真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「悶絶 ほとばしる愛欲」(2006/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vパラダイス/監督:榎本敏郎/脚本:佐藤稔/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・臼井一郎/撮影:前井一作/編集:酒井正次/音楽:鈴木治行/助監督:永井卓爾/出演:麻田真夕・水原香菜恵・華沢レモン・青山えりな・しのざきさとみ・佐々木麻由子・伊藤清美・吉岡睦雄・下元史朗・中村方隆・伊藤猛・金田敬・川瀬陽太・佐野和宏、他)。
 第3回ピンク映画シナリオ募集準入選作品の映画化、とのこと。因みに第2回入選作は、「SEXマシン 卑猥な季節」(2005/監督:田尻裕司)。矢張り箸にも棒にもかからないことに関しては、ここでいつてしまつては実も蓋もない。
 芸がないにもほどがありもするが、今回は、今作の逐一を概ね一通りざつとなぞつてみることとする。さうすることが伝へんとする意を尽くすに最も適当と考へるものであるからである、といふか寒くてあれこれ工夫を凝らすのが億劫だから、といふのは触れてはならない内緒である。まづそのことを、最初に一言お断り申し上げる。
 夏の東京、会社員の千代原六(吉岡)がくたびれた顔で安アパートに帰宅する。ポストの自分の名前の下には、消された三七子といふ名前が(こんな感じ<三七子)、クーラーで一息つく。佐々木麻由子と金田敬が女将と大将の馴染みの居酒屋「富久」で、六はシュクさん(下元)、遅れて現れたシュクさんの年の離れた彼女・中村博美(華沢)と酒を呑む。会話の中で、六を捨て穴田(佐野)の下へと走つた堂前三七子(麻田)は、結局穴田が女房とヨリを戻してしまつた為、穴田とも別れたのだといふ。その後の、三七子の消息は知れなかつた。ここで早速明らかになる今作の特徴は、登場人物の誰と誰が付き合ふだの、別れただの、どうしたかうしたといつた人物設定が、七、八分目くらゐでも十分に伝へられさうなものを、十にも十一にも懇切丁寧に台詞と尺とを費やして一々語られる点。佐藤稔といふ人は、ピンクの観客は余程の馬鹿だと思つてゐるらしい。その癖、後に所々で出て来る何かを極めたいらしい思はせ振りな決め台詞は、説明が足りないのか根本的に仕方を間違へたのか、何がいひたいのだかサッパリ判らない。
 三七子が馬自体から好きで、強くもないのに何時も馬券を買つてゐたニコミホッピーといふ競走馬が、二月のレース以来久し振りに勝つてゐた。六は、ホテトル嬢(青山)を買ふ。初め美奈子と名乗つてゐた女は、本名は幸子であつた。ここでの青山えりなは、もうとんでもなく可愛らしくて素晴らしい。濡れ場要員の至高として、2006年度の助演女優賞―何の?―の最強候補である。
 六は道端の弾き語り(川瀬)の歌に耳を傾ける。男の意地による別れ、を歌つた曲に触発され、たのか?六は三七子の郷里を訪れてみることにする。ここの前後がどうしても繋がらない、やうな気がするのは気の所為か。男の意地による別れを歌つた歌と、姿を消した昔の女を田舎にまで訪ねて行く男、どう受け取つてもシーンの前と後ろとがちぐはぐではなからうか。
 六は田舎駅に降り立つ。駅員・小林(伊藤)に尋ねてみたところ、かつて乗つたこともあるバスは廃止されてゐた、ことは後に例によつて会話の中で語られることで、このカット自体は甚だ説明不足。どうにも榎本敏郎の映画には、少し気を許すと直ぐに脇の甘い部分が散見される。
 どうにか三七子の自宅に辿り着くが、誰も居ないやうだ。そこに車で現れた三七子の友人・山本恵美(水原)から、六は三七子が四日前に事故で死んだことを聞かされる。恵美の車で、二人は三七子の両親を探す、事故現場には居なかつた。六も一度皆でバーベキューをしたこともある、三七子の父・善太郎(中村)が開いたキャンプ場へと向かつてみると、善太郎は妻、即ち三七子の母・町子(しのざき)とダンスを踊つてゐた。又素人脚本家、といふか国映が仕出かしたのかと思つた。社交ダンスが趣味の善太郎と町子は、三七子がニコミホッピーで当てた金で買つて呉れた衣装を着て、踊つてゐたのだ。ギリギリセーフといふところか、セーフなのか?その木に接いだ竹は。
 一同は堂前家に戻り、線香をあげる。恵美がいい写真、と褒める三七子の遺影は、光が当てられキチンとは映されない。寿司でも取らうかといふ両親の誘ひを断り、六と恵美は善太郎から土産の西瓜を受け取りつつ堂前家を早々に立ち去る。取り残された形の善太郎がフと気付くと、六は三七子の遺影にニコミホッピーの馬券を捧げてゐた。
 恵美のスナックで、沢庵をつまみに六と恵美はビールを飲む。とそこに、店は休みなのに小林が訪れる。小林は、恵美の別れた夫であつた。恵美は、三七子の両親を探す途中で家には立ち寄るものの渡しそびれた、別れた旦那の両親に世話して貰つてゐる息子の為に買つて来た花火を、小林に託す。六と恵美はセックスする、どうでもよかないが、途中シュクさんと博美の濡れ場を申し訳程度に挿みつつも、六が電車に乗つてからここまでの、色気もなければ特段面白くもない件が延々長い長い。個人的には感想を書くつもりで決死の覚悟で観てゐたものであるから、不思議なことに寝落ちることもなく辿り着けたものではあるが、普通にピンクを観てゐるやうな、あるいはより直截には特段観てなどゐないやうな観客は、とつくの昔に撃沈してしまつてゐようと思ふ。
 次の朝、六が恵美のスナックを後にすると、そこには仁王立ちの小林が立つてゐた、六は逃げるやうに立ち去る。ここでの伊藤猛は凄まじく怖く、どうなることやらと嫌な期待をしてゐると、恵美が元夫の尺八を吹きながら―過去に恵美が作つた―浴衣が体に入らなくなつた息子の為に、新しい浴衣を作つて呉れないかといふ小林に、「浴衣なんて、何時でも作れるんだけどね・・・」と、何を比喩してゐるつもりなのだかまるで伝はらない決め台詞を極める、決まつてはゐないのだが。ここでの恵美と小林との絡みは、唐突といへば唐突。
 六は東京に戻り、今度は伊藤清美が女将の銀河系ではなく居酒屋で、ニコミホッパーのレースをTV中継で見る。店には、穴田も居た。二枠のニコミホッパーは、いいところまで行くものの騎手が落馬して負ける。ニコミホッパーを買つてゐた穴田は、普段は何時でもどんなレースでも買つてゐる三七枠を、この時は買つてゐなかつた。六は西瓜も捨て去るやうに残し、店を走り後にする。六の残した西瓜が、浅草の街に転がる。六は、仙台に転勤することになる。三七子が買つたものであるエアコンを、六はシュクさんに譲り渡す。シュクさんが博美と外したエアコンを、悪戦苦闘しながら運んで行く姿がラスト・シーンである。

 何が解せないといつて今作に於いて最も激しく疑問なのは。かういふことをいふと元も子もない難癖を映画につけてもゐるやうではあるが、そもそも、三七子が死んでゐなければならない、少なくとも作劇上の必然性が必ずしもあるのか、といふ点である。六が姿を消した三七子を郷里へと訪ねてみたところ、あへてかういふいひ方をすると偶々三七子は死んでゐた。ただそのことは、六が黙して語りもしないゆゑ、東京の人間は穴田も、シュクさんも、誰も知らない。シュクさんは、東京を離れる六に、三七子を見かけたら伝へておくからと、六の仙台の住所を尋ねる。別にそれで、何ら問題もないのではないか。三七子は誰にも行く先も告げずに、何処かに姿を消した。又何時か戻つて来るかも知れないし、もう戻つては来ないかも知れない、それで何故構はぬのかといふ気が強くする。三七子の郷里での、殆ど面白くもない割には意味もさして感じられぬ、その癖に延々とした一連の為だけに、単にさういふ筋書きなので、三七子には死んで貰ひました、さういふ方便しか感じられないのである。それは、怪獣映画に怪獣が出て来るのとは訳が違ふ。
 そこで更に何が最も問題なのかといふと、その為、一応濡れ場もあることはあるのだが、三七子が、即ち麻田真夕が何度かある細切れの回想シーンにしか銀幕上に登場しないのだ。三七子の名前だけならば、劇中の会話の中に頻繁に現れるものの。総尺としては、五分にも満たないであらう。尺の長さだけの単純評価ならば水原香菜恵が、ピンクとしての濡れ場のヒット・ポイントも考慮すれば、華沢レモンが主役のやうなものである。暴論覚悟で敢ていひ切つてしまふと、榎本敏郎の映画なんて、傑作「痴漢電車 さはつてビックリ!」(2001)、良作「人妻出会ひ系サイト 夫の知らない妻の性癖」(2002/脚本は共に河本晃)を除いては、要は出来不出来は最早さて措き、とりあへず麻田真夕が普通に撮られてあればそれでひとまづはオッケー♪な部分も多分にあるといふのに。といつたところで、麻田真夕との出会ひ以降、榎本敏郎の前二作以外の映画といへば一本きりしかないのだが。ともあれ、最強の飛び道具を失つてしまつては、殆どそこで万事は休する。それでゐて、東京に戻つて来てからの六の描写で、六が再び川瀬陽太の弾き語りを聴きに行くやうな無駄な一幕を欠かさない辺りが、榎本敏郎ならではといへば榎本敏郎ならではでもある。
 キチンとは映されない三七子の遺影も、初めからいい写真なんぞ撮れてはゐなかつたのだ、としか、この際には思へない。


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 「姉妹 淫乱な密戯」(2006/製作・配給:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vパラダイス/監督:榎本敏郎/脚本:井土紀州/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・臼井一郎/音楽:鈴木治行/撮影:前井一作/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/特殊メイク:征矢杏子・SAPA/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/監督助手:菊地健雄・福本明日香/応援:田山雅也・広瀬寛巳・大西裕・伊藤一平・堀禎一/撮影助手:嘉門雄太・秋吉正徳・秋吉正彦/協力:大野敦子・辻村麻耶・長縄健士・西村映像事務所/出演:麻田真夕・千川彩菜・佐々木麻由子・川瀬陽太・佐藤幹雄・千葉尚之・先崎洋二・吉岡睦雄・あ子・小林節彦・朝生賀子・蟻正恭子・海野敦・熊谷睦子・桑原三知子・佐々木しほ・佐々木靖之・関麗衣子・田中深雪・千浦僚・西田直子・原田健太郎・松島誠・森元修一・山城由貴・吉田良子)。あと永井卓爾の次にスチール:元永斉
 フと思ひだせば榎本敏郎の新作といふと、「人妻出会ひ系サイト 夫の知らない妻の性癖」(2002/脚本:河本晃/主演:麻田真夕・川瀬陽太)以来か、また随分と間が空いたものだ。公開前から観たい、観たいと思つてゐた一作なので、何とか滑り込みで観られて良かつた。
 山間の原つぱに、三人の女が立つ。背中を向けた画面左から田島靖子(麻田)と木下静香(千川彩菜/ex.谷川彩)に、靖子の姉の光代(佐々木)。夜の首都高、車を運転するのは靖子で助手席には光代、静香は後部座席に。靖子はどうにも、機嫌が悪い。ホストクラブ、光代と静香はホストと楽しさうに興じてゐるが、靖子だけはどうにもその場に溶け込めずに、憮然としてゐる。靖子は働いてゐた喫茶店は辞め、半年前に夫(一切登場せず)を喪つた光代の、移動ブティックの仕事を手伝ふことになる。移動ブティックとは、実際にさういふ業態があるのかどうかは寡聞にして知らないが、車に洋服を積み、田舎の団地や老人ホームを回つて売り歩くとかいふ商売である。実際行(おこな)つてゐる現場の画面(ゑづら)は、まんまフリマであるとでもいへば、どういつたものか大まかなイメージも伝はるであらうか。光代には、ゆくゆくは移動販売でなく店舗を持つといふ夢があつた。人手がもう一人欲しかつたのもあり、靖子は喫茶店で同僚の静香を誘ふ。自らに向けられる靖子の常ならぬ熱い視線に、静香は未だ気づいてはゐなかつた。三人で移動ブティックの仕事をするやうになつて数日、静香は連絡も入れずに休む。心配になつた靖子は、その夜静香の家を訪れてみる。静香は殴られた顔をして出て来た、同居する恋人・アツシ(吉岡)に殴られたとのこと。途端に血色を変へた靖子が、アツシに筋を通すつもりで居場所を尋ねると、青ざめた静香は黙つて浴室を指差す。浴室では、シャワーの前で全裸のアツシが頭から血を流し絶命してゐた。カッとなつた静香が後ろから灰皿で思ひ切り殴つてみたところ、死んでしまつたといふのだ。靖子はひとまづ、静香を家に連れ帰る。部屋がないゆゑ、靖子と静香は同じ部屋で寝る。レズビアンであつた靖子は、前々から想ひを寄せてゐた静香を抱く。求められるまゝに、静香も勢ひで抱かれる。
 脚本から悪いのか演出のミスなのかは判らないが、今作最大の難点は靖子が真性のビアンであるといふ設定を、初めにキチンと説明しておいて呉れない点。そのため、その後の主要な展開が全て済し崩される感は否めない。それは、さて措き。話は反れるが、少々ここで自己紹介をさせて頂く。小生ドロップアウトは、無茶苦茶をいふやうだが、時に生きてゐる人間を見てゐるだけで無性に腹が立つ。さういふ、心を歪めるにもほどがある社会不適応者である。死体ならば可、といふ訳でもないが。人間といふ生き物だけでなく、今既にあるこの世界も大嫌ひである。であるからして、それは笑顔が魅力的でない訳もなからうが、美しい女の、詰まらなさうであつたり不機嫌さうにしてゐる顔が大好きである、今時の言葉でいへば萌える。それはもう、全力で萌える、マッハの強さで萌える。
 半年前に夫を喪つたばかりの光代は、独り身の寂しさや仕事のストレスから、ホストのタツヤ(川瀬)に入れ込んでゐた。夫の遺した保険金も含め、ブティック開業資金の筈である貯金もホストに貢ぎ、靖子はそのことに腹を立てる。諍ふ姉妹は光代の提案で、機嫌直しに三人でホストクラブへ遊びに行く。迸る、それはどうなのよ感。これが、冒頭の首都高からの二幕に繋がる。カッコいいホストのコウジ(佐藤)に言ひ寄られると、元来ストレートの静香は悪い気はせず、すつかり楽しさうに遊んでゐる。そんな静香の姿を見て、靖子は火に油を注がれ腹を立てる。腹立たし過ぎて、傷付くゝらゐに腹を立てる。そんな麻田真夕様のお姿を見てゐるだけで、この映画は百点だ。ほかの何かがあるに越したことはないのかも知れないが、今は最早どうでもいい。
 何だかんだありつつも、アツシの死体を三人で始末する破目になる。これが開巻の山間のショットに繋がるのは、この際説明の要もあるまい。すつかり始末も終つた後、結局静香は自首すると言ひ出し、靖子は取り乱す。自首しなくとも罪を償ふ方法はある筈だ、矢張り男の人がいいといふのなら、時々ならホストに遊びに行つてもいいから!取り乱す麻田真夕様のお姿を見てゐるだけで、この映画は千点だ   >もう黙れ
 麻田真夕の熱演もあつてか、ここで偶さか求心力が取り戻される、とも束の間思ひかけたが問題はここから。静香は、“青に争ふ”と書いて静香。靖子ちやんは、“青が立つ”と書いて靖子。なので、「名前に青が付く人とは、争ふことになるんだよ」。靖子は「何それ、訳が判んないよ!」、本当に訳が判らない、全く無駄な台詞にさうゐない。榎本敏郎も、要らないものは潔く省くべきだ。

 千葉尚之と先崎洋二は、それぞれホストのサトシとシンヤ。小林節彦は靖子らが駐車場で洋服を売つてゐる側で、空き巣事件の聞き込みをする刑事、他に巡査(不明)を連れてゐる。それを見た、アツシを殺してゐた静香が身を固くする。あ子は移動ブティックの客、その他客要員に結構多数。その中に、西田直子が含まれてゐるのかも知れない。因みに静香に殺されたアツシ役の吉岡睦雄は、最初から最後まで風呂場で正座から上半身を前に倒した体勢で、全裸でずつと死んだ状態にある。
 最後に、前井一作の撮影が宜しくない。何処にピントを合はせてゐるのかさつぱりピンと来ないカットや、同一シーン内で視点が変る度に全く変つてしまふルックが散見された。


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 「人妻 大胆な情事」(2002『人妻出会ひ系サイト 夫の知らない妻の性癖』の2006年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:榎本敏郎/脚本:河本晃・榎本敏郎/企画:福俵満/撮影:前井一作/編集:酒井正次/音楽:鈴木治行/助監督:吉田修・松本唯史・白石静香/劇中聡子朗読文献:太宰治『ヴィヨンの妻』《新潮文庫刊》/出演:麻田真夕・秦来うさ・愛葉ゆうき・川瀬陽太・松原正隆・石川雄也・吉岡睦雄・SARU)。
 番号案内104オペレーター・吉沢聡子(麻田)の夫・孝一(松原)は外に女を作り勝手に家を出たが、不意に又戻つて来る。夫婦仲は当然の如く冷え切つてゐるどころの騒ぎでは済まず、聡子は出会ひ系サイトを使つた男漁りで、心身の渇きを紛らはせてゐた。一方、デザイナーの上野敦(川瀬)は同棲相手のOL・斎藤ひさみ(秦来)に、飲み歩き遅く帰つて来たところで相手を尋ねもしない無関心に業を煮やし、家を出て行かれる。敦は交通事故で、一時的にではあれど光を失ふ。ひさみも不在で、ままならぬ生活に敦は104に電話をかけてみる。応対した聡子に、金は払ふから家に来て呉れないか、といふのである。当然、聡子は断る。悪態をつき、敦は乱暴に電話を投げ捨てる。一言文句を言つてやらうと、聡子は敦の家を訪れる。
 目の見えない男と、主には声だけを通した女の関係。勿論敵はピンク映画であるから、最終的には当然ヤルことはヤルのだが。やがて男が視力を回復した時、今度は女が偶さか声を失ふ。女を求め街を彷徨ふ男、女はそんな男のすぐ側にまで近付いたとて、声が出せぬ。女は男に、自らの存在を伝へることが叶はない。再会出来ない男と女、本当は既に物理的には再会も果たしてゐるのに、再び巡り会へない男と女。
 無理を通り越して無茶の多いシークエンス、所々で粗雑な描写。脇を飾るベテラン芸達者の不在等、前作に於いては恵まれてゐたものの、今回は欠けてゐる部分。前作にして榎本敏郎の―多分―最高傑作、「痴漢電車 さはつてビックリ!」(2001/脚本:河本晃/主演:麻田真夕・川瀬陽太)と比べれば、確かに出来は遥かに遠く全く及びはしない。全体的な完成度は必ずしも然程ではないものの、その分プロット単体の突破力と、何よりも主演の麻田真夕の美しさとがエクストリームに胸を撃ち抜く、狂ほしいばかりの必殺の一作である。
 画面手前、敦が左を向いて座る。敦と90度の角度を取り、聡子は背中を向けて座る。敦が不意に下の名前を尋ねると、聡子は細い腰を回し、軽く驚いた表情を見せる。聡子は敦の掌に、指で「さ・と・こ」と名前を書く。「綺麗な名前だね」といふ敦に対し、「本当に判つたの?」と聡子は笑ふ。敦宅を訪れるに当たり、聡子は入念にメイクする。フと気付くと、「意味無いのにい」とニンマリ。光を取り戻し、敦は聡子の姿を探し求める。そんな敦のすぐ側にまで近付いてゐるのに、今度は声を失つてしまつた聡子は、自分の存在を敦に伝へることが出来ない。焦燥する敦と、どうすることも出来ずに、敦の周囲で挙動不審に狼狽するばかりの聡子。聡子が敦の手を引き、二人で渡つた歩道橋で擦れ違ひつつも、聡子が読んで呉れた本に、書店で同時に手を伸ばしながらも。聡子と敦とは、どうしても、再び巡り会ふことが能はない。
 ・・・・・マズい、何をいつてゐるのか最早よく判らないが、これはヤバい。息が苦しくなつて来てしまふくらゐに美しい、果たせぬ再会のもどかしさに、文字通り胸が締めつけられる。タップリと尺の割かれた聡子と敦の温かなふれあひが、まるで永遠の至福のやうにすら思はれる。映画トータルとしての出来栄えは決して宜しくはない、宜しくはないだけに、一点突破の美しさが更に一層際立つ。時に映画には、さういふこともあらう。何も映画に、限つたことではない。一寸出来が悪いくらゐが、一寸下手糞なくらゐが、一番エモーショナルであるといふツボが、時にあるのではなからうか。勿論それは、概ね狙つてモノに出来る筋合ひのものでもないのだが。
 聡子と敦が、終に再び結ばれるクライマックス。そこに至る段取りは例によつて不十分ではあれ、穏やかでありつつも、確実にエモーションを惹起する劇伴は最強。あれやこれやのミスや欠如は最早さて措き、着地は完璧ですらあるやうに錯覚してしまへる。それこそも、映画の魔力といへよう。

 石川雄也と吉岡睦雄は、聡子が出会ひ系で捕まへる、それぞれ三崎と笹本。石川雄也といふ人は不思議なほど全く齢をとらないが、吉岡睦雄は顔も体も若い、お芝居の方は変らないが。進歩してゐない、ともいへる。愛葉ゆうきは、今度は孝一が出会ひ系で捕獲した坂井由利。純然たる濡れ場要員で、絡み自体の尺すら短い。SARUは、敦を診察する医師・真鍋。因みに、名前からでは全く窺へないが女医である。
 冒頭、遅く帰宅したひさみが敦の無関心に業を煮やす件や、敦とひさみの二度目にして真の別れの場面の、榎本敏郎の不手際についても触れておきたいやうな気もするが、いつそのこと控へる。全体的には大して出来が良くもないことならば、観てみれば直ぐに判る。今はただ、その上でなほ輝く今作の美しさに心を浸してゐたい。


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 「絶倫絶女」(2006/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vパラダイス/監督:いまおかしんじ/脚本:守屋文雄/原題:『をぢさん天国』/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・臼井一郎/撮影:鈴木一博/編集:酒井正次/音楽:ピト/助監督:伊藤一平/出演:藍山みなみ・平沢里菜子・小川はるみ・山口真里・沢田あきら・吉岡睦雄・下元史朗・松原正隆・伊藤猛・佐々木ユメカ・佐藤宏・飯島大介、他)。
 巨大イカを釣り上げることを夢見る前川はるお(吉岡)は、同僚の神山リカ(藍山)と付き合つてゐるが、リカは同じく職場の先輩・岩田浩一(松原)とも関係を持つてをり、三角関係のトラブルが絶えない。「巨大イカを釣り上げることを夢見る」といふ人物造形に、立ち止まるのは一旦控へる。そこから疑問を持つてゐたら話が始まらない以前に、そもそもそれどころですらないからである。そんな中、はるおの叔父・高山たかし(下元)がはるおの部屋に転がり込んで来る。たかしは夜な夜な悪夢に苛まされ、そんなものに覚醒の効き目があるのかどうだか甚だ疑はしいが、オロナミンCを多飲し眠ることを恐れてゐた。たかしは年齢を偽りピザ宅配のアルバイトに就くものの、居眠り運転で転倒、秒殺で馘になつてしまふ。たかしは山中を彷徨ひ、片方だけ落ちてゐた、女物のハイヒールを拾ふ。夢の中に出て来る、三つ目の女(佐々木ユメカ/不脱)の幻影に怯えるたかしは、やがて神社に辿り着く。何かに憑りつかれたかのやうに自慰を始めるたかしは、傍らに蠢く蛇に向かつて射精する。その蛇に陰部を噛まれ、たかしは絶命する。警察からの連絡を受けたはるおはリカを乗せ、夜のバイパスに車を走らせる。路上に点々と落ちるイカに誘はれた二人が辿り着いたホテルは、地獄であつた。
 田尻裕司の箸にも棒にもかゝらないストレートな失敗作、「SEXマシン 卑猥な季節」(2005)に引き続き、脚本は“素人”守屋文雄。一本の物語を通して、もとい、今作は最早、一本の物語としての体さへ為してゐない。粗筋はそれなりに簡略に纏めてはみたが、全ての逐一をトレースでもしない限り、今作の意味不明を表現することは終には不可能に違ひない。六十分の尺を使つて、一本の物語を見せようといふ意識も、観客に明確な何事かを伝へようとする努力の一切をも、放棄してゐるか、そもそも初めから必要だとも考へてゐない。娯楽として、商業映画として零点。今作と比較すれば、荒木太郎でもまだ二、三点の値打ちはあらう。流石にこれではどうしやうもないと焦つたのか、いまおかしんじも濡れ場だけは何とか水準的に撮らうとしてゐるとはいへ、それすらも最早、些かの免責にも挽回にもなりはしない。
 平沢里菜子は、たかしが―瞬間的な束の間―バイトするピザ屋の伊藤志保センパイ。二番手にして、といふか番手もへつたくれもありはしないのだが、兎も角ポスターはピンで全面を飾るものの、ふたつの絡みをこなして、何となくフェイド・アウトして行く。小川はるみは、ピザ屋をクビになり草野球を始めたたかしが、何だかよく判らないが仲良くなると―台詞が聞き取れないんだよ!―はるおの部屋でセックスする小田京子。山口真里と沢田あきらは、地獄のホテルでたかしの体を貪る鬼。一応濡れ場ではありながら、体は夥しい血糊で汚され、不快感あるいは恐怖感しか覚えない、零点、佐藤宏もここでの鬼。伊藤猛は、飄々としたエンマ大王。たかし―と浩一―を生き返らせるやう閻魔に頼み込まうとするリカが、「エンマ大王様」と呼びかけると、「“様”はいいですよ」。リカとエンマの遣り取りは、守屋文雄の木端微塵にいまおかしんじが引き摺られるでもなく、何時も通りに楽しんで観てゐられる、今作面白いのはここだけ。下元史朗の下手糞な関西弁も、何の芸にもなつてゐない、だから零点。飯島大介は、現世に戻つて来たたかしが、草野球中に何故か揉め事になつてゐる丸山。だ・か・ら、台詞が聞き取れないんだよ!零点。
 「SEXマシン」を観た時は、田尻裕司ではなく元企画通り今岡信治が撮つてゐれば少しは形になつたのではないか、とも思つたものだが、どうやらそれも、私の大いなる全くの勘違ひであつたやうだ。守屋文雄の木端微塵は、誰が撮つたとてどうにもなりはしない。元々形を成してゐないのだ、誰に撮らせても無駄。手前で撮るか、同じく客に見せる商業映画など初めから撮る気もない女池充にでも預けてしまへばよからう。
 今岡信治は兎も角、守屋文雄の脚本映画は、何処の会社の監督が誰であれ、私は以後絶対に観ない。小沢仁志が主演でも観ない、長谷川和彦の復帰作でも観ない。守屋文雄の錯乱未満に手を出す―バカ―会社など、国映のほかにはあるまいが。


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 「援助交際物語 したがるオンナたち」(2005/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vパラダイス/企画:朝倉大介/プロデューサー:福俵満・森田一人・増子恭一/監督・脚本:いまおかしんじ/撮影:前井一作/編集:酒井正次/音楽:ビト・内田マナベ/助監督:伊藤一平/監督助手:宮崎剛/撮影助手:嘉門雄太・田村覚・秋吉正徳・秋吉正彦/作画協力:門倉あさひ/出演:向夏・平沢里菜子・七瀬くるみ・吉岡睦雄・佐藤宏・伊藤猛・川瀬陽太、他)。
 女癖が悪い夫・工藤良男(吉岡)と夫婦喧嘩の絶えない朱美(向夏)は、ワインボトルで良男の頭を割ると街へ出る。マンガ喫茶にて、朱美はマナー違反で大量のマンガを抱へ込んでゐたところを、マンガを寄こせ寄こさないで伊東きょうこ(平沢)とモメる。「返して、そのマンガは私のなの」、夫の頭を割り飛び出して来たばかりの朱美は情緒が不安定なのか子供のやうに泣きじやくり、きょうこは引いてしまふ。後日、朱美は同じマンガ喫茶できょうこと再会する。きょうこは、あの時朱美と取り合つたマンガを読み泣いてゐた、二人は意気投合する。きょうこはマトモには働かず、援交で生計を立ててゐた。きょうこの援交に付き合ひ朱美はホテルまで同席し、そのままきょうこの部屋に転がり込む。例によつて例の如くの、ダメ人間がダメ人間とグダグダする、グダグダしたいまおかしんじの何時もの映画である。映画によつて突破力を有する時とさうでない時とがあり、グダグダしつつも輝く時と、単に終始グダグダし放しの時とがある、今回は輝く方であつた。尤も、グダグダし放しの時はグダグダし放しの時で、それが心地良いこともある。
 性質の悪いSM清川兄弟(兄・次郎:伊藤猛と弟・三郎:川瀬陽太>ただしフルフェイスのラバーマスク着用、声で判らないこともないが)にこつ酷くとつちめられ、くたびれ果ててきょうこが帰宅すると、食事の用意がしてあり、朱美―いつもカエル型リュックを背負つてゐる―は、古道具屋から盗んで来たカエルの着ぐるみを着て寝込んでゐた。疲れたきょうこは、他人と暮らすことに慣れてゐないと朱美を追ひ出す。
 結局、何時ものマンガ喫茶で寝込んでゐた朱美をきょうこが迎へに来るのだが、このカットが素晴らしい。この映画はここを観る為だけで、絶対に小屋に足を運ぶ値打ちがある、久し振りに今岡信治の天才を改めて確信した。四周の本棚に囲まれたスペースにテーブルが並べられただけの、安普請のマンガ喫茶。朱美は突つ伏して寝込んでゐる、他に数名の客。ドアが開き、モッサリモッサリとカエルちやんが入つて来る、着ぐるみを着込んだきょうこである。ギョッとする他の客、突つ伏した朱美の前に立ち尽くすカエルちやん。朱美は目を覚まし、カエルちやんを認識する。殺風景なマンガ喫茶にカエルちやんがモッサリモッサリと入つて来るカット。繰り返すが、この映画はこのカットだけで間違ひなく必見である、興奮する。この胸の昂りこそが、映画を観る快楽の醍醐味であらう。
 カエルちやんのままのきょうこと、朱美は再びキョーコの部屋に戻る。朱美は部屋を片付けてゐる際、きょうこが戯れに描いてゐたマンガを目にしてゐた、「私、あんたのマンガ好きだよ」。別にそんなこともないのかも知れないが、私はかういふ台詞に接すると、お前―この場合はいまおかしんじ―も誰かからさう言つて欲しいのかよ、と情けなく感じてしまふ。物語が急にしみつたれて、安くなつてしまふやうに思へる。いふまでもなく、私の器量は処女門よりも狭い。
 荒淫が祟り子宮を失つたきょうこは、島根の実家に帰る。十年後、良男とは別れた朱美は、元気と勇気といふ二人の子供を抱へ―マンガ喫茶で朱美ときょうことが争つたマンガは、小山ゆうの『がんばれ元気』である―生きてゐた。ある日、道端で親子三人でハンバーガーを食べてゐたところに、カエルちやんが近付いて来る、きょうこであつた。きょうこはマンガがモノになり、未だマンガだけでは食へないまでも、東京に戻つて来てゐたのであつた。劇中歌「カエルの歌」を朱美ときょうこに元気と勇気、加へて良男、良男の浮気相手でゴスロリの江口渚(七瀬)、清川兄弟等々全登場人物が、下北の駅前にワラワラとゲリラ的に集結して全員で歌ひ踊る、のがラスト・シ-ン。再見して再発見したのは、ここでの清川兄弟の鮮烈な対照。川瀬陽太がリズミカル且つ適宜に自由に肉体を躍らせる一方、所在なさげにぽつねんと立ち尽くす伊藤猛は大笑必見である。

 他にも幾つかないでもないが、一番大きな難点は、幼児体型―は兎も角としても―の朱美が、全く人妻には見えない点。映画を観て帰つて、新東宝の構へてゐる作品紹介のページに目を通して初めて判つた。単なる付き合つてゐるだけのカップルの痴話喧嘩だとしても、開巻は全く通る。カエルの着ぐるみ(六千円也)を、買つて来たのではなく盗んで来た、といふのも、映画を観てゐるだけでは判らない。


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 「熟女・発情 タマしやぶり」(2004/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vシアター/監督・脚本:いまおかしんじ/原題:『たまもの』/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/撮影:鈴木一博/編集:酒井正次/助監督:伊藤一平/撮影助手:赤池登志貴、他一名/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/協力:女池充・菅沼隆、他多数/出演:林由美香・華沢レモン・吉岡睦雄・栗原良・伊藤清美・伊藤猛・川瀬陽太・桜井一紀・佐藤宏、他多数)。ボーリング玉に書かれたクレジットが風情はあるものの、情報量にも屈し、基本的に完敗する。大西裕の名前も確かにあつたのだけれど、それが出演者としてであつたか協力であつたかは忘れた。
 林由美香といふ今は既に亡きピンク映画女優に対しての、当サイトの評価の基本線を最初に述べる。折に触れ繰り返してもゐるやうに、数作の決定的な代表作に恵まれるのも兎も角。必ずしも主演ですらなくして、二番手、三番手の濡れ場要員に甘んずるとも、膨大な数の―しばしば水準以下の―ピンクを最低限その出演場面だけでも形を成ししめ救つて来た。さういふやゝもすると埋もれてしまひがちな仕事ぶりにも、人々の記憶に残る傑作と同様、もしくはそれ以上の重さあるいは尊さがあるのではないか、とするものである。さういふ状況は、風間今日子にも当てはまる。

 寂れた海町のボーリング場に勤める福井愛子(林)は、不倫関係にある支配人の千葉宏(栗原)からは、まるで都合の好いやうに扱はれてゐる。ある日、フとしたきつかけで知り合つた郵便局員の河田良男(吉岡)と愛子は付き合ひ始める。頼まれもしないのに毎日毎日手の込んだ弁当を作つて来る愛子を、その内疎ましく思ふやうになつた良男は膳を据ゑられるまゝに同僚の加藤郁美(華沢)とも付き合ひ始め、やがて結婚を決める。
 誰からも愛されぬ、愛子といふ名の女の物語。我ながら筆の根も乾かぬ内にここに極まれりとも苦笑しつつ、決定的な大名作である。
 愛子はすつぴんで髪もボサボサ、喘ぎ声の他は始終殆ど一言も言葉を発しない。そんな愛子が誤解されたことに子供のやうに頬を膨らませて地団駄を踏んだり、彼氏のために弁当を作つてみたり、出来上つた弁当を彼氏の下へと向かふ電車の車中、長く綺麗な指で胸に抱いてみせたりなんかする。最早ストーリーだとかテーマなんてどうでもいい、心が止まつてしまひさうなくらゐ美しい、ストレートに心が震へる。良男からは別れを告げられ、都合の好い女とはいへそれでも千葉に抱かれることに一抹の悦びを見出すも、今度は千葉の細君・恵子(伊藤清美)に千葉とも別れさせられる。ボーリング場も辞める破目になり、誰からも愛されぬ上に、何処へも行き場すら喪つてしまふ、観てゐてこつちも狂ほしく哀しくなつて来る。すつぴんで髪もボサボサで一言も喋りもしない林由美香は、この世界から打ち棄てられた存在を、切なくも美しく体現する。百人の群れからは逸れてしまつた一匹のダメ羊が、唯一それでもそれはそれとして輝けるのが銀幕の上であるならば、それこそが本質論上の映画の魔力である筈だ。
 今作は、原題の「たまもの」としてミニシアターで一般公開もされてゐる。そつち方面は全くチェックしてゐないのでよく判らないが、勿論DVDも出てゐよう。平素は決していはない、与太は与太でも柄にもない与太を今回は吹く。如何にも今岡信治然としたオチの着け方には、もつと他に着地点は見つけられなかつたものかと思はぬでもないが、DVDでもいいから必見。勿論、近隣で観られるチャンスに恵まれたならば絶対に小屋で観るべきである。今作がピンク映画といふカテゴリーの中で一般的な水準の映画かといふと、決してさういふ訳でもないのだが。ただかういふ映画が飛び出しても来るところが、ピンクの醍醐味のひとつであらうことは確かである。ところで林由美香も兎も角、華沢レモンも上手い。大ベテランを向かうに回して、堂々と渡り合つてゐるのは見事。当サイトの見解としては、結果的には林由美香死後、華沢レモンがそのポジションの跡目を継いだとみるものである。

 配役残り、訳の判らないロン毛の伊藤猛、訳の判らないガングロの川瀬陽太、桜井一紀は良男の同僚の石本・有馬・松尾、佐藤宏はボーリング玉(?)。これはボーリング王“キング”の誤字ではなく、あくまでボーリング“玉”、観るなり見て貰へばお判り頂ける。


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 「義父と嫁 夫の目を盗んで…」(1998『嫁の告白 凄い!義父さんの指使ひ』の2005年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:伊藤正治/企画:稲山悌二⦅エクセスフィルム⦆/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文男/照明:藤塚正行/助監督:羽生研司/製作担当:真弓学/撮影助手:鏡早智・西村友宏/照明助手:高橋理之/監督助手:小谷内郁代/ヘアメイク:松本貴恵子/スチール:本田あきら/編集:金子尚樹⦅フィルムクラフト⦆/現像:東映化学/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/出演:佐久間百合子・吉行由実・麻生みゅう・久須美欽一・山本清彦・田原政人)。
 貴子(佐久間)の夫・隆一郎が交通事故で急逝して早二年。貴子は隆一郎の親友・杉田正人(山本)と現在は交際してをり、そろそろ杉田からは再婚を迫られつつ、未だ夫の家の茅野家から籍を抜かずにゐた。義父である作家の総一郎(久須美)に、密かに想ひを寄せてゐたからである。
 麻生みゅうは貴子の義妹・彩香、度々隆一郎と喧嘩をしては、貴子の家にプチ家出して来る。今回はテレクラで男を漁り、進藤純一(田原)を名前も知らぬまゝ貴子の家に連れ込み、恣なセックスに耽る。も、実は以前から杉田のことが好きだつた。なかなか自分との結婚に踏み込んで呉れない貴子に悩む杉田の姿に、彩香は胸を痛める。吉行由実は、杉田、と貴子も常連のパブ「モンシェリ」のママ・小谷美里。美里も実は杉田に好意を持ち、貴子にやきもきする杉田を見かね、自らに乗り換へるやう口説く。
 週末観に行つた際には、極限にまで集積した肉体的疲労に屈し、三本立てを二周してもどうしても途中で寝てしまひ、最後まで観ること叶はなかつたものである。三本立てを二周、そんな真似を仕出かしてゐるから、ますます火に油が注がれるのはいふまでもなからう。ところが、体調に余裕のある機を見計らひ再見してみたところ、高橋留美子マンガもかくや、と思はれるほど真つ直ぐな恋愛映画であつた。互ひに道ならぬ想ひを寄せ合ふ貴子と総一郎、肉体関係を持ちながらも、そんな貴子に振り回される杉田。更に苦しむ杉田の様子に、心締めつけられる彩香と美里。これはロケ地は何処なのか、気合を入れて雪が降り積もる冬の街を舞台に、丁寧に描かれた五人の恋心も舞ひ踊る。濡れ場も物語に完全に齟齬なく回収された、極めて良心的な一作、美しい佳作である。
 ジス・イズ・ア・和製美人、主演の佐久間百合子は、残念ながらピンクではこの一本きりしか仕事をしてゐない模様。微妙に芝居勘もよく、どんな女優さんなのかと調べてみようと試みたところ、現在では同名のグラビアアイドルがデビューしてしまつてゐて、如何せん手も足も出なかつた。


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 「女囚の性 食らひ込む人妻」(1997『女刑務官 牝私刑』の2005年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督・脚本:伊藤正治/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:藤塚正行/編集:金子尚樹/助監督:羽生研司/製作担当:堀田学/出演:冴月汐・林由美香・小川真実・山本清彦・久須美欽一・平賀勘一)。
 女囚・末次貴子(林)の左右に他の房の見当たらない、いはば一戸建てのやうな独房を、巡回中の刑務官・本橋容里枝(冴木)が訪れる。レズビアンの貴子は、制服に包まれた容里枝の肢体に憚ることなくネットリとした視線を投げかける。容里枝が夫・文哉(山本)の浮気に悩んでゐることを、誰から聞きつけたのか貴子は知つてゐた。貴子からそのことに水を向けられると、容里枝は動揺を隠せない。貴子は追ひ討ちをかける、「私はお前を裏切らない」。新版タイトルは紛ふことなきいはゆる女囚ものであるが、実際の物語は、半分以上は娑婆で進行する。心の隙間につけ込まれた女刑務官が、女囚にある意味意のままに操られてしまふ。形を変へた、「羊たちの沈黙」のやうな物語である。
 容里枝と文哉の関係は、上手く行つてはゐなかつた。(浮気相手と)別れたんだからいいだろ、文哉は開き直る。おざなりな夫婦生活、事が済んだ後、容里枝は夜勤の為に家を出る。文哉は、容里枝がさういふ仕事を持つてゐることが不満であつたのだ。容里枝が家を出た後、容里枝の友人で、バーのママをしてゐる浜田岬(小川)から電話がかゝつて来る。昔の男・水沼(平賀)が店に来て困つてゐるので、助けに来て呉れといふ。慌てて飛び出した文哉が岬の店に辿り着いた時には、岬は既に水沼に犯されてしまつてゐた。店を閉め、岬は別の店で飲む為に文哉を夜の街に誘ふ。文哉は、容里枝との結婚を後悔してゐた。岬は岬で、以前から友人の夫である文哉に好意を抱いてもゐたが、当時は水沼と付き合つてゐた。ロングショットで二人肩を並べ歩く夜の道、岬はおどけてみせる。
 「ボタンの掛け違ひか、痛いなあ♪」、すると文哉
 「今からそのボタン、掛け直さないか?」。(大胆にも本橋家の)ベッドにて、体を重ねる寸前に岬は
 「人を裏切るのなんて、何年ぶりかしら?」。
 クサい、の一言で片付けてしまへば正にそれまでなのかも知れないが、的確な劇伴の使用、決して奇を衒ふことはないものの、凝つたフレーミング。そして役者の他作での仕事ぶりから鑑みるに、丁寧な演技指導。伊藤正治は怠惰や凡庸に堕することなきオーソドックスに、確かな技術と誠実な論理とで果敢に真正面から挑んで行く。良心的な、正しくプロフェッショナルの仕事といへよう。決して突出した何物かも、エポック・メイキングの欠片もありはしないのだが、かういふ映画を観流してしまふことなきやう、当サイトは高く評価するものである。次の朝、自宅の寝室にて文哉と岬が呑気に眠りこけてゐる。カメラが引くと、呆然と立ち尽くす帰宅した容里枝、の足下。
 久須美欽一は、貴子の紹介で容里枝が雇ふ、復讐屋の清水、柄にもないハードボイルドなキャラクターを好演する。貴子の容里枝に要求する代償は、容里枝の肉体。貴子は重ねて容里枝に畳みかける、「私はお前を裏切らない」。
 今作最大のウィークポイントは、主演の冴木汐。ルックスも体も、全く悪くはない。今でいふところのいはゆるアヒル口は、個人的には好むところではないが。ただ、致命的なのはお芝居が全く出来ない。堂々とした台詞の棒読みが、折角伊藤正治が丹念に積み重ねて来た映画に水を差す。ここはおとなしく、別人にアテレコさせるといふ選択肢を取れなかつたものか。プロポーション的には全く問題ないのに、濡れ場が妙にいやらしく見えないのも、演技力の欠如によるものなのかも知れない。天は二物を与へずとでもいふか、中々に、上手くは行かないものである。

 感想冒頭の下線部は、要は全うな監房セットを組む予算規模など何処にあるんだ、といふ次第、いはずもがなでしかないが。


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 「死者の体育祭 人妻喪服運動会」(2001/製作・配給:幻想配給社/監督:石川二郎/脚本:高木裕治/プロデューサー:友松直之・新里猛作・松家雄二/撮影:岡宮裕/協力:愛染恭子、他/出演:深田みゆき・西田ももこ・桜井聖・竹本泰史・山内一寿・山之内幸夫、他)。
 小学校の運動会、真知(深田)は子供の担任教師とトイレでの文字通りの密会に燃える。夫・正一(桜井)とは、ずつと擦れ違ひが続いてゐた。一方ヤクザの竜二(竹本)。敵対するヤクザの命(たま)を獲りに出張つたはいいものの、仕損じて三人から追はれる身に。正一は父兄参加の徒競走に出場する。号砲とシンクロして、竜二は路地裏で無惨に撃ち殺される。正一も正一で、急に過度な運動をしたことによる心臓発作でこちらも急逝してしまふ。
 互ひに天国に行く前に、もう一度だけ肉体を有して遺した妻に想ひを伝へに行きたいと望む正一と竜二に対し、関西弁バリバリの天使(山之内)は真知と竜二の女房・エリ(西田)を賽の河原、のやうな空間に呼び寄せる。真知とエリに種々の競技を競はせ、勝つた方の夫の希望を叶へてやらうといふのだ。
 「死者の体育祭 人妻喪服運動会」。ロマンティックと破天荒とが同居するナイスなタイトルではあるが、看板の前半は偽りである。夫達は離れた場所から模様をテレビで見るだけで、何をする訳でもない。実際に運動会をするのは喪服妻である。和装の真知と洋装のリエとが、裾を淫らに肌蹴ながら綱引きやバナナ喰ひ競争(笑)、クロスカントリーがてらのキャットファイトに汗を流す。一体どういふ契機でかうして形を成すところにまで辿り着けたのだか、皆目見当もつかないファンタスティックなプロットではあるが、実際の中身の方は、それ程はつちやけてゐる訳でもない。寧ろ周到過ぎるくらゐに外堀を埋め過ぎて、笑つて見てゐればいいのか普通に夫婦間の心の交流に感動させられればいいのやら最早判らなくすらなつて来る、なかなかにチャーミングな出来栄えのVシネである。戯れにタイトルをグーグル検索してみたところ、思ひのほか数多くの感想も出て来た。それはそれとして、人の心を捉へたといふことでもあるのであらう。
 後も含めて二人の死の過程や遺して来た妻への想ひを丁寧に描き過ぎて、メイン・プロットたる喪服運動会が始まるのは尺が折り返し地点も結構遠く通り過ぎてしまつてから。挙句に喪服姿で運動会をやつたとて、さしたるお色気を望むべくもなかつたのか。最終競技の旗取り競争がてらのキャットファイトに至つては、カットが変るとそれまで何ともなかつたのに、急に衣服が派手に乱れて乳を無駄に見せてゐたりもする辺りは全く御愛嬌で、実に微笑ましい。
 ただ残念なのは異世界での出来事である筈なのに、堂々と背景に建物や高圧線を映り込ませる無頓着さ。意外に心も込められた物語なだけに、余計に興が醒める。


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 「性欲診察 白衣のままで」(2007/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/撮影助手:海津真也・関根悠太/監督助手:新居あゆみ/現場協力:田中康文/出演:結城リナ・星沢マリ・銀治・津田篤・野村貴浩・牧村耕次・なかみつせいじ)。出演者中、ポスターでは結城リナに“(新人)”特記。
 老医師・大坪(牧村)の内科医院に通ふ、高校教師の中津(なかみつ)、フリーターの田辺(津田)、弁護士の南野(銀治)。中津は下痢を、田辺は倦怠感と咳、南野は頭痛を訴へるが内科の所見としては三人に何処にも異常が見られず、大坪は首を捻るばかりであつた。他方大坪の医院に勤務する、白いナース服の落合真奈美(結城)と、青いナース服の木村可奈子(星沢)。何れ菖蒲か杜若、二人の美人看護婦に夢中な三人の患者は、現実との境目もおぼろげな淫らな妄想の渦に溺れて行く。
 結城リナと星沢マリとのツートップ、余計な三番手女優は潔く排したタイトな布陣を敷いた時点で、今作の勝利は確定。待合室にて田辺、中津、南野が同時に見る白日夢の中で、真奈美と可奈子は大坪の性奴隷と化す。可奈子役の星沢マリが下から持ち上げるやうに揉み込まれた決して大きくはない乳房に、長い舌を伸ばして自ら乳首を舐めるショットに、私は完敗を認めた。以降の展開に中身があらうとなからうと、妄想の無限連鎖が何処かしらに着地しようとしまいと、最早どうでもいい。衣装換へも含め見事に多彩な濡れ場濡れ場の乱れ撃ちは、実に、実に、実に。実に見応へがある。間違つても映画として傑作、といふ訳ではないが、桃色リーサル・ウェポン。炸裂し放しの美しく淫らな破壊力に素直に身を委ねてゐるのは、全く快い。寧ろ、一応の帰結を見せる芸の足りないラストが、余計にすら感じられる程である。池島ゆたか御当人の弁によれば今作はブニュエルを志向してもゐるらしいが、ブニュエル?伝説のピンクス・故極狂遊民カチカチ山さん主催の16mm上映会で何本か観た覚えがあるやうな気もするが、オラそんな高尚な名前知らね。
 中津は痴漢の汚名による、生徒からの授業ボイコットに悩んでゐた。といふことで同じく池島ゆたか監督による、「ザ・痴漢教師」シリーズとの関連も連想されたが、苗字が異なる故詳細は不明。無人の教室に独り佇む中津の前には、勿論女子高生姿の真奈美が登場する。論理的では必ずしもなくとも、映画的な要請をキッチリ果たす蓋然性が鮮やかである。中津を罵る生徒が三人登場。クレジットなしカメオ出演の日高ゆりあと春咲いつかに、男子生徒役は中川大資。春咲いつかは凄まじい映りやうで、軽くショックを受けた。
 同じくクレジットされぬままに、神戸顕一が前作「婚前乱交 花嫁は牝になる」同様、『AHERA』誌の表紙として登場。左から中津、田辺、南野の順に座つた待合室。三冊用意された『AHERA』誌を、三人が三人共顔を隠すかのやうに高く持ち上げ読んでゐる。野村貴浩は、南野の事務所の若い衆・諸星。彼女との海外旅行の為の有休を申し出、背が低く彼女が居ないことに強烈な劣等感を滾らせる南野を、狂ほしくやきもきさせる。南野の妄想の中での、諸星と彼女との絡み。ツートップ体制につき、首から上は巧みに回避するフレーミングで結城リナが彼女役を代打、決して柳田友貴の大先生撮影ではない。
 一応伏線も貼つてあるとはいへ南野の<サイコ>ネタには、流石に余りの無茶振りに震へさせられた。別に映画監督が映画が好きであることを、一々映画の中で表明する必要はないと思ふ。

 以下は再見時の付記< 中津と真奈美との教室での濡れ場は都合二回、一度目は、真奈美はナース服で出撃してゐる。
 再々見時の付記< 南野は診察中で、中津と田辺が二人並んで座る待合室。背中だけ見切れる女の外来患者は新居あゆみとして、受付の奥に見える白衣を着た男は誰だ?南野の相手をしてゐる、大坪では画面(ゑづら)的にもない。


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 「婚前乱交 花嫁は牝になる」(2007/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:江尻大/撮影助手:海津真也・関根悠太/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/スチール:津田一郎/挿入歌『にはか雨』・『夜を引き裂いて』 詞・曲・歌:桜井明弘/出演:日高ゆりあ・仲村もも・美咲礼・本多菊次朗・野村貴浩・山口慎次・ムーミン・吉原あんず・池島ゆたか・北川明弘・神戸顕一)。出演者中北川明弘と神戸顕一は、本篇クレジットのみ。
 判り易く訳アリな風情で東京の地に立つマリカ(日高)が、高級ホテルの一室に宿を取る。マリカは自室に、一年前まで不倫関係にあつた上司の宇田川(本多)を招き入れる。完全に主導権を握り、マリカは宇田川を貪る。日高ゆりあといふ人は俗にいふところの下つきなのか、宇田川に跨りパイパン設定の観音様を口唇愛撫させるシーンに際しては、かなり際どいラインまで無修正で見せる。宇田川に続き、今度はマリカは三年前に付き合つてゐたミュージシャンの尚也(野村)をホテルに招く。
 ミステリアスな狙ひの割には、どういふつもりなのだかタイトルが全てを割つてしまつてもゐる、要はさういふ物語である。中身の薄さはこの上ないが、進境著しい日高ゆりあの映画と思へば、まあ観てゐられなくもない。
 配役残り、登場順に美咲礼は宇田川の妻・ゆりえ。少し痩せたやうだがこれ三上夕希だよな?と思ひながら観てゐたところ、改名したとのこと。ただでさへ閉鎖された、情報の頗る得難いフィールドにあつて、この改名といふ奴がまた厄介である。仲村ももは、尚也の現在の彼女・エミ。ロングの黒髪、背丈もマリカと似通つてゐる。幼児体型の日高ゆりあよりは少し細いが、もう少し、タイプの全く異なつたキャスティングは出来なかつたものか。ムーミンは尚也に続いてマリカが喰ふ、花屋の洋介クン。池島ゆたかと吉原あんずが、式を直前に控へ不意に姿を消した娘に気を揉むマリカの父母。山口慎次はマリカの婚約者・和彦。いはずもがなな北川明弘が、大阪で大ブレイク(苦笑)といふ設定の尚也先輩・桜井。尚也が部屋でDVD(かビデオ)を見るカットに加へ、対洋介戦を控へマリカがウィッグを選ぶところからゲーセンでプリクラを撮る件にかけて、延々曲が流れる。どういふ訳なのだか知らないが、池島ゆたかが自作の連続出演記録に固執してゐる神戸顕一(ただ本人は現在実家に帰つてゐて、現場には参加出来ないらしい)は、マリカ父が読む雑誌『AERA』ならぬ『AHERA』誌の表紙に登場、わざわざ作つたのか。この『AHERA』誌の出来はよく、登場の仕方もわざとらしくもないゆゑ、アイデアとしては悪くないと思ふ。
 桜井明弘といふ人は、昨今池島ゆたかが大のお気に入りのインディーズのミュージシャン。音楽的には、判り易くもいい加減な説明をすると歌謡フォークな頭脳警察のエピゴーネンか。完全に浮いてゐるこの人の曲使用、徒に固執する神戸顕一の自作連続出演。池島ゆたかには、娯楽ピンクの王道を志向してゐる割には、そして当人は恐らくはそれを果たせてゐると思つてゐるであらうにしては、どうにも商業作家として徹し切れてゐない隙のやうな部分が散見される。加へて五代暁子以外の脚本で撮らない、あるいは撮れない点も個人的には最終的にこの人の大成を阻んでゐる所以、とみるものではある。さういふ隙が憎めない、といふ諸兄に対しては、敢て異を唱へるつもりはない。
 ただ一応伏線は張つてあり、なほかつ不可避な大人の事情もあるとはいへ、ラストの和彦とゆりえの濡れ場は。あるいは三番手の濡れ場で映画を締めてのける構成は、日高ゆりあの映画と思つて観るほかない今作を、壊してしまつてゐると難じざるを得まい。


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 「熟女・人妻狩り」(2006/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:茂木孝幸/監督助手:中川大資・玉垣絢子/撮影・照明助手:海津真也・関根悠太/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協力:荻窪グッドマン/出演:三上夕希・日高ゆりあ・春咲いつか・佐々木麻由子・竹本泰志・樹かず・池島ゆたか・本多菊次朗・山ノ手ぐり子・神戸顕一・津田篤・野村貴浩・白井里佳・佐藤光政・有賀祐樹・中田伸也)。
 色男から声をかけられると、尻軽の佐伯ミオ(日高)はホイホイついて行く。ラブホで事を済ますや色男は豹変、女に対して激しい憎悪を燃やす、神を自称する連続殺人鬼としての正体を現す。手荷物からミオが実は人妻であるのを知り、憤怒に更なる火に油を注がれた殺人鬼は、母親形見の帯紐でミオを絞殺する。卓越した清水正二のカメラワークによる、男視点の画で巧みに殺人鬼の正体は描かれないが、ピンクスには声から竹本泰志であることはある程度容易に判らぬでもない。
 場面変つて深夜の公園、進藤可奈子(三上)が離婚届を手にボンヤリと佇む。愛人を作つた夫とは既に別居状態、自身も弁護士の咲坂真一郎(本多)と不倫関係にあり可奈子は離婚を急いでゐたが、同意が得られず悩んでゐた。そこに、殺人鬼がミオの死体を捨てに来る。可奈子は慌てて逃げるも、落として行つた離婚届から、殺人鬼は可奈子の個人情報を手に入れる。馴染みのバーにて、可奈子は咲坂と中々思ひ通りに進まぬ離婚調停について話し合ふ。そのバーのマスターこそが、誰あらう、連続猟奇殺人鬼・原田裕作(竹本)であつた・・・・・
 ヒッチコック映画の翻案らしいが、例によつてこの男がヒッチコックの方を見てゐる覚えはない。なので、その点に関しては潔くさて措き通り過ぎる。頼むから、もう少しキチンとした映画の観方をしておいて呉れ。終盤、この女が―すんでのところで助けられもせず―殺されてしまふの!?といつた風に一体誰がヒロインなのか判然としない辺りや、その後の正体不明のバッドエンド等、一体何を見せたかつたのか最終的に出来上がつてゐるとは必ずしもいひ難い映画ではある。が、ある何れかの女がヒロインのサスペンス、ではなく、あくまで竹本泰志がリミット・ブレイクする殺人鬼が主人公の映画だと思へば、それはそれとして見応へがある。御自身のWEB日記に触れてみると、池島ゆたかは傍目からは不思議なくらゐに、今作に関し絶対の自信もお持ちのやうだが。
 配役残り佐々木麻由子は咲坂の元カノで、現在でも腐れ縁の続く私立探偵・竹宮ユイ。本多菊次朗の咲坂弁護士と佐々木麻由子の私立探偵は、いはゆるスターシステムといふ趣向以外には、さうである必然性は特に見当たらないが「肉体秘書 パンスト濡らして」(2005)と同じ相関の設定である。本多菊次朗の咲坂弁護士は、今作の直前に撮影された、オーピー七月の新作につき当然未見である又別の映画にも登場。そちらの方も、同設定である必要は別にないやうだ。
 春咲いつかは、劇中二人目となる原田の被害者・本城かおり。メイクを違へただけで、「昭和エロ浪漫 生娘の恥ぢらひ」の時とはまるで別人に見える、女は化ける。樹かずは、ユイの彼氏・諸星タツヤ。まるでサイボーグでもあるかのやうに、この人は何時までも若い。実年齢は、どう考へても四十前後である筈。池島ゆたかは連続女性絞殺事件を捜査する、高杉警部。山ノ手ぐり子(=五代暁子)は操作にプロファイリングで参加する、矢鱈とヒステリックな心理学者・仁科愛美。下の名前が違ひ、山ノ手ぐり子の仁科はこちらは精神科医として、「黒下着の好きもの女医」(2005)にも登場。咲坂・竹宮に対して、仁科のキャラクター造型は二作で全く異なつてもゐるが。
 更にその他出演者中、ポスターに名前が載るのは神戸顕一と、野村貴浩から佐藤光政まで。神戸顕一は、劇中テレビで放映される贋CMに登場。野村貴浩と佐藤光政は、劇団「THE BIRD」の二人。白井里佳は、街頭ビジョンから劇中連続女性絞殺事件を伝へる、レインボーNEWSのニュース・キャスター。津田篤・有賀祐樹・中田伸也の残り三人は高杉警部の部下要員、その内津田篤は中田君。神戸顕一に話を戻すと、一身上の都合とやらで実家に帰つてしまつてゐるものの、自監督作品への連続出演記録を途切れさせたくないゆゑの池島ゆたかの苦肉の策である、らしい。そのやうなことは特にどうでも構はないのだが、その苦肉ぶりが、先に撮影され後に公開されたオーピー七月の新作の使ひ回しである、といふのは工夫と誠意に欠け、頂けない。更に更に、出演者クレジットにも名前の載らない牧村耕次が、どうしても別れて呉れない可奈子の夫・進藤役で、写真でのみの参戦。何はともあれ是が非でも神戸顕一を画面に見切らせたいといふのであれば、ここでもよかつたのではなからうか。それでは、見合写真の形で登場した「昭和エロ浪漫」と、あまりに代り映えしないといふ判断であつたのやも知れないが。


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 「昭和エロ浪漫 生娘の恥ぢらひ」(2006/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:茂木考幸/監督助手:中川大資/照明助手:広瀬寛巳/挿入曲:『一週間もどき』・『トロイカもどき』作詞:五代暁子、編曲・歌:大場一魅 『にはか雨』作詞・作曲・歌:桜井明弘/出演:春咲いつか・池田こずえ・日高ゆりあ・水原かなえ・平川直大・樹かず・津田篤・神戸顕一・吉原あんず・なかみつせいじ)。撮影助手をロストする、度々のことながら、己のメモが読めない。出演者中、平川直大はポスターには平川ナオヒロ。ポスターのみ茂木考幸が、キャストに名を連ねる。
 「ALWAYS 三丁目の夕日」―勿論未見、何が“勿論”なのか―のセンを明確に狙つた、昭和三十年代を舞台にしたホームドラマである。主人公、工場事務員の風間明子(春咲)は二十五歳。家族はサラリーマンの父・一郎(なかみつ)と専業主婦の母・栄子(吉川)に、大学生の弟・茂(津田)の四人家族。一郎は二十五歳といふ年齢を慮り頻りに娘に縁談を持つて来るが、明子は断り続けてゐる。明子には、職場で知り合つた工員の田中聡(平川)といふ恋人が居た。が、集団就職で工場に就職した聡の、中卒といふ学歴―明子ですら高卒―に一郎は頑として首を縦には振らなかつた。
 制作費は―基本―三百万、撮影日数は三日―今作は池島ゆたかのブログより現に三日―といふ基本的な制約が存するピンク映画である。勿論のこと、昭和三十年代の町並みを再現した、あるいは理想に基づいて創造した撮影セットなど設けられよう筈もない。とはいへ、なけなしの小道具、恐らくは役者の手持ちの衣類の中からギリギリのところで掻い摘んで来た衣装、丹念なロケハン並びに撮影技術等々の苦心によつて、何とはなしにではあつても当時の雰囲気を再現しようとしてゐる努力は窺へるし、結果としても結構なところで成功してゐるやうに見える。役者の顔立ちが当時の人間には見えない、といふのであれば、それは大手の製作した「三丁目の夕日」であつても傍目に見る限りでは大差ない。如何ともしやうのない時代、あるいは空気の隔絶といふものは、よしんばハリウッド大作程のバジェットを以てしたところで、超えようとして容易に超えられるものでもなからう。何より今作が素晴らしいのは、登場人物の吸ふタバコといへば缶箱両面でショートピースしか出て来ない点が思想的には最も正しい。嘆かはしいことこの上ない、昨今の要らぬ節介にも程がある至らぬ注意書きが映り込んでしまつてゐては興も醒める、と注意して観てゐたが、グラスの陰に隠してみたりだとか撮影の上で巧みに胡麻化してゐた、やうに見えた。要はさういふ、限られた限られた製作環境の中であつても、実現せんとしたコンセプトをどうにか工夫し懸命に追求した、誠意が感じられる一作である。
 池田こずえは一郎の部下・松田百合子。明子よりも更に年上―には微妙に見えないが―で、未婚である。大学教授でもある父親の持つて来た縁談に屈し、意に染まぬ結婚を決意する。最終的な人生に於ける幸福、などといふものが何処にあるのかのは兎も角、明子との対比として描かれる。百合子は一郎に対して好意を抱いてをり、結婚の決意を告白した夜、一夜限りと抱かれる。そのシーンの、まるでプロテクターのやうな物凄いデザインのブラジャーは一体何処から持つて来たのか。
 日高ゆりあは茂の同級生で、茂は恋人のつもりの桜沢類子。茂は、大学を卒業し就職したら直ぐにでも結婚するつもりでゐたのだが、職業婦人に憧れ新聞記者を志望する類子には、その気はさらさら無かつた。類子は茂の他に、カメラマンの土谷(樹)とも交際してをり、土谷と寝てゐるところに折悪しく訪ねて来た茂を、あつさりと袖に振る。偶々かも知れないが、新作で樹かずを見るのは久し振りでもあるやうな気がする。長いキャリアからすると私よりも年上であらうかとも思はれるが、何時までも若い。日高ゆりあに話を戻すと、池島ゆたかは“林由美香に似てゐる”などといつてゐるが、個人的には寸詰まりの横浜ゆきに見える。
 クレジットには特別に断りは無いが、“特別出演”といふことらしい水原かなえは、明子の同僚・光枝。恋人と同棲を始めたことを自慢気に明子に告白する。自由を謳歌する姿を、百合子とは別の形で矢張り明子との対比として描かれる。因みにワンシーンのみの登場で、別に脱ぎもしない。因みに、吉原あんず―元ピンク女優、一本のみとはいへ―も勿論脱がない。再び何が勿論なのか。
 出演者クレジットは無いままにそこそこ出番も台詞もある、池島ゆたかは百合子の父。一郎と二人でバーで飲みながら、新人の長嶋茂雄が活躍するラジオのナイター中継に耳を傾けるといふシーンがあるのだが、一郎が松田を百合子の父と知つて付き合つてゐるのかどうかは不分明。大場一魅は歌声喫茶の・・・お姉さん、といふことにしておかう。桜井明弘も同じポジションで歌を披露する。茂木考幸は、歌声喫茶でビラを配る男。他に若干名が客要員として見切れる。歌声喫茶のシーンは、セメントマッチ御用達の荻窪グッドマンにて撮影。
 あくまでメインは明子を中心に据ゑて一郎と栄子を絡めたホームドラマなので、その限りに於いては脇でしかないのだが、聡役の平川直大が良かつた。中卒で集団就職して来た当初は、給料を貰へるだけで満足してゐたが、現在では処遇の不公平さに直面し、組合活動に身を投じてゐた。一郎からの圧力に負け専務発の縁談に屈しかける明子に対し、家制度の終焉と、結婚の主体はあくまで当の個人たるべき新時代とを熱く説く。この、新時代の理想に燃える若者といふ役柄は、ややもすると嘘臭く、もしくは白けてしまつたりしがちなところでもあるが、平川直大といふ役者は、観客の心に飛び込んで来る突進力を持つてゐる。丁寧に撮り上げられた今作の中に於いて、地味に難しい役柄を見事に結実してみせた平川直大の好演、あるいは熱演が一際心に残つた。
 とはいへ、終始誠実に撮られてゐるだけに、惜しい瑣末を二点。公園のベンチに座つて、一郎と類子とが話をするシーン。一郎が箱ピースに火を点けようとする、ところまではいいのだがライターを手から零す。それを一々撮り直すことも叶はない程、ピンクといふものは切迫した状況の中で撮られてゐるのであらうか。もう一点。明子と栄子とが、洗濯物を畳みながら世間話をするシーン。明子はワイシャツを畳みかけたまま中座するのだが、そのシーンが、どうにも春咲いつかが実際にはワイシャツがキチンと畳めない、やうに見えたのは私の気の所為か。
 一郎が持つて来るも、一目見るなり明子が全く気の乗らない風情を露にする縁談の見合写真に、宣材写真を流用した神戸顕一が見切れてゐる。

 その筋―どの筋だ―では誰しもが知つてゐることではあるが、今作撮影の清水正二と、一般映画のフィールドで活躍する志賀葉一とは同一人物である。


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 「乱れ三姉妹 うねる萌え尻」(2006/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:茂木考幸/撮影助手:岡部雄二・下垣外純/監督助手:中川大資/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/挿入曲『淋しさいろの秋』作詞・作曲:桜井明弘/出演:池田こずえ・森田りこ・朝丘ひらり・竹本泰志・津田篤・本多菊次朗・国沢☆実・茂木考幸・中川大資・牧村耕次・原田なつみ・神戸顕一)。出演者中、茂木考幸・中川大資と神戸顕一は本篇クレジットのみ。
 池島ゆたかが自ら公言してゐるところによると、韓流映画「誰にでも秘密がある」(2004/監督:チャン・ヒョンス)の翻案とのこと。劇中に、DVDも見切れる。尤も、当サイトは勿論「誰ヒミ」の方を観てゐないので、その点に関しては潔く通り過ぎる、何がなんだ。
 主演は早川三姉妹、が、父・健の遺したズバットスーツの装着者の座を巡り過酷な訓練と残酷な試練とに鎬を削る、物語では当然ない   >黙れ
 中島姓である長女のさやか(朝丘)は産婦人科医の俊介(本多)と結婚し家を出るも、現在セックスレスに悩む。次女のともえ(森田)は、27にして未だ処女の堅物大学院生で、性に奔放な三女・ユイ(池田)を全く理解出来ない。とはいへ、一方で運命の人との出会ひは頑なに信じ、その日に備へてユイが性技を磨く参考に溜め込んでゐたAVを―無断で―拝借し、ぼちぼちセックスの勉強も始めてゐる。ユイは自らの容姿に絶対の自信を持ち、フリーターの坂上保(津田)といふ彼氏がをりながら、常にもつと上の男がゐまいかとギラギラしてゐる。歌手として荻窪グッドマンのステージにも立つが、歌はウルトラ下手糞であつた。これは単なる劇中設定に止(とど)まらず、素でどうしやうもなく下手らしい。
 ユイは、客として来てゐた外資系商社マンの篠津(竹本)と出会ふ。顔も身長も財布の中身も、全てに於いて保を上回る篠津にコロッと乗り換へ、ユイは保をあつさり捨てる。妹のAVをテレビごと毛布を被つて隠れ見るともえは、AV男優の加藤ならぬ佐藤鷹(も竹本泰志)に夢中になる。ある日、電車の中で憧れの鷹さんこと本名・天野に出会ふ。天野に誘はれるまゝに、ユイはホテルについて行く。ある日さやかが帰宅すると、家の中には侵入した暴漢(不明)が。向かひのマンションの塗装工事をしてゐたといふ、上甲斐(だから更に三役目の竹本泰志)がさやかの窮地に助けに入る。さやかも、上甲斐と恋に落ちる。
 とかいふ、早川三姉妹の前に竹本泰志がそれぞれ名前と職業を変へ現れては、要は誑し込んで行くといふストーリーである。そこまでが「誰ヒミ」をトレースしてゐる節は―イ・ビョンホンが名前と職業を変へるのかどうかは知らないが―何となく判るものの、(以下ネタバレにつき伏字)<竹本泰志は既に死者で、同じく既に鬼籍に入る三姉妹の父親(牧村)が、娘達に真の恋愛を教へるために天国から遣はせたものだつた。篠津・天野・上甲斐をバラバラにして並び替へると、上野津甲斐天篠“かみのつかひのてんし”。>といふのは、オリジナルもさういふ趣向なのであらうか?
 配役残り、国沢☆実はともえの先輩だか教師だかの宇田川。フィルムセンターに成瀬(巳喜男)を観に行かないかと、ともえを誘ふが断られるシークエンスは泣かせる。原田なつみは三姉妹の母親。演出部から茂木考幸は台詞もそこそこ与へられる保の友人で、中川大資がホンモノの佐藤鷹。判り易く伝へると太らせたのび太君、とでもいふべきルックスで、<竹本泰志が天に帰つた>ラスト、ビデオで憧れの鷹さんを見よう、としてゐたところに中川大資が登場し、ともえが唖然とするカットは笑かせる。
 神戸顕一は、ともえが見てゐるAVの中にAV初出演の男優:神戸顕一として出て来る。映像が有り物であることは兎も角、何時撮影された何であるかは全く判らず。
 どうにも華のない森田りこや、イマイチ女優として早くも天井が見えて来た感のある池田こずえは兎も角、上甲斐と恋に落ち何だかこの頃魅力的になつて来たさやかに欲情した俊介が、台所に立つたまゝの妻と強引に後ろから事に及ぶ絡みは抜群にエロく、素晴らしい。


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 「黒下着の好きもの女医」(2005/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:長谷川卓也/照明:ガッツ/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:伊藤一平/撮影助手:平原昌樹/監督助手:中川大資・泉知良/出演:三神サラ・池田こずえ・結奈美子・竹本泰志・本多菊次郎・津田篤・神戸顕一・原田なつみ・山ノ手ぐり子・久保新二・牧村耕次/特別出演:持田さつき・山口真里・岡島真一)。出演者中本多“菊次郎”は、ポスターでは本多“菊次朗”。クレジットによる誤植と思はれる、随分な話だが。
 内科医の大森智子(原田“重戦車”なつみ)を母に持つ弥生(三神)は精神科医を志すが、智子からは自分の医院を継げと反対される。内科と小児科の勉強もする、といふことで弥生は精神科医になる承諾を得る。ところが、弥生が念願叶ひ大学病院勤務の精神科医になつて二年、智子は急逝してしまふ。仕方なく弥生は、智子の医院を継ぐ。中々上手くは行かぬ医院の経営に弥生が頭を悩ませる中、弥生の医大受験前には既に家を飛び出し以来海外のあちこちを放浪してゐた、自由奔放な妹・葉月(池田)が急に舞ひ戻つて来る。さういふ、ピンク版「イン・ハー・シューズ」である、といふのは猛烈な嘘   >デスれ
 凄い映画である。弥生が葉月の悩みを、智子の代からの看護士・三上(竹本)に打ち明ける時点で既に割れてしまふ、底の浅いサイコ・サスペンスは兎も角。誰に似てゐるのか強ひていふならば電気グルーヴの石野卓球似の、器量が十人並―以下―のところまでリアルな、三神サラのヒステリー演技を何度も何度も延々と繰り返すやぶれかぶれな演出は、観客を不快にさせる以外に一体如何なる意図があるのか甚だ疑問ではあるが、そんなこんなも最早どうでもいい。凄いのは、弥生の医院の受付・ミホ役の結奈美子。何はともあれ、結奈美子が凄い。もしも貴方―あるいは貴女―が曲がつた映画が時に観たくなつてしまふ口であつたならば、是非とも彼女の名前は覚えておいて頂きたい。結奈美子、別の、もしくは逆の意味でのみ必見である。一体何処からこんな女拾つて来たんだ。顔、体、要は首から上も下も全部、そして何よりもそのザル芝居。全てが三十年以上以前の、三十年以上以前以下の水準。映画をその登場シーンだけ、一息にタイムスリップさせるといふ四次元殺法の荒業を見せる。出て来た瞬間から眠気は覚め、口を開いて台詞が出て来た途端に明後日の意味での興奮は頂点に達し、服を脱ぐとグルッと一回りして感動した。濡れ場すら古めかしい濡れ場を見せる、ある意味逸材。とはいへ人並み以上に優れてゐるとかいふ訳では勿論ない。逸脱した素材である、といふ意味に於いてである。もう一度いふが、一体何処でこんな女捕まへて来たんだ!?   >結奈美子は、調べてみるとフリーのストリッパーであるとのこと。序に三神サラは、新宿TSミュージック所属の矢張り踊り子さん。要は、共に本職の女優ではないといふことでもある。

 津田篤はミホの彼氏・和彦。仕方がないので本多菊次郎と神戸顕一は、それぞれ葉月が家に引つ張り込む中里とサミー。生身の―現場に参加しカメラの前で演技する―神戸顕一が池島ゆたかの映画に出演するのは、少なくとも現時点に於いては今作が最後となる。サミーは「痴漢電車 誘惑のよがり声」(2003)のスイカ二号こと八幡と殆ど全く同じ役作りのギタリスト、一歩間違へれば、衣装も同じものであるのかも知れない。ギターケースにホワイトテープで、“サミー”と書いてしまふ安普請さが如何にもピンクである。そんないい加減なこと、いつそのこと別にしなくてもいいのに。山ノ手ぐり子は弥生の大学時代の先輩で精神科医・仁科。今更ではあるが、山ノ手ぐり子といふのは脚本家・五代暁子の別名である。ピンクを観始めた頃は、伊藤清美と見分けがつかなかつた、といふことは内緒である。久保新二と牧村耕次は先代からの常連患者、田中と橘(立花かも)。
 本篇クレジットには三人名前が並ぶ特別出演の内、オッパイも披露する持田さつきは<解離性人格障害>―ネタバレにつき伏字―から回復して医院を再開した弥生の患者として確かに登場するが、残りの二人は、少なくとも私が観た上映プリントの中には影も形も出て来ない。因みにこの三人の内、ポスターには持田さつきの名前しか見られない。


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