今までのところ、アメリカ海兵隊は、「陸海空軍の全機能を備え、アメリカ軍が参加する主な戦いには最初に、上陸・空挺作戦などの任務で前線に投入され、その自己完結性と高い機動性から脚光を浴びている緊急展開部隊」と認識されているようです(ウィキ)。
「敵が強固な防御態勢を布いている海岸に敵前上陸し、激烈な戦闘の末、橋頭堡を確保する」ことが主要任務と理解できます。実際、第二次大戦中、太平洋戦域では、硫黄島、ペリリュー島上陸作戦、沖縄戦を戦い、ヨーロッパ戦域ではノルマンディー上陸作戦を戦いました。
しかし最近では、湾岸戦争、イラク戦争などで、米軍が敵地に上陸すること自体はさほどの激戦ではありませんでした。
さらに、最近の中国の軍事力の台頭、台湾危機に対処するための米軍の役割としては、「中国本土に敵前上陸する」ことは想定されていません。そうではなく、「台湾に敵前上陸しようとする中国軍を阻止する」ことが主要な任務になっています。
このような情勢変化のもと、米軍の海兵隊はその様相を大きく変えようとしています。
自衛隊も注目する米海兵隊の大胆な改革 日米共同で中国の脅威に対抗せよ
渡部悦和 2020 年 3 月 31 日
というレポートがあります。
米海兵隊は 2020年3 月末に、「2030 年の戦力設計」(“Force Design 2030”)という米海兵隊総司令官デビッド・バーガー大将の署名入りの文書を発表しました。
米海兵隊は、イラク戦争やアフガニスタン戦争において、米陸軍とともに主として地上戦力として運用されてきました。しかし、何年も極秘で行われたウォーゲームを通じ、中国のミサイルや海軍力が太平洋地域での米軍の優位性を脅かしつつあると判明しました。
このような情勢に有効に対処するため、米国海兵隊は、海軍前方展開部隊としての役割を予算の枠内で再構築するため、戦い方を全面的に変更することにしたのです。海兵隊は保有する戦車を削減し、軍用機を削減し、兵員総数を 1 万 2000 人削減し 17 万人程度に縮小します。
海兵隊の戦力設計の前提になるのが作戦構想です。海軍の作戦構想である「分散型海洋作戦(DMO: Distributed Maritime Operations)」、海兵隊と海軍の共同作戦構想である「競争環境下における沿岸作戦(LOCE: Littoral Operations in a Contested Environment」、「前方展開前線基地作戦(EABO: Expeditionary Advanced Base Operations)」です。
海兵隊は敵の攻撃を阻止するため、中国のミサイル、航空機、海軍の兵器の攻撃可能範囲内で戦う部隊(Stand-in Forces)になります。海軍前方展開部隊は、米海軍の作戦を支援するために、小規模なチームに分散し、揚陸艇などで南シナ海や東シナ海に点在する離島や沿岸部に上陸し、前方展開前線基地(EAB: Expeditionary Advanced Bases)を設定します。
EAB は、敵の長距離精密火力の射程内の離島や沿岸地域に設定されます。EABは中隊から大隊規模の小さな前方基地です。EAB は敵の発見・対処が難しいため、艦艇や航空機よりも長い時間、敵地近くで作戦を行えます。敵地近くに長くとどまることで、EABは敵の行動に制約を加えます。例えば、対空・対艦攻撃を行い、敵のセンサーを無能力化し敵の戦力を妨害・阻止する無人機を運用します。
EAB は、海洋 ISR 装備、沿岸防衛巡航ミサイル(CDCM)、対空ミサイル、戦術航空機のための前方武装給油拠点(FARPs)、滑走路、艦艇・潜水艦の弾薬補給拠点、哨戒艇基地として利用します。
敵の反撃を避けるため、海兵隊は遠隔操縦できる新世代の水陸両用艇を駆使し、48~72 時間ごとに島から島へと移動します。他のチームは米戦艦からおとりの舟を使った欺騙(騙すこと)作戦を展開します。
以上が、米軍の新しい海兵隊の姿です。
日本との関係はどうなるのでしょうか。
沖縄・南西諸島を戦場にするな 日本列島を対中攻撃の盾にする米国 煽られる台湾有事
平和運動2022年1月30日 長周新聞
という記事があります。
『自衛隊と米軍が台湾有事を想定した日米共同作戦計画原案を作り、年明けの日米安全保障協議委員会(2+2)で正式な計画策定作業開始を決定したことが表面化している。この日米共同作戦計画は有事の初動段階で、米海兵隊が鹿児島県から沖縄の南西諸島に攻撃用臨時拠点を約40カ所設置し、そこから対艦ミサイルで洋上の中国艦隊を攻撃する実戦シナリオだ。辺野古への新基地建設計画も、馬毛島への米軍空母艦載機訓練場建設も、台湾に近い離島にミサイル部隊を配備する計画も、みなこの南西諸島一帯を戦場にするシナリオの具体化である。こうした戦争準備が地元住民の意志を無視して本格化しており、全国でも座視できない問題になっている。』
▼米海兵隊の攻撃用軍事拠点を置く候補地は、陸上自衛隊がミサイル部隊を配備する奄美大島や宮古島、ミサイル部隊配備予定の石垣島を含む約40カ所(大半が有人島)。
▼米海兵隊の攻撃用軍事拠点には対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」を配置する。自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給などの後方支援を担わせ、空母が展開できるよう中国艦艇を排除する。それは事実上の海上封鎖になる。
▼台湾本島の防衛ではなく、部隊の小規模・分散展開を中心とする米海兵隊の新たな運用指針「遠征前方基地作戦」(EABO)に基づいて共同作戦を展開する。
『米軍はもともと海空軍が中国ミサイルの射程圏外から攻撃する「統合エアシーバトル」で対抗する構想を描いてきたが、ミサイル開発能力は中国の方が進んでいる。そのなかで「中国軍が戦闘初期に南西諸島を占拠すれば台湾周辺海域に空母を展開するのが困難になる」と予測し、中国軍の射程圏内に踏みとどまりながら、米軍の空母や爆撃機が来援できる条件をつくる作戦に転換した。それがEABO構想だった。』
現在、アメリカ太平洋海兵隊の中の第3海兵遠征軍は、沖縄のうるま市キャンプ・コートニーに司令部を置き、沖縄県内のいくつものキャンプ、普天間基地、山口県岩国基地、グアム基地などに分散配置されています。第3海兵遠征軍中の第3海兵師団は、師団隷下の部隊の中でも、歩兵大隊、砲兵中隊などの部隊を普段はアメリカ本土に展開させておき、その中から必要な部隊を適宜6ヶ月程度の周期で沖縄へ展開させる部隊配備プログラムを布いています。これが平時の配置です。緊急事態が想定されたとき、即応部隊として「全員集合」がかかり、アメリカ本土に配置された部隊が沖縄に集結するはずです。普天間基地、あるいは移設後の辺野古基地は、このような「全員集合」に対処しうる基地として設計されているはずです。
現時点では、旧来の海兵隊の運用(陸海空軍の全機能を備え、アメリカ軍が参加する主な戦いには最初に、上陸・空挺作戦などの任務で前線に投入され、その自己完結性と高い機動性から脚光を浴びている緊急展開部隊)に沿った体制であると推定されます。
これが、EABO構想に沿った体制にこれから変容していくわけです。EABO構想において、平時にはどのような配備体制になるのか、そして緊急事態発生時にはどこにどのように「全員集合」するのか、そのような計画が立案されているはずです。
「台湾有事」において、沖縄県は中国の長距離精密火力の射程内であると想定されます。このような場所に「全員集合」するのかどうか。その考え方次第で、普天間あるいは辺野古基地の役割も変わってくることでしょう。
次に、米海兵隊の攻撃用軍事拠点を置く候補地は、奄美大島や宮古島、ミサイル部隊配備予定の石垣島を含む約40カ所(大半が有人島)とされていますが、具体的にはどの島が候補地になるのか、明確にする必要があります。高機動ロケット砲システム「ハイマース」などを迅速に揚陸して射撃準備を完了でき、48~72 時間ごとに島から島へと移動する、という運用が可能な島が、そんなに多いとも思えません。
今後とも、台湾情勢とアメリカ海兵隊との関係について注視していきたいと思います。
「敵が強固な防御態勢を布いている海岸に敵前上陸し、激烈な戦闘の末、橋頭堡を確保する」ことが主要任務と理解できます。実際、第二次大戦中、太平洋戦域では、硫黄島、ペリリュー島上陸作戦、沖縄戦を戦い、ヨーロッパ戦域ではノルマンディー上陸作戦を戦いました。
しかし最近では、湾岸戦争、イラク戦争などで、米軍が敵地に上陸すること自体はさほどの激戦ではありませんでした。
さらに、最近の中国の軍事力の台頭、台湾危機に対処するための米軍の役割としては、「中国本土に敵前上陸する」ことは想定されていません。そうではなく、「台湾に敵前上陸しようとする中国軍を阻止する」ことが主要な任務になっています。
このような情勢変化のもと、米軍の海兵隊はその様相を大きく変えようとしています。
自衛隊も注目する米海兵隊の大胆な改革 日米共同で中国の脅威に対抗せよ
渡部悦和 2020 年 3 月 31 日
というレポートがあります。
米海兵隊は 2020年3 月末に、「2030 年の戦力設計」(“Force Design 2030”)という米海兵隊総司令官デビッド・バーガー大将の署名入りの文書を発表しました。
米海兵隊は、イラク戦争やアフガニスタン戦争において、米陸軍とともに主として地上戦力として運用されてきました。しかし、何年も極秘で行われたウォーゲームを通じ、中国のミサイルや海軍力が太平洋地域での米軍の優位性を脅かしつつあると判明しました。
このような情勢に有効に対処するため、米国海兵隊は、海軍前方展開部隊としての役割を予算の枠内で再構築するため、戦い方を全面的に変更することにしたのです。海兵隊は保有する戦車を削減し、軍用機を削減し、兵員総数を 1 万 2000 人削減し 17 万人程度に縮小します。
海兵隊の戦力設計の前提になるのが作戦構想です。海軍の作戦構想である「分散型海洋作戦(DMO: Distributed Maritime Operations)」、海兵隊と海軍の共同作戦構想である「競争環境下における沿岸作戦(LOCE: Littoral Operations in a Contested Environment」、「前方展開前線基地作戦(EABO: Expeditionary Advanced Base Operations)」です。
海兵隊は敵の攻撃を阻止するため、中国のミサイル、航空機、海軍の兵器の攻撃可能範囲内で戦う部隊(Stand-in Forces)になります。海軍前方展開部隊は、米海軍の作戦を支援するために、小規模なチームに分散し、揚陸艇などで南シナ海や東シナ海に点在する離島や沿岸部に上陸し、前方展開前線基地(EAB: Expeditionary Advanced Bases)を設定します。
EAB は、敵の長距離精密火力の射程内の離島や沿岸地域に設定されます。EABは中隊から大隊規模の小さな前方基地です。EAB は敵の発見・対処が難しいため、艦艇や航空機よりも長い時間、敵地近くで作戦を行えます。敵地近くに長くとどまることで、EABは敵の行動に制約を加えます。例えば、対空・対艦攻撃を行い、敵のセンサーを無能力化し敵の戦力を妨害・阻止する無人機を運用します。
EAB は、海洋 ISR 装備、沿岸防衛巡航ミサイル(CDCM)、対空ミサイル、戦術航空機のための前方武装給油拠点(FARPs)、滑走路、艦艇・潜水艦の弾薬補給拠点、哨戒艇基地として利用します。
敵の反撃を避けるため、海兵隊は遠隔操縦できる新世代の水陸両用艇を駆使し、48~72 時間ごとに島から島へと移動します。他のチームは米戦艦からおとりの舟を使った欺騙(騙すこと)作戦を展開します。
以上が、米軍の新しい海兵隊の姿です。
日本との関係はどうなるのでしょうか。
沖縄・南西諸島を戦場にするな 日本列島を対中攻撃の盾にする米国 煽られる台湾有事
平和運動2022年1月30日 長周新聞
という記事があります。
『自衛隊と米軍が台湾有事を想定した日米共同作戦計画原案を作り、年明けの日米安全保障協議委員会(2+2)で正式な計画策定作業開始を決定したことが表面化している。この日米共同作戦計画は有事の初動段階で、米海兵隊が鹿児島県から沖縄の南西諸島に攻撃用臨時拠点を約40カ所設置し、そこから対艦ミサイルで洋上の中国艦隊を攻撃する実戦シナリオだ。辺野古への新基地建設計画も、馬毛島への米軍空母艦載機訓練場建設も、台湾に近い離島にミサイル部隊を配備する計画も、みなこの南西諸島一帯を戦場にするシナリオの具体化である。こうした戦争準備が地元住民の意志を無視して本格化しており、全国でも座視できない問題になっている。』
▼米海兵隊の攻撃用軍事拠点を置く候補地は、陸上自衛隊がミサイル部隊を配備する奄美大島や宮古島、ミサイル部隊配備予定の石垣島を含む約40カ所(大半が有人島)。
▼米海兵隊の攻撃用軍事拠点には対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」を配置する。自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給などの後方支援を担わせ、空母が展開できるよう中国艦艇を排除する。それは事実上の海上封鎖になる。
▼台湾本島の防衛ではなく、部隊の小規模・分散展開を中心とする米海兵隊の新たな運用指針「遠征前方基地作戦」(EABO)に基づいて共同作戦を展開する。
『米軍はもともと海空軍が中国ミサイルの射程圏外から攻撃する「統合エアシーバトル」で対抗する構想を描いてきたが、ミサイル開発能力は中国の方が進んでいる。そのなかで「中国軍が戦闘初期に南西諸島を占拠すれば台湾周辺海域に空母を展開するのが困難になる」と予測し、中国軍の射程圏内に踏みとどまりながら、米軍の空母や爆撃機が来援できる条件をつくる作戦に転換した。それがEABO構想だった。』
現在、アメリカ太平洋海兵隊の中の第3海兵遠征軍は、沖縄のうるま市キャンプ・コートニーに司令部を置き、沖縄県内のいくつものキャンプ、普天間基地、山口県岩国基地、グアム基地などに分散配置されています。第3海兵遠征軍中の第3海兵師団は、師団隷下の部隊の中でも、歩兵大隊、砲兵中隊などの部隊を普段はアメリカ本土に展開させておき、その中から必要な部隊を適宜6ヶ月程度の周期で沖縄へ展開させる部隊配備プログラムを布いています。これが平時の配置です。緊急事態が想定されたとき、即応部隊として「全員集合」がかかり、アメリカ本土に配置された部隊が沖縄に集結するはずです。普天間基地、あるいは移設後の辺野古基地は、このような「全員集合」に対処しうる基地として設計されているはずです。
現時点では、旧来の海兵隊の運用(陸海空軍の全機能を備え、アメリカ軍が参加する主な戦いには最初に、上陸・空挺作戦などの任務で前線に投入され、その自己完結性と高い機動性から脚光を浴びている緊急展開部隊)に沿った体制であると推定されます。
これが、EABO構想に沿った体制にこれから変容していくわけです。EABO構想において、平時にはどのような配備体制になるのか、そして緊急事態発生時にはどこにどのように「全員集合」するのか、そのような計画が立案されているはずです。
「台湾有事」において、沖縄県は中国の長距離精密火力の射程内であると想定されます。このような場所に「全員集合」するのかどうか。その考え方次第で、普天間あるいは辺野古基地の役割も変わってくることでしょう。
次に、米海兵隊の攻撃用軍事拠点を置く候補地は、奄美大島や宮古島、ミサイル部隊配備予定の石垣島を含む約40カ所(大半が有人島)とされていますが、具体的にはどの島が候補地になるのか、明確にする必要があります。高機動ロケット砲システム「ハイマース」などを迅速に揚陸して射撃準備を完了でき、48~72 時間ごとに島から島へと移動する、という運用が可能な島が、そんなに多いとも思えません。
今後とも、台湾情勢とアメリカ海兵隊との関係について注視していきたいと思います。