真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢通勤快楽 みだらな車内」(2000『痴漢電車 ゆれて絶頂5秒前』の2003年旧作改題版/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:金泥駒・関根和美/企画:桜井文昭/撮影監督:柳田友貴/助監督:竹洞哲也/編集:《有》フィルムクラフト/音楽:ザ・リハビリテーションズ/監督助手:森角威之/撮影助手:村田博志/照明助手:松島秀征/タイトル:ハセガワタイトル/効果:東京スクリーンサービス/出演:彩香《新人》・中村杏里・浅丘由実《新人》・達花和妃・飯島大介・やまきよ・町田政則・山内健嗣・岡田謙一郎・熊本輝生・亜希いずみ・城春樹/友情出演:上野太・佐々木基子・佐藤樹菜子・篠原さゆり・村井智丸・山田荘太郎)。出演者中、ポスターに名前が載るのは山内健嗣までと城春樹。
 テレビ局に勤める―この設定にはほんの掠つた程度しか意味はない―武男(城)には妄想癖があり、同僚の由美(彩香)が痴漢の被害に悩んでゐることを知ると、勝手に彼女をガードすることを決意する。と一々粗筋を掻い摘んでみることも特にはないやうな、十打数の内の九打席の、関根和美が肩の力を抜いて、といふか抜け切つて。腰まで砕けてしまつたのではないかといふくらゐに、あへて最大限好意的に評するならばフランクな映画である、フランクな映画といふのは何なんだよ。
 武男が痴漢と間違へ取り押さへた二人組・太(町田)と郁雄(山内)は実はゲイ・カップル、憤慨し武男を殴り飛ばさうとする郁雄を太が抑へる。「誰にでも間違ひはある」、と太は武男を許す。但し、二回目は「掘つちやふよ」と耳をペロリ、別れ際の台詞は「ハスタラビスタ・ベイビー」。
 由美は電車通勤を断念、初日は朝五時に起きて自転車で通勤。も、自転車に乗れなくて遅刻(非道過ぎる・・・)。次の日は四時に起き走つて通勤、今度は途中で足が攣つてしまひ矢張り遅刻。く、下らないにもほどがある。平素世の中でバカ映画と称されてゐる、どんな映画にも劣るとも勝らない。その癖に、あれれ?どうして俺はそれを案外普通に楽しんで観てゐるのだ?そこまで疲れきつてゐるのであらうか。仕方がない、是非を確かめるべく、後日もう一度観に来よう。と、リアルタイム公開時に既に数回は観てゐる。そんな何度も何度も観る映画では決して全くないことは、力強く爽やかな笑顔でいふまでもなからう。 
 この映画―に限らないが―撮影の柳田友貴大先生も凄い。平気で登場人物の顔がフレームから切れてしまつたり、突然ピントが合はなくなつてしまつたりする。ある意味凄い、別の方向でのみ凄い。ファインダーを覗かずにキャメラを回してゐる、とすら囁かれる所以である。
 痴漢電車といふことで、セットを使用しての車内パートが―当然―設けられるが、乗客要員のカメオが徒に豪華。佐々木基子や篠原さゆりがすぐ側に居るといふのに、どうして浅丘由実を痴漢しなくてはならないのか、といふ疑問には敢て触れない。

 ところで今作は2000年の、恒例大蔵正月痴漢電車。今作封切りの約三ヶ月後、監督:関根和美&脚本:金泥駒(=小松公典)のコンビはピンク史上、ではない。アーネスト・ボーグナインとベッツィー・ブレアの「マーティー」よりももどかしく、ティム・バートンとジョニー・デップの「シザーハンズ」よりも切ない、そして全てを超えて美しい。日本映画で最も美しい映画、「淫行タクシー ひわいな女たち」を世に送り出す。更にその二ヶ月後には林由美香版「ナースのお仕事」、「エッチな天使 ねっちゃり白衣」を発表する。

 以下は2014年のこの期に及ぶ再見に際しての付記< 単にシリアスなドラマならば時に当たることもあるものの、下手の横好きのサスペンスより、関根和美はグッダグダの脱力コメディが矢張り面白いと再確認した次第。スッ飛ばした配役を加筆すると、浅丘由実は、篠原さゆりと佐々木基子に挟撃された格好の武男が痴漢する羽目になる久美、瑣末な蓋然性なんぞ気にするな。亜希いずみと熊本輝生は、妄想の中で武男が御厄介となる婦警と刑事。飯島大介は武男とは同期の部長・健治で、達花和妃は由美の大分年上の同僚・良江。中村杏里は武男の細君・葉子、やまきよは武男が頻繁に金を借りる後輩・幸長。山田荘太郎が特定出来ないが、岡謙と友情出演勢は乗客要員、全員潤沢に見切れる。


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 「人妻催眠 濡れつぼみ」(2001/製作:杉の子プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/撮影:藤原千史/照明:吉田豊宏/編集:酒井正次/助監督:増田庄吾/出演:里見瑤子・桜沢夕海・池谷紗恵・ホリケン・幸野賀一・カレーライス、他)。※協力で女一名男三名がクレジット、後述する。
 精神科で催眠術による治療を受ける少女、ジッポーの炎で、風呂に入る暗示をかけられる。すつかりそのつもりで服を脱ぎ、少女はくつろぐ。精神科医の暗示で、浴室に父親が入つて来る。少女は慌てて肌を隠し、羞恥に身を硬くする。父親に続いて兄が、従兄弟が、親戚中の男達がやつて来る。両手を頭の上に縛り上げられ、男達の手が少女の体中を蹂躙する。固く閉ぢ合はせた両足は父親の強い力でこじ開けられ、無理矢理に父親が少女の体内に入つて来る。実際には少女を犯してゐるのは精神科医で、その模様はビデオで撮影されてゐた。刑事の五十嵐(幸野)は催眠状態にある女を強姦する裏ビデオの犯人を追ふが、捜査は難航する。仕事に疲れた五十嵐は妻・淳子(里見)の求めにも満足に応られず、淳子は欲求不満を持て余してゐた。淳子は友人の恭子(桜沢)に誘はれ、お茶会と称した貧相なホーム・パーティーに参加する。淳子はそこで、催眠療法を専門とする精神科医・大島(ホリケン)と出会ふ。
 犯人は初めから割れてしまつてゐるので、サスペンス要素が発生する余地はない。大島がかけた催眠術と偶々その時テレビで放映されてゐた映画―杉浦昭嘉の自主映画?―とが交錯するクライマックスは、演出力は伴はないもののアイデアとしては悪くはないが、全般的には一応の体だけは為してゐる物語がのんべんだらりと右から一昨日へと流れて行く凡作である。自脚本でありながら、展開にちぐはぐな点も一つ大きく見られる。
 その中でも、といふか凡作ながらに突出した威力を誇る今作の決戦兵器は、催眠療法を受ける不登校気味の女子高生・千秋を演じる池谷紗恵。二度目の登場では、千秋はネズミになる暗示をかけられる。全裸で小首を傾げながら「チューチュー♪」鳴いてみせる池谷紗恵は、何と言つたらいいのか、必殺とでもしか称へやうがない。大変魅力的な女優さんであつたのに、伝へ聞くところによると交通事故に遭ひ体を壊し、引退されてしまつたとのこと。残念である、今は健やかにお過ごしなのであらうか。
 協力でクレジットされる女一名男三名は、ホーム・パーティーに参加するその他面子か。ホーム・パーティーとはいへ展開されるのはハウス・スタジオの何といふこともない居間で、杉浦昭嘉の身の回りの人間を適当に見繕つて来たかのやうな面々で繰り広げられるだけである。ただでさへ貧しい映画を、悪い方向に加速してしまつてゐる。カレーライスは五十嵐の同僚・長野、他に刑事役で登場の数名はスタッフ勢か。内トラに関しても、協力の四名と全く同じことがいへる。最終的には杉浦昭嘉の演出力の貧弱さに起因するものであらうが、ピンク映画の構造的な貧相さが、如実に現れてしまつた一本ではある。
 尤も、ささやかでか細くも、穏やかなエモーションを惹起する音楽といひ、実のところは杉浦昭嘉の映画は決して嫌ひではない。今回も、あんまりよくは覚えてゐなかつたので、観るまでは期待して小屋に足を運んだものである。最終的には体力に欠くゆゑ杉浦昭嘉は間違つても大成する映画監督ではないであらうし、決して前に出て来る、時代にその名を刻むやうな映画でもない。とはいへ出来損なつた商業映画を、慎ましくも穏当に志向するこの人の映画は個人的には案外満更でもない。出来損なつてゐることに関しては、基本的な欠如によるものなのでそもそも言つたところで仕方がない。最早何を言つてゐるのか自分でもよく判らないが、世界の片隅に、杉浦昭嘉の映画はあつてもいいやうな気がする。


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 「愛人・人妻 ふしだらな性癖」(2000/製作:杉の子プロダクション/配給:大蔵映画/監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/音楽:村田寿郎/撮影:藤原千史/照明:藤森玄一郎/編集:酒井正次/助監督:増田庄吾/出演:葉月螢・林由美香・立花澪・竹本泰史・幸野賀一)。
 構成作家の沢村(竹本)と、妻・和美(林)の夫婦仲は順調。ある日沢村は、TV局(因みにNHQ)のプロデューサー・稲葉(幸野)から、沢村の企画を通す引き換へに稲葉夫妻との夫婦交換に参加することを求められる。和美のことを慮り断りかけた沢村を、稲葉は制する。沢村には実際の妻である和美を連れて来るのではなく、稲葉の愛人の亮子(立花)を妻と偽り同伴して来て貰へればいい、とのこと。要は、夫婦交換に偽装した大つぴらな亮子との浮気に手を貸して欲しい、といふ相談である。和美に後ろめたさを感じるならば、何だカンだと理由をつけて沢村には稲葉の妻を抱く必要もない、ともいふ。仕事のこともあり、沢村は稲葉の申し出に応じる。当日、その日初めて会つた沢村―当日は佐々木、といふ偽名を使用―と亮子は、バーベキューをしようといふ待ち合はせ場所の河原に向かふ。そこには、恥づかしい虎さんのエプロン―阪珍グッズには非ず―を着けてBBQの準備に嬉しさうに精を出す稲葉と、妻・由希恵(葉月)とが居た。予想に違へた由希恵の美しさに、沢村は戸惑ふ。
 凝つた基本プロットから更に展開される、二重三重のどんでん返し。ミステリーの種明かしパートが少々丁寧過ぎて冗長であるやうに感じられもするが、正攻法の脚本が手堅い、教科書の見本のやうなサスペンスの佳作である。何処かで何度も見たやうな、といつてしまつては実も蓋もなく、杉浦昭嘉らしくもない、などといつてしまつては更に鍋すらも消失してしまふが。
 幸野賀一は、調子良く好色ないんちきプロデューサーを好演。ステレオタイプ通りではあるが、プログラム・ピクチャーとしては逆にこの位判り易くてこそちやうどいいのかも知れない。由希恵役はもう少し正統派の美人であつた方が望ましかつたやうな気もするが、葉月螢のミステリアスな雰囲気の方が最大限に有効である、といふのならばそれもそれで肯ける。林由美香は全くパーフェクト、沢村と和美との幸せな結婚生活は、観てゐて羨ましいこと羨ましいことこの上ない。私は一体何を言つてゐるのだ。他方、弱いのは残りの二人。竹本泰史は、六年前は色男ぶりが全然未完成。今の目で見ると、相当に間抜けに見える。更に問題なのが立花澪。肉感的な体と、まあお芝居はこんなもので、とでもいつたところで強引に不問に付すとして、問題は首から上。誰これ、そこら辺のDQN?最大出力で言葉を選ぶと、SHOW-YAのコピーバンドで四番目の美人。何処から連れて来たのか全く判らないが、どうやら今作しか仕事はしてゐないやうである。意外とありふれた名前ゆゑ、AVその他、異業種方面に関しては全く手も足も出ない。

 クライマックス、沢村が自分達の結婚式の写真の中に<由希恵>の姿を発見するカットは、少々陳腐に堕してしまつたとて、ジャーン♪なりガーン♪なり、何か一音鳴らして沢村の衝撃を補完すべきではなかつたか。稲葉の配役に関し先にも触れたが、判り易過ぎるくらゐでちやうどいいといふ匙加減もあるのである。


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 「親友の恥母 白い下着の染み」(2006/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/原題:『親友の母』/監督:神野太/脚本:これやす弥生/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影監督:創優和/撮影助手:柴田潤/照明助手:小林麻美/助監督:竹洞哲也/監督助手:小山悟/スチール:阿部真也/ヘアメイク:徳丸瑞穂/編集:フィルムクラフト/制作協力:フィルムハウス/出演:松本亜璃沙・華沢レモン・矢藤あき・柳之内たくま・小林三四郎・真田幹也)。
 エクセス映画のタイトルには、“恥母”なる何をいつてゐるのだか伝はるやうでよく判らない珍淫単語がしばしば頻出するが、“親友の恥母”と冠された映画は2004年の、“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦の正に解き放たれんばかりに一撃必殺な破壊力が縦横無尽に迸る、「親友の恥母 -さかり下半身-」(恥母:平田洸帆)以来二作目となる。色情狂の母親が息子の親友を出鱈目も斜め上に通り越して誘惑する「さかり下半身」に対し、坂を越えロング・ショットで歩いて来る女に、「僕には、ずつと憧れてゐた年上の女性が居た。それは親友のお母さんだつた・・・」といふ若い男の独白が被さるオープニングで幕を開ける今作は、恥母ものといふよりは親友の義母に若い男が恋慕を寄せる、極めて順当な非純愛映画となつてゐる。
 登場人物の家族構成は、父・収一(小林)、十年前に再婚した義母・響子(松本)、予備校生の長男・賢二(真田)に高校生の長女・由美(華沢)といふ奥澤家。響子に秘かにでもなく熱烈な恋情を抱くのが、賢二の親友で一流大学に通ふ等々力裕哉(柳之内)である。
 まづ主演の松本亜璃沙に触れておくと、ロング・ショット、タイトル・インに続いての小林三四郎との濡れ場。・・・・あれ?ポスターの写真よりずつと可愛いぞ。逆からいふと、それだけポスターの写真が例によつて酷い、といふことでもあるのだが。まあ、それがエクセス・クオリティともいへる。公式スペックによると三十四歳、アイドル風の容姿は意外と若く、同時に絶妙に年もとつてをり、メロンを二つに切つてボガンボガンとくつゝけたやうなオッパイといひ、全く眼福である。他方、お芝居の方はぼちぼち。尤も、それはそれでも全然構はない。さういふいふ上での戦略、といふ訳でもなからうが、今作は裕哉が響子に恋慕を寄せるメイン・プロットに、年増女に夢中でちつとも自分の方を向いて呉れない、実は裕哉に想ひを寄せる由美のジェラシーがサブ・プロットとして絡めてある。このことが詰まるところは『BOYS BE…』に毛を生やしたやうな何てこともない物語に、グッと厚みを増す。といふか中盤は華沢レモンと松本亜璃沙の地力の差もあつてか、殆ど映画は裕哉にヤキモキする由美の物語にすらなつてしまつてゐる。即ちこの期に改めて認識させられたのは、華沢レモンの進境も通り越した充実ぶり。ひとつひとつのカットの小さいながらも豊かな演技に、そこかしこで注目させられる。安心して観てゐられる、の明らかに次の次元に到達しつつある。どんな作品のどんな端役ですら、映画を自分のものにしてしまへる決定力を有しつつある。よつて今作最大にして唯一と思はれるミスは、誕生日会にプレゼントを持つて来なかつた裕哉を、由美が家にまで押し掛けて急襲する件。自ら衣服を脱いでの「先生を、下さい・・・」の台詞は、部屋全体を捉へた回し放しのカメラの、由美が背中を向けたアングルではなくして、是非ともカットを変へて正面からアップで押さへるべきではなかつたらうか。完全に映画の軸足がブレてしまつたとしても、今作に於けるエモーションの極大はここにこそあつたものではないか、と感じたところである。
 矢藤あきは、賢二の彼女のアーパー女子大生・沼部理恵。絡みと、由美誕生日会の場面にのみ登場。元々特に芝居が達者な訳でもなければ、エモーションを手中にした女優さんでもないので、ある意味最も適材を適所に配した使ひ方ともいへるのか。理恵が賢二に「アーン♪」とケーキをフォークで口に運ぶアツアツの様子にアテられ、由美も裕哉に「アーン♪」。ところが、響子に夢中な裕哉は気もそぞろで一切取り合はない、由美は膨れる。このシーンの何処にポイントがあるのかといふと、華沢レモンの膨れ面、の前に、その呼び水としての矢藤あきの置き方。濡れ場要員とて決して疎かにはしない、神野太のベテランならではの貪欲な手堅さが現れてゐる。
 由美と裕哉の濡れ場に続いて、響子と裕哉の濡れ場で映画は幕を閉ぢる。後者の入り方は些か強引でもあるが、結ばれるべき二人が結ばれないことには、ハッピーなエンドとして娯楽映画が着地しない。加へて、“白い下着の染み”をきちんとショットとして押さへておく律儀さも光る。決して我武者羅に前に出て来る訳でもないのだが、観てゐて実に暖かい気持ちになれる一作。積み重ねられたものが、しつかりと結実してゐよう。

 とかいふ次第で、昨今のエクセスの堅調を改めて実感させられたものである。そこでフと思ひついたのが、“親友の恥母”で各監督が連作してみるのも一興ではなからうか。まづは新田栄の、「痴漢と覗き 親友の恥母」から。そして一通りを経て棹尾を飾るのは、あの男の必殺の本篇復帰作、「味見したい親友の恥母たち」!・・・・駄目かいな?


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 「淫母の性教育 奥までちやうだい!」(2006/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督・脚本:神野太/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:橋本彩子/照明:小川大介/助監督:竹洞哲也/照明助手:小野直史/監督助手:小山悟/ヘアメイク:徳丸瑞穂/制作協力:フィルムハウス/出演:月島えりな・倖田李梨・華沢レモン・柳之内たくま・栗原良・桂健太郎)。二者クレジットされる、撮影助手に力尽きる。
 開巻、いきなり義理の息子・和也(柳之内)のいはゆる手マンで、市川美幸(月島)が立つたまま潮を吹く。

 ハイ、百点満点♪

 そのままの勢ひで、美幸と和也とは手を替へ品を替へ延々と一応禁忌を侵し続ける。もしかして、この映画はこのままずつと濡れ場だけで押し切るつもりなのではなからうか?などと妙な不安にも囚はれ始めた頃、私と義理の息子とがかうなつた顛末を皆様にお聞かせします、といふ直球が内角を抉る美幸のモノローグにて、漸く通常のドラマが幕を開ける、全然通常ではないのだが。
 美幸は連れ子のある宗一郎(栗原)と結婚、宗一郎との夫婦仲に全く問題はなかつたのだが、三浪中の浪人生で、口数の少ない和也とはギクシャクしてゐた。宗一郎との夫婦生活、疲れた、と宗一郎は勃たない。といふ訳で取り出したバイブで愛されるも、美幸はどうにも満たされぬ。仕方なくシャワーを浴びながら自慰に耽つてゐたところ、美幸は予備校の合宿に行つてゐる筈の和也の視線に気付く。和也は体調を崩し、夜遅く戻つて来てゐたのだ。寝込んだ和也の寝汗を拭いて、ゐるだけで美幸が尋常でなくよろめいてしまふ箍の外れた描写を挿みつつ、ひとまづ回復した和也は予備校に出かける。美幸が洗濯をしようとしたところ、自分の下着が一枚なくなつてゐる。釈然としないまま、一旦美幸も買ひ物に出る。さうしたところ、公園のトイレでなくなつたパンティーを用ゐ美幸の名を呼びながらオナニーする和也の姿を目撃する。

 何だこのシークエンス!?

 豪腕にもほどがある。美幸がもうどう対処したらよいのか判らなくなつてゐる―私にも、これからこの物語がどうなるのかがサッパリ判らない―ところに、友人の小岩鏡子(倖田)から電話がかゝつて来る。鏡子も又、連れ子のある男と結婚してゐた。渡りに舟と、美幸は鏡子のところに相談に行く。鏡子も初めは、義理の娘・百合(華沢)と上手く行つてはゐなかつた。ある日帰宅した鏡子は、百合が部屋で彼氏の亀戸誠人(桂)とセックスしようとしてゐる現場に出くはす。も、未だ童貞の亀戸は、上手く事を致すことが出来ない。百合と亀戸の間には、気まずいムードが流れる。そこで鏡子は、実の親なら出来ないことをしよう♪とかいふ訳で亀戸に女の体を手解きし、そのことによつて百合と亀戸との恋愛を成就させ、百合とも仲良くなれたといふのである、以降の展開は推して知るべし。といふか、鏡子の成功例からして既に、義娘の彼氏を寝取つてはイカンぢやろ、などといふのはいはずもがなな野暮である。
 またバカみたいに丈の短いワンピースで、大人の色香を攻撃的に炸裂させる鏡子が亀戸に性教育を施す件がヤバい!何を力強く訴へてゐるのだか最早自分でもよく判らないが、とまれさて措き、即物的なエロさに関しては満点以上の、正しくエクセス正調エロ映画である。こんな滅茶苦茶な展開を、それでも破綻なく一本の劇映画に仕上げてしまへることは、映画史の中で省みられることはよしんばなくとも、ひとつの偉大な才能なのではなからうか、とすら思へる。尤も省みられる必要も別にない、とも同時に思ふが。

 こんなストレートな煽情性マキシマム映画、てつきり監督は坂本太だらうと思ひながら観てゐたところ、エンド・クレジットを見てみると太は太でも坂本ではなく、神野太であつた。といふか、最初に監督の確認もせずに映画を観てゐるのか?この人(神野太)作風変つたのかな?と思ひ事後改めてフィルモグラフィーをjmdbで調べ直してみたところ、要所要所のアクションが印象に強く残つてはゐるものの、その大半はエロ系Vシネであつた。加へて、以前橋口卓明と伊藤猛の探偵物語に関して感想を書いた際、神野太について“何故かエクセスに行つてしまつた”と書いたが、そもそもデビューはエクセスであつた(1991/『若奥様不倫 わいせつ名器』/脚本:深沢正樹/勿論未見)。


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 「脳内SEX 老人と欲求不満妻」(2006/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督・脚本:神野太/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:橋本彩子/照明:安部力/助監督:竹洞哲也/制作協力:フィルムハウス/出演:水紗和みずほ・倖田李梨・佐々木基子・野上正義・中川大輔・竹本泰志・兵頭未来洋)。
 専業主婦の川口美香(水紗和)の夫・正樹(中川)は社内でエリートコースを歩み、都内に一戸建ての社宅を宛がはれ、表面的には幸せに暮らしてゐる。も、仕事に忙しい正樹と美香は夫婦生活の御無沙汰が続き、夫がさつさと寝てしまつた後、美香は台所で野菜を使ひ自らを慰める日々が続いてゐた。ある朝関西に出張に出る正樹を送り出してゐたところに、裏に住む田端幾三(野上)が回覧板を持つて来る。美香は、幾三が自らに向ける下卑た視線を疎んじてゐた。水道管の調査と称して美香の家に入り込んだ幾三は、そこかしこに盗聴器をセットする。盗聴器を通して、幾三は美香の欲求不満に悶える日常をモニタリングする。
 タイトルにある“脳内SEX”とは、果たして何ぞや。冒頭から、チープ極まりない大脳模型の映像が幾度と挿入される。とはいへ、その実は友人の自慢話にイマジンを膨らませた美香が秘所を湿らせてみたり、自慰にはしたなく狂ふ美香の音声を盗聴する幾三が、美香の痴態を思ひ浮かべて股間を膨らませる。といつた単なる妄想の域を全く出るものではなく、脳内SEXといふコンセプトにたとへば何程かサイバーな、とりたてての意味合ひがある訳では些かもない。単なるエロ映画では詰まらないのでここはひとつトンチキなコンセプトを、といふのであればそこは矢張り、我等が“最強”山邦紀の出番、といふか独断場であらう、神野太の出る段ではない。とはいへ、単なる単純なエロ映画としては、脚本・演出の神野太、俳優部からは野上正義。両ベテランが要所要所をさりげなく締め、実に安定感のある―高―水準的な一本に仕上がつてゐる。ラストの閉め方などはお約束の域を半歩も出るものでは全くないが、それでも見事な手捌き。商業娯楽映画としては、これ以上の着地点はなからう。特にどうといふこともない一作ではあるが、特にどうといふこともない上で矢張り素晴らしい。野上正義・神野太の熟練した職人芸に加へ、今作を平均点以上に押し上げてるのは主演の水紗和みずほ。ピンク初出演のこれまでは主にも何もAV嬢であらうが、酒井あずさと瀬戸恵子を足して二で割つたやうな―それでゐて、世代的には妹―ルックス。色が白く、細身の体は美しい。何よりも、大きな瞳を操つて判り易く喜怒哀楽を表現するお芝居が、かういふどうといふこともない上で矢張り素晴らしい映画にはよく合つてゐる。他の監督でも、他の会社でも是非継続的に観てみたい新星である。
 倖田李梨は美香の友人・与野薫。アダルトビデオの世界でも、水紗和みずほと倖田李梨の共演作といふのはあるやうだ。薫の夫は長期の海外出張中で、薫も矢張り欲求不満に悩む。そんな薫が喰つてしまふのが、青空新聞の集金人・西ならぬ赤羽仁(竹本)。赤羽は薫の差し金で、やがて美香の下にもやつて来る。佐々木基子は、美香の義姉・大宮恵子。夫との死別後、ホスト上がりの純平(兵頭)と再婚する。中川大輔と兵頭未来洋、これだけルックスの似通つた二人を同時にキャスティングしてしまふのは如何なものかと思ふが、そこのところを回避する為か、兵頭未来洋は上田馬之助ばりの目にも鮮やかな金髪にしてゐる。


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 「痴漢電車2003 さはられたい女」(2003/製作:ジャパン・ホーム・ビデオ株式会社、新東宝映画/配給:新東宝映画/監督・脚本:神野太/出演:中谷友美・野本富子・しのざきさとみ・深井博喜・重松伴武・坂入正三・武田勝義・坂本裕一郎)。
 二、三年前に新東宝が、創立四十周年だとかでビデオ会社と組んで展開してゐた、PINK‐Xプロジェクトの第六弾。PINK‐Xプロジェクトとは、一本辺り一千万円と、通常の三倍強の制作費―それでも商業映画としては破格のロー・バジェットだが―を投入してゐる割には、所々キネコであつたり、概ね作品的にも特段恵まれてゐるといふ訳ではない、ヘッポコ・プロジェクトではある。今回、PINK‐Xの全貌を調べてみようかとは思つたが、いくらググッてみたところでキチンと纏められた一覧は出て来なかつたので、面倒臭くなつて途中で止めた。皆(一覧が)欲しいな、とは思つてゐてもわざわざ自分で作りまでするのは億劫であつたのであらう。要はさういふ省みられることもあまりあるまい、ある意味結果論としてはそれも仕方のない企画であつた。
 一浪中の山本修一(深井)の、彼女・吉岡千尋(野本)はストレートで女子大生。ラブホにて一夜を過ごし、千尋は大学へ、修一は予備校へと別れる。も、何だか無性にムシャクシャして来た修一は、予備校へは行かず、何処に行くでもなく電車に乗る。電車の車中、修一は痴漢される、金髪のショート・カットの女・ミチ子(中谷)を目撃する。ミチ子の姿は、強烈に修一の脳裏に焼きついた。その日の夕食、高圧的な父親・信一(中入)は修一に一言の相談もなく勝手に、知り合ひの娘に週末の家庭教師をして貰ふことにしたと告げる。さういふ父親に反発しつつも、面と向かつては何もいへない修一であつた。週末、父親は接待ゴルフ、後妻である義母・春江(しのざき)は友人とのショピングへと出かける。修一独りの山本家を訪れた家庭教師は、髪型は黒髪ストレートのロングで、服装も全く印象は異なつてゐたが、あの日電車の中で痴漢されてゐた女と同一人物の、中根倫子だつた。
 のうのうとオチをネタバレすると、青年が淡い想ひを寄せた家庭教師の先生は、普通のセックスでは感じることの出来ない、痴漢されないと燃え上がらない変態女でした、ジャンジャン♪といふ次第である。因みにミチ子とは、痴漢仲間の間での、倫子の痴女としての通り名。倫子の黒髪ストレートのロングは鬘、といふ設定に映画の中ではなつてゐるが、修一の前で後ろ向きに鬘を外すカットの不自然さから鑑みるに、初めに長い髪のシーンを全部撮つてしまつて、その後に本当に髪を切り且つ染め、残りのシーンを撮影したものではなからうかと類推する。ここはもう1,000パーセント純粋に好みの問題でしかないが、倫子は倫子としての姿の時にはメガネをかけてゐる。黒髪も艶やかな倫子ver.の方が絶対にいい   >知らねえよ
 重松伴武は、春江の浮気相手兼信一の秘書・佐伯健三。武田勝義と坂本裕一郎―誰だこんなら―は、痴漢役1と2。今回、坂入正三は絡みに与らない。そもそもが、新東宝の四十周年だか何だか知らないが、坂入正三としのざきさとみ―後ギリギリで重松伴武も―の名前があるくらゐで、スタッフもキャストもほぼ全員Vシネ勢である。何をかいはんや、要はその一言に尽きると片付ければ、端的に実も蓋も消滅する。それにしてもPINK‐Xといふシリーズ、当時観た者の誰しもが口を揃へていふのが、何処に金を使つてゐるのだかがさつぱり判らない。全く以て、全方位的に散漫な企画であつた。

 以下は再見時の大幅な付記< 「発情車内 さはつたらノーパン」(2003『痴漢電車2003 さはられたい女』の2007年旧作改題版/製作:ジャパン・ホーム・ビデオ株式会社、新東宝映画/配給:新東宝映画/監督・脚本:神野太/プロデューサー:黒須功/撮影:茂呂高志/照明:池田義郎/編集:大永昌弘/助監督:広田幹夫/出演:中谷友美・野本富子・しのざきさとみ・深井博喜・重松伴武・坂入正三・武田勝義・坂本裕一郎)。新版ポスターに於いてPINK‐Xプロジェクトのことは、既に触れられてゐなかつたやうな気がする。
 以前に書いた感想に、特に大きな変更を加へる要は感じなかつた。とはいへ数点補足。物語は現在時制と一年前とを行つたり来たりするのだが、時制の往来にメリハリが乏しく、チグハグな箇所が散見される。とりわけ一年前時制の主人公・修一に神野太が付与したかつたであらう、自分以外の全てにイラついてゐるといふ属性は、演ずる深井博喜にエッジの欠片も見受けられないこともあり、殆ど全く機能してゐない。といふかよくよく考へてみるならば、全てにイラつくに当たり、予め己だけは心の棚に鎮座せしめて済まさうといふ身上も、如何なものかと思へなくもない。
 倫子(中谷)が黒髪ロングの鬘を自ら外し、修一に痴女・ミチ子としての正体を曝すシーンの不自然さといふのは。正面からの画で倫子が髪に手をかける、無理気味にカットが変ると、鬘を投げ捨てるミチ子のバック・ショット、といふ寸法である。あくまで私見ではあるが、矢張り不自然に見える。中谷友美といふ人は首から上には少々癖もあるが(それが個人的にはかなりホームラン・コースでもあるが)、惚れ惚れする程美しい体をしてゐる。電車内での尻を触る程度の痴漢シーンばかりで、濡れ場らしい濡れ場は一度きりしか設けられなかつた点は非常に残念である。その一度きりの濡れ場といふのも、倫子=ミチ子の性癖上、必然的に不全に終らなければならないとするならば尚更である。一方、思ひ切つた電車セットで羽目を外すといふ潔さは、今作のトーンにはそぐはなかつたでもあらう。
 「そこには、一年ぶりに僕の女神の姿があつた」、と修一が倫子、あるいはミチ子と思はぬ再会を果たすラスト・シーン。アイデアとしては非常に悪くないのだが、如何せん画が綺麗に、あるいは判り易く撮れてゐない。加へて、修一が気付くタイミングが早過ぎる。気付いてからストップ・モーションまでの間に、混乱を感じた。修一の動体視力を問ふ程無粋ではないつもりだが、角度といふ物理的条件には完全に反してゐると思はれる。
 主人公が年上の女に叶はぬ恋心を焦がす、センチメンタルな物語にマッチした旋律の美しい劇伴は効果的。映画を、幾分以上に救つてゐる。

 最後に、PINK‐Xプロジェクトに関して簡略に整理してみると。
 第一弾「愛染恭子の痴漢病棟」(2002/監督:愛染塾長
 第二弾「プレイガール7 最も淫らな遊戯」(2002/監督:中野貴雄)
 第三弾「につぽん淫欲伝 姫狩り」(2002/監督:藤原健一)
 第四弾「紅姉妹」(2002/監督:団鬼六/前後篇にて公開)
 第五弾「政界レズビアン 女戒」(2003/監督:愛染塾長)
 第七弾「愛染恭子VS菊池えり ダブルGスポット」(2003/監督:愛染塾長)
 確かこの、全七本で打ち止めの筈である。かうして改めて並べてみると、漫然感がいや増すばかり。監督作は勿論、「につぽん淫欲伝」と「紅姉妹」にも塾長は出演してゐる。いはばプロジェクトXといふよりは、A計劃とでもいつた風情ではある。


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 「新任女教師 二人だけの教育実習」(2006/製作:TMC/監督:城定秀夫/脚本:一月健二/製作:海津昭彦/企画:井手正明/プロデューサー:だもん・久保和明/撮影:田宮健彦/音楽:タルイタカヨシ/助監督:佐藤竜憲/美術応援:伊藤一平/編集:城定秀夫/制作:ジャンクフィルム/制作協力:EMC・LEONE//出演:松浦咲希己・流海・岡崎瑞穂・あさくらはるか・大野充・吉岡睦雄・綱島歩・吉川けんじ・佐藤文吾、他)。
 朝の理科準備室に、ジュッポジュッポと淫靡な音が響く。女生徒・綾子(流海)が、担任の堀江(吉岡)の股間に歪めた顔を埋めてゐた。堀江は、希望に胸を膨らませながら校門を潜り校庭を横切つて来る、板倉里恵(松浦)の姿を虚ろな瞳で追ふ。教職に憧れる里恵は、教育実習生として堀江のクラスに入ることになる。だが堀江は、年毎に女生徒を卑劣な手段で脅迫しては、肉奴隷に堕として来た変態性獣教師であつた。何時しか里恵も堀江の姦計に嵌り、露出授業、強制性交、堀江の毒牙に堕ちる。
 「君が僕のことを愛して呉れないから、愛して呉れるまで犯す」。歪み過ぎて真つ直ぐに透き通つてしまつた邪な愛情は、最終盤に漸く遅ればせながら少しだけ煌く。ただ全般的には、通り一辺倒な脚本と主に生徒役の未熟な演技陣とに阻まれ、それなり以上に纏まりを見せつつも、在り来りな出来栄えのVシネに過ぎぬといはざるを得ない。これが並の監督の仕事であるならばそれでも納得出来たのかも知れないが、ここはあくまで、城定秀夫である。その名前を超絶のデビュー作「味見したい人妻たち」(2003)と共に覚えてゐる身としては、このやうな地点で首を縦に振る訳には行くまい。
 主演は、元中州ナンバーワン・ホステス、とかいふ微妙な触れ込みの松浦咲希己。男性誌でのグラビア露出を経ての、OVデビュー作とのことである。まあデビュー作としてはひとまづ一応合格点、といつた位のところなのだが、公式ブログの方は、妙な荒れ方を見せて早々に更新途絶、リンクが貼られてゐる新ブログも最早存在しない。女優を目指してゐるとのことであつたが、上手くは行かなかつたのであらうか。


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 「19 NINETEEN 女子大生 殺人レポート」(2005/製作:ジャンクフィルム/監督:城定秀夫/脚本:高田亮・城定秀夫・大滝由有子/製作:海津昭彦/企画:井手正明/プロデューサー:久保和明/撮影監督:長谷川卓也/助監督:斎藤一男/監督助手:大滝由有子・佐藤竜憲/編集:城定秀夫/出演:高井景子・宮路ナオミ・勝見俊守・吉岡睦雄・中村英児・野上正義、他)。
 野上教授(仮名)の生物学の講義、カオリ(高井)は講義を聴いてゐるのだかゐないのだか、大量の安定剤をシートから開ける。カフェテリエ、安定剤をタブレットの容器に入れ、菓子でも摘むかのやうに常用するカオリは、髪は茶髪に染め、開放的に肌を露にした服装の夏海(宮路)の姿を目で追ふ。夏海は彼氏・直樹(勝見)の車に乗り込むと、けふも約束を違へて、仕事で都合がつかなくなつてしまつた直樹に文句をいふ。ただ、直樹はカオリとも交際してゐた。直樹が手配するカード偽造の為に、周囲の学生に「お金になる話がある」と、カオリはカード集めの声をかけて回る。幾ら何でも、大学生がそんなあからさまな犯罪行為の片棒担ぎに乗るものか、と思ふ私は甘いのか。
 カオリは、チンピラである直樹との関係を清算したいと思つてゐた。だが、直樹が撮影した未だ処女であつたカオリの強姦ビデオと、暴力とにより逃れられずにゐた。カオリは、救ひの手を夏海に求める。直樹が夏海に接近したのは、夏見の母親が経営するアパートを乗つ取る目的。最初は、夏海はカオリのいふことに全く取り合はない。終に、カオリは夏海に直樹が同じく撮影してゐた夏海とのSEXビデオを見せる。最終的にはそのビデオをダシに、直樹はアパートを手に入れるつもりであつた。愕然とし、同時に激昂した夏海は、口汚く吐き捨てる「ブッ殺してやる」。その言葉に、図らずも背中を押されたカオリは一線を越える。
 学習性絶望の講義内容も絡めた導入部は完璧、見るからに幸薄く脆さを感じさせるカオリと、明るく健康的な夏海との対比も効き、“必殺”の期待はいや高まるばかり。徒にスラッシャーな、カオリと夏海の直樹殺害シーンはまあ兎も角として、問題はここから、起承転結でいふと転部。直樹の遺体はすつかりバラしてしまひ、肉はミキサーでドロドロにして手洗ひに流し、後は骨を捨てに行くだけだといふ段になつて、直樹宅のカオリと夏海をヤクザの近藤(吉岡)の不意の来訪が襲ふ。直樹が狙つてゐた夏海の母親のアパートは、近藤が所属する組が前々から目をつけてゐた物件だつたのだ。直樹に落とし前をつけに来た血眼の近藤と子分の山田(中村)の隙を突き、カオリと夏海は逃げる。さあて、ここからが「地獄の逃避行」のスタートだ。一番の盛り上がり処、の筈である。ところが、カオリと夏海はといへば。何処に行く当てもないとグチグチ口論したかと思ふと、精々起こすイベントとしては一度の無銭飲食仕舞ひ、あんまりである。盛り上がるべきところでてんで映画が膨らまず深まらず、まるで拍子抜けすることこの上ない、下か。とうに一線を越えてしまつた二人が、行き着く地平は果たして何処までなのか、といふのが映画―Vシネだが―の、物語の飛翔力ではないのか。火に油を注いで尻子玉を抜かれるのが起承転結の結部、カオリと夏海はラブホに宿を取る。ところがそのホテルは組が仕切るホテルだといふことで、近藤と山田が乗り込んで来る。手篭めにされるも灰皿で反撃し、再びカオリと夏見は逃げる。呆気に取られるのがここから、近藤がハコ乗りに角材を振り回しながら―族かよ!―追つて来るヤクザの車を、カオリが直樹の骨を投げつけ撃退。「ヤッター☆」と、女子大生二人でキャピキャピ歓声を上げたところで終劇。もう一度いふ、あまりにあんまりである。
 追手に人骨を投げつける底の抜けた逃走法も、挙句それでまんまと撃退してみせる自堕落さに関しても、ひとまづ不問に付す。それは、現象論に司られる領域である。更なる問題は、人骨を投げつけヤクザの車を撃退した、百歩譲ればそれはそれでもよい。「ヤッター☆」と女子大生二人がキャピキャピ歓声を上げる、そこまでもまあよしとしよう。さうなると次なる展開としては、不意に横道から現れたトレーラーに二人の車が一瞬で押し潰されて終り、しかないのではないか。勿論、線路があるロケーションであるならば、貨物列車で当然構はない。Vシネのバジェットのことは、この際無視する。何と時代錯誤も甚だしい、といはれるかも知れないが、私は、今作の結末に胸を撃ち抜かれはしなかつた。恐らく時代を超え得ないであらうことも、爽やかではない笑顔で断言出来る。追手をかはした次の瞬間に、呆気なく主人公達が死んでしまふ物語は人々の胸を強く撃ち抜き、寒く暗い都会を捨て、長く揺られた長距離バスの旅路の果てやつとこさ南の楽園に辿り着いた時には、相棒は肺炎をこじらせて死んでゐた、その物語は時代を超えた。それらは時代精神に色濃く彩られた、ある一定の期間限定の映画であつたのであらうか、私は必ずしもさうとは思はない。繰り返すがそれらは時代を超え、人々の胸を強く撃ち抜き続けた。今でも少なくとも個人的には、最もエモーショナルな映画群である。最もエモーショナルな物語の類型をそのまゝ踏襲することは、何の恥でも怠惰でもない。それは賢明と、過去の集積への敬意である。

 超絶のデビュー作「味見したい人妻たち」(2003)とVシネの良作「新任バスガイド あいのり欲望ツアー」(2004)とに触れ、城定秀夫の必殺を大いに確信したものではあつたが、正直、それも些か揺らいで来た。ここは、捲土重来の本篇復帰で再び決定的な輝きを取り戻して頂きたい、といふのが、一ピンクスとしての勝手な希望である。とここで、前年来の好調を引き続き維持した上で、もしも仮に万が一、城定秀夫必殺の本篇復帰が前作同様エクセスで叶ひ、序に工藤雅典が王道娯楽路線への華麗なる回帰を果たしでもした日には、いよいよ本年のエクセスはエポック・メイキングに大変なことになるのではあるまいか。夢見がちなことばかりいふものではない、と人は笑ふであらうか。


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 「新任バスガイド あいのり欲望ツアー」(2004/製作:TMC/監督・脚本:城定秀夫/製作:海津昭彦/企画:望月健二/プロデューサー:だもん/撮影:飯岡聖英/音楽:タルイタカヨシ/助監督:加藤義一/編集:城定秀夫/クレイアニメ:城定秀夫/制作協力:EMC/出演:桃瀬えみる・若瀬千夏・矢藤あき・鈴木さち・徳原晋一・吉岡睦夫・中村英児・むかい誠一、他)。
 判り易過ぎるタイトルの最短距離ぶりが、かういふプログラミングされた領域としては百点満点に素晴らしい。要は合コンしながらバス旅行する、全くそれ以上でもそれ以下でもない物語である。主人公の新任バスガイド・優子を演じるのは、普通のレンズを使用してゐても、まるで魚眼レンズで撮つてゐるかのやうに映る桃瀬えみる。正しく“えみる”の名に相応しい、まるで二次元の幻想を3D化したかのやうな可愛らしい娘である。文面からは、褒めてゐるやうには全く伝はらないかも知れないが。
 今回優子と、交際を始めて三ヶ月になる運転手・高岡(徳原)とが面倒を見る御一行は、如何にもギラついたギャル二人連れ、明美(矢藤)と亜矢(若瀬)。事前のサイト投票で人気トップ2の、医師の相川(中村)と木下(吉岡)。他に一応水着にはなる若い女と、台詞も特には与へられない若い男が若干名。なかみつせいじの量産型のやうな弁護士(むかい)と、補欠参加の三流大学生二人組。更に、ギャグ担当のオールドミス(鈴木)。木下が二人きりになつた亜矢に対し、遠いところを見るやうな目をしながら「無医村に診療所を開きたい」、だなどと中学生が脚本を書いたやうな夢を語るシーンには頭を抱へたが、後に化けの皮を剥がすとキッチリ挽回。安い役は安い役者に、それはひとつの真実であり、鉄則なのであらう。貪欲な明美が非道い目に遭ふ件も、描写としての表面的なハードさを保証すると同時に、自業自得だと観客の心理を巧みに補完する。マスだけ掻いたら後は早送り、だなどとさせるものか。特にはどうといふことも全くない始終に、城定秀夫は金色夜叉と読唇術と手話とで背骨を通し、起承転結を通してしつかりとしたエモーションを見させる。クライマックスのツアー告白タイム、量産型なかみつせいじがオールドミスにフラれてしまふギャグを挿みつつ、高岡は優子の影響で覚え始めた手話で優子にプロポーズする、菓子のオマケのやうなチャチいシークエンスではある。だが然し、そのチャチいシークエンスでチャチいままに観客を呆れさせるか、それともチャチいながらにエモーションに打ち震へさせるかで、作家としての雌雄は決せられるのではないか。城定秀夫はひとつひとつのシーンを丁寧に積み重ね、ラストの安いシークエンスを美しく輝かせる。超絶のデビュー作ほどではないものの、真心の込められた、全く良作の名に値する一本である。三流大学生二人組に、最後まで全くいいことの欠片もなかつたのは、ひとつ抜けてゐるやうな気もしないではないが。
 意図的に書き残しておいたが、劇中、ツアーのマスコット・キャラクターである青クマさんと赤クマさんとが登場する、クレイアニメが挿入される。これが又、ロマンティックを加速させる狂ほしいほどに長閑な素晴らしい出来栄えで、一体これは誰の手によるものなのかとクレジットを刮目しながら追つてゐたところ、何とこのクレイアニメを製作したのも城定秀夫。こんなワイルド・カードも持つてゐたのか!正しく必殺、恐るべし。恐ろしいだけに。Vシネなんて何時でも撮れる、などと言つては、間違つてゐるのかも知れない以前に、Vシネを一生懸命追ひ駆けてをられる諸兄からは殴られてしまひかねない。とはいへそんなこんなも承知と覚悟の上で重ねて言ふが、城定秀夫にはVシネはさて措き、是が非とも本篇に帰還してピンクを撮つて頂きたい。認めたくはないが、ピンクにはもう時間が残されてゐないかも知れないのだ。

 最後に余談。ピンク映画界の要潤こと―誰がそんなことを言つてゐるのだ、俺以外に―中村英児は、髪を伸ばしてゐた方が顔の曲がりが補正され男前に見える、と思ふ。


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 「味見したい人妻たち」(2003/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:城定秀夫/原題:『押入れ』/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:北沢幸雄/撮影:長谷川卓也/照明:奥村誠/編集:酒井正次/助監督:田中康文/演出助手:江利川深夜/制作助手:大滝由有子/撮影助手:小宮由紀夫/照明助手:糸井恵美/ヘアメイク:成田幸子/スチール;本田あきら/音楽:タルイタカヨシ/録音:シネキャビン/効果:梅沢身知子/タイトル:道川タイトル/現像:東映ラボ・テック/協力:松浦祐也・小川隆史・加藤義一・久保和明・藤谷晃・ワイワン企画/出演:Kaori・橘瑠璃・佐倉麻美・白土勝功・田嶋謙一・サーモン鮭山・下村大輔・松浦祐也・平沢水無月・山口晴菜・菱田有紀・非口空/愛情出演:飯島大介)。出演者中、下村大輔から非口空までと、飯島大介のカメオ特記は本篇クレジットのみ。
 高校美術教師の町子(Kaori)が寿退職する記念に、生徒達の前でモデルを務める。一応注、勿論いきなりヌードではない。カメラが町子から生徒達を舐め、小突き合ひ茶化し合ひキャンバスに筆を走らせる男子生徒達を映し出すアバンで、観客は確信するにさうゐない、この映画は本気だ、と。個人的にも、うつかり日々のピンクに溺れ―どんな日常だ―未見と勘違ひしてゐた、今作の記憶を一撃で思ひだした。俺はこの映画を観てゐる、瞬時に己の迂闊を恥ぢた。と同時に―主に体力的に―無理を押してでも八幡まで足を運んで観に来た選択に、心の中でガッツポーズした。期間にして四年、三十数本のピンク・Vシネの助監督を経ての城定秀夫のデビュー作は、全篇、正しく全篇に亘つて一欠片も集中力を途切らせることなく撮り上げたであらう渾身の、スリリングなまでの傑作である。
 一年後、町子は忙しい製薬会社勤務の夫・道川春樹(田嶋)との生活に、どうにも満たされぬものを感じ始めてゐた。隣家では、今日も司法試験浪人生活幾星霜、の鮭山光男(サーモン)とちよつと頭の弱い、同居する恐らく彼女のヨシコ(橘)とが、昼間からセックスしてゐた。ヨシコが戯れにミニピアノで弾くトルコ行進曲が、光男の愛撫に乗じて乱れる。その乱れた旋律が、町子の寂寥感を加速させる映画的興奮に身震ひさせられる。
 ある日、切らした台所用洗剤を買ひに出た―しかも大量に買ひ込む―町子は、フラリとかつて勤務してゐた高校に立ち寄つてみる。テスト期間中の高校には、誰もゐなかつた。が、美術室で教へ子であつた柚木仁志(白土)と、女生徒の由美子(佐倉)がセックスしてゐる現場を町子は目撃する。町子の視線に気付いた仁志は、家にまでついて来る。二人はなし崩し的に体を重ね、そのまゝ仁志は、出張中で春樹は不在の道川家に一泊する。その後も、アル中で暴力ばかり振るふ父親(全く登場せず)と二人暮らしで、元々家には帰らずに友人宅を渡り歩いてゐた仁志は、町子の家に居ついてしまふ。町子は押入れに仁志を匿ひ、帰宅した春樹と仁志が潜む押入れの前でセックスする。夜の間は仁志は押入れの中で息を殺し、春樹のゐない昼間は町子と恣な情交に耽る、奇妙な二重生活は続いた。
 お話自体は間違つてもスケールの大きなものではなく、どちらかといへば在り来り、とすらいつても良いくらゐのものなのだが、一幕一幕の完成度、緊張度が正に凄まじい。出張前夜、町子を放たらかしに春樹は飼ひ犬と遊ぶ。出張の行き先は大阪、町子は春樹に語りかける、お土産は何がいゝかしら?さうだ、八ツ橋♪八ツ橋がいゝは。・・・・八ツ橋、八ツ橋つて大阪か?と思ひながら観てゐると、春樹はうん、うんと生返事を返す。さうするとうんざり、といつた風情の町子が小声で、八ツ橋は京都でせう・・・・。翌朝、春樹は朝食のトーストに尋常でない量の蜂蜜を塗り、それを見た町子は眉をしかめる。食べ残しを散らかして、春樹は慌ただしく出て行く。春樹が出た後の、ひとりぼつちの寂しい家。町子は庭で、ガツガツと餌に喰らひつく飼ひ犬をしやがみ込みボーッと見てゐる。飼ひ犬の餌皿に、町子は落ち葉を一掴み、二掴みと入れる。まるで今にも、餌皿に顔を突つ込む犬の頭を町子が叩き潰してしまひかねないやうな、訳の判らぬ切迫感が漲る。心の平定を失ひつつあるこの女は、ワン・カット後には果たして如何なる地獄に堕ちてしまふのか?否応なしに映画の中に引き込まれ、実はどうといふこともないシークエンスに対して、この上もなくハラハラさせられる。因みにこの朝食の場面はのちに、トーストに尋常でない量の蜂蜜を塗る町子に、春樹が妻の心の異変を感じ取るといふ展開に繋がる。正に、城定秀夫100%!   >興奮して何をいつてゐるのかよく判らない
 一方、ラストは些か弱い。筆を滑らせれば逃げてしまつてゐるやうな感も受けるが、<ある朝町子が押入れを開けると、体調の不良を拗らせた仁志は死んでゐた>―@当サイト希望ラスト、実際の結末は諸賢各自小屋にて確認されたし―だなどとニューシネマのやうな結末は、今の時代の商品にはそぐはないのであらう。自らの嗜好が時代に後れてゐるのは、既に自覚してもゐる。当時住んでゐたピンク色のアパートを遠目に訪ね、町子が春樹と出会つた頃を思ひ出す件なども美しくて素晴らしくてもうどうしやうもないのだが、さうして一々こゝがいい、あそこが素晴らしい、と挙げて行くと全篇トレースする羽目になりかねないゆゑ、今は控へる。兎にも角にも必見、間違ひない。
 加へてひとつだけ述べておくと、唯一の難点は高校教師に見えない、一歩間違へば同級生にすら映るKaori、橘瑠璃はいふまでもないとして、完全な濡れ場要員としての佐倉麻美。エクセス作にしては奇跡的とすらいつて過言でないほどに綺麗どころを見事に揃へた三本柱は、エロの度合ひに関しても質、量ともに申し分ない。更に我侭をいふと、Kaoriと佐倉麻美とが大まかなタイプに於いて微妙に被るため、佐倉麻美の印象が薄く思へた点と、出来れば一人ダイナマイトな体つきの女―即物的な男だ―が一人ゐれば、よりさういつた面が加速されたやうな心持ちは残る。即ち、素面の劇映画として決定的に面白いのに加へ、なほかつ裸映画的に要請される扇情的な部分も申し分ない、要は全く非の打ち所がないといふことである。もう一度重ねていふ。兎にも角にも必見、間違ひない。

 問題は、さう、映画は文句ない傑作であるのだが、問題がひとつだけ残されてゐる。問題は、これほどまでの傑作をモノにした城定秀夫が、これほどまでの傑作をモノにしてゐながら以降は主には数作に助監督として名前を連ねてゐるだけで、デビュー作きりピンクを撮つてゐないといふ事実である。以後、城定秀夫は主戦場をVシネに移す。そちらでも良作を量産してはゐるさうだが、そつちの方は守備範囲外につき、といふかとてもそこまで手が回らないので全く知らない。大人の事情なりあれこれ言ひ分もあるのか知らないが、城定監督、後生だからピンクを撮つて欲しい。といふか、エクセスはどうして城定秀夫を放たらかしにしてゐる。エクセスが呆けてゐるのなら、オーピーか新東宝が捕まへてしまへばいゝ。乱暴を承知で無茶をいふ、Vシネなんて、小屋が全て潰れてピンクが、ピンク映画が絶滅してからでも撮れるではないか。己がうつかり忘れておいて盗人猛々しいが、観客は今でも「味見したい人妻たち」を、城定秀夫を覚えてゐる。城定秀夫の名は、小屋に観客も呼べるだらう。次の小屋が喪はれる前に、城定秀夫には一秒でも早く、本篇復帰のピンク第二作を撮つて貰ひたい。

 出演者中、下村大輔から非口空までは、皆で退職前の町子先生をスケッチする開巻の生徒要員。押入れ生活の中、不眠を訴へる仁志に、町子は夫の会社で製造する眠剤(?)を勧める。錠剤を過飲し、二人でトリップする。だから、それはただの眠剤なのか?突然嘔吐感を催し、町子は吐く、それは妊娠の兆候であつた。一人別枠で“愛情出演”とクレジットされる飯島大介は、町子を診察する産婦人科医・木ノ上。愛情出演・・・・、殆ど親子ほども歳の離れた年下の盟友の初陣に、間違ひなく手弁当で馳せ参じたに違ひない。映画自体は必ずしも観客を泣かせる類のエモーションを惹起するものではないものの、エンド・クレジットに思はずホロッと来させられた。


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 「姉妹昇天 味くらべ」(2002『双子姉妹 淫芯突きまくり』の2005年旧作改題版/制作:大敬オフィス/提供:オーピー映画/監督:清水大敬/脚本:吉原杏/撮影・照明:倉本和比人/編集:酒井正次/美術:照山もみじ/音楽:花椿桜子/録音:シネ・キャビン/助監督:佐々木竜彦/演出助手:牟田泰教・飯塚茂樹/撮影助手:佐藤治/照明助手:槇憲治/スチール:成松正幸/衣裳:山口裕子/メイク:青木真由美/車輌:土門丈/制作進行:闇金太/テロップ:道川プロ/出演:安西ゆみこ・沢田まい・南けいこ・高柳麗奈・牧村耕次・神戸顕一・大野基・塚原考太郎・山科薫)。
 雑誌編集者・柴田順 (神部)の紹介で、カメラマンの石田和也 (牧村)が葬儀場に宣材写真を撮りに来る。応対に現れた事務員(高柳)は、急な人死にが出たゆゑ撮影の断りを伝へる。安置された遺体の傍らに置かれてある、紅白の折鶴と携帯に見覚えのあつた石田は、事務員の制止も振りきり遺体に駆け寄る。遺体は、石田がその前の日に知り合つたばかりの、看護婦の山野葉月(安西)であつた・・・・
 葉月が男の冷たい裏切りや耐へ難い孤独、バラバラの家族に思ひ悩んで自ら死を選ぶに至る一日と、残された者達のそれぞれの姿とを描いた物語。とは、いふものの。何はともあれ最大の敗因は、清水大敬映画の醜悪さ以前に、木端微塵な葉月のキャラクター造型。内向的で万事に消極的な葉月と、双子の妹で葉月とは対照的に享楽的な日々を送る五月(無論安西ゆみこの二役)。といふ、対比まではいいとして。知り合ひたての男に、自分の前世は吉原の遊女であつただの、挙句にその遊女は客の大工と心中死したとかで、何処かに存在する筈の大工の生まれ変りを探してゐるだだのとヌカし始めるに至り、とてもではないが正常な精神の観客には付き合つて行けまい。あまつさへ、かういふ言ひ方もどうかとは思ふが一度寝ただけの男や、知り合つて間もない男に構つて欲しいと送つたメールの文面が“死にたい・・・”の一言と来た日には、最早ただ一言、デスれよとでもぐらゐしかいひやうもない。しかもその“死にたい・・・”が、映画の中では御丁寧にも黒画面に大きく明朝体の白文字で映し出されるのである。満足な心理描写、まともなストーリー展開も描けない以前、もしくは面白いとか面白くないとかいふ以前に、血迷ふにもほどがある。娯楽映画、あるいは商業映画としての体をとても成してはゐない、零点映画。
 順番を前後して男優部から片づけると、山科薫は葉月の父親・雄一。代議士で、自らの政治活動と愛人との不倫しか頭になく、家族のことなど一切顧みない。葉月の急死に際しても、選挙前のこんな時に、くらゐにしか思はない。幾ら断絶したバラバラの家族を描きたいからといつて、そんな出鱈目な父親などゐるものか。この辺りも、粗雑極まりない。大野基は、研修医の吉沢博。手料理が食べたい、と軽く声をかけたところノコノコ材料を揃へて家を訪れた葉月こと、要は葱を背負つて現れた鴨を、処女にも関らず手篭めにする。事が済むや手の平を返し早々に葉月を追ひ返すと、今度はテレクラでゲットした五月とも寝る。塚原考太郎は、瑞穂(後述する葉月の母)の昔の恋人で、今は私立探偵の小野寺浩二。雄一の浮気現場を押さへ、その事実を瑞穂に突きつける。
 さて問題は女優陣、まづ主演の安西ゆみこは素晴らしい。対照的な葉月と五月をどうにかかうにか演じ分ける必要最小限度はとりあへずクリアした演技力と、何よりも、正しく日本人離れしたダイナマイト・ボディ―何処の星のはじめ人間なのだ、俺は―は圧巻。とはいへそれも、折角の濡れ場でムチャクチャな光量を当てる照明部に台無しにされるのだが。酷いのが残りの二人、まづ沢田まいは五月の遊び仲間にして、雄一の不倫相手でもある水野ケイ。股の緩さが脳にもストレートに連動した、一体こんな女何処から連れて来たのか激安アーパー娘。濡れ場要員にしても安過ぎる、物には限度といふものがあらう。更に輪をかけた上に火に油を注いで、ついでに斜め上を行つて恐ろしいのが、瑞穂役の南けいこ、ガンタンクと同じ体型をした女である。うわあ、何が哀しうてこんな女の濡れ場を、しかも二度も見せられにやならんのだ。金を返せとは最早いはぬ、精神的苦痛に対する損害賠償を請求したい。
 一応ラストには、葬儀場を飛び出した石田が急に降りしきる雨の中、葉月の魂と垣間見えるといふ、それなりに美しいシークエンスも用意されてはゐるのだが。さしもの底の抜けた小生とはいへ、この期にそんなものにも騙されはしない。
 律儀に死んだ映画に鞭打つておくと、葉月と石田が出会ふ件から早速珍妙。走行中の電車に向かつてカメラのシャッターを切つてゐた石田が、偶々買い物袋をブラ提げ歩いてゐた看護婦姿の葉月に目を留め、無断でカメラを向けるといふものであるが、石田と当初被写体の電車とが、思ひ切り逆光である、一体どんな写真が撮りたかつたのか。重ねて恋人と飛び降り自殺した親友に花束を捧げてゐた葉月と、石田が再会する件も一々滑稽。石田から声をかけられた葉月は、メガネをズリ下げ裸眼で石田を確認する。何か、そのメガネは老眼鏡か?いふまでもないが、そもそもその“恋人と飛び降り自殺した親友に花束を捧げてゐた”といふシチュエーションもどうにかならんのか、といふ話である。全く以て、勘弁して呉れよ。
 止めを刺すのが、エンド・クレジット後、いよいよ最後に炸裂する清水大敬の悪癖。
>この作品を
>撮影中に亡くなつた
>最愛の母に捧ぐ・・・
 なんて字幕がデカデカと登場。通例三日の撮影期間中に、ピンポイントで母親が亡くなつたのか?甚大な下世話だがこんなものを捧げられても、成仏出来るものも成仏出来まい。といふか、そもそも態々するまでもない―旧作を改題した―新版公開に当たり、せめてこんなもの切つてしまへよ。

 とこ、ろで。先日採り上げた、同じく清水大敬の「どすけべ家族 貝くらべ」(2001)。その際には殆ど全く手探りでしか手が出せなかつた男優部の配役であるが、今作で大野基を確認してみたところ、大野基が慎司@主人公:亜希(高橋りな)の恋人役で、となると恐らくは、父親・悌司役は瀬恒秀幸か。因みに葬儀場事務員役の高柳麗奈(不脱)は、名義が異なるが「どすけべ家族」主演の高橋りなと同一人物である、一々無用に面倒臭い真似をしないで欲しい。

 以下は再見時の付記< 葉月の最期の夜、父・雄一はケイと、母・瑞穂は小野寺。そして妹・五月は柴田とそれぞれ家を開けて一夜を過ごし、家には葉月独りきりであつた。既に葉月は命を絶つた後に、瑞穂が最初に帰宅する。瑞穂が異変を感じ取つたきつかけといふのが、居間のテーブルの上に“し”の字に並べられた折鶴。・・・・「BROTHER」(2001/監督:北野武)のパクリかよ!そして瑞穂が葉月の部屋に飛び込むと、壁には「時計仕掛けのオレンジ」のポスターがかゝつてゐたりなんかする。清水大敬といふ人は、どうして斯様に観客の神経を逆撫でする映画ばかり撮るのだらう。ある意味才能だ、逆向きではあれ。


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 「どすけべ家族 貝くらべ」(2001/制作:大敬オフィス/配給:大蔵映画/出演・監督:清水大敬/脚本:椙浦きさめ/撮影:小山田勝治/照明:小川満/録音:中村幸雄/編集:酒井正次/美術:花椿桜子/音楽:マサチャン・スタジオ/助監督:高橋雄弥/演出助手:千葉明寛・寺崎智彦/撮影助手:飯岡聖英/照明助手:石井拓也/録音助手:照山もみじ/編集助手:大海昇造/スタイリスト:山口裕子/ヘア・メイク:青木真由美/タイトル:道川昭/スチール:長谷川哲治/制作進行:大崎洋治郎/協力:シネ・キャビン/出演:高橋りな・中村京子・扇まや・佐倉萌・山科薫・土門丈・闇金太・瀬恒秀幸・中村高志・大野基・畑野なすび・石部金吉)。
 まづ最初に言ひ訳、といふかお断りさせて頂く。出演者中、瀬恒秀幸・畑野なすび・中村高志・土門丈・闇金太、の計五名がjmdbのデータに拠つても殆どほかの仕事をしてをらず、まるで特定出来ない。配役に際して“?”を付けてゐるものに関しては、主にビリングからの推測である。悌司役の役者は他作でも見たやうな気もするのだが、名前を変へてあるのか?
 法律事務所に勤める亜希(高橋)の家族構成は、父・悌司(瀬恒秀幸?)、海外旅行狂ひの母・洋子(中村京子)、次兄・マサキ(中村高志??)、マサキの妻・さやか(佐倉)の五人暮らし。定職に就かないマサキは、脚本家のさやかに何時も遊ぶ金をせびつてゐる。ある日亜希は、同居してゐるのに何故さういふ面倒臭い真似をしなくてはならないのか全く判らないが、公園に呼び出され、悌司から誕生日のプレゼントを受け取る。事務所に戻つた亜希は、事務所の主・山之内(清水)がゐないのをいいことに、弁護士見習ひの恋人・慎司(大野)とセックスする。結婚を望む慎司に対し、亜希は現在の状態に満足してをり、変へるつもりはない。と、ここまでの出だしが早速奇々怪々。何を考へたのか亜希・悌司・慎司には、判り易く譬へるとNHKの歌のお兄さん、お姉さんのやうな奇怪な演技指導が与へられる。亜希と慎司のオフィス・ラブなんぞ、徒に粘着質な濡れ場の前後で、大の大人がキャッキャキャッキャはしやいでゐて背筋が寒くなる。といふか何といふか、非常に間違つたものを見せつけられてゐる気持ちにさせられる。
 ある日、ちやうど洋子が香港への旅行に旅立つ朝。マンションが火事になり焼け出された長兄・カズヒコ(山科)と、その妻・優子(扇)が転がり込んで来る。高慢で、カズヒコをすつかり尻に引く優子は猫を被り巧みに洋子に取り入ると、家に居ついてしまふ。優子の登場により、乱れて行く家庭内のバランス。勝手に悌司・洋子と同居する旨決めた優子は、強引に家のリフォームを進める。リフォーム業者(ううん・・・・土門丈???)が見積もりに家を訪れた日、さやかの借金が発覚する。さやかは、マサキに無心するためにサラ金(ここの闇金太は堅いか)から金を借りてゐたのだ。一家は、俄かに崩壊の危機を迎へる。
 何処から手を着ければよいのか、正直途方に暮れる。絡みは何れも、AV風の演出なのだか何なのか知らないが、ヌチャラヌチャラと過剰に粘つこく撮られてゐる。截然と筆を滑らせてのけると、清水大敬の卑しさがよく滲み出てゐよう。さういふと作家主義の観点からは、没個性的ではない、といふ限りに於いてはまだ見るべき点があるともいへるのか、直截にいふとこの人の撮る濡れ場は汚い、甚だ不快である。不快な濡れ場と奇怪な演出とを交互に差し挿みつつ、ひとつの家庭は壊れかける、又この過程が酷い。家長でありながら、全く何もせず傍観者としての機能すら果たさない悌司。頭にあるのは海外旅行ばかり、面倒は全て他人任せにして済ます洋子。高慢で自己中心的、今作に於いて最も攻撃的な優子。優子に完全に尻に引かれ、手も足も出ないカズヒコ。殆ど生活能力から欠如してゐるマサキに、一家の中では最も常識的な人間にせよ、結局はマサキに精神的に依存し借金を作るさやか。そもそも主人公の亜希にしてからが、クールな風を装ふも要は享楽的なパラサイト・シングルに過ぎず、恐ろしいことに登場人物の全てが、見る者の感情移入を凡そ許さない。ついでに慎司は、まるつきりただの馬鹿にしか見えない。
 さやかは終に、マサキとの離婚を決意する。マサキもマサキで、借金をどうにかする気はサラッサラない上で、離婚に応じるつもりもない。亜希は家を出る、このまゝ家庭は壊れてしまふのか。壊れるなら壊れたで、別に今更構ひもしないのだが。ところがここからが、更に加速して木端微塵、火に油を注いで腹立たしい。亜希は妊娠すると、そんなつもりはなかつた筈にも関らず、急に変心しての結婚、そして出産。優子もの妊娠を経て、何故だか山之内にリフォーム業者、更にはサラ金までも交へての一家大集合の家族写真―勿論さやかとマサキも参加―を賑々しく撮影してハッピー・エンド、だなどといふのである。何ひとつ差し出された問題を解決せずに、どうしてさうなるのか清々しくちんぷんかんぷん。全く以て理解に苦しむ、観客を馬鹿にしてゐる。
 完全に不完全な消去法で畑野なすび????は、優子の不倫相手でマッサージ師・彰。

 荒木太郎にでも気触れてみせたのか、亜希が「みかんの花咲く丘」を終始歌つてゐる履き違へた叙情性も、加へて癪に障る。さやかの部屋に、私―清水大敬―は映画が好きなんですよ、とでもいはんばかりに往年の名画ポスターがベッタベタと貼つてあるのも最早醜悪、重ね重ね腹が立つ。


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 「すけべ美女 舐め尽す」(1997『スケベすぎる女ども』の2004年旧作改題版/制作:オフィスバロウズ/提供:オーピー映画/監督:柴原光/脚本:やまだないと/製作:大蔵雅彦・柴原光/撮影:中尾正人・鏡早智・和田孝/照明:多摩三郎・多摩次郎/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:森山茂雄・立沢和博・小林真紀/ポスター:酒巻良助/スチール:品川新也/メイク:吉川典子/製作担当:椿川久平/音楽:野島健太郎/主題歌:BLUES AND LITTLE HOPE 横道坊主《LSD》/東映化学・《有》エジソンパウダー・《有》ハートランド・《株》マルクス兄弟・《株》ヨコシネD.I.A/出演:三枝美憂・青山和希・林由美香・杉原みさお・葉山瑠名・日比野達郎・石井基正・池島ゆたか・川瀬陽太・望月未来・山本清彦)。出演者中望月未来が、ポスターには未来。どうも多摩三郎は、白石宏明の変名らしい。東化の現像と、エジソンパウダー以降の恐らく協力が抜けてゐる。
 初見のつもりで遠征を仕掛けたものだが、蓋を開けてみると以前に観てゐた映画であつた。旧題時かあるいは旧作改題時即ち半、あるいは第二次リアルタイムで、故福岡オークラにて観たものであらう。マルクス兄弟として、早々にピンクを捨てAVのフィールドに移つて行つてしまつた柴原光(ex.旦々舎)の―薔薇族三本を経ての―ピンク映画第一作である。脚本は、女流マンガ家のやまだないと。「STORY1 からだだけ」・「STORY2 インタビュー」・「STORY3嘘つき」、三篇のオムニバスから成る。
 STORY1:からだだけ。売れつ子脚本家の北野(日比野)は、テレクラで拾つた女子高生のナナ(三枝)と付き合ひ始める。北野には妻・ノリコ(写真でのみ登場、望月未来?)がゐたが、長く別居生活を送つてゐた。疎遠といへば疎遠だが決して仲が悪い訳ではなく、互ひに自由な生活を謳歌、してゐるつもりだつた。一方ナナにも、コンパで知り合つた彼氏は彼氏でちやんとゐた。北野はナナ以外に、若手女優のカナコ(林)とも関係を持つ。23歳(プロフィール上は21歳)のカナコは早々に自分の女優人生に見切りをつけ、引退を考へてゐた。カナコは別れ際に、北野の子供を欲しがる。北野は古い友人から、不意に結婚式の仲人を頼まれる。不意に妻が気に懸り、久々にノリコの自宅に戻つてみる。寝室で倒れて散らかつたゴミ箱を片付けながら、使用済みのコンドームを見つける。自らは棚に上げ、うだうだといぢける北野は、揃つて部屋に遊びに来てゐたナナとカナコに、惰弱に甘える。その惰弱ぶりが、日比野達郎にハマリ役といへばいへはする。
 STORY2:インタビュー。全篇ビデオ撮りの、AV業界で暮らす男と女を描いた一篇。ビデオ撮りは兎も角、画質に合はせたのであらうガッチャガチャした録音は、周りの音が喧し過ぎて肝心の台詞が聞き取れない。コンセプトは酌めぬでもないが、最終的には音響設計の匙加減を間違へてゐる。観客に聞かせなくてはならないものが聞き取れないでは、何を志向するのも勝手だが所詮意味がない。
 池島ゆたかがAV監督、女優の志村際子(青山)とは付き合つてをり、結婚も考へたり考へなかつたりしてゐる。結婚した上でも、際子を一番いやらしく、一番綺麗に撮れるのはオレだ、と際子のAVは撮り続けるつもりでゐた。石井基正は多分助監督のマキオ、川瀬陽太は・・・・・プロデューサー?
 ラストで際子との結婚を決意したAV監督は、旧知に仲人を頼む電話をかける。ここに至つて、観客は初めて別個に存立してゐるかに見えたオムニバスの各篇が、実は地続きである趣向を知る。AV監督の旧知とは、STORY1の北野。ただこの件、STORY1とSTORY2とで時制が微妙にずれてゐはしないか?
 STORY3:嘘つき。染髪に初挑戦したスタイリストのヒロミ(杉原)に、マキオは髪を緑色に染められてしまふ。マキオの彼女といふのが、ナナであつた。特に好きだといふ訳でもなく、マキオは何となくナナと付き合ふ。残業中に、言ひ寄られたヒロミとも寝る。海岸でマキオとナナはデートして、何ともないまゝに映画は終る。葉山瑠名は、ビルの屋上での青姦撮影現場に登場するAV女優、多分。山本清彦はヒロミとマキオ共通の友人、ひよつとすると、明示はされないがヒロミに気があるのかも知れない。

 STORY2のラストで、当初別個に独立してゐるかのやうにも見えた各篇が、実は繋がつてゐる旨が明らかとなる。その上でSTORY3に於いて、各々バラバラなピースがやがてひとつに統合され大きな結実を迎へる、やうなことは全くない、まるでない。STORY2のラストで各STORYが地続きであると判明した分、一切の統合を志向しもせずにSTORY1・2と同じテンションで展開されるSTORY3に関しては、正直なところ失速を強く感じた。初めからさういふつもりであつたのか、三つのストーリーズを一つに収束させるだけの能力の持ち合はせに欠いたのかは知らん。何となく生きる者達の何ともない物語は、何ともないまゝに幕を閉ぢる。水平方向に拡がりを見せるだけで、垂直方向への高まりを気配すら感じさせないこの手のフラットな作劇を、個人的にはあまり高く評価するものではない。


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 「和服近親レズ 義母と襦袢娘」(2006/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:石川欣/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:小山田勝治/照明:代田橋男/編集:酒井正次/監督助手:高田宝重/撮影助手:油利衆/協力:報映産業、東映ラボ・テック/出演:椿まや・瀬戸恵子・津田篤・牧村耕次・小川真実)。高田宝重は、助監督を飛ばしていきなり監督助手でクレジットされる。
 さりげなく水上荘もの。村一番の地主・佐川家の成員は主人の寛一(牧村)を始めとして後妻の美弥子(小川)、そして一人娘の久江(椿)。僅か三人きりといふ普請の安さが清々しい。兎も角寛一は、佐川家の財産を溺愛する久江に遺すことにしてゐた。美弥子は自宅で三味線教室を開く、生徒は、久江のボーイフレンドでもある郁夫(津田)。郁夫が三味線の稽古を受けてゐるところに、久江が帰宅する。ところが郁夫が家を訪ねてゐることに気付いた寛一は、俄かに激昂する。寛一は佐川家の跡取りである一人娘を支へるべき久江の交際相手として、郁夫のことを認めてはゐなかつた。寛一の剣幕に圧され、郁夫は佐川家をトボトボと後にする。申し訳なささうに、久江は門の手前で出迎へ、蔵の中で、二人は情交に及ぶ。結婚するまでは、最後の一線だけは頑として守る決意の久江ではあつたが、寛一に認めて貰へぬ鬱積から、ついつい郁夫は暴力的な態度を取つてしまふ。さうなると久江と郁夫の仲さへ、気まずいものに。郁夫とのことに悩んだ、久江は体調を崩し寝込む。美弥子はそんな久江にマッサージを施すと称して、妖しく焚いた香と淫技の長を尽くし、それとは気付かれぬ内に義娘を篭絡する。
 後妻が旧家の主人と跡取りの一人娘とを、妖香の魔力と磨き抜かれた淫技とで術中に収め、財産の全てを手に入れる。とかいふらしいストーリーは、石川欣が脚本に何処まで書いてゐたのかなど勿論知る由もないが、出来上がりの映画から鑑みる分には全くの消化不足。時折現れる観音だか菩薩だかの―その方面に全く造詣が浅いもので―イメージも、どういふ意味があるのだか木に竹すら接ぎ損なふかの如く判らない。足利大仏を観に行くだとか美弥子には告げ覚束ない足取りで家を出た寛一は、結局それからどうなつたのだ?
 瀬戸恵子は、郁夫がヤケ酒をあふる居酒屋「きらく」の女主人・葉子。ファースト・カットから、70年代テイストが唸りを上げる何処ぞのありもの劇伴に乗せて、腰をグリングリン振りながらの悩殺ストリップを披露。そのまま情熱的に郁夫に跨つては派手に腰を振り、自ら腋毛を剃刀で剃つては「葉子のオケケ見てえ!」とムチャクチャな嬌声を上げる。純然たる濡れ場要員ではありながら、詰まるところはこの全くの枝葉に過ぎない葉子登場シーンが最も活き活きとしたパートである、といふ辺りが今作の敗因を象徴してもゐるのか。
 ところで主演の椿まや、誰かに似てゐるなあ、と思ひながら見てゐたところ、顔だけでなく、どういふ訳だか芝居まで隆大介に酷似してゐる。

 佐川家の現状を、説明台詞で語り合ふ村民の二人組みとしてもう二名登場、向かつて右側に立つ和服姿のモジャモジャは高田宝重。左側の農夫役は不明だが、アフレコは牧村耕次の二役。


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