<965> 童話 「小鳥たちの歌声」 (2)
木を伐らば 木に寄るものの営みも 乳母車一つ 青葉の下に
年老いたきこりは寝床の中から歌声のする窓の方を見て微笑んだ。しかし、その微笑みには力がなく、小鳥たちにはとても淋しく見えた。「お爺さんどうしたのですか。何か病気なのですか」と母親の小鳥が尋ねると、「何かよくわからんが、起き上がるのも辛い」と年老いたきこりは訴えた。
小鳥たちは、何かいい薬はないか、ほかの鳥たちにも尋ねたりして、病気に効く木の実や草などを探した。実の熟す季節ではなかったので、実は見つけることが出来なかったが、薬草があったので、その薬草を年老いたきこりの家へ運んだ。年老いたきこりは小鳥たちが運んでくれたその薬草を煎じて飲んだ。すると、病気はみるみるうちによくなり、きこりはまたもとのように元気を取り戻すことが出来た。
それからしばらくして、年老いたきこりはまた山へ出かけることが出来るようになり、山へ行くと、また、小鳥たちの澄んだ歌声が聞こえて来た。次の冬は厳しいと思い、そのことを小鳥たちに話すと、小鳥たちは秋になると山には元気になる実が沢山出来るので、それを取って来ておじいさんの家に運ぶ約束をした。そして、また、うたい出した。
おじいさん
おじいさん
私の好きなおじいさん
輝いているのはお日さまで
うたっているのは私たち
とっておきのしあわせは
今日のお空のようですね
みんなと一緒に遊びましょう
年老いたきこりはそれからも天気のいい日には毎日欠かさず山に入ったが、それからは木を伐ることを止め、一日中小鳥たちの歌声を聞きながらのんびりと過ごした。そうしているうち、麓の村に町から若い夫婦がやって来て、空き家を直して住むようになった。夫の方は年老いたきこりのあとを継いで山に入るようになり、木を伐ることをはじめ、山の色々なことを年老いたきこりから教わった。妻の方は夫を山に送り出した後、畑に出て働いた。夫婦には間もなく女の子が生まれた。それからというもの、妻は畑に行くとき、いつも女の子を乳母車に乗せて出かけた。そして、いつも畑のそばのけやきの木陰に乳母車を止めて畑仕事に精を出すようになった。
二人は、年老いたきこりから歌をうたう小鳥たちのことを聞き、いい話だなあと思った。冬の雪が沢山降り積もった朝、木の枝にとまっていたのがその小鳥たちではなかったかと思った。そして、また、木はむやみに伐れないなあとも思った。二人はまだ年老いたきこりのように小鳥たちの話を理解することは出来なかったが、小鳥たちの歌声はいつも気持ちよく聞いた。小鳥たちはときに乳母車のすぐそばまでやって来てうたうこともあった。写真はイメージ。 おわり。