大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2014年04月29日 | 植物

<968> 花の大和 (3) ツツジ (躑躅)

      満開の 躑躅に人みな 観賞者

 ツツジ科ツツジ属の植物を総称して一般にツツジと呼ぶ。単にツツジと言えば、この総称をして言うもので、個別にはミツバツツジとかヤマツツジとかサツキとか、それぞれ種名をもって呼ばれる。つまり、ツツジというのはその種の全体を称して言うものである。花はみな漏斗状に開き美しい。ただ、シャクナゲはツツジ属であるが、シャクナゲ亜属としてツツジとは言われない。

 一方、ドウダンツツジやアブラツツジのようにツツジの名を持つものがあるが、これらはツツジ科ではあるが、ツツジ属ではなく、漏斗状花をつけないので総称のツツジには入れ難く、一般にもその認識があるように思われる。また、ヒカゲツツジはツツジ属ではないが、黄色い漏斗状花を咲かせるので、一般に言われる総称のツツジの中に入れられるものであろう。ツツジの仲間はこういう事情があるからややこしいところがある。このことを念頭に置いて大和のツツジを紹介したいと思う。

 ツツジにはミツバツツジのように春先に咲く花期の早いツツジからその名でもわかるように旧暦の五月ごろ開花するサツキや春から夏にかけて長く見られるヤマツツジのようなツツジもある。大和はツツジの宝庫で、平地から深山まで十種以上のツツジが自生分布している。

 ツツジは乾燥した痩せ地や岩場などに多く見られ、壮年期の峻嶮な地勢にある大和南部の山岳地帯にはいろんなツツジが自生している。ツツジの漢名は躑躅(てきちょく)で、これはふらふらになっている足取りを言うもので、ツツジを食べた家畜がそのような症状に陥ったことによるという。

                               

  この家畜の状況はツツジ類に毒性のある証で、シカの食害が深刻な大和南部の山岳地帯にあって、ツツジが多く見られるのは、ツツジが自らの毒性によって被害を免れていることを物語るものと言える。中でもレンゲツツジは毒性が強く、シカの多い奈良市の若草山の草地にレンゲツツジが多く見られるのも納得されるところである。

 一方、刈り込みや管理がしやすい低木のツツジは社寺や公園などに多く植えられ、そこでは園芸種の花が楽しまれている。中でも花の艶やかなヒラドツツジ、キリシマツツジ、オオムラサキ、サツキ、クルメツツジなどが目を引く。殊にゴールデンウイークに花期を迎えるヒラドツツジやオオムラサキ、キリシマツツジなどはこの時期の花として見逃せないものがある。

 大和でツツジの名所と言えば、何と言っても大阪・奈良府県境の大和葛城山(九五九メートル)をあげることが出来る。山頂より南の斜面一帯に「一目百万本」と言われるヤマツツジやレンゲツツジが見られる。花期はゴールデンウイークより遅く、五月中ごろが見ごろになる。

  ほかには、宇陀市榛原の鳥見山自然公園や大和高原の主峰、神野山(六一九メートル)のツツジがあり、花期はゴールデンウイークのころからが見ごろである。平野部では寺院でよく見られ、私の知る限りでは、天理市柳本町の山の辺の道近くの長岳寺、大和郡山市小泉町の慈光院、御所市船路の船宿寺などがあり、ヒラドツツジなどがゴールデンウイーク前後に花を見せる。

 五月から六月にかけては深山にも各種ツツジの花が見られるが、ここでは省略したいと思う。どちらにしても、ツツジは美しい花を咲かせる花木の代表格であることに間違いない。写真は左が長岳寺のヒラドツツジ。中央は葛城山のヤマツツジ群。右は鳥見山自然公園のヤマツツジ。

 なお、『万葉集』にはツツジを詠んだ歌が九首見えるが、やはり、花に関心が持たれているのがわかる。花の色では「白」や「丹」の字が見える。「丹」はヤマツツジやミツバツツジ類が想像されるが、「白」は園芸種のなかった時代ゆえ、シロバナウンゼンツツジではないかと思われる。生える場所で「岩つつじ」と見えるのはサツキではないか。このブログの「万葉の花 つつじ」の項を参照されたい。