【寇と冦】

【寇と冦】

19 年前、2003 年 7 月 2 日 に【寇と冦】と題してこんな日記を書いていたので再掲。

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「元寇(げんこう)」と「和冦(わこう)」と打ったら、ATOK 15 for Macintosh では「こう」の字が違って変換されることに気付いた。
「寇」とは外部から侵攻すること、もしくは侵入する敵を指し、訓は「あだ」である。
鎌倉時代、日本に来襲した元軍を「元寇」といい、「和冦」とは13~16世紀、朝鮮・中国の沿岸を掠奪した日本人に対する、朝鮮・中国側の呼び名である。

この変換に従えば大陸から日本を攻めた海賊は「寇」であり、日本から大陸を攻めた海賊は「冦」となっている。「寇と冦」の使い分けに深い含意があるのだろうか。

旧版JISコード、「冦」は「514E」、「寇」は「5564」である。この異体字、一覧表などでは「冦」を親字としているものがありコード値が上位にあるのが理由だったりして笑えるのだけれど、正しくは「寇」が親字であり、「冦」は俗字なのである。

「寇」の「宀」が「冖」に換わっているのであり、こういうのを「意符書換字」という。「富」と「冨」、「寫」と「冩」などがネット上で表示できる例である。

で、ATOK 15 for Macintosh で更に変換候補を表示させたらちゃんと「倭寇」が出て来た。日本を「倭」ではなく「和」と表記する場合は俗字を組み合わせ、「和」のかわりに「倭」と表記する場合はちゃんと親字の「寇」が用いられているのだ。

それでは俗字「冦」に付随する「和」とは何者ぞや、との疑問が思い浮かび、その答えは遙か昔に本居宣長先生が書かれているので引用する。

「問ひて云はく、「倭」を「和」とも書くはいかが。答へて云はく、古來「倭」の字を用い來しかども、これもと異國より名づけたる字にて、「倭奴」などともいひて、美名にあらずとてにや、後に此方にて「和」の字に改められしなり。ゆゑに唐の書には後世までも「和」の字を用いたることは見えぬなり。さて「和」の字も國號にするによしあることかと尋ぬるに、ただ「倭」と同音にて、好字なるを取られたるまでのことなるべし。それも上古はただ「夜麻登」といふ言をむねとして、文字は借り物なればその沙汰にも及ばず、あるにまかせて「倭」の字を用い來たれるに、後には文字の好惡を択むことになりて、好字には改められたるなり。しかるに「和」の字の義につきて、「大きにやはらぐはわが御國の風俗なり」などといふは、また後の付會の説なり。文字は借り物なりといふことを知らぬゆゑにかかる説は出で來るなり。」(『石上私淑言』より

DATA : SONY Cyber-shot DSC-WX300

人間が外部を侵略すると、必ずヒステリックな残虐行為を働くものらしく、司馬遼太郎によれば倭寇に襲われた地域は「倭が来た!」と逃げ惑い、その所業は凄惨を極めたらしい。やっぱり「倭寇」と表記するのが正しいように思う。

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