真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢飼育 女尻いぢり」(1994『痴漢マニア 女尻丸出し』の2001年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:山崎邦紀/脚本:的場千世/撮影:稲吉雅志・村川聡/照明:秋山和夫・甲斐隆幸/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:広瀬寛巳/制作:鈴木静夫/効果・時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:桜井美咲・風原愛里・扇まや・タケ・甲斐太郎・太田始・瀬海弘)。脚本の的場千世は浜野佐知、ではなく山崎邦紀の変名。何故かポスターには、本篇に影も形も出て来ない樹かずの名前が載る。何と大らかな、あるいはアバウトな世界なのか。
 山﨑邦紀、その作品には特異な精神疾患を患つた者ばかりが現れては、珍奇な観念が狂ひ咲き観る者の脳髄を幻惑させ、つつもそれでゐてプログラム・ピクチャーとしてのピンク的要請はきつちり果たす。即ち作家性と商品性の両立、といふ商業映画に際して最も困難な課題を概ね常に遣り遂げてみせるピンクきつての、どころか日本映画界きつての大天才監督である。最早最強といつてしまつても過言ではなからう、と個人的には思つてゐる。「痴漢マニア 女尻丸出し」は、そんな山﨑邦紀作品世界の表面的な幻妖怪異の奥底に流れる、実は一貫して力強いストレートなエモーション志向に初めて気づかされた思ひ出の一本である。改めて再見、ワン・ショットの非の打ち所もない、掛け値なしの名作であつた。何処から手をつければよいのか判らないので、例によつてといふか何といふか、久方振りに活字再映する。

 秋の公園、一組のカップル(風原愛里と太田始、役名不明)がとても素人とは思へないやうな、大胆な青姦に耽つてゐる。それを繁みの影から覗き込む痴漢が計七人、柳瀬(瀬海)と宇野(タケ)に他五名。因みに他五名のうち、三人は五十音順に荒木太郎・国沢実・広瀬寛巳。荒木太郎の顔には未だあどけなさが少しだけ残り、情事を凝視しながらスキットルをグビリ、といふ小技も見せる。カップルは遂に後背位で挿入を始める、その隙に乗じた柳瀬は女の足元からパンティをくすねようとして、下手を打ち気づかれる。カップルは騒ぎ出し、痴漢軍団は蜘蛛の子を散らすやうに一斉に逃げ出す。
 所を変へ痴漢軍団五人に、俺達の縄張りで勝手なことをやつてるんぢやねえよ、と柳瀬は詰め寄られ不穏な雰囲気に。痴漢と揉め事は平和的に解決しようぜ、とその場に割つて入つた宇野は、隙を見るや「逃げろ!」と柳瀬を連れ逃げる。ブランコに揺られる二人、「痴漢に縄張りなんて笑つちやふよな」と語る宇野に対し、「“平和的に解決”は良かつたね」と柳瀬は返す。宇野と柳瀬は何となく意気投合し、自己紹介する。二人とも、失業中の身であつた。宇野は、自分は偶々あの場に居合はせただけだと、自らが痴漢の常習者であるとは頑なに否定する。
 柳瀬は居候してゐる女の家にて、今しがた入手して来たパンティを満喫。そこに柳瀬の彼女(桜井美咲、この人も役名不明)が帰つて来る、柳瀬が自分のパンティに顔を埋めてゐるものと勘違ひした美咲(大絶賛仮名)は、こんないゝ女が前にゐるのに(パンティになんか夢中になつて)。すると柳瀬は美咲の股間に顔を埋め、「こゝにもパンティがあつた・・・」。二人はセックスする、またこの桜井美咲が素晴らしい。80年代の香りも漂はせるあどけない顔立ちに不釣合ひな、オッパイもお尻も大きくていやらしいこといやらしいこと。旦々舎一流の強靭で扇情的な濡れ場を、お腹一杯に堪能させて呉れる。
 柳瀬は近所の庭(浜野佐知自宅)に、宇野を伴ひ忍び込む。干してあるそこに住む主婦(扇まや、くどいやうだが役名不明)のパンティを、釣竿を使ひ何とか手に入れようとするが、どうしても上手く行かない。洗濯バサミが外せれば何とかなるんだけどな、元々釣竿はパンティを釣るためのものぢやないからな、などと宇野の部屋でウダウダしてから、二人は自販機でヤケ酒をあふる。酔ひの勢ひに任せて、柳瀬は僕の彼女を紹介するよ、と宇野を招く。お前に彼女なんてゐるのかよ、と半信半疑ながら宇野はついて行く。現れた美咲の意外な美しさに、宇野はたちまち一目惚れ。どぎまぎした宇野は、泊まつて行けといふ柳瀬も振り切り、そゝくさその場を後にする。
 独りの部屋に戻つた宇野はついつい、自分に対しての美咲の痴態なんか想像してしまふ。友達の彼女の艶姿をイマジンするダメ人間、これが泣かずにをれようか。嗚呼、泣け泣け。泣いたとて構ふものか、小屋の暗闇が全てを覆ひ隠して呉れる、それもワン・ノブ・映画の魔力だらう。
 柳瀬の暴走は止まらない、今度は、遂にまや(だから仮名)の家に盗聴マイクを仕掛ける。さうとは露知らず、まやは夫(甲斐太郎、役名不明だつてば)と夫婦生活をオッ始める。後ろにも頂戴、とアナルセックスに突入。扇まやと甲斐太郎、この二人ならそのくらゐの真似幾らでもやつてゐて特に不思議でもあるまい、妙な説得力がシークエンスを支配する。その音声にハイエースの車内で柳瀬と宇野が耳を傾ける、そこまでしてのける柳瀬に、宇野は若干引き気味。後ろに宇野が座つてゐるにも関らず、柳瀬は興奮してオナニーを始める。この一幕の、瀬海弘の何処を見てゐるのだか全く焦点の定まらない目が凄まじい。宇野は完全に、柳瀬にはついて行けないと愕然とする。
 柳瀬は、再び宇野を美咲宅に招く。柳瀬は、宇野が美咲に一目惚れしてゐるのを見抜いてゐた。目隠しセックスをしよう、と美咲に目隠しを装着、軽く愛撫しておいて、服を脱いで来ると退出。宇野とスイッチして、美咲を抱かせる。
 柳瀬と距離を置き始めた宇野は、蕎麦屋でのバイトを始める。
 店の看板を出してゐたところ、宇野は美咲と出くはし、公園で少し世間話する。美咲は、手がつけられない柳瀬の性癖に真意を測りかね、別れを切り出してゐた。こゝで、プリントがそこそこ飛んでしまつてゐる、残念だ。プリントが飛んでゐるのでよく判らないが、宇野は美咲から部屋に招かれる。ヤバい!柳瀬の手口を想起した宇野は、あちこち探り始める。案の定ベッドの下からは、柳瀬が設置した盗聴マイクが出て来た。盗聴器を叩き壊さうとする宇野を、美咲は遮る「《スイッチを》切らないで!聞かせてやるの、あいつに」、美咲は柳瀬とセックスする。
 相変らず柳瀬がまやのパンティに竿を投げる、上手くは行かない。仕方がないので庭に忍び込んでみたけれど、まやに気づかれ柳瀬は逃げる。
 薄暗い、美咲も出て行つたガランとした部屋の中で電話機が鳴る。勿論、誰も出る者などゐない、公衆電話からかけてゐたのは宇野だつた。宇野は痴漢軍団の一人(広瀬寛巳)から話しかけられる、柳瀬の話題だ。「別に友達なんかぢやないさ」、宇野は嘯く。柳瀬は、覗いてゐたカップルに捕まり袋叩きにされただの、警察にパクられてた、といふ噂まであるやうだ。宇野は突き放す、「好きにするだけさ」。
 夕暮れ時、宇野は訪れたものの無人の美咲の部屋で立ち尽くす。それはそれとして、あれやこれやの楽しかつた思ひ出が胸をよぎる。宇野は、手土産に買つて来たタコヤキを独りで頬張る。
 何時もの公園、相変らずカップル(風原愛里と太田始)が大胆な情事を楽しんでゐる。それを嬉々と覗く痴漢軍団と、虚ろな眼をした宇野。男が、女の足首から抜いたパンティを柵にかける。エッサカホイサカとオッ始めるカップル、その時・・・!ヒョイッと柵からパンティを釣り上げる釣り針、柳瀬だ。カタルシスの爆裂するエモーション其の壱:遂に成し遂げられる釣竿でのパンティ・ゲット!
 カップルは騒ぎ出す、情事も勿論中断。釣竿を右手に、はしやぎながら柳瀬が逃げ出す。「あの野郎!」痴漢軍団は色めき立ち、柳瀬を追ひ駆けて行く。原つぱを駆け抜け、柳瀬は森へと続く小高い丘を駆け上がる。ここでスローモーション、山﨑邦紀天才!!ゆつくりとこちらに向かつて振り返り、左手でこちらに向かつて大きくピース♪画面は再びスピードを戻し、画面奥に駆け抜けて行く柳瀬と、それを追ひ、痴漢軍団も続けて森に消える。一方、立ち尽くす宇野の、それまで浮かなかつた表情も、すつかり嬉しくなつてしまつてゐる。宇野は女から詰め寄られる、ちよつと、アンタも痴漢でせう!?これまで頑なに否定して来たのを、宇野はあつさり認める。ああさうさ、俺は痴漢だよ。カタルシスの爆裂するエモーション其の弐:取り戻されるロスト・アイデンティティー。山﨑邦紀超天才!!!作劇の勘所を完全に自中にし、観客のエモーションを最早自在に操作する。痴漢軍団に続いて、柳瀬を追ひ駆けて行く宇野も画面奥の森に消え、画面は暗転、クレジットが入る。

 ダメ人間・ミーツ・ダメ人間の基本プロットに桜井美咲といふ桃色の決戦兵器を迎へ、出会ひ、挑戦、横恋慕、擦違ひ、哀しい別離。孤独、失意、そして歓喜の再会、成就、回復、復活。までが五十八分の尺の中に手際良く描かれる、起承転結の構成としては最早完璧。勿論加へて相手は旦々舎である、素敵にいやらしいこといやらしいことはこの上ない。全方位から一欠片の文句の付け所もない、紛ふことなき青春ピンクの大傑作、正しく必殺の一本である。


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 「夜泣き喪服妻 -女臭い寝床-」(1994『超いんらん 貞操帯夫人』の2006年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:山崎邦紀/脚本:的場千世/撮影:稲吉雅志/照明:秋山和夫/音楽:藪中博章/助監督:広瀬寛巳/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斉藤秀子/スチール:岡崎一隆/出演:田中虹子・相原歌林・岸本志麻・甲斐太郎・杉本まこと・藤川信幸・太田始)。脚本の的場千世は、浜野佐知の別名。
 降りしきる雨の中を走る車。走つてゐるやうには、残念ながら全く見えないが。夫・三枝宏之(杉本)がハンドルを握り、助手席には妻・了子(田中)。宏之は了子に、運転したままフェラチオして呉れることをせがむ。危ないのでは?と思ひながらも、了子は応じる。ハイ、フラグ立つた。車は案の定クラッシュ!ものの漆黒の闇の中、宏之は了子とセックスする。事が済むと、宏之だけが闇の中に取り残される。「俺は死んだのか・・・!?」、宏之は驚愕する。
 場面変つて、現世の了子の、かつては宏之との夫婦の寝室。パジャマ姿で独りダブル・ベッドに腰を下ろす了子の前に、宏之の父・健介(甲斐)が現れる。三枝家のしきたりとして、夫の没後、四十九日が済むまでの間未亡人は貞操帯を着用することになつてゐる、といふのである。意識だけを現世に残した、宏之のモノローグが入る。「親爺の奴何てこと言ひ出すんだ。貞操帯?そんな話聞いたことないぞ!」>わはははは!@爆笑名台詞其の壱
 さういふ次第で、奇矯な運命に翻弄される美しき未亡人と、絶妙な亡夫のツッコミ。単なるガチエロピンクの範疇に止まらず、映画は順調極まりないスタートを見せる。かういふ箍の外れた変態行為を、観客に何の疑問も抱かせずに納得させる、甲斐太郎の持つ特殊な説得力は何時観ても天晴である。
 翌日、寺に行く、といつて了子は外出する。勿論、貞操帯は着装してゐる。如何にも和風な丸顔と、それを乗せた細い首。田中虹子には、喪服が実によく馴染む。洋装は洋装で、又顔立ちが華やかなので似合ふのだが。閑話休題、但し向かつた先は、四畳半一間の安アパート。そこに住む、何故か部屋の中でも作業着にヘルメット姿の作業員・佐原孝二(太田)と、了子は以前から不倫関係にあつたのだ。愕然とする宏之、のモノローグ。
 早速事に及ばうとする若い佐原に、了子は仕方ないといつた風情で貞操帯を見せ、古くからの三枝家のしきたりであるからと苦しい説明をする。さうすると佐原は叫ぶ、「こんな変なもの、昔の日本にある訳がないぢやないか!」>わはははは!@爆笑名台詞其の弐
 実直な論理性が強烈な破壊力を有するに至る、正しく名台詞である。
 藤川信幸は宏之の弟、即ち了子からは義弟に当たる直之。以前から義姉に対してほのかな恋情を抱き、宏之の死後、それはより直線的なものへと変化する。相原歌林は直之の彼女・道浦清美。了子との結婚を勝手に決意した直之から、連込旅館で別れを出し抜けに告げられる。別れを切り出しながら最後の情交をしようだなどといふ直之の調子の良さを嘲笑し、持参した張型を使つたプレイを強ひる。この辺りは、流石は的場千世こと浜野佐知がホンを書いてゐるだけにあり、小気味良い女性上位ぶり。流石にこの時代の女優さんともなると全く初見であるが、相原歌林は首から上は爽やかにヒン曲がつてゐるものの、首から下はダイナマイトにいやらしく、重量級の煽情性溢れる絡みを炸裂させる。物語の本筋には全く関らない純然たる三番手濡れ場要員ながら、十二分な働きを見せる。岸本志麻は、妻は出て来ないので既に喪つてゐる筈の、健介の愛人・小宮薫。余程好きなのか、健介は薫にも貞操帯を着用させる。相原と同じく完全なる裸要員ではあるが、そのまま四つん這ひで部屋の中を歩かされるシークエンスの、丸々とした尻のいやらしいこといやらしいこと、ピンクとしても全く文句無い充実ぶりを堪能させる。
 起承転結でいふと転の部分に於いて、俄かに火を噴く必殺、当サイト命名の山ダイナミック!この人は、どんなに屈折極まりない物語、どんなにいい加減なエロ話を撮つてゐようとも、五秒あれば映画を決定づけられる。ワン・ショットで、見事な映画的エモーションを到来せしめる力技を有する。文字通り、“最強”たる所以である。先に一度伏線も張つておいた、生前宏之から送られたものの、その死後は了子が手入れを怠つてしまひ、荒れ放題になつてゐた観葉植物の鉢植ゑ。ある朝了子が平素よりは遅目に起きて来たところ、鉢植ゑは健介がゴミに出してしまつてゐた。喪はれた亡夫との思ひ出を取り戻すべく、了子は収集車を追ひ町に走り出す。「太陽にほえろ」の若手刑事よろしく、見事な走りぷりを披露する田中虹子を、長々とカメラが追ふ。必死な妻の姿に、宏之はすつかり諦めかけてゐた妻の自らへの愛情を再確認、現世への未練を無くし、成仏することを決意する。

 爆笑必至のエキセントリックなプロットからスタートし、ピンクとして120点のいやらしさを結実させつつ、フと気が付くと何時の間にか映画はストレートなエモーションに着地せしめられてゐる。これぞ“最強”、強靭な論理力に裏支へられた至極の逸品。山邦紀―今作の名義は山崎邦紀―は本当に面白い。旧作改題を侮るなかれ、面白いものは、矢張り面白いのである。大体が未見の旧作と未知の新作との間に、実質的には如何なる差異があるといふのか。


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 「美姉妹レズ 忌中の日に…」(2006/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:山内大輔/企画:稲山悌二/プロデューサー:五代俊介/撮影監督:創優和/撮影助手:柴田潤/照明助手:小林麻美/助監督:竹洞哲也/監督助手:安達守/着付:福島織絵/ヘアメイク:徳丸瑞穂/制作協力:フィルムハウス/出演:日高ゆりあ・倖田李梨・寺澤しのぶ・牧村耕次・柳之内たくま・サーモン鮭山)。
 ラブホテルの一室、藍子(日高)が客である小金井(サーモン)と寝る。若い肉体に狂喜する小金井を余所に、藍子は静かに回想する。「三年前、私には家族があつた・・・」。ところで、サーモン鮭山演ずる小金井といふのは、2004年の「便利屋家政婦 鍵の穴から」にも出て来る。
 藍子は元々母子家庭であつたが、夜の街で働く母・真寿美(寺澤)は、ビル賃貸を営む資産家の新堂秀夫(牧村)と再婚。新堂の一人息子で、写真が趣味の大学生・隆也(柳之内)との四人の、新しい生活が始まる。母と新堂の憚りのない夫婦生活には辟易する藍子ではあつたが、隆也とは打ち解けた。ある日、他に家族の居ない昼下がりの自宅で、藍子は新堂に犯される。新堂は、初めから娘の藍子の肉体が目当てであつたのだ。傷心を抱へ何時も一時(ひととき)を過ごす河原に向かつた藍子は、カメラマンの桃子(倖田)と出会ふ。
 池島ゆたか一押しの新人女優、日高ゆりあの堂々エクセス初主演作。「昭和エロ浪漫 生娘の恥ぢらひ」の時には必ずしも然程とは思はなかつたが、適度な少女体型、伸び代を十二分に感じさせるお芝居といひ、華沢レモンに続く若手女優エース格としての期待大である。繰り返される日常の風景を用ゐて、山内大輔は藍子の心象をさりげなくも極めて判り易く説明する。ああ、ちやんとした商業映画を観てゐるんだな、と小屋の椅子の座り心地も好い安定感を味はへる。ラストを除いて、特に大きな飛躍もない、いつてしまへば類型的といへなくもない物語は、それでゐて一切の過不足も、疎かにして済ませたカットも一つとしてなく、決して観てゐて重荷にはならない適度な緊張感を以て丹念に紡がれる。とはいへ、物語がしつかりと紡がれて行くだけでそこからの拡がりも深まりも感じられはしなかつたことも、個人的には強く感じた印象である。山内大輔は丁寧な映画作りをする、非常に達者な監督ではあるのだらうが、そこから更に一歩踏み出でて、エモーションのコアに肉薄する作家としての体力には、些か欠けるやうにも見受けられる。創優和の作る、フィルムハウス画質と総称してしまつてもよいのか、白トビしてしまふほどでは決してないにせよ明る過ぎる画面も、今回感じた映画としての希薄に通じてゐるのかも知れない。クリアな、観易い画面であることには間違ひないのだが、そこには目に見えるものしか、映されてはゐないやうに思へる。凝つたフレーミングの中でしばしば、画面最奥部を余計な歩行者や何やかにやが横切る不運も残念。

 かういふことをいつてしまつて、よいものなのかどうなのかは微妙に考へものでもあるのだが、歯を治した倖田李梨は、これで最強だ。八月の映画を捕まへて気が早くも鬼を笑はせるが、来年の更なる大飛躍に期待したい。若手(?)女優の中では、エロ最強と見るものである。
 捻じ込んだラスト<三年の間に、桃子は隆也と結婚。但し三年後、隆也と真寿美は纏めて交通事故死、秀夫はミイラ。晴れて新堂家は美姉妹レズの天下に。


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 「便利屋家政婦 鍵の穴から」(2004/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:山内大輔/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:鏡早智/照明:野田友行/編集:金子尚樹/助監督:城定秀夫/監督助手:小泉剛/選曲:はなちゃん/出演:吉本雅・北川絵美・葉月螢・しらとまさひさ・サーモン鮭山・北千住ひろし・野上正義/友情出演:望月六郎)。 
 磯山家の一人娘・ミユキ(北川)は、学校にも行かずに恋人の俊樹(しらと)を部屋に上げると、昼間からセックスに狂ふ。事が済むと、俊樹はミユキに金を無心する。ミユキは俊樹に貢ぐ為に、援助交際に手を汚してゐた。一方、赤いコートにロングブーツ、キャリーバッグを颯爽と引き片瀬ナナミ(吉本)がロングショットで歩いて来る。ナナミのモノローグ、「私は家政婦。但しただの家政婦ではない。人は私を、便利屋家政婦と呼ぶ」。
 磯山家の主人・隆文(野上)に、ナナミは住み込みの家政婦として招かれる。隆文の妻は、夫の女遊びに業を煮やし家を出てしまつてゐた。以来、父娘の仲は上手く行つてはゐなかつた。ミユキは初めて会ふナナミに、堂々と父親の女癖の悪さについて釘を刺す。その夜、隆文に頼まれナナミは寝室で腰を揉む。興信所で娘の彼氏の素性と、序にナナミのことも調べさせてゐた隆文は、ナナミに便利屋家政婦としての正体をぶつけてみる。一度は驚くナナミではあつたが、それならばさういふことか、と腹を括り、隆文と寝る。
 要は便利屋家政婦といふのは、単に家事をこなす世間一般の家政婦に留まらず、女の武器を駆使しその家々の様々なトラブルを解決して行く裏稼業、といつた次第。「家政婦は見た!」と「必殺シリーズ」とを足して二で割つて、桃色風味で味つけたやうなプロットである。いやそれにしても、主演は若い女に味つけて呉れてゐて本当に良かつた。これが馬鹿正直に市原悦子のセンを踏んで、乱孝寿でも連れて来られた日には・・・・・(火暴)   >ありかねない話でもあるから恐ろしいのだ
 北千住ひろしは、援交の客役として最初に登場する前田。あくまで俊樹に惚れてゐるミユキは、キスだけは拒む。それならばと前田「一万払ふ!」、するとミユキは「出したモノ飲んであげる」。呆れた前田は、「どうなつてるんだ、お前の価値観は!?」。テンポの良い遣り取りの影に隠された、さりげないキャラクター造型が手堅い。友情出演の望月六郎は二番目に登場する高野、デジカメを手にしたハメ撮り野郎である。リアルといふか何といふか、クロスカンター気味の配役ではある。黙りこくるミユキに対して、高野は兎にも角にも事の最中終始喋繰り倒す。どさくさに紛れて、一箇所明確に“おま○こ”と口に出していつてしまつてもゐるのだが。まあ、御愛嬌といふことで。
 ちやうど尺の半分程で磯山家を片付けると、ナナミは次なる家に。新たなる舞台は小金井家。若手ITベンチャー社長の小金井(サーモン)と、妻・スミレ(葉月)との二人暮らし。小金井は殆どスミレと外界との接触すら断ち、まるで妻を箱に入れた人形かのやうに偏愛してゐた。
 それなりに能動的に便利屋家政婦として活動した磯山家篇に比して、小金井家でのナナミといふと、スミレにはレズられるは色気を出した小金井には手篭めにされるはで、まるで為されるがままでしかない。ともあれ、ナナミを手篭めにする夫の姿を目撃したスミレは家を出、小金井の呪縛から自ら逃れる。
 ラスト、次なる家に向かつて颯爽と歩くナナミの傍らには、新たなる便利屋家政婦の姿が。全く同じでは勿論なくともよいから、赤いコートにロングブーツ、といふ衣装だけでも揃へて呉れればカッコ良過ぎるラスト・ショットが更に加速されもしたやうな気もするのだが。いふまでもなく、ピンクには衣装などといふ役割概念は通例存在しないので、致し方ないところではある。


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 「痴漢電車 秘貝いたづら指技」(2006/製作:POWER FOOL/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏・森山茂雄/原題:『痴漢電車大爆破』/撮影・照明:長谷川卓也/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:高田宝重/監督助手:城定秀夫・杉本智美/撮影助手:斎藤和弘・中村拓/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/協力:オフィス・バロウズ、色華昇子/出演:園原りか、水原香菜恵、木の実葉、真田幹也、伊藤太郎、岡田智宏、色華昇子、K・野中、れいじ、M・佐藤、ジョン・A・マイケルズ、吉永幸一郎、ショック集団&ゆっき~、ナカヤマノン、久保覚、佐野和宏)。出演者中、K・野中から久保覚までは本篇クレジットのみ。
 満員電車の車中、女の尻に痴漢師の指が妖しく蠢く。痴漢師・坂巻好介(佐野)は複雑な表情を浮かべると、「失礼しました」と痴漢対象から体を離し、姿を消す。痴漢対象が振り向くと、それは女ではなく、オバQニューハーフの色華昇子。「んもう、いいところだつたのニィ!」と、色華昇子が地団太を踏む。途中でオチは読めてしまふが、キレのいいツカミではある。色華昇子の出番は後にも先にもこの開巻のみ、適材適所ここに極まれり、ここまでは完璧であつたのだが。
 金髪に片足突つ込みかけた茶髪と、更に肥えたのか顎から首にかけてのラインに戦慄を禁じ得ない木の実葉もよがり泣かせつつ、好介は一人の女に辿り着く。ところで木の実葉といふ人はex.麻生みゅうで、旧名は、事務所からの独立に際し使へなくなつたとのこと。話を戻しイメージとして後光すら射す名器に指を入れただけで恍惚の表情を浮かべながらも、目的駅に到着した好介は渋々電車を降りる。自らが指南した、誤爆させてばかりの爆弾マニア・加藤文吉(伊藤)の部屋に金の無心に転がり込むと、父親からの仕送りを届けにやつて来た文吉の妹・由佳子(園原)こそが、電車内で好介を惚れ込ませた名器の持ち主であつた。彼氏とのデートに出掛けた由佳子を、好介も追ふ。そこで好介は由佳子をストーキングする、青山トオル(真田)と出会ふ。由佳子の幼馴染だといふトオルは、由佳子の彼氏・剣崎真也(岡田)の危険を説く。金持ちの色男といふとIT社長かよ、といふステレオタイプに関しては通り過ぎる。
 百戦錬磨の痴漢師が田舎の純朴青年と手を組んで、都会の男に騙されかけたヒロインの目を覚まさうとする。といふプロット自体に全く問題は無いものの、兎にも角にもあまりにキャスティングがガタガタに貧弱で、全うな商業映画の体を為してゐない。真田幹也は弱過ぎて、伊藤太郎は酷過ぎる。川瀬陽太ではあからさまに新東宝じみて来るといふのであれば真田幹也のところは松浦祐也で、伊藤太郎のところは国沢実―えええ?―でも持つて来て貰はない分には、主演を佐野和宏が張るだけになほさら釣り合ひが取れない。御丁寧に三度も繰り返される文吉の、爆弾誤爆の件も全く興醒め。威勢よく発破を掛ける訳にも行かぬゆゑドリフの安易なパクリで済ませる点は、ドリフ自体の素晴らしさにも免じて兎も角、煙の吹き方もなつてゐない無様な模倣を三度も見せられては、仏の顔も早めに店仕舞ひしたくなつて来る。電車の中で好介を心酔させた由佳子の名器ぶりが、肝心の剣崎あるいはトオルとの濡れ場に際してはほぼ全く忘れ去られてゐる無頓着も矢張り物足りない。
 そんな中、思はぬ収穫は剣崎の愛人、兼金づるの藤田麻里役の水原香菜恵。セクシーなショートカットで、年増女優への扉をいい感じで開けた好演を見せ今後の展開に、大いなる期待が持てる。
 最終盤二度に亘り好介が観客に向かつて堂々と愚痴つてみせるのは、伝統的な痴漢電車シリーズのオフ・ビートさを踏襲でもしてみたつもりなのかも知れないが、それも致命的なキャスティングまで含めて、現代の観客にそれを酌めといふのも些かハードルの高い話ではなからうか。俳優部の本篇クレジットのみ部は、概ね車中のその他乗客要員か。

 少なくとも原題だけは、画期的にに素晴らしい。ならば北海道にまで行けとはいはないから、オープニング・ショットは電車を待つ佐野が、ホームで大映しのハイライト―これ劇中好介が吸つてゐるのは・・・・キャビンか?―の封を開ける画にでもして呉れればよかつたのに。


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 「少女の微熱 甘酸つぱい匂ひ」(2002『桜井風花 淫乱堕天使』の2005年旧作改題版/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督・脚本:森山茂雄/プロデューサー:池島ゆたか/企画協力:五代暁子/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:高田宝重・松岡誠/ダンス指導:真央はじめ/協力:小林徹哉、他/出演:桜井風花・河村栞・水原香菜恵・石河剣・山名和俊・千葉誠樹・樹かず・林由美香・神戸顕一・荒木太郎・里見瑤子・若宮弥咲・池島ゆたか、他)。女優の名前が多いので予めお断りしておくと、脱ぐのは普通に、水原香菜恵までの三人のみ。
 大学生―四年?疑問点に関しては後述する―の佐藤勇作(石川)は、そろそろ就職活動も始めないといけない時期ではありながら、これといつた目標も目的も見付けられず、学校にも行つたり行かなかつたりとモラトリアムにプラプラしてゐる。合鍵を渡してある彼女・仁科みゆき(河村)も居るが、今ではもう特段好きだといふ訳でもなく、ただ何となく付き合つてゐるだけだつた。ある夜、勇作は友人の田代(山名)と飲みに行く。田代は酒が過ぎ、すつかり足下も覚束ない。田代をどうにかおとなしく、連れて帰らうと勇作は苦心する。羽目を外しおどけた田代が、少女(桜井)にぶつかり突き飛ばしてしまふ。慌てて少女に駆け寄る勇作は、口が不自由さうな少女の可憐さに、一目で心を奪はれる。何ともない、とボディ・ランゲージで告げ、足早に立ち去らうとする少女を、勇作は目で追ふ。何時の間にか、田代のことなどまるで放たらかしである。遠目に、人を探してゐる風の少女は、ヤクザ者に写真を見せて尋ねてゐる。そのヤクザ者に連れて行かれさうになる少女を、勇作は慌てて追ひ駆ける。も、ヤクザ者・押田務(千葉)に一発でノサれ、結局少女は連れて行かれる。翌々日、就活の足しにでもならぬかと、ボンヤリ新聞を眺めてゐた勇作は仰天する、押田が殺されてゐたのだ。少女のことが改めて心配になつた勇作は、慌てて警察に向かふ。少女は、その夜を押田と過ごしただけで、事件とは全く無関係であつた。身元引受人の俊子(水原)に連れられ出て来た少女に、勇作は再び声をがける。が、面倒事を嫌ふ俊子からは、邪険に突つ撥ねられる。
 他に浜野佐知た荒木太郎、主に今作のプロデューサーを務める池島ゆたかの助監督を経て、森山茂雄のデビュー作は、何時までも少女、といふ齢でもない危なつかしい元少女女未満と、何時までも少年、といふ齢でもない更に輪をかけて心許ない元少年男未満との、ボーイ・ミーツ・ガールものである。
 少女役の桜井風花、今作は兎にも角にも主演女優に尽きる。率直なところ、かなりの線まで善戦しつつも、それでもどんなに青くとも臭くともダサいながらに、それでもそれでも今作が人の心に何かを残すものになつたとしたら、その所以は、殆ど全て桜井風花が持つて来た、とすらいつてしまへるのかも知れない。強度の吃音で、殆ど満足に日常会話もままならぬといふ人物造型。まるで卵の殻から出て来るのが早過ぎた、といつた風すら漂はせる、庇護願望をくすぐられずにはゐられない可憐さ。それでゐて、衣服を一枚脱がせてみるや、全体的にか細い肢体とは不釣合ひに乳房も尻も、十二分に大人の女のそれである。何といふか、何といへばよいのか判らないからそのままに筆を滑らせてしまへば、もう、堪らない。正味な話、一般的な起承転結でいふと転、辺りで映画が終つてしまふ脚本にも殊に、森山茂雄の初陣には至らないところや足らないところが山とあつたとしても、この役に桜井風花を持つて来れた時点で、最早少々どのやうに撮つたとて、とりあへずはどうにか成立し得るやうな思ひすらして来る。
 少女は、東京の人間ではなく、沖縄から出て来てゐたものだつた。祖母と母親との三人暮らしの少女は母の死後、母からは死んだと聞かされてゐた父親が、実は今でも生きてゐることを祖母に知らされる。少女は、東京に住むらしい父親を探しに上京して来てゐたのだ。郷里で隣に住んでゐた、俊子の下に厄介になるものの、俊子には森田(樹)といふ同居人が居た。美しい少女に森田も関心を持ち始める、何時までも置いてはおけない。少女は俊子の家から、半ば追ひ出されるかのやうに出て行かなくてはならなくなる。探偵・江戸(荒木)を尋ねた少女は、人探しの料金の思ひのほかの高さに驚かされる。アルバイトを探さうにも、言葉は不自由で、住む場所も持たない少女を雇つて呉れるところなど無い。そこで少女は街頭で踊り、金を集めようとする。
 何はともあれ今作の映画としてのピークは、この、街頭で桜井風花が日銭稼ぎにダンスをするシーン。最短距離で、青く、臭く、ダサい。だが然し、その上でなほ、決然と美しい 。何度観ても、ダンス―ダンス指導:真央はじめ―を踊り始めるところまでは映画を観てゐるだけで無性に恥づかしくなつて来るのが禁じ難く、どうにも座席の上でモジモジと、黙つて座つて観てゐられなくすらなるのだが、一度(ひとたび)桜井風花が踊り始めた途端、ハッと思はず息を呑む。心を撃ち抜かれる。劇伴も綺麗に親和し、少女の儚くも真摯な美しさが、束の間とはいへ、銀幕に永遠の支配を刻み込む。青からうと、臭からうと、ダサからうと、臆することなく森山茂雄はここぞと演出のギアを目一杯前に押し入れる。そこが素晴らしい、何遍観ても素晴らしい。青臭い愚直さがピリオドの向かう側に到達する、如何にもいい意味でのデビュー作らしいデビュー作である。

 林由美香と神戸顕一は刑事。林由美香は、少女の調書を取る女性刑事。調書を取り辛い少女に業を煮やし、戯れに漂はせる指先の演技が地味に光る。神戸顕一は、少女が取調べを受ける警察署の門番、どう呼称したらいいのか判らない。里見瑤子と若宮弥咲、更に他、は勇作同級生の皆さん。勇作が少女と一夜を過ごした次の朝、不意にみゆきが合鍵を使つて部屋に現れる。みゆきは愕然とする。「矢張り、かういふことだつたんだ・・・」、「何よ、それならさうと―他に好きな女が出来た、と―いつて呉れたら良かつたぢやない!」と、みゆきは勇作を詰る。すると何処から何処まで、徹頭徹尾いい加減な勇作は、「何だよ、さういふ義務があるのかよ」(幾ら何でもそれはないだらう・・・>森山茂雄)。「バカ!」、と部屋を飛び出したみゆきは、実はみゆきに想ひを寄せる田代を肴に、ヤケ酒をあふる。池島ゆたかは、居酒屋でのみゆきと田代の背後で、興味ありげに二人を何度も振り返つては不自然に見切れる他の客。
 言葉の不自由な少女に、勇作は庇護願望をくすぐられる。そんな勇作に、少女はたどたどしくも何度も繰り返す。「あ・・・あなたは、・・・な、何も・・・判つて、ない・・」。勇作には少女の言葉を理解出来ない、だが、全く少女のいふ通りなのである。少女には、父親を探すといふ目的があつた。踊りと、そして若く美しい女である、といふ手段もある。だが果たして、勇作には何も無かつた。少女が勇作の前から姿を消した後も、勇作はその少女の言葉を理解せずに、理解せぬままに映画は幕を閉ぢる。脚本の不備と、演出の稚拙、演技力の欠如までもが却つて、勇作といふ登場人物の不全ぶりを補完する感さへ漂ふ。これで勇作がもう少ししつかりしてゐて呉れたなら、最終的には少しでも成長してゐて呉れたならば、どうにも覚束ないまま仕舞ひの映画の足が、少しは地に着いて呉れてゐたやうな気もする。
 ラストは踊る少女の、手の甲を前に高く突き上げた右手を、顔の前にまで畳む動作のスローモーション。ストップモーションがフィニッシュ。大変美しいショットなのだが、続くクレジットが、品もセンスも欠片も無い、頂けないビデオ画面であつたりするのには如何せん興が醒める。

 もう一つ。 少女が俊子の下を去るシーン。トボトボと歩いて行く少女に続いて、通り過ぎて行く勇作と、見送りに出てゐた俊子の目が合ふ。そこで俊子は、「これで少女も―勇作が面倒を見て呉れるので―安心だ♪」とばかりにニンマリとするのだが、それも猛烈におかしくはないか?仕方のないことともいへ、追ひ出すやうな形で送り出した少女を、何処の馬の骨とも判らない男がフラフラ後をつけて行くのである。当然心配する、といふか少女を保護しようとしなくては駄目だらう。

 最後に、勇作の学年もしくは年齢に関して。劇中、少女・まりのにより、勇作はまりのと同い年の二十歳であることが語られる。とはいへ一方、ラストでは勇作の同級生がちらほら内定のひとつふたつも取つたり取らなかつたりしてゐる。勇作が通つてゐるのが短大でなければ、少々ちぐはぐではないか。


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 他所様のネタ系リンク掲示板から拾つて来たネタで恐縮ではあるが、もう十五年も前のことになるのか。内田裕也東京都知事戦政見放送の完全版である。兎にも角にも、すべからくまづは見るべし。必見、とは正にこのことである。
 カッコいい。ストレートに心が震へる。“アイ・ハブ・マイ・ジャスティス!”戦ふ裕也は、戦ひ続ける裕也は永久不滅にカッコいい。断つておく。“戦つてゐた裕也”ではない。戦ひ続ける裕也は宇宙の果てまでカッコいい。こんなにも(どんなにだ)か弱く、くたびれたりへこたれてばかりの俺ではあつても、裕也を見てゐると戦ふ勇気が沸いて来る。
 内田裕也といふ存在は私にとつて、「タクシードライバー」(1976/監督:マーティン・スコセッシ/脚本:ポール・シュレイダー)のトラヴィス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ)と同じくらゐのヒーローである。どのくらゐの存在なのだかよく判らないのだか結構伝はるのだか、一抹の疑念に関しては爽やかに通り過ぎる。だが然し、その後金持ちになつてしまつたデ・ニーロは、高級パン女やドラッグにうつつを抜かす単なるいけ好かないセレブに成り下がつてしまつた。現象論レベルではそれは確かに“成り上がつた”のだが、現象論などと勿論、ロックでは断じてない。
 それに引き換へ裕也は近年、矢沢永吉や布袋寅泰のことを“あいつらはロック貴族だ”、と痛烈に批判した。裕也は言ふ、“俺は今でも地下鉄で移動してゐる”。裕也は、十五年前苛烈に戦つてゐた内田裕也は、今でも戦つてゐる。戦ひ続ける裕也は、永久不滅にカッコいい。遠く時の輪の接するところまでカッコいい。

 かつて田恆存は思想と思想家とについて、様々な信念の網の目を潜り抜け、人はその人自身の真実に辿り着く、といふニーチェの発言を牽いた上でかう述べた。“たとへ嘘だと間違ひだと判つてゐたとしても、それを口にしてゐる当人が本気で信じてゐないやうな思想に、どうして他人が付いて来て呉れようか”(大意)。
 ジョン・レノンは、「イマジン」で国境や戦争の無い世界を歌つた。それは、他愛の無いにも程がある寝惚けた幻想である。今時田舎の中学生でも、そんなチャラけた戯言を口にしたりはしない。だが然し、寝惚けた幻想でもチャラけた戯言でも、ジョン・レノンは本気で信じてゐた。ジョン・レノンは、ロックで世界を変へられることを本気で信じてゐた。国境の無い世界も戦争の無い世界も、ロックで到来させることが実現出来ると、ジョン・レノンは真顔で信じてゐたのだ。どうかしてゐようとどんなに愚かしからうとも、本気で信じてゐたものは本気で信じてゐたのだ。だから、たとへ寝惚けた幻想でもチャラけた戯言であつても、「イマジン」は時代を超えた。ジョン・レノンは本気で信じてゐたから、未だ世界は変つてはゐないけれども、「イマジン」といふ曲は国境を超えたのだ。
 言ふまでもなく、裕也も本気で信じてゐる。ロックで世界を変へられると、絶対に信じてゐる。だから裕也の姿は、こんなにも俺達の胸を熱く打つのである。
 この政見放送の収録に当たつては、ひとつのエピソードがある。収録直前、裕也は担当者から注意を受ける。“ハチマキは(規則で)禁止されてゐます”、すると裕也は“ハチマキぢやねえ、バンダナだ!”。

 「水のないプール」(昭和57/監督:若松孝二/脚本:内田栄一/主演:裕也/チョイ役:ジュリー、他)。この映画の中で裕也は、何時でも何処でもジンジャーエールを注文する男を演じてゐる。私が最も好きなシーンは、映画館に映画を観に行つた裕也は、売店にて
 裕也:「ジンジャーエール!」
 売店のオバハン:(画面奥の自販機を指差しながら)「ジュースは自販機です」
 裕也:「ジンジャーエールはジュースぢやねえだろ、タコ !!!!!!!!
 ロックとは、戦ふとはどういふことなのか、私はこのシーンから教はつたやうな気がした。


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 「馬と後妻と令嬢」(2006/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:松原一郎/脚本:関根和美・水上晃太/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/撮影助手:中泉四十郎、他一名/効果:東京スクリーンサービス/出演:佐々木麻由子・合沢萌・瀬戸恵子・飯島大介・なかみつせいじ)。助手勢を、計四名ロストする。お馬さんに関するクレジットは特には無し。
 馬主でもある資産家の野村(飯島)健作と、妾から後妻にジョブ・チェンジした絵美子(佐々木)の下に、馬の調教師を目指し渡英中の―野村とは前妻との間の―娘・悠里(合沢)が一時帰国して来る。トコロテン式に程なく、野村は競走馬の視察の為にケンタッキーへと渡米。厩務員の石倉学(なかみつ)、家政婦の近石茜(瀬戸恵子>メイド服は不着用)との四人だけの生活の中、絵美子はジワリジワリとした、悠里の自らに向けられた悪意に慄くのであつた。
 イメージ・シーン挿入の仕方が―まるで洋ピンのやうな感覚で―雑であつたり、潔くバッサリ省かれた件などもあつたりして、決して入り組んでもゐない筈の物語はその割に判り易くはないのだが、そのやうな瑣末は速やかにさて措き、旦々舎勢(浜野佐知と山邦紀)以外ではオーピー(旧:大蔵)にしては珍しい、エクセスとタメを張る、といふかまるでエクセス映画のやうな豪腕エロエロ映画である。
 「ロリ色の誘惑 させたがり」(2005/監督:高原秀和)以来、二作目にお目にかかる合沢萌。派手目なガイコツ系のルックスは全く令嬢然とはしてゐないものの、モデル並に伸びやかな肢体と<微かに偽乳疑惑が拭ひ切れない>トランジスタグラマー美乳とを駆使し、スケール感溢れるエロスを銀幕一杯に炸裂させる。全くその件の説明はスッ飛ばされてあるのだが、悠里は何時の間にか、石倉と茜とをマゾ奴隷として調教してしまつてゐる。下着姿でノートを叩く悠里。カメラが引くと、腰掛けてゐるのは四つん這ひになつた石倉の人間椅子!勿論両方共こなせるのだが、なかみつせいじはM演技の方がより達者であるやうに、私見では見受けられる。そのまま悠里はとんでもなくダイナミックな構図で自らに浣腸すると、今度は仰向けにした顔面に直接腰を下ろし、石倉に喰らはせる。凄まじいシークエンスだ。今度は茜が洗濯籠の中から、悠里使用済みの真つ赤なパンティーを探し出す。それを被るとキャミの上から熱いシャワーを浴び、オナニーに耽る。その時点で既にヤバい―何が―のだが、そこに更に悠里が現れると、嘲笑しながら茜をこつ酷く陵辱する。一体どうしたんだ、この映画?
 ところが恐ろしいことに、斯様な狂宴もまだまだほんの序の口。悠里が急に帰国したのは、茜からの手紙で父親が財産の全てを絵美子に遺す、旨の遺言を認(したた)めてゐることを知つたからであつた。そして悠里は終に、直接的な悪意を絵美子に向ける。居間で、絵美子を浣腸する悠里。大体が、オーピー映画での浣腸ギミックの登場がそもそも珍しい。肛門には浣腸、そして女陰には淫具。絵美子は苦悶する。キャメラがパンすると、悠里は今度は石倉と二人で茜を淫ら極まりなく玩弄する。更に加速、最加速。え、ギアつてトップのその先がまだあるの?ブレーキつて何?とでもいはんばかりに松原一郎はアクセルを力一杯踏み込む。前後との繋がりは潔く無視して、藪から棒に挿入される悠里の獣姦シーン!!!!!!!!悠里はまるで人工物のやうに黒い馬の長大な陰茎に舌を這はせ、人間では有り得ないくらゐにヌラヌラの、子供の拳程はあらう亀頭を口に含む。勿論、お馬さんにボカシは掛からない。そのまま放水並の射精を口内で受ける!偉いぞ、合沢萌。見上げた根性だ。近年、ピンク映画でお馬さんがテーマの獣姦ものといへば、2001年の「馬を飼ふ人妻」(監督:下元哲/脚本:石川欣/主演:朝吹ケイト)以来。但し、この時の馬の陰茎はフェイクであつた。因みに、「馬を飼ふ人妻」にもなかみつせいじは厩務員役で出演してゐる。ラストには、全く遣り口は同一の佐々木麻由子の獣姦シーンもある。佐々木麻由子も、お馬さんの迸らせる精を口内で受ける。小娘に出来て私に出来ない訳はない、女優魂が唸りを上げる。
 特に面白いこともなければ決して素晴らしい訳でも別にないが、加減知らずの豪腕エロ映画である、必見。

 さういふエクストリームなエロエロ、エロエロエロエロエロ・・・―以下省略―映画を撮り上げた一応新人監督・松原一郎、聞かぬ名前である。一体どういふ人物なのかと調べてゐたところ、別の誰だかの変名、との未確認情報が。一体誰なのであらうか。映画自体の出来栄えからして、監督することもある下元哲であつたとしても不思議ではないのだが、勿論確証は得られない。因みに、映画を撮る際はエクセスを主戦場としてゐる下元哲であるが、その際に脚本は関根和美が越境して書いてゐたりと、決して繋がりも無い訳ではない。依然調査中である。

 以下は地元駅前ロマンでの再見に際しての付記< お馬様の一物の真偽に関して。正直些か以上に不安を覚えぬでもないこともあり、殊にその点に注目して観てみたものである。あくまでプロジェク太上映といふ限りに於いて、矢張り生物(なまもの)に見えたのだが、俺はまんまと、綺麗に騙されてゐるのかなあ・・・・?


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 「人妻妊婦の告白 蟷螂(かまきり)の契り」(2007/製作:松岡プロダクション/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:村石直人/照明:鳥越正夫/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/監督助手:藤田賢美/撮影助手:橋本彩子/照明助手:越阪部珠生/音楽:山口貴子/出演:伊藤香苗・青山えりな・小川はるみ・小林節彦・サーモン鮭山・本田唯一・吉岡睦雄)。 
 ポルノグラフィーとして、蛙腹の何処に喰ひつけばよいものやら個人的には全く理解出来ぬが、臨月間近の中井朝子(伊藤香苗/里見瑤子のアテレコ)は正真正銘臨月間際の妊婦である。経過は順調なものの、夫・喬(本田)の女性問題が、朝子の唯一の気懸りではあつた。家に遊びに来てゐた妹の篠原夏美(青山)が、何故か喬の出張の予定を知つてゐたことに、朝子は微かな猜疑心を抱く。出張と称した京都のホテルにて睦み合ふ喬と夏美の幻影を、朝子は見る。青山えりなと本田唯一の濡れ場から、そのまゝカメラが引くと居間に一人の朝子、といふカットには正当な衝撃力が溢れてもゐたのだが。
 当サイト2006年ピンク映画ナンバーワンの前作、「ド・有頂天ラブホテル 今夜も、満員御礼」で遂にど真ん中の娯楽映画を堂々モノにした、“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦の2007年は二月初頭に封切られた本作を皮切りに、五月末時点で早くも三作を量産してゐる。尤もその点は、昨年九月公開の「有頂天ラブホテル」から間が開いてゐる点も、考慮に入れなくてはならないのかも知れないが。前作から自らの名前を冠した製作プロダクションを立ち上げ、脚本も「有頂天ラブホテル」の俊英・今西守。いよいよ松岡邦彦が天下取りに乗り出したものかと、俄然大期待して小屋の敷居を跨いだものである。果たして、結論からいふと何時もの松岡邦彦であつた。逆の意味で、とまではいはないが、別の意味で健在。何時もの松岡邦彦の、何時もの無茶振り暗黒映画であつた。
 今作の現象論レベルでの終末兵器は、ガチ妊婦の伊藤香苗。最早何処から手をつけたものか、サイボーグ戦士でいふと004感覚で、あちらこちらに殺傷力の高い飛び道具を満載してゐる。見事に膨らんだ蛙腹以前に見てはならないものを見たやうな気分にさせられるのは、最早乳首も俄かには識別出来ないほどの、チョコレート・ケーキのやうなドス黒い乳輪、大きさも(火暴。首から上は首から上で、ボサボサ頭の、これ、誰に譬へたらいいのかなあ・・・・?よくいへばオバサンになつた、『早春賦』(1987/白夜書房)で一世を風靡した伝説の巨乳ロリータ・五月なみ。直截にいふと、元広島の正田耕三(現阪神打撃コーチ)か。止めを刺すのは、濡れ場にあつても終始素の目が戦慄を覚えさせる恐怖演技。エクセス主演女優を捕まへて、「一体何処からこんな女連れて来たんだ!?」といふのも最早些かならず芸に欠けるやうな気がしないでもないが、流石に松岡邦彦の仕出かすことは破壊力の桁が違ふ。
 吉岡睦雄は、定期検診に朝子が訪れた産婦人科、に忍び込んでゐたコソ泥・宮川京介。朝子の来訪に慌てた京介は咄嗟に医者になりすまし、検診と称して朝子を犯す。何時もの開業医の息子を偽り親爺は死んだだの、女陰に指を挿し込まれ快感に戸惑ふ朝子に対し、「大丈夫ですよ。これは、最新の医学ですから」。岡輝男でもあるまいに、雑な脚本である。今西守といふ人の脚本映画を観るのはこれで二作目でしかないが、このまま期待を預けてゐていいものやら如何なものやら、俄かに不安に駆られて来た。
 サーモン鮭山は、産婦人科を後にフラフラと彷徨ふ朝子が公園で遭遇する、今将に首を吊らんとしてゐた上条明夫。だ、か、ら。朝子に助けられるや否や、横領がバレて云々と自らの境遇をベラベラ喋り始めるお手軽なエクスキューズは何とかならないものか。朝子が臨月間近の妊婦であることを看て取ると驚喜に目を輝かせ、ラブホにて怒涛の幼児プレイに突入する。又この安ホテルでの、ガチ妊婦と赤ちやんサーモンの濡れ場の破壊力。魚を与へられた猫の如く吹き荒れる松岡邦彦節に、ここで覚悟を極める。普通の映画を、求めたら負けだ。上条は救はれたと、お布施として百万(推定)を朝子に残す。小林節彦は、ラブホを後に体調を崩し玄関先で行き倒れてしまつた、朝子を助ける宮川辰夫。妻には逃げられ、かつて経営してゐた町工場も失ひ、何時までもフラフラしてゐる息子の拵へた借金に頭を抱へてゐた。小川はるみは、辰夫がバイトするコンビニの店長・正木サト。辰夫はサトのバター犬扱ひで、サトに命ぜられ上へ下へと奉仕させられる。無理矢理勃たせてサトが上から跨るものの、どうにも使ひ物にならない。苦悶の果てに終に辰夫は叫ぶ、「勃たないんだよ、あんたぢや!」、「何ですつてwwwww!」。松岡邦彦縦横無尽、黒い彗星は更なる加速を見せる。
 疲れ果てた辰夫を、朝子はすき焼きで迎へる。絆される辰夫、二人は結ばれる。消耗時に伊藤香苗、通常人には正に致命傷となりかねないやうにしか思へないのだが。事が済んだタイミングで、放蕩息子が帰宅。何と辰夫の息子とは、京介であつた。とそこに、喬そつくりの借金取り(本田唯一の二役)も登場。チンコを手で隠したままの小林節彦が笑かせる修羅場を後に、朝子は上条から貰つた金を辰夫に託し帰宅する。
 導入部の再現たる、出張から戻つた喬と、何故だか再登場の夏美も交へた、土産の京豆腐を使つた湯豆腐の夕餉。あちらこちらでの波乱万丈の末に再び表面的には穏やかな日常に立ち戻つて来た、朝子のモノローグ「まるで夢みたいだけど、これホントにあつた話なんです」。と、したところで、最終松岡邦彦起動。瀧島弘義の、桃色ニューシネマの傑作たり得たことを拒み投げ放された怪作、「人妻スチュワーデス 制服昇天」(1998)の衝撃すら超える驚愕の結末へと、映画は無理からにもほどがあるハード・ランディングを炸裂させる。ここまでするか松岡邦彦、ここまでして、それでも映画が壊れてしまはない不可思議にこそ、松岡邦彦映画の醍醐味があるといふことなのかも知れないが。

 最早喜べばいいものやらどうなのかよく判らないが、松岡邦彦は少なくとも今作に触れる限り、矢張り松岡邦彦であるらしい。

 以下は再見時の付記< 辰夫がバイトするコンビニにまで、本田唯一の借金取りが取り立てにやつて来る。殆ど持ち合はせもない辰夫に対し、激昂した借金取りは下手糞な関西弁でお定まりの恫喝。「コンクリ詰めにして、東京湾に浮かべたるぞ!」。浮かべてどうするんだ、発泡スチロールかよ。
 再々見時の備忘録< モノローグ後、検診の途中で寝落ちてしまつたところを看護婦(微妙に特定不能、医師は吉岡睦雄)に起こされる


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 「ド・有頂天ラブホテル 今夜も、満員御礼」(2006/製作:松岡プロダクション/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/企画:稲山悌二/プロデューサー:秋山兼定/撮影:村石直人/照明:鳥越正夫/編集:酒井正次/助監督:伊藤一平/監督助手:橋幡康裕/撮影助手:松宮学/音楽:戎一郎/出演:葉月螢・しのざきさとみ・小川はるみ・持田さつき・矢藤あき・柳東史・石川雄也・小林節彦・吉岡睦雄・なかみつせいじ)。当サイト推奨、2006年ピンク映画暫定ナンバー・ワンである。
 「ド・有頂天ラブホテル」と来たもんだ、最早何をいふこともあるまい。加へて登場人物の役名も、園原京子(葉月)、西田寿明(柳)、松野香(持田)、三波好喜(小林)、原田幸枝(しのざき)、香川慎哉(石川)、麻生沙希(矢藤)、木島卓造(なかみつ)と来てゐる。辛うじておとなしいのは、新村房子・篤親子(小川はるみと吉岡睦雄)くらゐのものか。それにしても、西田寿明だの三波好喜だのと・・・・・松岡邦彦には怖いものがないのか!?エクセスもエクセスだ、一蓮托生、何処までも付き合ふつもりか。もうひとつついでに、教師が本職であるにも関らず、彼氏に貢ぐためにデリヘル嬢のバイトをしてゐる京子の、デリヘル嬢としての源氏名が“ユウ”。殊更に死角を作らぬか、怠りのない攻撃性には感服する。因みに「THE 有頂天ホテル」は、面白さうだなとは思ひつつも、何となくテレビドラマ臭を感じ二の足を踏んでゐる内に未見。
 とはいへ器は超攻撃的な無茶といへども、中身の方は一級品、抜群に面白い。
 一軒のラブホテル―ロケ地は歌舞伎町のこちら―を舞台に、デリヘル嬢(京子)、デリヘル嬢にカモにされる弁護士(西田)。デリヘル嬢の彼氏の地方公務員(香川)と、香川を伴ひホテル街の視察に訪れる女性市長(原田)。ラブホテルの社長(三波)とデキてゐるベッドメイク(松野)に、もう一人訳アリのベッドメイク(房子)。訳アリのベッドメイクの、ニートの息子(篤)。ラブホテルを建てた建設会社の社長(木島)と、その愛人(麻生)。以上総勢十名の個性も豊かに書き分けられた登場人物が、正しく差しつ差されつしつつ、重層的に絡み合ひながらそれぞれのドラマが目まぐるしく繰り広げられる。文字通りのグランドホテル形式の名に相応しい、六十分の尺を一息に賑々しい桃色行列が駆け抜けて行く、王道娯楽ピンクの大傑作である。
 銘々の境遇に大きな変化を生じさせる一方、皆それぞれが逞しく、且つ明るく生き抜いて行くラストはさりげなくも圧巻。脚本の出来自体ズバ抜けて優れてもゐるのであらうが、何よりも、松岡邦彦の最早自由自在な絶好調ぶりが眩しい。確かな技術で堅実な描写を積み重ねる部分と、好きなやうに羽目を外しハチャメチャをしてみせる塩梅は絶妙。当人からしてみればここはもう少し別の撮りやうがあつた、あそこを直しておけば良かつた、といふやうな部分は勿論あるのかも知れないが、映画を客席から観てゐる分には、松岡邦彦の映画監督としての翼が思ふがまゝに、力強く羽ばたいてゐる様すら看て取れる。とまでいふのは、贔屓の引き倒しであらうか。細かくは一切書かないが、房子の訳アリ具合が、娯楽映画の中で必殺の威力を発揮する展開は絶品。松岡邦彦の堅実にもハチャメチャにも、十二分に応へ得る万全なキャスト陣も最強。細瑕のひとつも見当たらぬ、正しくマスターピース。悪いことはいはぬ、必見。
 あそこが面白い、ここが面白いと書いてしまひたいのも山々ではあるが、ここは堪へる。頼むから小屋に足を運んで御覧になつて頂きたい、本当に、超絶面白いから。

 とか何とかいふておきながら、筆の根も乾かぬ内に。どうしても少しは採り上げておきたいので、付記がてら一件、一応字は伏せておく。実は色々と語弊もある、といふのは内緒である。<会社社長の木島(なかみつ)とその愛人・麻生(矢藤)が、ラブホテルを訪れる。木島の経営する会社といふのが、実はそのホテルを建てた建設会社である。入室し、戯れる二人は―耐震強度の―偽装がどうしたかうしたと、他愛もない会話を交す。何といふこともないおしやべりが、後々二重三重に巧みに活きて来る構成の妙に、ここで注目してゐる訳ではない。当サイトが注意を喚起したいのは、ここの遣り取りに垣間見えるチロチロと赤い舌を覗かせほくそ笑む、松岡邦彦のさりげない邪悪。何となれば、誰あらう、矢藤あきのオッパイこそが偽s・・・・>いや、何でもない(火暴)

 以下は再見時の付記< フィルム上映、ピンク上映館としては最大級の部類に入らうスクリーンで再見した「ド・有頂天ラブホテル」。矢張り、力強く面白い。磐石のグランドホテル形式と鮮やかなラストの大転位。ひとつひとつの台詞の充実に、繋ぎのカットすら忽せにはしない入念な演出。舞台はラブホテルだけに、矢継ぎ早に繰り出され続ける濡れ場の数々も何れもテンションが高く、娯楽映画として百点である上にピンクとしても満点、何処を取つても抜群に面白い。大蔵の後半作を中心に、未見作を多数残してはゐつつも、06年ピンク映画の暫定最高傑作に当サイトとしては推したい。スポーツ新聞(主にデイリー)の一面見出し風にいふならば、やつたぜ松岡邦彦!とでもいつた感がある。
 一箇所訂正< 製作は、クレジットにはないものの、ポスターには松岡プロダクションとある。新日本映像(エクセス母体)の公式にもPG誌の作品データにも、製作はネクストワンとなつてはゐるが。といふことは遂に。松岡邦彦が自らの名を冠したプロダクションを自前で立ち上げ、いよいよ本格的な天下取りに着手した、とでもいふことになるのであらうか。

 春に行はれた「ALWAYS 三丁目の夕日」続篇の撮影に前後して、脚本家・映画監督の三谷幸喜氏が前田有楽を取材だかロケハン(?)だかで訪問されたとのこと。ロビーにて今作のポスターを発見すると、「こんなのあるの?面白いね」と写真を撮つて帰られたさうである。・・・・と、いふことは、バレてるぞ、松岡邦彦   >エクセスも


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 「人妻学芸員 図書室の痴態で…」(2006/製作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:黒川幸則・松岡邦彦/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:秋山兼定《ネクストワン》/音楽:山口貴子/撮影:前井一作/編集:酒井正次/助監督:伊藤一平/監督助手:中川大資/撮影助手:嘉門雄太・秋吉正徳/出演:宮前レイコ・青山えりな・林田ちなみ・吉岡睦雄・吉田祐健・サーモン鮭山)。
 図書館司書・本木淑子(宮前)の嫉妬深い夫・定夫(吉岡)は、大勢の人目に触れる職場で働く妻の男関係にやきもきするが、淑子自身は一笑に付してゐた。ある日、図書館に蔵書を寄贈したいといふ岡淮一(吉田)が、淑子に声をかける。わざわざ岡が作つて来た蔵書目録に淑子が目を通してみたところ、何と蔵書は官能小説ばかりであつた。軽い眩暈にも似た欲情に我を忘れかけた淑子の股間に、岡は指を這はせて来た。淑子は慌てて拒む。その夜、淑子が汚してしまつた下着を複雑な心境で手に取つてゐると、定夫が義母・中島光代(林田)を連れ帰つて来る。光代は、派手派手しい女だつた。定夫の義母といはいへ、淑子は光代のことなどこれまで聞かされてゐなかつた。高校時代に父親が再婚して家に連れて来たものの、その父親を腹上死させた光代のことを、定夫はこれまでずつと秘密にして来たのだ。そのまま結婚したのかよ、といふツッコミに関してはひとまづさて措け。
 夜中に手洗ひに起きた淑子は、居間にて定夫と光代が激しく睦み合ふのを目撃する。何時しか、夫と義母の情交を目撃しながら淑子は自慰を始めてしまふ。淑子の視線に気付きながら、定夫と光代はなほ一層激しく燃え上がる。後に光代いはく、定夫は他人の情事を覗き見たり、他人に情事を覗き見られると異常に興奮する性癖の持ち主であるとのこと。数日後、岡が再び淑子の下を訪れて来る。本の中に、淑子が図書館で男漁りをしてゐる、とする怪文書が挿み込まれてゐたといふのだ。淑子は心労から図書館を休む。だが終に、新たな怪文書に書かれてあつた住所を辿り、岡が自宅にまでやつて来る・・・!
 “エクセスの黒い彗星”松岡邦彦は今作も、嫉妬、屈折した恋慕と欲情、倒錯あるいは恣な獣欲、秘められた性癖。エクセス本流の即物性はキッチリとクリアしつつ、様々なドス黒い情念を鮮やかにスクリーンの中に渦巻かせる。なほかつ、最終的には各々の秘められた性癖によつて、夫婦は元の鞘にシッポリと納まる。桃色の御都合主義といつてしまへば実も蓋もないが、鮮やかな手際と、役者の立ち位地ひとつ疎かにしない丹念とによつて、一筋縄に行かないと同時に、それでゐて観客を決して不快にはさせないピンクをモノにしてゐる。それは綱渡りにも似た、正しく松岡邦彦の仕事であらう。半端な作家主義が前面に現れて観客の興を殺ぐことなど決してない、誠見事なプロフェッショナルの仕事である。
 今作唯一の弱点は、淑子役の宮前レイコか。強ひて誰に似てゐるのかといふと井上貴子、要は十人並とはこのことだ、といふルックス。決して悪くはないし、かういふ女に萌える向きもそれは世の中にはなくはなからうが。ここでもう少し宮前レイコのポテンシャルが高ければ、桃色の破壊力も手中に、一層映画が強力になつてゐたでのではないかといふ余地は残す。
 光代役の林田ちなみは、殆どワン・シーンのみの出番に止(とど)まりながらも、ストーリー上重要な伏線を落として行く、流石の貫禄を誇る。青山えりなは、淑子の同僚・小川亜季。年齢的にも吉岡睦雄とつり合ふ、青山えりなが主役でも問題はなかつたやうに思へる。人妻役としては少々若いのかも知れないが、演技力には全く遜色はなからう。サーモン鮭山は、司法試験浪人幾星霜―何気に、城定秀夫超絶のデビュー作『味見したい人妻たち』とほぼ同設定―で、毎日図書館で試験勉強に励む宇佐美隆。淑子に屈折した恋慕を抱く。今作頗る好調な、ギャグ担当。ある日淑子が地下の倉庫に椅子を取りに行くと、そこでは淑子の名を呼びながら激しいオナニーに耽る全裸の宇佐美が、何てショッキングな光景なんだ。その場の勢ひで、宇佐美は淑子を犯す。翌日、同じく地下倉庫を訪れた亜季を、「何だ《淑子ではなく》ガキの方か」といひながらも、宇佐美は矢張り犯す。警察を呼ぶ、と抵抗する亜季に対し宇佐美は、「俺は弁護士を目指して勉強してるんだ、ここでは俺が法律だ!」(どんな理屈だよ!>黒川幸則か松岡邦彦)。続けて、「刑法第百七十七条、削除!」。わはははは!これは名台詞だ。因みに一応補足しておくと、刑法第百七十七条は強姦罪。なほも抵抗を続ける亜季に対し、「何ィ?死刑!」。以前は直線的な嫌悪感しか覚えなかつたが、段々とサーモン鮭山といふ役者が面白くなつて来た。結局、淑子と共に地下倉庫に下りて来た岡にボコられ、宇佐美は警察の御用となる。

 ロケ先は、画面から窺ふに学校等にある図書室ではなくして、単独で立するモノホンの図書館か。淑子や亜季がカウンター内で貸し出しに応じるシーンもあるので、生半可なゲリラ撮影ではあるまい。一体何処の有徳な図書館が、ピンク映画の撮影に貸して呉れたのであらうか。


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 「ノーパン痴母 夫を裏切る水曜日」(2006/製作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:黒川幸則・松岡邦彦/企画:稲山悌二/プロデューサー:秋山兼定/撮影:小西泰正/編集:酒井正次/音楽:戎一郎/助監督:竹洞哲也/監督助手:中川大資/撮影助手:畠山徹/撮影応援:岩田治樹/出演:桜川恋・しのざきさとみ・葉月螢・武田勝義・小林節彦・世志男・サーモン鮭山・吉田祐健・竹本泰志)。各種資料に照明担当とされる白石宏明は、本篇クレジットには見当たらず。
 寝てゐた夫の森繁文(小林)が目を覚まし、晶子(桜川)を呼ぶ声にて開巻。友人宅に茶を飲みに行くといふのに、フラメンコ・ダンサーのやうな破天荒な赤いドレスを着た嶋田さつき(しのざき)を残し、晶子は繁文に水を飲ませに行く。勤務する証券会社が倒産、慣れぬ交通整理のバイトの立ち仕事に腰を悪くし、繁文は苦しんでゐた。再び繁文を寝かしつけ、晶子はさつきの下に戻る。さつきは金の必要な晶子に、ホステスのバイトを紹介しに来てゐた。当惑する晶子を、話を聞くだけだから、とさつきは強引に誘ふ。さつきに伴はれ、晶子は面接を受けに行く。ホステスといつておきながら、仕事は実際には―本番もアリアリの―デリヘルであつた。社長の三浦彰(世志男)に面接と称してメイド服に着替へ―又、松岡邦彦が無茶をする・・・・―させられた晶子は、履歴書代りにビデオカメラを回される中、何だカンだと犯される。挙句そのまま直ぐに、晶子はかゝつて来た電話の客の所へと向かはされる。
 “エクセスの黒い彗星”松岡邦彦、撮る映画は基本的にはエクセス本流のエロエロであるものの、かといつて坂本太のやうなシンプルな、あるいはストレートな裸映画では決してなく。時に攻撃的にダークであつたり時に画期的に狂ひ抜いてみたりする、エロ本義とはいへど決して一筋縄では行かぬ作品を撮る監督である。加へて、映画作家としての基本的なポテンシャルは決して低くない。
 今回、松岡邦彦の邪悪な破壊力が炸裂するのは中盤。客とセックスする晶子の絡みに、交通整理をしながらいふことを聞かぬ腰に苦しむ繁文の姿が交互にインサートされる。
 客とセックスする晶子。
 車を誘導しながら痛む腰に手を当て、苦痛に顔を歪める繁文。
 客とセックスする晶子。
 繁文の腰はますます悪くなつて来る。
 客とセックスする晶子。
 腰の状態は更に悪化。繁文は殆ど立つてゐられない。
 客とセックスする晶子@アンアン大悦び
 終にうづくまり、苦悶する繁文。
 頼むから客層を鑑みて呉れよ、俺達を地獄の底にまで叩き落とすつもりか   >松岡邦彦
 さつきが晶子を三浦のデリヘルに連れて行つたのは、実はお高くとまり快く思つてゐなかつた晶子を、陥れる為であつた。さつきが晶子に反感を抱くきつかけといふのが、さつきのド派手なノースリーブで花柄のワンピースを、晶子が「羨ましいわ、そんなヒッピーみたいな格好が出来て」と言葉が足らぬ褒め方をしたエピソードといふ辺りにも、松岡邦彦の洗練されたフォースの暗黒面が垣間見える。
 金髪の葉月螢@は、晶子の―義理の―息子・文也(武田)がアルバイトする運送会社の事務員・太田美奈、シングルマザーといふ設定である。ただ、その息子が高校生といふのは、流石に無理がないか?吉田祐健と竹本泰志は、ヘッドハンターズ、もとい晶子を買ふ客AとB。男優ながらに、多彩さ、といふ面で濡れ場に彩を添へる。サーモン鮭山は文也の、ヤル気のない同僚・高木哲。高木も晶子を買ふ返す刀で、文也が想ひを寄せる美奈をオトしてもゐる。一体どのやうな世界観の下でならば、武田勝義よりもサーモン鮭山の方がモテるのかはまるで判らないが。ショックを受けた文也が、高木から以前貰つてゐたチラシのデリヘルに電話すると、やつて来たのは勿論晶子。当然のやうに互ひに当惑して気まずい雰囲気になる二人ではあるが、開き直つたかキレたのか、淫乱女に変貌した晶子が半ば強チンするやうな形で文也に跨るのがフィニッシュの一戦。

 デリヘルの仕事をするのは毎水曜日といふのは兎も角、晶子がノーパンであるといふ描写は―客Aにプレイ最中に強ひられる以外―基本的にはない。ならばいつそのこと、取つて付けられたやうな義母設定に特化したタイトルであつた方が、より適切であつたやうな気もする。例によつて今時の熟女AV女優であらう桜川恋のルックスは、譬へていふと能面とガイコツとを足して二で割つた感じ。全く伝はつてをらぬやも知れないが、実際見て貰へたなら御理解頂けようか。といつて、どうしても観ておかないと困る映画でも特にはないのだが(実も蓋もない)。ただ濡れ場に入ると、喘ぎ顔は途端に素晴らしくいやらしく変貌する、そこは素晴らしい。
 何故か何時の間にかすつかり腰が良くなり元気になつた繁文を、晶子が送り出して映画は終る。いけ図々しいにも程があるやうな気もしないではないが、これはこれで、娯楽映画としての全うな着地点を摸索した松岡邦彦の良心と捉へたい、更にもう一オチまで含めて。


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 「親友の恥母 -さかり下半身-」(2004/製作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:黒川幸則・松岡邦彦/企画:稲山悌二/プロデューサー:秋山兼定《ネクストワン》/音楽:戎一郎/撮影:村石直人/照明:鳥越正夫/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:菅沼隆/監督助手:小泉剛・伊藤一平/撮影助手:清水康宏/照明助手:永田英則/スチール:高橋ヒロカズ/現像:東映ラボテック/協力:堀禎一・永井卓爾・古館勝義・渋谷晋一・外山拓/出演:平田洸帆・谷川彩・酒井あずさ・拓植亮二・高橋剛)。
 石油会社に勤める夫(一切登場せず)の海外赴任中に、大学生の息子の友人と関係を持つ妻、あるいは母の物語ではあるのだが。兎にも角にも、強力に狂つた、狂ひ抜いた一作。映画としての値打ちが正方向には殆どないが、残すインパクトの絶対値だけは無闇に大きい、途方もなく大きい、“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦渾身の無茶振りがこゝにある。
 開巻から、早速映画の底は抜ける。これ、ロケ先は何処の大学だ?胸の形もクッキリ浮かび上がらせるTシャツにキャップ、そしてサングラスといふ、見るからアレな扮装の水野涼子(平田)が、息子・渉(高橋)とキャンパスにたむろする野原駿介(拓植)に熱つぽい視線を注ぐ。渉と二人だけの夕食、涼子は駿介を家に誘ふやう不自然な遣り取りで執拗に促す。既にこの時点で、涼子の欲情にネットリ潤んだ、上目遣ひの目線の箍は外れてゐる。頑なに、息子は母の邪淫には気づかないのだが。どうでもよかないが、そもそも何でまた涼子が駿介をロック・オンしたのかは特にも何も全く描かれず、どう見ても、エテ顔の拓植亮二より高橋剛の方が男前であるのもあり、その後の展開を観てゐても爽やかに理解出来ない。が、そのやうな瑣末な疑問はそもそも初めから問題ではないことに、この後間もなく直面させられる。
 涼子の思惑がまんまと劇中を支配し、渉が駿介を水野家に連れて来る。頃合を見計らひ、涼子はシャワーを浴びてゐる。駿介を家に上げると、部屋を片付けて来る、と渉は一旦姿を消す。駿介が家の中をウロウロしてゐたところ、居間の姿見の右上隅には―何故か―ベットの上で扇情的に横たはる涼子のヌード写真が   >何だこりや!?
 鏡の中で駿介は目を丸くする、そりやさうだ。カメラがパンすると、そこには風呂上りで裸の涼子が。当然慌てる駿介に対し、涼子は恥らふ素振りを見せながらも、しつかりと乳首を、隠すのではなく隠さない。アナーキーなエロチシズムが狂ひ咲く、といふか咲く咲かぬはひとまづさて措き、とりあへず狂つてゐる。息子の友人と関係を持つ母親の物語、ともいふとまあ大概は背徳的な、湿つぽいメロドラマ調と相場は決まつてゐさうな気もしなくはないが、今作の何が凄いのかといふと、傍目には単なる色情狂に過ぎない涼子が、駿介を一直線かつ一方的に攻めて攻めて攻め倒す点にある。渉はTVゲームに夢中、駿介はソファーで雑誌をパラパラ捲る。そこに“下半身のさかつた恥母”といふ、これほどまでに公開題を体現したヒロインといふのも滅多に見た覚えはない涼子登場。渉はゲームの最中にあるのを見越して、PCの調子が悪いので見て呉れと駿介を誘ひ出す。流れはジャストに涼子の思ふ壷、PCを触る駿介の背後から、グイグイグイグイ、グ~イグイとオッパイを押しつける涼子の目は既に欲情に潤み、まばたきの回数は痙攣でもしてゐるかのやうに尋常ではない。そ、し、て。「暑いはあ、《駿介クンも上着を》脱いでしまひなさいよ」と、ブラウスのボタンをひとつづつ外し始める。
 キタ━━━( ゜∀゜)━━━!! 松岡邦彦キタ━━━( ゜∀゜)━━━!!
 「暑いはあ」、とかブラウスのボタンを外しながら若い男を誘惑する熟女!
 いやあもう、ピンク映画はかうでないとイカン!嘘だ。全体、松岡邦彦は何がやりたかつたのか。涼子がヤリたくてヤリたくて仕方ない節だけならば看て取れはするものの。駿介をすつかり篭絡した涼子が延々とヤリ倒すに終始する中盤以降は、序盤の何が何だか判らないまゝにそれでも半端ではなかつた迫力は失はれ、只々映画は濡れ場ばかりが惰性で流れて過ぎ行く感が否めなくもないものの、それにつけても何はともあれ狂ひ抜いた問題作。勿論、必見、だなどと天に唾吐くやうな戯言は筆が裂けたとて申さぬ。

 何処かで観たやうな気もしつつ、クレジットに接するまで思ひ出せなかつた谷川彩は、駿介の彼女?でフェミ学生―フェミニンな、ではなくフェミニズムにかぶれた、の意―の林美保。何ゆゑ思ひ出せなかつたのかといふと、この娘は一体何㎏太つたのだ。酒井あずさは、理容師である駿介の母・美佳。因みに床屋の屋号は、苗字は野原なのに「BARBER タナカ」。話戻して美佳がメガネ着用、キャー☆ >黙れ 酒井あずさが、ガッチガチでメガネが似合ふ。何も起こらなかつた箱根での商店街慰安旅行から帰り、店を訪れた渉とノルマごなしのセックスする一戦を帰宅した駿介の白日夢で処理する確信犯的な姿勢は、三番手投入のタイミングが一見失した遅きを、スレッスレの荒業で切り抜ける。


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 「大阪のエロ奥さん 昼間からよばひ」(2004/製作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:金田敬/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:秋山兼定《ネクストワン》/撮影:村石直人/照明:倭武田純/編集:鵜飼邦彦/録音:シネキャビン/助監督:竹洞哲也/撮影助手:中澤正行/照明助手:佐々木貴文/音楽:戎一郎/スチール:宮沢豪/監督助手:絹張寛征/出演:桜月舞・鏡麗子・相沢知美・柳東史・金田敬・兵頭未来洋・吉岡睦雄・岡下以蔵・岡村カンセイ・吉田祐健)。現像が抜けてゐるのは、本篇クレジットまゝ。
 “エクセスの黒い彗星”松岡邦彦が、今回も相変らず無茶をする、途轍もない無茶をする。全く、メインストリームでは誰も観ちやをらんだらう、などと思ひやがつて・・・・今作観戦に於いて一にも二にもまづ押さへておかなければならないのは、作品内―兼撮影時?―の時制が2003年初秋であるといふ点である。
 優しい夫・原(柳)と幸せな日々を送る平凡な主婦の真弓(桜月)は、十八年前の昭和60年、狂乱の宴の中にあつた。大阪生まれの大阪育ち、熱狂的な阪神タイガースファンである真弓は、タイガースが二十一年ぶりのセ・リーグ優勝とそれに引き続いての日本シリーズで西武を破り日本一に輝いたその夜、阪神の優勝メンバー全員とセックスする、と選手と同姓同名の―真弓以外八人の―男達を探し歩き、一晩の内に歓喜の乱交を繰り広げたのだ。当時真弓は未だ処女であつたが、悪友の夏子(鏡)に唆(そゝのか)され、破天荒な処女捨てゲームに興じたものだつた。
 タイガースが十八年ぶりのリーグ優勝を目前に控へたある日、真弓に夏子から久方振りの連絡が入る。今は夫と別の街で暮らす真弓に対して、大阪に出て来て一緒に阪神の優勝を喜び合はないか、そして、大阪に出て来たら星○監督とセクロスさせてやる、といふのである。劇中では、伏字、言ひ換への類は一切用ゐられない。今作では珍しく、エクセスのカンパニーロゴに続いて“この映画はフィクションであり~云々”といふ断り書きが入る。確かにフィクションには違ひないが、その上で今作ほどこの文句が空々しく、右から明後日へと流れて行く映画といふのも滅多にはなからう。
 夏子からの連絡を受け、優しくも淡白な原に贅沢な不満を抱かぬでもなかつた真弓はフラフラと、まるで何かに憑りつかれたかのやうに着の身着のまゝ大阪に向かふ。
 一応、ラストには脚本の正しいリードにより途中から読めてしまふ、意外な結末といふものも用意されてはゐる。とはいへ兎にも角にも実在するプロ野球チームの監督に抱かれに、平凡な日々を送つてはゐたがすつかり我を失つた主婦がフラフラと大阪の街に赴き、彼の地でめくるめく官能の渦に巻き込まれて行く、といふプロットがハッチャメチャ。自由気儘にも限度がある、金田敬も思ひ切つた、思ひ切り過ぎた脚本を書いたものだ。挙句に羽目を外しついでに、何と濡れ場の恩恵にすら与つてのける。本作に於いては、十八年ぶりの阪神優勝!の熱狂に街丸ごと脳をすつかりヤラれたのか、登場人物は兎にも角にもフリーダムな色情狂揃ひなのだが、夏子が行きずりで咥へ込む昼間から泥酔した虎キチ役で、金田敬が平然と登場。脚本家自身が堂々とガチの濡れ場をこなすといふのも、岡輝男(=丘尚輝)か夏季忍(=久須美欽一)以外ではさうさうないやうにも思はれる。五代暁子は劇中に出て来るだけならば国沢実と同様、まるでデフォルトの如く出て来るが、脱ぎはしないし>脱がなくていいし

 配役残り相沢知美は、夏子のスナックで働く庄子。一応注釈を入れておくと、今年引退した新庄選手から取つてゐる。兵頭未来洋は、真弓が夏子のスナックを訪れた際、いきなり庄子とセックスしてゐる同じく従業員のおさむ。言ふまでもなく、新庄の背番号5を引き継いだ濱中治―当時の登録名は濱中おさむ―から取つてゐる。吉田祐健は、夏子のパトロンで印刷工場を営む川上。名は体を表し、ガッチガチのG党。大阪といふいはば敵地で巨人ファンを貫くに当たり、色々と屈折してゐる。夏子のスナックにも阪神の選手と同じ名前の従業員ばかり揃へ、とことん搾取するつもりでゐる。さういふ登場人物の屈折、あるいは歪曲ぶりが如何にも松岡邦彦の松岡邦彦たる所以でもある。吉岡睦雄・岡下以蔵・岡村カンセイは、十八年前に真弓が男子公衆便所で三人同時に抱かれた当時の最強クリーンナップ。吉岡睦雄が掛布であるのは特定出来るも、岡下以蔵と岡村カンセイはそもそも特定出来ないので、どちらが岡田でどちらがバース、は見付からなかつたためランディといふホスト、なのかは不明。
 クライマックスは、トラッキーのユニフォーム、タイガーマスクの被り物に阪神帽の謎の男と真弓との濡れ場。勿論ここでの真弓は、謎の男は憧れの○野監督だと思い込んでゐる、もう無茶苦茶である。松岡邦彦も兎も角、エクセスも全くいい度胸をしてゐたものだ。


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 「菊池エリ 美乳の喘ぎ」(昭和61/製作・配給:新東宝映画/監督:細山智明/脚本:鴎街人/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/音楽:浦島計画/主題歌:秋山未来『かき消せないBROKEN HERAT』/出演:菊池エリ・橋本杏子・藤村真実・秋山未来・中村京子・松田知美・田代葉子・池島ゆたか・杉本健一・森田豊・平地宏士・松本裕治・中野D児・ドクター南雲・江崎哲朗・おじじ・津田まさごろ)。脚本の鴎街人は、細山智明自身のペンネーム。
 友人・百合子(多分橋本杏子)の紹介で、エリ(菊池)は個人マネージャーの影田(池島ゆたか>当たり前だが恐ろしく若い!)を紹介され、ヌードモデルの道に入る。抜群のプロポーションと素直な性格とで、AVにも出たエリが忽ち人気者になるのと同時に、情の多い影田は、次第に何時しかエリに想ひを寄せるやうになる。ところがそんなある日、影田は宅急便配達を装つたポリス(ドクター南雲)のお世話に。容疑は児童福祉法違反、影田が抱へてゐたモデルの一人が、年齢を偽つてゐたのだ。挙句にその娘はおクスリにも手を出してゐたため、影田は一時拘留される羽目に。その間に影田が抱へてゐたモデルは全て、フリーになるか余所の事務所に移つて行く。エリも、かつてフリーになる前に影田が身を置いてゐたプロダクションの所属になる。その後、影田が娑婆に戻つて来たことを耳にしたエリは、不義理を果たした形になつたことを気に病む。ガード下の人生相談屋(津田)の勧めに従ひ、エリは影田の家に詫びに行く。そんなエリを、影田は許す。
 ええと、仕方がないので―何が仕方がないのだ?―最後まで来てしまつたが、この映画、要はそれだけの物語である。これは決して、腐してゐる訳ではない。観終つてから気がついたのだが、写真を撮影する件での裸や、同じくAVの撮影現場での絡みはあるものの、エリがプライベートでセックスをするシークエンスといふのがない。ラスト・シーン、影田がエリを許した後に、二人が結ばれるクライマックスといふのが設けられてあつて然るべきかとも思はれつつ、単に尺の都合であるだけやも知れぬが、それもない。ただそれも、映画にいい余裕、あるいは余韻を残す効果になつてゐると思はれる。といふか、幾ら何でも、尺に負けて主演女優の締めの濡れ場を端折るなどといふことがあるものか。ここは矢張り、細山智明は意図的にエリのリアル情交は描かない選択を下したに違ひあるまい。
 細山智明といふ人はjmdbによるとここ十年は、少なくとも同じ名義では仕事をしてゐないやうなので、どういふ監督なのかサッパリ判らないが、あちらこちらでロケを張り、同じ部屋も調度品を全く変へ巧みに別の部屋に見せかけてみたりと―バレてゐるぢやないか、といふツッコミは禁止だ―どうといふこともないストーリーを丁寧に撮り上げてゐる。時に妙に弾ける演出にも、真心が込められる。黙つて観てゐる分には紡がれる映画に酔はされて、お話自体は実は何といふこともないことを、コロッと忘れさせられてしまふくらゐである。それは、観客が映画にいい意味で騙されるといふことであらう。言葉は悪いのかも知れないが、細山智明の勝ちである。今はどうしてをられるのやら全く判らないが、復活して貰へないものか。

 意図的に話を前後させたのだが、「菊池エリ 美乳の喘ぎ」といふのは、実は昨年(2004年)の八月に改題されたものである。旧題は、

 「菊池エリ 巨乳」。

 わはははは!な、何とストレートで最短距離なタイトルなのだ。「ゴジラ 怪獣」や、「ジェット・リー 少林寺拳法」、といつてゐるのと全く同じレベルである。レス・ザン・ゼロな作為が、グルッと回つて天才の領域にまで達した例といへよう。


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