帰郷中、「終わりなき旅」(井出孫六著、岩波現代文庫)を読んだ。満州開拓団の苦難の歴史が綴られている。
同じころ報道番組を賑わせていたのは、久間章生前防衛相の「しょうがない発言」だった。<ソ連侵攻が予想された時期、原爆投下によって米国主導の占領が実現した。その後の経過を考えれば、甚大な被害も許容すべきである>が真意である。久間発言の本質は「終わりなき旅」の内容とピタリ重なっていた。
「終わりなき旅」では最も多くの開拓民を満州に送り出した長野県に焦点を当てている。背景にあったのは<村税も集らない、信組が半潰れだ、差押へが来る、小作料は五年も滞る>という農村の惨状だった。関東軍主導の満州武装移民計画は、慎重派の高橋是清蔵相が2・26事件で暗殺されたことで一気に本格化する。
満州を「王道楽土」と喧伝し、絶望に打ちひしがれた大衆を駆り立てた経緯は、北朝鮮帰国事業と近似的だ。「地上の楽園」の宣伝文句に躍らされ、在日朝鮮人や親族の日本人は塗炭の苦しみを味わった。自国民を楯にし、収奪し、棄てる……。キャッチフレーズこそ異なるが、満州開拓団と北朝鮮帰国事業は、全く同じ構図といえるだろう。
酷寒の土地で開拓民は厳しい生活を強いられる。土壌改良や灌漑など、生産向上のための長期展望は存在しなかった。そして運命の45年8月9日が訪れる。ソ連はヤルタ会談を踏まえ、日本政府が予期した通り不可侵条約を破って参戦した。開拓団を強行に主張した関東軍は、召集した17歳から45歳の開拓民男性を人柱に、脱兎のごとく敗走する。
終戦を知らされなかった開拓民の中には、ソ連軍に立ち向かって殺される者が続出した。ソ連軍や暴徒化した当地の民衆による殺害、集団自決、飢え、病気……。老人、女性、子供だけの逃避行は悲惨を極めるものだった。本書で紹介された<死にし子の着衣はぎとり粟と換う 三途の川の鬼女かも、われは>の歌に、地獄図の一端が表れている。
日中戦争における死者は、関東軍が4万6700人、開拓民が8万余……。情報を得て事前に脱出した者は、チャーター船で無傷のまま帰国した。石井部隊など軍関係者たちである。この史実と久間発言を重ね合わせると、<棄民国家日本>の姿が浮かび上がる。庶民の命が大量に奪われても、支配層(国体)が維持されれば構わない……。弱者切り捨てが進む現在、権力者の本音(棄民)を知った以上、国を愛せといわれても困惑するしかない。
井出氏は<「中国残留孤児」の歴史と現在>と副題を付け、帰国後の日本における生活も取材している。なぜ「中国残留孤児」と括弧付きなのか。「残留」ではなく「投棄」が真実だと、井出氏は暗に主張しているのだろう。
日本が棄てた子供たちを、中国農民は養父母として育て上げた。労働力として酷使した者も多いが、実子のように慈しんだケースも少なくない。井出氏は「逆の立場なら日本人はどう振る舞っただろう」と読者に問い掛けていた。本書には考えさせられる教訓が幾つも含まれているが、日中友好について考える糸口にもなると思う。
同じころ報道番組を賑わせていたのは、久間章生前防衛相の「しょうがない発言」だった。<ソ連侵攻が予想された時期、原爆投下によって米国主導の占領が実現した。その後の経過を考えれば、甚大な被害も許容すべきである>が真意である。久間発言の本質は「終わりなき旅」の内容とピタリ重なっていた。
「終わりなき旅」では最も多くの開拓民を満州に送り出した長野県に焦点を当てている。背景にあったのは<村税も集らない、信組が半潰れだ、差押へが来る、小作料は五年も滞る>という農村の惨状だった。関東軍主導の満州武装移民計画は、慎重派の高橋是清蔵相が2・26事件で暗殺されたことで一気に本格化する。
満州を「王道楽土」と喧伝し、絶望に打ちひしがれた大衆を駆り立てた経緯は、北朝鮮帰国事業と近似的だ。「地上の楽園」の宣伝文句に躍らされ、在日朝鮮人や親族の日本人は塗炭の苦しみを味わった。自国民を楯にし、収奪し、棄てる……。キャッチフレーズこそ異なるが、満州開拓団と北朝鮮帰国事業は、全く同じ構図といえるだろう。
酷寒の土地で開拓民は厳しい生活を強いられる。土壌改良や灌漑など、生産向上のための長期展望は存在しなかった。そして運命の45年8月9日が訪れる。ソ連はヤルタ会談を踏まえ、日本政府が予期した通り不可侵条約を破って参戦した。開拓団を強行に主張した関東軍は、召集した17歳から45歳の開拓民男性を人柱に、脱兎のごとく敗走する。
終戦を知らされなかった開拓民の中には、ソ連軍に立ち向かって殺される者が続出した。ソ連軍や暴徒化した当地の民衆による殺害、集団自決、飢え、病気……。老人、女性、子供だけの逃避行は悲惨を極めるものだった。本書で紹介された<死にし子の着衣はぎとり粟と換う 三途の川の鬼女かも、われは>の歌に、地獄図の一端が表れている。
日中戦争における死者は、関東軍が4万6700人、開拓民が8万余……。情報を得て事前に脱出した者は、チャーター船で無傷のまま帰国した。石井部隊など軍関係者たちである。この史実と久間発言を重ね合わせると、<棄民国家日本>の姿が浮かび上がる。庶民の命が大量に奪われても、支配層(国体)が維持されれば構わない……。弱者切り捨てが進む現在、権力者の本音(棄民)を知った以上、国を愛せといわれても困惑するしかない。
井出氏は<「中国残留孤児」の歴史と現在>と副題を付け、帰国後の日本における生活も取材している。なぜ「中国残留孤児」と括弧付きなのか。「残留」ではなく「投棄」が真実だと、井出氏は暗に主張しているのだろう。
日本が棄てた子供たちを、中国農民は養父母として育て上げた。労働力として酷使した者も多いが、実子のように慈しんだケースも少なくない。井出氏は「逆の立場なら日本人はどう振る舞っただろう」と読者に問い掛けていた。本書には考えさせられる教訓が幾つも含まれているが、日中友好について考える糸口にもなると思う。
この国は今も昔も棄民国家です。久間発言を肯定するつもりではありませんが、集団自決、特攻、本土決戦を唱える日本(軍上層部)を恐れて、無条件降伏を迫るために原爆を選択したと思います。米国単独の日本支配の考えもあって、あわてて2回も投下したのでしょう。米国は自国の利益にあせって「悪魔の選択」をした。たらねばを考えると、日本軍は国民を盾に集団自決、本土決戦を決行し、原爆以上の損害を生んだでしょう。二度と日本が復興できないくらいの。ま、それも推測でしかないですが。久間発言は原爆投下を肯定するものではないでしょう。この国は戦争ボケのせいか戦争関連の事に過敏に反応してしまう。唯一の被爆国としてもっとすべきことがあるのでは。
現実の被害も甚大でしたが、広島と長崎には未来永劫、人は住めないという予測もあった。アメリカは被爆者の肉体を基に膨大なデータを蓄積した。壮大な人体実験を実行した非人間性は糾弾されるべきです。
日本政府や両県の被爆者への対応も手厚くなかった。その辺りの経緯は多くのルポルタージュに記され、棄民国家の本質が浮き彫りにされています。