今年も芭蕉が枯れる季節になった。緑濃いあの姿からは想像も出来ない枯れ姿、やがて朽ちはてて冬眠をするように土にかえる。春が近寄ってくると伝統を受け継ぐかのように、冬眠していた枯れた根元からやわらかな葉をのぞかせる。一晩で目を見張るほど成長をし短い一生の活動を始める。
芭蕉は見上げるほど高い。大きな葉っぱは立派だが幾条にも裂けている葉も多かった。変わった形の花が咲き、バナナに似た小さな実がなった。切り口からは水が滴る、そのせいか小さな一枝でも結構重かった。子どものころの家のそばにあった芭蕉からいくかつか思い出す。
一番のそれは重ね寿司。重ね寿司、今は「岩国寿司」として観光の売り物の一つになっている。昔は多くの家で祭や祝い事のときに「家庭の味」としてくる人へ振舞った。その重ね寿司の段と段の仕切りに敷いたのが芭蕉の葉。近所からも葉をもらいにみえていた。残念ながら、そのほかに役立ってくれた記憶はない。それでも強く印象に残っているのは強靭そうに見えながら、葉のひらひらと揺れる優しい姿からかも知れない。
葉は風に破れやすいため庭に植えることを嫌ったという。それで別名を「庭忌草(にわきぐさ)」と言われるとか。風に破れやすいのは、大きな葉全面に強い風を受けたら倒れるかもしれない、そこで破れを作り風を受け流しているのではなかろうか、と生物の不思議を思う。
高齢者の仲間入りをしている今、いつなんどき大きな風波に見舞われるかも知れない。芭蕉の葉のように自然に身に付けた処世術は身についていない。でも日ごろから家族仲良く、近所とは互助の姿勢、これだけはしっかり守っていこうと思う。