弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

赤祖父俊一「オーロラ―その謎と魅力」

2009-10-29 20:30:20 | サイエンス・パソコン
今年9月の連休(シルバーウィーク)、私は家内とアラスカにオーロラを見に行っていました。
「秋の連休はオーロラを見に行こう」という話が持ち上がり、「じゃあどこへ行けばいいのか」と調べたところ、アラスカのフェアバンクスが好適らしい、ということまで分かりました。そこでアラスカのガイドブック(B15 地球の歩き方 アラスカ 2009~2010)を購入して調べ、実際に行ってきました。

旅行に先立って、「オーロラとは一体いつ、どこで、どのように見えるのか」いっった基本的な事項を知る必要があります。購入したガイドブックには赤祖父俊一先生という方が解説を載せていました。そして赤祖父先生は、以下の本を出されてることがわかり、購入しました。今では古本でしか入手できません。
オーロラ―その謎と魅力 (岩波新書 新赤版 (799))
赤祖父 俊一
岩波書店

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赤祖父先生は1930年生まれ、1953年に東北大学を卒業し、61年からアラスカ大学に進まれまたた。そのまま同大学地球物理研究所の教授、そして所長となり、この本が執筆された2002年当時はアラスカ大学国際北極圏研究センター所長でした。

赤祖父先生が東北大学の学生の頃、地球の磁場と太陽から吹き付けるプラズマガス(太陽風)との相互作用により、地球の磁場の形が非常に変わった形になるということを、理論的に解明した先生がいました。チャップマン-フェラーロ理論といい、この理論を理解できないようではオーロラや磁気嵐の研究をする資格はないと言われていました。しかし、赤祖父先生にはこの論文が難解だったので、思い切ってアラスカ大学のチャップマン先生に手紙で質問を出しました。すると思いがけなく、そのチャップマン先生から10日ほどですぐ返事が来ました。「貴君の質問のいくつかは私自身も答えられない。アラスカに来て、大学院の学生として私の指導で研究を続けてはどうか」とありました。赤祖父先生が「申しわけないことだが、貧乏学生なので渡航費などない」と書いたところ、航空運賃のチェックが送られてきた、というのです。

おもしろい話です。日本の大学の権威たちは、「チャップマン-フェラーロ理論が理解できなければ研究者ではない」と言い合い、自分は理解しているつもりでした。しかし実は、「難解でよくわからない」と感じかつ質問を出した赤祖父氏が、「何がわかっていて何が分かっていないのか」を一番理解していたし、当のチャップマン先生もそのことに直ちに気付いたのでしょう。

赤祖父先生の上記図書では、オーロラについての科学がどのように進歩してきたのか、時代を追って解説しています。

オーロラは、地球の周囲にできる地磁気と、太陽から吹き付ける太陽風との相互作用で形成されます。その実態を知るためには、図面を参照するのが好ましく、森洋介さんという方が作られたオーロラと磁気嵐の科学オーロラへの招待を参照させて頂ながら説明します。

さきほどのチャップマン-フェラーロ理論が導き出したように、地球自体が磁石になっていることによって形成される地球の周りの地磁気の形は、決して地磁気軸の回りに軸対称になっていません。例えば、森洋介さんのオーロラと磁気嵐の科学(5)に掲載されている図4を見ていただくとわかるように、太陽に向かう側は磁力線が閉じているのに対し、太陽の反対側は長い尾を引いているのです。
そしてこの磁力線のうちの特定部位の磁力線に沿って、太陽から地球に吹き付ける太陽風(プラズマ=荷電粒子)が地表に向かって降り注いで来ます。この荷電粒子が高度500~100kmにおいて地球を取り巻くガス(分子や原子)と衝突し、そのときに蛍光を発するのです。これがオーロラです。

オーロラが発生する地球の特定部位とは、磁北極と磁南極を中心としてリング状(オーバル状)に形成さます。オーロラ・オーバルとも呼ばれます。例えば、オーロラへの招待の中のオーロラ・オーバルを見てください。この中の図7は、人工衛星から観察した北極周辺のオーロラ・オーバルです。

赤祖父先生はアラスカ大学で、オーロラ科学に関するいくつもの貢献をしています。

フェアバンクスはオーロラ・オーバルの位置にあります。そしてフェアバンクスで観察していると、オーロラは午後9時頃に北方から現れ、次第に近づき、12時頃にフェアバンクスの真上に来ます。その後またオーロラは北に移動し、午前3時頃に北の空に去っていきます。地球上の1箇所で見ているとこのように見えるオーロラが、地球全体から見るとどのようなメカニズムになっているのか、という点について独自に明らかにしたのは赤祖父先生です。

赤祖父先生はまた、先生が「オーロラ・サブストーム」と名付けたオーロラ活動が、地球規模のオーロラ・オーバルにおいてどのように挙動しているのかについて、明らかにしました。北極圏を囲む各地に設置された全天カメラのフィルムを3年がかりで詳細に検討した結果です。

ところで、チャップマン-フェラーロ理論によって明らかにされた地磁気と太陽風との関係、私にとっては大学時代の思い出につながります。大学4年になって卒論の所属研究室とテーマを決めるに際し、テーマの概要が壁に張り出されました。研究室の中には私が所属することになる流体力学研究室があり、その研究室のテーマのうちの一つが、「プラズマのシースとテール」と名付けられ、チャップマン-フェラーロ理論と同じような図面が掲示されていたのです。「こんなおもしろい現象が地球の周りで起こっているのか」とわくわくした憶えがあります。

最近の赤祖父先生は、地球温暖化に関し、「小氷期が1800年頃に終わった後から0.5℃/100年の温暖化が現在まで200年間持続している。この温暖化は大気中CO2濃度上昇のはるか以前から始まっており自然現象とみなすべきである。したがって20世紀に認められた0.6℃の気温上昇のうち少なくとも6分の5は自然現象である」と主張されているようです(正しく知る地球温暖化―誤った地球温暖化論に惑わされないために)。

オーロラの科学についての知識を吸収しました。あとは実際にアラスカに出かけてオーロラの出現を待つことになります。

以下次号
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鳩山政権の農業政策は是か非か

2009-10-27 21:14:07 | 歴史・社会
Voice 11月号では、「日本経済を壊す7つの危険」として、鳩山政権の政策7つについて警鐘を鳴らす記事を上げています。
1.企業の日本離れが加速する 財部誠一
2.家計を36万円傷める「CO2削減」 北村慶
3.「派遣禁止」による失業率10% 池田信夫
4.消費を冷やす「最低賃金千円」  藤沢久美
5.個別補償、黒字農家は廃業に 浅川芳裕
6.「高速無料化」効果の大間違い 増田悦佐
7.「郵政見直し」で銀行は連鎖倒産 宮尾攻

そのうちここでは、「5.個別補償、黒字農家は廃業に 浅川芳裕」について見てみます。

「農業者個別所得補償制度」というのが、今回対象となる民主党政権の政策です。「戸別所得補償制度は、コメ、麦、大豆などの主要農産物について、政府が示す生産数量目標に従う農家に対し販売価格が生産費を下回った場合に、その差額を国が直接補填する仕組み。数量目標に参加しない農家は自己責任で自由に作付けを拡大できる。」
コメを対象に来年度から全国一斉に実施する方向で最終調整していることが14日わかりました。

日本のコメ農家は140万戸ほど、そのうち7割の100万戸が1ヘクタール未満の農家で、農業所得はわずか年間3万円ほどです。これらの農家の大部分は、兼業農家、あるいは年金で暮らすお年寄りで、赤字農家というより、自家消費やおすそ分け用にコメや野菜を作っているのです。
今回の民主党政権による個別補償は、このような擬似農家に対して1ヘクタールあたり最大85万円を補償しようとする制度だというのです。
このような擬似農家の家族や親類縁者を含めれば、500万票を超える大票田になります。

一方、コメで所得の半分以上を占めている農家は日本全国で3万戸しかありません。この数では票田になりません。
こうした本物のコメ農家は、擬似農家から農地を借り、利益や助成金を投資に回して成長してきました。そして黒字経営を実現しています。日本には300万戸の販売農家がいますが、そのわずか7%に当たる販売金額1千万円以上の農家14万戸が日本の農業生産額8兆円の6割を産出しているというのです。
結局、擬似農家を補償する今回の政策は、日本農業を真に支える黒字農家まで潰すことになります。

まず、農地の“貸しはがし”が起き、将来有望なコメの専業農家の経営を圧迫します。擬似農家は貸す地代よりも、己が耕作したほうが国の補償で実入りがよいとなれば、農業を本業とする農家から農地の返還を求めるようになるからです。
すでに設備投資を行いスタッフを雇ってきた専業農家は、農地の貸しはがしで耕作農地が激減すれば、赤字に陥り、廃業を余儀なくされます。
民主党政権は、いままで専業農家を育成してきた「農地集積加速化事業」の凍結を決め、これで捻出した3千億円を所得補償の原資にするとしています。
(以上)

農地の“貸しはがし”という話。私は上記記事ではじめて聞きました。ほかのマスコミからは聞いてきませんが、実態はどうなっているのでしょうか。
もし筆者が言うとおりとしたら、鳩山政権は、擬似農家という大票田に目がくらみ、日本の農業を本当に活性化する道から逆行を始めることになってしまいます。
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ゆうちょ銀行とはどんな銀行か

2009-10-25 14:32:57 | 歴史・社会
現在の「ゆうちょ銀行」は、いったいどんな銀行なのでしょうか。200兆円を超える資産のうち、8割が国債で運用されているといいます。銀行と名がつくのに、銀行業の主要業務である融資は行わないのでしょうか。
一部の報道では、「ゆうちょ銀行は法令により融資を行うことができない」などと書かれています。銀行なのに本当に融資が禁じられているのでしょうか。
ネットを検索しますが、この点についての答えが得られません。仕方がないので、法令にあたってみることにしました。

ゆうちょ銀行については、「郵政民営化法」に規定されているようです。以下に関係する法令を列挙します。郵政民営化法(以下「民営化法」)で「郵便貯金銀行」と規定されている銀行が、具体的には「ゆうちょ銀行」です。

民営化法98条1項によると、ゆうちょ銀行は銀行とみなされているのですね。「みなし銀行」ですか。ただし、普通の銀行とは異なる条件が付されています。
民営化法98条2項1号、103条によると、以下の通りです。

銀行法で規定された銀行の業務範囲のうち、
 一号の中の 外貨預金の受入れ
 二号 資金の貸付け又は手形の割引
については、
(1) 内閣総理大臣の承認を受けなければならない(98条2項1号)
(2) 株式の全部を処分するまでは、内閣総理大臣及び総務大臣の認可を受けなければならない(110条)

以上の法令によれば、ゆうちょ銀行は融資業務を禁じられているわけではありません。完全民営化前においては内閣総理大臣と総務大臣の認可が必要なだけです。

報道で「融資は法令で認められていない」としているからには、現時点で総理大臣と総務大臣の認可を得ていないのでしょう。

ここまではわかりました。
しかし、現段階でなぜ融資業務の開始が認められていないのか、そして次の段階、どうすれば総理大臣と総務大臣の認可を得て融資業務を始めることができるのか、その点については不明のままです。

さて、民主党連立政権の方針で、ゆうちょ銀行の株式の売却は凍結されることになりました。従って、郵政民営化法の「移行期間」が経過することはあり得なくなったので、郵政民営化法を抜本見直しすることは明白です。

ゆうちょ銀行は、どのような収益構造を実現するのでしょうか。
今のように資産の8割で国債を買うような体質が続けられるわけがありません。これでは収益が不足します。現政権が言っている「全国一律のサービス」を義務づけられたらなおさらです。
銀行法の規制とは別の法制を計画しているようです。
かといって、昔の財政投融資に戻ることはあり得ません。
財政投融資が大昔の制度を維持していた頃、郵貯と簡保の資産は、大蔵省の資金運用部に預託することが義務づけられていました。財投が郵貯から借り入れするときに通常よりも高い金利を払っていました。財投の融資先の特殊法人は高い金利を支払い、財投は特殊法人から吸い上げたお金を郵便貯金に補給するという仕組みです。特殊法人には多額の税金を投入するから、そのシステムは成り立っていました(こちらこちら)。郵貯と簡保は何の努力もせずに収益を得ることができました。
しかし、1997年に財政投融資制度が改革され、財投債が発行されるようになったので、郵貯と簡保は預託の義務がなくなりましたが、そのかわりに、自分で運用して収益を稼ぎ出す必要が生じたのです。
この時点で郵貯は民営化が必須になりました。
民営化して普通の銀行になろうと努力してきたのですが、今回ストップがかかりました。
財政投融資の預託にも戻ることができず、銀行法から外れるということは銀行でもなくなるわけです。一体どうするのでしょうか。
政府系ファンドの原資にすることはやめてください。また、株式で運用したり、ハゲタカファンドに運用を委託することもやめてもらいます。

それとも財務省は、財政投融資改革を逆行させる目論見を持っているのでしょうか。財投資制度が預託制度から財投債に変わったとき、財務省内には猛烈な反対があったようです。もしも財務省の悲願が叶って預託制度が復活すると、郵貯マネーはそちらに預託されることになります。郵貯としては何の企業努力もせずに収益が上がります。しかし結局それは国民負担として跳ね返ってくるわけで、やはり絶対反対ですね。


【郵政民営化法】
第二章 基本方針(第4条―第9条)
(新会社の株式)
第7条
2項  日本郵政株式会社が保有する郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式は、移行期間(平成19年10月1日から平成29年9月30日までの期間をいう。以下同じ。)中に、その全部を処分するものとする。
第八章 郵便貯金銀行(第94条-第125条)
(銀行業の免許の付与)
第98条  郵便貯金銀行は、この法律の施行の時において、銀行法第4条第1項の免許を受けたものとみなす。
2項  前項の免許は、次に掲げる条件が付されたものとする。
一号 第110条第1項各号に掲げる業務を行おうとするときは、内閣総理大臣の承認を受けなければならないこと。
 第三節 移行期間中の銀行法等の特例等 (第103条―第125条)
(通則)
第103条  郵便貯金銀行については、移行期間中、この法律又は他の法律に別段の定めがあるもののほか、この節の定めるところによる。
第104条  郵便貯金銀行については、次に掲げる日のいずれか早い日以後は、前条の規定にかかわらず、この節の規定を適用しない。
一号 日本郵政株式会社が郵便貯金銀行の株式の全部を処分した日
(業務の制限)
第110条  郵便貯金銀行は、次に掲げる業務を行おうとするときは、その内容を定めて、内閣総理大臣及び総務大臣の認可を受けなければならない。
一号 銀行法第10条第1項第一号に掲げる業務(外貨預金の受入れその他の政令で定める業務に限る。)
二号 銀行法第10条第1項第二号に掲げる業務(次に掲げる業務を除く。)
 イ 預金者等に対する当該預金者等の預金等を担保とする資金の貸付け
 ロ 国債証券等を担保とする資金の貸付け
 ハ 地方公共団体に対する資金の貸付け
 ニ コール資金の貸付け
 ホ 日本郵政株式会社、郵便事業株式会社、郵便局株式会社又は郵便保険会社に対する資金の貸付け
 ヘ 機構に対する資金の貸付け

【銀行法】
(営業の免許)
第4条  銀行業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、営むことができない。
(業務の範囲)
第10条  銀行は、次に掲げる業務を営むことができる。
一号 預金又は定期積金等の受入れ
二号 資金の貸付け又は手形の割引
三号 為替取引
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日本郵政の取締役会は機能するか

2009-10-23 20:28:23 | 歴史・社会
今般、日本郵政の社長であった西川善文氏が辞任し、亀井静香郵政担当大臣が後任は斉藤次郎氏であると発表しました。

ところで、日本郵政株式会社は委員会設置会社です。現在の役員構成は以下のようになっています。

取締役会長 西岡喬(三菱重工業相談役)
取締役兼代表執行役社長(CEO)西川善文(元三井住友銀行頭取)
取締役兼代表執行役副社長 高木祥吉(元金融庁長官)
取締役 牛尾治朗(ウシオ電機会長)
取締役 奥田碩(トヨタ自動車相談役)
取締役 丹羽宇一郎(伊藤忠商事会長)
取締役 奥谷禮子(ザ・アール社長)
取締役 高橋瞳(青南監査法人代表社員)
取締役 下河邉和彦(弁護士)

指名委員会(株主総会に提出する取締役の選任・解任に関する議案内容を決定する)
 委員長 奥田碩
 委員 西川善文、高木祥吉、牛尾治朗、丹羽宇一郎
執行役の選任・解任:取締役会決議による
代表執行役:取締役会によって執行役の中から選任する。

西川社長が辞任したといいますが、取締役と代表執行役社長のうち、どれを辞めるのでしょうか。代表執行役社長は辞任するが、取締役は留任するのでしょうか。その点がまずよくわかりません。

新しく社長となる斉藤次郎氏は、代表執行役社長に就任するだけではなく、やはり取締役を兼任するのでしょうね。

まず第1に、指名委員会が、斎藤氏を取締役に選任する議案(株主総会)を決定します。
指名委員会は、きちんと議論をして、斎藤氏が取締役兼代表執行役社長としてふさわしいか、見極めてほしいです。

臨時株主総会で斎藤氏が取締役に選任されたら、次に取締役会で、斎藤氏を代表執行役社長に選任します。
ここでも、斎藤氏が代表執行役社長としてふさわしいか、取締役会での議論を期待します。

折角の民主党政権下での社長交代ですから、取締役会での議論もオープンにしてほしいものです。

ところで、指名委員会、取締役会は、現取締と指名委員によって行われるのでしょうか。
こちらの記事によると、「西川社長の辞意を受けて、高木祥吉副社長や社外取締役など経営陣の多くも辞任する見通し。経営陣がほぼ刷新され、新政権による郵政民営化見直し作業が本格的に動きだす。亀井静香郵政改革担当相は早急に後任社長を決め、新社長とともに経営陣を固める方針。」とあります。
そりゃそうですよね。
西川社長が辞任に追い込まれる中、奥田、牛尾、丹羽氏らがのうのうと留任するなど、考えられません。
そうすると、取締役会のメンバーの大部分が辞任してしまい、指名委員会も機能することができず、株主総会が自分で取締役を選任して議決するのでしょうか。

こうなると、委員会設置会社としての企業統治は、完全に崩れてしまうように思われます。
新銀行東京も委員会設置会社ですが、第二の新銀行東京にならないことだけを切に祈ります。


ところで昨日のテレビニュースで、郵貯マネーや簡保マネーを原資として、政府系ファンドを立ち上げるような話が出ていました。
これはまたびっくりする話です。
このブログのこちらにも書きました。政府系ファンドというと、リーマンショック前に大きな動きをした中東や中国の政府系ファンドが思い当たります。
それによると、政府系ファンドとは次のような性格を持っています。
資源輸出国、商品輸出国は、貿易黒字で得た外貨資金を、万が一のために、外貨準備金という形で一定量手元に残しました。その外貨が貯まったままではもったいないとのことで設立されたのが、外貨準備金を運用する国富ファンドです。
従来は、いつでも現金化できる流動性の高い資産に投資する保守的なものでしたが、最近の原油価格の高騰で外貨準備高が急増したので、外貨準備の一部を使って「長期固定させてもよいから、高いリターンを目指そう」という積極的な運用を可能にさせました。
国富ファンドは、巨大資本家ならではの特徴があり、通常の株式投資家よりも高いリスクを取り、より高いリターンを享受しようとします。ただし運用は「人知れず静かに」行います。
国富ファンドのもう一つの特徴は、通常の投資信託や年金ファンドと違い、『短期的な時価評価に一喜一憂する必要がない』という点だとしています。

つまり、日本でいったら、人知れず蓄えられていた時代の“埋蔵金”が、政府系ファンドの原資としてはふさわしいといえます。今ではあの埋蔵金ももはや“露天掘り”ですから、やはり政府系ファンドの原資にはなり得ないでしょう。
それに対し、郵貯マネーを政府系ファンドの原資にするなどもってのほかです。
政府系ファンドというのは、結局はハイリスクを覚悟し、ハイリターンを狙う投資です。それに対して郵貯は「銀行」なのですから、銀行は銀行らしく、郵貯マネーを人や企業に貸し出し、その利息で利益を出すまっとうなビジネスを行ってほしいものです。
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森功「JALを墜落させた真犯人」

2009-10-22 22:20:17 | 歴史・社会
日本航空(JAL)が経営危機に陥ったらしく、そのJALをどうすべきなのか、自民党政権から民主党政権に変わり、行方が注目されています。

そもそも、JALは経営危機といわれるが、その経営実態はどうなっているのか、また、経営がそこまで悪化した原因は何なのか、という点が、私には見えてきません。
文藝春秋の11月号に、森功氏が「JALを墜落させた真犯人」との記事を寄せているので、読んでみました。

JALは、のちの運輸省航空局にあたる航空保安庁の肝いりでスタートし、1953年に特殊法人化されました。その後、社長は運輸関係省庁の天下りポストであり、半ば国営企業でした。
そのJALには、運輸省と一体となってきた官僚派(東大閥)と、野武士のような営業、組合対策集団(私大閥)が存在してきました。このような勢力争いが、現在のJALにまで残っているようです。

このような半ば国営企業だったJALが、民営化を決めます。87年に完全民営化しますが、その前、85年8月に御巣鷹山の事故が発生します。
一方では80年代後半にバブル景気が起き、JALもバブル景気を謳歌します。JALは不動産開発に躍起になります。また航空機購入資金として1ドル184円で10年の為替予約に踏み切りますが、バブル景気で1ドル80円台の円高になり、予約額との差額がもろに損失となりました。バブル崩壊後、これらの負の遺産は経営に大きな影を落とします。

95年、近藤晃が社長に就任、1600億円の資本準備金から1300億円を取り崩し、累積損失処理に踏み切りました。その近藤氏が社長を退任した後、営業閥でも管理閥でもない労務畑の兼子勲氏がバランス人事で社長に就きますが、その兼子が予想外に権勢を振るい始めます。

2001年のニューヨーク同時多発テロの後、国際線に頼ってきたJALは深刻な経営危機に見舞われます。そこで国内路線を獲得するため、それと羽田空港の発着枠を取りたいがため、JASとの統合に踏み切ったといわれています。私は、運輸省の圧力でいやいやJASと統合したのかと思っていましたが、そうではなく、JALの意思だったのですね。
現実には、JASとの統合以降、兼子体制の下でJALが迷走を始めます。JASとの統合を機に、兼子氏は営業は他や管理部門の役員を次々と関連会社に飛ばしていきました。そこから社内抗争に発展します。
そんな矢先、兼子体制を直撃したのが、相次ぐ運行トラブルでした。兼子社長は会長を引責辞任します。

私もこの時期、JALの飛行機に乗るのは何とも恐ろしく、しばらくはとにかくJALを外していました。大方の乗客も同じ気持ちだったでしょう。
後日ですが、2008年のゴールデンウィーク、私達は4月29日に成田からアムステルダムに移動しました。このとき、希望していたKLMが取れず、JAL機に乗りました。するとゴールデンウィーク初日にもかかわらずがらがらで、一人が3席を独占する状況でした。このときほどJALの不人気を実感したことはありません。

結果、JALは赤字を垂れ流し、06年472億円、07年168億円の赤字となります。
そんな状況下、06年2月に四人の取締役によるクーデター騒動が勃発します。
このクーデターの後、役員の末席にいた西松遙が抜擢されます。西松は3カ年の中期再生プランを策定しますが、08年12月、09年三月期の赤字転落が決定的になります。
国交省は、ANAとの合併を検討したようですが、共倒れになることを恐れたANAはその提案を頑強に拒みます。困った国交省が次に模索したのは、米デルタ航空との締結でした。最近になって報道された米キャリアとの資本提携は、前から国交省が打ち出していたのです。

ここまで至ったJALの経営不振の要因は何なのでしょうか。
JASとの統合後、JALは再生プランの中でリストラを進めてきました。そのため経営拠点の規模を縮小したのですが、それがあだになり、グループ関連旅行会社が弱体化しました。
早期退職推進に際し、西松社長は「早期退職は年金制度を維持するいい会社にするため」と説明したそうです。それが今度は突然、OBに相談もなくJALは年金を半額にすると発表しました。
そうこうするうち、四半期で990億円という史上最大の赤字に直面し、そこから国交省とJALが迷走していくことになりました。

民主党で長年、航空行政の欺瞞を追求してきた財務副大臣の峰崎直樹氏が指摘します。
「JALには簿外債務のあることは間違いなく、債務超過に近いと考えています。」「JALを食い物にしてきた航空行政の実態も問題です。霞が関の天下り先として、286ものJALの関連企業がある。地方空港を次々とつくっていった無駄もある。」「国際線が日本に二社もあるのは異常かもしれない。」

JALが窮地に陥るたび、自民党の運輸族議員や国交省が手を差し伸べ、救われてきました。それはJALが政治家や行政側にとって、都合の良い会社だったからです。狭い日本の国土に百近い空港を建設し、採算を度外視して飛行機を飛ばしてきました。
(以上)

こうして見ると、JALの経営危機の要因というのは実に複合的で、原因を一つ、二つに絞ることはとうていできません。
しかし事ここに至った以上、問題の先送りは許されません。
前原国交相は、タスクフォースを立ち上げて切り込んで行ったのですが、どうも「破綻させない」を前提としているようです。破綻させないまま、銀行団には巨額の債権放棄を迫り、公的資金を投入する予定のようです。
懸案であるOBの年金削減については、破綻させないで削減が許されるのか、まだ不確かです。

これ以上国民の税金を投入するのであれば、GMで行ったと同様な徹底した対応を期待します。
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伊勢崎賢治氏の最近

2009-10-21 21:55:58 | 歴史・社会
18日の日曜のテレビ番組に伊勢崎賢治氏が出演していた件については昨日書きました。そのときのコメントによると、伊勢崎氏が最近アフガニスタンを訪問しているようなのですが、詳しくは把握できませんでした。
その後ネット検索した結果、見つけました。15日(水)にBSフジの番組に伊勢崎氏が出ていました。
夜8時からの「Prime News」という番組です。
「『どうする?対アフガニスタン政策~対テロ支援か?民生支援か?』ゲスト:渡部恒雄 東京財団上席研究員、伊勢崎賢治 東京外語大学大学院教授」
動画はこちらのサイト(前編後編)で見ることができます。10月15日版の前編と後編です。
ゲストの伊勢崎賢治氏が30分間全開でしゃべっておられました。
それによると・・・

伊勢崎氏は確かに最近、アフガニスタンを訪問しているようです。カルザイ政権、米国(米軍)、NATO軍の首脳と緊密に連絡を取っているようです。あくまで「非公式」ということで、伊勢崎氏が個人的に訪問しているのか、それとも何らかの日本国の使節として訪問しているのか、その辺はぼかしていました。岡田外相は公式にアフガニスタンを訪問しましたが、伊勢崎氏は「公式じゃない方がいいんだが」と言っていたので、伊勢崎氏の訪問は岡田外相の訪問とは別に行われたようです。

話は大きなことになっています。
米国及びNATO軍は、アルカイーダによってアフガニスタンというイスラム国に引きずり込まれ、終わりのない消耗戦を戦わされています。米軍やNATO軍だけではこの戦いを終わらせることができない。泥沼状態です。
このような中、カルザイ政権、米軍・NATO軍、タリバーンの仲に立って、相互の講和を推進しよう。そのための推進役を日本が担おうではないか、といったような話です。
もはや米軍にもNATO軍にも、講和を推進する力はありません。アフガニスタンの国民から信頼を得ていないから、という理由でしょう。
それに対して日本は中立だと今でも現地で思われているので、日本になら、講和を仲介する力があるというのです。

そんな話が水面下で進められているのか。どうも伊勢崎氏が現地の関係者と接触する中で、日本に対してそのような期待が寄せられているというのです。
もし日本国がそのような大役を担うのだとしたら、一体どういうことになるのでしょうか。タリバーンのしかるべき権限を有する人と連絡を取り、敵地に乗り込んでいくことになります。護衛部隊を帯同するとはいっても、相手の高官と交渉する場には丸腰で赴くことになるでしょう。タリバーン側、カルザイ政権側双方の了解を取り付け、交渉の場につかせるよう努力します。ときによっては相手司令官の戦争犯罪に恩赦を認めることもするようです。
そんな大役を演じることができる日本人は、私が知る限りでは伊勢崎賢治氏その人しかいないでしょう。
もし伊勢崎氏をリーダーとして日本が全権団を送り込むとしたら、どのような日本人が参画するのでしょうか。アフガニスタンの武装解除で活躍した瀬谷ルミ子氏、今井千尋氏、堀江浩一郎、井上勇一各氏などが馳せ参じるのでしょうか。
また、停戦軍事監視団としては、現職の軍人が非武装で参画します。前回は現役日本自衛隊から参画せず、園部宏明氏(元陸上自衛隊陸将補)が務めましたが、今回はそのような名誉あるしかし勇敢さが要求される職務を現役自衛官が務めることでしょう。

日本政府が取るべき態度としては、鳩山首相が最近述べているように、「復員した兵士の職業訓練を行う」といったような言い方で十分だと言います。
この点は、2000年当時、ときの川口順子外務大臣がアフガニスタンを訪問して「復員のお手伝いならできます」と提案した結果、思いがけなく「武装解除」という軍事活動に日本が責任を負うことになり、それを伊勢崎賢治氏が担って成功させたいきさつとよく似ています。

カルザイ政権とタリバーン勢力との講和という仕事は、アメリカが主導したのでは決してできない仕事です。この仕事を日本が買って出るのであれば、アメリカにとってこんな有り難いことはありません。インド洋給油活動はやめて結構だから、ぜひ講和の仕事をやってくれ、ということになるはずです。
道理で、最近のアメリカが給油を止めることに反対しないはずです。水面下でこんなことが推し進められているのであれば。

しかし、これが本当だとしたら、BSフジの番組で伊勢崎氏は喋りすぎていますね。現段階ではもっと隠密裡に行動すべきでしょう。

ps 10/28 最近見つけた伊勢崎賢治氏の講演記録
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民主党政権・特に対アフガニスタン

2009-10-20 21:20:44 | 歴史・社会
民主党政権の動きがまた激しくなっています。

《郵政民営化の見直し》
日本郵政の西川善文社長がとうとう辞任するのですね。
民主党連立政権による郵政民営化の見直しが、どのような方向に向かおうとするのか、まだ見えません。
私には郵便局の動向はさほど興味はありませんが、ゆうちょ銀行とかんぽ生命をどのように変えようとしているのかが気になります。

10月20日の夕刊によると、
「郵貯・簡保のユニバーサルサービスを担保。銀行法、保険業法に代わる規制導入」
とあります。ユニバーサルサービスとは、全国一律のサービスを指すようです。

とうとうゆうちょ銀行を銀行法の枠から外すのですか。一体どのような銀行にしようとしているのか。ゆうちょ銀行は、総資産が200兆円を超える世界最大の銀行です。この銀行を、銀行法で規制するのではなく、新しく制定する法律で規制するというのですね。

そもそも銀行というのは、人様から集めたお金を必要な人に融資し、その利子で経営が成り立っている団体です。しかしゆうちょ銀行は、自分では融資の実力を有していません。現在は国債を買ってその利子のみを収入としています。そんな半人前の銀行が、民営化によって一人前に成長するのではなく、国営に戻るのでもなく、株式会社のまま国の規制の下に置かれるわけです。
全国一律サービスを義務化されたら、ますます赤字体質からは抜けられなくなります。

《日本航空の再建》
10月20日に藤井財務相と前原国交相は、国交相直属のタスクフォースを交え、債権放棄を軸とする私的整理案への理解を求めるとともに、公的資金活用による支援を要請したようです。
何としてもJALを破綻させずに銀行団に債権を放棄させ、公的資金を注入しようとするのでしょうか。

《対アフガニスタン政策》
日曜午前のテレビ番組に、コメンテーターとして伊勢崎賢治氏が出演していました。インド洋給油問題に関連してコメントを求められたのに対し、インド洋給油を中止することのぜひについては何もコメントしませんでした。かわりに、内容は忘れてしまったのですが、崩壊の危機に瀕している現カルザイ政権の施政を好転させるべく、日本がやるべき方策を述べていたように思います。“伊勢崎さんが全権大使だったのなら可能かも知れないけれど、民主党政権の外交政策で実現できるとはとても思えない”というのが感想でした。

ところで、席上伊勢崎さんは、直近にアフガニスタンを訪問していたようなことを発言されていました。
今どき、何の目的でアフガニスタンに行っていたのだろうか。
ひょっとして、岡田外相が電撃アフガン訪問したとき、同行したのだろうか。そうだとしてら、伊勢崎氏は民主党政権の外交政策に深く関与していることになります。
しかしネットで調べても、伊勢崎氏が最近アフガニスタンを訪問したことについては何ら情報が得られませんでした。

伊勢崎さんは、2000年ごろにアフガニスタンでの武装解除を日本国の代表として実行していたとき、日本人離れした行動を取られています。例えば「お金も出すが口も出す」。このブログの「アフガン復興で日本がやってきたこと(2)」で下記のように紹介しました。

武装解除作業における武器の回収作業は、完全中立な部隊によってなされるべきです。アフガニスタンではこれが国連平和維持軍ではなく、アフガン暫定政権の国防省を武装解除の本隊にするという前提で計画されています。しかし当時のアフガン国防省は、北部同盟の最大派閥のファヒム元帥がトップであり、幹部もその派閥に独占されており、中立性が保証されていません。
日本は、国防省の首脳人事改革が行われない限り、日本の血税はびた一文使わせない、と脅迫に近いロビー活動を行います。その結果、2003年9月、国防参謀総長、国防次官以下主要ポストの総入れ替えが行われたのです。
この国防省の体質改善は画期的であり、アメリカから大変感謝されています。

ひょっとして伊勢崎賢治さんが民主党政権でアフガニスタンに大使級で派遣されたら、当時と同じような活躍があり得るかも知れません。
当時、伊勢崎さんがこのように活躍できたのは、日本がアメリカの軍事行動に加担していないという“美しい誤解”があったためです。現在は、日本がインド洋給油で米軍に加担していることが広範に知れ渡っているので、もはや当時のようには活躍できません。しかし、「日本はインド洋給油を中止し、米軍とは一線を画した」との触れこみで乗り込めば、状況は好転するかも知れません。
このような「伊勢崎賢治氏の登場」とセットになるのであれば、インド洋給油を中止するのもいいかもしれません。
ただし、「総合的には米国の対テロ活動を支援することになるのだから」ということで米国を説得できるかが鍵ですが。
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成田と羽田の空港役割分担

2009-10-19 20:35:51 | 歴史・社会
前原国交相の以下の発言を契機に、成田と羽田の空港役割分担問題が大きな話題となりました。
前原国交相:「羽田をハブ空港に」…D滑走路完成を機に
「前原誠司国土交通相は12日、羽田空港について「首都圏空港を国内線と国際線を分離する原則を取り払い、24時間(稼働する)国際空港化を徐々に目指していきたい」と述べ、第4滑走路(D滑走路)が来年10月に完成するのを契機に羽田を国際拠点空港(ハブ空港)とする考えを示した。国際線が発着する成田空港は「航空需要の増大を見据えて有効活用する」とした。大阪府泉佐野市で開幕したアジア太平洋航空局長会議の開会宣言後、報道陣に明らかにした。」
「羽田の国内・国際共用化を巡る議論は、森内閣時代に扇千景国交相が主張。その後、羽田からソウル(金浦)、上海、香港空港への定期便も就航したが、成田が開業した1978年に成立した「羽田は国内線、成田は国際線」の原則は基本的に維持されてきた。」
「国交省は昨年5月、羽田と成田の「一体的活用」によって首都圏空港の国際航空機能を高めるという形で、羽田の国際化推進を打ち出した。だが、国際線の拠点を成田とする従来の方針は変えず、羽田の昼間の発着は近距離アジア路線に限るなど成田への配慮が見られた。」(毎日)

その後、森田千葉県知事が国交相のこの発言に激怒し、「羽田ハブ空港化」について事前に鳩山首相と調整していなかったことも明らかになりました。

成田空港については、
(1) 都心から遠すぎる。
(2) 成田空港が国際線に特化して国内線が飛んでいないので、「ハブ空港」になっていない。
(3) 成田は夜間発着ができない。
という問題があるばかりでなく、
(4) B滑走路は寸詰まりでジャンボが燃料満タンでは離陸できない。
(5) 誘導路が直線ではなく曲がりくねって利用しづらい。
という問題もかかえています。

このような欠陥空港である成田がなぜ日本の表玄関であり続けて来たのか。

ひとつには、成田空港は反対闘争をくぐり抜けて出来上がった空港であり、警備する警察官と過激派の双方に犠牲者を出してきたという歴史があります。そのため、羽田の国際空港化の話が出るたびに、地元は極めて過激に反応するようです。

それ以外にも、成田開港を推し進めた自民党と官僚(当時の運輸省)の無謬性を維持するためにも、方針転換をしづらいといった事情があったでしょう。

Voice11月号で伊藤元重東大教授が『「日本航空」問題は氷山の一角』との評論を執筆しています。
その中で、成田空港の上記(1) ~(3) の問題点を挙げるとともに、日本航空と関係について「国際線で多くの路線を抱える日本航空は成田空港の発着枠を多く抱えている。羽田空港の国際線の機能を拡大し、その発着枠を他の航空会社に提供することがあれば、日本航空の経営に少なからず影響を及ぼすだろう」と述べています。
そして伊藤教授は、今回の政権交代がこれまでの構図を根本的に変えることになるのかどうか、期待しています。

今回の前原国交相の発言に端を発する一連の騒動は、今まで封印されてきた成田-羽田問題の突破口になる可能性は十分にあります。
ここでも、政権交代というものはしてみるものだ、と強く思います。

なお、今まで耳にしてきた成田-羽田問題について、ここで整理しておきます。

2007年12月、東京都が法人事業税を法人事業税約3000億円を財政力の弱い自治体に回すことで合意した際に、羽田空港の国際化について政府から約束を取り付けたという話がありました。以下の記事ですね。
都税3000億円移譲で大筋合意 首相と石原知事
2007.12.11 11:21
「福田康夫首相は11日午前、東京都の石原慎太郎知事と首相官邸で会談し、平成20年度税制改正の焦点となっている地方自治体間の税収格差是正問題で、都の法人事業税約3000億円を財政力の弱い自治体に回すことで合意した。石原氏は会談後、記者団に「泣く子と地頭と政府には勝てない」と述べ、税収移譲を税制の抜本改革を行うまでの暫定措置とすることを条件に容認する考えを表明した。
 都は今後、減収の見返りに羽田空港国際化の推進や東京外環道の整備、平成28年夏季五輪の招致活動への支援を求める。会談で首相は、こうした条件を議論する政府と都の政策協議機関を設置することを提案し、石原氏が受け入れた。」

冒頭の新聞記事において、「国交省は昨年5月、羽田と成田の「一体的活用」によって首都圏空港の国際航空機能を高めるという形で、羽田の国際化推進を打ち出した。」とあります。当時の冬柴国交相が2008年5月20日の経済財政諮問会議で「首都圏空港(羽田・成田)における国際航空機能拡充プラン」を明らかにしました。これまでチャーター便でソウルと上海にしか就航していなかった国際線を、北京や台北、香港にまで拡大し、しかも近距離アジアへのビジネス路線として「定期便」を運航する構想のようです。このプランも、東京都との上記のような裏約束が推進役になっていたのでしょうか。

今回の騒動、現在の時点では、前原国交相がだいぶトーンを下げています。このままで行ったら、従前からの国交省の方針として冒頭の記事に書かれていた「国交省は昨年5月、羽田と成田の「一体的活用」によって首都圏空港の国際航空機能を高めるという形で、羽田の国際化推進を打ち出した。だが、国際線の拠点を成田とする従来の方針は変えず、羽田の昼間の発着は近距離アジア路線に限るなど成田への配慮が見られた。」まで後退してしまうのではないか、と危惧されます。

それにしても、成田と羽田の一方のみではとても「国際ハブ空港」となる性能は有していないわけです。すると、以下のような形に落ち着くのでしょうか。
(1) 成田と羽田の双方にハブ空港機能を持たせる。
(2) そのためには、成田と羽田の双方に国内線と国際線を就航させる必要がある。
(3) 夜間発着の国際線は、全世界の地域について羽田が担う。
(4) 昼間発着の国際線については成田と羽田で役割分担する。例えば、アジアなど近距離は羽田、ヨーロッパ・アメリカなどの遠距離は成田。

そうするとこれからは飛行機を利用するに際し、成田と羽田のどちらに行けばいいのか、よほどの注意を払う必要が出てきます。今までは、「国内線なら羽田、国際線なら成田」との判断でほとんど間違えませんでしたが。
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佐藤優「自壊する帝国」

2009-10-18 10:37:11 | 歴史・社会
自壊する帝国 (新潮文庫)
佐藤 優
新潮社

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最近になってこの本を読みました。

佐藤優は凄い人だと思っていましたが、この本を読んでさらに、佐藤優の凄さを実感しました。
この本は、佐藤優氏が外務省に入省するいきさつから始まり、イギリス陸軍語学学校でのロシア語研修、そしてそれから7年8ヶ月に及びソ連での佐藤氏の活動の様子が、この本の内容です。
もちろん佐藤氏の自画自賛の部分はあるかも知れません。従って、この本の記述を100%受け入れていいのかどうかは定かでありませんが、それにしても、佐藤氏の異能ぶりは間違いないものと思われます。

ノンキャリアの専門職として外務省に入省し、行く先々で、特異な人脈を築いていきます。佐藤氏が、人を引きつける並外れた人格を持っていたからなのでしょう。佐藤氏と懇意になる人たちは皆、その後のソ連において枢要な地位に上り詰めたり、あるいは卓越した情勢評価能力を発揮して佐藤氏を助けます。

リトアニア独立運動に際しては、独立派と守旧派の両方に強力な人脈を有していました。そのため、ゴルバチョフの思惑も絡んでソ連軍が独立派に発砲し、内乱一歩手前の一触即発の事態に陥ったときには、佐藤氏はまず守旧派の人脈をたぐって守旧派の真の意図(武力行使は行わない)を探り出し、それを守旧派の了解の下に独立派に伝えることで、最終的に独立派が勝利を獲得する上で重要な契機となりました。後に独立を達成したリトアニア政府から、佐藤氏は独立に貢献した60人の外国人の一人として勲章を受けるに至ります。

ソ連崩壊のきっかけとなったクーデター未遂事件に際しても、佐藤氏は、対立する3つの主な勢力のそれぞれに、緊密な人脈を確保していました。そしてそれぞれの人脈から、西側外交官のだれも得ることのできなかった内部情報を入手していたのです。

クーデター未遂事件の真っ最中に、佐藤氏はクーデター派の主要人物から、ゴルバチョフが健在であることを聞かされます。西側外交官としては最初の情報でした。クーデター未遂事件からしばらく経った後、佐藤氏はこの人物に、「なぜ自分に情報を教えてくれたのか」と問うたことがあります。「人間は生き死ににかかわる状況になると誰かにほんとうのことを伝えておきたくなるんだよ。真実を伝えたいという欲望なんだ。」その相手がなぜ佐藤氏だったのか。「そうだな。それは君がイデオロギーの力を知っているからだよ」

佐藤氏が旧ソ連においてこれだけの卓越した人脈を築き上げたのは、佐藤氏本人が相手から信頼と尊敬を勝ち得る人格を持っていたからでしょう。このような優秀な外交官が、日本外務省にどれだけ実在するのか、あるいは実在しないのか、わかりません。
外務省が佐藤優氏を葬り去ったことによる国益の損失は、おそらく計り知れないでしょう。それに対し、佐藤氏が500日以上も拘置所に勾留され、その揚げ句に立件された事件の実体が極めて微罪であったことを対比すると、何ともやりきれなさを感じます。
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日産GT-R開発者水野和敏氏

2009-10-15 22:46:23 | 趣味・読書
私はクルマ好きというわけではないので、日産GT-Rについては詳しくありません。たまたま発売直前の頃、テレビのルポルタージュ番組で開発現場の様子を見たのが唯一です。開発リーダーの仕事ぶりに密着していました。

日経ビジネスオンラインで、そのGT-R開発責任者に対するインタビュー記事を読みました。以下の三部作です。
日産 GT-R【試乗編】
日産 GT-R【開発者編】その1
日産 GT-R【開発者編】その2
10/16追加
日産 GT-R【開発者編】その3
10/22追加
日産 GT-R【総括編】

いやはや、ゾクゾクするようなおもしろい物語でした。

水野和敏氏というのが、開発リーダーその人です。フェルディナント・ヤマグチ氏が話を聞きます。
「今後クルマの販売は、アメリカ・中国という大量消費型の文化圏と、中東・ヨーロッパ・日本の、省エネとエコロジーを軸にした恒久経済圏の二つに別れると思う。アメリカと中国なんてコーヒーは紙コップで飲めればいいやという使い捨ての文化。そういうアメリカ的な消費構造がもはや行き詰まって来ているのは、誰の目にも明らか・・・じゃないかもしれないけど、すくなくとも僕の目には明らかです。」
「だからGT-Rも販売の中心はヨーロッパに置いているわけです。スペックV(GT-Rのハイスペックバージョン:お値段1575万円!)は欧州とアラブには出すけどアメリカには輸出しない。必要ありませんから。」

wikipediaによると、GT-Rのメカニズムは「クラッチ、トランスミッション、トランスファーを車両後方に置き、リヤデフと一体化させた「独立型トランスアクスル4WD」を採用」という特徴を持っているそうです。
水野氏がこのような構造を採用しようとしたとき、日産社内では全員大反対だったそうです。
それに対して水野氏は、自分の頭の中にはちゃんと、理想のクルマに至るストーリーができているから、ということで、その理由も社内で説明しません。
『いや、「どうせ君達のレベルじゃ説明しても分からないや」と思っているから。』
『あのね、こんな強烈なことを言って、天狗みたいに聞こえるかもしれないけど、人に見えないものが見える人間だけが最高のものを作れるんだよ。』
『この独立型トランスアクスル4駆だってそう。俺には走っている姿から、タイヤがグリップして、こんなに素晴らしい動きになっているという姿が全て見えるけど、そんなもの口で説明したって誰が分かるのよ。分かりっこない。』

問「“話さないでも通る”仕組みにしちゃったと。それには、やはりゴーンさんという“切り札”の存在が大きかったのでしょうか?」
水野氏「もちろん。彼がいなければやらなかった。だから、彼がやらないと言っている間は、他の誰から(GT-Rの開発を担当せよと)言われても俺は断わり続けて来た。簡単でしょう。」

エンジンを前に置き、トランスミッションを後ろに置き、間をプロペラシャフトでつなぎます。そしてGT-Rは4WDですから、別のプロペラシャフトで前輪をドライブしなければなりません。この2本のシャフトをカーボンファイバー製とすることで初めて実現しました。
このような奇想天外な構造が、GT-Rの卓抜な性能を生み出しているというのです。

日産には、このような異能の開発者がきちんと存在していたのですね。そしてその異能の開発者を全力疾走させたのが、あのゴーンさんだったということです。

ただし、上記日産 GT-R【試乗編】によると、GT-Rはエンジン、トランスミッション、ブレーキなどの個々の部品についても秀逸な性能を誇っているようです。つまり、水野氏のアイデアが優れているばかりではなく、素晴らしい部品を作り出す製造能力を日産という会社が保有していたことも特筆できます。

GT-Rはヨーロッパで大変な人気で、2年待ちになっているそうです。ヨーロッパのカーマニアをそれだけ夢中にさせるクルマに仕上がっているということのようです。

今後も、このようなワクワクする話をずっと作り続けてください。
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