今年9月の連休(シルバーウィーク)、私は家内とアラスカにオーロラを見に行っていました。
「秋の連休はオーロラを見に行こう」という話が持ち上がり、「じゃあどこへ行けばいいのか」と調べたところ、アラスカのフェアバンクスが好適らしい、ということまで分かりました。そこでアラスカのガイドブック(B15 地球の歩き方 アラスカ 2009~2010
)を購入して調べ、実際に行ってきました。
旅行に先立って、「オーロラとは一体いつ、どこで、どのように見えるのか」いっった基本的な事項を知る必要があります。購入したガイドブックには赤祖父俊一先生という方が解説を載せていました。そして赤祖父先生は、以下の本を出されてることがわかり、購入しました。今では古本でしか入手できません。
赤祖父先生は1930年生まれ、1953年に東北大学を卒業し、61年からアラスカ大学に進まれまたた。そのまま同大学地球物理研究所の教授、そして所長となり、この本が執筆された2002年当時はアラスカ大学国際北極圏研究センター所長でした。
赤祖父先生が東北大学の学生の頃、地球の磁場と太陽から吹き付けるプラズマガス(太陽風)との相互作用により、地球の磁場の形が非常に変わった形になるということを、理論的に解明した先生がいました。チャップマン-フェラーロ理論といい、この理論を理解できないようではオーロラや磁気嵐の研究をする資格はないと言われていました。しかし、赤祖父先生にはこの論文が難解だったので、思い切ってアラスカ大学のチャップマン先生に手紙で質問を出しました。すると思いがけなく、そのチャップマン先生から10日ほどですぐ返事が来ました。「貴君の質問のいくつかは私自身も答えられない。アラスカに来て、大学院の学生として私の指導で研究を続けてはどうか」とありました。赤祖父先生が「申しわけないことだが、貧乏学生なので渡航費などない」と書いたところ、航空運賃のチェックが送られてきた、というのです。
おもしろい話です。日本の大学の権威たちは、「チャップマン-フェラーロ理論が理解できなければ研究者ではない」と言い合い、自分は理解しているつもりでした。しかし実は、「難解でよくわからない」と感じかつ質問を出した赤祖父氏が、「何がわかっていて何が分かっていないのか」を一番理解していたし、当のチャップマン先生もそのことに直ちに気付いたのでしょう。
赤祖父先生の上記図書では、オーロラについての科学がどのように進歩してきたのか、時代を追って解説しています。
オーロラは、地球の周囲にできる地磁気と、太陽から吹き付ける太陽風との相互作用で形成されます。その実態を知るためには、図面を参照するのが好ましく、森洋介さんという方が作られたオーロラと磁気嵐の科学、オーロラへの招待を参照させて頂ながら説明します。
さきほどのチャップマン-フェラーロ理論が導き出したように、地球自体が磁石になっていることによって形成される地球の周りの地磁気の形は、決して地磁気軸の回りに軸対称になっていません。例えば、森洋介さんのオーロラと磁気嵐の科学(5)に掲載されている図4を見ていただくとわかるように、太陽に向かう側は磁力線が閉じているのに対し、太陽の反対側は長い尾を引いているのです。
そしてこの磁力線のうちの特定部位の磁力線に沿って、太陽から地球に吹き付ける太陽風(プラズマ=荷電粒子)が地表に向かって降り注いで来ます。この荷電粒子が高度500~100kmにおいて地球を取り巻くガス(分子や原子)と衝突し、そのときに蛍光を発するのです。これがオーロラです。
オーロラが発生する地球の特定部位とは、磁北極と磁南極を中心としてリング状(オーバル状)に形成さます。オーロラ・オーバルとも呼ばれます。例えば、オーロラへの招待の中のオーロラ・オーバルを見てください。この中の図7は、人工衛星から観察した北極周辺のオーロラ・オーバルです。
赤祖父先生はアラスカ大学で、オーロラ科学に関するいくつもの貢献をしています。
フェアバンクスはオーロラ・オーバルの位置にあります。そしてフェアバンクスで観察していると、オーロラは午後9時頃に北方から現れ、次第に近づき、12時頃にフェアバンクスの真上に来ます。その後またオーロラは北に移動し、午前3時頃に北の空に去っていきます。地球上の1箇所で見ているとこのように見えるオーロラが、地球全体から見るとどのようなメカニズムになっているのか、という点について独自に明らかにしたのは赤祖父先生です。
赤祖父先生はまた、先生が「オーロラ・サブストーム」と名付けたオーロラ活動が、地球規模のオーロラ・オーバルにおいてどのように挙動しているのかについて、明らかにしました。北極圏を囲む各地に設置された全天カメラのフィルムを3年がかりで詳細に検討した結果です。
ところで、チャップマン-フェラーロ理論によって明らかにされた地磁気と太陽風との関係、私にとっては大学時代の思い出につながります。大学4年になって卒論の所属研究室とテーマを決めるに際し、テーマの概要が壁に張り出されました。研究室の中には私が所属することになる流体力学研究室があり、その研究室のテーマのうちの一つが、「プラズマのシースとテール」と名付けられ、チャップマン-フェラーロ理論と同じような図面が掲示されていたのです。「こんなおもしろい現象が地球の周りで起こっているのか」とわくわくした憶えがあります。
最近の赤祖父先生は、地球温暖化に関し、「小氷期が1800年頃に終わった後から0.5℃/100年の温暖化が現在まで200年間持続している。この温暖化は大気中CO2濃度上昇のはるか以前から始まっており自然現象とみなすべきである。したがって20世紀に認められた0.6℃の気温上昇のうち少なくとも6分の5は自然現象である」と主張されているようです(正しく知る地球温暖化―誤った地球温暖化論に惑わされないために
)。
オーロラの科学についての知識を吸収しました。あとは実際にアラスカに出かけてオーロラの出現を待つことになります。
以下次号。
「秋の連休はオーロラを見に行こう」という話が持ち上がり、「じゃあどこへ行けばいいのか」と調べたところ、アラスカのフェアバンクスが好適らしい、ということまで分かりました。そこでアラスカのガイドブック(B15 地球の歩き方 アラスカ 2009~2010
旅行に先立って、「オーロラとは一体いつ、どこで、どのように見えるのか」いっった基本的な事項を知る必要があります。購入したガイドブックには赤祖父俊一先生という方が解説を載せていました。そして赤祖父先生は、以下の本を出されてることがわかり、購入しました。今では古本でしか入手できません。
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赤祖父先生は1930年生まれ、1953年に東北大学を卒業し、61年からアラスカ大学に進まれまたた。そのまま同大学地球物理研究所の教授、そして所長となり、この本が執筆された2002年当時はアラスカ大学国際北極圏研究センター所長でした。
赤祖父先生が東北大学の学生の頃、地球の磁場と太陽から吹き付けるプラズマガス(太陽風)との相互作用により、地球の磁場の形が非常に変わった形になるということを、理論的に解明した先生がいました。チャップマン-フェラーロ理論といい、この理論を理解できないようではオーロラや磁気嵐の研究をする資格はないと言われていました。しかし、赤祖父先生にはこの論文が難解だったので、思い切ってアラスカ大学のチャップマン先生に手紙で質問を出しました。すると思いがけなく、そのチャップマン先生から10日ほどですぐ返事が来ました。「貴君の質問のいくつかは私自身も答えられない。アラスカに来て、大学院の学生として私の指導で研究を続けてはどうか」とありました。赤祖父先生が「申しわけないことだが、貧乏学生なので渡航費などない」と書いたところ、航空運賃のチェックが送られてきた、というのです。
おもしろい話です。日本の大学の権威たちは、「チャップマン-フェラーロ理論が理解できなければ研究者ではない」と言い合い、自分は理解しているつもりでした。しかし実は、「難解でよくわからない」と感じかつ質問を出した赤祖父氏が、「何がわかっていて何が分かっていないのか」を一番理解していたし、当のチャップマン先生もそのことに直ちに気付いたのでしょう。
赤祖父先生の上記図書では、オーロラについての科学がどのように進歩してきたのか、時代を追って解説しています。
オーロラは、地球の周囲にできる地磁気と、太陽から吹き付ける太陽風との相互作用で形成されます。その実態を知るためには、図面を参照するのが好ましく、森洋介さんという方が作られたオーロラと磁気嵐の科学、オーロラへの招待を参照させて頂ながら説明します。
さきほどのチャップマン-フェラーロ理論が導き出したように、地球自体が磁石になっていることによって形成される地球の周りの地磁気の形は、決して地磁気軸の回りに軸対称になっていません。例えば、森洋介さんのオーロラと磁気嵐の科学(5)に掲載されている図4を見ていただくとわかるように、太陽に向かう側は磁力線が閉じているのに対し、太陽の反対側は長い尾を引いているのです。
そしてこの磁力線のうちの特定部位の磁力線に沿って、太陽から地球に吹き付ける太陽風(プラズマ=荷電粒子)が地表に向かって降り注いで来ます。この荷電粒子が高度500~100kmにおいて地球を取り巻くガス(分子や原子)と衝突し、そのときに蛍光を発するのです。これがオーロラです。
オーロラが発生する地球の特定部位とは、磁北極と磁南極を中心としてリング状(オーバル状)に形成さます。オーロラ・オーバルとも呼ばれます。例えば、オーロラへの招待の中のオーロラ・オーバルを見てください。この中の図7は、人工衛星から観察した北極周辺のオーロラ・オーバルです。
赤祖父先生はアラスカ大学で、オーロラ科学に関するいくつもの貢献をしています。
フェアバンクスはオーロラ・オーバルの位置にあります。そしてフェアバンクスで観察していると、オーロラは午後9時頃に北方から現れ、次第に近づき、12時頃にフェアバンクスの真上に来ます。その後またオーロラは北に移動し、午前3時頃に北の空に去っていきます。地球上の1箇所で見ているとこのように見えるオーロラが、地球全体から見るとどのようなメカニズムになっているのか、という点について独自に明らかにしたのは赤祖父先生です。
赤祖父先生はまた、先生が「オーロラ・サブストーム」と名付けたオーロラ活動が、地球規模のオーロラ・オーバルにおいてどのように挙動しているのかについて、明らかにしました。北極圏を囲む各地に設置された全天カメラのフィルムを3年がかりで詳細に検討した結果です。
ところで、チャップマン-フェラーロ理論によって明らかにされた地磁気と太陽風との関係、私にとっては大学時代の思い出につながります。大学4年になって卒論の所属研究室とテーマを決めるに際し、テーマの概要が壁に張り出されました。研究室の中には私が所属することになる流体力学研究室があり、その研究室のテーマのうちの一つが、「プラズマのシースとテール」と名付けられ、チャップマン-フェラーロ理論と同じような図面が掲示されていたのです。「こんなおもしろい現象が地球の周りで起こっているのか」とわくわくした憶えがあります。
最近の赤祖父先生は、地球温暖化に関し、「小氷期が1800年頃に終わった後から0.5℃/100年の温暖化が現在まで200年間持続している。この温暖化は大気中CO2濃度上昇のはるか以前から始まっており自然現象とみなすべきである。したがって20世紀に認められた0.6℃の気温上昇のうち少なくとも6分の5は自然現象である」と主張されているようです(正しく知る地球温暖化―誤った地球温暖化論に惑わされないために
オーロラの科学についての知識を吸収しました。あとは実際にアラスカに出かけてオーロラの出現を待つことになります。
以下次号。