真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「昭和の女 団地に棲む人妻たち」(2006/制作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:工藤雅典/脚本:日下由子/企画:稲山悌二/プロデューサー:秋山兼定/撮影:西岡光司/照明:小川満/助監督:竹洞哲也/監督助手:他一名、新居あゆみ/撮影助手:山本譲/照明助手:八木徹/編集:三條知生/音楽:奈良敏博/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:夏目今日子・矢藤あき・佐々木麻由子・那波隆史・伊庭圭介・サーモン鮭山・天川真澄・下元史朗)。
 大阪万博前夜、団地住まひの主婦・景子(夏目)の夫・秀樹(那波)は、会社が倒産して以来、求職しながらしがない日雇ひに憂き身をやつしてゐた。景子は家計を維持するため、うら寂しい町外れの造成地に立つ、いはゆる立ちんぼの主婦売春である。造成地には、ニュータウン建設の噂が囁かれてゐた。売春婦仲間のジュン(矢藤)からその話を聞き、景子は世間の移ろひに接する。フリーの景子とは違ひ、ジュンはチンピラ・信二(伊庭)の手配で仕事をしてゐた。二人は付き合つてをり、信二はジュンのために組への上がりを胡麻化してゐた。ある日景子は、トレンチコートの初老の男・昭夫(下元)と出会ふ。昭夫は、景子を別の女と勘違ひした。自分を買ふでなく付き纏ふ昭夫を、景子は追い払ふ。
 絶好調なデビューからエクセス次代のエースと目されたのも束の間、以降どうにも生煮えてばかりゐる工藤雅典の新作は、本人が余程得意としてゐるつもりなのか他に抽斗がないのか、例によつて大人の女の官能をメインに据ゑたメロドラマである。ロマンポルノの昔から王道の定番のひとつではあり、そのこと自体決して悪くはないのだけれど。
 佐々木麻由子は、景子の隣室に暮らす麻美、夫は家を出て久しい。秀樹とも、景子に隠れて関係を持つ。サーモン鮭山は、景子の粘着質の客。天川真澄は、信二にヤキを入れるヤクザ。ヤクザがもう一人、しかも画面が暗いロングで、台詞―とクレジット―のある天川真澄はどうにかその人と視認し得るものの、もう一名は全く不明。
 昭夫は、亡くした妻の若い面影を景子に見てゐた。何回か買はれるうちに、次第に追ひ詰められて行く秀樹との生活に疲れた景子は、昭夫と逃げることを決意する。昭夫との旅立ちの朝、結局景子は、「味噌汁に葱を入れるのを忘れた」と夫の下に戻る。
 詰まるところは、何も起こらない映画である。「モノレールに乗りに」、街を捨て逃げるジュンと信二の姿も、御座なりなショットひとつで片づけられるばかり。夏目今日子の濡れ場の、文字通り匂ひ立ちさうな色香は裸的にも映画的にも評価出来るが、秀樹が寝てゐるうちに家を出て、依然秀樹が寝てゐる間に翻意して帰宅する。だなどといふ腰も砕ける物語は、流石に都合が良過ぎはしまいか。大体、どんな朝つぱらの駆け落ちなのだ。あるいは秀樹が、当サイト並に大概寝倒してゐたのか。結局、少々体裁が整へられ、丁寧に撮り上げられてはゐるだけでまるで何も起こらずに、殆ど中身もない一作。表面的な―あくまで表面的な―クオリティが高い分誤解しがちにもなつてしまふが、最終的にはオガキンこと小川欽也らとも大差ない。そこまでいひ切つてしまふのは、流石に些か蛮勇どころでは済まぬか。ピンク第二作「美人取立て屋 恥づかしい行為」(1999/主演:青山実樹)、第四作「美人おしやぶり教官 肉体《秘》教習」(2001/主演:岩下由里香)には、全く当たり前の娯楽映画ながら、その“当たり前”の内容の充実に目を見開かされた。今作脚本の踏み込みは全く浅く、演出の切れ味にも欠ける。国映若手の、格好ばかりつけてゐる割に中身はてんでない自己満足と何ら変らぬではないか。となると、国映若手の凡作も又オガキンと等価といふ次第になる。それもそれで、最早構はない。工藤雅典も、まだまだ枯れるには早からう。脚本に再び橘満八を迎へる、といふのも発想が甚だ貧困な上に中々さう物事は簡単には行かないのかも知れないが、奮起といふか再起を望みたい。下元史朗も、気の所為か元々過大評価であつたのか、この人こんなにお芝居下手だつたかな?ひとつ褒められるのは、リアルタイムを感じさせる物件を絶妙に画面から排した、丁寧なロケハンは勝利してゐる。

 音楽は元SONHOUSE、SHEENA & THE ROKKETS、そして「ア・ホーマンス」(1986/監督・脚本・主演:松田優作)の音楽でも知られる奈良敏博。中々小洒落た劇伴をつけてゐた感触はあるが、映画トータルの出来がアレだつたからか、メロディはまるで頭の中には残つてゐない。それも、それ。邪魔をしてゐないといふ意味で、劇伴として成功してゐるといへるのかも知れないが。


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