「淫臭名器の色女」(2000/製作:国沢プロ/配給:大蔵映画/監督:国沢実/脚本:樫原辰郎/撮影:村川聡・板倉陽子/照明:多摩三郎・藤田雅士/助監督:増田庄吾・躰中洋蔵/ネガ編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/録音:シネ・キャビン/音楽:黒澤祐一郎/フィルム:愛光/現像:東映化学工業/タイトル:ハセガワタイトル/協力;劇団ひぽたま、セスコ・ジャパン、湊博之/出演:佐々木麻由子・南あみ・篠原さゆり・徳蔵寺崇・ときわ金成・村山竜平)。
時価数億円ともいはれるロシア・ロマノフ王朝の秘宝、ラスプーチンの壷を巡る争奪戦である。といつて、それこそ「mi3」のやうなワールドワイドな大風呂敷に、勿論ならう筈もない、バジェットが4500倍違ふ。4500倍・・・?自分で書いてゐて驚いてしまつた。ピンクは三百万で撮つてゐるとして、まあ凡そ三万ドル。「mi3」は、伝へられるところでは、1億3500万ドル。うん、確かに4500倍だな、間違つてない間違つゐない。真逆に思ひ切りミニマムな、争奪戦はウィークリーマンションの一室のみで繰り広げられるキュートなスラップスティックである、少し以上に過剰に褒めてみた。
証券会社社長の加賀(ときわ)は、バブルの崩壊とともに全てを失ふ。切り札たるラスプーチンの壷は秘書の三村(徳蔵寺)に持たせてあつたが、連絡を入れたところ、携帯が繋がらない、裏切られてしまつたのだ。失意の内に、加賀は自ら命を絶つ(?
当の三村はといふと、加賀の元妻・知世(篠原)とゐた。知世と香港に高飛びし、華僑に壷を高値で売る計画であつた。知世と三村が潜伏するウィークリーマンションを、悪徳警官の室田(村山)が訪れる。上司の息子を拳銃の誤射で死なせた室田は、出世の道もすつかり絶たれてゐた。自棄になつた室田は、蛇の道は蛇、とかいふ方便で掴んだラス壷売買計画に自らも絡むべく、知世と三村の潜伏先を急襲したものだつた。
配役残り佐々木麻由子は、加賀に雇はれた私立探偵・葛城峰子、にしてその正体は、ICPOの秘密捜査官(?
今作がピンクデビュー作、国沢実の次作「不倫願望 癒されたい」(2000/原題:『彼氏と彼女の事情』)では堂々主演を果たし、後に続く橘瑠璃と短かつた国沢実―期待も込めて―第一期黄金期を支へた南あみは、頼んでもゐないアイコ―知世曰く、“コーシー”―を届けに現れ、事件に巻き込まれる喫茶店のウェイトレス・光。しかしてその正体は(ネタバレにつき伏字)、<ロシアン・マフィアの手先、ボルク・アンドレア>。
拳銃を向け、三村を脅す室田。智代は引き金にかけた指に手を添へ、室田に三村を撃ち殺させる。壷の売買計画のパートナーを、三村から室田に乗り換へるつもりなのだ。そこに光が闖入して来る。三村の射殺死体に気がついた光を、室田は何かに憑り付かれたかのやうな凶悪さで犯す。人の暗い欲望を刺激する、とされるラス壷の設定がよく活きてゐる。
主体が―それなりに―目まぐるしく入れ替り立ち代る壷の争奪戦は、そこそこ見応へがある。正確にいふと、篠原さゆりが捌けるまでは。智代退場以降は、些かならず失速した感は否めない。篠原さゆり、「猥褻ネット集団 いかせて!!」(2003/監督:上野俊哉/脚本:高原秀和)で寿引退以来三年ぶりに村山紀子名義で復帰した際には、かつての異能さが抜けた普通の美しい大人の女、になつてもゐるやうに見えた。が、かつての篠原さゆりとしての活動期には、正しくワン・アンド・オンリーな異様ですらある煌きを放つてゐた。色白で造型としては整ひつつも、一体何を考へ、感じてゐるのかあるいはゐないのかサッパリ判らない、一種の人工性すら漂はせる仮面のやうな冷たい美貌。常に足が宙に浮いてゐさうな感じも漂はせながら、恐るべき重量感を以て突進しても来る。モビルスーツに譬へるならば、ドムのやうな女優さんである。
まあ、決して突出して面白いといふ訳ではないのだが、「mi3」の面白さの1/4500、といふほどでもない。その意味では、コスト・パフォーマンス的には今夏一番のハリウッド大作よりも成功を収めてゐる。1/4500、最早プラモデルのスケールのやうだ(笑
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