馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

Barbaro キャストをはずす Castaway

2006-11-08 | 整形外科

 11月7日、New Bolton Center に入院中のBarbaroのキャストがはずされた。全身麻酔下でキャストをはずし、代わりにバンデージと添え木が当てられた。

Barbaron7_1  蹄葉炎に罹患し、蹄壁のかなりの部分を切除されている左後肢のチェックも行われ、順調に回復中のようだ。

またプールで麻酔覚醒し、上手に立った後はすぐに入院馬房まで歩いて戻った。

すべての肢に体重をかけて、上手く歩いているようだ。

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X線画像は結構ショッキング。

Barbaron7bよく治ったものだ。Barbaroxray

最初の手術のとき(右)と比べると球節がかなり曲がっている。

計画してこうなったわけではないだろう。

きわどかったのだ。

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Dr2 Dr1

Dr3 写真は主治医 Dr.Richardson の誕生日の様子。

世界中から励ましと、花と、ケーキと、寄付が贈られている。

Dr.Richardson でも相当なプレッシャーだっただろう。

蹄葉炎の蹄壁が伸びてくるにはまだ数ヶ月かかるようだが、骨折治療としてはひと段落だろう。

心より賛辞を贈りたい。

「お疲れ様でした。おめでとうございます。獣医外科学の可能性を示していただいたことに感謝します。」


喉嚢鼓張 2、そしてDr.Freemanのこと

2006-11-08 | 呼吸器外科

Pb030023 両側の喉嚢が鼓張をおこしていると、喉嚢の入り口から空気が抜けるようにしてやらなければならない。

Eqine Veterinary Education 2006 8 (5) 298-302 に症例報告が出ている。

両側性の喉嚢鼓張を、耳管鏡 Salpingoscopy 手術で治した報告。

(salpingoscopy と言っても実は腹腔鏡を使っている)

Pb030024 中隔に孔を開けるのと、耳管咽頭ひだ plica salpyngopharyngea 切除を候嚢内から行って治している(左)。

なかなか大掛かりな手術だし、喉嚢内を走っている神経を傷つける危険があることも云々されている。

前回も書いたが、喉嚢の入り口の構造と機能は微妙で、外科的にどのように処置するのが望ましいのか確立されていない。

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 この症例報告に対して、フロリダ大学のD.E.Freeman先生がコメント記事を書いている。Pb030025

「喉嚢鼓張  珍しくかつ難しい疾患」

その中の左喉嚢の入り口を解説した写真。

1:内側の軟骨様のフラップ

2:耳管咽頭ひだ plica salpingopharyngea が腹側に見えており、軟骨の内側に付着している。

3:開口部の外側の壁

 いつも喉嚢炎の診断などで、喉嚢内へヴィデオスコープを入れているが、入ればOKで解剖構造や部位の名前など気にもしていなかった。

今度、解剖体でも良く見てみよう。

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 D.E.Freeman先生は以前はたしかIllinoi大におられた。何度かメールでやりとりをしたことがあるが、なかなか厳しいコメントを下さる。真面目で厳格な先生のようだ。

食道に針金が刺さった症例に2例、腸管に刺さった症例に2例遭遇し、「金属異物が馬の急性腹症の原因になりうることが教科書にも記載されるべきではないか」 と意見を述べたら、

「教科書も字数、枚数に制限があるのだから何もかもは書けない」(D.E.Freeman先生はEquine Surgeryの腸管手術の章を書いておられた。失礼しました!)と反論された。

 子馬の腸管手術後の癒着が多いことを相談したらデータを示せと言われ、データを示したら「子馬の症例が多く、興味深い。発表する価値があるかもしれない。」と言ってくれた。あまり良い成績ではないので、気乗りしないが・・・・

 最近の真菌性喉嚢炎の手術についてもフランスのグループが論文を書いているが、その後の号にFreeman先生が間違いを指摘している。「論文の価値は認めるが、データの引用の仕方が間違っている」といった内容だ。フランス人の著者は間違いを認め、「ご指摘感謝します」と言う返答。

 Freeman先生は真菌性喉嚢炎の手術方法や腸管手術で素晴らしい業績を残していて、私の興味ある分野と重なるので会って話を聴いてみたいが・・・・・チョット怖い。