4月にアマゾンで「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」や「ロック・ショウ」をチェックしていた時に、例の “この商品を買った人はこんな商品も買っています” 欄に今まで見たことのない、しかし明らかに「ラム」のデザインをパロッたような色使いのジャケットを見つけた。タイトルは「ピュア・マッカートニー」。早速チェックしてみると、ティム・クリステンセンというミュージシャンが我が最愛の「ラム」をライヴで完全再現したものだという。ティム・クリステンセン? 聞いたことのない名前だ。ル・マンで何度も優勝したレーシング・ドライバーのトム・クリステンセンなら知っているが...(>_<) YouTube でDVD Official Trailer を試聴(?)してみるとかなり良い雰囲気のライヴだ。コレを見て面白そうだなぁ...と思わなければポール・ファンではない。
Pure McCartney - Official DVD-trailer
「ラム」の完全再現というアイデアは何もこの「ピュア・マッカートニ―」が初めてというワケではなく、2年前にマイナー・レーベルからリリースされたデイヴ・デッパーの「ラム・プロジェクト」が最初だったと思うが、アレは多重録音を駆使してほとんど一人で作り上げたスタジオ録音盤で、その秀逸な発想には “ホンマによぉやるなぁ...” と感心はしたものの、音そのものはスカスカだったしアルバムとしてはイマイチ吸引力に欠けていたことも事実。カヴァー作品が “コレを聴くなら本物聴くわ” と言われないためには聴き手を魅きつけるサムシング・エルスが必要なのだ。
このアルバムは元々ティム・クリステンセンが去年の6月18日に彼の地元コペンハーゲンでポールの70歳の誕生日を祝おうと企画したもので、友人のマイク・ヴァイオラやトレイシー・ボーナムといった “ポール大好き” ミュージシャン達の協力を得てオリジナル・アルバムの曲順通りに「ラム」を忠実にステージで再現、演っている本人たちが心底楽しんでいる様子がダイレクトに伝わってくるライヴになっていて、同じポール・ファンとして聴いてて実に幸せな気持ちになれるところが◎。どこを切ってもポールへの、そして「ラム」への並々ならぬ愛情が感じられるのが嬉しい。ポール御大は「ラム」の曲をライヴで取り上げることがほとんどないので、そういう意味でも “ライヴで全曲演奏” したこのアルバムは非常に貴重だと思う。
まずは①「トゥー・メニー・ピープル」、ピッタリと息の合ったティムとマイクのヴォーカルも、リンダと化して絶妙のタイミングでバック・コーラスを付けるトレイシーも、ギターのオブリガートもドラムスの入り方も、そのすべてがオリジナルの雰囲気を見事に再現しているのにビックリ(゜o゜) 私の予想を遥かに超えた完成度の高い演奏だ。②「3 レッグズ」では例の変声パートを拡声器を使って再現するなど、色々と工夫しているところがめっちゃ楽しい。DVDで見ているとよく分かるが、ステージを含めて会場全体がアットホームな雰囲気に包まれており、まるで “マッカートニー・ファンの集い” 的なノリの、手作り感覚溢れるライヴになっている。③「ラム・オン」のイントロ部分も実にマニアックな再現ぶりで聴き手の頬を緩ませてくれるし、拍子木もジャケット・デザイン風のカラーリングで嬉しくなってしまう。自然発生的に湧き起った手拍子も実に良い雰囲気だ。
Pure McCartney: Too Many People
Pure McCartney: 3 Legs/Ram on
個人的に前半のハイライトと言えるのが④「ディア・ボーイ」だ。「ユア・マザー・シュッド・ノウ」の流れを汲むこの名曲のヴォーカルを取るマイクはまるでポールが憑依したかのようだ。彼はインタビューでこの曲が一番好きだと答えていたが、歌い終えた後の満足そうな表情がすべてを物語る名演になっている。⑤「アンクル・アルバート~アドミラル・ハルセイ」ではメイン・ヴォーカルのティムに対しマイクが拡声器を駆使して擬音を担当、原曲でポールが声を変えて歌う所はトレイシーが受け持つという見事なチームワークでこの名曲を再現している。それにしてもコレを聴いて改めて本家ポールの変幻自在ヴォーカルの凄さを再認識させられた。オリジナルに忠実に前曲と間を開けずにソリッドなギターのイントロからスタートする⑥「スマイル・アウェイ」ではバンドのギタリストがリード・ヴォーカルを取り、3人はコーラス・ワークに徹しているのだが、コレが又実に素晴らしくてオリジナルが持っていたグルーヴを見事に蘇えらせており、オーディエンスも大喝采だ。ただ、欲を言えば後半盛り上がる所でポールのはっちゃけた雄叫びまで再現してくれたら最高やったのに...
Pure McCartney: Dear Boy
Pure McCartney: Uncle Albert Admiral Halsey
Pure McCartney: Smile Away
LPならB面1曲目にあたる⑦「ハート・オブ・ザ・カントリー」はポールが高音で歌っていたこともあってトレイシーがリード・ヴォーカルを取っているが、コレがもうピッタリとハマっていて言うことナシ。特にスキャット部分は水を得た魚のように活き活きとした歌声を聴かせてくれる。⑧「モンクベリー・ムーン・デライト」でポールの狂気すら孕んだ超絶ヴォーカルに挑むのはマイク。さすがに高音部は少し苦しそうだが原曲の持つピンと張りつめた様な緊張感をしっかりと再現しており、この人のヴォーカリストとしてのレベルの高さがよく分かるトラックになっている。ノリノリの⑨「イート・アット・ホーム」はティムとステイシーのデュエットで聴かせる。ステイシーの歌が上手すぎてオリジナルで抜群の存在感を誇っていたリンダのヘタウマ感(?)が出せなかったことと、ギター・ソロがオリジナルと違っていて違和感を覚えること以外は文句の付けようがない名演だ。
Pure McCartney: Heart Of The Country
Pure McCartney: Monkberry Moon Delight
Pure McCartney: Eat At Home
個々の音だけでなく原曲の持つ雄大なグルーヴ感までも見事に再現した⑩「ロング・ヘアード・レディ」も圧倒的に素晴らしい。オーディエンスも手拍子で盛り上がる。自分もこの場に居合わせたかったなぁ... と思わせる雰囲気の良さだ。オリジナルではこのあと短い「ラム・オン」のリプリーズがあるのだが、残念なことにこのライヴではすっ飛ばされている。ここまで完璧に再現してきたのに何で演ってくれないのだろう? あの軽快にして簡潔な「リプリーズ」があってこそ、ラストの⑪「バック・シート・オブ・マイ・カー」が活きるのに... あの鼻歌感覚で歌われる「ビッグ・バーン・ベッド」のフェイド・アウトから一転して力強い⑪のイントロが始まらないと「ラム」は完結しない。画龍点睛を欠くとはこのことだ。
しかし⑪単体の出来は圧倒的に、芸術的に、超越的に素晴らしい。トレイシーのヴォーカルから入るのには意表を突かれるが、トレイシー→ティム→マイクと3人がそれぞれの持ち味を生かしながらヴォーカルを回していくというアイデアは大正解で、“ポール・マッカートニー・ナイト” 本編(←これ以降の6曲はボートラというか、番外編的位置付けですね...)の最後を飾るに相応しいトラックになっている。特に後半部の “Oh, we believe that we can't be long~♪” の盛り上がりは圧巻だ。第2弾が可能なら是非ともこのメンツで「USAライヴ」の完全再現を!と思わせる素晴らしいパフォーマンスである。
ポールを、そして「ラム」をこよなく愛するミュージシャンが集まって名作「ラム」を再現したこのアルバム、ライヴ後半で演奏された「ヴィーナス・アンド・マース」や「バンド・オン・ザ・ラン」といった「ラム」以外の名曲の数々も含め、これこそまさにポール・ファンの、ポール・ファンによる、ポール・ファンのための1枚と言えるだろう。買うなら CD と同内容の DVD が付いた初回生産限定盤が超オススメだ。
Pure McCartney: Long Haired Lady
Pure McCartney: The Back Seat Of My Car
Pure McCartney - Official DVD-trailer
「ラム」の完全再現というアイデアは何もこの「ピュア・マッカートニ―」が初めてというワケではなく、2年前にマイナー・レーベルからリリースされたデイヴ・デッパーの「ラム・プロジェクト」が最初だったと思うが、アレは多重録音を駆使してほとんど一人で作り上げたスタジオ録音盤で、その秀逸な発想には “ホンマによぉやるなぁ...” と感心はしたものの、音そのものはスカスカだったしアルバムとしてはイマイチ吸引力に欠けていたことも事実。カヴァー作品が “コレを聴くなら本物聴くわ” と言われないためには聴き手を魅きつけるサムシング・エルスが必要なのだ。
このアルバムは元々ティム・クリステンセンが去年の6月18日に彼の地元コペンハーゲンでポールの70歳の誕生日を祝おうと企画したもので、友人のマイク・ヴァイオラやトレイシー・ボーナムといった “ポール大好き” ミュージシャン達の協力を得てオリジナル・アルバムの曲順通りに「ラム」を忠実にステージで再現、演っている本人たちが心底楽しんでいる様子がダイレクトに伝わってくるライヴになっていて、同じポール・ファンとして聴いてて実に幸せな気持ちになれるところが◎。どこを切ってもポールへの、そして「ラム」への並々ならぬ愛情が感じられるのが嬉しい。ポール御大は「ラム」の曲をライヴで取り上げることがほとんどないので、そういう意味でも “ライヴで全曲演奏” したこのアルバムは非常に貴重だと思う。
まずは①「トゥー・メニー・ピープル」、ピッタリと息の合ったティムとマイクのヴォーカルも、リンダと化して絶妙のタイミングでバック・コーラスを付けるトレイシーも、ギターのオブリガートもドラムスの入り方も、そのすべてがオリジナルの雰囲気を見事に再現しているのにビックリ(゜o゜) 私の予想を遥かに超えた完成度の高い演奏だ。②「3 レッグズ」では例の変声パートを拡声器を使って再現するなど、色々と工夫しているところがめっちゃ楽しい。DVDで見ているとよく分かるが、ステージを含めて会場全体がアットホームな雰囲気に包まれており、まるで “マッカートニー・ファンの集い” 的なノリの、手作り感覚溢れるライヴになっている。③「ラム・オン」のイントロ部分も実にマニアックな再現ぶりで聴き手の頬を緩ませてくれるし、拍子木もジャケット・デザイン風のカラーリングで嬉しくなってしまう。自然発生的に湧き起った手拍子も実に良い雰囲気だ。
Pure McCartney: Too Many People
Pure McCartney: 3 Legs/Ram on
個人的に前半のハイライトと言えるのが④「ディア・ボーイ」だ。「ユア・マザー・シュッド・ノウ」の流れを汲むこの名曲のヴォーカルを取るマイクはまるでポールが憑依したかのようだ。彼はインタビューでこの曲が一番好きだと答えていたが、歌い終えた後の満足そうな表情がすべてを物語る名演になっている。⑤「アンクル・アルバート~アドミラル・ハルセイ」ではメイン・ヴォーカルのティムに対しマイクが拡声器を駆使して擬音を担当、原曲でポールが声を変えて歌う所はトレイシーが受け持つという見事なチームワークでこの名曲を再現している。それにしてもコレを聴いて改めて本家ポールの変幻自在ヴォーカルの凄さを再認識させられた。オリジナルに忠実に前曲と間を開けずにソリッドなギターのイントロからスタートする⑥「スマイル・アウェイ」ではバンドのギタリストがリード・ヴォーカルを取り、3人はコーラス・ワークに徹しているのだが、コレが又実に素晴らしくてオリジナルが持っていたグルーヴを見事に蘇えらせており、オーディエンスも大喝采だ。ただ、欲を言えば後半盛り上がる所でポールのはっちゃけた雄叫びまで再現してくれたら最高やったのに...
Pure McCartney: Dear Boy
Pure McCartney: Uncle Albert Admiral Halsey
Pure McCartney: Smile Away
LPならB面1曲目にあたる⑦「ハート・オブ・ザ・カントリー」はポールが高音で歌っていたこともあってトレイシーがリード・ヴォーカルを取っているが、コレがもうピッタリとハマっていて言うことナシ。特にスキャット部分は水を得た魚のように活き活きとした歌声を聴かせてくれる。⑧「モンクベリー・ムーン・デライト」でポールの狂気すら孕んだ超絶ヴォーカルに挑むのはマイク。さすがに高音部は少し苦しそうだが原曲の持つピンと張りつめた様な緊張感をしっかりと再現しており、この人のヴォーカリストとしてのレベルの高さがよく分かるトラックになっている。ノリノリの⑨「イート・アット・ホーム」はティムとステイシーのデュエットで聴かせる。ステイシーの歌が上手すぎてオリジナルで抜群の存在感を誇っていたリンダのヘタウマ感(?)が出せなかったことと、ギター・ソロがオリジナルと違っていて違和感を覚えること以外は文句の付けようがない名演だ。
Pure McCartney: Heart Of The Country
Pure McCartney: Monkberry Moon Delight
Pure McCartney: Eat At Home
個々の音だけでなく原曲の持つ雄大なグルーヴ感までも見事に再現した⑩「ロング・ヘアード・レディ」も圧倒的に素晴らしい。オーディエンスも手拍子で盛り上がる。自分もこの場に居合わせたかったなぁ... と思わせる雰囲気の良さだ。オリジナルではこのあと短い「ラム・オン」のリプリーズがあるのだが、残念なことにこのライヴではすっ飛ばされている。ここまで完璧に再現してきたのに何で演ってくれないのだろう? あの軽快にして簡潔な「リプリーズ」があってこそ、ラストの⑪「バック・シート・オブ・マイ・カー」が活きるのに... あの鼻歌感覚で歌われる「ビッグ・バーン・ベッド」のフェイド・アウトから一転して力強い⑪のイントロが始まらないと「ラム」は完結しない。画龍点睛を欠くとはこのことだ。
しかし⑪単体の出来は圧倒的に、芸術的に、超越的に素晴らしい。トレイシーのヴォーカルから入るのには意表を突かれるが、トレイシー→ティム→マイクと3人がそれぞれの持ち味を生かしながらヴォーカルを回していくというアイデアは大正解で、“ポール・マッカートニー・ナイト” 本編(←これ以降の6曲はボートラというか、番外編的位置付けですね...)の最後を飾るに相応しいトラックになっている。特に後半部の “Oh, we believe that we can't be long~♪” の盛り上がりは圧巻だ。第2弾が可能なら是非ともこのメンツで「USAライヴ」の完全再現を!と思わせる素晴らしいパフォーマンスである。
ポールを、そして「ラム」をこよなく愛するミュージシャンが集まって名作「ラム」を再現したこのアルバム、ライヴ後半で演奏された「ヴィーナス・アンド・マース」や「バンド・オン・ザ・ラン」といった「ラム」以外の名曲の数々も含め、これこそまさにポール・ファンの、ポール・ファンによる、ポール・ファンのための1枚と言えるだろう。買うなら CD と同内容の DVD が付いた初回生産限定盤が超オススメだ。
Pure McCartney: Long Haired Lady
Pure McCartney: The Back Seat Of My Car