酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

健全なナショナリズムの可能性は?~桜の時季に思うこと

2012-04-07 15:09:49 | 社会、政治
 1年前、俺は独り、中野通りでウオーキング花見に興じた。夕陽に白く煌めく花に死の影を重ねたが、宴に連なる人々に怒りや不安の色は滲んでいなかった。「右大臣実朝」(太宰治)の有名な一節、<アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ>が俺の脳裏をかすめる。

 諸外国は当時、日本在住の自国民に、<女性と子供を関東以西、可能なら国外に退避させるべし>と通達していた。片や日本政府は、福島第1原発から20~30㌔圏内の住民を自主避難にとどめ、海外メディアや反原発側の批判を風評と断じていた。

 <秘密主義、棄民、言論弾圧を前提に成立する暴力装置というべき原発を守るためなら、狼はいかなる手段も厭わないからだ>(11年4月9日)……。

 花見の稿を上記のように結んで1年、狼は獰猛さを増し、<野田―枝野―前原―仙谷―細野>の5人組は、大飯原発再稼働を拙速に進めている。理念や良心と無縁の獣の目に、放射能に蝕まれる可能性が高い若者の未来は映っていないのだろう。この国は今、存亡の秋(とき)を迎えている……と書くと、「おまえはナショナリストに転向したのか」と訝る知人もいるだろう。俺の中で情念と感性の和製化は3・11以降に拍車が掛かった。

 三島由紀夫の自決で、その首と胴のように、ナショナリズムは左翼やリベラルから切り離された。衣鉢を継いだはずの右派だが、一水会ら少数の例外を除き、三島の遺志を捻じ曲げる。アメリカに隷従し、アジア各国には強面に出る排外主義にナショナリズムは堕してしまう。〝本籍ワシントン〟の体育会的ナショナリストの代表は小泉純一郎元首相や前原誠司政調会長だ。

 風土や環境を守りたい、子供たちを放射能に晒したくない。だから、原発は止めよう……。政治信条にかかわらず共有できる思いを顧みず、政官財とメディアは再稼働を既成事実した。醜い構図が透けた結果、日本人の心情の底にさざ波が生じ、うねりになって広がりつつある。

 「もう一度、脱亜入欧を」と説いていた西尾幹二氏を、俺は〝本籍ワシントン〟に分類していた。ところが3・11以降、西尾氏は杉並の反原発デモに参加し、ラディカルや共産党とも共闘している。TPPも政治地図を塗り替えつつある。国会では再右派に位置する稲田朋美衆院議員は、相容れないはずの福島瑞穂社民党党首とともに、反TPPデモの先頭に立っていた。

 〝右派と左派の野合〟と冷ややかに見る向きもあるが、日本の近現代史をひもとけば、ナショナリズムが軽やかにハーフラインを行き来していたことがわかる。2・26事件のイデオローグとされる北一輝は10代の頃から反皇室主義者で、大逆事件に連座する可能性もあった。戦前の右翼は中国革命に身を投じたり、インド独立運動を支援したりと、左翼以上にインターナショナリズムを理解していた。

 血盟団ら右翼テロリストが弾圧に屈しないマルキストにシンパシーを抱いていたことが、「天皇と東大」(立花隆著)に記されていた。<反米愛国>はラディカルな政治闘争を支えた心情のひとつで、全共闘の若者は日本的情念が迸る任侠映画に熱狂した。敗北して行き場を失くした学生が、任侠団体に草鞋を脱ぐケースもあったという。

 WOWOWは先日、任侠映画の白眉とされる鶴田浩二主演の「博奕打ち 総長賭博」(68年)を放映した。久しぶりに見て、様式美に男女の機微を織り込んだ完璧な作りに改めて感嘆する。

 人々の記憶から消えつつあった本作にスポットライトが当たったのは、公開1年後のこと。死を射程に入れていた三島は本作を「ギリシャ悲劇に通じる構成を持つ傑作」と激賞した。滅びること、縛られること、殉じることをテーマに小説を書いた三島は、本作に強く心を揺さぶられたのだ。一方で全共闘の学生は、中井(鶴田)の「任侠道、そんなものは俺にはねえ。おれはただのケチな人殺しだ」という台詞、松田(若山富三郎)の壊れっぷりにシンパシーを抱いたはずだ。

 ナショナリズムは時に強さを志向するが、3・11以降、柔らかで優しい日本独自の<健全なナショナリズム>の醸成、いや、復活の気配を感じる。やがて強い風になり、<石原―橋下>が唱える居丈高な強者の論理を吹き飛ばしてくれることを願っている。

 取りとめなく書き散らかしてしまった。俺は今から六義園に向かい、ライトアップされた桜を堪能する。そして明日は桜花賞……。◎⑦メイショウスザンナ、○⑫プレノタート、▲⑩ジェンティルドンナ、注⑧マイネエポナの4頭を組み合わせて買うつもりだ。真面目に書いていても、俺を動かしているには常に煩悩だ。


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