未唯への手紙
未唯への手紙
ブルガーゲマインデという地域経営組織
『観光立国の正体』より 地域全体の価値向上を目指せ ⇒ 観光立国のベースは地域です。トルコの観光地の治安は地元が守っている。
ブルガーゲマインデという地域経営組織
スイスの各市町村における地域経営の基盤となっているのが「ブルガーゲマインデ」と呼ばれる組織です。ブルガーとはドイツ語で市民ご任民のことです。役所や役場のような行政機関とは違う住民主体の独自組織なのですが、強いて訳すなら「住民自治経営組織」のようなニュアンスでしょうか。
かつてスイスの山岳地方は貧しく、満足に働ける場所がありませんでした。そこで住民同士が協力して自分たちの持つ土地や資源を活かすことで新しい仕事をつくり、地域全体の経営をするための組織として始まりました。そもそもスイスに限らずヨーロッパの地方都市には、近代以前から続く自治組織の伝統が根強く残っています。ツェルマットのブルガーゲマインデも四〇〇年以上もの歴史を有し、村の基本的な経営方針を決めるにあたっては、今でも大きな影響力と権限を持っています。
現在でも観光・リソート地としてのツェルマットの経営の中心的な役割を果たしているのが、実はこのブルガーゲマインデです。もちろん行政機関としては村役場の役割も大きいのですが、行政主導ではなく、官と民がそれぞれフラットな立場で地域にとって最もメリットのある方向性で運営を進めています。ブルガーゲマインデと村役場が両輪となり、地域内の幅広い業種・分野の意見を反映させ、連携も密接に取ることで地域経営を潤滑に機能させているのです。
またブルガーゲマインデは、地域の共有財産(山や森、放牧地等)の維持管理だけでなく、地域全体の経済的な価値を高め、収益性を向上させる役割も担っています。ブルガーゲマインデが一〇〇%出資した「マッターホルングループマネージメントAG(株式会社)」は地域を代表する民間企業として多くの事業を展開しています。例えば、ツェルマットで一番有名なフラッグシップホテル「グランドホテル・ツェルマッターホフ」は、もともと住民が乏しい資金を出し合い、更には自らの労働力を提供してブルガーゲマインデのメンバーが中心となって建設したものです。現在はこのホテルだけでなく、山岳ホテル「リッフェルハウス」やゴルナーグラート山頂にある「クルムホテルゴルナーグラート」、その他にも多くの山小屋レストラン、バー、売店等を経営しています。また、村内のロープウェイ・リフト等の索道会社には出資という形で経営参画しています。ブルガーゲマインデそのものが直接経営に乗り出すのではなく、各会社の株を持ち、それぞれの経営に大きな影響力を持っていますが、いずれにせよ住民主体の組織で運営の方針を決め、地域にとっての利益を最大化させ、雇用を確保しているわけです。
このブルガーゲマインデこそ、スイスにおける地域振興のカギだと言えます。実際、日本から視察に来られた方々が一番感銘を受け興味を抱かれるのは、必ずと言っていいほど「地域経営のしくみと組織としてのブルガーゲマインデ」です。
地域振興で重要なのは、その土地に住んでいる人が自ら責任を持って決断、実行できるしくみです。その意味では、今後の日本の観光ビジネスのみならず、地方創生時代の地域の経営を考える上でも、ブルガーゲマインデのあり方は参考になると思います。
スイスの観光局は自主財源を持った独立組織
ブルガーゲマインデが「立場を超えた住民が主体的に参加するパブリックなテーブル」とするならば、そこで決まった方針に基づいて、具体的なマーケティングとブランディングを手がけるのが観光局です。例えばツェルマットの場合、観光局長をトップにマーケティング課、スポーツ・カルチャー・イベント課、インフォメーション課、総務課の四つの担当部署が組織内に置かれています。
日本との大きな違いは、自主財源を持った独立組織だということです。観光局自体は行政傘下にはありませんが、「観光税」と「観光促進税」が直接的な収入となり活動資金になっています。観光税はいわゆる宿泊税のことで、一泊一人あたり二・五フラン(約三〇〇円)です。ただし、この財源は観光振興のための目的税なので、直接お客様に還元される分野にしか使えません。具体的にはウェブでの情報提供、パンフレットの製作・郵送費、ハイキングコースの整備、休憩用ベンチの設営費などです。もう一つの観光促進税は、村内で働く就業者の観光従事度に対して全ての企業から徴収される税金で、観光依存度が高い業種ほど税率も上がるしくみになっています。ちなみに、予算総額は日本円で約九億円です。人件費が占める割合が多いですが、予算のほとんどはマーケティング費用です。
ツェルマット観光局のインフォメーション・カウンターでは、一般的な情報提供や宿泊手配などが主業務です。私も以前ここでカウンター業務を担当していました。これとは別に「スノー・アンド・アルパインセンター」というスポーツアクティビティに特化したオフィスがあり、スキー・スノーボードスクールや山岳ガイド協会の総合窓口になっています。そして、この二つの組織は密接に連携しています。
インフォメーション業務で最も重要なのは、お客様にミスマッチを起こさせないことです。これは、かつて私がカウンター業務をしていた際にも細心の注意を払うように指導されました。満足度の高いサービスを供給するためには、予算や家族構成なども含めお客様が求めているニーズをしっかり把握することが不可欠です。
もう一つ、サービスをする側の都合を決して優先させないことも大切です。日本の観光協会や案内所は観光サービスを提供する一元化された窓口になっていないため、現地発着型プログラムやツアーの予約を未だに受け付けないところが少なくありません。しかも、何故か日・祝日には窓口がお休みのところが多く、利用者のことを全く考えていない体制になっています。目の前のお客様をみすみす取り逃がしているわけです。
現在、ツェルマットの全体的な観光戦略は五年毎に立案されています。観光戦略委員会は村内にある六つの組織、団体で構成されています。それは、ブルガーゲマインデと村役場、ツェルマット観光局、宿泊事業者協会、ロープウェイ会社、登山鉄道会社です。委員会では、これまでの事業総括から新しい目標指標が示され、事業計画が立てられています。
ブルガーゲマインデという地域経営組織
スイスの各市町村における地域経営の基盤となっているのが「ブルガーゲマインデ」と呼ばれる組織です。ブルガーとはドイツ語で市民ご任民のことです。役所や役場のような行政機関とは違う住民主体の独自組織なのですが、強いて訳すなら「住民自治経営組織」のようなニュアンスでしょうか。
かつてスイスの山岳地方は貧しく、満足に働ける場所がありませんでした。そこで住民同士が協力して自分たちの持つ土地や資源を活かすことで新しい仕事をつくり、地域全体の経営をするための組織として始まりました。そもそもスイスに限らずヨーロッパの地方都市には、近代以前から続く自治組織の伝統が根強く残っています。ツェルマットのブルガーゲマインデも四〇〇年以上もの歴史を有し、村の基本的な経営方針を決めるにあたっては、今でも大きな影響力と権限を持っています。
現在でも観光・リソート地としてのツェルマットの経営の中心的な役割を果たしているのが、実はこのブルガーゲマインデです。もちろん行政機関としては村役場の役割も大きいのですが、行政主導ではなく、官と民がそれぞれフラットな立場で地域にとって最もメリットのある方向性で運営を進めています。ブルガーゲマインデと村役場が両輪となり、地域内の幅広い業種・分野の意見を反映させ、連携も密接に取ることで地域経営を潤滑に機能させているのです。
またブルガーゲマインデは、地域の共有財産(山や森、放牧地等)の維持管理だけでなく、地域全体の経済的な価値を高め、収益性を向上させる役割も担っています。ブルガーゲマインデが一〇〇%出資した「マッターホルングループマネージメントAG(株式会社)」は地域を代表する民間企業として多くの事業を展開しています。例えば、ツェルマットで一番有名なフラッグシップホテル「グランドホテル・ツェルマッターホフ」は、もともと住民が乏しい資金を出し合い、更には自らの労働力を提供してブルガーゲマインデのメンバーが中心となって建設したものです。現在はこのホテルだけでなく、山岳ホテル「リッフェルハウス」やゴルナーグラート山頂にある「クルムホテルゴルナーグラート」、その他にも多くの山小屋レストラン、バー、売店等を経営しています。また、村内のロープウェイ・リフト等の索道会社には出資という形で経営参画しています。ブルガーゲマインデそのものが直接経営に乗り出すのではなく、各会社の株を持ち、それぞれの経営に大きな影響力を持っていますが、いずれにせよ住民主体の組織で運営の方針を決め、地域にとっての利益を最大化させ、雇用を確保しているわけです。
このブルガーゲマインデこそ、スイスにおける地域振興のカギだと言えます。実際、日本から視察に来られた方々が一番感銘を受け興味を抱かれるのは、必ずと言っていいほど「地域経営のしくみと組織としてのブルガーゲマインデ」です。
地域振興で重要なのは、その土地に住んでいる人が自ら責任を持って決断、実行できるしくみです。その意味では、今後の日本の観光ビジネスのみならず、地方創生時代の地域の経営を考える上でも、ブルガーゲマインデのあり方は参考になると思います。
スイスの観光局は自主財源を持った独立組織
ブルガーゲマインデが「立場を超えた住民が主体的に参加するパブリックなテーブル」とするならば、そこで決まった方針に基づいて、具体的なマーケティングとブランディングを手がけるのが観光局です。例えばツェルマットの場合、観光局長をトップにマーケティング課、スポーツ・カルチャー・イベント課、インフォメーション課、総務課の四つの担当部署が組織内に置かれています。
日本との大きな違いは、自主財源を持った独立組織だということです。観光局自体は行政傘下にはありませんが、「観光税」と「観光促進税」が直接的な収入となり活動資金になっています。観光税はいわゆる宿泊税のことで、一泊一人あたり二・五フラン(約三〇〇円)です。ただし、この財源は観光振興のための目的税なので、直接お客様に還元される分野にしか使えません。具体的にはウェブでの情報提供、パンフレットの製作・郵送費、ハイキングコースの整備、休憩用ベンチの設営費などです。もう一つの観光促進税は、村内で働く就業者の観光従事度に対して全ての企業から徴収される税金で、観光依存度が高い業種ほど税率も上がるしくみになっています。ちなみに、予算総額は日本円で約九億円です。人件費が占める割合が多いですが、予算のほとんどはマーケティング費用です。
ツェルマット観光局のインフォメーション・カウンターでは、一般的な情報提供や宿泊手配などが主業務です。私も以前ここでカウンター業務を担当していました。これとは別に「スノー・アンド・アルパインセンター」というスポーツアクティビティに特化したオフィスがあり、スキー・スノーボードスクールや山岳ガイド協会の総合窓口になっています。そして、この二つの組織は密接に連携しています。
インフォメーション業務で最も重要なのは、お客様にミスマッチを起こさせないことです。これは、かつて私がカウンター業務をしていた際にも細心の注意を払うように指導されました。満足度の高いサービスを供給するためには、予算や家族構成なども含めお客様が求めているニーズをしっかり把握することが不可欠です。
もう一つ、サービスをする側の都合を決して優先させないことも大切です。日本の観光協会や案内所は観光サービスを提供する一元化された窓口になっていないため、現地発着型プログラムやツアーの予約を未だに受け付けないところが少なくありません。しかも、何故か日・祝日には窓口がお休みのところが多く、利用者のことを全く考えていない体制になっています。目の前のお客様をみすみす取り逃がしているわけです。
現在、ツェルマットの全体的な観光戦略は五年毎に立案されています。観光戦略委員会は村内にある六つの組織、団体で構成されています。それは、ブルガーゲマインデと村役場、ツェルマット観光局、宿泊事業者協会、ロープウェイ会社、登山鉄道会社です。委員会では、これまでの事業総括から新しい目標指標が示され、事業計画が立てられています。
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