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美瑛の農業と観光の取り組み

『北海道ガイド』より

美瑛の景観を支えているのは農業である。しかし、その農業と観光の結びつきは強いとはいえない。農業従事者の中には宿泊業、レストラン、観光農園を営む人や直売所で作物を売る人もいる。しかし、宿泊業、レストランを兼業する農家は数件である。ここではそれ以外の農業と観光を結びつける取組を紹介する。

カレーうどん

 カレーうどんは、美瑛町のB級グルメである。地元の「カレーうどん研究会」によって考え出された。小麦粉は、「ホクシン」と「春よ恋」を六対四で、ブレンドした美瑛産の「香麦」を使用する。豚肉、野菜なども美瑛産を使い、「つけ麺スタイル」の独特なカレーうどんである。さらに美瑛産の牛乳もつけている。つけ麺にしたのは、小麦粉の色をそのまま出した方が美瑛の小麦の特徴を出せることからである。観光客が美瑛の景観をみて感動した後に、美瑛の小麦を使ったカレーうどんを食べる。そのような物語を感じさせる効果をねらっている。

 美瑛産の小麦粉や野菜などを使うことにより、地産地消ができ農家のバックアップができる。さらに農協、商工会、観光協会の和ができ地域経済に貢献するメリットもあると考えられている。

美瑛選果

 農業との関連でJAびえいが一つの戦略として考えているのが美瑛選果である。

 美瑛選果は、駅近くの国道沿いに立地しており、「選果市場」、「選果工房」、「レストラン」からなる。「選果市場」は四九・三坪の広さの直売所である。おかれた農産物はいずれも品質が高い。

 「選果工房」は、美瑛産の農畜産物をメインに使用した、プリン、ポテトフライ、カレーなど手軽なティクアウトを売っている。

 「レストラン」はフレンチレストランの「野菜料理アスベルジュ」である。レストランで使用される野菜も肉類も美瑛の農産物が用いられている。

 美瑛だけで美瑛の農産物を消費するのは不可能なので、道外の観光客に売り、より需要を産む「地産多(他)消」がねらいである。「美瑛選果」はショールーム的な性格をもった建物といわれる。ねらいは直接の売り上げよりも消費者やスーパーに美瑛の農産物の良さを知ってもらうという宣伝効果にある。またレストランは地元の野菜を使うことにより、選果市場とレストランの相乗効果を生み出し、美瑛のブランドを全国に伝える役割をになっている。

 これとは別に、JAびえいでは道内外のイペントを絡めた大手スーパーヘの直販や、百貨店で開催される北海道物産への出品も始め、最近では農産展や大手量販店での直販イペントにも出品しているという。もともと品質の高い作物が美瑛ブランドとなっており、これを観光による効果と結びっければ、より大きな効果を生むのではないかと考えられる。

四季彩の丘

 四季彩の丘は、花畑をメインとして野菜の直売所、おみやげ物売り場、レストラン、コロッケやソフトクリームなどを売る売店からなる観光スポットである。花畑の面積は七hあり、ラペンダ、チューリップ、サルビア、ダリアなど数十種類の花が植えられている。入場は無料であるが、入口に募金箱があり、維持管理費用として一人二〇〇円程度の協力を求めている。管理運営にかかる費用は地元農産物などを売る売店やレストランの売り上げでまかなわれている。

 この「四季彩の丘」は、美瑛町農協の理事である熊谷留夫氏によって開設された。熊谷氏は十勝連峰の雄大な景観を望む丘陵に花を植え、都市からの観光客を呼び込むことを考えた。二〇〇一年にオープンし、努力を積み重ねて、二〇〇八年現在では、年間来場者は四〇万人(冬の間は八〇〇〇人)、年商は二億円(当初は一〇〇〇万)あり、最近では、韓国、台湾の観光客が増加している。美瑛の主な観光地を回るJRのツインクルバスのルートにも組み込まれている。二〇〇七年には、日本観光協会が主催する「花の観光地づくり大賞」に選ばれた。
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持続可能な社会とは何か 地球は定常開放系

『電力化亡国論』より

安定と平衡と定常

 「持続可能」とは、安定した状態が継続することを意味します。ここでいう「安定」とは、例えば構造物のような動きの無い安定=「平衡」ではありません。色々な活動を含みながら、例えば水車が回り続けるように、全体として同じような状態が継続することです。このような状態を科学の言葉では「定常」と表現します。

 まず、生態系の活動の場である地球の表面環境の「定常性」について考えることにします。

 地球は主に太陽からの放射エネルギーを受け取って暖められています。地球表面は大気に覆われています。そこでは太陽から受け取ったエネルギーと地球の惑星としての運動によって大気循環や水循環が生じ、地表面の複雑な形状や陸地と海洋の分布によって多様な部分環境が形作られています。

定常開放系

 地球の表面環境の定常性がどのように維持されているのかを図40に示します。地球は可視光線を中心とする太陽放射からエネルギーを受け取り、主に対流圏大気上層からの低温(-23℃程度)赤外線放射によってエネルギーを宇宙空間に放出しています。

 大気に包まれた地球の表面温度は平均15℃程度で安定しています。これは、現在の地球が置かれた条件下において、地球の表面温度が15℃となる垂直温度分布を持つ地球大気の対流圏上層から宇宙空間に放出される赤外線放射によるエネルギー量が太陽から受け取るエネルギー量に釣り合うからです。これによって地球表面環境のエネルギーに対する定常性が保障されているのです。

 見方を変えると、地球のエネルギー状態が定常性を満足するように地球の表面温度や大気の垂直温度分布が決まっているのです。

 地球の表面環境の定常性ぱ、太陽放射の入射と対流圏大気上層から宇宙空間への低温赤外線放射というエネルギーの流れによって、宇宙空間とつながっています。このように系外とつながりを持つ定常系のことを「定常開放系」と呼びます。地球はエネルギーについて定常開放系なのです。

物質の循環構造

 ところが物質は地球の重力に捉えられているためにほとんど系外との出入りがありません。地球は物質についてはほとんど閉じた系=「閉鎖系」なのです。そこで地球環境で行われる物質の変化が定常的に継続するためには、物質はあるサイクルを経て元の状態に戻らなければなりません。地球の表面環境が定常系であるためには物質の循環構造が必要なのです。

 地球の表面環境の定常性は、宇宙空間とのエネルギーの定常的な流れと、地球表面上での物質の循環構造によって成り立っているのです。

拡散の指標=エントロピー

 閉じた系では様々な物理的、化学的、生物的な活動が行われることでエネルギーや物質は次第に拡散して、最終的には物質やエネルギーが一様に拡散して活動が停止します。エネルギーや物質の拡散の程度を示す状態量を「エントロピー」と呼びます。

 閉鎖系ではエントロピーは単調に増加します。エントロピーが最大になった平衡状態を「熱的な死」と呼ぶことがあります。

熱とともにエントロピーを捨てる

 地球のような定常開放系では、エントロピーは最大ではない値で安定しています。それは、系内で増大したエントロピーを熱とともに宇宙空間に捨てる機構を持っているからです。

 熱エントロピーSは、熱量Qをその絶対温度Tで割った値です。

 大気水循環は、地表面で熱量Qを平均的に15t:=288Kで受け取ります。そして、受け取った熱を大気上層6000mの高空で-23℃=250Kの低温赤外線放射で宇宙空間に捨て去ります。その結果、地球の表面環境で行われる活動によって増加したエントロピー
  △S=Q/250-Q/288
 を宇宙空間に捨て去ることで、地球環境は定常性を維持しているのです。

 ここで注意が必要なのは、宇宙空間に捨て去ることのできるエントロピーは熱エントロピーだけであり、地球の重力に捉えられている物質のエントロピーは地球の系外に捨て去ることができないということです。
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新しいグローバル・メディアの台頭

『メディア文化論』より

しかし,この一連の過程において,以上とは様相を異にする局面も姿を現していました。そのひとつが,アルジャジーラを代表格とする中東独自のテレビ局の躍進です。アルジャジーラは, 1996年にカタールに設立された24時間の衛星テレビ局で,記者の大半はBBCなどで経験を積んだ中東出身者です。アフガニスタン空爆に際し,ビンラディンの肉声ビデオを放映して全世界に知られるようになりましたが,イラク戦争でも徹底した現場主義をとり,米英軍やアメリカのメディアが流す情報を,実際の現場からの中継や当事者へのインタビューによって何度も覆してみせました。例えば,米英軍が「ウムカスル制圧」と発表すると,現地から生中継して「制圧された様子はない」と伝え,イラク軍のある司令官が降伏したという報道に対し,実際にその司令官を出演させて降伏していないことを表明させています。

アルジャジーラの台頭が重要なのは,こうしたメディアによって今や初めて、CNNやBBCをはじめとする米英のグローバル・メディアの世界性が,公然と問い直され始めているからです。アルジャジーラの成功に続くかのように,中東ではアブダビテレビ,アラビーアテレビなどの新しい局が台頭します。こうしてこれまでグローバルな映像媒体として圧倒的な優位に立ってきた米英のメディアが,中東からのメディアの視線によって問い返されているのです。

アルジャジーラの視聴者は,中東湾岸地域で3500万人,ヨーロッパで800万人,アメリカでも15万人に上り,二次的な映像流通まで視野に入れるなら,この数をはるかに超える人々が同局の映像と接しました。このことは,この放送局がたんなるアラブ地域内のメディアではなく,すでにグローバル・メディアであることを示しています。グローバルな情報ネットワークの可能性 さて,イラク戦争までのプロセスで生じたもうひとつのグローバル・メディアの局面とは,市民一人ひとりが発信の主体となるインターネットを中心とする情報ネットワークの浸透です。9月11日の事件そのものでは、多くの人がテレビに釘付けになり,インターネッ卜は補助的な役割を果たすにとどまりましたが,その後のイラク戦争に至るプロセスでは,世界中の人々の反戦への思いを結びつけるメディアとしてインターネットが大きな役割を果たしました。

2003年1月から3月にかけて,インターナショナルANSWER(Act Now to stop War & End Racism)等のネットワークの呼びかけで,世界各地の何千という場所でイラク戦争に反対する集会・デモが繰り広げられ,ワシントンやサンフランシスコでも数十万人,口ーマやパリ,ロンドン,バルセロナでは100万とも200万人(東京では2万5000人)ともいわれる人々が,何度も街頭に集まって意思表明をするという空前のグローバルな反戦運動が発生しました。

これはどの世界同時的な市民の結集を可能にしたのは,インターネットによる無数の活動のウェブ,メーリングリストなどの網の目状の結びつきでした。既存のマス・メディアが戦争に対して曖昧な態度をとりがちであったなかで,インターネットのなかでは至るところでアメリカの暴虐に反対する反戦の声が上がっていました。

このイラク戦争に反対する世界市民的な運動の興隆は,すでに述べた規模の大きさやグローバルな広がりという点に加え,いくつかの明瞭な特徴をもっていました。第1は,その広がり方の迅速さです。運動は、2002年9月のブッシュ・ドクトリンの頃から急速に盛り上がっていき,それぞれの集会やデモがインターネット上の呼びかけに呼応してきわめて短期間のうちに組織されていきました。

第2は,その表現の多様さです。各地で開かれる通常の集会やデモ行進のほかに,裸の女性の人文字PEACE、派手なピンクの衣装をまとったミーティング,ホワイトハウス等へのFAX,メール攻め,新聞広告,ハンガーストライキ,基地侵入,親ブッシュ企業に対する不買運動,人間の盾などの活動が組織されました。

第3は,このような運動の全体状況が,インターネット自体のなかでまとめられ,報道されていたことです。既存のマス・メディアは,この新しい地球規模の市民運動の広がりを掌握できませんでした。日本のいくつかの全国紙は,反戦デモの事実をほとんどまともに取り上げませんでしたし,集会の規模を小さめに見積もったり,断片的な情報を流すに止まるといった具合でした。
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長州藩の幕末の変動

『山口県の歴史』より

第一次長州出兵と高杉晋作の決起

 幕府は、元治元(一八六四)年七月、全国三五藩を動員して、長州藩の征討を命じた。征長軍の参謀には西郷隆盛が任じられたが、西郷は莫大な出費を伴う戦闘には消極的で、長州藩を内部分裂させて政治的決着をはかる方針をとった。一方、長州藩の内部では保守派の勢力が台頭し、幕府への恭順の意をあらわすことにより許しをこおうとし、尊王攘夷派への弾圧が行われていった。そのなかで、禁門の変をおこした三人の家老、福原越後・益田右衛門介・国司信濃が十一月十一・十二日自刃させられ、首が広島の征長軍総督府に送られて、首実検が行われた。さらに藩主毛利敬親父子の謝罪、山口城の破却、三条実美以下の公卿の引渡しなどの降伏条件を承諾した。もともと深追いする気のない征長軍は、降伏条件の実行状況について形式的視察をすませ、これによって責任者の処分はすんだと認め、十二月二十七日撤兵令を発し、翌元治二年一月、広島から撤兵していった。この間、長州藩の内部では、高杉晋作による起死回生の決起が行われた。高杉は保守派の弾圧をのがれて福岡藩にいたが、保守派の圧政にいたたまれず下関に帰り、十二月十六日、下関において決起した。そして奇兵隊を始めとする諸隊の力を結集し、翌元治二年一月の大田・絵堂の戦いにおいて、萩の保守派が派遣した鎮静軍を打ち破った。二月には萩の保守派を追放して、藩権力を奪取した。三月二十三日には武備恭順の藩是をあきらかにし、外に対しては恭順だが、攻撃をうけたときには、武力でたたかうという方針を打ちだした。

 尊王攘夷派は、藩権力をにぎると幕府の再征長にそなえて、藩の行政・軍事の改革を急いだ。行政改革では、木戸孝允が用談役に就任して行政機構を整理・統合し、政治の集中化をはかった。軍事改革では、長州藩出身の蘭医学者で西洋軍制に精通している大村益次郎が抜擢され、西洋軍制への転換が大胆に推し進められた。とりわけ西洋式銃では、ゲベール銃からミニエル銃への転換がはかられた。これらの銃は一見すると似ているが、銃身のなかに施条のほどこしてあるミニエル銃が命中精度と貫通力に格段にすぐれており、このことにつうじている大村は、ミニエル銃への転換を断行した。

幕長戦争と民衆

 一方、長州藩では西洋諸国から武器を調達する必要にせまられていたが、交戦団体には武器を販売しないということで購入の途はとざされていた。このため薩摩藩の名義を借りる必要があり、禁門の変においては敵対した薩摩藩との接近をはかった。この動きは、慶応二年一月二十一日の薩長盟約へと結実し、長州藩は政治的孤立から脱することになった。薩長盟約は秘密同盟であったが、両藩接近の動きは各地に流布しており、民衆の長州藩を支持する意識を高めている。

 また幕長戦争の動きは、全国的に食糧不足や物価騰貴をよびおこし、それを背景にして大坂や江戸における打ちこわしや、各地の大規模な百姓一揆がおこり、民衆の「世直し」への動きが高揚している。

 幕長戦争における長州藩の勝因としては、征長軍の背後をおびやかした全国的な民衆の「世直し」への動きがあげられよう。また開港による経済破壊は民衆の幕府批判を強め、攘夷を表に掲げる長州藩へは、民衆の「長州贔屓」の意識が存在した。これらの差は、征長軍の士気の低下、動員した軍夫の逃亡、それに逆比例するような長州軍の戦意高揚となってあらわれた。この段階での幕府財政は、崩壊しつつあったとはいえ長州藩と薩摩藩を合計したものよりまだ上まわっていたといわれている。したがって民衆の動向が、財政面での不利を逆転させたと評価できよう。さらに薩長盟約にしたがって薩摩藩が出兵を拒否したことも、長州軍の戦闘を有利に展開することを可能にした。

 また、長州軍の軍備は徹底して洋式化がはかられており、散兵戦術の駆使、鉄砲の性能の差は、戦闘場面において歴然たるものがあった。
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ここにもルサンチマン

SFDCの提案に対するルサンチマンの態度

 SFDCにしては、やらない方がいいというのが、ルサンチマンのやり方です。その責任をどう取るのかは関係ないです。夢がない彼らは、自分が生きていければいいのです。それで喜びができるのか。

 そうなると、超人になるしかないでしょう。超人になるための生活をするしかないでしょう。超人とは、その人なりの生き方を創造し、それに自分がつかまっていく。その誤解の上に成り立っているもの。

 偶々、キンドルの雑記帳を見たら、ニーテェの「ルサンチマン」が目に入ってきた。こんな偶然があるのか。

 金曜日のSFDCとの検討会でのOの態度に頭に来ていた。SFDCの提案をそれ見たことか!という態度です。失敗することだけをイメージしていた。

世界は存在するのか

 世界それ自体は存在しない。客観的なものではない。主体的なもの集まりが世界になる。つまり、内なる世界の集合です。

 世界はただ、人間の生きる力、生の意思がある所のみに存在する。ふつうの人にとっては、世界は存在しない。だから、真理に悩まされることもないし、存在とか現実とかにも悩まされない。

 それは人間の生きる力と関係しているということです。自分独自の世界を作り出して生きている。これは内なる世界です。真の世界は存在せずに、各個体の内なる世界だけが根源的な世界なのです。

 その意味では、ニーテェではないけど、内なる世界をもっと信ずればいい。内なる世界がないルサンチマンにとっては、関係ない世界です。

 正しい生き方というよりも、意味と価値のネットワークの世界をどう感じるのか。意味と価値でもって、客観的な世界を創造できる。この意味と価値のネットワークのフレーズは使えそうです。

意味と価値の世界

 歴史の無数の出来事には、超越的な意味がある。誰も、意味と価値がない状態では生きることはできない。

 苦しみの意味と価値が見出せないという不安と恐怖が生の意味と目標を与えてくれる神についての形而上学を作り出した。人間の意味と価値の根拠についての形而上学的解釈を徹底的に破壊した。

 生きる意味と価値というのは、生まれてきた理由を求める、私のスタンスです。これが失われています。だからと言って、どうするかというと、それを求めて、内なる世界で、自分として作るしかないでしょう。

 社会の未来をそこに作り出す。生きることへの意欲を生み出す。それが集まって、皆の新しい社会を作り出していく。

社会保障の負担

 社会保障の負担には世代間の不公平がある。60歳以上は4800万円の利益、50歳以上は1500万円の利益、40歳以上は0、30歳以上は△1200万円、20歳以上は△1600万円、19歳以下は△4500万円とは。未唯たち若者に夢がないはずです。

 これは上を減らして、下を増やすということでは解決しないでしょう。やり方そのもの、社会の仕組みそのものを変えていくしかない。そうしないと、日本から、若者が居なくなります。
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ヒッグス粒子が宇宙の謎を解くカギ

『小さな宇宙をつくる』より

何かそんなにすごいの?

 「ヒッグスらしき粒子発見」の発表は、瞬く間に世界中に伝わりました。これは本当に世紀の大発見です。50年かけてようやく見つけたのもさることながら、ヒッグス粒子が本当に存在していたとほぼ考えられることで、謎に包まれていた宇宙のしくみがひとつ明らかになったのです。この発見は、単に新しい素粒子が見つかったことにとどまらず、なぜ宇宙が今の姿になったのかという疑問に答えてくれるものかもしれません。

 質量は素粒子が生まれたときからもっていたものではなく、ヒッグス場によって後から与えられたものだった。

 この暴かれたしくみは、大変驚くべきことです。最初から質量をもっていれば、その素粒子の性質だという話で終わるのですが、後天的に与えられたものだとすると、素粒子の性質が変化したことになります。つまり、ヒッグス場が他の素粒子の性質を変えてしまったのです。

 これで、ヒッグス場は素粒子に質量を与えるという役割がはっきりわかりました。質量がゼロの素粒子は動きにくさもゼロ。そのため止まっていることができず、光の速さでビュンビュン飛び回ることを意味します。

 アインシュタインの「相対性理論」によると、この宇宙では光よりも速く移動できるものはありません。ここで重要なのは、質量がゼロかいなか。素粒子の世界では、光の速さというのは特別な状態です。ちょっとでも質量があるものは光の速さに限りなく近づいたとしても、光の速さに到達することは絶対にできないのです。

 同じ宇宙に存在しても、素粒子が光の速さかいなかで見える景色がまったく違ったものになりますので、物理学者はこの2つの状態を明確に区別しています。

ヒッグス粒子が宇宙の謎を解くカギ

 ヒッグスらしき粒子の発見で、宇宙には素粒子の性質を変化させるしくみが本当にあることがわかりました。ヒッグス粒子は、宇宙の謎を解く手がかりとして、とても重要な役割を担っています。ヒッグス粒子が本当に存在していたと確認できたことは、物理学者のこれまでの研究の方向が間違っていなかったことを示していますし、その先にある新たな謎を解くスタートにもなるのです。

 今、新たな謎といいましたが、ヒッグス粒子が見つかっても、宇宙の謎がすべて解明できたわけではありません。まだまだわからないことだらけです。

 たとえば、ものをつくるグループの素粒子はすべて質量をもっていますが、その大きさはバラバラです。「ミューオン」は「電子」の212倍の質量がありますし、「タウ」に関しては3554倍にもなります。それぞれの質量はヒッグス場がもたらしているので、質量が大きいほどヒッグス粒子を感じやすくなっています。

 問題は、ここです。では、どうしてミューオンは電子の212倍、タウは3554倍もヒッグス粒子を感じやすくなっているのでしょうか。

 ヒッグス粒子が電子、ミューオン、タウの3つの粒子を区別していなかったら、すべて同じ質量になるはず。ところが、この3つの粒子の質量は大きく違います。ということは、ヒッグス粒子は、何らかの理由でこの3つを区別していることになります。ヒッグス粒子が電子とミューオンとタウを区別している理由やしくみは何なのでしょうか。その謎はまだわかっていません。

 ヒッグス粒子はよく「神の粒子」とたとえられています。これは、ヒッグス粒子にはそれだけ重要な役割があるという意味と同時に、私たちがまだ、ヒッグス粒子のこうした秘密を解き明かせていないことを示しています。今のままだとヒッグス粒子がまるで神のように、電子を軽くして、タウを重くしようと決めているようにしか見えないのです。物理学者たちは何とかその理由を説明できるように、これから研究を進めていく予定です。

私たちがこの世界に存在できるわけ

 これまで、ヒッグス粒子が質量の起源といわれる理由についてお話ししてきました。質量とはつまり、止まっていられるという性質。質量があるから、私たちは今この場所に止まっていられるのです。こうしてじっと座って本を読んだり、友だちとお話ししたり、ご飯を食べたりできるのも、すべて質量があるおかげ。そもそも私たちがこの世界に存在できるのは、ヒッグス粒子のような質量を与えるしくみがあるからです。

 もし、ヒッグス粒子が存在しなかったら、ものをつくる素粒子はどれも質量がもてなくなってしまいます。「ただものが軽くなるだけ?」「体重の心配をしなくていいじゃない」なんて悠長なことはいってられません。質量がないと、素粒子は光の速さであちこちにビュンビュン飛び回ってしまいますので、ひとつの場所にとどまってものをつくることができなくなります。

 素粒子が集まらなければ原子はできないし、太陽や地球も生まれません。もちろん、私たち人間も存在しなかったでしょう。質量を与えるしくみがあるから、この宇宙にたくさんの星がつくられ、人類は地球に生まれてくることができたのです。

 現在、私たちはハワイにある日本の「すばる望遠鏡」やアメリカの「ハッブル宇宙望遠鏡」などを使って、はるか遠くで輝く天体を見ることができます。

 素粒子に質量があってものをつくることができるからこそ、宇宙にはたくさんの星が誕生しました。そのしくみが存在しなかったら、ひとつの星も生まれずに宇宙はただ真っ暗な空間が広がっているだけの、味気ないものだったでしょう。そう考えると、このバラエティに富んだ世界をつくるために、ヒッグス場が存在しているといってもよいかもしれません。

 今はやっとヒッグス粒子が見つかった段階なので、これからヒッグス場がどんな性質をもっているのか、そして、どのように質量を生み出しているのかを詳しく調べていきます。そのために、ヒッグス粒子をつくり出す加速器の性能を上げたり、新しい加速器を建設する計画が考えられているのです。
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ハイエクの貨幣民営化論

『マクロ経済学』より

消費税は景気を悪化させるか

 消費税率の引き上げをめぐって、政治の場では激しい議論が行われました。消費税増税に反対する人たちは、増税をすれば景気に悪影響が出ることを懸念しています。本文中で説明した簡単なマクロモデルでも、増税が景気に悪影響が及ぶことを確認することができます。増税は一般に消費を抑制します。消費が抑えられれば、乗数効果を通じて、経済全体の生産や所得水準も下がるからです。

 ただ、現実はそう簡単でもありません。スウェーデンやデンマークの北欧諸国のように、消費税率が25%前後という国もあります。これらの国のほうが、日本よりも所得水準も高いし、経済成長率も高くなっています。消費税率が高いほど経済は停滞するというのは、国際比較で見るかぎりはどうも正しくないようです。

 消費税の税収が何に使われるのか、そして消費税も含む税体系全体がどうなっているのかなどによって、経済への影響も大きく異なります。北欧諸国では税負担は重いのですが、その税を利用して手厚い社会保障制度が運営されています。消費税率は高いのですが、その分法人税率を引き下げ、経済活力の維持には配慮した税制になっています。

 また、潤沢な税収をもとに手厚い労働者保護制度が確立しているので、企業は従業員の解雇などを柔軟に行っているようです。日本のように企業に雇用維持を強く求めるのではなく、社会全体として労働者を守る制度が確立しており、その分企業に過度な雇用維持責任を押し付けないのです。こうした制度が、北欧の企業の国際競争力を高める結果になっています。

 消費税率の引き上げを議論するとき、目先の景気に対する影響と、長期にわたる経済への影響を区別しなくてはいけません。税制の改正は長期的な経済のあり方を決めるものであり、短期的な視野に縛られてはいけないのです、

貨幣民営化論

 貨幣は政府や中央銀行などの公的機関が供給するものです。これが世間の常識ですし、現実もそうなっています。しかし自由主義の騎手であるフリードリヒ・ハイエクは、この常識に挑戦し、民間企業が貨幣を発行することのメリットを説きました。貨幣民営化論です。

 ハイエクによれば、政府が貨幣発行権を独占的に持つことは国民の利益になりません。政府はつねに貨幣の増発によって財政赤字を埋めようとする誘因をもっているからです。現実にも、過去に多くの国で貨幣が過剰に発行されて深刻なインフレが起き、国民は大きな被害に遭いました。

 もし民間企業が貨幣を発行することが可能になれば、複数の民間企業の間で貨幣発行の競争が起きます。深刻なインフレ(つまり貨幣の価値低下)を起こすような貨幣は利用されないでしょう。貨幣発行競争によって、価値が下がらない貨幣、あるいは利子やポイントをつけるような貨幣が選ばれるようになるでしょう。ハイエクはこうした複数の貨幣の間の競争の重要性を説いたのです。

 50年以上前にハイエクの議論が出されたとき、多くの人は民間貨幣のイメージを持つことはできなかったでしょう。

 しかし、現代社会では、完全な貨幣ではないものの、擬似的な形のさまざまな貨幣が民間企業によって発行されています。その代表的なものが電子マネーです。Suica、楽天Edy、WAON、nanacoなど、さまざまな電子マネーが発行され、そして競争を展開しています。これらの電子マネーはまだ限定された店でしか使えませんが、利用できる店は確実に増えています。利用できる店が増えるほど、電子マネーは現金と同じようにどこでも通用する貨幣的性格をより強く持つようになります。電子マネー以外でも、さまざまな形態の貨幣的サービスが提供されています。クレジットカードなども、貯めたポイントでさまざまなサービス提供することで顧客を引きつけようとしています。もっとも、クレジットカードは貨幣を補助するものにすぎませんので、民間貨幣とはいえませんが。

ネズミ講の構造

 ネズミ講というものを知っていますか。仲間をつのって1万円ずつ集めます。そして仲間にこういうのです。あなたの子供(もちろん本当の子供という意味ではなく新たな仲間という意味)を3人集めてください。それぞれから1万円ずつ集めれば、あなたに1万5000円あげます。

 現実には、もう少し巧妙な仕組みが考えられるのですが、いずれにしろこの仕組みは、動いている限りはすべての人の利益となります。仲間になるのに1万円払わなくてはいけませんが、3人の子供を見つけてくれば1万5000円入ってきます。30人の子供をつくれば、15万円入ります。

 こうしたネズミ講がときどき世の中に出てきます。もちろん、これは犯罪です。ネズミ講の仲間が順調に増えている間はだれも損はしないのですが、必ずどこかで新規加入の枯渇が起こるのです。ネズミのように子供を倍数的に増やしていけば、どこかで枯渇するのです。

 驚くべきことに、年金制度にもこのネズミ講的構造が隠されています。若者の人口が多かったとき、若者が年金として預けたお金の一部が、その時代の高齢者へ年金として支払われました。っぎつぎと多くの若者が生まれてくる限りは、この順送り的構造はうまく機能します。

 しかし、少子高齢化ということで、新しく生まれてくる若い世代の人口は減少傾向にあります。かつて年配の人の年金を支えた世代が高齢化しても、つぎの若者にはそれを支えるだけの人数がいないのです。ネズミのようにたくさんの子供を産みつづけるのであれば、こうした年金制度はうまく機能するのでしょうが、日本人はネズミのようには子供をたくさん産まなくなったのです。

 日本の年金制度の最大の問題は、こうした順送りの構造からどう脱却するかということです。順送り構造をやめれば、いまの若者が年金のために支払った資金は、彼らが歳をとったときに使えるようにしなくてはいけません。すると、いまの高齢者の年金は一般財源から賄うしかないのです。
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本の意味と人間の意味

未唯へ

 駐車券がありません。ポケットに入れたはずなのに。外へ出たところ、スタバのスタッフが追っかけてきて、3時間無料券をもらいました。それを持って、駐車場の管理室に行ったところ、出庫の時に示してくれればいいということです。

 この最近、モノが忽然となくなります。特に、冷蔵庫のチーズです。2回、たて続けて、部屋に持って行ったものが無くなった。チーズはどこへ行ったのか。

 「数学的思考の技術」を図書館で探しましょう。他の数学の本に比べると、いくらかはマシです。

本の意味を考えること

 本を考えるよりも、本の意味を考えることです。人間も同じです。そこに存在することの意味は何か。どうつながっていくのか。

 10時前にスタバで、読書です。1時間で6冊ほど片付けました。その後は食べ放題で、読書の続きです。持参した12冊の本を片付けました。

「ぽつん」と一匹

 「ぽつん」は「1 2 3」に比べると、悲しげです。こちらの方が実際でしょう。動物と言えども、群れを組んでいることはストレスと思います。生きていけないからということで、群れを組むことは妥協です。

昼から30冊からのOCR

 以下の11冊の本からOCRです。新しいパソコンなので、スムーズに進みました

 302.38コモ『エストニアを知るための59章』
  エストニアの独立:あまりにもロシアに
  フィンランドとの関係:同じ語族です
  エネルギー、資源、環境:オイルシェール
  IT:スカイプ発祥、ロシアからのサイバー攻撃

 C31.1サイ『アメリカ型ポピュリズムの恐怖』
  NUMMI閉鎖とレクサス事故との関係

 331イト『マクロ経済学』
  コラムを抜粋:経済学教科書の影響力、消費税は景気を悪化させるか、ハイエクの貨幣民営化論、金融工学の理論と実践、ネズミ講の構造、誰が雇用を守るのか、インフレは財政危機を救うのか、日本の経常収支はいつ赤字になるのか、自由貿易は貧困を撲滅するか、経済成長と地球環境問題

 429.6フジ『小さな宇宙をつくる』
  2012年7月4日はみんな大興奮だった!
  ところで、何かそんなにすごいの?
  ヒッグス粒子が宇宙の謎を解くカギ
  私たちがこの世界に存在できるわけ
  宇宙は「無」からはじまった?

 361.45ヨシ『メディア文化論』
  グローバル・メディアの矛盾
  グローバル・メディアヘのアプローチ
  新しいグローバル・メディアの台頭

 323.53『アメリカ憲法入門』
  「表現の自由」の項目をすべて、OCR。この間の日本憲法よりもはるかに詳細です。

 217.7オガ『山口県の歴史』
  やはり、長州は幕末の変動でしょう
  攘夷の決行と奇兵隊:下層社会の心は、長州ひいきになった
  禁門の変と四国連合艦隊下関砲撃
  第一次長州出兵と高杉晋作の決起:本当に、ギリギリのところで、高杉晋作は踏ん張った。
  幕長戦争と民衆

 501.6コン『電力化亡国論』
  持続可能な社会とは何か 地球は定常開放系
  安定と平衡と定常;定常開放系;物質の循環構造;拡散の指標=エントロピー;熱とともにエントロピーを捨てる
  持続可能な生態系

 291.1サツ『北海道ガイド』
  「日本で最も美しい村」をめざして、美瑛町 景観と観光と農業。美瑛は大好きな町です。一年の四季を訪問した。秋と冬がいいですね。

 319.53スノ『米中百年戦争』

 302.22『21世紀の中国 政治・社会篇』
  上からの民主化か、下からの民主化か 中国茉莉花革命
  共産党の「静かな変容」
  カギ握る二億人の中間階層
  将来シナリオ リベラル派知識人の慎重な見方
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豊田市図書館の30冊

豊田市図書館

 302.21『韓国の暮らしと文化を知るための70章』

 323.53『アメリカ憲法入門』

 404『気になる科学』調べて、悩んで、考える

 302.22『21世紀の中国 政治・社会篇』共産党独裁を揺るがす格差と矛盾の構造

 302.38『エストリアを知るための59章』

 361.45『メディア文化論』メディアを学ぶ人のための15話

 495.13『妻の病気の9割は夫がつくる』医師が教える「夫源病」の治し方

 675.3『ゆさぶる企画書』

 914.4『方丈記』

 291.1『大学的北海道ガイド-こだわりの歩き方』

 748『ぽつん』

 491.6『病態生理学 疫病の成り立ち①』

 443.9『まんがと図解でわかる 宇宙論』この世界の始まりは? 最新の宇宙の「謎」に迫る!

 442『天体ショーへようこそ』2013年版 巨大彗星の大接近、惑星の大集合、流れ星、水星の「食」2013年も珍しい天文現象がいっぱい! 新発見!2大彗星「パンシャーズ」「アイソン」現る!

 547.48『インターネット&メール超入門』大きな文字と大きな図版で見やすい!わかりやすい!

 674『キャッチコピーの作り方』誰でもすぐにできる売上が上がる

 429.6『小さい宇宙をつくる』本当にいちばんやさしい素粒子と宇宙のはなし

 397.21『海軍反省会4』

 069.02『ぶらりあるき香港・マカオの博物館』

 507.2『なるほど、日本の素敵な製品』デザイン戦略と知的財産権の事例集

 331『マクロ経済学』

 217.7『山口県の歴史』

 491.37『バグる脳』

 007.1『シャノンの情報理論入門』

 809.2『「魅せる声」のつくり方』3大新理論があなたの印象を変える

 312.1『現代日本の政党デモクラシー』

 C31.1『アメリカ型ポピュリズムの恐怖』「トヨタたたき」はなぜ起きたか

 319.53『米中百年戦争』新・冷戦構造と日本の命運

 501.6『電力化亡国論』核・原発事故・再生可能エネルギー買取制度

 312.22『紅の党』習近平体制誕生の内幕

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謎めいた偶然の一致

『アメリカ型ポピュリズムの恐怖』より

大規模リコールや急加速疑惑の発端となったレクサスー家四人死亡事故は、実はトヨタが○九年八月二七日夜(日本時間二八日朝)にNUMMI閉鎖の最終決定を発表してから、わずか約二四時間後の翌日夜に発生したものだった。

しかも、事故が発生した場所とNUMMIがある場所は、多少の距離があるとはいっても、同じカリフォルニア州内。偶然と言ってしまえばそれまでだが、あまりにも偶然過ぎる一致だった。

NUMMI閉鎖とレクサス事故との間に、何らかの因果関係があったという証拠は全くない。ただ、日本の業界関係者の間では「とりわけ『トヨタたたき』を裏で先導したのはUAWたった」という声もあるだけに、実に謎めいた偶然の話たった。

NUMMIの閉鎖問題が、トヨタによる従業員への退職支援金の特別支給合意などで決着した後、さらには、トヨタとテスラがEV共同開発などで提携したことで、NUMMIの一部がテスラによって買収されることが決まった後、「トヨタたたき」が目に見えて弱まったことも潮目変化の奇妙な一致だった。

米メディアの中では、ABCテレビと並んでトヨタ問題追及の急先鋒だった、ロサンゼルス・タイムズ(LA)紙が報道したトヨタ車の急加速疑惑に関連した記事の本数は、○九年八月末にサンディエゴでのレクサス急加速事故が発覚した後、月を追うごとに増加し、トヨタ問題の公聴会が開かれた二〇年二月から三月にかけてピークに達した。しかしその後、NUMMI閉鎖に伴う後処理問題の決着などを受けて、その本数は急減の一途をたどったことがお分かりいただけるだろう。

NUMMIに関しては「トヨタとしてもできれば事業を存続させたかった」というのが本音だった。NUMMIはトヨタにとってアメリカで最初に築いた生産拠点であり、その後の米国進出の足掛かり、いわば米国進撃の橋頭堡だったからである。それだけに、同社にとって「NUMMIの閉鎖は苦渋の選択であり、断腸の思い」(トヨタ幹部)たった。

また、トヨタ首脳陣の開にも、NUMMI閉鎖で「ドル箱」米国市場の国民感情が損なわれるような事態を招いてはならない、あるいはブランドイメージを悪化させるような事態を招いてはならないと警戒する声もあった。

にもかかわらず、NUMMIを閉鎖せざるを得なかったのは、トヨタに経営面で余裕がなかったからである。当時は、アメリカの新車販売市場が深刻な景気後退を受けて急速に冷え込む中、経営が破綻したGMのみならず、トヨタも内外に余剰生産能力を抱え込み、業績不振に頭を痛めていたのは事実だった。また、当面は新車販売市場の低迷が予想される中、「攻め」の戦略ではなく、「守り」の戦略を取らざるを得なかったのも確かだった。事業運営面の損得だけを考えれば、閉鎖もやむを得ない選択だったのである。

ただ、仮にトヨタがNUMMIを閉鎖せず、単独での事業継続を決断していたとしたら、リコールや急加速疑惑をめぐる騒動はどのような展開をたどっただろうか。

レクサスの事故が発生して「トヨタたたき」がにわかに強まり始めた頃、一部業界アナリストからは「NUMMIでの生産打ち切りを決めたことで、トヨタは地元をはじめアメリカ国内の各方面の怒りを買ったのではないか」「GMが経営破綻してNUMMIからの撤退を余儀なくされたため、トヨタ単独によるNUMMI事業継続へのアメリカ側の期待はかなり大きかったのではないか」と警鐘を鳴らす声も上がっていた。

陰謀説の真否はともかく、トヨタがNUMMIの閉鎖を決定していなければ、少なくともあれほど激しいバッシングには発展していなかったのではないだろうか。

さらに言えば、当時トヨタも経営不振に苦しんでいたとはいえ、GMが保有していたNUMMIの株式を助け舟を出す形で買収していれば、アメリカ政府に大きな貸しをつくり、恩を売ることも可能だったはずで、少なくとも政府を、心情的に半ば敵に回すような形にはならなかったのではないだろうか。リコール問題の真相はどうであれ、より早い段階でアメリカ政府を政治的に味方に付けることさえも可能だったかもしれない。

トヨタ関係者はNUMMIの閉鎖を決めた理由について、「GMが先に合弁事業から撤退したため」と繰り返し説明したが、経営破綻したGMや、それに当惑しているアメリカ政府に対して手を差し伸べるぐらいの余裕と度量があったならば、一連の大規模リコールや急加速疑惑も、さほどの騒ぎにはならなかったかもしれない。場合によっては、リコール問題さえも、アメリカ政府なら政治的にもみ消すことができたのではないだろうか。

しかし、事件として表面化したケースだけが問題なのではない。その裏に控える、政策形成において平等性が担保されないという構造は民主主義の基本をむしばむ危険性をはらむ。
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