真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「義父の愛戯 喪服のとまどひ」(2006/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影監督:小山田勝治/助監督:横江宏樹/編集:《有》フィルム・クラフト/スチール:佐藤初太郎/監督助手:小山悟/撮影助手:市川修/照明助手:田中康文/音響効果:梅沢身知子/録音:シネキャビン/音楽:レインボーサウンド/現像:東映ラボ・テック/撮影機材:シネオカメラ/照明機材:タイガーワン/協力:佐倉萌・城定秀夫・てつや/出演:矢藤あき・あらい琴・平川直大・丘尚輝・葉月蛍・久須美欽一)。出演者中、葉月蛍がポスターには葉月螢、逆のケースはまゝあるものの。
 まづ第一に今作は、兎にも角にも一言に尽きる。主演の矢藤あきが、まあ和服似合はねえ・・・。といふか、髪をアップにしただけで、どうして斯くも鮮やかに魅力が激減してしまふのか。これは試みに鏡を覗いてみた時点で、潔く軌道修正するべきであつた。ど初端に躓いたきり、終に最後まで挽回出来なかつた。
 篠田保子(矢藤)は体調不良も伝へられるだけに縁起でもない、のかも知れない義父・行雄(久須美)の葬儀を終へる。だからどうにもかうにも、和装の喪服が恐ろしく似合はない。行雄の実息にして保子の夫・祐一(平川)は、外に女を作り家を出て行つたきり、数年来消息不明であつた。保子の恋人・青井邦明(丘)は、さういつた場合裁判で離婚が成立し得る旨保子に説く。行雄は、多額の財産を遺してゐた。そんな中、遺産目当てで祐一が不意に帰宅する。当惑する保子を、祐一は勝手を知つた菊穴責めで篭絡する。更に、保子と祐一とでなかなか見つからぬ財産関係の書類を整理してゐたところに、今度は行雄の愛人の娘を名乗る竹内仁美(あらい)が乗り込んで来る。だが然し、仁美の正体は、実は祐一の情婦であつたのだ。祐一と仁美は保子を裸に剥き縛り上げると、鞭打ち利尿剤を飲ませ、とはいふものの実質的には甚だ中途半端なSM責めで、遺産の相続権を放棄する書類にサインを無理強ひする。
 義父の遺した財産を巡り翻弄される美しい喪服妻、といふコンセプトなのではあらうが、繰り返すが兎にも角にも矢藤あきに喪服が似合はない。加へて、加藤義一には岡輝男と手を切れとまではあへていはないが、四番手五番手以降ならば兎も角、ただでさへデフォルトでミニマムな製作体制の中で、主要キャストに丘尚輝を起用する怠惰は排して頂きたい。腕も真心も十二分にあるとは思ふのだが、加藤義一はもう少し、あるいはまだまだ、ギラギラして映画を撮つてゐてもいいのではないか。
 配役残り葉月蛍は、祐一と仁美に窮地に立たされた保子を救ふべく現れた、青井が連れて来た弁護士・中澤陶子。而してその正体は、今度は陶子は陶子で青井の情婦であつた。青井と陶子は、初めから保子が相続するであらう行雄の遺産を目当てにしてゐたのだ。似たやうな、といふかほぼ同じ展開を使ひ回してゐる風にも映る、実際さうなのだけれど。保子―と行雄―以外の出て来る人間が全員悪人―四人しかゐないが―といふリアル「渡る世間は鬼ばかり」は、加藤義一の堅実も相俟つて手堅く纏まつてゐる。中盤発見される盗聴器に関しては、如何せん流石に登場人物が少な過ぎて、初めから誰の仕業であるか明白ではあつたが。
 矢藤あきの似合はぬ喪服に象徴される今作は、全体的には野球に譬へると外野フライ、といつたところなのだが、ラストは見事に決まる。行雄が秘かに保子に遺した真心の件は、これぞ正しくピンク映画ならではの美しいシークエンス。行雄の真心を受け取り、キャリーバッグ片手に保子は街を去る。画面奥に歩いて行く後姿のラスト・ショットから、エンド・クレジットに切り替はつた後も小気味いい足音がコツコツと続いて行く演出も、情感豊かに上手く締めてゐる。

 行雄の死後直ぐに現れなければならなかつたものが、作劇の帳尻合はに従ひ、事故に遭ひ意識を失つてゐた。とかいふ凄い方便で、頭に判り易い包帯を巻き登場する遺言状を持参した弁護士は、・・・・・これ城定秀夫ぢやないよな。となると、てつやか?どの“テツヤ”なのか。佐倉萌はあらい琴のアテレコと、矢藤あきの喪服の着付けを担当する。


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 「淫らな果実 もぎたて白衣」(2006/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影監督:創優和/助監督:横江宏樹/音楽:レインボーサウンド/監督助手:小山悟/撮影助手:柴田潤/照明助手:小松麻美/選曲効果:梅沢身知子/編集:フィルムクラフト/出演:新川舞美・佐々木基子・鏡麗子・柳東史・平川直大・丘尚輝・久須美欽一)。
 戴帽式を終へたばかりの新米看護婦・岡本かれん(新川)は、けふも意識を取り戻さない入院患者の津村房子(佐々木)に、自作の童話や運命の出会ひを信じる将来の夢などを語りかけてゐる。ある日、切痔の診察で肛門に指を突つ込まれ―そんなことするの?―悶絶する男性患者・塩野義健(柳)を見初めたかれんは、運命の出会ひを確信する。数日後、街でかれんは再び健を見掛ける。自分がひつたくりに遭ひ、そのひつたくりを健が捕まへる、等ときつかけを自分の中で摸索してゐると、健が感動的に素晴らしいテンポでひつたくりに遭ふ、ひつたくり役は不明。慌てた健は、転倒し後頭部を強打、かれんの人工呼吸も空しく、意識不明のままかれんの勤務する病院に入院してしまふ。それから勤務中、かれんはついつい病室のベッドに意識を失つたままの健にキスをしてしまふ。ちやうどその場に現れたのは、健の父・清作(久須美)。何をしてゐるんだと騒ぎになるも、意識を取り戻した房子の機転により、かれんは健の婚約者であるといふことにして何とかその場を切り抜ける。
 かれんが運命の出会ひを感じる度に、運命の王子様とかれんの髪とをそよがせる爽やかな風を吹かせてみたり、かれんがジュン♪となる度に果汁を滴らせる果実のイメージがインサート―横山まさみちかよ!―される、意識的な時代錯誤コメディである。ある程度以上の確かな技術と堅固な意思とを以てして初めて、叶ふ芸当でもあらう。要は概ね、適当に作つて関根和美が仕出かしてしまつてゐるジャンルでもある、身も蓋も無いが。尤も加藤義一も、今回パーフェクトに成功を遂げてゐる訳では必ずしもないのだが。
 かれんのことでは実際にはないものの、健には現に婚約者がをり、結婚後は妻を亡くした清作と同居する予定になつてゐた。その為、かれんは成り行きで清作の家に転がり込むことになる。さうしたところ、何と清作はついついかれんと寝てしまひ、かれんもかれんでコロッと清作に運命を感じ転んでしまふ。さうなると、かれんにしても清作にしても、健に意識を取り戻されては厄介だ。清作に至つては、意識を取り戻した息子をスリッパで引つ叩くと再び卒倒させてしまふ。さうかうしながらも、終に健は再び意識を回復する。そこに現れたのは、健の本当の婚約者・大塚すみれ(鏡)。津村に塩野義に大塚、最早説明は要すまい。すみれは健の会社の取引先の社長令嬢で、仕事の関係で仕方なく婚約してしまつたものの、派手派手しく高飛車などうしやうもない女であつた。健はすみれから逃れる為に、記憶喪失のふりをしてかれんに求婚する。
 とここまでは、一箇所明らかに編集の順番を間違へたやうな場面があつたりしながらも、都合よく失はれたり回復したりする健の意識を軸に、かれん・健・清作、序にすみれの四角関係が見事に出来上がり、コメディの展開としては満点であつたのだ。ところが、そこから先が頂けない。かれんを巡り、健と清作は父子でいざこざを起こす。体がもつれ健の車椅子でスロープを二人揃つて逆走しクラッシュ、そのまま二人とも意識を失つてしまふ。又かよ、電灯を点けたり消したりするのとは訳が違ふんだぞ。そこに偶々現れたのは、健の弟・康(平川)。呆れ序に書いてしまふが、何とこの映画のラストは、かれんが今度は康にジュン♪となつてしまひ、康と結婚してしまふのである。何だよそれ。ハッキリいふが、折角構築しはしたものの、どう収束させればよいのか判らなくなつてしまつた四角関係を、半ば放棄するやうな形で取つて付けた、康の登場で強引にお茶を濁したやうにしか見えない。このやうな締りの無い展開では、オチのひとネタも単なる蛇足に思へる。

 丘尚輝は、医師の赤十字正弘。意識を失つてゐた房子にあれやこれやと手を出し、そのことをネタに、意識を取り戻した房子に蹂躙される。といふ訳で今作は、ピンク版「トーク・トゥー・ハー」(2003/西/監督・脚本:ペドロ・アルモドバル)である。といふことは、更に元ネタは「ハード・トゥ・キル」(1990/米/主演:セガ)か?   >与太ばつか吹いてんぢやねえ!
 ラスト・シーンに、オチ要員のインターン・袴田役としてもう一名登場、誰だか全く判らない。加藤義一も、かれんの尻を触る、トラックスーツのやうな黄色いジャージを来たセクハラ患者として序盤に見切れる。


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 「美肌教師 巨乳バイブ責め」(2005/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影監督:小山田勝治/編集:フィルム・クラフト/録音:シネキャビン/助監督:竹洞♀哲也/撮影助手:邊母木伸治・藤田朋則・田嶌誠/監督助手:小山悟/スチール:佐藤初太郎/音楽:レインボーサウンド・OK企画/効果:梅沢身知子/タイトル:阿佐ヶ谷兄弟舎/現像所:東映ラボ・テック/出演:矢藤あき・華沢レモン・風間今日子・松浦祐也・なかみつせいじ・丘尚輝・山口真里・持田さつき・横須賀正一・安達守・伊藤祐太・井上明日香・山川たまき・越智徹)。出演者中、安達守以降は本篇クレジットのみ。
 高三の夏、高橋翼(松浦)の担任・鈴木(後述)が夏休みを前に交通事故に遭ひ長期入院、代理担任としてやつて来たのは、メガネが堪らなくキュートでドガンとブラウスを盛り上げたオッパイ―但し人造―も悩ましい、桜庭圭(矢藤)だつた。幼い頃両親を亡くした翼は、叔父夫婦に引き取られ育てられる。その後、仕事の都合で叔父夫婦はブラジルに移住。現在は、高校卒業までといふ条件で翼は叔父が日本に残した一軒家で独り暮らしをしてゐるものだつた。生活費は自分で工面するやう決めてゐた翼は、部屋を間貸しして家賃収入を得ることに。不動産屋には男限定といふ募集をかけてゐたのに、いざ現れた間借人は何かの手違ひで、大阪から越して来たばかりの圭だつた。翼は一度は追ひ返さうとするものの、金がないといふ圭に哀願され、自身も圭の色香にすつかり惑はされてしまつたのもあり、周囲には絶対秘密にする、といふ条件での同居生活をスタートしてみる。
 世間にはひた隠しての、男子高校生と一夏の代理担任との同居生活。古典的とすらいへなくもない設定の定番ラブコメを、例によつて加藤義一は丁寧に心を込めて仕上げる。翼のウハウハな夢色あるいは桃色の同居生活が、臆面もなく夢オチ妄想オチも駆使しつつ、松浦祐也のはつちやけ演技を通して描かれる。決して時代を超える決定力を有した必殺の名作、といつた訳では別にないのだが、六十分(弱?)をしつかりと楽しませる。お話自体は古色蒼然たる代物なのに、少しも飽きさせない。終始楽しく観させ、盛り上がるべきところはしつかりと力強く盛り上げ、二つ三つと巧みに張つた伏線も綺麗に回収する。そこには時代に対して明確に挑戦する意識も、全く新しい機軸も強烈な作家性もありはしないが、これぞ正しくプロの仕事、良心的な職人仕事といへよう。堂々と好き嫌ひで物をいつてのけるが、私はかういふ誠実で論理的な娯楽映画が最も好きである。更に筆を滑らせると常々国映偏重主義者を執拗に叩き続けてゐるのには、さういふ理由もある。彼奴等シネフィルの偏向は、プログラム・ピクチャーとしてのピンク映画にとつて決してためにはならぬ、小生の節穴には歪んだものと映ずる。
 華沢レモンは翼の、男言葉を使ふ同級生・桃園薫。金持ちの箱入りで成績も良いが、いい子いい子であるやう求められ続けるのに嫌気を差し、学校には来たり来なかつたりしてゐる。この、“いい子いい子であるやう求められ続けるのに嫌気を感じて”といふ造形が、後に張られた伏線に巧みに繋がつて来る。何だ、やれば出来んぢやん   >岡輝男>>コクトーや八木重吉を引用してもみせる
 話は逸れたが、華沢レモンは矢張りいい、実に素晴らしい。男言葉を使ふ普段のボーイッシュと、圭に悶々とする翼―実は薫は想ひを寄せる―に、予行演習させてやるよと身を任せる件に於いては、威勢良く自分から誘つておいて、いざといふ段になると可憐に恥らふ少女の貌も見せる。在り来たりだなあ、などといふこと勿れ。自由自在な華沢レモンの演技幅に巧みに乗せられてゐる内に、こちらのエモーションは加藤義一の演出の意図する通りにコロッと操られてしまふ。丘尚輝は、大阪在住時の薫が遠距離恋愛してゐた東京のサラリーマン・梅宮浩介。薫は、梅宮を追ひ大阪から出て来たものであつたのに、梅宮には妻・和美(風間)がゐた。柱の陰から梅宮を覗き見る薫の前で、梅宮と、駅まで夫を迎へに来た和美とがランデブー。「ご飯にする?お風呂にする?それともエロ?」と問ふ和美に対し、「エロー♪」とポップな梅宮のシャウト   >かういふ底の抜けたポップ感は全く何時もの岡輝男>>だから丘尚輝と同一人物
 美肌と教師と巨乳は兎も角、バイブ責めが一向に出て来ないなと思つてゐたら、ラスト一つ前の濡れ場でスパークさせて呉れるなかみつせいじは、セクハラ学年主任(推定)の灰島英雄。梅宮に妻がゐた事実に荒れ痛飲し帰つて来た圭を、次の日翼は気晴らしに川原へと誘ふ。学校には同居してゐる旨当然極秘の二人の姿を、車の中から灰島が目で追ふ。カットの変り際、全く映らない助手席に向かつて「ぢや、行かうか」。一体誰が乗つてゐたのか何時まで経つても全く出て来やしないゆゑ、又岡輝男のへべれけに仕出かされたか、と諦めながら観てゐるたところ。最後の最後に真相が明かされ、伏線の回収が、そのまゝドラマ本体の解決に直結する。だ、か、ら。何だ、やれば出来るのなら新田組でも毎回頼んますよ   >岡輝男

 出演者中、持田さつき以降は生徒要員。持田さつきも山口真里にも、ともに絡みはなし。国語の時間に朗読を指名される持田さつきにのみ、青木といふ名前も与へられる。ところで、持田さつきが女子高生?下手すればダブルスコアぢや効かないぞ。スルーしようかとも思つたが、流石にこれは見過ごせない。夏休みが明けるとあちこち包帯でグルグル巻きで強行登校して来ては、誰も聞いちやゐない授業をする鈴木先生を、ラストシーンに相応しい類型的なさりげなさで好演してゐるのはあれは誰であらうか。再見してみても、竹洞哲也には見えない。
 加藤義一の映画といふと、音楽はレインボーサウンド(従来は専ら新田栄監督作品の音楽担当)と相場は決まつてゐるのだが、その割にはOK企画(専ら小川欽也・和久~以下同)の音源が使はれてゐる。と思ひながら観てゐると、クレジットを見れば両方併記されてあつた、あまりよくある例ではない。


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 「痴漢電車 ゆれて密着お尻愛」(2005/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:小山田勝治/助監督:竹洞♀哲也/監督助手:絹張寛征/撮影助手:大江泰介/照明助手:吉田雄三/音響効果:梅沢身知子/音楽:レインボーサウンド/出演:矢藤あき・KAEDE・小川真実・柳東史・色華昇子・丘尚輝・松浦祐也・久須美欽一)。
 未だ決定力のある傑作こそモノにはしてゐないものの、デビュー以来良心的で水準の安定したピンク映画を量産し続ける加藤義一の新作。山邦紀をエースとする―そんなことをいつてゐるのも私だけかも知れないが―ならば、オーピー五番打者を担ふに最早十分であるのかも知れない。
 橋本弘(松浦)と“ブンちやん”こと浜口文造(柳)は、同居しながら日雇ひに憂き身をやつしてゐる。ある日揃つて仕事にアブれた二人は、電車に乗り込むと趣味の痴漢に興じ、二人がかりでOLの三田絵里(KAEDE)を責める。弘が少し離れた所に立つ水野千春(矢藤)に一目惚れし見蕩れてゐた隙に、文造は絵里と二人だけでシケ込んでしまふ。不貞腐れた弘が歩いてゐると、本名平沢彦造なのに、何故か“ナベのじいさん”と呼ばれる路上生活者(久須美)から声をかけられる。生き別れた息子に弘がソックリなので、自分の息子のふりをして呉れないか、といふのである。一度は断つた弘であつたが、文造からナベ爺が大金をゴミ捨て場で拾ひ持つてゐるらしいことを聞き、その金目当てで話に乗ることにしてみる。さういふ次第の瓢箪から駒、あるいは嘘から誠が出る偽装家族もの。ひよんなことから集まり動き出した、ひとつの偽りの家族。一旦は上手く行くやうに見えつつも、やがては再び全て離れ離れに。だけれども桜の花咲くラストには・・・・(物語の序盤は夏)、といふ今回も手堅く心を込めて纏め上げられた、良質のエンタータイナメントである。
 小川真実は母親役の、ナベ爺が常連の食事処「ひかり」のママ・永井光子。色華昇子は、も光子の店の常連で、弘の妹役の―注:因みに色華昇子はお化けニューハーフ―山田勇子。自分も入れて呉れ、といひ出した勇子を弘の妹役にナベ爺があまり深く考へもせずに指名すると、「ええ?どう見ても俺より歳上ぢやん!!」、といふ松浦祐也のツッコミが笑かせる。イコール岡輝男の丘尚輝は千春のDV前夫・中島敬一。いひ忘れたが、弘は墓のセールスマンを始め千春を妻に迎へる。弘は当然千春と、ナベ爺はナベ爺で折角だからと光子と結ばれる中、現実世界に於いても、偽りの家族の中ですら爪弾きにされた格好となつたニューハーフである勇子のルサンチマンが、偽家族崩壊の要因となる。何だ、岡輝男書けば書けるんぢやん、相変らずお芝居の方はサッパリだが。
 ポスターでは矢藤あきが魅惑的な胸の谷間を披露、成程マンガのやうに立派なオッパイで、電車―セット―痴漢の件などでは肌蹴たブラウスからニョキーッと突き出したオッパイが非常に映える。ただし、全部引つ剥がしてみると、何のことはない、見事な改造乳でもある。

 以下は地元駅前にて再見を果たした上での付記< 電車内―の筈―の千春ファースト・カット。弘が一目で心奪はれた千春の魅力、あるいは色香を表現する為に、何と加藤義一はだから電車の車内だといふのに千春の髪を風にそよがせてみせる!この、鈴木則文ばりのポップ・センスは誰が何といはうと加藤義一の主力装備であると、当サイトは断固として推す。


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 「若妻ひとりH 夜まで待てない」(2005/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡揮男/撮影:創優和/照明:野田友行/助監督:竹洞♀哲也/監督助手:絹張寛征/撮影助手:原伸也/照明助手:吉田雄三/音楽:レインボーサウンド/効果:梅沢身知子/協力:サカエ企画/タイトル:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:KAEDE・風間今日子・華沢レモン・佐々木基子・岡田智宏・丘尚輝)。
 水準的なピンク映画を良心的に量産する加藤義一の新作。坂崎美和(KAEDE)は淳一(岡田)と結婚して半年、夫は仕事のストレスからインポになり悩んでゐた。マンション住まひの美和がある朝ゴミを出したところ、夫・公平(丘)が305号室に住んでゐた若いOL・木村みさお(華沢)と駆け落ちしてしまつた、自治会長の芝山邦子(風間)から分別が出来てゐないと口煩く注意される。部屋に戻つた美和は、夫に抱いて貰へぬ寂しさから胡瓜でオナニー。その模様を、夫の浮気相手を探す為にマンションの全室に隠しカメラを仕掛けてゐた、邦子にモニタリングされる。夫の浮気相手を探す為にマンションの全室に隠しカメラを仕掛ける、そこにツッコミを入れるのはひとまづ禁止だ。オナッてゐる最中の美和を、邦子は狙ひ清まして不意に来訪。美和は邦子に誘はれるままに、オナニー友達になる。一方、淳一がインポになつたのは、仕事のストレスからなどではなかつた。仕事のストレスどころか淳一は実はリストラされてしまつてをり、美和にもそのことを打ち明けられず、給料日にはサラ金から金を借りてまで誤魔化してゐたのであつた。淳一は、サラ金から金を借りてゐるところを大学の先輩・鬼頭鈴子(佐々木)に目撃される。淳一のことを調べてゐた鈴子に誘はれるままに、淳一はアルバイトをすることになる、ざつとさういふストーリーの一作。
 折角なので、もうこのまま最後まで御紹介する、何が折角なのだ。邦子が新発売になつたバイブを、美和の下にも持つて来る。美和は忽ちそのバイブの虜に、だが然し、その快楽にはどこか懐かしさがあつた。実はそのバイブは、鈴子が淳一のイチモツを元に型取りして製作したものだつた。バイブの元型が夫のモノであることに気付いた美和に、淳一は終にリストラされてゐたことを告白。美和は淳一を優しく抱(いだ)き、淳一の男性機能は回復する。淳一に抱かれた翌朝、美和はバイブをもう要らないと捨てることに。一方、邦子もバイブを捨てに来てゐた、公平が戻つて来たのであつた。二組の夫婦が、しつぽりと熱い夫婦生活を交すのがラストである。
 と、全てトレースしてしてしまふと正にそれだけの始終であつたりもするのだが。所々大無茶もあるピンク色のホームドラマを、加藤義一は心を込めて丁寧に撮り上げる。その至誠、もとい姿勢は最大限に評価出来よう。水準的なピンク映画を良心的に量産する加藤義一。それは今はあくまで“水準的”、であつたとしても、何時の日か加藤義一が、加藤義一の「淫タク」を、即ち必殺のマスターピースを撮る日が来ることを、私は夢想したい、地力は既に十分にあるのではなからうか。


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 「痴漢狂騒曲 過激タッチ合戦」(2003『痴漢電車 快感!桃尻タッチ』の2005年旧作改題版/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:図書紀芳/照明:岩崎豊/編集:フィルムクラフト/助監督:竹洞哲也/録音:シネキャビン/監督助手:大滝由有子・山口大輔/撮影助手:吉田剛毅/照明助手:青木浩/スチール:佐藤初太郎/音楽:レインボーサウンド/現像:東映ラボ・テック/出演:佐倉麻美・林由美香・風間今日子・相沢知美・丘尚輝・城定夫・NYN・銀治軍団・森角劇団・色華昇子・なかみつせいじ・兵藤未来洋・平賀勘一)。出演者中、NYN・銀治軍団・森角劇団は本篇クレジットのみ。
 安保紛争に日本が揺れてゐた祭りの時代、等々力虎彦(なかみつ)は本気で時代の変革を信じて、池田鶴二郎(平賀)はどさくさに紛れての痴漢三昧に興じるべく、ひとまづ共に闘つてゐた。時は巡り現在、痴漢の元祖といへば、西に裸で馬に跨るゴダイヴァ婦人を覗き見て失明した仕立て屋のトム、東に御存知出歯亀こと池田亀太郎。実は亀太郎の血を引く鶴二郎は、痴漢道の“触道”を提唱。日本のために働く職業婦人のストレスを痴漢で解消する、だなどといふ調子のいい題目の下に、日夜痴漢に勤しむ。官憲の道に進んだ虎彦は痴漢Gメンとして鶴二郎を執拗に追ひ狙ふが、未だ捕まへられずにゐた。けふもけふとて、混雑する電車の車内、鶴二郎が岩崎こずえ(風間)の秘裂に指を這はせる。“黄金の指”の異名を持つ妙技で鶴二郎はこずえを絶頂に後一歩のところまで導きつつも、虎彦の気配を察し姿を消す。現行犯逮捕しそびれた虎彦と、嘯く鶴二郎。虎彦とひとまづ別れたところで、鶴二郎はこずえに捕まる。是非とも先程の続きを、といふのである。民家にしか見えない建物を、ホテルと称して二人はしけこむ。一方鶴二郎の一人娘・さくら(佐倉)は、交際相手である大学講師の亘(兵藤)とは結婚を考へぬでもなかつたが、二人の間には重大な障壁が横たはつてゐた。亘の父親といふのが、誰あらう鶴二郎の宿敵たる虎彦であつたのだ。二人の父親はどちらも頑として交際を認めず、まるで現代のロミオとジュリエットだと、二人は駆け落ちを決意する。二人飛び乗つた電車の車中、さくらと亘の陰部をそれぞれ弄る手が。互ひに互ひが痴漢して来てゐるものかと思ひきや、さくらを痴漢してゐたのは留学生のマシュー(城)、亘を痴漢してゐたのは同じく留学生のアニータ(相沢)であつた。留学先の異国でのディスコミュニケーションに悩んだものの、日本固有のコミュニケーション・ツールである痴漢との出会ひによつて新しい扉が開けた、とかいふマシューとアニータの言葉に亘は深い感銘を受ける。一人ついて行けず首を傾げるばかりのさくらを余所に、亘は触道への弟子入りを志願する。
 徒に拡げた大風呂敷に、鶴二郎と虎彦積年の因縁。加へてさくらの出生の秘密をも絡めた二世代間に亘る大河ドラマは、脚本だけ捕まへてみれば一体岡輝男は明日死んでしまふのかしらん、とすら思へてしまふくらゐに―未だ生きてるが―堂々とした出来ではある。とはいへ、残念ながら最終的な映画の出来栄えがどうなのかといふと、バジェット上不可避な部分を差し引いたとしても、なほ残る安つぽさが目立ちもする。物語の二本の背骨たる鶴二郎と虎彦に際して、なかみつせいじには些かの問題も遜色もないとして、平賀勘一が矢張り如何せん弱いか。下卑たいやらしさやコメディ演技はお手の物にせよ、場面によつては大真面目な芝居も求められる大娯楽映画の屋台骨としてはどうにも軽く、不足を感じさせる部分も多いと難じざるを得ない。なかみつせいじがモンタギューで、平賀勘一がキャピュレット。さういへば、何となくつり合ひが取れてゐない様子も汲み取つては頂けようか。鶴二郎と虎彦に関してはもう一点、移ろひ行く東京の街並みを眺めながら、祭りの時代を懐かしむ鶴二郎に対し、虎彦は「何をいつとる、祭りは終つてないぞ」。台詞としては非常にカッコいいのだが、これが全く単なるその場限りでの遣り取りでしかなく、依然引き続く祭り、乃至は闘争といふものが描かれてある訳ではない辺りは惜しい。それが触道即ち痴漢のことである、といふのであるならばピンク映画のテーマとしては兎も角、論理的には全く通らない。ほかでもない虎彦が、痴漢行為を肯定する訳がないからである。痴漢が日本固有のコミュニケーション・ツールである、などとする桃色の大風呂敷はさて措いて、亘に触道へ目を向けさせる契機となる留学生の二人が城定(秀)夫と相沢知美だといふのは、百歩譲つてもTV番組のコントにしかなりえまい。そもそもが、マシューだとかいひ出した時点で、その点に関してはとうに開き直つてゐるのかも知れないが。いづれにせよ、マシューとアニータとに触発された亘が、周囲も巻き込み痴漢の素晴らしさをヒップホップ風に高らかに謳ひ上げる件は、観てゐるこちらが恥づかしくて恥づかしくて仕方がなかつた。
 配役残り、丘尚輝は少林寺拳法の達人で、少林拳を痴漢に応用したウンピョウ。ウンピョウについてもマシュー&アニータと同様の安さがバーストするのはいふまでもないが、それ以前の大きな疑問が残る。そもそも少林寺拳法の達人といふ設定で、どうして李連杰ではなく何故に元彪なのか。林由美香は、ウンピョウと運命的な出会ひをする、同じく少林寺拳法の達人・薄井真樹。二人の少林拳を駆使したSEXバトルも、グルッと回つていつそのこと思ひ切り大掛かりに撮つてこそ、然るべき一幕であつたやうにも思へる。
 堂々としつつも同時に逃げ場なく薄つぺらくもある今作、勿論旧題時に故福岡オークラでも観てゐるが、今回改めて強く印象に残つたのは、佐倉麻美といふ人は実に濡れ場がいやらしい。特に即物的な色気に溢れてゐるといふタイプでもないのだが、濡れ場に入ると何ともいへない生々しいいやらしさを濃厚に漂はせる。短い実働期間を既に駆け抜けて行つた感も強い女優さんではあれ、また何時か何処かで過去の出演作を観る機会に恵まれた際には、注目して挑みたい。

 色華昇子から森角劇団までは電車の乗客と、公園で亘・マシュー・アニータと共に踊り狂ふ皆さん。いはれてみると、銀治が乗客要員の中にゐたのは確認出来た。ウンピョウが女々の間を渡り歩くと、少林拳の秘儀で昇天し倒れた女の轍が出来る、といふシークエンスは大変面白いが、轍の最後で、色華昇子が見たくもない乳を放り出してゐる。近いのか遠いのだかはさて措き、将来遂に―最速で―六十有余年ぶりの憲法改正の折には、痴漢電車で色華昇子をギャグに使ふのは明文で禁止にしよう。


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 「真珠夫人 脱がされた肉襦袢」(2002『いんらん夫人 覗かれた情事』の2005年旧作改題版/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:創優和/照明:野田友行/音楽:レインボーサウンド/助監督:竹洞哲也/監督助手:伊藤一平/撮影助手:宮永昭典/照明助手:藁部幸二・山本真吾/協力:睦月影郎・ゴジラや/出演:水沢百花・佐倉萌・相沢知美・竹本泰志・柳東史・なかみつせいじ・吉田祐健・坂入正三・丘尚輝・中村半次郎)。出演者中、中村半次郎は本篇クレジットのみ。
 どうでもいいが、箆棒な改題に思へてしまふのは気の所為か。旧題封切り当時に流行つてゐた昼メロのタイトルを大胆にフィーチャーするのは兎も角として、“肉襦袢”などといふのは、肥満した人間の余り肉、あるいはそれを模した一種の着ぐるみのことではないのか?
 開巻は、蕩けさうに肉感的な肢体を晒し横たはる主人公と、裸身に降り注ぐ真珠の粒々。幻想的で、美しいショットである。
 時は昭和二十年、敗戦を確信した情報将校の雨宮多聞(竹本)は職を辞するが、情報漏洩を恐れた内務省により特高(丘)に追はれる身となる。ある夜馴染みの女郎・お小夜(相沢)を抱いた雨宮は、燗をつけるとお小夜が席を外したところに怪老人・野呂恒夫(坂入)の不意の訪問を受ける。自分に任せて呉れれば逃がしてやる、といふ野呂を雨宮は初め取り合はなかつたが、後日、終に特高が女郎屋にまで踏み込んで来た際、逃亡する手引きをして呉れた野呂を、雨宮は信頼することにする。野呂が雨宮に持ちかけた話は、不能の野呂に代り陸軍少将・仙波藏人(なかみつ)の未亡人・珠子(水沢)を抱いては呉れまいか、といふものである。珠子は、亡き恋人の形見にして、古来より支那に「飲めば永遠の命を得る」と伝はる伝説の真珠“人魚の涙”を、女陰に埋め込んでゐると噂されてゐた。
 要するに「鍵穴 ~和服妻飼育覗き~」(1999)以降、深町章が折に触れ量産してゐるのとほぼ同趣向の、昭和初期、あるいは大東亜戦争敗戦前後を舞台とした猟奇ミステリーである。美術、乃至は撮影に根本的にバジェットを割けぬピンク映画にあつては、初めから負け戦のやうにも思へて来るものの、大ベテランの深町章を向かうに回しデビュー年にして早くも四作目となる加藤義一は、岡輝男(=丘尚輝)にしては余程上出来の水準的な脚本も得て、丁寧な作劇と全員とはいはないまでも力のあるキャストの力を借り、十・・・二分には満たないとしても一分くらゐまでには健闘してゐる。
 主演の水沢百花は、首から下も上もルックスには何ら申し分がないのだが、お芝居の方はどう贔屓目に見てもへべれけ。ただし切れ長の美しい目は切り取り方によつては妖艶な、あるいは毒婦然として見えなくもない。加藤義一と創優和もその点については恐らく承知のことと見え、要所要所で的確な表情を―恐らくは水沢百花的には勝手に―切り取つてゐる。与へられた素材の料理法としては、全く適切であらうかと思はれる。
 柳東史は、政略結婚で仙波に嫁ぐまでは、珠子の恋人であつた夏目蓮太郎。出征前夜、珠子に今生の別れを告げに訪れる。「これでもう、何の悔いもございません!」とカッコよく敬礼を決めるも、要はピンクなので結局珠子とセックスする。余談ではあるが、初めて小倉名画座を訪れた私が劇場内に足を踏み入れた際が、ちやうど珠子と夏目との濡れ場であつた。濡れ場が殊更にいやらしく見える小屋の雰囲気に、秒殺されてしまつた瞬間である。事が終り、身支度を整へる珠子に夏目は人魚の涙を差し出す。再び話は反れるが、このシーンで、恐らく実際には和服の着付けなど一人で出来ないであらう水沢百花は、間も保てずにモタモタと肌襦袢を弄んでゐるばかりである。演技、あるいは所作指導に大いなる改善の余地あるシーンなのでは。話を戻すと、夏目が人魚の涙を差し出したところに、折悪しく仙波が帰宅。妻の不貞に激怒した仙波は、軍刀で夏目を一太刀に斬り捨てる。ここでの、ドス黒い憤怒に震へるなかみつせいじの表情が素晴らしい。
 佐倉萌は、仙波家の女中・山内勝乃。夏目との不貞以降すつかり狂つてしまつた仙波により、縛り上げられた珠子の目前犯される。まあこのシーンの、思ひ切つた邪悪さ加減も天晴である。加藤義一は、アクセルの踏み加減を心得てゐる。さういつた辺りが、娯楽映画の良作を量産し得てゐるところの所以でもあるのであらう。吉田祐健は、珠子の女陰に真珠を埋め込む手術を施す、闇医者の多々良幸庵。坂入正三も固より、ベテラン勢の脇の固めぶりが頼もしい。さう考へると、水沢百花の演技力を等閑視しさへ出来れば、残るウイーク・ポイントはどう見てもらしくは見えない特高役の丘尚輝か。まあこの辺りは、どういつても詮ないことではあるが。まだしも助監督で国沢実が入つてゐた方が良かつたやうな気がする、それも無理か。

 中村半次郎は、戦後六十年を経た現在、今も街に珠子の姿を探す老人となつた雨宮役。この人のことでいいのかな?協力のゴジラやと睦月影郎も、一体何処に絡んでゐたのか。軍服その他の小道具関係?


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 「監獄のエロス 囚はれた肉体」(2002『牝監房 汚された人妻』の2005年旧作改題版/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:小山田勝治/照明:ガッツ/編集:フィルムクラフト/助監督:城定秀夫/監督助手:伊藤一平/撮影助手:大江泰介・赤池登貴/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/音楽:レインボーサウンド/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/協力:田中康文・サカエ企画・阿佐ヶ谷兄弟舎/製作協力:《株》旦々舎/出演:岩下由里香・小川真実・佐々木基子・林由美香・風間今日子・佐々木共輔・丘尚輝・なかみつせいじ/友情出演:竹本泰志・柳東史・佐倉萌・鈴木敦子)。正確なビリングは、丘尚輝(=岡輝男)となかみつせいじの間にカメオ隊を挿む。撮影助手の志が抜けた赤池登貴は、本篇ママ。
 期間にして十年、本数約九十本を数へる助監督時代を経ての加藤義一、満を持しての監督デビュー作である。加藤義一といふ人の恐ろしいところは、質的にも量的にも大蔵のエース格を担ふやうになつた現在に至つてなほ、未だに小川欽也や新田栄の助監督を普通に務めてゐるところである。偉い、といへば偉いのであらうか。
 舞台は刑務所が民営化された近未来、万引きの常習犯・松本木綿子(岩下)が収監された亜成女子刑務所―読みは推して知るべし―は、法務省の矯正局長・乾周一郎(なかみつ)と癒着した所長の二宮翔子(小川)が牛耳る、汚職と性暴力の温床であつた。
 刑務所に入所した主人公の、同じ囚人同士で芽生へた友情、一方牢名主に受ける理不尽なリンチ。時に看守の性暴力の餌食になりながらも、終には刑務所の不正を訴へるべく一致団結して暴動を起こし、自由の身となる。一言で片付けてしまふまでもない、紛ふことなき女囚映画である。予算は―基本―三百万、何はともあれそこから全てが始まり、撮影は三日間、女優と男優は三人づつ。さういふ初期的な制約が存するピンク映画といふカテゴリーの中にあつては、手を出さうにもなかなか生半可には手を出せないジャンルではある。小川真実以外の女優部はクレジットに名前の載らない更に数名まで含めて全員女囚役、といふ分厚い布陣を何とか揃へて、加藤義一は果敢にも真正面から女囚ピンクに挑戦してみせた。十年の苦節を経ての監督デビューに際しての、並々ならぬ意気込みがひとまづは感じられる。尤も、封切り、もしくは旧題公開当時はそれなりに満足して観てゐたやうな記憶もあるが、現在の眼で観てみると、その後のすつかり大蔵エース格にまで成長した、そして目下更に大成の可能性すら秘めつつある加藤義一の姿を見てゐるからかも知れないが、幾分ならず物足りなさも覚えた。バジェットの如何以前に、六十分といふ尺の制約もあるのかも知れないが、教科書通りの女囚映画を、それこそ教科書通りにひとつひとつ手順を踏まへながら撮つてみた、だけなのでもあるまいか、さういつた物足りなさも覚える。それこそ現在の加藤義一を知るから生まれる感想にせよ、身の丈に合はぬジャンルになんぞ無理して手を出さなくとも、普通のホーム・ドラマでもつと幾らでもいい映画を撮れるやうな気がしてしまふのである。
 主演は、工藤雅典の傑作「美人おしやぶり教官 肉体《秘》教習」(2001)でピンク映画デビュー、いきなり今でいふ“ツンデレ”を極めてしまつた岩下由里香。ガッシリとした長身や、気性の強さと情の深さとを感じさせるハスキー・ボイスが大変魅力的な、個人的にも大好きな女優さんである。とはいへこの後ピンクでは二本仕事をした後、どうやらピンク以外でもプッツリと姿を消す、残念無念。もうひとつ勿体ないのは、ピンク映画といふのは香港映画やスーパー戦隊シリーズと同様、台詞は後からアフレコしてゐる―無論その方が、安く上がるから―のだが、今作では、声を別の女優がアテてをり、スカーレット・ヨハンスンにも似た―あまりアテにはなさらぬやう―ハスキー・ボイスは堪能出来ない。因みに、アテレコの主は佐倉萌。
 配役残り佐々木基子は牢名主の相葉和子、風間今日子は和子の子分で、レズビアンの相手も務める桜井ミーナ。この二人はネコとかタチではなく、和子が母親でミーナがその娘、といふ関係にある。林由美香は、木綿子が檻の中で仲良くなる大野麻子。乾が開発を進める洗脳マシーンの実験台にされ、命を落とす。ミーナも後に洗脳マシーンの餌食となり、半死半生のところを看守の長谷川純(佐々木共輔)に陵辱される。丘尚輝も、看守の風間恭介。最期ミーナに木刀を肛門に捻り込まれ絶命する、長谷川の清々しく情けない死に様は必見。特別出演の佐倉萌と鈴木敦子はともに女囚要員の筈なのだが、佐倉萌は兎も角、鈴木敦子は何度観ても何処に映つてゐるのだか確認出来ない。同じく竹本泰志と柳東史はともに看守要員。とはいへ、今回のプリントはかなりあちこち無造作に飛んでのけるプリントで、竹本泰志は兎も角柳東史の顔は拝めなかつた。

 最終的にはミーナ救出とシリアナ、もとい亜成刑務所の不正告発のため、手と手を取る木綿子と和子であつたが、遺恨は残つてゐたのか、翌月に公開されるロマンティックが暴走する山﨑邦紀版「地球に落ちてきた男」こと「愛人秘書 美尻蜜まみれ」(2002/脚本・監督:山﨑邦紀)では、岩下由里香と佐々木基子は壮絶なキャット・ファイト―多少以上誇張あり―を展開する、残るから“遺恨”か。

 以下再見時の付記< 以前の感想では、なかなかに屈折した不満を表してゐる。創造性に些か欠ける、教科書通りのジャンル映画の出来上がりではないか、といふものである。とはいへそこには矢張り、後の、そして現在も続く加藤義一の快進撃を支へる商業作家としての手堅さといつたやうなものが、初陣にして萌芽ではなく既に一応の結実を見せてもゐる。その時々の機嫌と体調とにコロコロ左右されてゐては我ながら始末に終へぬが、今回は今回でそのやうに感じた。
 別人によるアテレコの岩下由里香は、個人的嗜好としては矢張り片翼もがれてゐるものでもあるが、汚職官僚を演ずるなかみつせいじの、目を合はせなくとも見られただけで女は妊娠してしまひさうな、ハチャメチャな流し目は実に素晴らしい。


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 「人妻 濃密な交はり」(2005/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vシアター135/監督:勝山茂雄/脚本:奥津正人/企画:朝倉大介/プロデューサー:福俵満・森田一人・増子恭一/撮影:石井浩一/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/録音:シネ・キャビン/出演:真田ゆかり・飯沢もも・星野つぐみ・川瀬陽太・石川裕一・村松和輝・伊藤猛・田崎敏路・大槻修治・花塚いづみ)。
 友田組のしがないチンピラの浩志(川瀬)は、幹部にして貰へるのと引き換へに、取引相手の両友会にヤバい集金に出張ることになる。命の危険すら感じつつも妻の恵美(真田)、子分のシン(石川)・鉄男(村松)らのために、仕事を引き受ける浩志であつた。とかいふ物語ではあれ、兎にも角にも台詞が殆ど全く聞こえない。何を気取つた映画撮つてやがる、リアリズムだか何だか知らないが、観客が話を追へないやうではそれこそ話にならん。字幕でもつけろ、論外。


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 「私が愛した下唇」(2000/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:片山圭太/脚本:関根和美/プロデューサー:関根和美/撮影:中本憲政/助監督:城定秀夫/編集:㈲フィルムクラフト/音楽:ザ・リハビリテーションズ/録音:シネキャビン/スチール:佐藤初太郎/現像:東映化学《株》/出演:里見瑤子・村上ゆう・間宮結・岡田謙一郎・山内健嗣・吉田祐健・飯島大介・小林操・牧修ニ)。
 関根プロ―と多呂プロ―の助監督を経て監督デビューした片山圭太三作目、二本目の「痴漢新妻 たまらず求めて」(1999/脚本:金泥駒=小松公典/主演:麻丘珠里)ならば何度か観てゐるが、デビュー作である「女のイク瞬間《とき》 覗かれた痴態」(同/主演:岡田謙一郎・奈賀毬子)は多分未見。
 掃除夫の誠(里見瑤子/但し熊本輝生のアテレコ)は、武夫(岡田)に道ならぬ恋心を抱く。ある日、武夫が車の中で美しい妻・冴子(村上)と二人でゐるのを目撃した誠は荒れる。ヤケ酒をあふり、思ひ切り空き缶を蹴り飛ばしたところ運悪くヤクザ(飯島)にクリーンヒット、子分(小林操と牧修ニ)も交へ三人に袋叩きにされる。誠が意識を取り戻すと、易者のやうな格好をした不思議な老人(吉田)が。老人は、念じて燃やすと願ひ事が叶ふ、たゞし二度とは元には戻れない、とかいふ黄色いお札を誠に手渡す。誠が念を込め札を燃やし、一夜明け、誠は念願叶ひ女・マコ(いふまでもなく里見瑤子の二役)に変つてゐた。マコは早速武夫の会社に派遣社員として潜り込み、恋のアタックを開始する。
 さういふ変身譚に、武夫の冴子との離婚も絡め物語は進行。関根和美の脚本はまあ兎も角、多分未だ若手の筈の片山圭太の演出は良くいへば手堅い反面、直截にいふならば若々しさには全く欠ける。ラストにふたつあるどんでん返しもひとまづは綺麗に決まり、黙つて見てゐる分には一人溌剌とした里見瑤子の輝く魅力もあり概ね満足して観てゐられるのだが、ひとつ基本設定に不満が残る。誠の願ひ事を叶へて呉れる、要は神様的なポジションの老人が、後にも先にも全く何の脈略もなく、唐突に誠の前に現れてはそんな重要なアイテムをあつさりと手渡してしまふ点。しかも、実はのちにもう一度の計二度も。幾らファンタジーとはいへ、些か都合が良すぎるやうな気もしなくはない。
 山内健嗣は、冴子の浮気相手でホストの浩司。ヴィヴィッドな赤毛の間宮結は、浩司のマジ彼女・綾。

 ところで二年間に三作撮つた片山圭太は、今作以降一本も撮つてゐない。何処かでVシネの助監督―そつち方面まで基本的に手が回らない―でも務めてゐたりするのかも知れないが、果たして今はどうされてゐるのであらうか。


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