酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」~<普遍性>に根差した超絶エンターテインメント

2018-08-25 19:59:13 | 映画、ドラマ
 「デモクラシーNOW!」など米独立系メディアは、トランプ政権下で横行する異常事態を報じられている。長くアメリカで暮らしている男性が、臨月の妻を病院に送る途中、移民局に拘束された。人種差別と闘ったり、移民勾留施設で抗議の声を上げたりした者が逮捕れるケースが後を絶たない。軌を一にして刑務所のストライキも広がっている。

 <普遍性>が失われつつあるアメリカ発の「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」(18年、クリストファー・マッカリー監督)を新宿で見た。前作「ローグ・ネイション」(15年)に匹敵する秀逸なエンターテインメントだった。興趣を削がぬよう、背景を中心に記したい。

 ベースになる「スパイ大作戦」は再放送(CS)で全エピソードを見ている。制作当時(1966~73年)、泥沼化したベトナム戦争で虐殺を繰り返すアメリカは、世界で絶対的なヒールだった。エピソードを重ねるにつれ、番組の質が変化する。正義を掲げる反政府ゲリラのボスはゲバラ風の容貌だがその実、私利私欲にまみれた悪党……。そんなストーリーも再三あった。「スパイ大作戦」は<アメリカ=正義の国>の偽りを喧伝するための国策ドラマに堕したのだ。

 半世紀を経て、アメリカのテレビドラマは質的に向上した。スピンオフを含め「CSIː科学捜査班」は中東でも支持された。アメリカの病理や闇を抉るだけでなく、家族や組織の在り方を問い掛けるからである。社会の仕組みに左右されない<普遍性>が共感を呼んだ。

 「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」もまた、<普遍性>に配慮している。敵役ソロモン・レーン(ショーン・ハリス)に国家(≒アメリカ)のテロと抵抗する側のテロを対置する台詞を語らせている。トランプも少しはハリウッドに学んだ方がいい。

 シリーズ2以降の「スパイ大作戦」で、ピーター・グレイブス演じるフェルプスがIMF(Impossible Mission Force)の〝頭脳〟だった。「ミッション:インポッシブル」シリーズでは、イーサン・ハント(トム・クルーズ)が〝肉体〟をも兼ねている。50代半ばのトムのフィジカルに圧倒されるばかりだ。

 本作で「スパイ大作戦」のエキスの数々に気付いた。最先端技術に精通しているルーサー(ヴィング・レイムス)にはバーニー、変装の名人ベンジー(サイモン・ペッグ)にはローランにパリスと、それぞれ元キャラをなぞっている。自白に導いた病室のシーンは、「スパイ大作戦」で繰り返し用いられたスタジオトリックである。〝行き当たりばったり〟の展開で、ハントは「何とかなる」といった台詞を繰り返す。この半世紀、テクノロジーは格段に進歩したが、本作には人間力に支えられたアナログ的ムードが漂っていた。

 とはいえ、「ミッション:インポッシブル」シリーズは決定的なハンディを背負っている。絶望的な状況に追い込まれても、最後にチームが笑うという結果は決まっているから、過程が試されるのだ。CIA捜査官ウォーカー(ヘンリー・カヴィル)、スローンCIA長官(アンジェラ・バセット)など一筋縄ではいかないキャラが登場し、MI6の影もちらつく。カッカリー監督が「ユージュアル・サスペクツ」の脚本家というのも頷けた。

 ハントと女性たちとの関わりが本作の肝になっている。前作「ローグ・ネイション」にも登場したイルサ(レベッカ・ファーガソン)、身柄を保護されている元妻ジュリア(ミシェル・モナハン)、慈善事業家と武器商人の顔を併せ持つウィドウ(ヴァネッサ・カービー)が作品に彩りを添えていた。

 井筒高雄氏とレイチェル・クラークさんのトークイベントを紹介した別稿(6月23日)、<日本国内に蓄積されたプルトニウムは世界3位で、日本は実質的な核保有国。戦争が起きたら原発は攻撃対象になる>と記した。本作のテーマ、プルトニウムの売買は、日本にとって決して他人事ではないのだ。
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