【東海林太郎】

【東海林太郎】
 

 東海林太郎という明治生まれの歌手がいて、直立不動の姿勢で歌う不思議な人だった。1972年に亡くなられるまで現役で歌われていたので、テレビの生中継でも見たことがあり、1965年には紅白歌合戦にも出場されている。当時は直立不動の姿勢が妙におかしくて物まねをする芸人も多かったけれど、亡くなられて久しいせいか最近は見かけなくなった。
 国定忠治など任侠ものに題材をとった持ち歌が多いので、清水次郎長関連の歌がないかと調べてみたけれど見あたらない。そのかわり1936(昭和11)年に発売された「椰子の実」のメロディーは、正午になると防災スピーカーから清水の町に流れている。「椰子の実」が流れて正午だとわかると「(ああ、清水にいるな…)」と思う。



5/30、エスパルスドリームプラザ前にて。

 子どもの頃から寝相が悪いと言われ続け、今でも朝になると180度回転した姿で目が覚めたりするので相変わらず悪いままでいる。一方、義母は異様に寝相の良い人で、介護中に寝室をのぞくときまって直立不動まま硬直して後ろに倒れたような格好で眠っており、生きているのだろうかと不安になるけれど、家人に聞くと
「そう、あの人昔から東海林太郎だった」
と素っ気なく答える。
 寝相の善し悪しが健康に良いか悪いかは別にして、直立不動とまではいかないまでも、心がけと努力次第でおとなしい寝姿を身につけるのは可能ではないかと思う。そうでなかったら、時代劇で見かけるように、髷(まげ)や日本髪を結った武家の男女が、あんな不思議な木製枕で寝られたはずがないと思う。



5/30、テルファーのある黄昏。

 東海林太郎スタイルで眠る義母は、性格もまた過剰なほど几帳面で頑固で融通の利かない直立不動スタイルであり、寝るときも直立不動の姿勢で行儀よく眠ることを、固い決意と不断の努力で身につけた可能性が高い。
 直立不動とまではいかないけれど、まっすぐな姿勢で謡う流行歌手も最近は多いけれど、そのことを笑われることはない。どうしてあの頃東海林太郎が笑いの対象になっていたのかと思うに、空前の「なつかしの歌声ブーム」だった1960年代の日本が、空前の「行儀の悪い時代」だったのかもしれないな、と今になって思う。

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