真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「はしたない妻の蜜壺」(1995『小田かおる 貴婦人O嬢の悦楽』の2004年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・便田ああす/照明:秋山和夫・新井豊/助監督:森満康巳・佐藤吏/音楽:藪中博章/制作:鈴木静夫/メイク:斎藤秀子/出演:小田かおる・桃井良子・吉行由実・平賀勘一・杉本まこと・リョウ)。
 何処へと向ふのか、資産家令嬢の蜂巣真那子(小田)が独り電車の車中に揺られる。夫の悟郎(平賀)は―真那子の―父親の死後、先代からのお抱へ税理士・日下ニ三男(杉本)の制止も聞かず、積極的な投資に明け暮れてゐた。真那子には子供がなく、悟郎は行きつけのクラブのママ・梅津しおり(桃井)と、半ば公然と浮気する。導入部を経て、真那子の旅の目的がモノローグで語られる、双子の妹・実見子(当然小田かおるの二役)の呼ぶ声が夢で聞こえたといふのである。
 キタ━━━(゜∀゜)━━━!!!!!!!!
 山邦紀キタ━━━(゜∀゜)━━━!!!!!!!!
 ここからが山節全開、真那子には、一族の秘中の秘で悟郎にも日下にも隠してあつたが、実は双子の妹の実見子が居た。実見子は十五歳の時に淫乱症(笑)を発症し、看護婦の風間由樹(吉行)、看護人兼セックス・マシーンの桑形新吉(リョウ)と共に山奥の洋館に幽閉されてゐた。真那子が洋館を訪れると、幼女のやうに真つ赤な浴衣に、カチューシャのやうに同じく真つ赤なリボンを巻いたアレなヴィジュアルの実見子が、桑形を相手に所を換へ品を換へ、ヤッてヤッてヤリ倒してゐた。山邦紀最高、旦々舎最強。真那子は呆然とし、観客は歓喜する。実見子と自分とを取り違へた桑形に犯される淫夢を見つつ、真那子は洋館に滞在する。一方、由樹と桑形は、真那子―と実見子―に分析を加へてゐた。インフォマニアの実見子と、堅物で、未だ性の悦びも知らぬ真那子。二人は、実見子が発症した十五歳の時以来、一つの人格が二つに分かれてしまつたのではないか、と推測する。そこで由樹と桑形は、二人で真那子を犯し、性の悦びを教へ込まうとする。いや、もう本当、この映画、素晴らし過ぎる。
 一方、姿を消した真那子を、悟郎と日下は躍起になつて探してゐた。日下は、遂に実見子が幽閉されてゐた洋館の所在を突き止める。悟郎に差し向けられ、日下は洋館に向ふ。日下が辿り着くと、そこには人が変つたやうに淫らにセックスに興じる真那子が。日下は驚愕する。更に、本当は実見子であるのだが、同じく恣に肉欲に溺れる真那子が何ともう一人。日下が割り出したのは洋館の存在までで、真那子に双子の妹があることは知らない、といふのは秀逸だ。かつて見たことのない、自分がこれまで知つてゐたのとは全く別人の、淫らな真那子、がしかも二人。日下は錯乱する。日下も日下で連絡を寄こさなければ帰つても来ないので、業を煮やした悟郎は終に自ら洋館に乗り込む。も、日下と同じパンチに呆気なくノック・アウト。真那子、実見子姉妹にすつかり搾り取られ、精神的にも肉体的にも抜け殻になる。クライマックス、真那子・実見子姉妹はそれぞれ喪はれてゐたものを取り戻す。再び訪れることを実見子に約し、後部座席にすつかり使ひ物にならなくなつた悟郎と日下とを乗せ、真那子は自分で車を運転し東京に戻る。私は男達に庇護され、憐れみの対象であることを止めた、といふ如何にも浜野佐知映画らしい、真那子のモノローグによる勝利宣言がラスト・シーンである。

 真那子は性の悦びを、実見子は理性を、姉妹はそれぞれ喪はれてしまつてゐたものを取り戻す。喪はれてゐたものを取り戻す、原初的とすらいつてしまつてもいいくらゐに、最も基本的なテーマである、普遍的といつてしまつてもよい。それ故、テーマとしては最強で、その与へるカタルシスは極大。加へて、十八番の幻惑的な山アクロバティック(今命名)、浜野佐知のフェミニズム的要請すらきつちりクリアしてゐる。あちらこちらと物語も登場人物も動く物語を六十分の尺内にキチンと収め、尚且つ、これは旦々舎のピンクだ。エロいのである、もう、エロいことエロいことはこの上ないのである。商業ポルノグラフィーとしての要請も、パーフェクトにこなしてある。最早誰一人として、文句の付けやうもあるまい。これはひとつのマジック、ひとつの奇跡。ピンクを追つて来たことを、誇りに思へる一作である。


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 「三十二才毛剃妻 唾液の香り」(1995『どスケベ奥さん 感じる剃りあと』の2005年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・片山浩/照明:秋山和夫・荻久保則男/音楽:藪中博章/助監督:国沢実・小谷内郁代/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/出演:秋乃こずえ・青木こずえ・姫ノ木杏奈・リョウ・樹かず・荒木太郎)。
 日本文学界の重鎮、との谷川乾一(リョウ=栗原良=ジョージ川崎)は―封切り当時の―昨今隆盛のヘア・ヌードに関するエッセイを引き受けたはいいものの、一向に筆は進まずにゐた。根つから好色な谷川は、執筆の合間にも愛人・絹さやか(姫ノ木)の女体に刺身を盛つてみたりと恣な情事に耽りつつ、情欲の本当の対象は口述筆記者の伊丹雅美(青木)と、息子嫁の杉子(秋乃)とに向けられてゐた。
 今作最初の勝因は、谷川役にリョウを据ゑた完璧なキャスティング。この人の、どうでもいい映画でギリリと眉根を寄せる、徒に深刻ぶつた芝居は絶品である。女性器を隠すヘアと―陰毛といへ、陰毛と―日本文学の本質との関係、だとか何とかどうでもいい御託をツラツラ並べ立てながら雅美に、日本文学の未来のために君のヘアを見せて呉れないか、だなどと大真面目に懇願する芝居はこの人か、目下のなかみつせいじくらゐでしか成立し得まい。
 夫のある雅美はやんわりと拒絶するが、ここからの展開は普通に秀逸。その夜夫婦の寝室にて、谷川から陰毛を見せて呉れと懇願されたことを、雅美は夫の明夫(荒木)に笑ひ混じりに報告する。雅美は頼まれたからといつて谷川に見せる気は勿論なく、冗談染みた日常に関する会話のつもりであつたのだが、雅美を熱愛する明夫は気が気でない。居ても立つてもゐられなくなつた明夫は、見せようとも見せられなくするべく、傍らで眠る雅美の陰毛を剃つてしまふ。しかもこの件、実際に剃つてゐる。ゴーゴー♪浜野佐知♪目を覚ました雅美は、馬鹿ねえ、見せる訳ないぢやない・・・と夫を詰り、明夫はうなだれる。だけれども夫の不器用な、といふか道を踏み外しながらも自らに向けられた一途な愛情に絆された雅美は、自ら手を差し伸べ、明夫を優しく受け入れる。この際ハッキリいふが、俺はこのシークエンスで普通に泣いた。決して目下患つてゐる、角膜炎の所為ではない。目玉に直接塗擦する軟膏、といふ非人間的な投薬の末、現在では殆ど快方に向かつてゐる。ここから先がどんなに適当でいい加減でも、本作はこの雅美と明夫の濡れ場一点突破で、キラキラと美しく輝く価値ある一作になつたと思ふ。加へて、強固なフェミニストでありながら、同時に戦闘的にいやらしいピンクを撮る浜野佐知である。浜野佐知はこの雅美と明夫との絡み、剃毛された―といふか己がしたのだが―雅美の女陰に接吻けする明夫のショットに於いて、日本の法律の許す範囲内ギリギリギリギリ・・・・アウト?な勢ひで、青木こずえの恥丘をスクリーンに刻み込む!ファイト♪旦々舎♪
 樹かずは谷川の息子・夢男、だから日本文学界の重鎮であり、なほかつ男性としても何時まで経つてもエネルギッシュな父親に対し劣等感を抱き、全く頭が上がらずにゐる。妻に向けられる父親のセクハラじみた視線にも何もいへずにをり、そのことについては杉子も半ば呆れてゐる。
 雅美と明夫のエモーショナルな夫婦生活で映画は局地的な完成を見せ、たはいいとして、そこから先の展開はハッキリいつてグダグダでもある。しつこく陰毛を見せるやう迫る谷川に、雅美は夏にハイレグの水着を着るのに処理したと断る。さうしたところ、谷川は俄然色めき立ち、一層強く見せることを望む。ついつい気圧された雅美が剃毛した恥丘を晒すと、谷川は―パイパンの女陰が―日本文学の突破口だ!   >何でさうなるんだよ!
 実の息子をヘナチョコの一言で斬つて捨て、谷川は杉子にも剃毛するやう強要する。迫力に負け、杉子は―谷川が仕掛けた盗撮用ビデオカメラの前で―自ら剃毛し、更には直に谷川の手で仕上げに剃り落とされる。無論、ここでも本当に剃つてゐる。挙句に、杉子は終に谷川に抱かれる。

 難航してゐた、日本文学とヘア・ヌードに関するエッセイは果たして完成したのか?パイパンの女陰が日本文学の突破口である、とするエッセイの衝撃の中身とは?強引グ・マイ・ウェイな物語の肝心要は、ラスト、夫と義父とに交互に抱かれるやうになつた杉子のモノローグの中で、「私には興味がない」、の一言で恐ろしくも一切投げ放されてしまふ。観客を馬鹿にするにもほどがあるやうな気もしつつ、個人的には重ねていふが、今作は雅美と明夫の濡れ場一点突破で既に完成してゐる。加へて、女の裸量は徒なまでに多く、エロ映画としてはお腹一杯にして呉れることは、常々の旦々舎作品の通りである。


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 「水沢早紀 愛人の性・羞恥心」(1994『水沢早紀の愛人志願』の2002年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・小山田勝治/照明:秋山和夫・永井日出雄/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:佐々木乃武良・戸部美奈子/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斎藤秀子/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:水沢早紀・松下英美・水樹千春・摩子・平賀勘一・杉本まこと・栗原良)。
 開巻、後ろ手に体を支へ腰を高く突き上げた水沢早紀が、M字開脚で腰をグイングイン上下にグラインドさせながら、「ねえアタシを、アナタの愛人にしてえ☆」と悩ましげも突き抜けて訴へかけて来る。浜野佐知は、いきなりギアをトップに入れる。浜野佐知はと書いたが、そもそもエクセスに於いて、しばしば採用される先制攻撃ではある。
 女子大生のアサミ(水沢)は慎み深く、どちらかといへば消極的な性格で、付き合ひ始めて一年にもなる先輩の彼氏(呼称されないゆゑ役名不明/杉本まこと)とのセックスでも、恥ぢらひを隠せず彼氏をヤキモキさせる。アサミは研究室の教授・松浦(栗原良、あるいはリョウ、もしくはジョージ川崎、又ある時は相原涼二)の紹介で、高山(平賀)の出版社でアルバイトを始めることに。松浦にとつて高山は研究室のスポンサーで、高山から研究費を援助して貰ふ見返りに、松浦は高山にアルバイトと称した、要は愛人の女子大生を紹介してゐた。ある日アサミは高山に原稿を届けた帰り、平素は使つてゐない筈の雑居ビルの三階に彷徨ひ込む。そこは占ひ師の館、黒づくめの衣装に顔の下半分をショールで隠した、判り易すぎる扮装の占ひ師(摩子/ワンシーンのみ登場/不脱)はアサミにいふ。「貴女は自分の性格を誤解してゐます」、「もう直ぐ別の貴女が出現するでせう・・・」。それ以来、アサミは時代を超え得ないヴィヴィッドなボディコンに身を包んだ、奔放な淫乱女に変貌してしまふ。杉本先輩が戸惑ひを隠せない一方、松浦と高山は、反転したアサミを巡り醜い争奪戦を展開する。
 松下英美は高山の部下、こちらも呼称されない劇中固有名詞は知らん、高山とは男女の仲にもある。水樹千春は、松浦研究室のヒカリ。ヒカリもヒカリで、松浦と肉体関係を持つてゐた。
 とかいふ次第で、杉まこパイセンはひとまづ措いておくとして、奥手な女子大生から奔放な淫乱女に変身したアサミと、アサミを巡り醜く争ふ二人の男、と更に男達とそれまで交際してゐた二人の女。手短にメイン・プロットの四角関係を纏め上げると、本性を表し醜く争ふ男に、結局女は愛想を尽かし去つて行く、といふ好色で利己的な男供に冷水を浴びせかけるラスト―アサミは元に戻り、杉本まことと元通りの鞘に納まる―は、如何にも浜野佐知らしい。加へて女性美への愛を公言する浜野佐知だけあり、勿論濡れ場に於ける桃色の破壊力も満点。更に、隠された人の本性を顕かにする謎の占ひ師、といふ如何にも山﨑邦紀らしいギミックまで登場。飛躍力のある物語を六十分で無理なく見させ、量産型裸映画としての商業的要請もきつちり果たし、なほ且つ監督・脚本家双方の作家的志向ないし嗜好をも満足させる。正しくプロフェッショナルの仕事と呼ぶに足りよう、さりげなくも、博多から小倉にまで足を運ぶ値打ちのある佳篇である。たとへば映画の撮り方を忘れる以前の瀬々敬久のやうな、決定的で絶対の傑作といふのも勿論それはそれで素晴らしいのはいふまでもない。とはいへ話はそこに止(とど)まらず、かういふジャンル映画の枠内から一歩も踏み出でるでもないまゝに、手堅く仕上げられた職業作家の佳篇といふものを、当サイトとしては怠ることなく拾ひ上げて行きたい。と、今年も意を強くする所存である。

 年が明けたとなると、要は恐ろしくも十三年もののクラシックともなる今作。一際目を惹くのは杉本まこと(現:なかみつせいじ)の、煌く若さ(笑。別人のやうな恋人の姿に困惑させられる好青年を、文字通り好演する。


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 「痴熟女 Gスポットの匂ひ」(1993『お姉さんのONANIE』の2006年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・田中譲二・和杉圭吾/照明:秋山和夫・永井日出雄/音楽:薮中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:女池充/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斎藤秀子/スチール:佐藤初太郎/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:国見真菜・柴田はるか・緒坂あきら・ジャンク斉藤・平本一穂・栗原良)。
 当摩三兄弟の次男・数生(ジャンク)が、川縁を歩く。このジャンク斉藤といふ男、AV男優兼、近年では専ら監督としての方が名も通つてゐるのか。兎にも角にも筆舌に尽くしがたい、といふかどうにもかうにも説明のしやうがないほどに華の欠片も何の変哲もない男で、まかり間違つても、一本の本篇の看板を張らせるに足るタマではない。先走ると挫かれた出鼻を、終に取り返せない一作ではある。数生は、ボートを漕ぐ女に目を留める。何処かしら神秘性を漂はせる女(国見)に、数生は見蕩れる。視線に気付いた女は数生の方を向くと、ロング・スカートの足を開きパンティ越しに秘裂に指を這はせ、数生は衝撃を受ける。後日、兄・道夫(栗原)が家に彼女を連れてくる。道夫が連れて来た女・小倉真奈こそが、数生が見たボートの女であつた。
 配役残り平本一穂が、三兄弟の末弟・亜里緒。純然たる濡れ場要員の緒坂あきらは、上二人のゐぬ間に亜里緒が当摩邸こと旦々舎に連れ込む、彼女の木元由嘉里。柴田はるかは、真奈といふ女がありながら道夫が同時に関係を持つ笠原由美、ファッションヘルスで働く風俗嬢。一方では清楚な真奈を宝物のやうに思ひつつ、その反動でどうしやうもない女も抱きたくなる、と道夫は都合の好いことこの上ない葛藤を見せる。どんな珍論にでも、血肉を与へてしまふ妙な説得力といふものも、栗原良(=リョウ=ジョージ川崎=相原涼二)には具はつてもゐるのだが。真奈に秘かな恋心を寄せる、数生はそんな兄の姿に反発する。
 数生が真奈と関係を持つてしまつたため、兄弟は騒動となる。真奈は亜里緒に真意を伝へると二人きりになると、亜里緒とも寝る。単なる淫乱女が実の兄弟を穴兄弟に誑し込む、たつたそれだけの物語であつたなら、いつそのこと諦めもついたものを。ここからの真奈の言ひ分が全く頂けない、真奈は自分までもが兄の女と寝てしまひ、困惑を隠し切れない亜里緒にいふ。「私が求めたものはセックスではなく、人間の関係なの」、何だよそれ。今作ばかりは、流石に脚本の山﨑邦紀も未完成の謗りを免れ得ないであらう。女の側からのセックスを描く、が信条の浜野佐知とはいへ、調子のいいアバズレが喰ひ散らかすだけ喰ひ散らかす。かういふ物語を以て泰然としてゐられるほど、志の低い女では勿論あるまい。

 ラスト・ショット、ユキコと名前を変へた真奈の彼氏役は誰か?確かあれは山﨑邦紀ではなかつたと思ふのだが。

 以下は再見に際しての付記< 真奈と再会を果たしたと喜びかけた数生の眼前、ユキコと声をかけ二人でボートに乗る麻原彰晃は矢張り山﨑邦紀


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 「藤小雪の逆泡踊り天国」(1992『《秘》潜入逆ソープ天国』の2006年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:田中譲二・河中金美・植田中/照明:秋山和夫・斗桝佳之・安田信昭/音楽:藪中博章/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:小川純子/スチール:岡崎一隆/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:藤小雪・八萩純・桑原かをり・平賀勘一・芳田正浩・栗原良)。
 動物行動学助教授の梶木哲二(栗原)に、女子大生の西原かえで(藤)は秘かに想ひを寄せる。そんなかえでを狙ふ先輩の斎藤わたる(芳田)は、梶木の黒い噂をダシにかえでを酒に誘ふ。梶木は裏で、風俗のサイド・ビジネスを行つてゐるといふのだ。半信半疑ながらにかえでが尾行してみたところ、梶木は雑居ビルに消えて行く。梶木とすれ違ひに、ビルからは同級生(?)で人妻の日出島真紀(八萩)が出て来た。ビル内にある女性用特殊浴場、いはゆる逆ソープに行つて来たところだとのこと。逆ソープの悦楽を勧める真紀を余所に、かえでは梶木に対する黒い疑惑を確信へと変へる。もののそれにも関らず、かえでの梶木に対する恋心はいや増して燃え盛るのであつた。
 山﨑邦紀が脚本を書くと、登場人物に知識層が出て来る場合も多い旦々舎映画ではあれ、その中でも、栗原良(=リョウ=ジョージ川崎=相原涼二)が眉間に皺を寄せながら、研究者役を無闇に熱演する例は矢鱈と多い。今作の特色は、元々ピントの外れた研究に没頭する梶木が、更にアクティブにピントを外した勘違ひヒロインに翻弄され当惑するといふ、ミイラ取りの前に、ミイラよりもミイラなミイラ取りが現れるかの如きクロスカウンター的展開。途中までは類作と大して代り映えしない映画が、急に何時もとは違ふ様相を呈して来る様は実に鮮やかである。
 友人・河合英二朗(平賀)の経営する逆ソープに出入りする梶木の真意は、店内に隠しカメラを仕掛けた、研究用データの収集にあつた。何れにせよ、公序良俗にオフェンシブに反してゐるのは兎も角、梶木の研究テーマとは、当時邦訳が出版されたばかりの『ボディ・ウォッチング』(デズモンド・モリス著)に想を得た、「エクスタシーに於けるボディ・ウォッチング」。主著『裸のサル』も未読のモリスに関して戯れに調べてみたところ、『ボディ・ウォッチング』とは“ヒトの身体には、どんな意味が隠されているのか?”をテーマに、20パーツに分けた身体各所に解剖学、心理学、民族学的アプローチから人々が各々に付与して来た意味の数々を解説する、といふものであるらしい。疑似科学、あるいは半科学に基づく読本といつた類なのであらう。尤もとはいへ、劇中梶木の「エクスタシーに於けるボディ・ウォッチング」なる研究テーマの内実は、相変らずサッパリ見えて来はしないが。研究室にて編集機器を操作しながら、逆ソープに喜悦する女達の映像を凝視する梶木の姿は、盗撮ビデオを編集してゐる人にしか全く見えない。
 そんな梶木に対して、暗黒街の助教授―わはははは!―と勝手な妄想を膨らませるかえでが繰り出すポップな空想の数々と、頭のネジの外れきつた不思議ちやんに振り回される栗原良の困惑ぶりとが今作の白眉。判り易く紗をかけたイメージの中、グラサンに渋く暗黒街の助教授を気取る栗原良に、買春組織にすら売られてしまふ可憐な悲劇のヒロインを演じる藤小雪。時に娯楽映画には、判り易過ぎるくらゐがちやうどいい、さういふ匙加減もあるのだと思へる。それにつけても暗黒街の助教授、何度思ひ返しても笑へる。
 桑原かをりは真紀と同じく、かえでの同級生かも知れないOL・町野浩子。男日照りの相談を持ちかけた真紀に勧められた河合の逆ソープに、三人の中で初めて向かふ。何気なく体の美しい女を三人揃へた磐石の布陣の中でも、和人形のやうな端正な顔立ちに大きく丸々としたオッパイを誇る藤小雪の、梶木を想ひ派手な自慰に溺れる濡れ場と、梶木のカメラを意識した上で殊更に扇情的な体位で河合に抱かれる絡みは、恐ろしいくらゐに強力である。


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 「暴行切り裂きジャック」(昭和51/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:長谷部安春/脚本:桂千穂/企画:奥村幸士/プロデューサー:伊藤亮爾/撮影:森勝/照明:高島正博/編集:西村豊治/音楽:月見里太一/美術:川崎軍二/助監督:山口友三/協力:目黒エンペラー/出演:桂たまき・山科ゆり・八城夏子・岡本麗・丘奈保美・潤ますみ・高村ルナ・梓ようこ・飯田紅子・森みどり・堺美紀子・林ゆたか・三川裕之・田端善彦、他)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。
 まづ初めに情けなく言ひ訳お断りさせて頂く、放つておけば手をつける粋狂もほかには居らぬであらう御大やオガキンのピンク映画とは異なり、今回の敵はいはずと知れた、立派にクラシックたるロマンポルノの名作、既に語られるだけ語り尽くされてしまつた感も強いであらう。仕方がないといふか正直キリもないので、潔く開き直る。今回の初見に際して感じたまゝを、かつてとの重複に際しては素直に頭を垂れる覚悟でそのまゝに著すものである。
 洋菓子店に勤める世の中を敵に回し気味の女給・ユリ(桂)と、丸眼鏡の奥に気の弱さうな瞳をオドオドさせる菓子職人のケン(林)。ある嵐の夜車でユリを送らされたケンは、てんで用を成さない拘束衣を着た女(山科)を拾ふ。女は狂女で、やがてケーキナイフで自らを傷つけ始めたゆゑ処置に困り、ケンは女を無理矢理車から降ろす。なほも車に引き縋る狂女を、ケンは轢き殺してしまふ。二人は激しく狼狽、ユリの手引きで、潰れたスクラップ屋の跡地に何とか女の死体を始末する。大きく傷つけられ、夥しい血を流す女の死体。ユリの部屋に這ふ這ふの体で逃げ戻つた二人は、何故だか激しく燃え上がり、狂つたやうに情を交す。付き合ひ始めたケンとユリは、だがどうしても、あの嵐の晩のやうには燃え上がれなかつた。悟つた二人は、燃え上がる快楽を得るべく次の獲物を求めるやうになる。
 女を血祭りに上げては、狂つたやうに燃え上がり情交する殺人カップル、インモラルにもほどがある。非道の箍を勢ひよく蹴倒した物語は、やがてケンとユリ、それぞれの変化を機に巧みにシフトする。細い目に突き出た頬骨、唇の厚い林ゆたかは、見様によつては松田優作のレプリカに見えなくもない。繰り返す凶行の果てに、徐々にケンは押し殺された獣性を発露させて行く。一方クール・ビューティーからビューティー抜きのユリは、ケンを自らの部屋に転がり込ませスタートさせた同棲生活と殺人後の情交の果てに、何時しか女房然とケンに粘着する、当たり前の女に堕して行く。ケンは半ばユリを捨て、事後の情交を伴はない、殺しの為だけの殺しを一人繰り広げるやうになる。ユリはケンの後を、縋りつくかのやうに追ふ。
 ゼロサム思考が爆裂するラストは、片方から見ればそれこそ全く一切、一欠片の救ひもない。が、同時にもう他方からは、純粋な快楽、全くの自由、清々しいまでの解放を意味する。あまりにもあんまりで吃驚すらさせられつつもロングの画が美しいラスト・ショットは、連続快楽殺人といふ無体なテーマが、気がつくとマスオさんの他愛もない妄想ネタにも似た世の既婚男性諸氏の呑気に着地してみせるといふ、驚くべき魔術を見せる。純粋無垢な解放の完全なる一点突破主義は、逆の側からは見事とでもいはないとやつてられないくらゐにまるで救ひがない。恐れを知らぬ潔さには、最早感服するほかはない。もしもこの世に神が居るならば、監督の長谷部安春と脚本の桂千穂とは、今作の咎で死後は地獄に堕ちるに決まつてゐる。
 憐れな被害者は、殺害順に八城夏子が女子大生。岡本麗が、頻りにユリに色目を使ふ作家先生(三川)の令夫人。墓地で殺害された令夫人の死体は、墓穴の中に始末される。本当に、よくもこんな映画が撮れたものだ、フリーダムにもほどがある。丘奈保美は、ケンの暴走の端緒の生贄となるコールガール。潤ますみは半ば以上に無計画な凶行の犠牲となる巫女。巫女殺害後、映画はちよつとした脱出サスペンスを見せる。高村ルナはブティックの女主人、この人ハーフ?そこそこ以上に綺麗な女なのだが。裸になる女優の頭数だけならば徒に潤沢な今作、とはいへ出て来れば無残に切り刻まれて殺されるだけなので、桃色の実用性に関しては殆ど全くない。逆にこれがど真ん中でど真ん中で仕方がない、といふ御仁には、正直あまりお近付きになりたくはない。梓ようこ・飯田紅子・森みどりは、看護婦寮に忍び込んだケンに纏めて血祭りに上げられる白衣の天使の皆さん。劇中最後の凶行の刹那、あるいは突き放しぶりは、グルッと回つて最早キラキラと輝いてすら見える。堺美紀子は洋菓子店の女主人、田端善彦は先輩職人。

 あくまで個人的な嗜好であるが、今作最大の難点はユリ役の桂たまき。演技力と少々緩いながら肉感的な首から下はまあ兎も角。ナンシー・アレン、あるいはあき竹城パーマと、丸々としたブタマン面には正直閉口した。ユリのファースト・ショットもこの女がヒロインであるといふのは勘弁して呉れ勘弁して呉れもと私は祈つた。が、その願ひは聞き届けられなかつた。


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 さういふ次第で―どういふ次第だ―福岡オークラを喪つて一週間、早くも予定外の「前田有楽旅情篇」緊急強行出撃である。

 途中駅で快速に乗り換へつつ、一時間ばかり電車に揺られて八幡の町に。当地に降り立つのは初めて、所番地を地図に照らし合はせた、大まかなイメージだけを頭に置いてほてほてと歩き始める。も、かういつちや何だが、目印はおろか邪魔になるものさへ特になく、軽く途方に暮れてみる。そこで二人連れの、地元民と思しき二人連れの御婦人に道を尋ねる。

 ドロップアウト:「前田二丁目はもう少し先ですかね?」
     御婦人:「さう、このもう少し先。何処行くの、学校?」
 ドロップアウト:「映画館です」
     御婦人:「昔あつたつけねえ?
 ドロップアウト:「いや、まだやつてる筈なんデスが・・・orz」

 到着早々軽く八幡の街の洗礼を受けつつ、教へられた方向に向かつて歩いて行く。通りを折れると、といふか通りから既に前田有楽は見えた。調べてゐないので正確には行政上の区分は商業地なのかも知れないが、住宅地の真ん中にポカンとピンクの小屋が現れた、といつた感じを受ける。近隣環境を慮つてか、ピンクのポスターのお乳首部分を、丸シールで隠す修正が施されてゐるのが御愛嬌である。映画の撮影に使はれた―「カーテンコール」(2004/監督:佐々部清)―といふだけあり、見るから昔ながらの風情に溢れた小屋である。
 券売機などはなく、モギリのお・・・姉さんから―済みません、嘘をつきました―直接券を買ふ。三本立てで千二百円、安い。ロビーにて一服した後、おもむろに中に入る。ひ、広い!外から建物を見た際に受けた印象からは、思ひのほか広い。前後の間隔の狭い客席は、それでも三百は優に並んでゐるであらうか。更に、その周囲が軽自動車ならば楽々一周出来さうなくらゐに空いてゐる。小屋といふよりは、体育館の真ん中にパイプ椅子を並べて映画を観てゐる感じ、とでもいへば受けた印象を多少は御理解頂けようか、舞台も無闇に広い。一方、スクリーン自体は箱自体の大きさの割にはそれほど大きくはない。微妙に縦横比が横が小さめに見える―横が縦よりも短いといふ訳では決してなく、映画のスクリーンとしてはもつと横が長くてもいい、といふ意―スクリーンは、オークラ2と殆ど変らないくらゐの大きさか。え、判りにくい?中州大洋劇場でいふと、大洋2と大洋3のスクリーンとのちやうど中間くらゐの大きさ   >なほのこと判らねえよ

 とまれ、最早殆ど上映されてゐる映画は何でもいい、一歩足を踏み入れただけで嬉しくなれてしまふ素晴らしい小屋である。


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 「谷川みゆき 高校教師 -汚す!-」(2003/製作:フラッシュ・ワン/提供:Xces Film/監督:橋爪英雄/脚本:石田直人/企画:稲山悌二/撮影:楊由和/照明:ライト兄弟/助監督:今村純・・・ここまでに実は全く意味はないのだが・・・/出演:谷川みゆき・七瀬みい・小林哲也・浜田東一郎・長池士・間壁裕美・増田英治・久須美欽一・高橋理花・中野怜子・香川瞳・村上良・鈴木優・稲葉俵・宗近晴見・穂積隆信、他)。
 高校教師の加奈子(谷川)は、以前勤めてゐた高校で同僚教師の斉藤(浜田)と不倫関係に落ち、たつぷりとマゾの悦楽を仕込まれる。斉藤との関係は既に終つてゐたが、依然加奈子は被虐の淫夢に毎夜うなされる日々を送る。加奈子が新しく赴任する私立の黒岩高校は、以前は進学校として知られてゐたが現在は荒れてゐた。黒岩高校に赴任した女教師は、裏番の矢田(多分小林哲也・・・・面目ない)を初めとする生徒達の性的な加虐に遭ひ、何れも長続きしなかつた。
 m@stervision大哥がリアルタイムで断罪されてゐる通り、今作は実は全く別タイトルのVシネ(『団鬼六 女教師 愛の檻』1997/監督:南部英夫/脚本:石森史郎/原作:団鬼六/撮影:羽方義昌)を、スタッフを偽り公開したキネコ作品である。羊頭を掲げて狗肉を売るにもほどがある、といふのとは少し違ふか。エクセスも全くいい度胸をしてゐる、といふかこんなことを仕出かして果たして大丈夫なのか、却つて心配にすらなつて来る。製作費削減とともに、新たに撮る文字通りの新作に於いても一部キネコで撮り始めてゐた当時のエクセスは、余程ヤキが回つてゐたのか、実は全く同様な大罪をもう一件犯してゐる(『団鬼六 女教師 肉の復讐』→『新任教師 野本美穂 恥肉の裏授業』/未見)。当時既にプロジェク太上映であつた駅前ロマンで一度観てゐた今作ではあるが、フィルム上映で観るのは初めてである。さうしたところ、思ひのほか画質は酷い。その上でのそもそもの不義理とあつては、m@stervision大哥がお怒りになるのも御尤もであらう。
 とはいへ、そんなあれやこれやに目を瞑り―看過出来ないといふ声に対しては、勿論異を唱へるものではない―物語単体に目を向けてみると、これが案外と出来は満更でもない。何よりも、谷川みゆきがいい。肉感的な肢体には縄が頗るよく似合ふ上に、責めを受ける時の苦悶と恍惚との入り混じつた表情は、元々さういふ素質があつたものなのかあくまで演技なのかは判らないが、SMもののヒロインとしては全く申し分ない。陰惨なSMものが何故かラストは爽やかな学園青春ドラマとして着地する、作劇上の匙加減も絶妙である。これが初めからフィルムで、全くの新作ピンクとして撮影されてゐたならば、また全く別の評価のされやうもあつたのではないか、とも思へるものである。

 七瀬みいは、(多分)加奈子の大家の娘・千春。さういふことが許されるのかといふ議論もあるが、担任でもある加奈子の家庭教師を受け、ると同時に、加奈子を百合の花香る淫技でオトす。久須美欽一は八百屋でもある、千春の父親。長池士は矢田の運転手兼、矢田達のSMグループ“愛の檻”の調教師・三橋、この人はプロの縄師である。雰囲気はあるものの台詞を喋らせると途端に地金が出てしまふが、縄掛けする際の手際の良さは流石。穂積隆信は黒岩高校校長で、宗近晴見が教頭。率直なところ、それ以外のキャストに関しては最早手も足も出ない。


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 「真昼の不倫妻 ~美女の快楽~」(2003/製作・配給:新東宝映画/監督:橋口卓明/企画・脚本:福俵満/撮影:中尾正人/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:笹木賢光・江連頼久/撮影助手:田宮健彦/録音:シネキャビン/メイク:YOU/現像:東映ラボ・テック/出演:岡崎美女・林由美香・酒井あずさ・新納敏正・江端英久・本多菊次朗・稲葉凌一・伊藤猛)。シネキャの次にスチール:元永斉
 ♪ジリリリーン(こんな受話音ぢやなかつたかな?)、「はい、信頼と実績の愛情調査、園部興信事務所です」。伊藤猛演ずる、腕は立つが現実世界とは上手くリンクしきれてゐない、浮気調査が専門の私立探偵・園部亜門を主人公とした連作の第四弾。園部亜門シリーズは第一作「人妻家政婦 情事のあへぎ」(2000)以来、「人妻浮気調査 主人では満足できない」(2001)、「探偵物語 甘く淫らな罪」(2002)とちやうど年に一本づつ製作されて来た。伊藤猛主演の“探偵物語”と来れば俄然期待させられずにをれないところが、その実は詰めの甘い脚本―第一作と今作は新東宝の社員プロデューサー・福俵満、第二作は武田浩介、第三作は五代暁子―と脇の甘い演出―監督は通して橋口卓明―とによつて、何時も何時も大きな魚を獲り逃がしてはピンクスを歯噛みさせて来たシリーズではある。
 相も変らず亜門には、まるで働かうとする気はない。付かず離れず、上から下まで何かと世話になつてゐるホステスの宮前晶子(工藤翔子、ではなく酒井あずさ)に、家賃を無心するのもそろそろ限界だ。かゝつて来た電話に亜門は全く出るつもりもないのに、晶子が勝手に受話器を取つてしまつたゆゑ、久々に仕事を引き受ける羽目になる。例によつての浮気調査の依頼主は、青龍興行会長の青柳隆一(新納)。強引な遣り口でここ数年のうちに俄かに頂点にまで上り詰めた、いはゆる闇金の帝王である。新婚旅行中の交通事故により、体の自由と男性機能とを喪つてゐた。妻の由紀子(岡崎)が浮気をしてゐるのでは、といふのである。
 脚本・演出、そして後述する名脇役の交代劇以前に、今作の敗因はビリング頭の岡崎美女(おかざきみお)。当時の人気AV女優らしいが、ルックスは兎も角まあお芝居の覚束ないこと覚束ないこと。黙つて歩かせただけで既にどうにもぎこちない、といへばどれほどの代物であるか凡そ御理解頂けようか。演技力の全く心許ない岡崎美女と、佇まひはパーフェクトでも滑舌はグダグダの伊藤猛との遣り取りともなると、最早映画は目も当てられないまでの惨状を呈する。そこから先も大きな破綻さへ見当たらない反面全く特筆すべき点にも欠く脚本、例によつて肝心要を一向に締められない作劇の致命的な緩み、そして残された唯一の頼みの綱、亜門と主演女優の絡み―濡れ場に限らず―の雰囲気すらもが些か機能不全とあつては、最早万事休す。結局一作も満足な結果を残せなかつた園部亜門シリーズは、今作以降新たに作られてはゐない。いつそのこと、監督を替へて新たに仕切り直してみるのもアリかと思ふのだが如何に。深町章ではまた違ふやうな気もするので、無難に池島ゆたか。何故かエクセスに行つてしまつた神野太を呼び戻すか、国映勢は纏めて論外とすると・・・あれ、さうなるともう佐藤吏くらゐしか残らないのか?新東宝も意外と人材難なのかも。的場ちせ(浜野佐知)に撮らせて完全に換骨奪胎してみる解体再構築するといふのも、個人的には上等といふのは、純然たる放言である。
 配役残り林由美香は由紀子の追跡中に亜門が知り合ふ、女タクシードライバー・寛子。一仕事終へて髪を解くカットなどは素晴らしいのだが、亜門・晶子に割り込んだ三角関係は取つてつけた薮蛇感が流石に否めなくはない。江端英久は隆一の異母弟・三島達朗。本来は、達朗が本妻との間の息子で隆一は妾の子である。隆一は隆一で妾の子といふ出自を発条に闇金の世界で遮二無二のし上がり、達朗は達朗で嫡子でありながら庶子の下に甘んじてゐる現状に、内心忸怩たる思ひを抱へてゐる。稲葉凌一は青龍興行の若い衆・大代辰巳、本多菊次朗は由紀子の浮気相手・武井忠司。
 一旦由紀子は姿を消す。別件で亜門がラブホの前で張り込んでゐたところ、由紀子が中から出て来る。慌てて亜門が遅れて出て来た男を押さへると、今はデリヘルをしてゐるといふ由紀子の客だつた。その由紀子の客役が多分城定秀夫で、違ふかも知れない   >なら書くな
 “名脇役の交代劇”とは、三作目までは晶子役は工藤翔子が通して演じてゐた。酒井あずさも十二分に達者で工藤翔子と比べても全く遜色はないが、シリーズもの的な定番感が矢張り損なはれるのは否み難い。

 後日付記< “何故かエクセスに行つてしまつた”と神野太について書いたが、よくよく調べてみると、元々デビューはエクセスであつた。「若奥様不倫 わいせつ名器」(1991/脚本:深沢正樹/当然?未見)。

 付記付記< デリヘル時由紀子の客役は城定秀夫ではなく、地味に結構瓜二つの佐藤吏。城定秀夫とは戦友の樫原辰郎も見紛ふくらゐなので、我々が混乱しても最早仕方がないとでもいふことに。


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 「痴漢男の指 犯された人妻」(2002『痴漢の影 奪はれた人妻』の2006年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:橋口卓明/企画:福俵満/撮影:中尾正人/照明:岩崎豊/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:佐藤吏/監督助手:笹木賢光・竹内宗一郎/撮影助手:田宮健彦/照明助手:永井左紋/タイトル:道川昭/協力:広瀬寛巳/現像:東映ラボ・テック/出演:佐々木基子・佐々木ユメカ・本多菊次朗・稲葉凌一・福永悦子)。出演者中、福永悦子は本篇クレジットのみ。照明助手の次にスチールが元永斉
 智子(基子)は恋人との深夜のドライブ中、交通事故に遭ふ。恋人は死に、遺された智子は、恋人の親友であつた朝霧(本田)と結婚する。ものの、壊れてしまつた智子の心は一向に回復せず、何時しか夫婦が擦れ違ふ中、朝霧は部下のみさお(ユメカ)と不倫関係を持つやうになり帰宅の遅い日々が続く。智子はテレクラでKと名乗る男(稲葉)と会ひ、寝る。朝霧の子を宿してゐたことが判つた智子はKとの関係を一度きりに清算しようとするが、Kは智子に付き纏ふやうになる。
 冗長な脚本と締りのない演出とを、一応手堅くはある撮影が辛うじて救ひ映画の形を為さしめてゐる、とでもいつたところか。兎にも角にも脚本が酷い、プロ野球のテレビ中継を見ながら、音声はラジオの実況を聴いてゐるやうな感がある。あまりにもひとつひとつの台詞が冗漫なので、それなりの芸達者を揃へてもゐる筈なのに、俳優部が全員芝居が下手にすら見える。ラブホテルで情を交はした後、Kは嘘でもいいから智子の身の上が聞きたい、と切り出す。嘘でもいいから身の上を、といふのもそれはそれでどうかと思ふが、智子が作り話を装ひ自らの来し方を変な構へぶりで語ると、Kは軽く眉根に皺を寄せながら、嘘にしちや作り過ぎてるな・・・。これで大人同士のドラマでも描いてゐるつもりだといふのならば、最早苦笑するほかはない。唯一観られたのは、心を病んだ妻を気にかけ、早々に愛人宅を後にする朝霧に対し、みさおが最後の捨て台詞を投げつける件くらゐか。
 全く深みもないまゝに、変に理解不能かつ無駄な後味を残すバッド・エンド風のラストもまるで機能不全。濡れ場の突破力も弱く、わざわざ新版を公開する必要など何処にあるのか、と難じざるを得まい。

 当時短い期間のみ活動してゐた福永悦子はワン・シーンに見切れる、赤子をベビーカーに乗せた母親役、勿論脱ぎなどしない。ほかに、エレベーター痴漢でのその他乗員要員に城定秀夫、ではなく佐藤吏。


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 「ミッドナイトムービー」(2005/加/原題:『MIDNIGHT MOVIES From the Margin to the Mainstream』/製作・監督・脚本:スチュアート・サミュエルズ/出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ジョージ・A・ロメロ、ペリー・ヘンゼル、ジョン・ウォーターズ、リチャード・オブライエン、デビッド・リンチ、他)。
 「1970~1977年、深夜上映された六本の低予算映画が映画の在り方を変へた」。
 1970年、泥沼化するベトナム戦争。ビートルズは解散し、ジム・モリソンとジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョプリンとが立て続けにドラッグの過剰摂取で夭折する。政治思想と対抗文化とが濃厚な敗北乃至は閉塞感を漂はせる中、従来にない全く新しい映画興行が流行した。深夜に上映される既存の映画文法とも商業主義とも全く無縁な、一連の今でいふところのカルト映画群が、現在のやうな多種多彩な情報ツールも無い時代に口コミで広まる評判で連日連夜熱狂的な観客を劇場に集め、数年にも渡るロングラン、といつた凡そ考へられないやうな大ヒットを飛ばしたのだ。
 今作は当時の時代と代表的な六本の映画、「エル・トポ」(1970/監督:アレハンドロ・ホドロフスキー)、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」(1968/監督:ジョージ・A・ロメロ)、「ハーダー・ゼイ・カム」(1972/監督:ペリー・ヘンゼル)、「ピンク・フラミンゴ」(1972/監督:ジョン・ウォーターズ)、「ロッキー・ホラー・ショー」(1975/脚本・出演:リチャード・オブライエン)、「イレイザーヘッド」(1977/監督:デビッド・リンチ)を紹介したドキュメント映画である。原題の“From the Margin”とは、70年秋に「エル・トポ」の上映を開始した深夜映画の総本山・エルジン劇場を指す。
 己のことは棚に上げて堂々と暴論を吐くが、アメリカ人といふと今やコーラの揚げ物を考案するに至つた底抜けに愉快な民族といふ印象があつたものだが、当時は彼の国民は斯くもスピリチュアルな映画の観方をしてゐたのか、と正しく目から鱗が落ちる内容であつた。中でも凄まじいのは「ロッキー・ホラー・ショー」の上映風景。登場人物のコスプレをした観客が劇場に詰め掛けるくらゐならば現在でも時に無くはないが、当時の観客は劇中のシーンに合はせて蝋燭や懐中電灯を掲げ振り(上映中の劇場内で!)、あまつさへ。終にはコスプレした観客が舞台に上がり、銀幕の中の登場人物と同時に歌ひ、踊るのである !!!!!!!!勿論、上映中のスクリーンの前で、である。そしてそれは拍手喝采で迎へられる。そんな空間観たことがない。かういふ物言ひを淫らに多用する風潮も考へものであるのやも知れないが、正しくあり得ない状況である。何と連中は幸福な映画の観方をしてゐやがるのかと、狂ほしく羨ましくなつた。
 編集も秀逸。ジョン・ウォーターズの、冒頭に揚げた作品全体のテーマとも繋がる鮮やか過ぎる決め台詞で締めて、カッコいいテーマ曲が流れ始めるエンディングには必殺の威力がある。必見である。騙しはしない。

 同じくジョン・ウォーターズの発言であつたか、「ビデオが深夜映画を殺した」といふ発言にも、ピンクスの端くれとして全く異なる立場からではあるが、それはそれとして非常に身につまされた。


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 「イヴの衝撃 不貞妻の疼き」(2002/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:林真由美・関根和美/撮影:倉本和比人/照明:野口素胖/助監督:林真由美/擬斗:二家本辰己/メイク:富永朋子/音楽:ザ・リハビリテーションズ/編集:フィルムクラフト録音:シネキャビン/撮影助手:辺母木伸治/照明助手:松島秀征/監督助手:橋本尚幸/スチール:佐藤初太郎/現像:東映化学《株》/効果:東京スクリーンサービス/協力:アーバンアクターズ・田牛 長磯荘・寺嶋亮・中村拓/出演:イヴ・有賀美雪・西田圭・岡田謙一郎・二家本辰己・亜紀いずみ・吉田祐健・平川直大《友情出演》・所博昭・斉藤秀康・江藤大我・高橋大二郎・町田政則/友情出演:平川直大)。現時点で、といふことは事実上イヴちやん(神代弓子)主演のピンク映画最終作、といつてしまつて過言ではないのかも知れない。
 息子のケンスケを自らの不注意による交通事故で喪つて以来、岩崎佳子(イヴ)は夫の泰治(西田)とは、擦れ違ひの昂じた不仲が続いてゐた。泰治は若い女との不倫に走り、そのことに心を痛めた佳子は泰治の定期預金を手切れ金代りに無断で引き下ろすと、当てもない一人旅に旅立つ。旅先の居酒屋にて、佳子は同じく交通事故で長く昏睡状態にある子を持つ、平田浩二(町田)と出会ふ。自分と同じ心の痛みを抱へる浩二に、佳子は惹かれて行く。
 冒頭、旅立ち以前の佳子を描いたパートからグッダグダに時制が混乱を来たす御馴染みの悪癖を披露しつつ、浩二との出会ひから、永遠の傑作「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000/主演:佐々木基子・町田政則)のセンを狙つた大人の本格恋愛映画に取り組むものかと思ひきや。浩二を追ひ狙ふ町金軍団の登場から、無駄に大きなアクションを随所で見せながらも、度重なる浩二の嘘や衝撃的であればいいといふものではないラストに最も象徴される、映画は一体全体何処を目指してゐるのだかてんで判らない大いなる迷走を見せる。
 キャスティングの無駄な豪華さにも、今作の迷走ぶりはよく表れてゐる。一回きりの濡れ場にのみ登場の泰治不倫相手・綾(有賀)に、町金社長の田村龍二(岡田)と部下の林(リン/二家本辰己)までは兎も角。折角町田政則が動けるところを披露してゐるにも関らず、カメラに妙ちくりんな画の押さへ方をされちつともキチンと撮つて貰へてはゐない大立ち回りの相手方にもなる、林の更に子分に江藤大我、他三名。吉田祐健は佳子が無断で泰治の定期預金一千万を引き下ろして行く、銀行の支店長。立ち去る佳子を憎々し気に目で追ひながら、火を点けようとして煙草を切らしてゐたのに気づき箱を握り潰す、ところまで尺もタップリ使つて描かれる。友情出演とクレジットされる平川直大の、佳子と浩二とが出会ふ居酒屋店主はさて措き、今作に於ける最大の暴発は、ラスト・シーンを凍りつかせる関根和美の愛妻・亜紀いずみ(a.k.a.亜希いずみ)演ずる戦慄のジョギング・アサシン。ネタがバレてしまふのでこれ以上は敢て書かないが、一言でいふと、木に竹を接ぐにもほどがある。刹那の凶行の描き方自体は、思ひのほか悪くもないのだが。
 酔ひ潰れ浩二の部屋で粗相をしてしまつた佳子が、痛む頭を抱へながら目を覚ます翌朝や、一年後に同じ居酒屋での再会を佳子が浩二に期する場面などはいい雰囲気で出来てゐるのだが、全篇を貫く脚本の迷走と、概ね焦点を逸らす方向に作用してゐることの方が多いそこかしこの徒な豪華さとが、今作をチグハグとしか言ひ様のない仕上がりにせしめる、いはゆる珍作の一本である。加へて、浩二を組み伏せたところを佳子に後頭部を強打され悶絶する林の、全く無駄なホモ・ギミック、しかもわざわざ御丁寧に伏線まで張つてゐる薮蛇ぶりには、如何にも関根和美の関根和美たる所以がよく表れてゐる。

 終始纏まらない本作にあつて、注目すべきはイヴちやんのアフレコを佐々木基子がアテてゐる点。愛染(恭子)塾長は最早別格の論外として、キャリアの長い割には何時まで経つてもちつともお芝居が上手くならない女優部門の双璧を、小林ひとみと成すイヴちやんではあるが、何時までも小慣れないのは台詞回しだけで、そこを佐々木基子で回避してみたところ、表情の作り方などは逆になかなか長けてゐたりもする辺りは新鮮な発見であつた。アタフタしてみたり含羞むやうに黄昏てみたり、場当たり的な展開にそれでも即した大き目の喜怒哀楽の豊かさのほかにも、随所の細かい表現に思はずハッとさせられた。あくまで極々私的には、声を聞くとどうしても佐々木基子の顔が頭の片隅にチラつくのを禁じ得ないのは、惜しいところでもあるのだが。それは兎も角、思ひ切つてイヴちやんには別の女優にアテレコさせるといふのは、試みとしては案外有効であらうかとも思はれる。剣崎譲にも是非とも教へてあげたいところであつたのだが、この人、もう活動してゐないのかな?その辺も、イヴちやんのピンク主演が今作以降途切れてしまつてゐる現状に繋がるのやも知れぬ。Vシネにしても、2003年作を最後にしてゐるのだが。公式サイトによると、イヴちやん当年以て御歳四十四(昭和38年生)。今でも、舞台の板の上には上がつてゐる模様。出し抜けにいふが、俺イヴちやん大好きなんだよね。もう何といふか、身悶えしてしまふくらゐ好きなのね。女優としてよりは、概ね年上の女として。・・・・一体私は何をいつてゐるのか>知らねえよ   出し抜けるにもほどがある。ともあれ、個人的には今でもイヴちやんの最新作を待ち望むものである。

 とつ捕まつた浩二が龍二らから、逆さ片足吊りにされ壮絶なリンチを受ける妙に気合の入つた一幕と、一年後再会した佳子と浩二の濡れ場の一部で、何故か(?)キネコを使用。もつと別の件ならば兎も角、何でまたそこでキネコになるのかがサッパリ判らない。いづれにせよ、宜しくないのに変りはない。

 後日付記< 2005年度のイヴちやん主演のVシネを一本発見。「熟女の渇き 乳房が感じる絆」(監督:田尻裕司/脚本:守屋文雄/出演:イブ・飯沢もも・利倉大輔・松浦祐也、他)。後半三十分しか観てゐない限りでは、一体誰が主役なのか、何処に焦点が当てられてゐるのだかよく判らない漫然としたお話であつた。


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 「義父の指遊び 抜かないで!」(2003/製作:キティスタジオ/提供:Xces Film/脚本・監督:野上正義/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/制作:野上正義/撮影:中本憲政/照明:墓架冶郎/編集:田中修/助監督:城定秀夫/監督助手:北村翼/撮影助手:溝口伊久江/撮影助手:海津真也/照明助手:渋谷照明/制作進行:中塚二公/効果:梅沢身知子/協力:トニー大木/出演:桐島秋子・橘裕子・水原香菜恵・野上正義・牧村耕次・津田好治)。簡単に掻い摘んでおくと、野上正義は2003年に凡そ十年ぶりのピンクを二本発表した後(今作はその二本目)、翌年に更にもう一本監督してゐる。
 斉藤倉蔵(野上)は妻の八千代には先立たれ、息子の慎一(牧村)、嫁の智子(桐島)と三人で同居してゐる。嫁に行つた娘の道子(水原)、夫の山本礼二(津田)も集まつての八千代の三回忌。酒の席で、調子よく酔つた礼二は冗談交じりに倉蔵に再婚をけしかける。その夜、若き日の八千代(橘)を思ひ出し、倉蔵は思はず床の中で自慰を始めてしまふ。その様子を、手洗ひに起きた智子が図らずも目撃する。智子は、精力の弱い慎一に不満を感じてもゐた。そんな折、不意に慎一の北海道への転勤が決まる。智子も仕事を持つてゐる為、ひとまづは慎一が単身赴任し、先々のことはゆつくり考へることに。義父と、息子嫁二人きりの生活が始まつた。とかいふ次第で、さあて舞台は整つた!半・近親相姦・ゴーズ・オン♪ここから起承転結でいふと承のパートが、今作に於いて最も絶好調に映画が走る。
 ある夜、智子は泥酔し帰宅する。介抱しようとする倉蔵に、「ううん。お義父さん、脱がせてええん@ハアトマーク」だとか何とかしなだれかかりながら、なし崩し的にセックスする。何時も何時も同じ寝言ばかり垂れてゐて甚だ恐縮でもあるが、泥酔した女がもたれかかりながら何だかんだと濡れ場に突入する。あるいは熟女が「暑いはあん@ハアトマーク」、だの何だのといひながら自ら衣服のボタンをひとつづつ外し、若い色男を誘惑する。さういふ往年の、あるいは伝統的な、正直なところ化石、もしくは石化ピンク文法に対して一々とやかくいはねば気の済まぬやうな御仁は、おとなしくありのままの現実の無味乾燥でも眺めてをられればよからう。桃色の銀幕のことは、俺達に任せておいて呉れ。
 翌朝、倉蔵の夢枕に立つ八千代の「お父さん、とんでもないことになつてしまひましたね。どんな理由があるにせよ、こんなことは、世間では通用しないことです!」といふ一釘を挿みつつも、楽しい楽しい倉蔵と智子の近親相姦ライフがスタートする。八千代はガン無視かよ、祟つていいぞ。ここからの、一頻り濡れ場がたて続く件が素晴らしい。手を替へ品を替へ所を替へ、倉蔵と智子はまるで新婚夫婦でもあるかのやうに、軽やかに性欲に興ずる日々を満喫する。風呂場で互ひに体を洗ひながら、乳と一物とを弄り合ふシーンなどはいやらしいことはいふまでもない上に、あまりにも楽しさうで楽しさうで、映画を観てゐてとても幸せな気分になれる。それはとても、素晴らしく素敵なことであらう。起承転結の転換点たるに過剰に相応しい転部の転びぶりと、更に輪を掛けて強引な結部の結びぶりに関してはひとまづ兎も角。無茶とはいへども最低限、健全娯楽映画としての順当な着地点を摸索しようとした姿勢は看て取れる。兎にも角にも、中盤の溢れんばかりの幸福感に心行くまで浸るべきピンクの良作である。
 ところで平素の画は普通に撮つてゐるものを、濡れ場に入るや途端にガチャガチャと動き出す中本憲政のカメラが頂けない。臨場感でも表してゐるつもりなのかも知れないが、落ち着かないこと甚だしい。

 瀕死の大事故に遭ひ、ある程度にまで回復してから帰宅した慎一を送り届ける新日本物産社員・北村役で、城定秀夫もワンシーン登場。因みに、エクセス・レーベル母体の会社名が、新日本映像株式会社である。


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 「理容店の女房 夜這ひ床間」(2007/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/音楽:レインボーサウンド/助監督:小川隆史/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/制作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:瀬能司・平沢里菜子・風間今日子・本多菊次朗・丘尚輝・樹かず・津田篤)。
 夫婦で経営する理髪店、女房の星野夕子(瀬能)に髪を切つて貰ふと、運がツクといふ噂が広まつてゐた。噂は、実は夕子とは夜這ひの不倫関係にある、酒屋の岡本進也(本多)が広めたものだつた。主人の文夫(丘)がけふも女房を放たらかしにして夜釣りに出かけた隙に、岡本は夕子に夜這ひをかける。
 いはゆるエクセス不美人なのかさうでもないのかよく判らない、主演女優の瀬能司。プロジェク太の塩梅にもよるものなのかも知れないが、理髪店室内の明るい照明の下と、夜這ひシーンの抑へ目の照明の下ではまるで別人のやうに見える。抑へた照明の下では何故だか異様に色黒に見えて、冒頭の夢オチの夜這ひシーン、エラが張つてゐることもあり、第一印象は野村貴浩かと思つた。
 風間今日子は正確な立ち位地は紹介されないものの、台詞から夕子とは付き合ひの長い仲良しであらうことも窺へる亀崎晴子。三十回目の(!)見合ひに臨むに当たり、髪を切つて貰ふと運がツクといふ噂を頼り悲壮な決意で夕子を訪ねる。とはいふものの、晴子の髪は既に美容院でセット済み。ならばどうして欲しいのかといふと、下の毛をカットして呉れといふのである。如何にもピンク映画然としたシークエンスである、天晴と万歳で讃へたい。いざ陰毛のカットに関しては、画が際どい領域に及ぶや、白黒を反転させて回避するといふ荒技を見せる。
 齢の取り方を間違へてゐるのではないか、とすら思へて来てしまふくらゐに何時までも若い樹かずは、晴子の見合ひ相手・鶴田剛。風間今日子と樹かずの、非濡れ場含む絡みの安定感が素晴らしい。今作最も、といふか殆ど唯一充実してゐる件である。登場順を前後して津田篤は、進也の田舎の親戚の子供で、司法試験の受験に際して上京する松尾哲平。進也に促され試験合格の運をツケる為と、実は童貞だといふことで、進也の代りに夕子に夜這ひをかけさせられる。
 かういふ、仕事を選ばない姿勢はひとまづ評価したい平沢里菜子は、進也の女房・一枝。夕子の下には哲平を向はせ、進也はひとまづその晩は早目に帰宅する。さうしたところがあらうことか、一枝は夜釣りに出てゐる筈の文夫と、クロスカウンターな不貞を働いてゐた。アクロバティックな体位で平沢里菜子を責める丘尚輝。自分でも何を言つてゐるのかよく判らないが、無性に腹が立つて腹が立つて仕方がない。
 結局双方の夫が改心して、鞘が納まるべきところに何とはなくも納まる作劇は兎も角、正直なところラストの瀬能司と丘尚輝の絡みなんてどうでもいいので、平沢里菜子と本多菊次朗との濡れ場が観られなかつたことは残念。とはいへ、ああ見えて新田栄といふ人は微妙な堅実さも持ち合はせてゐるので、さういふ(一枝と進也との濡れ場で映画を締めて)映画の軸足をずらすやうな真似は仕出かさないとも思ふが。
 もう一名、髪を切つて貰ひながら頻りに夕子を口説く若い客役が床屋内に見切れる、定石からいふと小川隆史辺りか?回想の非濡れ場繋ぎのシーンで、二箇所激劣悪キネコを使用。大した長尺でもなく、削れるものも高が知れてゐるやうにしか、素人目には見えなくもあるのだが。

 最後に瑣末。独り眠る夕子に夜這ひをかけながら、進也は旦那はどうしたのかと聞かずもがなな問ひをぶつける。すると夕子、「あの人は釣りのことばかり。釣つた魚には、餌はやらないと思つてゐるのよ」。日本語が些か足らなくはあるまいか、“餌はやらなくていいと思つてゐる”ではないのか?


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 「ダブルレズ 美人教師と尼寺の女」(2007/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/音楽:レインボーサウンド/助監督:横江宏樹/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:ささきふう香・鏡麗子・華沢レモン・高見和正・丘尚輝・都義一・横須賀正一)。
 高校教師の草薙恵子(ささき)は授業中に、教へ子の高杉弘明(高見)から放課後の逢瀬を求めるメールを受け取る。正味な話私も高校を出てとうに久しいけれど、こつそり生徒が隠れてするならばまだしも、今時は授業してゐる最中に携帯を取り出しメールを確認する教師なんて居るのか?どれだけ教育現場が荒廃してゐるのか。岡輝男の書く脚本だから仕方がない、と片付けてしまへば正しくそれまでではあるが。手際よく恵子が教へ子と関係を持つことを説明したつもりなのかも知れないが、幾ら何でも端折り過ぎである。
 堂々とするにもほどがある、誰も居ない教室での恵子と弘明の情事。口元のホクロが堪らなくセクシーなささきふう香は、如何にも男好きがしさうな首から上。首から下は最終的には肉がつき過ぎてはゐるのだが、ギリギリ、アウトでもそれはそれで許せてもしまふ色香を濃厚、且つ即物的に漂はせる。ところが、そんなことをしてゐるから仕方もないのだが、校内に二人の関係の噂が立つ。途端に二の足を踏んだ弘明は、恵子に暫く距離を置くことを一方的に言明。傷心の恵子は体調不良を理由に休職、一人旅に出る。塩山駅に降り立つた恵子は、心身を支へる力を終に失ひ行き倒れる。倒れた恵子に駆け寄る一人の尼僧が、駆け込み寺としても知られる大成山愛徳院の庵主・淨蓮(鏡)である。愛徳院に運び込まれた恵子は、そのまま暫くの間寺に逗留することになる。
 今作が突発的なスタンピートを見せるのは、修行生活に入つたものの、弘明との情事を思ひ出しフと自慰に耽つてしまふ恵子に淨蓮が、過去に自らが犯した過ち、といふか重罪を告白する一幕。当時OLであつた淨蓮は、上司の梶原高文(丘)と不倫関係にあつた。ある夜自室での情交後、制止も振り切り帰宅しようとする梶原を背後から灰皿で強打、「ごめんなさい、どうしても奥さんのところに帰したくなかつたの・・・・」、“ごめんなさい”もへつたくれもあつたものではない。翌日梶原が目覚めると、両手両足は拘束されてゐる、監禁されてゐたのだ。今回岡輝男は、俄かに気でも触れたかのやうなアクセルの踏み込みを見せる。監禁は一ヶ月続いた後、梶原は自力で脱出、憐れですらなく当然淨蓮はお縄を頂戴する。淨蓮は服役中に愛徳院の前代庵主と出会ひ、仏門に入つたものだつた。
 華沢レモンは鑑別所の中で慰問に訪れた淨蓮と出会ひ、現在は更正も果たした木村綾音。淨蓮とは、百合の花を咲かせる間柄にある。横須賀正一は、台詞もなく弘明の後ろの席に見切れるだけの同級生役。もうひとつクレジットに出て来る、都義一といふ名前がよく判らない。同じく教室パートでの同級生役か、あるいは駅前で托鉢に立つ淨蓮と恵子に、喜捨する中年男か。
 交ふ淨蓮と綾音の姿に、恵子は我も忘れて激しい自慰に溺れる。果てた恵子の前に淨蓮は立つと、「お前にも本当の愛を教へてやらう」。尼僧が愛だなどと口にする原理的齟齬に関しては、最早ひとまづさて措く。ただ続く台詞は非常にイカしてゐる。「極楽浄土が、見たくはないか?」、これはカッコいい台詞だ。岡輝男にしては、明日この人デスるんぢやないか?とすら思へて来るくらゐに上出来である。鏡麗子にもかういふ外連を形為さしめるだけの、妙な風格、あるいは重量感が具はつてゐる。右から一昨日へと流れ去つて行くエロ映画の中にありつつも、普通に高い緊張度を有する名場面である。

 以前の学習の成果といふか、今回は途中で気付いた。今作も、淨蓮と恵子とで駅前に托鉢に立つ件ほか所々の繋ぎで、ビデオ撮影を併用してゐる。


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