shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

リカード・ボサノヴァ / 平賀マリカ

2009-08-31 | Standard Songs
 早いもので8月も今日で終わり、昼間はまだまだクソ暑いけど夜になると結構涼しくて過ごしやすい(^.^)  “夏はラテン!” という単純な思いつきから始めたラテン系スタンダード聴き比べシリーズも「ティコ・ティコ」、「ベサメ・ムーチョ」ときて今回トリを務めるのは超愛聴曲「リカード・ボサノヴァ」(別名「ザ・ギフト」)である。元々大好きな曲だったのだが、最近買った平賀マリカのボサノヴァ集に入っていたヴァージョンがめちゃくちゃ気に入り、リカード熱が再燃したというわけなのだ。
 作者はブラジルのルイス・アントニオとジャルマ・フェレイラで、1959年に作られたということになっている。本であれネットであれ、どこで調べてもそういうことになっている。しかしジャズ・トロンボーンのエディ・バートが1955年に出したサヴォイ盤「アンコール」の中の「カンヴァセイション」という曲がまさに「リカード・ボサノヴァ」そのものなのだ。時系列でいうとこっちの方が4年も早い。一体これはどーなってんねん?まったくの謎である。どっちがいつパクッたのか、ネット上を色々探してみたがこの件に関する情報は皆無だった。真相をご存知の方はお教え下さい m(__)m
 この曲はヴォーカルならテレビのタバコCM で流れたイーディ・ゴーメ・ヴァージョン、インストならジャズ喫茶で一世を風靡したハンク・モブレイ・ヴァージョンがそれぞれ決定版だが、それ以外にもバーニー・ケッセルやズート・シムズ、バルネ・ウィランetc インスト・ジャズでは名演が目白押し。まぁ今回は素直に(笑)定番2つと問題のオリジ(?)版、それに超愛聴隠れ名演2つでいってみます:

①Eddie Bert
 「カンヴァセイション」というタイトルの通り、エディ・バートのよく歌うトロンボーンとJ.R. モンテローズの熱いテナーが楽器で “会話” するかのようなやりとりが強烈にジャズを感じさせてくれる。4分34秒から始まるハンク・ジョーンズの流麗なピアノ・ソロはまさに名人芸だ!
エディー・バート


②Eydie Gorme
 以前にも取り上げたゴーメだが、彼女抜きの「リカード」大会はシューマッハのいないフェラーリみたいなモンなので堂々の再登場(^.^) その一点の曇りもない見事な歌唱はこの曲の魅力を120%引き出しており、たとえ誰がオリジナルであろうとも私は “リカード = ゴーメの曲” だと思っている。これ以上の名唱があったら教えてほしいものだ。
Eydie Gorme The Gift!(Recado Bossa Nova)


③Hank Mobley
 ジャズがメロディーの大切さを忘れて下らない自己満足音楽へと堕し、衰退の一途をたどっていた60年代半ば、ジャズ黄金時代を支えたハンク・モブレイが盟友リー・モーガンをゲストに迎えて放った大ヒットがコレ。ロックやボサ・ノヴァといった当時の新しいリズムを巧みに取り入れながら、血沸き肉踊る痛快ハードバップでストレートに料理したこの演奏が当時のジャズ喫茶族に大いにウケたのも当然だと思う。
Recado Bossa Nova-Hank Mobley


④Gypsy Vagabonz
 これも去年一度紹介済みなのだが大好きな演奏なので気にせず紹介。刹那的な快楽を求める宴のような曲想と、かきむしるようなマカフェリ・ギターのサウンドがビンビン合っており、そこへ退廃的なムードを醸し出すヘタウマ・ヴォーカルが絶妙に絡んでいく快感を何と表現しよう?何度でも聴きたくなる妖しげな魅力が横溢のキラーチューンだ。カフェ・マヌーシュのライブでも演奏されて大盛り上がりだったこの曲、新たなマヌーシュ・スタンダードといえるかもしれない。
The GIFT '08/12/07/GYPSY VAGAVONZ


⑤平賀マリカ
 森川七月に次いで最近気に入ってる日本人ジャズ・ヴォーカリストがこの平賀マリカ。インストとは違ってこういう新しい人がどんどん出てくるからジャズ・ヴォーカルはやめられない(^.^) 彼女の魅力はしっかりした歌唱力と原曲の旋律を大切にしながら素直に表現するそのヴォーカル・スタイルにあり、ここでもその本領を存分に発揮、巧みなフレージングを交えながら快適にスイングする彼女の歌声が耳に心地良く響き、ギル・ゴールドスタインの緊張感漲るアコーディオン・ソロと共にこのラテンの名曲に新たな魅力を与えている。
リカードボサノヴァ

Sonny Rollins Vol. 2

2009-08-30 | Jazz
 私は80年代半ばにアナログ・プレイヤーが故障したのをきっかけにそれまでのアナログLPからCDへの移行を行い、それ以降は90年代末までずーっとCDオンリーで音楽を楽しんできた。それまで買い集めたLPには思い出が一杯詰まっていたので捨てずに取っておいたのだが、プレイヤーがない以上聴くこともできず、新譜はもちろんのこと、LPで持ってる旧譜もCDで買い直して音楽を聴いたものだった。そんな私を再びアナログLPの世界へと引き戻したのが美人女性ヴォーカルのオリジナル盤だったことは以前ティナ・ルイスやジュリー・ロンドンの時に書いたと思うが、それはあくまでも1枚の平均価格が安い “ヴォーカル盤” 限定であり、ヘタをすれば3万5万は当たり前という “ジャズ・インストのオリジナル盤” の世界へは決して近寄らなかった。私は自分が “一旦ハマると徹底的にいく” 人間だとよ~く分かっていたので、そんな底なし沼みたいなおっとろしい世界に片足でも突っ込んでしまったが最後、まず間違いなく頭のテッペンまでドップリ浸かってしまうことは火を見るよりも明らかだったからだ。
 そんなある日のこと、いつものように京阪神猟盤ツアーを終えて例のティナ・ルイスと出会ったお店しゃきぺしゅ(←残念ながら先月閉店されたらしい...)でエサ箱を漁っているといきなり超豪快なハードバップ・ジャズがかかった。ここのお店のスピーカーはイギリスの小型モニター・スピーカー、Rogers LS3/a を採用しており、そのサイズからは想像もできないようなダイナミックな音を聴かせてくれるのだが、そんな LS3/a が渾身の力を振り絞るようにして迫力満点のサウンドを爆裂させていた。それは私の愛聴盤「ソニー・ロリンズ Vol. 2」で、“あっ、ロリンズのVol. 2 や!せやけどこんな凄い音してたっけ???” と思った私が店主の市川さんに “それってオリジナル盤ですか?” と尋ねると“いいえ、これはセカンド(プレス)です。でも音はあんまり変わらへんのとちゃいますか。オリジなら値段はこの何倍もするでしょうけど...” とのこと。そのセカンド・プレス盤には1万円の値札が付いており、会員割引で9千円... ヴォーカル盤を2枚我慢したらこの大迫力サウンドが手に入るんか... と考えた私は次の瞬間 “これ下さいっ!!!” と叫んでいた。もしこの日この時に大阪へ行ってなかったら、あるいはお店で別の盤がかかっていたら、その後の「プリーズ・プリーズ・ミー」金パロ盤や「ラバー・ソウル」ラウドカット盤といったアナログ盤ならではの悦楽もなかったかもしれない。そういう意味でこの「ソニー・ロリンズ Vol. 2」は私の音楽リスニング人生を大きく変えた1枚なのだ。
 音の話ばかりで肝心の音楽の方はどうなんやと言われそうだが、圧倒的なテナー・サックスの音、湯水のように溢れ出るアイデアにクラクラさせられるインプロヴィゼイション、音楽家としての卓越したセンス、品のあるユーモア、そしてそれらが混然一体となって生み出すハード・ドライヴィングなスイング感と、まさに全盛期のロリンズが楽しめる素晴らしいものだ。傑作が目白押しなこの時期のロリンズ作品の中でも特にこの盤からはジャズの持つエネルギー、スピード感が手に取るように伝わってくる。とにかく熱いのだ。 “熱くなくて何のハードバップか!” を信条とする私にとって、これ以上のハードバップ名盤はない。
 このアルバムの陰の立役者は何と言ってもアート・ブレイキーだ。彼の真髄は細心にして大胆なプレイでフロント陣を鼓舞するところにあると思うのだが、ここでの彼はリーダーの役目から解放され一ドラマーとしてまさに水を得た魚のように活き活きとプレイしており、特にロリンズのような最高レベルのミュージシャンがそれに刺激を受けて素晴らしいプレイを行うと、今度はそれにインスパイアされたブレイキーが更に素晴らしいプレイをするという相乗効果、ポジティヴな連鎖反応がこのアルバムを聴き応えのあるものにしている。
 後世に語り継がれる名盤には必ず “光る1曲” があるものだが、ここでは①「ホワイ・ドント・アイ」がそれだろう。イントロから全開で飛ばすロリンズ... 圧倒的スピードを誇る大型スポーツカー(絶対にアメ車やね... コルベットかな?)の如き疾走感で駆け抜ける彼を名手アート・ブレイキーが絶妙なドラミングで背後からプッシュしまくるという理想的な展開だ。私が好きなのは途中ロリンズがドラムとのヴァースを間違えるところ(4分29秒)で、そんなことはお構いなしに別のアイデアを出して乗り切ってしまうロリンズにたまらなくジャズを感じてしまうのだ。これをOKテイクにしたアルフレッド・ライオン(ブルーノート・レーベルの社長)の慧眼もさすがという他ない。続く②「ウェイル・マーチ」も①同様躍動感溢れるハードバップ・ジャズが展開される。ロリンズはもちろん、煽りまくるブレイキーのドラミングといい、スインギーなホレス・シルバーのピアノといい、バンドが一体となって燃え上がる様はたまらなくスリリングだ。
 セロニアス・モンクの③「ミステリオーソ」は9分を超える長尺の演奏だが全くダレない。ピアノはそのモンクで、これがまたロリンズの豪放磊落なテナーと絶妙にマッチしておりスリリングな興奮を巻き起こす。モンクはよく “スイングしない” とか “ヘタ” とか言われ好き嫌いの分かれるピアニストだが、一体どこを聴いとんのじゃ?不協和音を効果的に使いながら音楽をドライヴさせてるのがワカランのか? 途中フォスターの「キャンプタウン・レーシズ」のフレーズを織り込みながら(7分38秒)ブヒバヒ吹きまくるロリンズがカッコイイ(^o^)丿
 B面はA面に比べるとやや曲が弱いと思う。特に④「リフレクションズ」なんか曲が平凡すぎて演奏も間延びして聞こえてしまう。スタンダードの⑤「ユー・ステップト・アウト・オブ・ア・ドリーム」ではノリの良さは復活したものの、曲としてはロリンズのオリジナル曲①②の方が数段上だ。同じスタンダードでも⑥「プア・バタフライ」はB面で私が一番好きなトラックで、この “歌い上げていく” 曲想とロリンズのスケールの大きなテナーが見事にマッチしている。「プア・バタフライ」の名演といえばこのロリンズ盤が頭に浮かぶほどだ。
 ロックのジョー・ジャクソンが丸ごとパロッたアルバム・ジャケットも文句なしにカッコイイこのアルバム、ロリンズの代表作というよりはむしろジャズが一番輝いていたこの時代を代表する1枚と言っていいと思う。

ロリンズ Vol. 2

Pyromania / Def Leppard

2009-08-29 | Hard Rock
 私はジャズでもロックでも、とにかくメロディーの分かり易い音楽が好きで、メロディーの分かりにくい音楽は嫌いである。これは私が音楽を聴き始めてかれこれ35年間、そしてこれからも未来永劫変わることのないガチガチの鉄板なのだ。音楽ファンなら誰しもその人の音楽的ルーツのようなものがあり、それによって音楽的嗜好が決まってしまうことが多いが、私の場合はご存知のようにビートルズがすべての原点なので、ロックンロールであれスローバラッドであれ、メロディアスでないと受け入れられない。逆にどんなにアップテンポで疾走しようが、ギターが速弾きでソロをブチかまそうが、ドラムが激しいビートを刻もうが、メロディーさえしっかりしておれば大歓迎だ。
 ハードロックに関して言うと、70年代の私はレッド・ゼッペリン、ディープ・パープル、エアロスミス、ヴァン・ヘイレンなどが大好きで、それこそレコードが擦り切れるほど聴きまくったものだったが、いわゆるハードロックやヘヴィー・メタルというジャンルに属する他のバンドにはあまり関心を持てなかった。別に嫌って避けていたわけでもないのだが、たまにジューダス・プリーストやアイアン・メイデンなんかをFMのハードロック特集番組で耳にしてもただウルサイだけでピンとくるものがなかった。そんな私に “ハードロックってめっちゃエエやん!!!” と思わせてくれたのがこのデフ・レパードであり、彼らのこの「パイロメニア(炎のターゲット)」に出会っていなければ、ひょっとするとモトリー・クルー、ボン・ジョヴィ、シンデレラ、ガンズ&ローゼズ、ポイズンといった、いわゆる80'sハードロック・バンドたちとの付き合いも変わっていたかもしれないのだ。そしてそのようなロック・ファンはきっと私だけではなかったと思う。そういう意味で私は以前彼らの「ヒステリア」を取り上げた時に、この「パイロメニア」を “シーンを築き上げたアルバム” と表現したのだ。
 このアルバムがリリースされた1983年は第2次ブリティッシュ・インベイジョン、すなわちデュラン・デュランやカルチャー・クラブの大ブレイクで幕を明け、マイコーが「ビリー・ジーン」と「ビート・イット」で世界中のチャートを席捲し、「フラッシュダンス」が80'sサントラ・ブームの先鞭をつけようとしていた。ハードロックのハの字もない。唯一「ビート・イット」の間奏で聴けるエディー・ヴァン・ヘイレンの爆裂ギター・ソロだけというお寒い状況だった。そんな中、突然全米チャートに登場し、ぐんぐん上昇していったのが 1st シングルの②「フォトグラフ」だった。この曲を初めて聴いたのはTVの「ベスト・ヒット・USA」で、躍動感あふれるストレートなサウンド、哀愁舞い散るサビのメロディー、ハードロック・バンドとはとても思えないような清涼感溢れるコーラス・ハーモニー、ビデオクリップでジョー・エリオットが着ていたシャツの鮮やかなユニオンジャックと、そのすべてが衝撃的で、録画したビデオクリップを何度も見返したものだった。あくまでも曲は親しみやすく、演奏はハード&ノリノリ... 私の一番好きなパターンである。とにかくこの曲を聴いて私の中のロック魂が目覚めたことだけは確かだった。
 サビのコーラス・ハーモニーとズッシリ響くドラムのビートが耳に残る 2nd シングル⑦「ロック・オブ・エイジズ」が出た頃、私は大学の長い休みを利用して生まれて初めてのアメリカ横断旅行中でフロリダの友人宅に2週間ほど泊めてもらっていたのだが、ユーリズミックス「スウィート・ドリームス」、マイケル・ジャクソン「ワナ・ビー・スターティン・サムシン」、スティーヴィー・ニックス「スタンド・バック」らと共にヘヴィー・ローテーションでカーラジオから流れて来たのがこの曲だった。アメリカのラジオ局は音楽ジャンルで細かく分かれており、まだこの頃ハードロックはトップ40局では滅多にかからなかったのだが、レップスだけは違っていた。つまりこの時点で大衆は彼らを “ハードロック・バンド” ではなく “ロック・バンド” として認識していたということだろう。ハイウェイをカッ飛ばしながらまるで映画「デス・プルーフ」みたいに助手席でヘッド・バンギングをしたのが忘れられない。
 私は帰国してすぐレコ屋に直行し、このアルバムを買った。初めて全曲聴き終えた時、そのあまりの素晴らしさに圧倒されたのを覚えている。冒頭を飾る①「ロック!ロック!」はギターが唸りを上げて疾走するカッコイイ曲で、プロデュースが同じロバート・ジョン・マット・ラングということもあってか、徹底的に贅肉を削ぎ落としてガチガチに磨き上げた AC/DC みたいなサウンドがたまらない(≧▽≦) ③「ステージフライト」は初期レップスを彷彿とさせる疾走系のラフでハードなナンバーで、ライブでめちゃくちゃ盛り上がれそうな1曲だ。「ヒステリア」以降はこーゆーの無くなっちゃったなぁ... まぁしゃーないか。④「トゥー・レイト・フォー・ラヴ」は心にビンビン響くパワー・バラッドで、哀愁舞い散るメロディーに涙ちょちょぎれる。そのドラマチックな曲想とエモーショナルなヴォーカルはボン・ジョヴィの原型そのものだ。⑤「ダイ・ハード・ザ・ハンター」はイントロの不気味なヘリコプターのSEからギター・アルペジオへとつなぎ、ドラムのフィルインと共に疾走を開始する1分22秒でガツンとやられ、何とかカウント8ぐらいで起き上がろうとするとやってくるのが中間部の緊張感溢れるツイン・リード。全編を通して炸裂する見事なコーラス・ハーモニーも他のバンドにない大きな武器で、この曲をよりドラマチックなものにしている。
 ⑥「フーリン」は⑤と同じく静と動のコントラストが見事なヘヴィー・ナンバーで、ジョーの “フッフッフッフーレェン♪” が耳について離れない。ただ、この曲のPVはもうちょっと何とかならんかったんか...(>_<) ユニオンジャックのパンツ一丁で頑張るリック・アレンの姿は笑えるけど。イントロのギター・リフから名曲の薫りが横溢する⑧「カミン・アンダー・ファイアー」は何と言っても激しいギター・サウンドと美しいコーラス・ハーモニーのコントラストの妙に唸らされるキラー・チューンで、個人的には名曲揃いのこのアルバム中でも一ニを争う隠れ名曲だと思う。⑨「アクション」は後の「アニマル」や「アーマゲドン」の源流というべきキャッチーなナンバーだが④⑤⑥⑦⑧と続くアルバムの流れの中で聴くとどうしても急に軽くなったような感じは否めない。コーラスもやや不発気味だ。⑩「ビリーズ・ガット・ア・ガン」は最初聴いた時はイマイチだったが、今から聴くと「ホワイト・ライトニング」の原型ともいうべきドラマチックな大作で、時代を切り開いた歴史的大傑作のシメに相応しい1曲だと思う。
 キャッチーでメロディアスな曲をワン&オンリーなコーラス・ハーモニーでコーティングし、ハード&ヘヴィーに演奏したこのアルバムは “美しきハードロック・アルバム” の最高峰として屹立する、捨て曲なしのスーパー・ウルトラ大名盤なのだ。

Def Leppard - Photograph


Def Leppard - Rock of Ages 1983 Video stereo widescreen


Def Leppard - Coming under fire

Johnny Get Angry / Joanie Sommers

2009-08-28 | Oldies (50's & 60's)
 ジョニー・ソマーズというと私は長い間、高校時代にラジオのオールディーズ特集でエアチェックした「内気なジョニー(ジョニー・ゲット・アングリー)」しか知らず、シェリー・フェブレーやダイアン・リネィ、リトル・ペギー・マーチといった同時代の女性シンガーたちと同じ “美しき一発屋” だと思っていた。その後LP時代からCD時代へと切り替わり、レコード各社から様々なオールディーズ・コンピレーション盤が出た(特にテイチクとセンチュリー・レコードが多かった...)時もここぞとばかりに色々買ってはみたものの、どれもこれも似たり寄ったりの選曲で、ジョニー・ソマーズの場合も「すてきなメモリー」はおろか、「ワン・ボーイ」すら入っていないという悲惨な状況で、私はいつまでたっても “ジョニー・ソマーズ = 内気なジョニー” から抜け出せなかった。
 そんな私に新たな展開がやってきたのが今から約10年前のこと、ちょうどジャズ・ヴォーカルに目覚めた頃で、私はジュリー・ロンドン、ペギー・リー、ドリス・デイ、クリス・コナー、アニタ・オデイらを中心にオリジナル盤を集めており、もっともっと色んな女性シンガーも聴いてみたいと思いながら虎視眈々と中古レコード屋を廻っていた。そして関西一円のレコ屋を狩り尽くした私は長期休暇を利用して東京・横浜まで足を伸ばすことを考えた。わざわざ新幹線に乗って2泊3日でレコードを買いに行くというのは今から考えると滑稽に聞こえるかもしれないが、当時はまだパソコン導入前でイーベイもヤフオクも知らず、欲しいレコードを手に入れるには関東進出(笑)しかなかったのだ。私はレコ屋廻り以外は県外へ出ることすらなかったので、東京なんて右も左も分かるはずがない。そんな私の強い味方が “レコードマップ” という、日本全国のレコ屋が載っているガイドブックだった。ビニール・ジャンキー御用達ともいうべき“レコマ” 片手に颯爽と(?)東京へ乗り込んだ私は首都圏一円に散らばるディスク・ユニオンを始め、悪名高い JARO から今は無き trot-n-gallop ことヴィンテージ・マインまで、ありとあらゆる中古屋を廻ったのだが、中でも一番収穫のあったのが梅ヶ丘のノスタルジア・レコードというお店だった。
 そこはヴォーカル・ファンにとってはまさに聖地、パラダイスのような所で、関西のどこを探しても置いてなかったような希少盤や、見たことも聞いたこともないようなマイナー盤がゴロゴロしていた。そんな中、コーフン状態でエサ箱を漁っているとめちゃくちゃエエ雰囲気の女性ヴォーカルがかかった。温厚そうな店主の方に “今かかってるの誰ですか?” と聞くと “ジョニー・ソマーズですよ。” といわれビックリ。それは彼女がローリンド・アルメイダのギターとストリングス・アンサンブルをバックにボサノヴァを歌った「ソフトリー・ザ・ブラジリアン・サウンド」というアルバムで、笑い転げるような彼女の天真爛漫な歌い方がウキウキするようなボサノヴァ・サウンドと見事に合っていた。めちゃくちゃ気に入った私は彼女がジャズを歌った「ポジティヴリー・ザ・モスト」も一緒に購入、その翌日に行った川崎の TOPS というお店で「ジョニー・ゲット・アングリー」を格安でゲットし、結局その買い付けツアーで彼女のアルバム全8枚中ベストの内容を誇る3枚を入手することができたのだった(^o^)丿 
 帰阪してから彼女の CD も何枚か買ったが、一番嬉しかったのが「ジョニー・ゲット・アングリー」にアルバム未収録シングル音源を追加したこのお徳用CDで、彼女唯一の全米Top 10入りシングル①「ジョニー・ゲット・アングリー」(62年、7位)はもちろんのこと、チャート上の不成績が信じられないデビュー・シングル③「ワン・ボーイ」(60年、54位)や日本語ヴァージョンも出た⑦「すてきなメモリー」、ニール・セダカあたりが歌いそうな日本でのデビュー・シングル④「いとしのルビー」、映画「若さでブッ飛ばせ!」の中で歌った弾けるような⑭「恋のレッスン」etc、キャッチーな曲が一杯詰まっており、そのどれもが彼女のキュートな歌声の魅力を活かしたドリーミーなポップスで、まさにアメリカン・オールディーズの王道そのものだった。又、しっとりと聴かせる②「シーム・フロム・ア・サマー・プレイス(避暑地の出来事)」や可憐な歌声に萌えてしまうジャズ・スタンダード⑨「リトル・ガール・ブルー」もたまらない魅力を持っているし、ビッグ・バンドをバックにスインギーに歌う⑳「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」(ビートルズのカヴァーで有名)なんか出色の出来だと思う。
 70年代後半にカムバックして以降も「ドリーム」、「タンジェリン」、「ア・ファイン・ロマンス」といったアルバムで相変わらず舌っ足らずで可愛い歌声を聴かせてくれたジョニー・ソマーズ。オールディーズ・ポップスからジャズ、ボサノヴァ、そしてペプシのCMソングまで何でも器用にこなす彼女は、決してチャート成績とかの記録云々で語るような存在ではなく、そのキュートな歌声で人々の記憶に残る庶民派アイドルなのだ。

内気なジョニー/ジョニー・ソマーズ

Then & Now / The Monkees

2009-08-27 | Oldies (50's & 60's)
 ロック/ポップスの世界では “ポップな” という形容詞は否定的なニュアンスを伴うことが多い。 “ポップになった” ということは “大衆に迎合して売れ線に走った” ということを意味し、硬派のファンはこの手の音楽を心底軽蔑し、蛇蝎の如く嫌ったものだ。70年代のベイ・シティ・ローラーズしかり、80年代の産業ロックしかりである。私なんか “ローラーズが好き!” というと “アホか、コイツは...” というような目で見られたものだし、エイジアやフォリナーを褒めると “ロックの何たるかが分かってない風俗ファン” のレッテルを貼られたものだった。私は他人にどう思われようと屁とも思わない性格なので、ポップで悪かったな、せいぜいピンフロでもイエスでも聴いてヨガっとれや!と思いながら肩で風を切って生きてきた(笑)のだが、そういう意味ではこのモンキーズなんかも風当たりが強いバンドの一つだろう。
 しかし彼らが軽んじられてきたもっと大きな理由としては、所詮はオーディションで集められた “人工的に作られたグループ” であるということと、最初の2枚のアルバムではヴォーカル以外はすべてスタジオ・ミュージシャン達が演奏していたということが後になってバレたことetc が挙げられるだろう。私はグループ結成の経緯をいちいち考えながら音楽を聴くような趣味はないし、ちゃんと本人達が歌ってるんなら立派なヴォーカル・グループとして楽しめば問題ないやんと思う。口パクがバレてグラミー賞を剥奪され、赤っ恥をかいたミリ・ヴァニリみたいに全部他人がやってたワケじゃあるまいし...(>_<) 私は昔から自分の感性を信じて好き嫌いだけで音楽を聴いてきたせいか、実際に聴いてみて音楽そのものが気に入れば別に誰が演奏していようが、音楽のスタイルがどうであろうが、全く気にならない。だからキング・クリムゾンも、フランス・ギャルも、青江三奈も、ウエス・モンゴメリーも、ドリス・デイも、ウクレレ・ジブリも全部好きなように、モンキーズも大好きなのだ。そんな彼らが “ザ・モンキーズ・ショー” の再放送をきっかけに起こったリバイバル・ブームに乗って1986年に出したベスト・アルバム(マイク・ネスミスを除く3人で再結成した新録3曲を含む)がこの「ゼン & ナウ」である。
 彼らのテレビ・シリーズの主題歌で 1st アルバムのオープニング・ナンバーでもある①「モンキーズのテーマ」はイントロなんかいかにもそれ風の作りだが、よくよく聴くと実に単調なメロディーの繰り返し。それに比べるとデビュー・シングル②「ラスト・トレイン・トゥ・クラークスビル(恋の終列車)」はギターにタンバリンが絡むイントロからキャッチーなコーラス・ハーモニー、終盤の “オ~ ノノンノォ~♪” に至るまで、まるで「ラバー・ソウル」のサウンドで「ハード・デイズ・ナイト」の雰囲気を再現してみました、というような計算され尽くした構成の、実によく出来たヒット・ポテンシャルの高い曲で、全米№1になったのも当然だろう。ファン・クラブの楽曲人気投票でこの曲が17位というのが信じられない... 一体どこを聴いとんのじゃ(>_<) ゴフィン=キング作の③「テイク・ア・ジャイアント・ステップ(希望を胸に)」は聴き易いポップンロールだが、妖しげな雰囲気を醸し出す間奏の不協和音の使い方なんかはストーンズの「ウィー・ラヴ・ユー」譲りか。
 2nd シングル④「アイム・ア・ビリーバー」はニール・ダイアモンドの作で、7週連続全米№1に居座り彼らにとって最大のヒットになったナンバーだが、私は去年この曲と「ペイパーバック・ライター」をマッシュ・アップした「ペイパーバック・ビリーバー」を聴いて以来、このイントロを聴くとどうしてもミッキー・ドレンツではなくポール・マッカートニーのヴォーカルが聞こえてくるような気がしてしまう(笑)。まぁあんまり道に外れた聴き方ばかりしてるとこうなってしまうのでお遊びは程々にしときましょう...(>_<)
 ⑤「ステッピン・ストーン」は単調なメロディーの繰り返しで、彼らにしては珍しくシャウト気味のヴォーカルを聴くことができる。④同様ニール・ダイアモンド作の 3rd シングル⑥「ア・リトル・ビット・オブ・ミー、ア・リトル・ビット・オブ・ユー(恋はちょっぴり)」は彼ららしいホノボノ・タイプのポップなナンバー。新録音の⑦「エニタイム、エニプレイス、エニウェア(いつも どこかで)」は何か無理して80's風の音作りをしているように聞こえるのだが、正直言って全然合ってないと思う。曲のメロディーもイマイチだ。それに比べて同じ新録でもシングル・カットされた⑧「ザット・ワズ・ゼン、ジス・イズ・ナウ(君がいて僕がいる)」はさすがにツボを押さえた作りになっており、80'sでありながらいかにも60'sというメロディーと雰囲気を持った⑥⑨⑩路線の曲。レトロな感じのバック・コーラスといい、間奏のシンプル極まりないギター・ソロといい、実によく出来たポップ・ソングだ。マドンナの「パパ・ドント・プリーチ」やバナナラマの「ヴィーナス」が支配していた当時の全米チャートで20位まで上がったのはある意味大健闘だと思う。
 ⑨「ザ・ガール・アイ・ニュー・サムウェア(どこかで知った娘)」は⑥のB面でありながらチャート39位まで上がった軽快なナンバーで、彼らの持ち味が上手く活かされていると思う。ゴフィン=キング作の⑩「プレザント・ヴァレー・サンデー」はウキウキワクワクするような曲想が楽しい1曲。この誰もが口ずさめるポップ感覚こそがモンキーズなのだ。⑪「ホワット・アム・アイ・ドゥーイング・ハンギン・ラウンド(恋の冒険)」は初期 S&G のテンポを上げてカントリー&ウエスタン風に仕上げてみましたといった趣の、彼らにとっては異色のナンバーだ。
 4週連続全米№1を記録した⑫「デイドリーム・ビリーバー」はモンキーズの、というよりもアメリカン・ポップス史上屈指の大名曲で、21世紀になった今聴いても “最高!!!” という言葉以外思いつかない完全無欠のエヴァーグリーン・ポップスだ。アン・マレーのカヴァー・ヴァージョンも超オススメ。どことなく懐かしい雰囲気の⑬「すてきなヴァレリ」は私の大好きな曲で、まるで日本のGSを想わせるような哀愁漂う演奏がたまらない。新録の⑭「キックス」は「ミナミの帝王・エンディング・テーマ」やサザンの「ビッグ・スター・ブルース」の元ネタになったポール・リヴィア & ザ・レイダースのカヴァーで、シャープでエッジの効いた音作りがエエ感じだ。洋楽邦楽を問わず最近の曲はどうも薄味で面白くない、小難しくって楽しくないとお嘆きの方はぜひ一度真っ白な心でモンキーズのシンプルでポップな世界を楽しんでみてはいかがだろうか?

The Monkees - Daydream Believer
コメント (4)

5150 / Van Halen

2009-08-26 | Hard Rock
 バンド内の人間関係悪化による分裂・解散というのは洋の東西を問わずよくあることだが、この傾向は特にハードロック系のバンドに顕著で、パープルを始めとしてエアロ、キッス、モトリー、ガンズ、ポイズンetc 、狭い世界の中で離れたりくっついたりを繰り返してきた。ロック・バンドではどちらかというと裏方的存在のベーシストやドラマーといったリズム隊にメンバー・チェンジがあっても余程のことがない限りバンド全体の音がガラリと変わってしまうなんてことは滅多にないが、バンドの顔ともいえるヴォーカリストの交代は一大事である。ハッキリ言って全く別のバンドに変わってしまうようなものだ。そうなると大抵の場合、ファンの支持を失ってバンドは失速していくものだが、このヴァン・ヘイレンはそのようなヴォーカリスト交代劇を乗り越えて更にパワー・アップしていった稀有なバンドである。
 彼らはアメリカのバンドでありながらそのデビュー・アルバムはまるでバリバリのブリティッシュ・ハードロックのようなテンションの高さを誇っていた。しかしアルバムを出すごとにアメリカナイズされていき、5枚目の「ダイヴァー・ダウン」に至っては人気は高かったものの、「ダンシング・イン・ザ・ストリート」や「ビッグ・バッド・ビル」、「ハッピー・トレイルズ」みたいな、とてもハードロック・バンド向きではないカヴァー曲(←デイヴの趣味で、エディは演りたくなかったらしい...)が入っていた。6枚目の「1984」からは「ジャンプ」が5週連続全米№1という大ヒットを記録したが、 “一緒にビッグ・ロックを楽しもうぜ、ワォー!!!” みたいなノリのノーテンキなアルバムで、初期のアルバムが持っていた緊張感が大好きだった私も “まぁアメリカのバンドやからしゃあないか...” と半ば割り切って「1984」を楽しんでいた。
 そんなヴァン・ヘイレンの余興演芸部門担当(?)というべき “腰振りデイヴ” が出したBB5のカヴァー「カリフォルニア・ガールズ」が元曲の良さとお色気ビデオのおかげもあって大ヒットしてしまい、ソロで十分やっていけるとふんだデイヴはついにバンドを脱退、エンターテイメント部門を失ったヴァン・ヘイレンはその後釜として正統派のロック・ヴォーカリスト、サミー・ヘイガーを迎え入れ、絵に描いたような “胸毛系のバンド(笑)”から “アメリカン・ロックの王道バンド” へと見事な変貌を遂げることになる。そんな新生ヴァン・ヘイレンの名刺代わりの1枚がこの「5150」なのだ。
 旧ヴァン・ヘイレンのアルバムにはオリジナル、カヴァー、そしてノヴェルティー・ソングという奇妙な構成のものもあり、それが中途半端な印象を与えていたが、この「5150」は全曲オリジナルでビシッとキメている。サミーの加入によって4人の目指すベクトルの方向性がピッタリ一致し、バンドとして進化・深化した証だろう。サウンド面でも「1984」から強まりつつあったメロディアスなハードロック路線を更に推し進め、そこにサミーのエモーショナルで力強い歌声が見事にハマッて素晴らしいニュー・ビッグ・V・サウンドが生まれたというわけだ。
 ①「グッド・イナフ」はサミーの “ヘッロウ ベイ~ベッ!” という第一声から始まる、いかにもヴァン・ヘイレンらしい攻撃性を持ったハードなナンバーで、バンドが一体となって突っ走る様がビンビン伝わってくる。アルバム冒頭から超ド級のパワーが全開だ。ファースト・シングル②「ホワイ・キャント・ジス・ビー・ラヴ」は全米3位まで上がった新生ヴァン・ヘイレンの大ヒット曲で、デイヴ時代のようなハチャメチャな派手さはないものの、逆に演奏の重心が下がってバランスの取れたサウンドになっており、ポップでもありヘヴィでもあるという二面性をホットなグルーヴ感で見事にまとめ上げている。このあたりのセンスの良さはさすがと言う他ない。③「ゲット・アップ」は「ホット・フォー・ティーチャー」を彷彿とさせる疾走系のナンバーで、エディのトリッキーなプレイが堪能できる。ドラムのアレックスもエエ仕事しとります(^.^) 
 カラッと晴れ上がったカリフォルニアの青空が似合いそうな④「ドリームス」は聴いてて爽快な気分になれるキャッチーな曲で、サミーのハイトーン・ヴォイスが炸裂し、エディのギターが暴れまわるという、ニュー・ヴァン・ヘイレンの充実ぶりを象徴するナンバーだ。⑤「サマー・ナイツ」はエディの変幻自在なテクニックが全開で、サミーのタメの効いたヴォーカルがめちゃくちゃカッコイイ。サビのメロディーといい、マイケル・アンソニーのバック・コーラスといい、これはたまらんなぁ... (≧▽≦) 尚、B'zの「リアル・シング・シェイクス」はこの曲への松本さんなりのオマージュだろう。
 ミディアム・テンポで単純なリフの繰り返しが快感を呼ぶ⑥「ベスト・オブ・ボス・ワールズ」はライブで最高に活きるノリを持った曲で、私はこのヘヴィーなグルーヴ感が大好きだ。聴けば聴くほどクセになるスルメ・チューンだと思う。⑦「ラヴ・ウォークス・イン」はプロデューサーであるフォリナーのミック・ジョーンズ(←この人選は納得いかへん!)の色が非常に濃いバラッドで、良い曲だとは思うが何もヴァン・ヘイレンがやらんでも...と思う。こーゆーのはフォリナーでやってくれ(>_<) ⑧「5150」はまずイントロの軽快なリフにウキウキワクワクさせられる。他のギタリストにはとても弾けないような独創的なフレーズのアメアラレ攻撃がたまらない。④と共にドライヴの BGM に最適なノリノリのナンバーで、まさにアメリカン・ロックの王道を行く1曲だ。⑨「インサイド」はあまりよく分からんのでパスです(笑)
 このように素晴らしい曲が一杯詰まった大傑作アルバムなのだが、唯一の不満はシンセサイザーを多用しすぎなこと。私はジャズでもロックでもシンセの軽薄な音が肌に合わないので、大ヒット曲「ジャンプ」の影を引きずっているのか、あるいはプロデューサーの趣味なのかは知らないが、できることならこのメンツでシンセ抜き、 1st アルバムみたいなバリバリのギター・サウンドを聴かせてほしかった... というのは贅沢な望みだろうか?

Van Halen - LIVE - "Best Of Both Worlds'

「ベサメ・ムーチョ」特集

2009-08-25 | Cover Songs
 日本の夏はキンチョウだが、音楽ファンの夏はラテンである(←何でやねん!) アレコレ細かいことを気にせずにノリノリのラテン音楽に身を任せれば日頃のキンチョウから解放される(はず?)。というわけで前回は「ティコ・ティコ」を取り上げたが、ラテンの曲で一番有名なのは何と言っても「ベサメ・ムーチョ」(ウチの母親でも知ってた...)である。この曲は1941年にメキシコの女性作曲家コンスエロ・ベラスケスによって書かれたもので、英語に訳せば “Kiss me much” だから単なるラヴ・ソングと思われがちだが、元々は病に侵され死期の迫った男が妻に向って言った言葉から生まれたらしい。ここでも又、名曲の陰に人生ありなのだ。この曲はちょうどスイング期にあったアメリカ音楽界に紹介されて以来、トリオ・ロス・パンチョスを始め数え切れないほどの歌手やバンドにカヴァーされてきたが、中でもジャズ・ミュージシャンはこの曲が大好きみたいで、アート・ペッパー、ウエス・モンゴメリー、カーティス・フラー、グラント・グリーンと名演が目白押しだし、ヴォーカルでもジュリー・ロンドンやイヴ・ボスウェルらが名唱を残している。
 私がこの曲を知ったのは遙か昔、映画「レット・イット・ビー」の中でポールが朗朗と歌い上げるヴァージョンを聴いた時で、その時はあまり感じるものがなかったのだが、暫くして、ビートルズがデビュー前にハンブルグのスター・クラブで演奏した同曲のロックンロール・ヴァージョンを聴いていっぺんに好きになった。だから今でもこの曲は原曲に忠実なボレロ調のヴァージョンよりも、アップテンポなアレンジのカヴァーに魅かれてしまう。ということで今回も裏街道まっしぐら、オラオラ系ベッサメ大会です:

①Beatles
 ビートルズはこの曲がお気に入りのようで、デッカのオーデションやアンソロジー1、そして映画「レット・イット・ビー」でも聴くことができるが、私が一番好きなのはハンブルグのスター・クラブにおける火の出るようなロックンロール・ヴァージョン。音は悪いがそのハンデを跳ね返して尚且つお釣りがきそうなほどの熱い演奏が圧巻で、私にとっての最高最強ベッサメである。この血沸き肉踊る破天荒なエネルギーの奔流を全身で受け止めることこそがビートルズを聴くということなのだ... cha cha boom!!!
The Beatles - Besame Mucho (Live at the Star Club April 1962)


②Ventures
 「マイ・ボニー」や「スワニー・リヴァー」、「ダーク・アイズ」といった名曲たちを片っ端からツイスト・カヴァーしたアルバム「ツイスト・パーティー Vol. 2」に入っていたスタジオ・テイクも味があって捨てがたいが、やはり「ベンチャーズ・イン・ジャパン Vol. 2」に入ってる65年夏のライブ・ヴァージョンがベストだろう。因みにこの YouTube ではヘンな外人ビン・コンセプションのめっちゃ怪しいMC(スペインの曲とちゃうでぇ~) が聞けるというオマケつき(笑)
THE VENTURES { BESAME MUCHO } LIVE AUDIO TRACK


③江利チエミ
 名盤「チエミのスタンダード・アルバム」の冒頭を飾るのがこれで、当時22才だったチエミが切々と歌う前半部分も渋いが、2分ジャストから一気にギアをトップに入れて元気ハツラツ、コモエスタなノリで一気に歌い切る後半部分が何と言ってもこの曲のハイライト(≧▽≦) “which means!” の掛け声でスペイン語から英語にスイッチするところもめちゃくちゃカッコイイ!躍動感溢れる伴奏は見砂直照と東京キューバン・ボーイズだ。
チエミのベサメムーチョ


④Charlie Norman
 チャーリー・ノーマンはブギウギ・ピアノの楽しさを教えてくれるスウェーデンのピアニスト。いきなりバロック調の華麗なイントロから入って ??? と思わせておいて、突然リズム隊が乱入、気がつきゃジェリー・リー・ルイスもビックリの火の玉ロック状態である。途中で「バークス・ワークス」のブルージーなフレーズを挿入するなど、独特の解釈が楽しい “ブギウギ・ベッサメ” なのだ。
チャーリーノーマン


⑤Dalida
 「悲しき天使」、「ビキニスタイルのお嬢さん」大会に続いて今年3度目の登場となるエキゾチックなフレンチ美女、ダリダ。彼女の手にかかればラテンの名曲もあっという間にアップテンポのダンス・ナンバーに早変わり。その唯一無比のハスキー・ヴォイスでエモーショナルな歌声を聴かせる彼女のベサメには、バックのサウンドがどうであれ、そんなこと関係なしに聴かせてしまう不思議な吸引力がある。何でこの人の日本盤出ぇへんのやろ?
Dalida - Besame mucho

P-Rhythm / 森川七月

2009-08-24 | Jazz Vocal
 昨日に続いて今日も森川七月、なっちゃんでいこう。彼女のデビュー・アルバム「& ジャズ」はスイング・ジャーナルみたいな音楽雑誌がプッシュする多くのエセ・ジャズ・ヴォーカル・アルバムを一瞬にして闇に葬り去るほどの衝撃性を持っていた。彼女はいかにも “日本人が歌っています” 的な不自然さがつきまとう凡百の日本人シンガーとは生まれ持った声質、リズムへの乗り方、ダイナミックなスイング感と、すべてにおいて次元が違う本格派ヴォーカリストで、私の知る限り、日本のジャズ・ヴォーカル界にとって10年に1人の逸材だと思う。しかし実力だけでは成功しないのがこの世界、サバイバル・レースの勝利者となるためにはその素晴らしい個性をいかに多くの人々に知ってもらうかが大きなポイントになってくる。そういう意味ではデビュー・アルバムで高い評価を得た彼女は新人としての第1ハードルを見事にクリアし、勝負を誰もが期待する2作目へと持ち込んだのだ。
 ジャンルを問わず音楽シーンのジンクスとして、新人にとって2作目のアルバムというのは鬼門である。デビュー・アルバムで自分のやりたいことをやり尽くしたというケースも多く、選曲面での新鮮味をも含めた楽曲の充実を継続するのも難しいのだ。ましてや1作目が好評であれば当然まわりの期待も高まるし、それに比例してプレッシャーも大きくなる。そんな中、彼女の 2nd アルバム「P-リズム」はまったくタイプの違う3人のアレンジャーを起用し、スインギーでストレートアヘッドなフォービート・ジャズ中心だった 1st に比べ、どちらかというとスロー・バラッド色の強い落ち着いた内容になっている。
 彼女の言葉によるとアルバム・タイトルの「P-リズム」は「プリズム」、つまりプリズムのレンズのようにジャズやポップスの名曲を通して7色の楽しみ(何ちゅーても “七月” やからね...)を聴く人に与えたいとのこと、しかもP は Pops の P をも意味し、 “ポップなリズム” という気持ちも込めたという。中々粋な発想だ。アルバムはビル・エヴァンスで有名な①「マイ・フーリッシュ・ハート」で始まるが、ギターとのデュオという超シンプルなフォーマットによって彼女の甘くて切ない歌声が際立っている。ムードたっぷりな歌い方が曲想とバッチリ合ってて中々エエ感じだ。②「ザ・シャドウ・オブ・ユア・スマイル(いそしぎ)」ではアコギのリズム・カッティングとパーカッションが生み出すレイドバックした雰囲気の中、しっとりとした歌声を聴かせる彼女には風格すら感じられる。「レッツ・ダンス」のヒットで知られるクリス・モンテスの1966年のカムバック・ヒット③「コール・ミー」ではギター、パーカッションとのトリオというシンプルな編成で、ミディアム・テンポで気持ち良さそうにスイングしており、バックの女性コーラスも清涼感アップに一役買っている。
 ④「愛のコリーダ」ではクインシー・ジョーンズの名刺代わりのダンス・ナンバーを大胆不敵に超スローの低空飛行。実に不思議なグルーヴ感だ。続く⑤「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」では1930年に作られたこの古い歌にパーカッションのチャカポコ・リズムやレゲエ独特のベース・ライン、そしてラスタなキーボードが付けるアクセントによって強調されたバック・ビートというユニークなレゲエ・アレンジを施しているが、何だか痛車のペイントをされたクラシック・カーみたいな感じは否めない。ドライバー(= 歌い手)が超一流なので救われてはいるが、前作でも見られたアレンジのやり過ぎが本作にも散見される。特に彼女のような素晴らしい歌手の場合は味付けに凝り過ぎて素材本来の美味さを殺してしまう下手くそな料理みたいにあれこれ小賢しいアレンジに走らず、もっとストレートに歌わせた方が絶対にエエと思うけどなぁ...(>_<) 所属レーベルの GIZA studio というのがビーイング傘下のレコード会社ということで、その点だけが心配だ。
 ⑥「マシュ・ケ・ナダ」はノリノリで弾けるようなボッサ・チューンで、慣れないポルトガル語に挑戦しながらも見事なグルーヴ感を生み出す彼女はただ者ではない。やっぱりアップ・テンポの曲が入るとアルバムが引き締まってエエもんだ。次作ではこの流れで「リカード・ボサノヴァ」あたりを歌ってくれたらめっちゃ嬉しいねんけど。マライア・・キャリーのカヴァー⑦「アイ・スティル・ビリーヴ」は小学生の時にこの曲ばかりを聴いていたという思い入れの深い曲ということで、なっちゃん気合い入りまくり...(^.^) 自らの持ち味を存分に活かしたメローでしっとりした歌声は言葉を失う素晴らしさだ。
 ⑧「クロース・トゥ・ユー」はアレンジがマヌーシュ・ギタリストの井上知樹氏(カフェ・マヌーシュの山本佳史氏とも共演していた人)だけあって、意表を突いてアップ・テンポのスインギーなジプシー・ジャズが展開される。ほぼ100%バラッドだろうとタカをくくっていたのでこれにはビックリするやら嬉しいやら...(^o^)丿 こんな楽しい「クロース・トゥ・ユー」は他ではちょっと聴けません。しかも彼女のヴォーカルはそれまでの自分のスタイルを少し変え、まるでカレン・カーペンターが乗り移ったかのような、しなやかさの中にも芯の強さを感じさせるような歌声なのだ。いやはや、まったく凄いヴォーカリストが現れたものだ(≧▽≦) ラストを締めくくる⑨「ミスティ」ではシンプル&ストレートにこのスタンダード・バラッドの定番曲を歌う。このシックな雰囲気がたまりません...(^.^)
 すっかり彼女の大ファンになった私はネットで彼女のオフィシャル・サイトを見つけ、そこから彼女のブログ(ブックマークにも入れときました)に辿り着いたのだが、読んでみるとこれがもうめちゃくちゃ面白い。素顔の彼女はこの7月に24才になったばかりのごくごくフツーの女の子で、それもコッテコテの大阪娘(笑)なのだ。それが一旦歌い出すとまったく別人のように風格さえ感じさせる圧倒的な歌声で聴く者を虜にしていく。そのギャップがこれまた面白い。 “声だけで聴きたくなる” シンガー、森川七月。次のアルバムが今からもう待ちきれない。

↓3分43秒からがなっちゃんの出番。前後の歌手とはヴォーカルの吸引力が月とスッポンほど違う。
6/21 hillsパン工場 saturday live

& Jazz / 森川七月

2009-08-23 | Jazz Vocal
 音楽ファンの楽しみの一つは未知のアーティストとの出会いである。特にリアルタイムで活動しているマイナーなアーティストの中からダイヤモンドの原石を掘り当てた時の喜びは格別なモノがある。私は古い音楽ばっかり聴いていてコンテンポラリーな音楽シーンに非常に疎いため、中々そういった幸運には恵まれないのだが、つい最近めちゃくちゃ素晴らしい女性ヴォーカリストに巡り合った。それが今日ご紹介する森川七月(なつき)、愛称 “なっちゃん” である。
 彼女のことを知ったのはいつものようにアマゾンでジャズ・ヴォーカル関連のアルバムを見ていて、例のおせっかいな(笑) “この商品を買った人はこんな商品も買っています” 欄にたまたま彼女のアルバムが入っていたのが事の始まり。何の気なしにクリックしてみるとアルバムの選曲がめっちゃツボだったのでとりあえず聴いてみたくなり、アマゾンには試聴システムがなかったので iTunes ストアで検索すると一発ヒット、試聴クリックしてみるとパソコンのショボいスピーカーからそんなハンデをものともしない、実に感じの良い歌声が聞こえてきたのだ。どの曲をクリックしてもハズレ無しの素晴らしさ。これは凄い!!!と大コーフンしてしまい、真夜中だというのに時間も忘れて彼女の他のアルバムを全てチェック、その声にすっかり惚れ込んだ私が彼女の全アルバムをオーダーし終えた頃には東の空が白み始めていた。
 2日後に届いたのは実姉の森田葉月とのデュオ・ライブ盤「ジャズ・カヴァー」、ソロになっての 1st 「& ジャズ」、 2nd 「P-リズム」、そして 3rd 「プリマヴェーラ」の計4枚である。それぞれ特徴があって素晴らしいのだが、中でも彼女にハマるきっかけとなったソロ・デビュー作「& ジャズ」が一番気に入った。
 私の場合、ヴォーカルでもインストでも初めて見るCDはまずその収録曲目をチェックする。過去の経験から言って、曲の趣味が似ているアーティストはたいてい歌や演奏も当たりの可能性が高い。上に書いたようにこのアルバムの収録曲はコワイほど私の愛聴曲ばかりで、特に①から④へと続くスインギーな流れは圧巻だ。その①「ララバイ・オブ・バードランド」、関西ジャズ界の重鎮である魚谷のぶまさ氏(高槻ジャズ・ストリートでの歌心溢れるベース・プレイは凄かった...)の力強いベース・ソロに続いて彼女の歌声がスルスルと滑り込んでくる瞬間がもうゾクゾクするほど素晴らしい!その水も滴るしっとりヴォーカルは絶品で、これがホンマに22才の歌声なのか??? と疑いたくなる。英語の発音も他の日本人シンガーに比べると遙かに上手く、magic が “マズィック” に聞こえる以外は違和感はまったくない。続く②「オール・オブ・ミー」では一転してジャンゴ・スタイルで軽やかにスイングする。その表現力はお見事、という他ない卓越したもので、私はポリー・ポードウェルの名唱を思い出してしまった。③「イッツ・ア・シン・トゥ・テル・ア・ライ」ではイントロから 1st ヴァースの部分に昔のラジオから聞こえてくるようなエフェクトをかけて古き良き時代の雰囲気を醸し出しておいて 2nd ヴァースからいきなり21世紀へと瞬間移動したかのような粋な演出で楽しませてくれる。これは彼女のアイデアなのかな?もしそうだとしたら空恐ろしい22才だ。それもこれも含めて、私が今まで聴いてきた中でこの曲のダントツ№1ヴァージョンだと思う。
 快調に飛ばすブラッシュに乗って絶妙なスイング感を披露する④「ラヴァー・カム・バック・トゥ・ミー」と、バラッドでも安定感抜群なところをみせる⑤「スターダスト」というこの2曲の流れはひょっとして美空ひばりを意識してのものだろうか?いやはや、まったく凄い新人が現れたものだ。意表を突くラテンでコモエスタな⑥「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」でも、とても新人とは思えない堂々たる歌いっぷりを披露する。ややアレンジが凝り過ぎの感があるがそれを補って余りあるような深~い歌声がたまらない⑦「アントニオズ・ソング」、ブルージーなスライド・ギターをバックにアンニュイなヴォーカルを聴かせる⑧「ホワイ・ドンチュー・ドゥ・ライト」、タンゴ・アレンジが斬新な⑨「ア・テイスト・オブ・ハニー」と実にヴァラエティーに富んだナツキ・ワールドは一度ハマると抜け出せない。
 キャロル・キングの⑩「イッツ・トゥー・レイト」とエルトン・ジョンの⑪「ユア・ソング」というポップス・カヴァーは多分彼女自身が好きで歌いたかったのだろう。どちらも気持ちの込もったヴォーカルを聴かせてくれる。それにしてもホントに惚れ惚れするような深みのある声の持ち主だ。この1週間、スーパー・ヘヴィー・ローテーションで聴きまくっているが、飽きるどころかずーっと聴いていたいと思わせる素晴らしさ。綾戸智絵系のソウルフルなヴォーカルとは対極をなす、深みのあるしっとり系の本格派ジャズ・ヴォーカルが好きな人に絶対的にオススメの、超大型新人の登場だ!!!

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Boots / Nancy Sinatra

2009-08-22 | Oldies (50's & 60's)
 私の座右の銘に “女性ヴォーカル盤はジャケットで買え!” というのがある。もちろん中身の音楽を聴くために買うというは正論中の正論なのだが、ジャケットが魅力的であれば万が一中身がハズレでも救われるし、好ジャケ盤はたとえ聴かずとも見るだけで永久保存の価値があると思う。ジャズ・ヴォーカルを聴き始めた頃、ジュリー・ロンドンやティナ・ルイスはその魅惑のジャケット目当てにオリジナル盤を買い集めたものだったが、ポップ歌手ではこのナンシー・シナトラがジャケ買い候補の筆頭(笑)である。
 彼女はその名の示す通りあのフランク・シナトラの長女で、61年に父フランクが設立したリプリーズ・レーベルからレコード・デビュー。当時の音楽界の状況を反映してカワイコちゃんアイドル路線で売り出し、日本ではイントロの “ジョニボーイ、テイキッスロー... ♪” の悩ましい囁きがたまらない「レモンのキッス(ライク・アイ・ドゥー)」を始め、「イチゴの片想い(トゥナイト・ユー・ビロング・トゥ・ミー)」や「フルーツ・カラーのお月さま(アイ・シー・ザ・ムーン)」、「リンゴのためいき(シンク・オブ・ミー)」といったフルーツ路線の邦題もあって “フルーツ娘” として親しまれたが、本国アメリカではテディ・ベアーズの「会ったとたんに一目惚れ」(アメリカではこの曲のB面が「レモンのキッス」だった...)やコール・ポーターの「トゥルー・ラヴ」といった名曲のカヴァーをシングル・カットしたものの、まったくの鳴かず飛ばずで、チャートの100位にすら入らなかった。まさにナンシー不遇の時代である。そんな彼女に転機が訪れたのがプロデューサー、リー・ヘイゼルウッドとの出会いだった。彼はアストロノウツ一世一代の名曲名演「太陽の彼方」(例の “ノッテケ ノッテケ ノッテケ サーフィン♪” ってヤツです)の作者として有名で、ナンシーのキャラを “親の七光りカワイコちゃん歌手” から “攻撃的でセクシーな大人の女” へと変身させた。それが見事に当たり、フォーク・ロック調の⑧「ソー・ロング・ベイブ」が初のトップ100入り、続いてリリースされた⑤「にくい貴方(ジーズ・ブーツ・アー・メイド・フォー・ウォーキン)」が初の全米№1に輝く大ヒットを記録したのだ。とてもあの「レモンのキッス」でブリブリとカワイコぶってたアイドル歌手と同一人物とは思えないパンチの効いた歌い方がめちゃくちゃカッコ良いナンバーで、特に1分52秒で彼女が叫ぶ “ハッ!!!” なんかもうたまらんなぁ... (≧▽≦)  「ラバー・ソウル」の残り物のようなドデカいタンバリンの音といい、音が少しずつ下がっていく印象的なベース・ラインといい、妙に耳に残るバックの演奏がいかにもこの時代の音と言う感じで私はこのチープさ加減が大好きだ。このアルバム「ブーツ」はそんな彼女のファースト・アルバムで、先にシングル・カットされた2曲以外は大半が当時の人気バンドのカヴァー曲で占められている。
 ストーンズの①「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」は当時世界的に流行していたボッサを巧みに取り入れたアレンジが秀逸で、続くビートルズの②「デイ・トリッパー」と共に彼女のロックンロール志向を如実に物語っている。その②ではアルマ・コーガンを不良化させたようなヴォーカルが面白い。「ブリリアント・ディスガイズ」なメロディーが清々しい③「アイ・ムーヴ・アラウンド」、タートルズがカヴァーしたディラン曲④「イット・エイント・ミー・ベイブ(悲しきベイブ)」の2曲はビリー・ストレンジのポップなアレンジが活きている。ウォーカー・ブラザーズの⑥「イン・マイ・ルーム(孤独の太陽)」とニッカ・ボッカーズ⑦「ライズ(いつわり)」は可もなく不可もなくといった感じだが、アルバム全体を⑤のカラーで統一しようという意図はよくわかる。⑨「フラワーズ・オン・ザ・ウォール」は③④同様、ビリー・ストレンジのカラーが強く出たキャッチーな曲。⑤の使い回しのような例の音が少しずつ下がっていくベース・ラインの大盤振る舞いがめっちゃ笑えるなぁ(^.^) アルバムのラストは再びビートルズのカヴァーで⑪「ラン・フォー・ユア・ライフ」なのだが、この曲の歌詞の内容から言っても女性シンガーによるカヴァーはかなりレア。歌詞の girl を boy に変え、I’d rather see you dead, little boy, than to be with another girl(アナタが別の女といるのを見るくらいなら、死んでもらった方がマシよ)とか、Catch you with another girl, that’s the end... you hear me?(浮気の現場を押さえたら、ただで済むと思わないでね、わかった?)とドスの効いた低い声で凄むナンシー姐さんにはクラクラする。この⑪は⑤と並ぶ私の愛聴曲で、 “名門シナトラ一家の不良娘” の面目躍如たる1曲だと思う。
 最初に書いたように彼女のアルバムはフェロモン度数の高いジャケットが多くてどれか1枚、と言われると悩んでしまうが、内容で言えば文句なしにこのデビュー・アルバムを推したい。

Nancy Sinatra - These Boots Are Made For Walking (1966)


RUN FOR YOUR LIFE / Nancy Sinatra (Music Only)

ティコ・ティコ / グラント・グリーン

2009-08-21 | Standard Songs
 昔からジャズとラテン音楽は切っても切れないほど密接な関係で、「ベサメ・ムーチョ」、「フレネシー」、「タブー」etc は今や立派なスタンダード・ナンバーだし、ペギー・リーやドリス・デイ、ジュリー・ロンドンのようにラテン曲を集めたアルバムを出すシンガーも多かった。そんなラテン系スタンダード・ナンバーの中で私が一番好きなのがこの「ティコ・ティコ」である。G3 の定例会で私がこの曲を出すと plinco さんも 901 さんも “出たぁ!ホンマにその曲好きやなぁ...(^o^)丿” と大笑いされる。この曲は実に妖しく美しい旋律を持っており、それが私の好みにピッタリ合ってしまったと言うしかない。元々は軽快なサンバっぽい曲調で、ラテン音楽の王様ザビア・クガート楽団やハモンド・オルガンの女王エセル・スミスの演奏でヒットしたが、私はどちらかというと、バリバリのラテン・バンドによる演奏よりも他ジャンルのアーティストがそれぞれの持ち味を活かしてカヴァーしたヴァージョンが好きだ。そもそも私がこの曲にハマるきっかけになったのはジャズ・ギタリスト、グラント・グリーンのヴァージョンで、コードワークやオクターブ奏法などをほとんど使わずに R&B 的なフレージングを随所に交えてただひたすら淡々と弾きまくるシングル・トーンがこの曲の持つ妖しい魅力を増幅させていて、それ以来すっかり “ティコ・ティコ・マニア” になってしまった。今日はそんな私のオススメ・ティコ・ティコを5連発:

①Andrews Sisters
 以前「素敵なあなた」でも取り上げたアンドリュース・シスターズは私の大のお気に入り。1930年代後半から40年代前半にかけてミリオン・ヒットが15枚というのも凄いが、その後のシスターズ系コーラス・グループは大なり小なり彼女らの影響を受けており、そういう意味でももっと評価されてしかるべき偉大な存在だと思う。その力強い三声一体のハーモニーは今の耳で聴いても実に新鮮だ。
Tico Tico - Andrews Sisters


②Paula Green
 1930年代後半から1940年代にかけてはバンド・シンガー百花繚乱の時代だったが、このポーラ・グリーンもそんな一人。これは1945年にピーター・アキスターの指揮の下、ちょうどその前年に公開されたミュージカル映画「世紀の女王」の挿入歌だったこの曲を彼女が自らの楽団をバックに吹き込んだもので、時おりフェイクを交えながら見事なヴォーカルを聴かせてくれる。
ポーラ・グリーン


③Grant Green
 ゴスペルを演ろうが、普通のスタンダードを演ろうが、ラテンを演ろうが知ったこっちゃない、俺にはこれしかないんや、とばかりにひたすら単音ピッキングで攻めまくる “偉大なるワン・パターン・ギタリスト”、グラント・グリーン。彼の持ち味である R&B 的ねちっこさと軽快なラテンのリズムが絶妙なマッチングをみせている。この曲にはそこはかとなく哀愁が漂っており、グリーンのシングル・トーンがシンプルなだけに、余計に胸に迫るものがあるように思う。この「コーヒー・ルンバ」みたいな味わいがたまらんなぁ...(≧▽≦)
Grant Green - Tico Tico


④Rosenberg Trio
 ジプシー・スウィング・ジャズの第一人者、ローゼンバーグ・トリオが小気味良いリズムに乗って疾走するこの超高速ヴァージョン、発想の原点はストーケロが影響を受けたフラメンコ・ギターの神様パコ・デ・ルシアによる超絶カヴァーだろう。アップ・テンポの曲を得意とするローゼンバーグ・トリオならではのカッコイイ演奏で、駆け抜けるようなスピード感といい、うねるようなグルーヴ感といい、すべてが圧巻だ。
ローゼンバーグトリオ


⑤Frank & Joe Show
 若手ジプシー・ギタリストのホープ的存在であるフランク・ヴィニョーラと変幻自在のドラミングでエディ・ヒギンズ・トリオの根底を支えるジョー・アショーネが組んだ “フランク & ジョー・ショー” はポップス、ロック、ジャズ、ラテンからクラシックまで、様々なジャンルの名曲をひたすら楽しくスインギーに演奏するユニットで、ここでも二人は持てるテクニックのすべてを駆使してこのラテンの名曲に新たな生命を吹き込んでいる。
フランク & ジョー

ナゴリユキ / Kat McDowell

2009-08-20 | Cover Songs
 この前サンディー盤を取り上げた時に “曲の最中に言語をスイッチする歌い方が大好き” と書いた。そんな中でも特に日本語の元歌をセンス良くバイリンガル変換するようなヴァージョンには目がない。 MAYA の「私はピアノ」なんか “ポルトガル語と日本語” という非常にレアな組み合わせで、私には垂涎モノのカヴァーだったのだが、このキャット・マクドウェルの「ナゴリユキ」もそんなお気に入りの1枚だ。
 ウィキペディアによると、彼女はニュージーランド人の父と日本人の母を持つシンガーソングライターで、子供の頃から音楽に興味を持ち始め、母が大ファンだったイルカのアルバムを聴きいてヴォーカリストへの夢を抱くようになったという。ニュージーランド、イギリスでの音楽活動の後、日本で2007年にインディーズのレーベルからデビュー。この「ナゴリユキ」はマツモトキヨシのかぜ薬CMとして2008年頃にオンエアされていたらしいが関東中心ということで、奈良の田舎に住んでいてテレビを殆ど見ない私はまったく知らなかった。
 そんなある時、YouTubeの関連動画一覧の中にこの「ナゴリユキ」があって、たまたまクリックしてみてすっかりその面白さにハマッてしまったというわけなのだ。この手のバイリンガル・ヴァージョンはヴァースごとに言語を変えるのが普通なのだが、キャットは大胆にもフレーズごと、あるいは単語1語のみでチェンジするのでルー大柴みたいに聞こえてこれがもうめちゃくちゃ面白い。

  As I sit with you waiting for your train 時計を気にしてる
  季節はずれの snowflakes begin to fall
  東京で見る雪 yeah, you sigh, won't see this anymore
  さみしそうに I saw a tear well in your eye
  なごり雪も knows exactly when to fall    ←ワロタ(^o^)丿
  And the snow, it lingers on 季節のあとで

 ※ Darlin' you were never more beautiful than you are right now
   You could never be anymore beautiful right now ←ここカッコイイ!

  動き始めた汽車の window に顔をつけて    ←ルー語炸裂!
  You said something that I couldn't hear
  君の唇が good-bye と動くことが      ←日英トゥギャザーしてますな
  I was scared so 下を向いてた
  Seasons come and seasons go, and 幼い君も  ←この表現、渋いっ!!!
  大人になると you don't notice it at all

   ※ repeat

  君が去ったホームに残り
  落ちては融ける snowflakes 見ていた     ←まだやるか(>_<)

   ※ repeat

とまあ終始こんな具合いなのだ。初めて聴いた時、完全英語ヴァージョンかと思って聴いていて “時計を気にしてる~♪” で ??? となり、“季節はずれの snowflakes begin to fall ~♪” で面白っ!!! となったわけ。それにしてもこれまで色んな曲を聴いてきたが、 “なごり雪も knows exactly when to fall” って主語と述語を違う言語で聞くっていうのはめっちゃ新鮮やねぇ...(笑)
 こう書いてくると面白いだけの色物系かと誤解されそうだが、肝心の歌声の方も実に耳に心地良いもので、そのちょっと鼻にかかったような温かみのある声で舌っ足らずに歌うスタイルはリラクセイション溢れる癒し系。そんな歌声がレゲエ・タッチのユル~いアレンジ(プロデュースは例のカーペンターズ・レゲエ・カヴァーを出したパシフィスツの仕掛け人、屋敷豪太氏)とベストのマッチングを見せ、実にユニークな「ナゴリユキ」になっている。彼女の素朴で飾らない人柄が歌に滲み出ているような感じで好感度も抜群だ。これで良いオリジナル曲に巡り合えれば一気にブレイクするかもしれない。あるいは全曲英語スタイルで “昭和の名曲カヴァー集” なんて出してくれたら嬉しいなぁ... 私、絶対買いまっせ。
 尚、 YouTube では部屋ライブ形式でスピッツの名曲「チェリー」の完全 English Version (こっちはルーしてません!)も公開しており、これがまためちゃくちゃエエ感じに仕上がってるので興味のある方はご覧ください。



スピッツ - チェリー (English) cover by Kat McDowell

Chet Baker Sings

2009-08-19 | Jazz Vocal
 ここのところ毎日のようにヤフー・ニュースのトピックス欄を騒がせているのが芸能人の麻薬禍である。ラリピーの逃走→逮捕劇のおかげで世間はこの話題で持ちきりのようだが、シャブ中女が一人捕まったぐらいで何をそんなに大騒ぎしてるのかとアホらしくなってくる。CMのキャッチ・コピーにもあったように “覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?”というではないか? しかし麻薬先進国(?)である欧米の音楽界に目を転じれば、この “人間をやめることを選んだ元アイドル歌手” が小物に見えてくるほど深刻な状況だ。昔から “Sex, Drug, Rock'n Roll” という言葉の示す通りロック界と薬物とは切っても切れない関係で、ジミヘンやジャニスはそれで命を落としているし、クラプトンも廃人寸前までいったという。もっとえげつないのがジャズ界で、インプロヴィゼイションに必要なインスピレーションを得ようとして麻薬に手を出すというケースも多かったらしい。チャーリー・パーカー御大を始め、アート・ペッパー、ハンプトン・ホーズ、ソニー・クラークと、挙げていけばキリがないが、今日取り上げるチェット・ベイカーもそんな筋金入りのジャンキーだった。
 チェットはウエスト・コースト・ジャズを語る上で欠かせない名トランペッターで、1950年代にはその甘いルックスとマイルスさえ凌ぐと言われた見事なプレイで人気絶頂だったのだが、ドラッグに溺れて身を滅ぼしていく。ブルース・ウェバーというカメラマンが晩年の彼を撮影したドキュメンタリー映画「レッツ・ゲット・ロスト」で、若かりし頃の面影など微塵も感じられないほど頬がこけて落ち窪んだ眼をした、まるでシワシワの猿面冠者みたいなチェットが淡々と自分の薬物中毒について語る姿はインパクト絶大だった。あの映画を見れば余程のバカでもない限り薬物なんぞに手は出さんやろなぁ...(>_<) 晩年の柔らかいトランペットの音色と悲しげな歌声もそれなりに味があって悪くはないが、やはりベイカーといえば彼が全盛期に吹き込んだ初のヴォーカル・アルバム「チェット・ベイカー・シングス」に尽きるだろう。
 彼のヴォーカルの魅力を言葉で説明するのは難しい。一聴クールで淡々としていながら何故か心に染みてくる、けだるそうでありながら決して退屈じゃない、中性的ではあっても決してオカマっぽくはない... これらの一見矛盾するような要素こそが聴き手を彼の世界に引き込んでしまう魔性の魅力の秘密なのかもしれない。このアルバムを聴いていつも感心するのは、そんな彼の “力の抜き加減が絶妙な” ヴォーカルが彼のトランペットと見事なコンビネーションをみせていること。これこそまさに生粋のトランペッターだったベイカーがヴォーカルに求めたものであり、このアルバムの一番の成果だったといえるのではないだろうか?
 今、久しぶりにこのアルバムを聴き直しているのだが、やっぱりエエもんはエエなぁとつくづく実感させられる。全曲スタンダード・ナンバーで、それも彼の資質にピッタリ合ったものばかりが選ばれており、1曲1曲も素晴らしさもさることながら、曲と曲の流れが実にスムーズで、アルバム1枚で1つの大きな組曲のようにも聞こえる。だからスピーカーに面と向かって聴くのもいいが、BGM として小音量で流していると仕事が実によくはかどるのだ。又、間奏などで聴けるトランペット・ソロも短いながらキラリと光るもので、力を消去したかのようなヴォーカルのトーンとの連係も聴き所。特に⑫「ザ・スリル・イズ・ゴーン」の多重ヴォーカルと、それに絡むトランペットのオブリガートは絶品だ。
 全体的にスロー・バラッドが多く、どちらかというとアップテンポでスイングするジャズが好きな私は曲単位で拾い聴きする時はいつもCD選曲ボタンの①⑦⑪を押してしまう。私がこのアルバムを買ったのはジャズを聴き始めて間もない頃であり、まだ右も左も分からないような状態で聴いた1曲目の①「ザット・オールド・フィーリング」での、まるで鼻唄でも歌っているかのように気持ち良さそうにスイングするベイカーにすっかりハマッてしまったのだが、それと同時にこの曲そのものも大好きになった。今でも私にとって「ザット・オールド・フィーリング」といえばチェット・ベイカーなのだ。ガーシュウィンの名曲⑦「バット・ノット・フォー・ミー」や⑪「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」も、①同様にその曲の決定的愛聴ヴァージョンであり、気だるいムードで切々と歌いながら妖しげにスイングするチェットがたまらない(≧▽≦)
 スローな曲では③「ライク・サムワン・イン・ラヴ」が大好きで、流れるようなメロディーを持ったこの名曲を、ペットを演奏せずに歌のみで、訥々と歌うその歌声が逆に胸を打つ。続く④「マイ・アイディアル」も心に染み入るスウィートなバラッドで、ベイカーが一通り歌い終わった1分54秒のあたり、彼のペットがスルスルと滑り込んでくるその瞬間の快感は筆舌に尽くし難いものだ。ミディアム・テンポでスイングする⑥「マイ・バディ」や彼の得意曲⑭「ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング」でも変幻自在のペットとヴォーカルを聴かせるベイカーはまるで水を得た魚のようだ。
 デリケートな感性とセンシティヴな歌心でスタンダード・ナンバーの魅力を見事に引き出したこのアルバムは、チェット・ベイカーの求めた表現手段の究極の姿を捉えた1枚だと思う。

Chet Baker - But Not For Me

Storytelling Giant / Talking Heads

2009-08-18 | Rock & Pops (80's)
 初めて聴いた時は “何じゃこりゃ?” 状態だったものが、ふと何らかのきっかけで好きになったりするアーティストがいる。私にとってトーキング・へっズはそういうバンドである。彼らとのファースト・コンタクトは高校時代だったと思うが、確かテレビの深夜番組で音楽評論家の今野雄二氏が彼らの「サイコ・キラー」を紹介していたのを聞いて、“変な音楽やなぁ... 何このファファファファーファファ ファファファーファーベタ♪ って?” といぶかしく思いながらも、彼らのサウンドを “先進的” と絶賛する氏の論調の前に自分の感性が鈍いのだろうと納得してしまった。私はポップで分かり易い音楽が好きな一方で、知的でアートの薫りがする音楽に弱い。例えば70年代のデヴィッド・ボウイとか、ブライアン・イーノとか、スノッブな感じがしてどうも苦手なんである。これがグランジ/オルタナ系のロックとかフリー・ジャズのような騒音雑音の類なら自信を持って “問題外!”と切って捨てることが出来るのだが、インテリ系ロックは一応ちゃんとした音楽の体をなしているのでそうもいかない(>_<) こんな複雑な音楽、聴いててどこが楽しいねん、どーせ単純バカのワシには一生ワカランわい!と諦めて、その手の音楽の話題になると貝のように口を閉ざしていた。
 彼らに対するそんな見方が変わったのはその数年後、「ベスト・ヒット・USA」で彼らの②「ワンス・イン・ア・ライフタイム」という曲のビデオクリップを見た時だった。これは1980年のアルバム「リメイン・イン・ライト」からのシングルで、デヴィッド・バーンの歌うある種つかみどころのない摩訶不思議なメロディーが妙に耳に残り、ポップ・ソングのあるべき姿からはかけ離れた異端なサウンドながら、今度はその変な味が病みつきになってくるのだ。それと同時に一度見たら忘れられないような彼の痙攣ダンスもインパクト絶大で、私は苦手だったトーキング・ヘッズをヴィジュアルの助けを借りながら徐々に好きになっていった。因みに小林克也さんがバンド名の由来(トーキング・ヘッズとは “喋る顔” 、つまりテレビ業界の専門用語で “クローズアップ” の意味)を教えて下さったのを今でもよく覚えている。
 次に見たのは彼ら初のミリオン・セラー・アルバム「スピーキング・イン・タングズ」からカットされ、彼らにとって唯一の全米Top 10ヒットとなった⑥「バーニング・ダウン・ザ・ハウス」で、そのサウンドはアフリカン・ポリリズムを大胆に取り入れた複合リズムが面白いユニークなものだった。ビデオの方もワケがわからんストーリーながらやはり印象に残るもので、②と同様、 “ちょっと変やけど、そこがエエねん” という感じで繰り返し聴いていた。奇妙でユーモラスでエキセントリック... 今にして思えばこの頃がヘッズ中毒症状の初期段階だったのだろう。
 1985年にはエスニックな薫りを残しながらもアメリカのバンドであることを強く意識させるようなサウンドを大胆に導入した「リトル・クリーチャーズ」をリリース、何とダブル・ミリオンを記録して彼ら最大のヒット・アルバムになったのだ。 1st シングル⑪「ロード・トゥ・ノーウェア」もそれまでとは打って変わったように親しみやすいメロディーを持った行進曲調のナンバーで、日本でもホンダ・シティーのCMソングとしてテレビで頻繁に流れていたので覚えている方もおられるかもしれない。ビデオ・クリップもデヴィッド・バーンが前のめりになりながらひたすら曲のリズムに合わせて走り続ける姿が何とも滑稽で、録画したビデオを何度も繰り返し見て楽しんでいた。思えば②にせよ⑥にせよ⑪にせよ、ヘッズのクリップは彼の特異なキャラに負うところが大きい。そしてそれが音楽と一体となって映像に不思議な魅力を与えているのだ。ロック界広しといえども彼ほどキャラが立った存在はそうはいないだろう。同アルバムからの 2nd シングル⑦「アンド・シー・ワズ」もキャッチーなメロディーを持った曲で、一聴するととてもあのトンガリ系サウンドのバンドとは思えない変貌ぶりなのだが、カントリー・ミュージックのエッセンスを大量投下して外見のサウンドは聴き易くコーティングされていてもリズムへの拘りは相変わらずで、むしろより洗練されつつあったと言えるかもしれない。
 1986年のアルバム「トゥルー・ストーリーズ」はテックス・メックスなどアメリカ南部の薫りがうまく散りばめられた好盤で、 1st シングル③「ワイルド・ワイルド・ライフ」は曲そのものよりも当時全盛を極めていたMTVを意識したビデオ・クリップ(ビリー・アイドルやプリンスのソックリさんが出てた!)が面白かったが、逆に何でヘッズがここまで大衆に迎合せなならんねん(>_<)という気持ちにもなった。まぁ当時はあのピーガブでさえ「スレッジハンマー」でビデオ大賞取ってたぐらいやから、猫も杓子も MTV っていう時代の流れってやつなのかもしれない。続く 2nd シングル⑩「ラヴ・フォー・セール」はヘッズにしては実にストレートアヘッドなロックンロールで、彼らの私的ベスト3に入れたいぐらい大好きな1曲だ。ビデオクリップも凝っていて、アメリカのテレビCMを徹底的にパロッたようなその作りはまるでCM 優秀作品集のダイジェスト版を見ているかのような底抜けの面白さ。特にメンバーがチョコレートの海に飛び込むシーンがインパクト大だ。
 このようにトーキング・ヘッズを映像中心で楽しんできた私にとって、ヘッズは “見る対象” というイメージが強く、彼らのヒット曲を中心に編集されたLD「ストーリーテリング・ジャイアント」が出た時はすぐに買いに走ったものだった。残念なことに未だに DVD 化されていないので、勝手にLDからDVDに焼いて楽しんでいる。おかげで今ではすっかりトーキング・ヘッズの大ファンで、昔ワケがわからんかった「サイコ・キラー」もすっかり愛聴曲の仲間入り... これだから音楽は面白い!!!


「ラヴァーズ・コンチェルト」特集

2009-08-17 | Cover Songs
 私にはお気に入りの音楽ブログがいくつかあって、ブックマークに入れていつも楽しませてもらっているのだが、音楽の趣味が似ているせいか、時々取り上げるネタがバッティングしたり、微妙にカスッたりすることがある。この「ラヴァーズ・コンチェルト」も実は「タミー」の次の “聴き比べ大会” 候補に考えていて、何の気なしに shoppgirl姐さんのブログを見ると、この曲のサラ・ヴォーン版が取り上げられていてビックリ... (゜o゜)、そーいえば以前ユーミン盤をアップした直後に姐さんのブログを見て、いきなりユーミンの記事が目に飛び込んできた時も腰を抜かしそうになったが、やっぱり偶然の一致ってあるもんですね(^.^) ということで、ほとぼりが冷めるのを待っていた(笑)のだが、もうそろそろエエかな? 私がこの曲にハマったのはスプリームズによるカヴァー・ヴァージョンを聴いてからで、 “スプリームズはシングルだけ” という俗説を木っ端微塵に吹き飛ばす素晴らしさ。それ以降この曲のカヴァーをコツコツと集め出したのだが、元歌であるバッハのメヌエットや定番のサラ・ヴォーン、オリジナルのトイズといった曲の出自に関しては姐さんの記事(←リンク張らせていただきます)をご覧いただくとして、ここでは私が個人的に愛聴しているヴァージョンをいくつかご紹介:

①The Supremes
 オリジナルのトイズをすぐにカヴァーしたのが同じガール・グループのスプリームズ。ダイアナの第一声 “ハ~ウ ジェントリザ レィ~ン♪” からしてもうヴォーカルの吸引力が月とスッポンほど違う。バック・コーラスも同様だ。よってトイズの存在が完全に消し飛んでしまったのも仕方のないことだろう。このスプリームズのヴァージョンこそ私の知る限りベスト・オブ・ザ・ベストなのだ。
The Supremes - A Lover's Concerto (Originally by The Toys) [I Hear A Symphony - 1966]


②Lennon Sisters
 レノン・シスターズといっても別にジョン・レノンの親類縁者でもなければ隠し子でもない。こちらはアメリカのレノンさんたちだ。彼女らはアネットも出演していた子供用テレビ番組「ミッキーマウス・クラブ」で1955年にデビューした四姉妹。その明るく美しいコーラス・ハーモニーはウキウキするような曲調との相性もバッチリで、この曲の隠れた名唱としてオススメだ。
レノンシスターズ


③ザ・ピーナッツ
 これはとってもレアなザ・ピーナッツ版ラバコンで、この名曲を彼女らの歌声で聴ける幸せを何と表現しよう? 特に 2nd ヴァースのアタマでハモるパートなんかもう涙ちょちょぎれる素晴らしさだ。ただ、唯一の汚点は1分45秒以降に登場するゲスト・ヴォーカルの布施明が出しゃばりすぎで鬱陶しいこと。遠慮するっちゅーことを知らんのか、コイツは(>_<) まぁどーせ渡辺プロの差し金だろうが、ザ・ピーナッツ単独か、声質の近い女性シンガーとの共演で聴きたかった。
ラヴァーズ・コンチェルト


④Pearls
 パールズは70年代前半にイギリスでブイブイいわしとった2人組ガール・ユニットで、60'sオールディーズを70's風な音作りでカヴァーしていた。その歌声は “チープなアバ” という感じで、バックの薄っぺらいサウンドはいかにも70's。このCDはわりと好きなのだが、ええかげんなマスタリングのせいで音が割れまくるのが難点。
パールズ


⑤薬師丸ひろ子
 私は80年代の一時期、薬師丸ひろ子にハマッてたことがあってCDも数枚持っているのだが、この曲はそんな彼女の作品中最も好きなナンバー。彼女の伸びやかで透明感溢れる歌声が希望に満ちた曲想とベストなマッチングを見せ、心を洗われるような、すがすがしい気分にしてくれる。凡百のJ-Pop シンガーたちとは激しく一線を画す歌唱力といい、包み込むような唱法といい、ホンマに癒されます... (≧▽≦)
Hiroko Yakushimaru : A LOVERS CONCERTO
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