弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

原発事故とヨウ素剤の服用~三春町の奇跡(1)

2012-07-31 20:16:22 | サイエンス・パソコン
チェルノブイリ原発事故では、多くの子供が甲状腺ガンを発症しました。甲状腺ガンから子供を守るためには、放射能が到来する直前か直後に安定ヨウ素剤を服用することが重要といいます。チェルノブイリ事故で、ベラルーシ、ロシア、ウクライナでは甲状腺ガン患者が多数発症したのに対し、国民に安定ヨウ素剤を服用させたポーランドでは、甲状腺ガンの発症が皆無であったといいます。
このブログでも取り上げた松野元著「原子力防災―原子力リスクすべてと正しく向き合うために」85ページによると、ベラルーシで15歳以下の甲状腺ガン発症が増え始めたのは、事故があった1986年から5年経過した90年になってからです。93年には、ベラルーシで10万人あたり甲状腺ガン発症率が5.5人、95、97年には5.6人に達しています。今回の福島事故でも、甲状腺ガンが増えるかどうかはこれから顕在化する問題となるでしょう。
今回の福島原発事故であれば、3月15日に放射能プルームが原発から北西方向に流れた際に、その方向にいた住民、特に子供に安定ヨウ素剤を服用させるべきでした。そして、安全委員会は安定ヨウ素剤を投与させるべきとの助言を行ったのですが、なぜかその助言が現場に届かず、福島県は安定ヨウ素剤服用の指示をとうとう出しませんでした。

安定ヨウ素剤服用の指示は複雑な伝言ゲームを経由することになっていました。

安全委員会 → 国の災害対策本部(ERC) → 現地災害対策本部 → 福島県 → 各市町村 → 住民

3月13日午前、安全委員会は、1万cpmを超えた者には安定ヨウ素剤を投与すべきことを記したコメントをERCに送付しました。しかし、このコメントは、ERCから現地対策本部には伝わりませんでした。
安全委のコメントが安全委員会からERCにFAX 送信され、これをERCに詰めていた安全委所属のリエゾンが受け、災害対策本部(ERC)の医療班の人間に渡したといいます。しかし現地本部側は「そんなファックスを受けとった者はいない」ということです。
安全委の助言が現地に届いていないことは、安全委でも把握されたはずでしたが、安全委は確認や再度の助言を行いませんでした。

朝日新聞2012年7月25日朝刊第3面

福島県の防災計画によると、県知事は、国の指示を待たずとも独自の判断で服用指示を出すことは可能でした。また、県は服用指示を出すための情報をある程度は持っていました。しかし、福島県知事は服用指示を出しませんでした。

国会事故調報告書本文446ページでは、「責任は、緊急時に情報伝達に失敗した原災本部事務局医療班と安全委員会、そして投与を判断する情報があったにもかかわらず服用指示を出さなかった県知事にある」と断じています。

ところで、県からは服用指示が出なかったにもかかわらず、市町村が独自の判断で、住民に安定ヨウ素剤を配布し服用指示した市町村がいくつかありました。政府事故調中間報告第5章308ページでは以下のように報告されています。
『福島第一原発周辺の幾つかの市町村は、3月15日頃から、独自の判断で、住民に安定ヨウ素剤の配布を行っていた。例えば、三春町は、3月15日、配布のみならず、服用の指示もした。三春町は、14日深夜、女川原子力発電所の線量が上昇していること、翌15日の天気予報が東風の雨で、住民の被ばくが予想されたことから、安定ヨウ素剤の配布・服用指示を決定し、同日13時、防災無線等で町民に周知を行い、町の薬剤師の立ち会いの下、対象者の約95%に対し、安定ヨウ素剤の配布を行った。なお、三春町が国・県の指示なく安定ヨウ素剤の配布・服用指示をしていることを知った福島県保健福祉部地域医療課の職員は、同日夕方、三春町に対し、国からの指示がないことを理由に配布中止と回収の指示を出したが、三春町は、これに従わなかった。』

三春町は、県からの服用指示が出なかったにもかかわらず、なぜ住民への服用指示を決定できたのでしょうか。それも、3月15日という、まさにぴったりの日時に服用できたというのです。

朝日新聞の朝刊では、「プロメテウスの罠」という連載記事がずっと掲載されています。私は普段はこの記事を読んでいないのですが、たまたま7月16日頃、ちょうど三春町での安定ヨウ素剤服用に関するドキュメンタリーシリーズが掲載されていることに気づきました。もう第9回まで進んでいたのですが、あわてて古新聞をあさり、第6回以降のスクラップを入手することができました。

以下次号
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原発事故~文部科学省検証結果報告

2012-07-29 17:25:09 | サイエンス・パソコン
文部科学省は7月27日、「東日本大震災からの復旧・復興に関する文部科学省の取組についての検証結果のまとめ(第二次報告書)」を公表しました。
SPEEDI公表義務問題 文科相発言撤回 虚偽答弁の恐れ
産経新聞 7月28日(土)7時55分配信
『東京電力福島第1原発の事故後、放射性物質の拡散を予測する緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」のデータ公表が遅れた問題で文部科学省は27日、運用・公表を内閣府原子力安全委員会に移すことで事故直後に官邸と合意したとする従来の主張を撤回した。東日本大震災への対応を自己検証した最終報告書で明らかになった。
文科省はこれまで、SPEEDIの運用主体が公表義務も同時に負うと説明しており、運用する文科省が、公表義務を負っていたことを事実上認めた。
平野博文文科相は今年3月の参議院予算委員会で「昨年3月16日、当時の官房長官からの指示でSPEEDIの運用は安全委が行うことになった」と述べ、公表義務は安全委側にあったと説明している。事実と異なる答弁をしており、国会で追及されるのは必至だ。』

文科省のサイトでは以下のように公表されています。
東日本大震災からの復旧・復興に関する文部科学省の取組についての検証結果のまとめ(第二次報告書)について
平成24年7月27日 文部科学省
『文部科学省では、東日本大震災からの復旧・復興に関する文部科学省の取組について課題を整理し、教訓等を記録として残し、今後の危機管理等の取組に活用するため、平成23年10月より城井政務官の下に検証チームを設置し、省内検証を行ってきました。
この度、第二次報告書を取りまとめましたので、お知らせします。
今回の報告書では、以下の特定の検証テーマについて深掘りして検証するとともに、第一次報告書(平成23年12月22日)に記載された文部科学省の緊急時対応体制や各分野における課題・教訓について、今後の取組を取りまとめました。
1.SPEEDIの計算結果の活用・公表について
2.環境放射線モニタリング情報の収集・分析・公表について
3.学校の校舎・校庭等の利用に係る取組について
4.学校給食の安全・安心の確保に向けた取組について
5.学校が避難所となった際の対応の在り方について
東日本大震災からの復旧・復興に関する文部科学省の取組についての検証結果のまとめ(第二次報告書)(PDF:1793KB)

文部科学省の検証結果に関連して、ニュースではもっぱら、SPEEDIの運用・公表を誰が主体で行うことになっていたのか、という点に注目しています。

私は、「米軍機が行った航空機モニタリングデータを3月20日に受領した文部科学省は、なぜそのデータを住民避難に活用できなかったか」の検証結果に注目しました。検証報告書28ページ には以下のように記載されてます。

『○ 3月17 日から19 日まで、米国エネルギー省(DOE)(以下「DOE」という)は航空機モニタリングを実施し、その結果は外務省を通じ、3月18 日に原子力安全・保安院、3月20 日に原子力安全・保安院及び文部科学省にメールにて提供された。しかし、文部科学省は、同結果が提供された時点で、ほかにどの機関に提供されているのかを確認しなかった。・・・
○ DOE から文部科学省に3月20 日提供された航空機モニタリングの結果には“Official Use Only”や”Not for Public Distribution”と記載されており、DOE 等との3月21 日の打合せの際にもDOE 側から結果は対外非公表と伝えられていた。同日、事務方から政務三役に対してDOE から提供された航空機モニタリングの結果について報告したところ、可能な限り多くの情報が公開されることに全力を果たすべきとの認識から外務省を通じてDOE に当該結果の公表を要請するよう指示を受け、文部科学省は同日17 時過ぎに外務省に対して米国側への公開要請を依頼した。また、同日、外務省から、「当方でとりあえず立ち上がりの部分については各省のとりまとめをやらせていただ」くとの連絡を受けたため、DOE 航空機モニタリングの結果の送付先として、当初の外務省案に含まれていなかった原子力安全委員会を追加するよう伝えた。
○ 公開要請後、3月23 日(日本時間)に米国は航空機モニタリングの結果を公表した。・・・』

「米国から提供された航空機モニタリングの結果に“Official Use Only”と書いてあったのだとしたら、ぜひ“Official Use”に用いるべきでした。住民避難計画への活用がまさに“Official Use”に該当するではないですか。
それなのに文科省はそれをせず、「データを公表することのみが重要であり、データの公表は米国自身にしてもらわなければならない」ことにのみ着目し、米国が日本時間23日に公表したことをもってよしとしてしまいました。
文科省にはやはり、「住民避難計画を適切化するための放射線データとりまとめは、文科省が責任を持たなければならない」という責任感が欠如していたとしかいいようがありません。
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北朝鮮のテポドン2号発射と日本政府の対応

2012-07-28 11:20:48 | 歴史・社会
4月13日に北朝鮮長距離ロケットが発射された直後の日本政府の広報対応については、このブログでも北朝鮮長距離ロケット発射と日本政府の対応北朝鮮ミサイル対応の検証チーム報告書で論じてきました。

防衛省は6月15日、発射をめぐる対応の検証報告書を発表したとのことです。最近になって、Spike's Military Affair Review記事で知りました。

北ミサイル発射確認は3時間後 首相は軍事機密を囲い込み
2012.7.1 12:00 [防衛オフレコ放談]産経ニュース
『北朝鮮が4月13日に長距離弾道ミサイルを発射してから3カ月近くたつ。防衛省は6月15日、発射をめぐる対応の検証報告書を発表した。国民への発射情報の公表が遅れたことについて「情報発信と安心感の提供という観点が十分でなかった」と不手際を認めたが、政府高官の証言を集めると発射確認をめぐる混乱と、民主党政権の危機管理のお粗末さが改めて浮き彫りとなる。』

さらに7月4日には以下の報道もありました。
北ミサイル発射に米「迎撃は本国防衛のみ」と通告
2012.7.14 08:20 産経ニュース
『北朝鮮が4月に長距離弾道ミサイルを発射した際の米軍の迎撃態勢と日米の情報共有の全容が13日、分かった。米海軍は7隻のイージス艦を展開させ、大半が海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載。うち1隻を北朝鮮に最も近い黄海に配置したのは日本側の要請だった。米政府は発射前の協議で日本側に「ミサイルを迎撃するのは米国の防衛目的に限る」との対処方針も通告してきていた。
・・・
海自のイージス艦はミサイル本体やブースター(推進エンジン)が日本領土・領海に落下する場合の迎撃を優先させ、北朝鮮から離れた海域に配置した。これにより、水平線を超えてこないとミサイルを探知できない弱点を抱えた。
このため日米共同作戦の中枢となっている「自衛艦隊司令部」(神奈川県横須賀市)は事前の協議で、米海軍に黄海への米イージス艦の配置を要請。米側はこれを受け入れ、横須賀基地を母港とするイージス艦「カーチス・ウィルバー」を黄海に前方展開させた。
北朝鮮がミサイルを発射した際、発射の熱源を捉えた米軍の早期警戒衛星情報(SEW)に加え、カーチス・ウィルバーが探知したとみられる航跡情報はデータリンクで海自側に提供された。・・・』

日本側の従来の発表(6月15日も含め)では、『政府はSEWに加え、「自前」の自衛隊のイージス艦と地上のレーダーが探知して初めて「発射情報」と断定するダブルチェックに固執。8時3分の段階で「発射を確認していない」と情報発信し、国民を混乱に陥れた。』とあります。
しかし、7月4日記事によると、日本の海上自衛隊は、海自のイージス艦を黄海に配置しないために発射直後のロケットを把握できない問題点を事前にきちんと把握し、米軍のイージス艦を黄海に派遣するように依頼していたというのです。そして、米イージス艦カーチス・ウィルバーが探知したとみられる航跡情報はデータリンクで海自側に提供されたとのことです。

それでもなお、日本政府は、「日本のイージス艦が直接探知しない限り、長距離ロケットの発射と断定することはできない」と固執したのでしょうか。
それとも、防衛省内部の情報ルートが混乱し、、米イージス艦カーチス・ウィルバーからデータリンクで海自側に提供された航跡情報が、防衛省のしかるべき部署に到達しなかったのでしょうか。

今回の一連の報道では、防衛省内部で具体的にどの時点でどのような情報が流通し、誰がどのように判断したのか、という点が闇に包まれたままです。報道はこの点をこそ追求すべきではないでしょうか。
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震災前の原発事故防止対策~国会事故調報告書

2012-07-22 14:52:01 | サイエンス・パソコン
福島原発事故に関し、今年7月5日に国会事故調が報告書を発表しました(ダウンロードサイト)。
地震発生後の1号機に関しては、このブログでも国会事故調が指摘した1号機の初期事象としてまとめました。

震災発生に至るまでの、原発の地震・津波対策についてはどのように報告されているでしょうか。

去年の末に公表された政府事故調中間報告に関しては、このブログで以下の記事としてまとめました。
原発事故政府事故調中間報告~津波予防対策(主に東電について)
原発事故政府事故調中間報告~津波対策と原子力安全保安院

政府事故調の中間報告と対比しながら、今回の国会事故調の報告書(本文)を読んでみました。
---国会事故調報告書目次などから---
第1部 事故は防げなかったのか?……57
1. 2 認識していながら対策を怠った津波リスク ・・・・・・82
1. 2. 1 津波想定と被害予測の変遷 ・・・・・・・・・・・・82
2) 地震調査研究推進本部の長期評価以降 ・・・・・・・・・・85
 e 地震本部の長期評価:平成4(2002)年7月
 f 溢水勉強会:平成18(2006)年5月
 g 耐震設計審査指針の改定:平成18(2006)年9月(3回目の津波想定見直し)
 h 貞観津波考慮の指摘:平成21(2009)年6月
---以上---

上記のうち、e、hについては政府事故調中間報告でも取り上げられています。地震調査研究推進本部について、政府事故調では「推本」と略称し、国会事故調の上記箇所では「地震本部」と略称しています。ただし、国会事故調報告書の後半部分では、政府事故調と同様「推本」と略称していました。

f の溢水勉強会に関しては、政府事故調報告書では報告されていないようです。
溢水勉強会は、スマトラ沖津波(平成16(2004)年)や宮城県沖の地震(平成17(2005)年8月)を受けて、想定を超える事象も一定の確率で発生するとの問題意識を持ち、保安院と独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)が平成18(2006)年1月に設置した勉強会だ、と記載されています。
この勉強会で、O.P+10mの津波が到来した場合、建屋への浸水で電源機能を失い、非常用ディーゼル発電機、外部交流電源、直流電源全てが使えなくなって全電源喪失に至る可能性があることが示され、それらの情報が、この時点で東電と保安院で共有されました。(85ページ)
溢水勉強会の結果を踏まえ、平成18(2006)8月の検討会において、保安院の担当者は、「海水ポンプへの影響では、ハザード確率≒炉心損傷確率」と発言しています。報告書は注釈で「津波の発生確率が炉心損傷の確率にほとんど等しいということは、(海水ポンプを止めるような)津波が来ればほぼ100%炉心損傷(炉心溶融を含む)に至るという意味であろう」と注釈しています。

また、e 地震本部の長期評価では、推本の超過評価の中で「福島第一原発の沖合を含む日本海溝沿いで、M8くらすの津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生すると予測した」とあります。推本の評価で地震発生確率がこのように具体的に示されていることは今回初めて知りました。

政府事故調中間報告では、2002年の推本(地震本部)の長期評価が東電に伝わり、東電内部では福島原発を高い津波が襲うシミュレーションを実施していたにもかかわらず、対策をとっていなかった状況を克明に報告しました。ただし政府事故調では、原子力安全保安院に関しては必ずしも深く責任を追及できていない状況でした。

それに対して今回の国会事故調報告書では、政府事故調中間報告にはなかった「溢水勉強会」について詳細に触れました。推本の長期評価と溢水勉強会の結果を重ね合わせれば、福島原発を高い津波が襲う確率が存在し、津波が来ればほぼ100%炉心損傷(炉心溶融を含む)に至ることが、保安院においても認識されていたことが明らかです。
溢水勉強会は保安院が設置した勉強会ですから、ここで得られた結果を規制として反映すべき保安院の責任が明らかです。

政府事故調中間報告では、もちろん保安院がどのように対応していたのかという「事実」について知り得たところを記述しているのですが、保安院を責める口調はマイルドでした。それに対して国会事故調報告書は、政府事故調中間報告に比較して、保安院を責める舌鋒が鋭くなっていると感じました。

政府事故調の最終報告は、明日23日に公表されるようです。政府事故調中間報告、国会事故調報告書とどのような一致点・相違点があるのか、注目しています。

なお、今回の原発事故に関しては、政府事故調、国会事故調、民間事故調、そして東電社内事故調が並立しました。このような並立を、私はとても良いことだと思っています。複数の団体がそれぞれ異なった視点で事故を観察し、お互いが切磋琢磨して真相に迫ろうとしている姿勢が見受けられます。
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陸山会捜査報告書虚偽記載事件

2012-07-18 21:40:00 | 歴史・社会
日本とアジア・太平洋に甚大な被害をもたらした太平洋戦争に突入したのは1941年でした。あの太平洋戦争を回避することはできなかったのか。いろいろと考えるのですが、1941年時点では誰にも止めることはできなかっただろうと推測します。それでは、いったいどの事件以降、最終的な太平洋戦争突入が回避不能となって、坂を転げ落ち始めたのか。
遡っていくと、
1941 太平洋戦争突入
1940 日独伊三国軍事同盟
1937 日華事変勃発
1936 二・二六事件
1931 満州事変

満州事変は、中国に駐在していた日本の関東軍が、軍中央の統制に服さず、勝手に柳条湖事件をでっち上げ、即座に満州に軍隊を進出させて満州国を樹立してしまった事件です。
柳条湖事件は、関東軍高級参謀板垣征四郎大佐と関東軍作戦参謀石原中佐が首謀しておこなわれたとされています。
この一連の事件は、日本政府、日本国天皇、日本陸軍中央の意に反して行われた軍事行動ですから、当然に軍律違反、そして統帥権干犯に該当しますから、事件の首謀者は厳正に処罰されるべきでした。ところが、満州事変の進展とともにかられ事変首謀者はマスコミに賞賛され、日本国民はかれらを英雄としてしまいました。結局、日本政府も日本軍中央も、かれらの行為を何ら処罰することなく終わってしまったのです。

私は、あのときに日本政府と日本軍が満州事変首謀者を処罰していれば、その後に日本が奈落の底に突き落とされることはなかったのではないか、と残念に思っているものです。

さて、何でこんな話になったか。
陸山会事件で、石川知裕氏の取調べ内容に関して東京地検特捜部の田代検事が作成し、検察審査会に提出した捜査報告書に事実に反する記載があった問題です。この問題についての最高検察庁の捜査及び調査の結果をとりまとめた報告書「最高検報告書」が、6月27日に公表されました。
最高検は田代検事を不起訴処分としましたが、あまりにも身内に甘い処分であるとして激しい非難が巻き起こっています。

語るに落ちた最高検:報告書の説明がイタすぎますが」八木啓代のひとりごと

郷原信郎が斬る
「社会的孤立」を深める検察~最高検報告書は完全に破綻している~』投稿日: 2012年7月2日
『陸山会事件に関する東京地検特捜部の捜査の過程で、石川知裕氏の取調べ内容に関して田代検事が作成し、検察審査会に提出した捜査報告書に事実に反する記載があった問題等についての最高検察庁の捜査及び調査の結果をとりまとめた報告書が、6月27日に公表された(以下、「最高検報告書」)。告発されていた虚偽有印公文書作成等の事件の刑事処分は、田代検事は嫌疑不十分で不起訴、その他の検察官は「嫌疑なし」で不起訴。田代検事は、減給の懲戒処分を受けて即日辞職。当時の特捜部長と主任検事は戒告の懲戒処分を受けた。
最高検報告書の内容は、今回の問題に対する真相解明にはほど遠く、この問題に関する疑惑の説明にも全くなっていない。そして報告書の中で述べられている考え方や物の見方の多くは、内部だけで全てを決められる閉鎖的な組織の中だけにしか通用しない「身内の理屈」であり、社会の常識から理解できず、到底受け入れられるものではない。このようなことを続けていれば、検察はますます社会からの孤立を深めていくことになるであろう。』

「正義」を失った検察の今後』投稿日: 2012年7月15日
『4 月26日に言い渡された小沢一郎氏に対する東京地裁の一審判決が「事実に反する捜査報告書の作成や検察審査会への送付によって検察審査会の判断を誤らせることは決して許されない」と述べているように、今回の問題というのは、虚偽の捜査報告書によって検察審査会の判断を誤らせようとした行為であり、検察が組織として行った「不起訴」という決定を、検察審査会という外部の機関の力を使って覆し、「公訴権」という「社会的な武器」を私物化しようとした疑いがある、というところが問題の核心である。
検察という、社会が捜査権限と公訴権という強大な武器を与えている検察内部で、組織内の一部の反乱分子が、虚偽の捜査文書を作成するという不当な捜査権限の行使まで行って、組織の決定を覆そうとする「組織に対する反逆行為」が疑われた。
それは、まさに「組織の統制」自体が働かなかったという問題なのであり、そのような疑いに対して、徹底した真相究明が行われ、解明した事実に基づいて「組織の統制」を回復する措置が講じられるのが、組織の健全性を取り戻す唯一の道なのである。しかし、最高検報告書で示された、今回の検察の対応は、組織の統制を取り戻す措置とは全く言えないものだった。』

この問題については、以下の3点セットをきちんと検証しない限り、本当のところを自分で理解することはできないでしょう。
① 最高検報告書
② 被告人石川知裕氏に対する取調べ録音データの反訳書
③ 田代元検事作成の捜査報告書

しかし、郷原弁護士らが論評する限りでは、最高検の論理は破綻しており、とてもではないが容認できるような処分ではなさそうです。
そして、郷原氏が7月15日付け論評で述べているように、今回の問題は、『検察が組織として行った「不起訴」という決定を、検察審査会という外部の機関の力を使って覆し、「公訴権」という「社会的な武器」を私物化しようとした疑いがある』という問題です。検察内部で、組織内の一部の反乱分子が、虚偽の捜査文書を作成するという不当な捜査権限の行使まで行って、組織の決定を覆そうとする「組織に対する反逆行為」が疑われたのです。

そう、これこそ、満州事変と同根の問題を内在しているのです。
満州事変では、関東軍の参謀である板垣・石原両名が中心となって、日本国としての方針に反し、満洲で事変を起こしていまいました。そしてそれら首謀者を厳正に処罰すべきところを放任してしまったのです。
その後に発生した日華事変においては、もはや現地軍は日本政府の方針などどこ吹く風、どころか、満州事変の英雄であった石原が不拡大方針であったにもかかわらず、その石原を無視して作戦を実行してしまったのです。
組織内での反逆を一度許してしまうと、組織のたがが外れてしまう実例です。

今回の陸山会捜査報告書事件については、徹底的に問題を追及すべきです。
われわれは、上記①~③の資料を正当に入手することができませんし、反訳書などは5時間分もあるらしいですからなかなか全体を把握する時間もとれません。
しかし、その全体が入手できるらしいことは明らかなのですから、マスコミは、全体の資料を閲覧して実態を明確にすることが可能な状況にあります。ぜひジャーナリズムの力でもって、全体を明らかにして欲しいものです。
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国際教養大学が主要企業の人事から注目されている

2012-07-16 22:05:00 | 歴史・社会
日本の高等教育の問題点はというと・・・
学生にとって一番大事なのは大学入試です。大学にランク付けがあり、ランクの高い大学の入学試験で合格すると、それで人生の多くのことが決まってしまいます。
希望する大学に入学するため、高校時代は、入試対策の勉強が最優先されます。幅広く教養を身につけ、考える力を養うことは、高校教育で重要視されません。
一方、大学入試に合格してしまえば、大学卒業はいたって簡単です。大学の4年間を遊びくらしても、卒業できます。

リーダーとしてこの国を牽引していく人材を育成するためには、高校までの段階では人生や社会について徹底的に悩み、友達と切磋琢磨することが重要であり、一方で大学に入ったら専門性を磨くべく徹底的に勉強する。私はこのような教育が重要であると考えます。
一方で、リーダーとなるべき人材を集めて教育する環境が必要であり、そういう意味ではトップ校とそうでない学校とに区別されることは必要である、ということになります。
それでは、高校時代には人格を身につける修養をきちんとこなし、一方で大学については、優秀でリーダーとなるべき人材がトップ校に入学することができる、というしくみをどのようにして構築すればいいのでしょうか。

今の大学入試制度をどのようにいじくっても、上記のような私が理想とする選抜は不可能だと思っています。
唯一私が見つけている解、それは、アメリカの学校制度です。
大学の入学試験は決して難しくなく、本人が入学したいと考えれば比較的容易に入学できます。一方で、入学してからは徹底的に勉強することが要求され、ついて行けなければ、容赦なく留年、退学となります。
世に言うエリート校ほど、入学してからのハードルが高くなります。従って、いかに上位校であろうが、「自分には無理」と思えば目指すことがなくなるので、結果的に優秀な人材が上位校に入学することになります。

日本において、高校では詰め込み教育を行わず、大学では徹底的に勉強でしごき、かつ日本を支えるリーダーを育成することができるしくみとして、上記のようなシステムを推薦するものです。
一方、この制度を採用するとしたら、日本全体がこの制度にならなければ効果は発揮しないだろうとも思っていました。1校だけがアメリカ式を採用したとしても、その大学を卒業した人材を企業がきちんと評価してくれるかどうか、という点で疑問だからです。
大企業は、難関大学入試を突破した人材を「地頭がいい」として評価しています。たとえ大学入学後に徹底的にしごかれていることが判明しても、大学入試の偏差値は高くないと聞かされたら、採用を躊躇するのではないかと。

先日、テレビで国際教養大学の様子を見る機会がありました。
○ 授業はほとんど英語でなされる
○ 全寮制
○ 学生の相当の部分が海外からの留学生
○ 寮では、日本人学生と外国人学生の相部屋
○ 勉強は厳しく、学生はものすごい勢いで勉強しないと授業について行けない
○ 大学図書館は24時間開いていて、学生の勉学を支援してくれる
○ 学長は中嶋嶺雄氏である

「これぞアメリカ式の大学であり、私が望んでいた大学」です。
一方で、私の心配事は、「企業がこの大学卒業生を本当に評価するだろうか」という点でした。

7月16日の日経新聞朝刊に以下の記事がありました。
1面
人材育成で注目、国際教養大が首位 東大に大差 ~企業の人事トップ 本社調査
2012/7/15 22:00 日本経済新聞
『日本経済新聞社が主要企業の人事トップに「人材育成の取り組みで注目する大学」を聞いたところ、秋田県の公立大学、国際教養大学が首位になった。同大は留学義務付けや教養教育の徹底で知られ、2位の東京大学の3倍近い支持を集めた。3位は多くの留学生を集める立命館アジア太平洋大学(APU)。国際性や教養を備えた人材育成への企業の期待が浮き彫りとなった。』

主要企業の人事トップは、国際教養大学に注目しているのですね。
人事トップが注目していることはわかりました。それで、人事担当者レベルではどうなのでしょうか。主要企業が、その企業の幹部候補として国際教養大学卒業生を積極的に採用しているのか否か、その点はこの記事からは解読できませんでした。

1面記事では続いて
『一方、「新卒者を採用する立場から大学教育に求めるもの」(3つまで回答)を聞いたところ、1位が「教養教育の強化」(78社)、2位が「コミュニケーション能力を高める教育」(67社)となった。』とあります。

21面に関連記事があります。
「話せる学生」企業は求む 新卒イメージ調査 ~打ち込む姿勢 評価
2012/7/16付 日本経済新聞
『日本経済新聞社がまとめた「人事トップが求める新卒イメージ調査」では、採用したい大学新卒者の人材像の具体的な項目で「コミュニケーション能力」が全体の59.6%を占め1位となった。評価できる学生時代の経験・実績は「ゼミなどで専門の勉強に打ち込んだ」がトップ(70.6%)。意思疎通がしやすく、勉強に励んだ学生のニーズが高いことが分かった。』

あれっ?1面の記事と21面の記事が矛盾しているではないですか。
1面では「新卒者を採用する立場から大学教育に求めるもの」の1位が「教養教育の強化」だったのに、21面では「人事トップが求める新卒イメージ調査」の1位が「コミュニケーション能力」でした。
21面での不思議な結果は続きます。
『(「人事トップが求める新卒イメージ調査」で)「専門性」は2.2%しかなく、「幅広い知識」はゼロだった。・・・
一方、学生時代の経験・実績のうち、高く評価できる項目(3つまで回答)は、「専門の勉強に打ち込んだ」が7割に達した。人事トップは採用の際には専門性や幅広い知識をそれほど強く要求していないものの、学生時代にゼミなどでしっかり勉強したかどうかを評価の基準にしているとみられる。』

国際教養大学のようなやり方が(少なくともリーダー養成校では)一般的となり、高校では詰め込み教育よりも深い教養を身につけることを主眼とし、大学に入ったら徹底的に勉強して鍛える、というスタイルが実現することを切望するものです。
今の6・3・3・4制では、大学4年のうちの1~2年は教養を徹底的に身につけることも必要でしょう。
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平成21年野田議員国会討論(シロアリ発言)

2012-07-15 17:26:40 | 歴史・社会
野田総理が選挙の街頭演説で述べた様子「マニフェスト 書いてあることは命懸けで実行(ユーチューブ)」が有名になりました。あれは今年1月頃だったでしょうか。「税金にたかるシロアリを退治することが先決」という話です。

最近になってパソコンのデータを整理していたら、その際に検索して見つけた衆議院本会議での野田議員の発言記録が出てきました。折角ですからここにアップしておきます。

衆議院
会議録議事情報
会議の一覧
本会議
第46号 平成21年7月14日(火曜日) 午後一時 本会議
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 麻生内閣不信任決議案(鳩山由紀夫君外八名提出)
〔野田佳彦君登壇〕
○野田佳彦君
 私は、ただいま議題となりました麻生内閣不信任決議案に対して、民主党・無所属クラブを代表して、賛成の立場で討論をいたします。(拍手)
・・・・・・・・
 しかも、景気対策、経済対策とは名ばかりで、実態は、ばらまきの選挙対策です。・・・こんなばらまきを続けていて日本がよくなるはずはありません。バケツの水をざるに流し込むようなもったいないお金の使い方を何回やったって日本はよくなりません。まさに、このことに気づかなければならないと思います。
・・・・・・・・
 さて、もう一つは、官僚政治をコントロールする能力と気概がないということであります。
 昨年の通常国会で、与野党が修正をして、国家公務員制度改革の基本法をつくったはずであります。でも、その基本法の精神はどんどんと後退をし、逸脱をし、そして今の、今国会の法案の提出となりました。中身は明らかに後退をしています。
 加えて、一番国民が問題にしている天下りやわたりを実効性ある方法でなくしていこうという熱意が全くありません。
 私どもの調査によって、ことしの五月に、平成十九年度のお金の使い方でわかったことがあります。二万五千人の国家公務員OBが四千五百の法人に天下りをし、その四千五百法人に十二兆一千億円の血税が流れていることがわかりました。その前の年には、十二兆六千億円の血税が流れていることがわかりました。消費税五%分のお金です。さきの首都決戦の東京都政の予算は、一般会計、特別会計合わせて十二兆八千億円でございました。
 これだけの税金に、一言で言えば、シロアリが群がっている構図があるんです。そのシロアリを退治して、働きアリの政治を実現しなければならないのです。残念ながら、自民党・公明党政権には、この意欲が全くないと言わざるを得ないわけであります。
・・・・・・・・・
 まさに、天下りをなくし、わたりをなくしていくという国民の声に全くこたえない麻生政権は、不信任に値します。
・・・・・・・・・
 以上、麻生内閣不信任に対する賛成討論をさせていただきました。改めまして、麻生総理におきましては速やかに解散・総選挙を、そして議場におかれましては多くの同僚議員の御賛同をお願い申し上げて、討論を終わります。
---以上----
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国会事故調が指摘した1号機の初期事象

2012-07-11 20:40:51 | サイエンス・パソコン
国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の調査報告書(ダウンロードはこちらが便利)が公表されました。

報道では、東電や政府事故調よりも深く掘り下げ、今まで着目されていなかった事故原因が明らかになりつつある、というようなとらえ方をしています。
640ページの報告書のうち、やっと半分程度まで読み進めました。
報告書(本文)は以下の構成です。
第1部 事故は防げなかったのか?(57ページ~)
 事故発生までの対応
第2部 事故の進展と未解明問題の検証(127ページ~)
 事故発生後の対応の検証(原発そのもの)
第3部 事故対応の問題点(249ページ~)
 東電、政府、官邸、官邸及び政府、福島県、情報開示
第4部 被害の状況と被害拡大の要因(347ページ~)
 避難、防災対策、健康被害、環境汚染
第5部 事故当事者の組織的問題(487ページ~)
 東電・電事連の「虜」となった規制当局、東電の組織的問題、規制当局の組織的問題
第6部 法整備の必要性(575~585ページ)

内容については順次追いかけていこうと思います。
ここではまず、事故発生直後の各号機の挙動・対応とその評価について拾ってみます。報告書では第2部に集録されているのですが、まずページ数が少ないことに気づきます。読んでみると、3月11日から16日までの事象を、詳細に時系列に追いかけた記述になっていません。その部分はほとんど省かれています。どういうことでしょうか。詳細記述は政府事故調報告書で明らかだから、その点は省いてしまったのでしょうか。変な気がします。
私は、今までの東電報告書や政府事故調中間報告を読み、その中に「現場で何が起きていたか」が時系列で詳細に記述されていましたから、国会事故調報告書のこの薄い記述でも理解できます。しかし、国会事故調報告書を最初に読んだ人は、おそらく現場で起きていた事態を十分には把握できないことでしょう。

世の中で注目されているのは、
2.2 いくつかの未解明問題の分析または検討(207~248ページ)
です。ここでは1号機についてさまざまな視点からスポットを当てています。1号機についてひろってみましょう。

まず当ブログ記事から11日の1号機の非常用復水器稼働状況 2011-08-18
14:52 非常用復水器(IC)自動起動
15:03頃 ICによる原子炉圧力制御を行うため、手動停止。その後、ICによる原子炉圧力制御開始。
15:37 全交流電源喪失
18:18 ICの戻り配管隔離弁(MO-3A)、供給配管隔離弁(MO-2A)の開操作実施、蒸気発生を確認。
18:25 ICの戻り配管隔離弁(MO-3A)閉操作。
21:30 ICの戻り配管隔離弁(MO-3A)開操作実施、蒸気発生を確認。
--以上--
こんな時系列記述も、国会事故調報告書では不十分です。

国会報告書に戻ります。(①~④の記号は私が付けました。)
① 東電も政府事故調も、原発事故は津波によってもたらされたのであって、地震動そのものでの損傷はなかったといっているが、本当か?
 私も、地震によって主蒸気配管のギロチン破断のような大規模損傷は起こらなかったことは首肯します。一方、地震によってどこかの冷却配管に3平方センチ程度の開口が生じたことまでも「皆無だ」と言える根拠はないと思います。この点に争いはないと思いますが。

② 非常用ジーゼル発電機は津波で機能喪失したと言われているが、少なくとも1号機A系の電源は津波到来の前に機能喪失しているのではないか。
 世間では大騒ぎされていますが、多くのジーゼル発電機のうちの1機だけが対象のようです。

③ 地震直後、1号機原子炉建屋4階で激しい出水があった。この出水の原因は今でもまったく不明である。

④ 1号機で非常用復水器(IC)が自動起動した直後、操作員が手動停止した。その理由は、東電や政府事故調は「冷却速度が55℃/hを超えたから規定により停止した」と述べているが違う。炉圧の低下が激しいので冷却材が漏れているのではないかと疑って手動停止したのだ。
--以上--
上記①~④は、「まだ事故の経過を断定的に述べることはできない」ことは示すものの、「実は事故はこのように起きていた」とまで積極的に何かを指し示すほどのものではなさそうです。

《1号機ICは、フェールセーフ機能によって機能不全に陥ったのか否か》
国会事故報告書236~239ページで、1号機の非常用復水器(IC)が機能しなかった理由について論じています。
政府事故調中間報告では、ICの制御系にフェイルセーフ機能が付与されており、電源喪失によってこのフェイルセーフ機能が働き、圧力容器とICをつなぐ配管の4つの弁(電動弁)を遮断してしまったので、ICが作動しなくなった、というストーリー(だったような気がします)。
それに対して国会事故調報告書では、フェイルセーフ機能が働いた前提は「電源喪失」だが、電源喪失していれば電動弁が動かないのだから、圧力容器とICの間は遮断されなかったはずが、と論じています。
さらに、3月11日18時18分以降に、運転員がICを「オン」にしたにもかかわらず冷却ができなかった理由について、238ページで「その時点までに炉心損傷によって水素ガスが充満していたからだ」と論じています。
これはその通りではあるのですが、決して新しい議論ではありません。

このブログの記事「東電発表「1号機の非常用復水器動作状況評価」」(2011-11-23)では、
『A系の冷却水温度は、津波が来襲したときにちょうど100℃に到達しました。冷却水が蒸発して容量が減少するとしたらそれ以降です。そして、10月に確認したところA系の冷却水量が65%ということで、津波来襲後に冷却水量が80%から65%まで減少したということは、津波来襲後もA系が作動していたことを示します。
圧力容器とA系との循環ループには4つの弁(1A、2A、3A、4A)があり、1Aと4Aは格納容器の中なので状況確認できません。津波来襲時のフェールセーフ動作で閉指令が自動的に出されたものの、全閉とはならなかったのだろうと推定しています。津波来襲後もA系が作動していたことが分かったからです。
11日の21:30にA系の「開」操作を行ったにもかかわらず、A系の冷却水量は65%までしか減っておらず、ICによる冷却効果はきわめて限定的であったことがわかります。なぜ圧力容器をもっと冷やすことができなかったのか。今回の報告書に推定が記載されています。
「燃料の過熱に伴って、水-ジルコニウム反応により発生した水素がICの冷却管の中に滞留し、除熱性能が低下した可能性が考えられる。
時期は不明だが、遅くとも 12 日3時頃には原子炉圧力が低下していることから、この圧力の低下により原子炉で発生した蒸気のICへの流れ込む量が低下し、結果としてIC性能が低下した。」』
と記述しました。

つまり、去年の11月段階で、ICの冷却水量が判明したことから、圧力容器とICを結ぶ配管の弁が全閉ではない、ということを私は推測できていたのです。
そして、圧力容器内に水素が充満したことが、ICの機能不全の理由であったこともそのときから明らかでした。

《1号機のSR弁(主蒸気逃がし安全弁)は作動したか》
国会事故調報告書239~243ページでこの点を論じています。

地震発生後、ICによる冷却が機能しなければ、原子炉で発生する熱で蒸気圧が上昇します。この蒸気圧は、SR弁のバネを押し上げて逃がし安全弁の機能を果たし、格納容器へと逃げていくように設計されています。国会事故調報告書では「1号機ではSR弁のこの機能が働いていなかったのではないか」と疑問を投げかけているのです。その理由は、圧力容器配管に破損があり、その破損箇所から圧力容器から格納容器に蒸気が逃げるので、SR弁が作動するまで圧力容器圧力が上がらなかった、というものです。

この点も、さほど目新しい推理ではありません。
このブログの記事6月18日東電報告書(2)1号機(2011-06-27 )では、
『12日2時45分、圧力容器圧力が0.8MPa(8気圧)であることが判明しました。前日の20時7分には6.9MPa(69気圧)でしたから、知らないうちに圧力容器の圧が抜けていたことになります。後から考えれば、これは圧力容器の損傷を示す事象でした。一方では、消防車での注水がほぼ可能な圧に自然に下がっていたことになります。』
即ち、去年の6月には、今回の国会事故調での推理程度のことは十分に可能だったということです。

さて。
ICの機能がフェイルセーフ機能で喪失していようがいまいが、3月11日18時時点で機能しなかったことにかわりありません。
SR弁が作動していようがいまいが、圧力容器内で冷却が行われず、発生した蒸気が格納容器へと移動していたことにもかわりありません。
いずれにせよ、11日夜の段階で一刻も早く1号機の圧力容器に海水を注入すべきであったのであって、国会事故調のいう通りであろうとなかろうと、行うべき対策に変更はなかったものと思われます。

こうして読み込んでみると、少なくとも1号機の初動に関しては、国会事故調報告書によって新しい地平が見えてきた、というようなものではなさそうです。
「まだまだわからないことだらけだ」という主張については、そのとおりだと思います。
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決められない政治からの脱却??

2012-07-10 20:24:43 | 歴史・社会
消費税増税法案が衆議院で可決したことをもって、『「決められない政治」からの脱却』ととらえる風潮があるようです。
政治が混乱して何も決められない状況が続くと、「もう何でもいいから何か決めてよ」という精神構造になることがあります。しかし私は、これは非常に危険な心理状態だと思っています。

実は苦い経験があるのです。

細川政権が樹立した当時、「これで今までの自民党単独政権から脱却し、新しい政治がはじまるのだ」という期待が生まれました。ところが、何も決まりません。
そんな中、細川政権は「選挙制度改革」を打ちだし、衆議院議員選挙を従来の中選挙区制から小選挙区制に変更しよう、という法案を提出したのです。
この選挙制度改正法案には賛否両論でした。やはり決まりそうもありません。
そのときです。
「この際、何かひとつぐらい新しいことをしようよ。それが選挙制度改革なら、それくらいは実現してよ。」
という気分になってしまったのです。私の内面において。

そして、衆議院議員選挙は小選挙区制(+比例代表)に変革になりました。

ところが、その後、政治はてきめんにダイナミクスを失いました。政治家が大声で議論することがなくなったのです。大所高所の議論が消えました。代議士は皆、次の選挙が怖くて大きな仕事ができなくなってしまったのです。

私は深く恥じ入りました。あのとき、「選挙制度でいいからとにかく何か変えてよ」と心の中で思ったことを。

石原慎太郎著「国家なる幻影〈下〉―わが政治なる反回想 (文春文庫)」に、当時の状況が記されています(こちら(小選挙区制誕生の経緯)にも書きました)。
選挙制度改革を唱える小沢一郎氏らは、これに反対する者は「守旧派」であると唱えて回りました。石原氏によると、「守旧派」なる言葉を聞いたのはこれが最初だとのことです。
最後は、議長裁定案が出され、自民党もそれを丸呑みし、採決されました。自民党はほぼ全員が賛成して起立するのに対し、石原氏一人は座ったままでいました。

今、「決められない政治からの脱却」というキャンペーンを聞くたびに、心の中で小選挙区制への改正を推していた自分自身を思い出し、同じことにならなければいいが、と危惧しているものです。
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橋下徹 vs 財務省帝国

2012-07-09 20:23:00 | 歴史・社会
民主・自民・公明は、財務省に操られる増税翼賛会になり果てました。あとは、橋下維新の会が健全に成長することに期待するしかないか、と思っているのですが、勝栄二郎率いる財務省がその橋下徹をつぶしにかかるかもしれません。

この国のあり方を考える 天下人・勝栄二郎(財務省の王)はこうして伝説になった
いつから総理になったのか
国民はバカな子羊なのか
『消費増税を事実上成し遂げた勝栄二郎は、「伝説の仕上げ」とばかりに、「あの男」に批判の矛先を向けているのだという。
「橋下維新の会には危機感を持っていますね。みんなの党が橋下とくっつくかどうかも含めて、橋下新党は『財務省のリスク要因』と見なしています。
橋下が主張する政策で財務省にとって問題なのは、もちろん地方分権。カネを分配する権限を地方に移譲することになると、予算編成が思い通りにできなくなる。それが財務省にとっては恐ろしい。」』
「週刊現代」2012年7月7日号より

勝栄二郎次官率いる財務省については、このブログでも記事にしてきました。
高橋洋一氏が野田増税路線を斬る
野田政権の財務省シフト

これからも財務省と勝栄二郎次官から目を離せません。

と思っていたら、週刊現代の次の記事も出ました。
「本当の総理」勝栄二郎の高笑いが聞こえる キャリア官僚匿名座談会「財務」「経済産業」「国土交通」
『財務 先週も週刊現代が勝次官の記事を書いたから、発売日にコピーが省内に配られてた。大事な時期だから勝さんの記事には全員目を通しておけって。』
「週刊現代」2012年7月14日号より

7月7日号の上記記事のコピーが財務省内に配られていたと言うことでしょうか。
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