赤い花


Z7 + NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

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もうだいぶ以前の話である。
街中にあるスナックの店内で、人が殺されているのがみつかった・・という話を聞いた。
細い路地をちょっと入ったところにある、小さなお店だという。
被害者はその店の店主の女性だ。

凶器は包丁で、胸を刺されたらしい。
教えてくれた人が、声を小さくして言った。
「みつかった時、包丁が胸に刺さったままだったそうですよ」

時折近くを通るが、そこにスナックがあることは知らなかった。
しかし駅に近い賑やかな通りだし、当然そういう店もあるだろう。
一歩入ったところには、常連しか知らない別の世界が広がっているものである。

その後、車でその道を通った時に、この辺りかなと思って見てみると、ある木造の家が目に留まった。
昭和の中頃に建てられたと思われる古い家屋で、壁の板が焼けて真っ黒になっている。
何か異様な存在感があり、ここが事件の現場なのではないかという予感がした。

信号が赤になり、偶然その家の前で車が停止した。
嫌なところで停まったなと思い、その黒い壁の方を見た。
壁の横に細い路地があり、その先の方が見えた。

路地の奥を見た瞬間に、はっとなった。
そこに人が立っているような気配を感じたのだ。
店の入り口らしき場所に、植木鉢がひとつ置いてあり、そこに一輪の大きな花が咲いていた。
真っ赤な花である、
まるで血で染めたかのような、本当に鮮烈な赤であった。

その花に見られているような気持ちになり、その場に凍り付いた。
黒い壁に囲まれた中に、赤い花がポッと浮かび上がっている。
誰かがそこに立って、じっとこちらを見ているようだ。

何という恐ろしい光景だろう。
美しいが、とてつもなく危険なものを感じさせる。
ここに近寄ってはいけない・・と感じた。
信号が青になったので、逃げるようにその場を後にした。

その後、その建物は取り壊されてなくなったと聞いた。
凄惨な事件の現場であり、周辺の人たちも、記憶を早く消し去りたかったであろう。
犯人が捕まったのかどうかは分からない。
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