真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「若妻 しげみの奥まで」(2007/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/助監督:佐藤吏/監督助手:金沢勇大/撮影助手:海津真也・関根悠太/スチール:津田一郎/選曲:梅沢身知子/現像:東映ラボ・テック/出演:里見瑤子・薫桜子・春咲いつか・川瀬陽太・平川直大)。
 ガタンガタンと電車の走る中、在りものとはいへ精一杯それらしくギターが鳴く劇伴に乗り、くたびれた風情で私立探偵の権藤六輔(川瀬)が歩いて来る。事務所で依頼人の人妻・沢井和代(薫)の話を聞く際に、テレコに繋げたマイクを相手と自分の双方に交互に向ける様子からも如実に窺へるやうに、導入部は単に探偵が主人公の物語であるのみならず、川瀬陽太主演による松田優作の「探偵物語」である。
 さうは、いふものの。オールバック気味の短髪とメガネにチョビ髭を生やした川瀬陽太は、工藤俊作どころか田代まさしを髣髴とさせ、マイクを交互に話者に向ける仕草も、本気で真似るつもりが何処まであるのだか甚だ疎か。相手にマイクを向ける時には、もつとグッと突き出すんだよ。どう転んだところで川瀬陽太が松田優作になれないのは明らかとはいへ、やる以上は、ビデオなりDVDなりで復習して詰められるところは詰められるだけ積み重ねておいて欲しい。
 依頼を片付ける前にいきなり後日譚に話が飛んでしまふルーズな脚本に匙を投げかけてゐると、どうやら「探偵物語」に関しても本気でその線を狙ふつもりであつた訳ではないらしい。六輔の妻・真利子(里見)が、クラス会へと家を空けた休日。濡れ場要員の隣家の人妻・小島晴美(春咲)が登場すると、映画は何時もの他愛ない艶笑コメディへとシフト。続けては六輔・真利子夫婦と、和代・典夫(平川)夫婦とがそれなりには巧みに交錯する人情噺に。何だカンだで一本を通して観てゐられないでもないのだが、最終的には、ベテランにのんべんだらりとお茶を濁された感が強い。
 ラスト・ショットも一応、「探偵物語」風の劇伴―ウルトラ安いが―で締め括りはする。


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 「淫乱後家ごろし」(2006/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:茂木孝幸/撮影助手:海津真也・関根悠太/選曲:梅沢身知子/出演:華沢レモン・春咲いつか・水原香菜恵・千葉尚之・本多菊次朗・牧村耕次)。
 重い病に長く伏せる建設会社社長の大山(牧村)は、長年勤めてゐた家政婦・おカネ婆さん(全く登場せず)の代りに、若いヘルパーの春子(華沢)を雇ふ。医師の石田(本多)が、往診に大山家を訪れる。今作の本多菊次朗は黒縁丸メガネにチョビ髭を生やし、平素の二枚目ぶりを完全に封印するとまるで別人かのやうな喜劇芝居を好演する。往診に来たのか単に騒がせに来たのか判らない中、石田はその足で後家の満子―勿論、“満”は音読みで―の下に。定期健診と称して、石田は満子と関係を持つてゐたのだ。淫乱な後家を、コロしてゐるのは石田ではないか。一体主役は誰なのか、さつぱり判らなくなつて来るタイトルではある。まあ、春子と大山である訳なのだが。
 石田と大山の絡みをメインにしたコメディ・パートと、社長宅にヘルパーとして入つた春子に金をせびりに来る、ロクデナシの良平(千葉)も交へた春子と大山との人情噺とが、巧みにではなく交錯する。ラストは、物語の畳み方としては御座成りに済ませてしまつてゐるやうにも見えるが、カットの切り方が絶妙に叙情的で、微妙に深い余韻を残す。かういふ辺りは、大ベテランの心憎いところではあらう。
 春咲いつかは、昔ガードマンをしてゐた大山と、因縁ある怪盗黒バラ。とんでもなく短いミニスカくノ一装束に網タイツ、といふ別の意味での実用性は満点の格好で病に伏せる大山の寝込みを襲つては、精をつけさせてやると自家製、あるいは自己製の温泉卵―まあ、製造法はナン、といふかナニですわ―を食させる。過去の因縁の割には、どうして黒バラだけ昔のままに若いのだらう、と訝しみながら観てゐると、何と堂々とした夢オチである。三番手の濡れ場を夢オチで処理する姿勢には、ある意味の潔ささへ感じる。
 濡れ場のテンションは何れも高く、野に咲く草花で、絶妙に陰部を隠す清水正二のさりげなくも超絶なカメラ・ワークには、改めて惚れ惚れさせられる。


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 「熟母・娘 乱交」(2006/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:河西晃/企画:福俵満/撮影:長谷川卓也/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/録音:シネキャビン/スチール:AKIRA/現像:東映ラボ・テック/出演:藍山みなみ・里見瑤子・しのざきさとみ・岡田智宏・川瀬陽太)。 
 ボンボン社長の章太郎(岡田)と、章太郎の幼馴染兼社員の半蔵(川瀬)が雑誌を手に、あるいはうたゝ寝しながらのんびりと湖畔で釣り糸を垂れる。双眼鏡を覗く半蔵が真夕美(藍山)と、その母・美佐子(しのざき)を見つける。真夕美の可憐な美しさに章太郎と半蔵が双眼鏡を奪ひ合ひしてゐたところ、真夕美が倒れてしまふ。章太郎は、慌てて真夕美をひとまづ家に連れて帰る。真夕美は、療養所から外の空気を吸ひに出てゐたものだつた。数日後、美佐子が章太郎を訪ねて来る。真夕美は、余命三年と医者からは宣告されてゐた。男を知らぬ娘を不憫に思ひ、章太郎に真夕美を抱いてやつては貰へまいか、といふのである、章太郎は生唾を飲む。一方半蔵は妻の峰子(里見)と、最近の章太郎の様子の変化について語り合ふ。章太郎は、随分とやつれてゐた。峰子いはく、女でも出来たのではないか。それならばと、半蔵は深夜の章太郎宅に忍び込んでみる。成程、章太郎の寝室からは男女の睦み会ふ気配がする。ところが半蔵が覗き込むと、章太郎が抱いてゐたのは、浴衣を着た、女の・・・・!
 ド真ん中に直球をズバリと投げ込む、正調怪談映画。母娘の初登場シーン、真夕美に心を奪はれる章太郎に対し、半蔵は美佐子の方に萌える。巧みに張られた伏線も効果的に、肉と金に対する欲、悲恋、母親の何もしてやれなかつた娘への想ひ。六十分を一欠片も忽にすることなく、様々な情念が丁寧に渦まく、ベテランの名に恥ぢない佳篇である。ネタバレになるゆゑ詳しくは書けないが、真夕美が母に初めての我侭を訴へる台詞は胸を打つ。純然たる濡れ場要員にも関らず思はぬ健闘を見せた前作「淫絶!人妻をやる」に続き、深町章作品での藍山みなみの快進撃が続いてゐる、次作以降にも俄然期待が膨らむ。
 ところで、次第に度合を深めて行く章太郎の消耗メイクは、流石に幾ら何でも判り易過ぎやしないか。あれでは章太郎がゾンビである、些かトゥー・マッチであらう。もしかすると、観客を笑かせるつもりであつたのかも知れないが、さういふ小細工は今作には最早不要であつたやうにも思はれる。


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 「淫絶!人妻をやる」(2006/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:佐藤吏/監督助手:茂木孝幸/撮影助手:長谷川卓也/照明応援:広瀬寛巳/選曲:梅沢身知子/スチール:大崎正浩/現像:東映ラボ・テック/里見瑶子・藍山みなみ・水原香菜恵・なかみつせいじ・平川直大・牧村耕次)。
 白髪の老婆が二人、水辺に車椅子を並べてゐる。互ひにあの時、患者と女医として再会を果たした驚きを振り返る。女医であつた女は告白する、「そして・・・私は鬼にされた・・!」。
 四十年前、夫・野沢俊介(平川)と平穏な結婚生活を送つてゐた亜紀子(里見)は、急に精神の平定を乱す。電話の受話音に過剰に反応するやうになり、終には包丁を振り乱し電話線を切断するに至る。野沢は、亜紀子を精神科医の佐伯恭司(なかみつ)に診せる。佐伯は妻でインターンの悦子(水原)とともに、山間の診療所―といふ次第で、要は毎度の水上荘ものである―にて亜紀子をカウンセリングする。電話の主こそが亜紀子のノイローゼの元凶である、と踏んだ佐伯はわざと亜紀子に電話をかけ、狂乱する亜紀子に悦子が無理矢理電話を取らせる。電話の主を演じた佐伯の誘導尋問により、亜紀子のノイローゼの原因は、三ヶ月前に野沢と買ひ物に出てゐたところ偶々遭遇した、野沢が勤務する会社の取引先「黒崎工業」の営業部長・沼田明(牧村)にあると判明する。沼田は、亜紀子の過去を知る男であつた。佐伯の丹念なカウンセリングを経て、亜紀子は胸に秘め独り苦しんでゐた秘密を吐き出し、回復する。その直後、テレビのニュースが沼田が殺害された事件を伝へる・・・・
 CM込みで二時間のサスペンス・ドラマでいふと、十分で片づけ得よう種明かしを、濡れ場で水増ししつつそれだけで一時間の映画にしてしまつたやうな一作。などといへば元も子もないが、まあひとつの物語を丁寧に形にしてある点だけは評価出来る、その割にタイトルは出鱈目ではあるが。まあ、ままある例(ためし)である。
 大絶賛―実質―三番手濡れ場要員を務める藍山みなみは、野沢の不倫相手・江藤倫子。亜紀子が要は壊れた一大事に基く最後の情を交し、ラブホテルのベッドの上で自ら別れを野沢に告げる件が出色。別れざるを得なくなつてしまつたため、別れる前提での情交ののち、せめてもの矜持で女の方から別離を切り出す。ちやんとした脚本を与へてあげれば、藍山みなみにはかういふストロングスタイルの芝居も出来るのか、といふ発見が今作に於ける最も大きな収穫であつた。
 更にその数年前に同じ秘密を共有する亜紀子と悦子の、四十年前時制での再会の描き方が、少々弱かつたやうな気がする。初めは―四十年前時制で―亜紀子はノイローゼであつたとしても、回復後、改めて悦子の顔をまじまじと見るにつけ「ナンシー・・・!?」と絶句しかけ、訝しむ佐伯を悦子が制して胡麻化す、といつたくらゐのカットは設けてあつて然るべきではなかつたらうか。
 それと水上荘ロケゆゑではあれ、俊介の家は、若いサラリーマンの家にしては不釣合ひに徒広くも映る。


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 「セクシー剣法 一本ぶちこむ」(2005/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:深町章/企画:福俵満/撮影:長谷川卓也/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:佐藤吏/監督助手:茂木孝幸/撮影助手:斎藤和弘・平原昌樹/選曲:梅沢身知子/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テック/出演:吉沢明歩・池田こずえ・佐々木麻由子・千葉尚之・牧村耕次)。
 宮本武蔵の末裔・武子(吉沢)は、どうしても男の子が生まれなかつたのに意固地になつた父親から、男子として育てられる。一方、鈴之助(千葉)は吉岡一門の末裔、二人とも剣の道を志すが、実力は武子の方が上であつた。武子は実は鈴之助に想ひを寄せるも、鈴之助は男勝りの武子には全く興味を示さない。
 全くいい加減な一作、純粋無垢なるルーチンワーク。見所のあるショットもなくはないが、小林悟とはまた別種の、意図的な不作為に満ち満ちてゐる。腹立たしいことこの上ない、下だ。
 武子と鈴之助の顔見せが終ると、股旅姿に白塗りの、旅芸人・牧太郎(牧村)が唐突に登場。ここから、未だ序盤であるにも関らず、映画は全うに筋を追はうとする娯楽映画として最低限の誠意あるいは戦意も喪失し、後はひたすら不条理にも似た惰性のみが一昨日から明後日へと流れるばかり。何がやりたかつたのか牧太郎が延々と大衆演劇風の長口上を垂れ流したのち、雨が降る。雨宿りしてゐた牧太郎は、雨に濡れながら走る武子の姿に目を留める。牧太郎は武子を追ひ駆け犯す。一方、鈴之助は母・晴江(佐々木)、姉・みずき(池田)とカレーの夕餉。吉岡一門の嫡子として母と姉からはハッパをかけられながらも、鈴之助にはどうにも自分の剣の腕前に自信が持てない。夕食も早々に切り上げ、鈴之助は自室にこもる。エロ本を開き自家発電を始めてゐると、鈴之助の様子を心配した晴江が不意に部屋に入つて来る。鈴之助は性の欲求に悶々とするあまりに剣の道に身が入らないのかと、晴江は勝手に心配して母ながらに息子とセックスする。翌日、何時もと変らない様子の武子と、対照的に塞ぎ込んだ鈴之助。どうしたんだと武子が尋ねると、畜生になつちまつた、と鈴之助は母とのセックスを告白する。といふか、待てよコラ深町、武子が牧太郎にレイプされた件は何処に消えたんだ!?
 牧太郎は、みずきにも夜這ひを展開する。この濡れ場にも、規定回数といふ以上の如何なる意味も全く存在しない。といふか、そもそも一体何々なんだ、牧太郎。起は兎も角、といふか起承転結の起すら存在しない映画などといふものは一体如何なるものなのか、それも想像し難いが。承以下の一切は全く以て木端微塵な一本、地獄に堕ちようとも観る値打ちはない。
 池田こずえは、気が付くとオーピー、新東宝、エクセスと、三社に跨つて着々とキャリアを増やしつつはある。未だいまひとつ作品には恵まれてはゐないやうだが、今後に期待。

 全く必要もない牧太郎長口上の最中、深町組が姿を現すショットあり。さうか、この駄作を撮つたのはオノレだな。その画にもわざわざ参加する佐々木麻由子、女優だ。


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 「人妻 あふれる蜜ツボ」(2005/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネキヤビン/助監督:佐藤オサム/監督助手:茂木孝幸/撮影助手:岡部雄二・嘉門雄太・山崎秀治/選曲:梅沢身知子/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テツク/出演:里見瑤子・吉沢明歩・佐々木ユメカ・千葉尚之・川瀬陽太・岡田智宏)。脚本に関しては後述する。
 昭和二十二年、亡き夫の遺影を胸に抱き、戦犯として囚はれた義弟の帰りを待つ元華族の旧家の妻とその友人の、二人の女の姿を描いた物語である。
 正田瑞穂(里見)は夫の元義(岡田)を戦争で喪ひ、BC級戦犯として囚はれた義弟・裕輔の帰りを待ちつつ、女中の久保田まゆみ(吉沢)と二人で家を守る。正田家に、かつては瑞穂と元義を巡り恋の鞘当てを演じた過去もある友人の三橋麗子(佐々木)が、闇市で知り合つたといふアプレ気取りの大学生・太田光男(千葉)を伴ひ訪ねて来る。麗子は、光男と二人情死する死に場所を探し求めてゐた。そして光男は、迫る死への恐怖から気を紛らすためにか、ヒロポンに溺れる。川瀬陽太は、正田家の土地屋敷を買収しに来る、元お抱へ運転手の大河原元。瑞穂には鰾謬もなく断られた大河原は、裕輔の面会に出かけた瑞穂が家を空けた隙に、まゆみを犯す。裕輔は、腰痛持ちの捕虜に灸を据ゑてやつたのが、捕虜虐待と見做され死刑を執行される。情を交した後、光男も麗子を独り正田家に残し姿を消す。何もかも失つたまゝ、新時代にそれでも生きて行く腹を固める二人の女の姿を描いて映画は終る。
 里見瑤子は勿論のこと、わざとダサい髪型にした佐々木ユメカも顔も体も昭和の女に見えて良かつた、口跡は幾分捌け過ぎかとも思つたが。対して吉沢明歩はその意味に於いては論外、終戦直後どころか、90年代以降にしかああいふ女の子は出現しないだらう。ひとつ気になつたのが、回想シーンその他で爆撃機の爆音のSEが入るのだが、ピンク上映館の決して上等でない音響設備では、ああいふ重低音は凡そキレイには出まい、籠るか割れるかするのが関の山である。当然そこまで見越しておくべきかとも思はれるので、ここは音響設計上のミスといへよう。

 脚本に関する後述< 今作の脚本は、監督である深町章の手によるものである、と公式にはされてゐる。が公開当時、これまで感想も書いてゐる中では「美人女将のナマ足 奥までしたたる」(1997/監督:中村和愛)脚本の武田浩介氏より、今作の脚本は以前に深町章に渡し没にされた武田氏の脚本の、無断盗用であるとの告発がなされてゐる。何れも物証はないものの、武田氏に近しい脚本家である樫原辰郎氏からも、武田氏から当該脚本を見せられたことがある、との証言もある。事の真偽を測る術は持たない上で、さういふ疑惑の煙が立つてゐることを、一言書き添へておく。


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 「変態家族 新妻淫乱責め」(2005/製作・配給:新東宝映画/企画:福俵満/監督・脚本:深町章/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:佐藤吏/撮影助手:嘉門雄太・山崎秀治/選曲:梅沢身知子/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テック/出演:山口玲子・佐々木ユメカ・水原香菜恵・山名和彦・豊永伸一郎・牧村耕次)。
 明子(山口)は会社の上司の勧めで東田林渉(山名)と見合ひ結婚、義理の父親・高志(牧村)と三人で同居してゐる。渉と見合ひをするまで一度も男と付き合つた経験のなかつた明子は、渉の箍の外れた変態性欲に戸惑ふ。高志の見てゐる前で渉に浣腸責めを受けた明子は、後日高志に渉の変態性欲について相談する。さうしたところ、何と義父にまで犯される。更に挙句にその場に帰宅した渉も加はつての3Pで嬲られるに及んで、明子は渉と高志に悪い影響を与へてゐる霊の存在を確信、女性週刊誌で読んだ霊媒師の愛子(水原)を訪ねる。
 特にどうといふこともない、水準的なプログラム・ピクチャーである、これは褒めてゐる訳でも貶してゐる訳でも特にない。ただ、渉が明子の目も憚るでなく、自宅に堂々と水商売の女・悦子(佐々木)を連れ込み恣な肉欲に耽る件は突発的にソリッド。
 渉に家内が居る点を、悦子は慮る。女房以外の女とヤッちやいけない、つて誰が決めたんだ?渉が嘯くと、アタシとヤッていいつて誰が決めたのよ、と悦子が返す。「アタシとヤッていいつて誰が決めたのよ?」、この台詞が素晴らしい。正に初めから佐々木ユメカに当て書きされたかのやうなハクい文句で、終始のんべんだらりとした映画の中で、瞬間的に映画のテンションが上がる。因みに遣り取りはかう続く。俺が決めたといふ渉に対し悦子は勝手ねえ。すると渉は、ああ、買つてやらうぢやないの。

 軍帽に褌姿の豊永伸一郎が悪霊役、正体は、祝儀を挙げた次の日に召集され、そのまゝ戦死した高志母の前夫。


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 「セックス詐欺の女 濡れてよがる」(2005/製作・配給:新東宝映画/企画:福俵満/監督・脚本:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:佐藤吏/監督助手:茂木孝幸/撮影助手:岡部雄二・下垣外純/選曲:梅沢身知子/スチール:津田一郎/現像:東映ラボテック/出演:里見瑤子・華沢レモン・水原香菜恵・神戸顕一・千葉尚之・牧村耕次)。
 ある夜、寡の農夫・田畑田吾作(牧村)が後家の満子(水原)に夜這ひを敢行すると、偶々同じ夜に駐在の牛山茂助(神戸)も満子―当然人名だといふ方便で、堂々とさうお読み下さい―に夜這ひを掛けてゐた。はい、大絶賛警察の不祥事ですね、もうヤケクソ。互ひに何も見えぬ―勿論観客には見えてゐる―闇の中で満子の体を弄る二人、先に正常位で満子の観音様に挿入した茂助の背後から、勘違ひした田吾作が茂助の菊穴にズブリ。まあ、要はさういふ映画。ピンクなので当然女の裸はあるが、ポルノといふよりも寧ろ、牧村耕次と神戸顕一主演の旧態依然以前コメディである。然し田畑田吾作に牛山茂助、量産型娯楽映画の量産性が、グルッと一周して前衛性の領域にすら突入しつつある風情を感じるのは、単に膏肓に入つた病か。
 里見瑤子は何処かから現れては、自殺する風を装ひ、不幸な身の上を開陳して金を毟り取る手口の結婚詐欺師・佐伯町子。町子が田吾作とゐるところに、現れた茂助が結婚詐欺師が近隣のあちこちの町に出没してゐる、と注意を促す。町子は一瞬狼狽するが、茂助が語つた女の特徴は、自らとは食ひ違つてゐた。千葉尚之は、嫁を連れ田舎に戻つて来た田吾作の息子・権太。華沢レモンは権太の嫁で、ラスト・シーンで漸く明かされるのだがこの女こそ―“も”か―が、茂助が探してゐた詐欺師・黒崎由香。
 町子と由香の、女詐欺師同士の腹の探り合ひ、騙し騙され合ひでもあればもう少しは映画が膨らんで来たかとも思ふのだが、結局深町章は田吾作と茂助とのコントに終始してしまひ、尺がそこまで至らなかつた。

 どうでもよかないが、神戸顕一はいい加減に歯を入れたらどうなんだ?


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 「新・鍵穴 絡みあふ舌と舌」(2005/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vシアター135/監督:深町章/脚本:岡揮男/企画:朝倉大介/プロデューサー:福俵満・森田一人・増子恭一/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/選曲:梅沢身知子/人形製作:かわさきりぼん/出演:葉月螢・里見瑤子・池田こずえ・山口玲子・千葉尚之・丘尚輝・茂木孝幸・なかみつせいじ)。1999年の「鍵穴 和服妻飼育覗き」(脚本:福俵満)から(何故か?)延々と続く、昭和初期から敗戦直後を舞台にした乱歩風ミステリーである。
 離婚暦のある珠世(葉月)は、四十にして初婚の宮内庁の役人の新宮藏人(なかみつ)と結婚する。結婚当初は毎夜のやうに珠世を抱く新宮であつたが、結婚半年を過ぎた辺りから、段々と珠世を避けるやうになる。珠世は訝しむ。新宮はしばしば、夜半に床を抜け出してゐた。珠世がそのことを尋ねると、土蔵で読書をしてゐるのだといふ。ある夜土蔵に向かふ新宮の後を珠世が尾けると、あらうことか、鍵の掛かつた蔵の二階からは新宮と大友若菜(里見)との逢瀬の声が漏れ聞こえて来る。珠世は嫉妬に悶え狂ふ。
 テーマは即ち、ズバリいふところのいはゆる―今勝手に命名―乱歩テーゼ、「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと」。もしくはくるくる中年である。謎の美学生―美学を志す、ではなく美しいセイガクである―比留間黙太郎(千葉)に誘(いざな)はれ、珠世は土蔵の二階に忍び込む。長持の中に潜んでゐると、やがて繰り広げられる新宮と若菜の逢瀬。睦み合ふ二人の姿に、珠世は狂ふ。
 最期の夜、若菜は土蔵の二階で新宮を待つ。長持の中には、珠世が黙太郎と潜む。珠世は黙太郎の制止も振り切り、長持から飛び出すと若菜を絞殺する。長持の中で、珠世は黙太郎と情交し、そのまま情死する。次の朝、家政婦の藤子(池田こずえ)が蔵の中に二人の死体を発見する。珠世と黙太郎と若菜、三人では?それに新宮は?死体は二人である、加へて新宮も死んでゐる。新宮と若菜の逢瀬。それは実は、白粉を刷き、紅を引いた女装の新宮の、一人二役によるワンマンショーであつた。一方黙太郎も、実は生身の人間などではなく、等身大の、学生服を着た人形であつた。死んでゐたのは女装子の新宮と、長持の中に人形を傍らに抱いた珠世。二人供、現し世に非ざる夜の夢の誠の中で、情を交し、狂ひ、生きて死んで行つたのであつた。
 演出は終始高いテンションを保ち、入り組んだ物語をキチンと判りよく見せる深町章の手腕は流石、の一言に尽きる。が惜しむらくは如何せん、何分尺が些か短か過ぎる。この物語を六十分ででは、筋を追ふことと真相を説明することまでで精一杯で、夜の夢の誠の中身と、夜の夢の誠に堕ち入らざるを得なかつた新宮と珠世との真実、といつたところまではとても踏み込む余裕が、少なくとも結果論としては無かつた。

 以下は、「和服エロス・蔵のなか 淫蜜な関係」としての2009年旧作改題版を再見した上での付記< 出演者中丘尚輝は、例によつて水上荘ロケの新宮家に出入りする庭師・山内三之介。藤子の濡れ場の相手は、山内が担当する。山口玲子は、新宮家に一泊させて貰ふ藤子の田舎の先輩。山口玲子の純然たるオプションを務める茂木孝幸は、弟と称して山口玲子について来て、藤子が眉をしかめる傍ら堂々と山口玲子を抱く彼氏。正直池田こずえまでで既に女優が三人脱いでゐることを鑑みると、申し訳ないが山口玲子の件は丸々不要で、その分の尺は新宮と珠世の現(うつつ)と幻との物語に割くべきではなかつたらうか、といふ思ひは強い。


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 「未亡人女将 真夜中の喘ぎ」(2003『いんらん肉布団 女将の濡れ具合』の2006年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:河本晃/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/出演:しのざきさとみ・谷川彩・酒井あずさ・なかみつせいじ・丘尚輝・高橋剛)。 
 水上荘改め温泉旅館「ときわ屋」、切り盛りするは女将の佐藤弘子(しのざき)に、女中のラン(酒井)、弘子の娘の夏希(谷川)。弘子の夫・森脇博 (なかみつ)は、二十年前まだ夏希が二歳の頃に家を出て行つてしまつたきりであつた。ある日ときわ屋を、出張ホストのノブ(高橋)が訪れる。何者かに、弘子の相手をするやう雇はれたといふ。初めは夏希が余計なお節介を仕出かしたのかと拒んでゐた弘子ではあつたが、ノブの強引さに負け結局抱かれることに。久し振りの、しかも若い色男の巧みな愛戯に弘子は乱れる。一方、夏希が二十年ぶりに姿を現した森脇を連れて来る。借金取りに追はれ、行く当てもないとのこと。邪険に断らうとする弘子ではあつたが、夏希の熱意に押し切られ、宿代は取ると客としてならば渋々逗留を認める。
 よくよく考へてみると親子とはいへ夏希と森脇は全くの初対面の筈なのだが、それはさて措き。温かく愉快な下地に親子と、互ひに素直になり切れぬ夫婦の情とを織り込んだホーム・ドラマの逸品である。躁状態にすら見える酒井あずさは、映画を壊してしまふ寸前のオーバー・アクトで下地を担当。森脇に女の世話を頼まれた夜には、そのまま出向けばいいものを、何故だかパツキンの鬘を装着しチェルシーと称して出撃する。
 自脚本作でないにも関らず純然たる役者として登場する丘尚輝(=岡輝男)は、夏希彼氏の池上真輔。事前の危惧をいい意味で裏切り、全く過不足ない好演を見せる。といふことは要は、肝心なのは脚本と演出次第といふことなのか、強力に全く当たり前のことでしかあるまいが。
 二十年家を出たきりとはいひながらも、弘子は森脇の遺し形見のギターを、未だ捨てられずにゐた。互ひに素直になり切れぬ夫婦の情は、観客をやきもきさせる定番の展開を経つつも、作劇上の力技で遂に結び付く。ひとつだけ注文を付けるならば、弘子が公園のベンチで途方に暮れる森脇を迎へに行く場面。折角似たやうなシチュエーションで二人が出会つたのと同じ場所であり、しかもその少し前には、おあつらへ向きといはんばかりに森脇が思ひ出話を夏希に語る件まである。ならばここは少々論理的ではなくとも、出会ひのあの時と同じ台詞で弘子が森脇を迎へに行つた方が、映画の据わりといふ意味ではより望ましくはなからうか。「良かつたらウチに泊まる?部屋なら空いてるはよ」といふのも悪くはないが、「うち旅館やつてて、部屋一杯あるの」と。

 ところでどうでもいいけど、未だ死んでないよな   >改版新題


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 「人妻痴態さらし もつと見て」(2003『天井裏の痴漢 淫獣覗き魔』の2006年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/企画・脚本:福俵満/撮影:長谷川卓也/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/出演:川瀬有希子・里見瑤子・水原香菜恵・なかみつせいじ・かわさきひろゆき・広瀬寛巳)。出演者中、広瀬寛巳は本篇クレジットのみ。
 身体の自由を失ひ憐れに床に伏せる夫を前に、十三年ぶりの再会を果たす二人の女。旧家・沢渡家の女主人である珠代(川瀬)と、かつてこの家の女中であつた藤原志乃(里見)。
 十三年前―昭和二十四年、珠代は先代譲りでもある長患ひに伏せつてゐた。沢渡家には婿養子である夫の貞幸(なかみつ)の他に、珠代の従姉妹で看護婦の聡子(水原)、先代の使用人夫婦の娘である志乃が女中として入つてゐた。分家の娘である聡子は、本家を譲り受けた珠代に対し心密かに嫉妬の憎悪を燃やし、貞幸は夫婦の生活もままならぬ珠代を余所に、聡子と不倫の関係にあつた。珠代の耳に、家々の天井裏に潜み、睦み事を覗き見る怪人の噂話が入る。床に伏せる珠代は、天井裏からの不気味な視線の気配に怯える。
 作り手側の意向は別としてどれだけの需要があるのかはよく判らないが、とりあへず例によつての企画:福俵満&監督:深町章のコンビにより連作される、昭和初期乃至は戦中戦後猟奇譚シリーズである。数こなしてあるだけはあり、それはそれとして形を成してはゐるとはいへ、今作の特徴は、どうにもかうにもエピソードが薄い。少ない、といつてしまつてもよいのかも知れないが。濡れ場も手短に纏めると、手際のいい監督であるならば三十分にでも収まつてしまひさうな物語である。その為、大きな動きを見せる文字通りの起承転結の転部を除くと始終中弛んでしまふ以前に、あるいは以後に。ラストの再会を果たした珠代と志乃との絡みが、完全に冗長に堕してしまつてゐる。といふか、この件は深町章が最早キチンとした動作指導も怠つたのか、完全に間を持て余した川瀬有希子が、満足に動けもしない無様な醜態をダラダラと晒してしまふ始末。連作の中にあつては、失敗作の部類に入ると難じざるを得まい。

 女体の恩恵には与れぬ、かわさきひろゆきは刑事の黒岩。志乃の両親は、志乃を縁者に預け満洲に渡る。広瀬寛巳は、預けられた先で志乃を手篭めにする義兄。階段に固定した志乃を後ろから犯す、といふ本格的な絡みを披露する。


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 「ハマッた人妻 絶頂」(2002『人妻淫交』の2006年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映ラボテック/出演:福永悦子・里見瑤子・酒井あずさ・風間今日子・かわさきひろゆき・丘尚輝)。
 会社員の園山高志(かわさき)は妻の亜紀子(福永)に接待で遅くなるとか嘘電話を入れると、部下の江藤倫子(里見)と堂々と腕を組みルンルン気分―何時の時代の化石だ、俺は―で歩き出す。その夜、倫子宅にて高志は不倫のお医者さんゴッコに戯れる。聴診器を下着越しに倫子の陰部に当てた高志は、「ざわゝ ざわゝ♪」と森山良子を歌ひ出す   >それ絶対にかわさきひろゆきのアドリブだろ(※)
 午前様で高志は一応帰宅、次の朝、亜紀子は朝立ちした高志の一物に分度器を当てる。何と朝立ちの角度で、前の夜に他の女と浮気して来たかどうかが判るといふのである。亜紀子が収集したデータから割り出した浮気日に、高志は身に覚えが確かにあつた。言ひ逃れ出来なくなつた高志は、一度倫子を家に招かざるを得ない羽目になる。
 亜紀子、高志、そして倫子の三人の夕べ。気まずくて仕方のない高志を余所に、亜紀子は嬉々として自らが弾き出した高志不貞の期日を倫子に突きつける。倫子も倫子で、日記がてら高志との逢瀬があつた日には、手帳にその旨印をつけてあつた。亜紀子の追求を、倫子はあつさりと認める。但し、亜紀子が弾いた日付には、倫子が高志と過ごした以外の夜も含まれてゐた。藪から棒に、第三の女の存在疑惑が持ち上がる。
 後日、安アパート一階の一室。“第三の女”高井望 (風間)の部屋に高志はゐた。矢張り高志には倫子以外にも不倫相手がゐて、亜紀子の算出と倫子の記録との差異は、確かに高志は望と浮気してゐたのだ。望宅の上階では、女たらしと評判の美大生・村沢俊介(丘)が、黒崎悦子(酒井)を連れ込み激しい情事に盛んである。筒抜けに洩れ聞こえる悦子の嬌声に、望はますます燃え上がる。一方、亜紀子は倫子と急接近。高志のゐぬ間に倫子と女同士の関係すら結んだ亜紀子は、倫子の手ほどきでボーイハントに精を出すやうになる。次第に自らの手の届かないところに離れて行く妻に、今度は高志が危惧を覚える。
 しつかり者の女達と、浮気性ではあるけれども呑気な亭主。明確な対比を成立させるや、あれよあれよといふ間に高志が無様で間の抜けた吠面をかゝされるオチにまで一直線。気軽に観てゐる分には、右から左に流れて行くウェル・メイドな艶笑譚、ともいへよう、何気ない台詞のひとつひとつが後々には見事な伏線として巧みに機能する、深町喜劇ともいふべき至極の逸品。
 惜しむらくは。今作を前にしたピンクスが百人ゐれば二百人が同じことを思ふであらうが、女たらしで色男の美大生どころか、三枚目のヒッピーくずれにしか見えない丘尚輝の激しいミスキャスト。大本命の岡田智宏を初めとして、近作に出演してゐる若手俳優を試みに列挙してみたところで、入江浩治、今野元志、川瀬陽太、白土勝功、平川直大、幾らでも名前は挙がつて来る。あるいは美大生ではなく画家、といふ方向性でなかみつせいじなり。

 因みに。古い版のものは最早、といふか勿論覚えてなどゐないが、新版のポスターは傍若無人にも、純然たる濡れ場要員の酒井あずさを全面にフィーチャーしたものとなつてゐる。酒井あずさで観客に訴求しようといふのであればそれはそれで勿論構はないが、それならばいつそのこと、素直に(?)新作を撮つて欲しい。
 更に序に、一階と二階とで、それぞれの悲喜こもごもの情事の影が窓越しに大きく踊るラスト・ショット。一階と二階との位置関係が豪快にズレてゐるのは、あれは一体どういふつもりなのか。

 ※望との情事の際には、高志が「何てつたつて愛汁♪」と歌ひ出す件もあり


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 「和服妻と愛人2人」(2002『作家と妻とその愛人』の2006年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督深町章/脚本:岡輝男/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映化学/出演:里見瑤子・佐倉萌・金井悦子・久保新二・かわさきひろゆき)。旧題から脊髄反射でそれと知れるやうに、「竜馬の妻とその夫と愛人」(2002/監督:市川準/原作舞台・脚本:三谷幸喜)の翻案である、のかどうかは「竜馬の~」を未見につきイマイチ自信がない(何だよ)。といふか原作舞台のことはさて措き、少なくとも映画に限定すると、実は今作の方が公開は本家よりも二ヵ月半ばかり早い。
 作家の鳩胸富造(久保)は自宅書斎で愛人の柳腰品子(金井)と致してゐたところを、折悪しく妻の房江(佐倉)に見つかり財布を取りあげられる。仕方なく、かねてより付き合ひのある金貸しの鮫肌吾郎(かわさき)を頼るが、鮫肌には既に多額の借金があつた。そこで新たに鳩胸に金を貸すと同時に、鮫肌の方から鳩胸に頼みを持ちかけて来た。鮫肌の愛人を、鮫肌の細君の目を眩ませる目的で鳩胸の家に書生として置き、なほかつ週に一回その愛人を抱くのに部屋を使はせては貰へまいか、といふのである。私の家は連れ込みではない!と鳩胸は憤慨するも、元利合はせて月々五十万円の返済と看做す、とかいふ鮫肌の条件にコロッと承諾する。翌日、鮫肌は鳩胸の家に富士額広子(里見)を連れて来る。若くて純真な広子に鳩胸の目尻が下がるのを看て取つた鮫肌は、新たな条件を提示する。もしも鳩胸と広子の間に不義があつた場合、新たに十日分の利子を支払ふ、といふのである。一度うつかり広子に手をつけてしまひ、鳩胸は痛い目に遭ふ。これではイカンと、一日も早く鮫肌への借金を完済しなほかつ広子を身請けするべく遮二無二仕事に取り組んでゐると、再び鮫肌が広子との間に不義があつたと金を取り立てに来る。そんな筈はないと鼻で笑ふ鳩胸に対し、何と今度は広子と不義を致したのは房江であるといふのである(ギャフン!@ド死語)。鳩胸は仕方なく広子のため、即ち愛人のために妻が欲求不満に陥らぬやう適度に抱かなくてはならない羽目になる。といつた塩梅で、金と女に滅法だらしない、即ち極めて人間的な鳩胸が、鮫肌の巧みに仕掛けた二重三重の罠にまんまと絡め取られた末に、「こんな筈ぢやなかつた」、「こんな筈ぢやなかつた」と頭を抱へる様を楽しむウェルメイドな喜劇である。本当によく出来てゐて、旧題時既に数回観てゐるが、何度観ても岡輝男の脚本とはどうしても思へない。

 冒頭、あれも買つて、これも買つて、と強欲な品子が鳩胸に「マンションも欲しい《はあと》」とお強請りする件。すると鳩胸は、「私はキミの、マンチョンが欲しい♪」。そのまま指を品子の股間に這はせると、「おお、キミのマンチョンはもう倒壊寸前!」。何と、新東宝が新版公開を時事ネタにぶつけて来た、のかどうかは知らないが。因みに久保新二いふところの“マンチョン”は、“マン”で一回切つて、“チョンッ”と語尾のアクセントを上に上げる。さあどうぞ、“マン、チョンッ!”   >一体どうしたいんだよ


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 伝説の映画監督、テレンス・マリック(1943~)。ハーヴァード、オックスフォード大で哲学を学んだ後、マサチューセッツ大で哲学の講師に。ジャーナリストとしての経験も経て、映画製作に興味を抱き「ポケット・マネー」(1972/米/劇場未公開/監督:スチュワート・ローゼンバーグ/主演:ポール・ニューマン)、の脚本家として映画界入り。1973年、伝説の、そして永遠の大傑作「地獄の逃避行」(米/原題:『BADLANDS』/監督・脚本・製作:テレンス・マリック/主演:マーティン・シーン、シシー・スペイセク)で監督デビュー。1978年、リチャード・ギアの出世作(らしい>ドロップアウトは恥づかしながら未見)「天国の日々」でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞するも、その後監督業を離れ、プッツリと姿を消す。何処だかの片田舎で飲んだくれてゐるらしい、だとかあるいは死亡説まで囁かれつつも(実際はフランスで教鞭を執つてゐたといふこと)、1998年「シン・レッド・ライン」(米/監督・脚本:テレンス・マリック/出演:ショーン・ペン、ジム・カヴィーゼル、エイドリアン・ブロディ、ジョン・キューザック、ニック・ノルティ、ジョージ・クルーニー、ジョン・トラボルタ、ウディ・ハレルソン、だとかもう徒に多数)で電撃的カンバック。世界中を期待の渦に巻き込みながらも、出来上がつた映画は戦争映画と称して中身は掴みどころの無い禅問答で、観客を煙に巻くか唖然とさせる(一応ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞してもゐるが)。
 そんなテレ・マリの、更に7年振りの最新作「ニュー・ワールド」(2005/米/監督・脚本:テレ・マリ/出演:コリン・ファレル、クオリアンカ・キルファー、クリスチャン・ベール、クリストファー・プラマー、他)が公開された。ので何とはなく観に行つた。舞台は17世紀初頭、ネイティブ・アメリカンの王の娘ポカホンタス(といふ呼称は劇中では登場しないが、演:クオリアンカ・キルファー@新人)と、イギリスからの入植者ジョン・スミス(コリン・ファレル)、同じくジョン・ロルフ(クリスチャン・ベール)との有名な悲恋物語である。
 「ニュー・ワールド」のことはひとまづさて措き、「地獄の逃避行」は世間一般で誰しもが賞賛してゐる以前に、個人的にはもう、決定的に素晴らしい。私的オールタイムのベスト10を選べ、といはれれば絶対に入る。人生に於いて極めて大きな影響を与へられた、といつてしまつても些かも過言ではない。約10年前、シャッターに堂々とミッ○ーマウスの絵が無断で描かれてゐた、今はもう潰れてしまつたビデオレンタル屋で借りて初めて見た次の日、私はジージャンを買ひに行つた。二十台の殆ど全て、といつてしまつてもよい大半を、私はいはゆるみうらじゅん氏いふところの“ジージャンズ”、として過ごした。三十路を前にして、流石にジージャンもキツくなつて来たので現在はもう着てはゐないが。
 映画は、1958年にネブラスカ州で実際に起こつた連続殺人事件から想を得てゐる。ジェームス・ディーンに憧れた、ゴミ収集の仕事をしてゐるドロップアウト気味の25歳の若者キッド・カラザース(マーティン・シーン)は、ある日仕事からの帰り途、道端でバトンの練習をしてゐる15歳の少女ホリー(シシー・スペイセク@撮影時29歳)と運命的な出会ひを果たす。交際を始めた二人であつたが、ホリーの父親(ウォーレン・オーツ!)から反対されてしまつた為に、キットはショット・ガンでホリーの父親を殺害。以来行く先々で奪ひ、再び殺し、やがては追ひ詰められながら逃避行を繰り広げる、絶望的にカッコいい映画である。
 もう全編奇跡のやうにカッコいい映画なのであるが、私が一番好きなのは、キットとホリーの出会ひのシーン。詰まらない仕事を終へ、キットが両手をジーパンのポケットに半分突つ込みながらホテホテと歩いてゐると、道のほとりでクルクルとバトンの練習をしてゐるホリーが。「ハイ」と声を掛けるキット。「ハイ・・」、怪訝さうに返すホリー。「散歩に行かないか?」とキット。ホリーは「どうして?」(当たり前だが)。少し横を向いたりなんかして間を取つた後、キットは「話すことが沢山あるんだ」。両手を拡げて、「俺は他の奴等とは違ふ」。
 先に、「地獄の逃避行」を初めてビデオを借りて見た次の日、私はジージャンを買ひに行つた、と述べた。ジェームス・ディーンに憧れたキッド・カラザース、を演じたマーティン・シーンに、当時の私はドンピシャで憧れた訳である。ジージャンは今となつては少々以上に着て歩くのはキツいが、キットが履いてゐたやうな白いウエスタン・ブーツならば、今でも機会があれば買はうと思つてはゐる。
 ええと、「ニュー・ワールド」に話を戻すと、乱暴にいふとコリン・ファレル(と素人娘)が主役の前半は丸々「地獄の黙示録」のカーツ大佐の王国シーン。クリスチャン・ベール(と素人娘)が主役の後半は、少し撮り方が風変はりなドラマ自体は普通のメロドラマ。意図的に間を外した、あるいは飛ばしたアクティブな編集と、時に散見される間が抜けてゐるといつても差し支へない程の、間延びした画作りとが印象に残つた。決して詰まらない、と無下に片付けてしまふ程でもなかつたが。

 ここで、冒頭の一文を訂正する。“伝説の映画監督、テレンス・マリック”と述べたが、正しくは“伝説だつた映画監督、テレンス・マリック”、である。


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 「オフィスラブ すけべなOL」(2002『痴漢レイプ魔 淫らな訪問者』の2006年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:河村栞・池谷紗恵・山咲小春・平川直大・今野元志・丘尚輝・岡田智宏)。
 雑木林の中、木下冬子(山咲)が花沢克己(今野)に襲はれる。結婚一周年のお祝ひに、夫の健太(岡田)と待ち合はせてゐる最中だつた。犯され、殺される冬子は今際の間際に、憎き花沢の顔を眼球に焼きつける。冬子の持つてゐたハート型の風船が、空に飛ぶ。一方、一歳の時に病気で全盲となり光を知らぬ森尾ゆかり(河村)が、ラジオで冬子が殺されたニュースを聴く。ゆかりは結婚を約束した枝川信也(平川)と同棲してをり、明日はドナーが見つかつた、眼球移植を受ける手術の日であつた。手術は成功する、ところが。物心つく前から全盲だつた、ゆかりに視覚的記憶などあらう筈もない。にも関らず、ゆかりには信也とその日初めて歩いた、町並みの記憶があつた。風景に加へ、二人の男の面影も。その内の一人・健太と冬子の殺害現場で初対面ながら再会したゆかりは、健太に冬子はアイバンク登録してゐたか否か確認する(ドロップアウト注:現行のアイバンクは実際に移植待ち患者に提供するのは角膜のみ、眼球そのものの移植が技術的に可能なのかどうかは知らない)。宜、といふ回答を受けてゆかりは確信する。自分の受けた移植のドナーは冬子で、元は冬子の眼球には、冬子の記憶が残つてゐるに違ひないと。かくして、ゆかりは健太とともにレイプ犯を捜し出すことを決意する。
 移植された眼球にドナーの記憶が残つてゐて、残された記憶を頼りに、被提供者が遺された夫とドナーを強姦し殺害した犯人を捜し出す、といふ筋書き自体は兎も角、岡輝男がそんな気の利いたプロットに即した脚本を書く訳がない。犯行現場に佇むゆかりに目をつけ、花沢がわざわざ捜し出される前に自分から信也の留守にゆかりを自宅に襲撃するだなどと、最早どうもかうもない。
 それはさて措き、封切り当時、あるいは旧題公開当時には気づかなかつた、初歩的ではあれ大きな脚本上のミスに改めて気がついた。ゆかりを自宅に襲撃した花沢は、暗闇の中ゆかりの反撃に遭ひ絶命するのだが―え、ネタバレ配慮なし?―後日、一件落着といふ次第で健太がゆかりを訪ねて来る。その際、ちやうど冬子の初七日が終つた旨が健太の口から語られる。ところで冒頭、移植手術からゆかりの包帯が取れるやうになるまでに、既に一週間が経過してゐるのだが(笑
 イコール岡輝男の丘尚輝は、ゆかりに執刀する眼科医・草野和彦。池谷紗恵は、信也勤務先の先輩・林彩花。ゆかりと健太の浮気を誤解し心に隙間の生じた信也を誘惑、“オフィスラブ”する。ここで、勘のいい諸賢はもうお気づきであらうか。何と恐ろしいことに素晴らしいことに今新版の新題は、物語の本筋とは全く無関係な純然たる濡れ場要員の池谷紗恵に―のみ―フィーチャーしてつけられてゐるのである。嗚呼、何トスバラシキ桃色ノ世界   >別に自棄になつてゐる訳ではない

 花沢が絶命し、どういふ訳でだかゆかり宅の庭先に引つかゝつてゐた、冬子が手にしてゐたハート型の風船は再び空へと戻つて行く。


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