酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ベイビー・ブローカー」~仮想家族を問うロードムービー

2022-07-19 20:42:51 | 映画、ドラマ
 藤井聡太5冠の快進撃が止まらない。王位戦第2局では序盤の新手で豊島将之九段からリードを奪い、1勝1敗のタイに戻した。防衛に王手をかけた棋聖戦第4局では常識を超える指し手で永瀬拓矢王座を下し、10代を締めくくった。AI超えの指し手を連発する藤井はどこまで進化するのだろう。

 男性棋士に直近で10勝4敗の成績を残し、編入試験の資格を得た里見香奈女流4冠に耳目が集まっている。勝った棋士の中には澤田真吾七段や出口若武六段ら強豪も含まれている。3勝したら合格だが、5人の対局者は若手精鋭揃い。厳しい戦いが予想されるが、女性初のプロ棋士誕生で、<女性の脳は将棋に向かない>という定説を打破してほしい。

 将棋界のジェンダーギャップは超えられつつあるが、有志とともに、映画界のハラスメント、性暴力に警鐘を鳴らしたのは是枝裕和監督だ。新宿で先日、最新作「ベイビー・ブローカー」(2022年)を見た。公開後3週間しか経っていないので、ストーリーの紹介は最小限にとどめ、背景と感想を記したい。

 是枝といえば監督としてだけでなくプロデューサーと力を発揮している。「マイスモールランド」の川和田恵真監督は是枝や西川美和が所属する映像グループの一員で、是枝は製作にも関わっている。「PLAN75」(早川千絵監督)は是枝が製作総指揮を担当したオムニバス映画「十年~TEN YEARS JAPAN」(18年)の一編を長編に作り替えたものだ。

 「パラサイト 半地下の家族」でオスカーを獲得したポン・ジュノ監督とも交流が深い。「ベイビー・ブローカー」を韓国で撮影出来たのも様々な縁があったからだろう。さらに、馴染みのある俳優たちがキャスティングされていた。タイトル通り新生児売買を巡る物語で、サンヒョンとドンスのブローカーをソン・ガンホとカン・ドンウォンが演じていた。

 ソン・ガンホといえば「パラサイト――」だけでなく「殺人の追憶」などで知られる韓国を代表する俳優だ。ガンホとドンウォンがW主演した「義兄弟~SECRET REUNION」は南北諜報員が織り成す緊迫感いっぱいのサスペンスだったが、仲間という設定の今回は柔らかな空気を醸し出し、台詞にもユーモアが溢れていた。

 韓国トップ女優のひとりであるペ・ドゥナは「リンダ リンダ リンダ」(05年、山下敦弘監督)、是枝の「空気人形」(09年)にともに主演するなど日本でも知られている。本作ではブローカーを追うスジン刑事を演じていた。ベイビーボックスに赤ん坊を預けるソヨン役は韓国の歌姫イ・ジウンだ。4人のトップスターが出演したのも是枝の韓国での知名度ゆえだろう。

 韓国のスタッフ、キャストで製作された「ベイビー・ブローカー」はもちろん韓国映画にカテゴライズされるが、是枝のこれまでの作品と重なる部分が大きい。ドキュメンタリーでキャリアをスタートさせた是枝は社会の枠組みを作品の後景に据える。ベストセラー小説で映画化された「82年生まれ、キム・ジヨン」のテーマは、韓国における女性問題だ。「ベイビー・ブローカー」でも女性であること、母であることを見る者に問いかけている。

 是枝には家族をテーマにした作品が多い。血の繋がりがある場合だけでなく、「万引き家族」では放り出された者たちが身を寄せ合っていた。「ベイビー・ブローカー」では中盤以降、〝仮想の家族〟のロードムービーの様相だ。ブローカー2人組、ソヨンと新生児、ドンスの育った施設から脱走した少年が、養父母探しの旅を続けるうち、和やかな空気が紡がれていく。彼らを追うスジンとイ(イ・ジュヨン)の女刑事コンビも同行者といった趣だ。

 エンドマークの先に物語が続くのも是枝スタイルだ。終盤でソヨンとサンヒョンの身に変化が起きるが、スジンが加わることで〝仮想の家族〟は再生する。善悪といった二元論を超越した予定調和に癒やしを覚えた。是枝作品に親しんできた方はぜひスクリーンでご覧になってほしい。

 俺は今、重度の睡眠障害に陥っている。昨夜など一睡も出来なかったし、睡眠導入剤も効かない。その分、普段以上に文章が粗くなってしまった。
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