真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫願望 癒されたい」(2000/製作:国沢プロ/配給:大蔵映画/原題:『彼氏の事情と私の心』/監督:国沢実/脚本:樫原辰郎/撮影:長谷川卓也/照明:奥村誠/音楽:黒澤祐一郎/助監督:増田庄吾・躰中洋蔵/出演:南あみ・佐々木ユメカ・奈賀毬子・持田修作・徳蔵寺崇・ネズミ男)。
 サラリーマンの山野(持田)は人の好い反面うだつは上がらないが、妻・郁子(佐々木)からは愛されてゐる。ある日、工夫を欠いた夫婦生活に業を煮やした郁子に後背位をせがまれたところ、腰を使ひ始めた途端に山野は背中に激痛を覚え、悶絶する。郁子に伴はれ病院に行つてみたところ、山野は膵臓ガンを患つてゐた。父親も同じ病気で亡くした山野は我を失ひ、前向きに入院を薦める郁子と逃げる逃げないで口論になる。山野が強く突き飛ばすと、郁子は頭を強く打ち気絶、山野は茫然自失と街に彷徨ひ出る。一方、全く鳴かず飛ばずの歌手・利菜(南)、公称年齢は十九歳であるが、実はもう二十五にもなる。ところで南あみが十九といふのは、幾ら何でも通らない相談であらう。マネージャーの江川(徳蔵寺)からは、潔く諦めての裸仕事を強ひられてはゐるが、利菜は未だどうしても歌に未練があり、踏ん切りがつかない。利菜は事務所の先輩・美鈴(奈賀)の撮影現場に連れて行かれる。美鈴はかつては数曲のヒットも飛ばしてゐたものの、今ではすつかり開き直りグラビア仕事ばかりしてゐた。美鈴は、江川とは腐れ縁の仲にあつた。撮影用のフリンジの付いたピンクのマイクロ・ビキニを着せられながらも、利菜はなほ決心がつかず、歌を捨て切れない。美鈴はそんな利菜に、かつての、そして何処かに捨てて来てしまつた自分の姿を重ね見る。陰毛の処理をして来なかつた、とマイクロ・ビキニ姿で逡巡する利菜にトレンチを突付けると、「夢を捨て切れないんだね、アンタ」、「今なら未だ間に合ふ」、美鈴は利菜を逃がす。逃げる利菜は自転車を無理矢理借りようとして、山野と合流する。
 何時までもしやうのない夢を捨て切れずに、利菜は逃げる。ただそれは、夢から逃げない為であり、歌から逃げない為である。自分の病気に直面することを拒む山野に、利菜は唯一の自作詞の持ち歌「彼氏の事情と私の心」を披露し、もう逃げないでとメッセージを送る。夢から逃げないこと。歌ひ続けること。そして、直面した困難から逃げないこと。利菜の姿も送るメッセージにも、それが観客に対してのものであるのと同時に、ピンクの現場で格闘する自ららをも投影した、自分達に向けたものであらうことも窺ひ知れる。どれだけ青臭くともそれだけに突破力のある、ド真ん中の青春映画である。演出部にも俳優部にも至らない点ばかりであり、利菜がウットリと耳を傾けるストリート・ミュージシャン役でも登場の、黒澤祐一郎の音楽は激痛を禁じ得ない。だから歌詞が詰まらないのも曲が在り来りなこともひとまづさて措くにしても、どうしてさういふハチャメチャな巻き舌で歌はにやならんのだ。ただそれでも、映画にせよロックにせよ。何のジャンルにせよちよつと至らない、下手糞なくらゐが一番エモーショナルであるといふツボがある。一応断つておくが、黒澤祐一郎はダントツでそのツボすら外してゐる。勿論それは、技術論的には劣位にある訳であるから、狙つてさうなるといふことではなく、あくまで偶然そこに着地出来る、こともあるといふ限りではあるが。今作は南あみといふ、演技力は全く伴はないまでも愛らしくて愛らしくて仕方のない魅力的な主演女優を擁し、幸にもその“ツボ”を突き得てゐる、あんまり自信もないが。ラストに切れを欠くのが残念ではあるが、美鈴が利菜を逃がす件と、何処ぞの劇団の物置と思しき(?)訳の判らない部屋にて、利菜が山野に「彼氏の事情と私の心」を披露する場面には必殺の決定力を感じる。
 ネズミ男は、山野にガンの診断を下す医師・蓑部か美濃部。記憶を失ひ徘徊する郁子を保護し、山野を探す。利菜を追ふ江川と、大した説明もないまま何時の間にか行動を共にしてゐる。ネズミ男とは、実は国沢実のことである。サイコ、そして国沢と実との間に挟み込まれる☆だの@だの$だのといひ、一体この御仁は幾つ徒に名義を使ひ分けるおつもりか。

 国沢実のクセ、あるいは歪みはどうやつたとて抜けきるものでもない以上、一人で始末に終へぬ内向的で鬱屈してゐる、だけの映画を撮り続けるよりも、かういつたプロットだけならば判り易過ぎる、安過ぎるくらゐの映画を撮らせてみるのが一番ちやうどいいのかも知れない。


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 「淫臭名器の色女」(2000/製作:国沢プロ/配給:大蔵映画/監督:国沢実/脚本:樫原辰郎/撮影:村川聡・板倉陽子/照明:多摩三郎・藤田雅士/助監督:増田庄吾・躰中洋蔵/ネガ編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/録音:シネ・キャビン/音楽:黒澤祐一郎/フィルム:愛光/現像:東映化学工業/タイトル:ハセガワタイトル/協力;劇団ひぽたま、セスコ・ジャパン、湊博之/出演:佐々木麻由子・南あみ・篠原さゆり・徳蔵寺崇・ときわ金成・村山竜平)。
 時価数億円ともいはれるロシア・ロマノフ王朝の秘宝、ラスプーチンの壷を巡る争奪戦である。といつて、それこそ「mi3」のやうなワールドワイドな大風呂敷に、勿論ならう筈もない、バジェットが4500倍違ふ。4500倍・・・?自分で書いてゐて驚いてしまつた。ピンクは三百万で撮つてゐるとして、まあ凡そ三万ドル。「mi3」は、伝へられるところでは、1億3500万ドル。うん、確かに4500倍だな、間違つてない間違つゐない。真逆に思ひ切りミニマムな、争奪戦はウィークリーマンションの一室のみで繰り広げられるキュートなスラップスティックである、少し以上に過剰に褒めてみた。
 証券会社社長の加賀(ときわ)は、バブルの崩壊とともに全てを失ふ。切り札たるラスプーチンの壷は秘書の三村(徳蔵寺)に持たせてあつたが、連絡を入れたところ、携帯が繋がらない、裏切られてしまつたのだ。失意の内に、加賀は自ら命を絶つ(?
 当の三村はといふと、加賀の元妻・知世(篠原)とゐた。知世と香港に高飛びし、華僑に壷を高値で売る計画であつた。知世と三村が潜伏するウィークリーマンションを、悪徳警官の室田(村山)が訪れる。上司の息子を拳銃の誤射で死なせた室田は、出世の道もすつかり絶たれてゐた。自棄になつた室田は、蛇の道は蛇、とかいふ方便で掴んだラス壷売買計画に自らも絡むべく、知世と三村の潜伏先を急襲したものだつた。
 配役残り佐々木麻由子は、加賀に雇はれた私立探偵・葛城峰子、にしてその正体は、ICPOの秘密捜査官(?
 今作がピンクデビュー作、国沢実の次作「不倫願望 癒されたい」(2000/原題:『彼氏と彼女の事情』)では堂々主演を果たし、後に続く橘瑠璃と短かつた国沢実―期待も込めて―第一期黄金期を支へた南あみは、頼んでもゐないアイコ―知世曰く、“コーシー”―を届けに現れ、事件に巻き込まれる喫茶店のウェイトレス・光。しかしてその正体は(ネタバレにつき伏字)、<ロシアン・マフィアの手先、ボルク・アンドレア>。
 拳銃を向け、三村を脅す室田。智代は引き金にかけた指に手を添へ、室田に三村を撃ち殺させる。壷の売買計画のパートナーを、三村から室田に乗り換へるつもりなのだ。そこに光が闖入して来る。三村の射殺死体に気がついた光を、室田は何かに憑り付かれたかのやうな凶悪さで犯す。人の暗い欲望を刺激する、とされるラス壷の設定がよく活きてゐる。
 主体が―それなりに―目まぐるしく入れ替り立ち代る壷の争奪戦は、そこそこ見応へがある。正確にいふと、篠原さゆりが捌けるまでは。智代退場以降は、些かならず失速した感は否めない。篠原さゆり、「猥褻ネット集団 いかせて!!」(2003/監督:上野俊哉/脚本:高原秀和)で寿引退以来三年ぶりに村山紀子名義で復帰した際には、かつての異能さが抜けた普通の美しい大人の女、になつてもゐるやうに見えた。が、かつての篠原さゆりとしての活動期には、正しくワン・アンド・オンリーな異様ですらある煌きを放つてゐた。色白で造型としては整ひつつも、一体何を考へ、感じてゐるのかあるいはゐないのかサッパリ判らない、一種の人工性すら漂はせる仮面のやうな冷たい美貌。常に足が宙に浮いてゐさうな感じも漂はせながら、恐るべき重量感を以て突進しても来る。モビルスーツに譬へるならば、ドムのやうな女優さんである。
 まあ、決して突出して面白いといふ訳ではないのだが、「mi3」の面白さの1/4500、といふほどでもない。その意味では、コスト・パフォーマンス的には今夏一番のハリウッド大作よりも成功を収めてゐる。1/4500、最早プラモデルのスケールのやうだ(笑


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 「昭和の女 団地に棲む人妻たち」(2006/制作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:工藤雅典/脚本:日下由子/企画:稲山悌二/プロデューサー:秋山兼定/撮影:西岡光司/照明:小川満/助監督:竹洞哲也/監督助手:他一名、新居あゆみ/撮影助手:山本譲/照明助手:八木徹/編集:三條知生/音楽:奈良敏博/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:夏目今日子・矢藤あき・佐々木麻由子・那波隆史・伊庭圭介・サーモン鮭山・天川真澄・下元史朗)。
 大阪万博前夜、団地住まひの主婦・景子(夏目)の夫・秀樹(那波)は、会社が倒産して以来、求職しながらしがない日雇ひに憂き身をやつしてゐた。景子は家計を維持するため、うら寂しい町外れの造成地に立つ、いはゆる立ちんぼの主婦売春である。造成地には、ニュータウン建設の噂が囁かれてゐた。売春婦仲間のジュン(矢藤)からその話を聞き、景子は世間の移ろひに接する。フリーの景子とは違ひ、ジュンはチンピラ・信二(伊庭)の手配で仕事をしてゐた。二人は付き合つてをり、信二はジュンのために組への上がりを胡麻化してゐた。ある日景子は、トレンチコートの初老の男・昭夫(下元)と出会ふ。昭夫は、景子を別の女と勘違ひした。自分を買ふでなく付き纏ふ昭夫を、景子は追い払ふ。
 絶好調なデビューからエクセス次代のエースと目されたのも束の間、以降どうにも生煮えてばかりゐる工藤雅典の新作は、本人が余程得意としてゐるつもりなのか他に抽斗がないのか、例によつて大人の女の官能をメインに据ゑたメロドラマである。ロマンポルノの昔から王道の定番のひとつではあり、そのこと自体決して悪くはないのだけれど。
 佐々木麻由子は、景子の隣室に暮らす麻美、夫は家を出て久しい。秀樹とも、景子に隠れて関係を持つ。サーモン鮭山は、景子の粘着質の客。天川真澄は、信二にヤキを入れるヤクザ。ヤクザがもう一人、しかも画面が暗いロングで、台詞―とクレジット―のある天川真澄はどうにかその人と視認し得るものの、もう一名は全く不明。
 昭夫は、亡くした妻の若い面影を景子に見てゐた。何回か買はれるうちに、次第に追ひ詰められて行く秀樹との生活に疲れた景子は、昭夫と逃げることを決意する。昭夫との旅立ちの朝、結局景子は、「味噌汁に葱を入れるのを忘れた」と夫の下に戻る。
 詰まるところは、何も起こらない映画である。「モノレールに乗りに」、街を捨て逃げるジュンと信二の姿も、御座なりなショットひとつで片づけられるばかり。夏目今日子の濡れ場の、文字通り匂ひ立ちさうな色香は裸的にも映画的にも評価出来るが、秀樹が寝てゐるうちに家を出て、依然秀樹が寝てゐる間に翻意して帰宅する。だなどといふ腰も砕ける物語は、流石に都合が良過ぎはしまいか。大体、どんな朝つぱらの駆け落ちなのだ。あるいは秀樹が、当サイト並に大概寝倒してゐたのか。結局、少々体裁が整へられ、丁寧に撮り上げられてはゐるだけでまるで何も起こらずに、殆ど中身もない一作。表面的な―あくまで表面的な―クオリティが高い分誤解しがちにもなつてしまふが、最終的にはオガキンこと小川欽也らとも大差ない。そこまでいひ切つてしまふのは、流石に些か蛮勇どころでは済まぬか。ピンク第二作「美人取立て屋 恥づかしい行為」(1999/主演:青山実樹)、第四作「美人おしやぶり教官 肉体《秘》教習」(2001/主演:岩下由里香)には、全く当たり前の娯楽映画ながら、その“当たり前”の内容の充実に目を見開かされた。今作脚本の踏み込みは全く浅く、演出の切れ味にも欠ける。国映若手の、格好ばかりつけてゐる割に中身はてんでない自己満足と何ら変らぬではないか。となると、国映若手の凡作も又オガキンと等価といふ次第になる。それもそれで、最早構はない。工藤雅典も、まだまだ枯れるには早からう。脚本に再び橘満八を迎へる、といふのも発想が甚だ貧困な上に中々さう物事は簡単には行かないのかも知れないが、奮起といふか再起を望みたい。下元史朗も、気の所為か元々過大評価であつたのか、この人こんなにお芝居下手だつたかな?ひとつ褒められるのは、リアルタイムを感じさせる物件を絶妙に画面から排した、丁寧なロケハンは勝利してゐる。

 音楽は元SONHOUSE、SHEENA & THE ROKKETS、そして「ア・ホーマンス」(1986/監督・脚本・主演:松田優作)の音楽でも知られる奈良敏博。中々小洒落た劇伴をつけてゐた感触はあるが、映画トータルの出来がアレだつたからか、メロディはまるで頭の中には残つてゐない。それも、それ。邪魔をしてゐないといふ意味で、劇伴として成功してゐるといへるのかも知れないが。


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 「寝乱れ義母 夫の帰る前に…」(2003/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:工藤雅典/脚本:日下由子/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:野田友行/音楽:たつのすけ/編集:フィルム・クラフト/録音:シネキャビン/助監督:髙田宝重/監督助手:井手上拓哉/撮影助手:山口大輔/照明助手:飯島智秀/照明助手:高野裕司/スチール:佐藤初太郎/現像:東映ラボ・テック/出演:麻田真夕・真咲紀子・ゆき・なかみつせいじ・坂入正三・しらとまさひさ)。
 福田家の朝の食卓、果物にヨーグルトをあへたデザートを支度し、夫・兼(なかみつ)、義息・宏(しらと)らが先に座る食卓にマキ(麻田)も着く。一時置いて、宏は不穏に表情を変へると、無作法に席を立つ。叱責する兼を突き飛ばした宏の頬を、マキが張る。口角から血を垂らし逃げるやうに玄関に立つた宏の、後をマキが追ふ。二人きりの玄関、マキは情感を込めて宏に接吻けると、口元の血を舐め取る。・・・・?いきなり巨大な疑問符が閃く。この義母もの、一体どの地点からスタートするのだ。二人は開巻前から既にデキてゐたのか?それはルール違反だとはいはないが、自ら翼を捥いでしまつてゐるやうに思へなくもない。
 午睡するマキは宏を想ひ、寝乱れる。起きるとシャワーを浴びる、華奢な肩を後ろに回し、腋を剃る。その、左腋を処理する麻田真夕のショットだけで、この映画一兆点。と万歳して済ませられれば、寧ろどれだけ幸福でもあつただらう。
 未整理な描写が前後し、マキと宏がデフォルトで禁忌の間柄にあるのは判るものの、それが、どのレベルの関係なのかが今一つ判然としない。明らかに不必要な一幕の存在も、混乱に拍車をかける。居間でマキと宏が乳繰り合つてゐると、不意に兼が帰宅する。宏は裸のまゝ自室に駆け込み、マキは裸の下半身を調度に隠し、兼を出迎へる。カット変り、別の日の出来事だとでもいふのか、家の表で宏がリフティングに興じる。と、そこに、マキと二人での買ひ物帰りの兼が声をかける。次の場面では、その夜寝室でのマキと兼との心の通じ合はぬ夫婦生活。この一連の繋ぎ、どう見ても、間に挿み込まれた昼間のリフティングが、そこになくてはならぬ理由が全く判らない。
 新たな人物の登場にあたり、いよいよ主人公の心理ベクトルが何処に向かはうとしてゐるのだかサッパリ掴めなくなつて来る。真咲紀子は、兼が通ふ学習塾「城西進学塾 東京本校」の同級生・沢井祐子。こゝも豪快に説明不足なのだがDVに悩んでゐるらしき祐子は、塾を突然辞め、家も捨てドロップアウトする。何故だかさうしたところ、宏も塾も高校も辞めてみせたどころか、あまつさへ家まで捨て祐子と駆け落ちするといふのである。義母と義息の近親相姦物語の筈が、何故急に物語がさういふ明後日の方向にスッ転んで行つてしまへるのか、何を考へたらさういふ脚本が書けるのか。工藤雅典も工藤雅典だ、映画を撮る腕はあるにせよ、脚本は読めないのか?挙句マキもマキで、何処へ向かふつもりなのか宏とともに、だけれども行く先は一人で家を出る。唯一理解出来るのは、途方に暮れる兼の心情ばかりといふ惨状。
 坂入正三は、城西進学塾の渡辺先生。宏の相談に訪れたマキと、御座なりな濡れ場を展開する。斯様に不格好な茶の濁し方をするくらゐならば、御大―小林悟―の下で他愛もない乱痴気に戯れてゐる方がまだしも本望なのではあるまいか。唯一映画の足が地に着くのは、ゆき演ずる兼の浮気相手で、クラブのママ・渚美智子絡みの件。随分と若い、ママさんではある。妻を慮り、兼は早々に店を後にしようとする。それが気に喰はない美智子は、グラスを傾ける兼の背後からカラオケのマイク・コードでグイグイ首を絞め上げる。今でいふところの、流刑地プレイである。横浜時代の泥臭さも漸く抜け、この頃のゆきにはかういふシークエンスが実に都会的でサマになる。たとへば風間今日子でも成立し得ようが、それはそれで味でもあれ、矢張り別種の臭みが残らう。

 繰り返すが個人的にかつて刮目させられた工藤雅典といふのは、ピンク第二作「美人取立て屋 恥づかしい行為」(1999/主演:青山実樹)や、第四作「美人おしやぶり教官 肉体《秘》教習」(2001/主演:岩下由里香)での、登場人物が大きく動いて笑つて泣いて情を交す、正統のど真ん中を堂々と往く本格派の娯楽映画を撮る工藤雅典であつた。こゝは好き勝手な与太を吹いてみる、次作は脚本に今西守でも迎へて、かつての輝きを取り戻しては貰へまいか。工藤雅典が、その持てる力の全てを発揮し力強く羽ばたく時、今年のエクセスは、いよいよもつて手がつけられなくなるのではないか。


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 「愛人萌子 性生活」(2006/製作:スタッフアズバーズ/提供:Xces Film/監督:北畑泰啓/脚本:橋本以蔵/企画:稲山悌二/プロデューサー:工藤雅典/撮影:鈴木耕一/照明:小中健二郎/助監督:十文字浩二/撮影助手:杉村高之/照明助手:柴田信弘/監督助手:新居あゆみ/音楽:たつのすけ・関口雄弘/編集:三條知生/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/劇中映画:『昭和の女 団地に棲む人妻たち』監督 工藤雅典/出演:葵あげは・なかみつせいじ・石川雄也・水原香菜恵・甲斐太郎・深沢和明・竹本泰志・岡田智宏)。各種資料にある製作のスタッフアズバーズが、本篇クレジットでは制作:新日本映像。助監督の十文字浩二も、確か別の名前であつた。北畑泰啓にとつては、昭和58年のロマンポルノ「あんねの日記」(未見)以来、二十数年ぶりの本篇帰還となる。
 場末のピンク映画上映館(シネロマン池袋)、やさぐれた男達でちらほら埋まる場内に、派手派手しい衣装の女(葵)がLサイズのポップコーン片手に現れる。葵あげはが席に着くなり奔放な自慰に耽り始めるや、男達(甲斐太郎・深沢和明・竹本泰志・岡田智宏)は吸ひ寄せられるやうに女の体に群がる。男達に蹂躙され悶え狂ふ女の裸身を、離れた席から歯噛みしながら食入るやうに凝視する男(なかみつ)が。男は手洗ひの個室に駆け込み、我も忘れた自慰に狂ふ。そこに男を追つて現れた女と、情熱的に体を合はせる。
 男の名は森下寛三、長い間経営していてゐた町工場は倒産、妻にも去られ自己破産、全てを喪ふ。女は萌子、森下が通つてゐた、照明が無駄に明るく空間の使ひ方は散漫なキャバクラの嬢。森下は隠してゐた僅かばかりの金を資金に、萌子との愛欲に溺れる生活に興じてゐた。映画館での一件も、二人のプレイの一環であつた。森下は初めて人生といふものに、意義を見出したやうに感じた。ある夜森下と二人で歩いてゐたところ、道端でコーラのロング缶とタバコを友に不貞腐れてゐたフリーターの永山(石川)を、萌子が拾ふ。森下は怪訝に思ふも、ひとまづ萌子のいふ通りにする。
 いゝ齢もした初老の男が、キャバクラの女に入揚げ全てを捧げ又捧げられてゐるとも勝手に勘違ひした挙句、体よく手の平を返し捨てられる。要はそれだけの何といふこともないお話を、重量感溢れる本格的な脚本と、手堅く隙のない演出、そして最早完成されてゐるとしかいひやうのない完璧なキャスティングとによつて、普遍さへ感じさせる一本に仕上げて見せた。中でも今作の白眉は、ドラマの中の出来事をなぞるだけならば実は他愛ない物語を、全篇に亘つて正に文学的にすら彩る必殺の森下のモノローグ。なかみつせいじの独白自体は、実はそれ程達者でもないのだけれど。これはことによると、なかみつせいじの口跡を橋本以蔵脚本の強力な完成度が上回つた、といふ格好になるのかも知れない。
 甲斐太郎以下四名の、ピンク映画館客要員はもう、エクストリームに素晴らしい。実際の小屋の空気を絶妙に伝へ、若い痴女が一人で小屋に現れる、とかいふピンクスの日常に於いてしばしば終に果たされ得ぬロマンティックに、血肉を与へる。因みに深沢和明とは、ほどなく脱退してしまふも暴威の初代メンバー、パートはSaxである。今でもそこかしこで、クレジットに名前を残しもする。現在も音楽活動を行つてゐるのか否かは判らないが、竹本泰志が主催する劇団の一員として、専らは俳優部の活動をしてゐるやうである。水原香菜恵は萌子に去られ、それでも萌子の姿を追ひ求めてシネロマン池袋の客席に切なく身を潜める森下の前に現れた、別の痴女。その痴態に、森下は一瞬萌子の幻影を見る。又こゝに水原香菜恵を持つて来るセンスが、実に憎い。更にノンクレの配役残り、上記五人以外のシネロマン要員。萌子が勤めるキャバクラのその他嬢、客、店の男。永山がカモにされる、無頼感が爆裂する賭け麻雀の面子。
 ただラストが正面からのショットは全く不要な上に、少々冗長。もう少し観客を信頼して貰へれば更に映画が締まつたものを、些かならず残念なところではある。
 劇中、場内で上映されてゐる工藤雅典の「昭和の女 団地に棲む人妻たち」に関しては、本篇に於いてもその旨クレジットされる。他方シネロマン池袋は、クレジットこそされないものの、ハッキリそことして抜かれる。

 さうかう考へてみると、今更ながらに気づいたやうなふりもするが、2006年は、エクセスがかつてなく絶好調であるやうに思へる。各作品の質に於いて、他の二社を完全に凌駕してゐるのではないか。大蔵(正確にはオーピー)新作に関しては、正直後半は殆ど全く追へてもゐないところではあれ。ローテーション的には一応定番の新田栄の存在をもが、最早霞んで来るほどである。ともあれこれは素晴らしいことに違ひない、今年もエクセスには好調を維持して貰ふと同時に、大蔵と新東宝には奮起を促したい。


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 「肉体訪問販売 マルチへの報復」(2002/製作:TMC/監督・脚本:北沢幸雄/プロデューサー:飯泉幸夫/撮影:佐藤芳郎/音効:藤本淳/助監督:城定秀夫/監督助手:伊藤一平、他/出演:川瀬有希子・時任歩・水原香菜恵・千葉誠樹・内山一寿・むかい誠一・牧村耕次・かわさきひろゆき、他)。因みに、プロデューサーの飯泉幸夫と監督・脚本の北沢幸雄とは同一人物。2002年といふ製作年は、jmdbのデータより。2001年製作、となつてゐる記述もあり。
 敏腕セールスレディーである麻衣(川瀬有希子@初脱ぎ)は、ある日かつて同じ職場で働いてゐた、同じく営業マンの塚田(千葉)から声を掛けられる。半年で三千万になる仕事があるのだが、一緒にやらないかといふのである。仕事は胡散臭い、といふか灰色を通り越して余裕で黒いマルチ商法の営業であつたが、そろそろ阿漕な稼業からは足を洗ふつもりであつた麻衣は、纏まつた金の為に塚田の誘ひに乗る。
 マルチの蟻地獄を舞台にした、ピカレスク・ロマン。といふ程、洒落た代物でも別にないが(実も蓋も無い)。麻衣と塚田とが、黒寄りの灰色のマルチ商法の営業マンから、会長室の金庫から現金を強奪して逃走するに至つて何時の間にか明白な黒に染まつて行くストーリーに、特段見るべきところは殆ど無い。今作の白眉は、塚田と麻衣との、それぞれのカモが壊れて行く、あるいは逆襲を受けるシーン。
 塚田のカモは、如何にも寂しげな女の純子(時任)。塚田の枕営業の虜になり、次々に孫会員を勧誘し、金を注ぎ込む。ある日塚田が訪ねたところ、商品のダンボールで埋まつた薄暗い部屋。パンティの尻をこちら(塚田)側に向け、うづくまる純子。振り返ると、鼻を黒く塗り、ヒゲを描いた純子はネズミに!・・・・・凄い、凄過ぎる。マルチ、即ちネズミ講に絡め取られた女が壊れた果てにネズミになる!北沢幸雄の愚直が、ピリオドを越えて余人の手の届き得ぬ破壊力に到達した瞬間である。このシーンだけで、北沢幸雄の名前に釣られた甲斐もあつたといふものだ。愕然とする塚田に、更に純子ネズミは「《けふはピルを飲んでゐないので》沢山子供を産むチュー★」、と壮絶な追ひ討ちをかける。畏るべし、北沢幸雄。
 麻衣のカモはプロレス者(内山一寿/役名失念)といふ設定。同じく商品のダンボールで埋まつた部屋、商品を買ふ為の借金の金利も払へないと打ちひしがれるカモを麻衣が冷たくあしらふと、カモは逆上。麻衣にスリーパー!逆エビからアームロックに移行!微妙にあちこちおかしいストロング・マシーンズのレプリカ(?)マスクを被ると正義のマスクマン「グレートサンダー」に変身。正義のグレートサンダーがお前の穢れた肉体を退治する、と四の字固めで麻衣を責め立てると、「両手は空いてるだろ、脱げ!」。うわ、うわははは。北沢幸雄の豪腕が火を噴く。この人は、紙一重を越えた天才に違ひない。いふまでもなく、私の品性は歪んでゐる。更に首四の字に移行すると、今度は下半身だ!グレートサンダーは麻衣に自慰を強ひる。そのやうな状態で、出来る訳もないが。勿論加減してゐるであらうとはいへ、男から関節技をかけられて、体の小さな川瀬有希子は苦しくない筈がない。苦悶する麻衣の姿は、恐らく演技ではあるまい。初めての裸仕事にして、いきなりのスパルタンな現場。北沢幸雄は鬼である。観てゐる分には、人を騙した者が竹箆返しを喰らふ懲悪的要請を過剰に超えた、頗る面白過ぎるシークエンスではあるが。

 牧村耕次は、マルチ組織「ファメール」会長。清々しいまでの悪党ぶりを披露。水原香菜恵は会長秘書、兼愛人。肛門性交に励むシーンで、水原香菜恵の丸々とした尻に牧村耕次がワセリンを塗り込むシーンは燃える、あるいは萌える。むかい誠一は、都合二度登場する麻衣の以前のカモ。なかみつせいじの量産型とでもいつた風情がある。かわさきひろゆきは、棚から牡丹餅が転がり込んで来るシンデレラ乞食。乞食メイクが汚し過ぎで、ビフォア・アフターでかわさきひろゆきと判らないのは微妙に問題では?
 他に、ファメール幹部に、確認出来ただけで石動三六と国沢実とが登場。国沢実は、国沢星実とクレジット。それは何と読めばいいのだ。
 結局奪つた金も、麻衣と塚田の手元からすり抜けて行く。それでゐて、再起を期した爽やかなラストを迎へる辺りも、調子がいいといへば調子がいいが、北沢幸雄が北沢幸雄であるところの所以ともいへるのか。娯楽映画の着地点としてひとまづ前を向かうとした、志向は明らかに表れてゐる。


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 「ナースコールガール 献身看護日誌」(1999/製作:TMC/監督:北沢幸雄/脚本:神野太・北沢幸雄/撮影:下元哲/照明:隅田浩行/音効:藤本淳/助監督:堀禎一 小泉剛・城定秀夫/出演:勝虎未来・狩野今日子・齋木亨子・愛雅百子・細川玲奈・加藤重樹・高橋大祐・城戸卓・小木曽玲一、他)。因みに齋木亨子とは、佐々木基子の別名義である。
 小沢仁志が出てゐたことで世界の片隅で話題の、「痴漢の指2 不倫妻みだらな挑発」(1999/製作:ジャパンホームビデオ・新東宝映画/配給:新東宝映画/監督:神野太)に主演した勝虎未来(かこ・みらい)の、デビュー作だとかいふVシネである。
 は、Vシネ?お前は映画館にピンク映画を観に行つたのではなかつたのか!?仕方がないぢやないか、数年前まではマトモな小屋であつたが、今はプロジェクター上映の小屋なんだ。ここでは敢へていはない、といふかどちらかといへばいへない、諸々の大人の事情により三本立ての中に一本か二本は、Vシネが必ず入つてしまつてゐる。悪い時は、Vシネ三本立てといふこともままある。流石に、その場合は初めからその週は回避する。日によつては平気でピンクだけ観て(Vシネは)パスすることもあるが、今回はその日の気分と、監督が北沢幸雄であるといふことで一応目を通して来てみた。
 看護学校を卒業したばかりの香緒里(勝虎)は、准看護婦の志穂(狩野)と同じ総合病院に赴任する。一見どんくさいけれども誠実な内科医の田川(加藤)や、有能で野心家な副院長の野崎(高橋)らを交へて、志穂らは病院に巣くふ陰謀に一度は犠牲になりつつも、立ち向かつて行く。
 大ベテランの割には何時まで経つても瑞々しい映画を好んで撮る北沢幸雄の、特に面白くは別にないが、起承転結と勧善懲悪とが手堅く纏められたストレートな娯楽作である。希望に燃えた香緒里が自室でシャワーを浴びた後、「頑張るぞ!」といはんばかりに全裸で大の字にジャンプするストップモーション(要は陰毛を押さへたショット)なんぞは観てゐて頭を抱へたが、良くも悪くもかういふことを恥づかし気もなくやれてしまふところが、北沢幸雄といふ人の持ち味なのであらう。
 画質が無茶苦茶な点に目を瞑れば(だからせめてプロジェクターならプロジェクターで、満足に調整くらゐして呉れ>駅前ロマン)まあまあ75分楽しんで観てゐられるのだが、ひとつ大きな不満が残る。準主役扱ひの狩野今日子が、着替へシーンで下着姿を見せるくらゐで、絡みはおろか乳ひとつ(ふたつか>どうでもいいよ)見せないといふのは如何なものか。

 話が変ると「痴漢の指2」の小沢仁志は、それはもうやんごとなきカッコ良さなので、読者諸兄の最寄の小屋に来た折には絶対必見とお薦めする。


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 「喪服妻 初七日に濡れる」(1998『好きもの喪服妻 濡れた初七日』の2006年旧作改題版/製作:IIZUMI Production/配給:新東宝映画/監督:北沢幸雄/脚本:福俵満/企画:福俵満/製作:北沢幸雄/編集:北沢幸雄/撮影:図書紀芳/照明:渡波洋行/音楽:TAOKA/助監督:堀禎一/監督助手:細貝昌也/撮影助手:西村友宏・大嶋良教/照明助手:小倉正彦/ヘアメーク:りえ/スチール:津田一郎/衣装:目黒衣装/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:佐々木基子・夢乃・杉本まこと・本多ハル・山科薫・牧村耕次)。
 宝石ブローカーの夫・道夫(杉本)を不慮の交通事故で喪つた延子(佐々木)は葬儀当日、斎場裏の竹林にて道夫の部下であつた金井健一(本多)と情事に耽る。娘の雛乃(夢乃)と、後妻である延子に血の繋がりはなかつた。延子の不貞を知る雛乃とは、道夫の死後微妙な関係に陥る。ある日、延子は家に侵入して来たマイケルマスク―MJの顔を形取つた被り物―の不審者と遭遇。不審者は退散するが、加へて後日、家を空けた雛乃が便利屋(山科)に伴はれ家に戻つて来た。便利屋が撮影した雛乃の陵辱ビデオを見せられながら、延子も便利屋に犯される。終に、高名な宝石商・牧野(牧村)が便利屋を連れ家に乗り込んで来る。道夫が持つてゐた筈の伝説の宝石、スター・オブ・イスタンブールを渡せといふのだ。
 伝説の宝石を巡り、その魔力に絡め取られた者共が繰り広げる熾烈な争奪戦。殆どが延子自宅―何処にあるのか知らないが、物凄く頻出のハウス・スタジオ―で進行して行くストーリーにスケール感は全く欠如してゐるものの、手堅く纏められたサスペンスの良作。水準的な脚本は兎も角、最大の勝因は、佐々木基子×夢乃×杉本まこと、そして牧村耕次。生理的嫌悪感と剥き出しの暴力性とを感じさせる、山科薫も適役と看做しこゝに加へるとして、隙のない俳優部。中でも複雑な境遇に屈折する女子高生役の夢乃と、顔の左半分に大きな青痣をメイクしてスター・オブ・イスタンブールの魔性に狂つた宝石商の怪熱演をスパークさせる、牧村耕次とが素晴らしい。金井に扮する本多ハルは、安い間男の役は安い役者に、とでもいふ塩梅で一応ハマリ役。加へて秘められた真の最大の勝因は、必要な役だけで作劇を纏め、潔く濡れ場要員の女優部を廃した点か。三番手の絡みを起爆剤に折角の映画がズッ扱けてしまふ例(ためし)は、ピンク映画に於いてはまゝある。
 脚本が丁寧過ぎてラストのどんでん返しは早々にオチが見えもするが、お話の帰結は実に穏当。観客に、良質の安定感を与へて呉れる。かういふ作劇を予定調和と難ずるやうな尻の穴の小さな映画観は、当サイトは採用しないものである、全く良心的なプロフェッショナルの仕事といへよう。北沢幸雄は、最近はよく判らないタレント養成学校のやうな仕事をやつてゐるらしく、ピンクはとんと撮つてゐない―最終作は、但し、といふかしかも“西沢幸紀”名義の『三十路スチュワーデス 敏感名器』《2003》か―が。北沢幸雄以外にも、伊藤正治に中村和愛、エクセス勢には眠らせておくには惜しいタレントの名前が散見される。低予算路線―とそれへの反発―等々、とかく色々と素人には与り知らぬ難しい事情もあるのやも知れないけれど。北沢幸雄らの沈黙が、神野太の復活に繋がつて来てゐるのだとしたら、事態は一層如何に評価すべきものか複雑になつて来るところではある。
 蛇足かも知れないが、ひとつ大きく気になつたのは音楽。ズンチャカズンチャカ品のない打ち込み音は、とりあへず定石には適つてをり当時的にはこれで特に問題もなかつたにせよ、旧作改題が必然的に背負ふ歳月の流れに、僅かばかりも耐へ得る代物ではない。しつとりとした肌触りの映画に、そこかしこで一々水を差すのが耳に障る。

 うつかり口を滑らせてのけると、夢乃(a.k.a.桜居加奈)はピンク女優の中でもトップ3に入る好みのタイプである。


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 「女学生」(2005/製作:ジャンクフィルム/監督:かわさきひろゆき/脚本:小松公典/原作:団鬼六/撮影監督:小川真司/衣装:かわさきりぼん/協力:若山プロダクション/出演:西野翔・佐々木麻由子・里見瑶子・若山騎一郎・森章二・雅まさ彦・田畑宏和、他)。因みに若山騎一郎は、若山富三郎の息子である。
 SM作家の吾郎(若山)の前に、映画監督の吉本(雅)が数年ぶりに姿を現す。吉本は、妻(里見)を主演にピンク映画を撮ることになつてゐたものだが、土壇場で二の足を踏み現場を放棄すると姿を消し、業界から干されてゐたものだつた。吾郎には、吾郎のSM小説の大ファンである資産家・森田(森)から、吾郎の小説を原作にしたSM映画を、森田が観る為だけに撮つて欲しいといふ企画があつた。吉本は吾郎に、連れて来た親の事業の失敗で金に困つた音学生・折江(西野)を主人公に、自分にその映画を撮らせて呉れ、と持ち掛けに来たのである。吾郎は吉本と折江とを伴ひ、森田を訪れる。森田邸の地下牢に、折江は役作りと称して全裸に剥かれ監禁される。相手役に、とスカウトされた同じく苦学生の杉岡(田畑)も交へ、映画撮影に名を借りた痴獄の暴虐が幕を開ける。
 まるでテレビドラマを見てゐるかのやうな、のつぺりとした、あるいはのんべんだらりとした撮影。個人的に見たことがないのは兎も角、まるで魅力に欠ける貧弱な俳優陣。イクスプラネーションを淫らに多用し、筋を追ふことだけに終始する脚本。揃はなくともよい三拍子が揃つた、全く見るべきところの無い絵に描いたやうな凡作Vシネである。
 初めは傍観者であつた吾郎が、やがて元々は自らが産み出した猟奇世界に取り込まれ、加虐の獣性を発露するに至る。といふドラマは一応の完成を見せてはゐるが、それにしてもそもそも、可憐な女学生が苛烈な被虐の果てに終には淫らな雌の本性を現すに至るといふのならば兎も角、そこいら辺りから連れて来たかのやうな、普通のオッサンが豹変する様を描いたからといつて何がどうなるといふのだ。かわさきひろゆきが、如何にモノにしなくともよい凡作をモノにしてしまはうと特段胸も痛まないが、今作の脚本が小松公典の手によるといふのは小さからざるショックである。数々の輝ける業績を鑑みるに現役ナンバーワン、といつてしまつても過言ではないかも知れない小松公典だけに、観なかつたことには出来ないから、何かの間違ひであると思ひたい。
 佐々木麻由子は、森田の妻・タケコ役。森田の折檻を受けるシーンはそれなりにハードで、そこそこに見応へがある。

 ポスターには、“劇場公開作品”だなどと例によつてどうでもいい文句が踊つてゐたやうにうろ覚えてゐるが、本当にこんなものを掛けたのか?まあ実際に、今回かうして駅前ロマンでは公開してゐる訳だが。


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 「男の妄想写真館より 淫撮グラフティー」(1997/製作:アウトバーン・TMC/監督:鎌田義孝/脚本:星川隆宣/企画:海津昭彦/プロデューサー:西山秀明/撮影:中山光一/照明:神村裕二/制作協力:スノビッシュ/出演:流川エイチ・東陽子・東陽子・吉岡まり子・藤谷かな・持田薫・遠城一馬)。どうでもいいが、グラフィティではなく“グラフティー”とは何事か、“グラフティー”とは、何処かで採れた茶のことか?
 全うな写真への志を持ちつつも、それだけでは食へずにナンパ専門のエロ・カメラマンに憂き身をやつすロク(流川)が、“貴方の一番撮りたいものが撮れるカメラ”、即ち、女を撮ると服の下の裸が撮れてしまふ魔法のカメラを手に入れる、といふファンタジーである。上手く時間が合はずに、プロジェク太上映の地元駅前ロマンにて二本のピンクの繋ぎに、初めは仕方なく観たものである。ただでさへ残り少ないライフを節約すべく、寝て過ごさうかとも思つてゐたところではあるのだが、観始めてみると、特に何がどうといふこともないままに、最後まで見せられてしまつた。
 クライマックス、締め切りのギリギリのタイムアウトまではあと僅か。ところが、そこに来て魔法のカメラが効力を喪つてしまふ。どうする!?といふところで、主人公がそれでも諦めずに、それまで愛用してゐた何の変哲も無い一眼レフを掴んで街に飛び出して行くシーンが良かつた。そこで捕まへた、あのとびきりスタイルのいい女はあれは一体誰なのだらう?中々思ふやうには上手く行かない冴えない主人公と、彼のことを温かく見守り、影に日向に力にならうとするヒロイン・アキ(東)とが、結局エロVシネの癖に最後までセックスもしなければキスさへしない、かといつてアキが別に脱ぐシーンが用意されてすらゐない辺りにも、逆にプラトニックといふかストイックで好感が持てた。
 半分志を諦めがちなロクの写真を、アキは勝手にコンテストに応募する。ロクの家に届いた審査に通つた旨の書類の中に、“一時審査(に合格)”となつてゐるのは、あれはツッコミ待ちのギャグか何かのつもりなのであらうか。監督の鎌田義孝といふ人は、小生のメモリーの中には全く入つてゐなかつたが、国映でピンクを二本―ピンク七福神の一人、といふことらしい―を撮り、二年前には一般劇場映画デビューも果たしてゐる(『YUMENO-ユメノ-』/未見)。

 クレジットにはリの字も出て来ないが、リハビリテーションズの音源を一部使用してゐる。


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