「ハマッた人妻 絶頂」(2002『人妻淫交』の2006年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映ラボテック/出演:福永悦子・里見瑤子・酒井あずさ・風間今日子・かわさきひろゆき・丘尚輝)。
会社員の園山高志(かわさき)は妻の亜紀子(福永)に接待で遅くなるとか嘘電話を入れると、部下の江藤倫子(里見)と堂々と腕を組みルンルン気分―何時の時代の化石だ、俺は―で歩き出す。その夜、倫子宅にて高志は不倫のお医者さんゴッコに戯れる。聴診器を下着越しに倫子の陰部に当てた高志は、「ざわゝ ざわゝ♪」と森山良子を歌ひ出す >それ絶対にかわさきひろゆきのアドリブだろ(※)
午前様で高志は一応帰宅、次の朝、亜紀子は朝立ちした高志の一物に分度器を当てる。何と朝立ちの角度で、前の夜に他の女と浮気して来たかどうかが判るといふのである。亜紀子が収集したデータから割り出した浮気日に、高志は身に覚えが確かにあつた。言ひ逃れ出来なくなつた高志は、一度倫子を家に招かざるを得ない羽目になる。
亜紀子、高志、そして倫子の三人の夕べ。気まずくて仕方のない高志を余所に、亜紀子は嬉々として自らが弾き出した高志不貞の期日を倫子に突きつける。倫子も倫子で、日記がてら高志との逢瀬があつた日には、手帳にその旨印をつけてあつた。亜紀子の追求を、倫子はあつさりと認める。但し、亜紀子が弾いた日付には、倫子が高志と過ごした以外の夜も含まれてゐた。藪から棒に、第三の女の存在疑惑が持ち上がる。
後日、安アパート一階の一室。“第三の女”高井望 (風間)の部屋に高志はゐた。矢張り高志には倫子以外にも不倫相手がゐて、亜紀子の算出と倫子の記録との差異は、確かに高志は望と浮気してゐたのだ。望宅の上階では、女たらしと評判の美大生・村沢俊介(丘)が、黒崎悦子(酒井)を連れ込み激しい情事に盛んである。筒抜けに洩れ聞こえる悦子の嬌声に、望はますます燃え上がる。一方、亜紀子は倫子と急接近。高志のゐぬ間に倫子と女同士の関係すら結んだ亜紀子は、倫子の手ほどきでボーイハントに精を出すやうになる。次第に自らの手の届かないところに離れて行く妻に、今度は高志が危惧を覚える。
しつかり者の女達と、浮気性ではあるけれども呑気な亭主。明確な対比を成立させるや、あれよあれよといふ間に高志が無様で間の抜けた吠面をかゝされるオチにまで一直線。気軽に観てゐる分には、右から左に流れて行くウェル・メイドな艶笑譚、ともいへよう、何気ない台詞のひとつひとつが後々には見事な伏線として巧みに機能する、深町喜劇ともいふべき至極の逸品。
惜しむらくは。今作を前にしたピンクスが百人ゐれば二百人が同じことを思ふであらうが、女たらしで色男の美大生どころか、三枚目のヒッピーくずれにしか見えない丘尚輝の激しいミスキャスト。大本命の岡田智宏を初めとして、近作に出演してゐる若手俳優を試みに列挙してみたところで、入江浩治、今野元志、川瀬陽太、白土勝功、平川直大、幾らでも名前は挙がつて来る。あるいは美大生ではなく画家、といふ方向性でなかみつせいじなり。
因みに。古い版のものは最早、といふか勿論覚えてなどゐないが、新版のポスターは傍若無人にも、純然たる濡れ場要員の酒井あずさを全面にフィーチャーしたものとなつてゐる。酒井あずさで観客に訴求しようといふのであればそれはそれで勿論構はないが、それならばいつそのこと、素直に(?)新作を撮つて欲しい。
更に序に、一階と二階とで、それぞれの悲喜こもごもの情事の影が窓越しに大きく踊るラスト・ショット。一階と二階との位置関係が豪快にズレてゐるのは、あれは一体どういふつもりなのか。
※望との情事の際には、高志が「何てつたつて愛汁♪」と歌ひ出す件もあり
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