前報(感染症法改正案の条文2021-01-30)に記したように、今回の感染症法の改正法案条文にやっとたどり着くことができました。
厚生労働省のホームページの「厚生労働省が今国会に提出した法律案について」の中に、
『第204回国会(令和3年常会)提出法律案
<内閣官房から提出>
新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案(令和3年1月22日提出)』
として掲載されています。<内閣官房から提出>ですか。どうも厚労省の主管ではないようですね。
内閣官房のホームページの「国会提出法案~第204回 通常国会」に確かに掲載されています。
『法律案:新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案
国会提出日:R3.1.22
担当部局:新型コロナウイルス感染症対策推進室』
さて、改正案の作成に関し、厚労省と内閣官房のどちらが主導権を握ったのでしょうか。今回のゴタゴタに鑑みると、厚労省の発言権は乏しく、内閣官房が独走した可能性が高いのでしょうか。
それでは、改正法案の中身に取りかかります。
以前、このブログの「感染症法改正 2021-01-16」において、以下のように記しました。
感染症法見直し案 明らかに “罰金”、“院名公表”も FNNプライムオンライン1月15日掲載
『政府は、新型コロナウイルス感染者の病床を確保するため、病院に患者の受け入れを勧告できるようにし、拒否された場合には病院名を公表できるなどとした、感染症法の改正案をまとめ、近く国会に提出する。
改正案では、感染者が入院措置に反して逃げたりした場合、新たな罰則を創設し、1年以下の懲役、または100万円以下の罰金とする案が検討されている。
宿泊療養や自宅療養の協力の求めに応じない人に対しても、入院勧告ができるようになる。』
【従わなかったときのペナルティー】
今回改正案
『第七十二条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第十九条第一項、・・・の規定による入院の勧告若しくは第十九条第三項・・・の規定による入院の措置により入院した者がその入院の期間(・・・)中に逃げたとき、又は第十九条第三項・・・の規定による入院の措置を実施される者(・・・)が正当な理由がなくその入院すべき期間の始期までに入院しなかったとき。』
まず、「第十九条第三項・・・の規定による入院の措置」について検討します。19条3項では「都道府県知事は、・・・勧告に従わないときは、当該勧告に係る患者を感染症指定医療機関(・・・)に入院させることができる。」としています。19条3項の「入院させることができる」が、72条1項の「入院の措置」に対応するようです。どのような措置でしょうか。
おそらく、所定の官憲が患者宅に赴き、強制的に患者を所定の医療機関に入院させるのでしょう。ですから患者には入院を拒否する自由はありません。当然に入院させられますから、患者にできることは病院から逃げ出すことだけです。
「入院の措置を実施される者が正当な理由がなくその入院すべき期間の始期までに入院しなかったとき」としてあり得るのは、官憲が患者宅に到着したときに患者が逃亡していたような場合でしょうか。自宅に滞在していたら強制的に入院させられるのですから、「入院しなかったとき」はあり得ません。
今般の与野党合意で、「刑事罰(懲役、罰金)をやめて行政罰(過料)に修正された」ようです。従って、その修正案で検討します。
強制入院させられた患者が逃げ出したとき、あるいは入院の措置が執行されるときに逃亡したとき、患者は過料を払いさえすればそれで許されるのでしょうか。それはおかしいです。
都道府県知事はあくまで、病院から逃げ出した患者については再度入院の措置を実施して再強制入院させるのが正しいでしょう。また自宅から逃亡した患者は探し出して入院の措置を実施することが正しいでしょう。法改正無しでそのような措置が可能であればよし、不可能なのであれば今回の法改正でその部分をこそ改正すべきです。
今回の与野党議論で、そのような議論はなされなかったのでしょうか。
【宿泊療養や自宅療養の法律での位置づけ】
感染症法改正案
『第四十四条の三 都道府県知事は、新型コロナウイルス感染症・・・にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対し、・・・当該者の居宅若しくはこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。
2 都道府県知事は、新型コロナウイルス感染症(・・・)の患者に対し、・・・宿泊施設(・・・)若しくは当該者の居宅・・・から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。
3 ・・・前二項の規定により協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならない。』
1/30(追記)感染症法44条の3の「新型インフルエンザ等感染症」が政令(2020年)により「新型コロナウイルス感染症」に読み替えられていることが判明したので上記のように読み替えました。
「宿泊施設または居宅から外出しない」ことが明記されました。ただしあくまで必要な協力を求めることができるであり、協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならないとの義務のみです。
次に、協力を求められた者がこれに応ずるよう努めなかった場合の取り扱いです。第7章(新型インフルエンザ等感染症)にはそのような規定が見当たりません。一方、第8章(新感染症)の中には、
『(新感染症の所見がある者の入院)
第四十六条 都道府県知事は、・・・、新感染症の所見がある者(・・・第五十条の二第二項の規定による協力の求めに応じないものに限る。)に対し十日以内の期間を定めて特定感染症指定医療機関に入院・・・させるべきことを勧告することができる。・・・
2 都道府県知事は、前項の規定による勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、10日以内の期間を定めて、当該勧告に係る新感染症の所見がある者を特定感染症指定医療機関(・・・)に入院させることができる。
(感染を防止するための報告又は協力)
第五十条の二
2 都道府県知事は、・・・当該新感染症の所見がある者に対し、・・・宿泊施設(・・・)若しくは当該者の居宅若しくはこれに相当する場所から外出しないことその他の当該新感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。』
との規定があります。すなわち、対象が新感染症であれば、宿泊療養、自宅療養を拒否する患者に対し、入院勧告するとのことです。以下の疑問点が生じます。
(1)上記規定はあくまで新感染症が対象です。新型コロナの場合に準用されるのでしょうか。
(2)現在、病院が不足しているからこそ、入院ではなく宿泊療養や自宅療養になっているわけです。それを拒否する人に対して、なんで「宿泊療養や自宅療養の強制」ではなく、「入院の勧告」なのでしょうか。
1/30(追記)46条2項で「入院させることができる」と規定されていることに気づきました。過料の規定も同項に準用されていました。そのため、上記のように修正しています。
【感染症法の新感染症に関する第8章が新型コロナに準用されるとした場合】
今回改正前から、感染症法の(第8章)第52条の2第2項には、
「居宅から外出しないことに必要な協力を求めることができる」
と記載されています。もし、新感染症に関する第8章が新型コロナに準用されるとしたら、自宅療養については従前から法的根拠が存在していた、ということになります。
厚生労働省のホームページの「厚生労働省が今国会に提出した法律案について」の中に、
『第204回国会(令和3年常会)提出法律案
<内閣官房から提出>
新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案(令和3年1月22日提出)』
として掲載されています。<内閣官房から提出>ですか。どうも厚労省の主管ではないようですね。
内閣官房のホームページの「国会提出法案~第204回 通常国会」に確かに掲載されています。
『法律案:新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案
国会提出日:R3.1.22
担当部局:新型コロナウイルス感染症対策推進室』
さて、改正案の作成に関し、厚労省と内閣官房のどちらが主導権を握ったのでしょうか。今回のゴタゴタに鑑みると、厚労省の発言権は乏しく、内閣官房が独走した可能性が高いのでしょうか。
それでは、改正法案の中身に取りかかります。
以前、このブログの「感染症法改正 2021-01-16」において、以下のように記しました。
感染症法見直し案 明らかに “罰金”、“院名公表”も FNNプライムオンライン1月15日掲載
『政府は、新型コロナウイルス感染者の病床を確保するため、病院に患者の受け入れを勧告できるようにし、拒否された場合には病院名を公表できるなどとした、感染症法の改正案をまとめ、近く国会に提出する。
改正案では、感染者が入院措置に反して逃げたりした場合、新たな罰則を創設し、1年以下の懲役、または100万円以下の罰金とする案が検討されている。
宿泊療養や自宅療養の協力の求めに応じない人に対しても、入院勧告ができるようになる。』
【従わなかったときのペナルティー】
今回改正案
『第七十二条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第十九条第一項、・・・の規定による入院の勧告若しくは第十九条第三項・・・の規定による入院の措置により入院した者がその入院の期間(・・・)中に逃げたとき、又は第十九条第三項・・・の規定による入院の措置を実施される者(・・・)が正当な理由がなくその入院すべき期間の始期までに入院しなかったとき。』
まず、「第十九条第三項・・・の規定による入院の措置」について検討します。19条3項では「都道府県知事は、・・・勧告に従わないときは、当該勧告に係る患者を感染症指定医療機関(・・・)に入院させることができる。」としています。19条3項の「入院させることができる」が、72条1項の「入院の措置」に対応するようです。どのような措置でしょうか。
おそらく、所定の官憲が患者宅に赴き、強制的に患者を所定の医療機関に入院させるのでしょう。ですから患者には入院を拒否する自由はありません。当然に入院させられますから、患者にできることは病院から逃げ出すことだけです。
「入院の措置を実施される者が正当な理由がなくその入院すべき期間の始期までに入院しなかったとき」としてあり得るのは、官憲が患者宅に到着したときに患者が逃亡していたような場合でしょうか。自宅に滞在していたら強制的に入院させられるのですから、「入院しなかったとき」はあり得ません。
今般の与野党合意で、「刑事罰(懲役、罰金)をやめて行政罰(過料)に修正された」ようです。従って、その修正案で検討します。
強制入院させられた患者が逃げ出したとき、あるいは入院の措置が執行されるときに逃亡したとき、患者は過料を払いさえすればそれで許されるのでしょうか。それはおかしいです。
都道府県知事はあくまで、病院から逃げ出した患者については再度入院の措置を実施して再強制入院させるのが正しいでしょう。また自宅から逃亡した患者は探し出して入院の措置を実施することが正しいでしょう。法改正無しでそのような措置が可能であればよし、不可能なのであれば今回の法改正でその部分をこそ改正すべきです。
今回の与野党議論で、そのような議論はなされなかったのでしょうか。
【宿泊療養や自宅療養の法律での位置づけ】
感染症法改正案
『第四十四条の三 都道府県知事は、新型コロナウイルス感染症・・・にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対し、・・・当該者の居宅若しくはこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。
2 都道府県知事は、新型コロナウイルス感染症(・・・)の患者に対し、・・・宿泊施設(・・・)若しくは当該者の居宅・・・から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。
3 ・・・前二項の規定により協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならない。』
1/30(追記)感染症法44条の3の「新型インフルエンザ等感染症」が政令(2020年)により「新型コロナウイルス感染症」に読み替えられていることが判明したので上記のように読み替えました。
「宿泊施設または居宅から外出しない」ことが明記されました。ただしあくまで必要な協力を求めることができるであり、協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならないとの義務のみです。
次に、協力を求められた者がこれに応ずるよう努めなかった場合の取り扱いです。第7章(新型インフルエンザ等感染症)にはそのような規定が見当たりません。一方、第8章(新感染症)の中には、
『(新感染症の所見がある者の入院)
第四十六条 都道府県知事は、・・・、新感染症の所見がある者(・・・第五十条の二第二項の規定による協力の求めに応じないものに限る。)に対し十日以内の期間を定めて特定感染症指定医療機関に入院・・・させるべきことを勧告することができる。・・・
2 都道府県知事は、前項の規定による勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、10日以内の期間を定めて、当該勧告に係る新感染症の所見がある者を特定感染症指定医療機関(・・・)に入院させることができる。
(感染を防止するための報告又は協力)
第五十条の二
2 都道府県知事は、・・・当該新感染症の所見がある者に対し、・・・宿泊施設(・・・)若しくは当該者の居宅若しくはこれに相当する場所から外出しないことその他の当該新感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。』
との規定があります。すなわち、対象が新感染症であれば、宿泊療養、自宅療養を拒否する患者に対し、入院勧告するとのことです。以下の疑問点が生じます。
(1)上記規定はあくまで新感染症が対象です。新型コロナの場合に準用されるのでしょうか。
(2)現在、病院が不足しているからこそ、入院ではなく宿泊療養や自宅療養になっているわけです。それを拒否する人に対して、なんで「宿泊療養や自宅療養の強制」ではなく、「入院の勧告」なのでしょうか。
1/30(追記)46条2項で「入院させることができる」と規定されていることに気づきました。過料の規定も同項に準用されていました。そのため、上記のように修正しています。
【感染症法の新感染症に関する第8章が新型コロナに準用されるとした場合】
今回改正前から、感染症法の(第8章)第52条の2第2項には、
「居宅から外出しないことに必要な協力を求めることができる」
と記載されています。もし、新感染症に関する第8章が新型コロナに準用されるとしたら、自宅療養については従前から法的根拠が存在していた、ということになります。