。その代わり、3000人以上の隔離者の生活を維持するためのサービス要員を他から調達する必要があります。今から考えれば、パンデミック危機対応訓練を受けている自衛隊を導入し、少なくとも自衛隊の指導の下、ルールを厳格に定めて、感染拡大を防止しつつ隔離者の生活を維持する対応が必要でした。
現実には、2月5日以前と同じ乗員が、サービスを継続することになりました。
この点は、判断が甘かったというしかありません。
第1のポイントは、2月1日です。すでに下船した乗客の一人の感染が判明した時点で、船内を可能な範囲で隔離状態に置くことができれば、2月5日までの感染数を減らすことができたでしょう。それができなかった点は、旗船国英国、米国運営会社、船長の責任が問われるべきでしょう。
日本政府は、以上の点について世界にもっと発信すべきです。そうでないと、ダイヤモンド・プリンセス号に関するすべてが、日本の失態で引き起こされたという印象を形成してしまうでしょう。
第2のポイントは、2月5日です。
31人中10人(32%)の陽性反応率を重く受け止めるべきでした。そして、上記のような対応を考えるべきだったと思います。
まず、乗員を操船要員と乗客サービス要員に分類し、操船要員については、早急に全員の検査を行った上で、陰性の乗員が船内に残り、操船区域をグリーンゾーンとして確保します。
現地対策本部は、桟橋に設けます。建築工事現場の事務所として使われるプレハブなど、1日で構築することができるでしょう。
現地対策本部は、検疫所長と厚労省の2頭態勢になるのでしょうか。事件の捜査本部で、所轄の署長と本庁の監理官が2頭態勢になるようなものですね。専門家がスタッフとして張り付き、責任者は専門家の意見を最大限に取り入れるべきです。さらに、外務省、防衛省、国交省がスタッフとして張り付きます。
船の船長に対し、2月5日以降は現地対策本部の指揮下に入るよう要請すべきです。外務省が、旗船国のイギリス、運営会社国のアメリカと交渉して承諾を得るべきです。「それを行うためには法律が不足する」ということであれば、そんなときこそ、内閣総理大臣の政治判断を活用すべきです。桜を見る会で嘘の強弁をしているときではありません。
以上のような知恵は、船内の情報が適切に開示されていれば得られたはずです。厚労省が蛸壺を構築して、情報を抱え込んでいたのではないか、と危惧します。そのような危惧を嘆じるのは、その日その日に報道される情報があまりにも少なかったからです。
いや、そこまでは必要なかった。今回の対応がベストな選択だった、という考え方もあるでしょう。今のところ、下船者からの陽性反応率は、各国に帰還した人たちの情報から考えると、1~2%でしょう。
「船内で感染した600人以上を食い止めたのだから、それから漏れた数人~数十人の感染者が後から見つかっても、想定の範囲内であり、サービス要員の乗員まで隔離したのでは費用がかかりすぎる。」とする考え方です。
しかし政府は、「絶対に大丈夫だ」とアナウンスした結果として、帰宅者から一人でも陽性の人が出たら、言い訳に回らざるを得ません。
次に検査数です。
乗客・乗員あわせて3000人以上の対象者がいるのに、2月10日の段階で累計439人、2月15日の段階で930人しか検査されていません。なんでこんなに遅かったのでしょうか。確か香港に入船したクルーズ船は、あっという間に全員の検査を終えたと報道されていました。全員の検査が短期間で終わっていれば、さまざまな選択肢が生まれていたと思われます。
未だに、市中の病院において、感染が疑われる患者の検査がままならない状況といいます。本来であれば、風邪かもしれない、という症状で医院を訪れた全員に対して、新型コロナ検査をすぐに実施すべきです。
テレビを観ていると、日本の民間検査会社は、PCR検査能力を豊富に有しているそうです。なぜその能力を活かさないのか、テレビ番組ではまったく明かされていません。未だに謎です。
「2月5日以前の検査しかしていなかった乗客23人が下船した」というこうで厚労大臣が謝っています。ちょっと待ってください。例えば「2月6日に検体採取して陰性だった人は、再検査せずに下船が許されていた」のでしょうか。そうだとしたら大問題です。
船内で執務していた厚労省職員が、検査せずに職場復帰して問題となっていました。その後、検査すること、所定期間自宅待機するように方針が変更になったようですが、当たり前です。厚労省の判断の甘さにはほとほと呆れ果てます。
2月1日には、その5日前に香港で下船した乗客のひとりが、新型コロナウイルスに感染していると診断されました。これを受けて日本の厚生労働省は2月4日、検疫のためにダイヤモンド・プリンセス号の航海を24時間差し止めました。
船を運営するプリンセス・クルーズはただちにその後の日程をすべて中止したものの、船内では隔離は行われず、普通の生活が続いていました。
2月5日、10人の乗客の感染が確認され、これ以降、乗客は2週間の間、船内の自室に隔離されることになりました。
その後の検査陽性反応人数の推移は調べて分かるものの、「陽性人数/検査人数」の比率がわかりません。いろいろ調べた結果、厚生労働省の報道発表資料 2020年2月に日々挙げられる日報(例えば2月16日の第10報)を集計することにより、やっと全体がつかめました。
日時 日別 累計
陽性反応人数/検査人数 陽性反応率 陽性反応人数/検査人数
2/5 10/31 32% 10/31
2/6 10/71 14% 20/102
2/7 41/171 24% 61/273
2/8 3/6 50% 64/279
2/9 6/57 11% 70/336
2/10 65/103 63% 135/439
2/11-12 (39/53) (74%) (174/492)
2/13 44/221 20% 218/713
2/14-15 67/217 31% 285/930
2/1 70/289 24% 355/1219
2/17 99/504 20% 454/1723
2/18 88/681 13% 542/2404
2/19 79/607 13% 621/3011
2/20 13/52 25% 634/3068
2/21-24 57/831 7% 691/3894
(うち乗員)55/819
2月5日判明の検査で、31人中10人(32%)の陽性反応率が出ました。この時点で、「乗客・乗員の感染率は相当に高い比率(少なくとも10%あるいはそれ以上)との推定ができたはずです。以下の判断はなされたと思います。
(1)乗客の全員を無検査のままで市中に解放することはできない。
(2)その後、全員の検査が終了するまで、感染率を増大させない対策が絶対に必要。
そこで、乗客は自室に隔離する決定がなされました。
その後、2月15日段階で、合計930人の検査人数で285人の陽性反応が出たわけで、この方たちの少なくとも大部分は2月5日の隔離前に感染していたでしょうから、市中に解放しなかった判断は適切でした。
2月5日隔離以降の2週間について
感染しているのは乗客のみならず、接客をしている乗員にも高い感染率で感染していることが誰にでも分かります。従って、接客対応乗員をどうするのかが、この時点で重要な判断でした。
今から考えれば、接客対応乗員も隔離対象者とすべきでした。その代わり、3000人以上の隔離者の生活を維持するためのサービス要員を他から調達する必要があります。今から考えれば、パンデミック危機対応訓練を受けている自衛隊を導入し、少なくとも自衛隊の指導の下、ルールを厳格に定めて、感染拡大を防止しつつ隔離者の生活を維持する対応が必要でした。
現実には、2月5日以前と同じ乗員が、サービスを継続することになりました。
この点は、判断が甘かったというしかありません。
第1のポイントは、2月1日です。すでに下船した乗客の一人の感染が判明した時点で、船内を可能な範囲で隔離状態に置くことができれば、2月5日までの感染数を減らすことができたでしょう。それができなかった点は、旗船国英国、米国運営会社、船長の責任が問われるべきでしょう。
日本政府は、以上の点について世界にもっと発信すべきです。そうでないと、ダイヤモンド・プリンセス号に関するすべてが、日本の失態で引き起こされたという印象を形成してしまうでしょう。
第2のポイントは、2月5日です。
31人中10人(32%)の陽性反応率を重く受け止めるべきでした。そして、上記のような対応を考えるべきだったと思います。
まず、乗員を操船要員と乗客サービス要員に分類し、操船要員については、早急に全員の検査を行った上で、陰性の乗員が船内に残り、操船区域をグリーンゾーンとして確保します。
現地対策本部は、桟橋に設けます。建築工事現場の事務所として使われるプレハブなど、1日で構築することができるでしょう。
現地対策本部は、検疫所長と厚労省の2頭態勢になるのでしょうか。事件の捜査本部で、所轄の署長と本庁の監理官が2頭態勢になるようなものですね。専門家がスタッフとして張り付き、責任者は専門家の意見を最大限に取り入れるべきです。さらに、外務省、防衛省、国交省がスタッフとして張り付きます。
船の船長に対し、2月5日以降は現地対策本部の指揮下に入るよう要請すべきです。外務省が、旗船国のイギリス、運営会社国のアメリカと交渉して承諾を得るべきです。「それを行うためには法律が不足する」ということであれば、そんなときこそ、内閣総理大臣の政治判断を活用すべきです。桜を見る会で嘘の強弁をしているときではありません。
以上のような知恵は、船内の情報が適切に開示されていれば得られたはずです。厚労省が蛸壺を構築して、情報を抱え込んでいたのではないか、と危惧します。そのような危惧を嘆じるのは、その日その日に報道される情報があまりにも少なかったからです。
いや、そこまでは必要なかった。今回の対応がベストな選択だった、という考え方もあるでしょう。今のところ、下船者からの陽性反応率は、各国に帰還した人たちの情報から考えると、1~2%でしょう。
「船内で感染した600人以上を食い止めたのだから、それから漏れた数人~数十人の感染者が後から見つかっても、想定の範囲内であり、サービス要員の乗員まで隔離したのでは費用がかかりすぎる。」とする考え方です。
しかし政府は、「絶対に大丈夫だ」とアナウンスした結果として、帰宅者から一人でも陽性の人が出たら、言い訳に回らざるを得ません。
次に検査数です。
乗客・乗員あわせて3000人以上の対象者がいるのに、2月10日の段階で累計439人、2月15日の段階で930人しか検査されていません。なんでこんなに遅かったのでしょうか。確か香港に入船したクルーズ船は、あっという間に全員の検査を終えたと報道されていました。全員の検査が短期間で終わっていれば、さまざまな選択肢が生まれていたと思われます。
未だに、市中の病院において、感染が疑われる患者の検査がままならない状況といいます。本来であれば、風邪かもしれない、という症状で医院を訪れた全員に対して、新型コロナ検査をすぐに実施すべきです。
テレビを観ていると、日本の民間検査会社は、PCR検査能力を豊富に有しているそうです。なぜその能力を活かさないのか、テレビ番組ではまったく明かされていません。未だに謎です。
「2月5日以前の検査しかしていなかった乗客23人が下船した」というこうで厚労大臣が謝っています。ちょっと待ってください。例えば「2月6日に検体採取して陰性だった人は、再検査せずに下船が許されていた」のでしょうか。そうだとしたら大問題です。
船内で執務していた厚労省職員が、検査せずに職場復帰して問題となっていました。その後、検査すること、所定期間自宅待機するように方針が変更になったようですが、当たり前です。厚労省の判断の甘さにはほとほと呆れ果てます。