shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

音楽センスが光るカッコいいパクリ(?)特集

2023-07-09 | J-Rock/Pop

 音楽ファンの中にはちょっと似た曲を見つけるとまるで鬼の首でも取ったかのように “パクリだ!” と糾弾したがる了見の狭い人達がいるが、前回のビートルズ・オマージュ特集の時にも書いたように、私はこういったオマージュ(パクリ?)曲が大好きだ。もっと言うと、既存のリフやメロディーを基にして新しい音楽を創造していくのは大いにアリだと思うし、初めて聴く曲の中に自分の知っている曲のフレーズが出て来て、そこに元ネタに対する愛情やユーモアの精神が垣間見えるとめちゃくちゃ嬉しくなってしまうのだ。今日はそんな私が思わず唸ってしまった “カッコいいパクリ” の代表例として私が大好きな日本の2大グループを取り上げよう。

①Mr.Children「シーソーゲーム」
 私は90年代半ばから後半にかけての、いわゆるアッパーなロックンロールに載せて自己諧謔性に満ちた歌詞を速射砲のように乱射していた “尖った” ミスチルが大好きなのだが、そんな彼らの中でも特に好きな私的3大名曲が「名もなき詩」「Everybody Goes」、そしてこの「シーソーゲーム」だ。この曲はプロモ・ビデオからしてモロにエルヴィス・コステロ「Pump It Up」のパロディーで、これだけでも笑撃のケッ作なのだが、楽曲自体もとても良く出来ていて、一線級のキャッチーなロックンロールに仕上がっている。初めて聴いた時、全体の雰囲気が何となくコステロの「Veronica」(←コステロと桜井さんって声質が似てるよな...)と佐野元春の「アンジェリーナ」を足して2で割ったような感じやなぁと思いながら聴いていたら後半部でいきなり「Born To Run」でのクラレンス・クレモンズそっくりなサックス・ソロが出てきてイスから転げ落ちそうになったのが懐かしい。和製スプリングスティーンの異名を取る佐野元春をベースにし、その種明かしというか伏線回収とばかりにボスの代表曲のサックス・ソロをぶち込んでくるというユーモアのセンスが最高ではないか! このアレンジが誰のアイデアなのかは知らないが、とにかくすべての点においてカッコいい邦楽ロックの大傑作だ。
Mr.Children「シーソーゲーム」

Elvis Costello「Veronica」
佐野元春「アンジェリーナ」

Bruce Springsteen「Born To Run」


②B'z「BURN ~フメツノフェイス~」
 B'zというとアンチの連中はすぐにパクリを連呼するが、ハッキリ言って的外れも甚だしい。作曲を担当している松本さんはロックを中心に色んなジャンルの音楽に造詣が深く、過去の優れた音楽のエッセンスを抽出して新しい楽曲を生み出していくのが得意であり、楽曲としてのクオリティーが上がるのであればむしろそっちの方が良いと考えているふしがある。そしてその創作の過程でユーモアと音楽センスがきらりと光る仕掛けをブッ込んでくるという遊び心に溢れたところがあるのだ。ここでポイントなのは聴く人に “あっ、あの曲だ!” と気付いてもらえるように作ってあることで、コソコソとパクっているのではなく、“わかる人にはわかる...” というノリで “このフレーズをこんな風に使うと面白いでしょ?” みたいな感じが伝わってくるのだ。2008年にリリースされたこの「BURN ~フメツノフェイス~」を聴くと、“ヘビメタとフォーク・ロックと昭和歌謡を組み合わせて新しくカッコ良いロックンロール曲を作ってみたんですけど、どうですか...(^.^)” という松本さんの茶目っ気たっぷりな笑顔が目に浮かぶ。まずはモトリーの「Same Ol' Situation」そっくりなイントロに続いて曲のイメージを決定づけるリフをS&Gの「Hazy Shade Of Winter」(←雰囲気的にはバングルズによるカバー・ヴァージョンの方に近いか...)からアダプト、ヴォーカル・パートはピンク・レディー「サウスポー」を想わせるキャッチーなメロディーから一気呵成に畳み掛け、気が付けばザ・ワン・アンド・オンリーなB'z流ロックンロールになっているというのが何よりも凄い。やっぱりB'zはエエなぁ... (≧▽≦)
B'z「BURN ~フメツノフェイス~」

Motley Crue「Same Ol' Situation」

Simon & Garfunkel「Hazy Shade Of Winter」

ピンク・レディー「サウスポー」

松原みきのアルバム特集

2021-08-29 | J-Rock/Pop
①Pocket Park
 松原みきのデビュー・アルバムにして最高傑作と断言できるのがこの「Pocket Park」だ。世界制覇を成し遂げた名曲「真夜中のドア」が入っていることももちろん大きいが、何よりもこのアルバムが素晴らしいのはシングル曲以外にもクオリティーの高い曲が数多く入っているところで、全11曲捨て曲ナシと言っても過言ではないくらいレベルの高いアルバムになっている。私が一番好きなのは彼女お得意の哀愁舞い散る疾走系ナンバーA⑤「His Woman」で、昭和歌謡っぽいアレンジが絶妙なスパイスとして効いているし、中学校の英語の授業を思い出させるような(笑)“He, his, him, his woman~♪” のラインは何度聴いてもそのカッコ良さに痺れてしまう。尚、アルバム冒頭を飾るA①「真夜中のドア」はシングルとは別ミックスで、イントロで彼女のヴォーカルがオーバーダブされておらずコーラスのみ。後半部のリフレインも長めでトータルタイムはシングルより30秒ほど長いロング・ヴァージョンになっている。
Miki Matsubara (松原みき) - His Woman (Pocket Park / 2009 / HQ Version)


②Who Are You?
 彼女の2ndアルバム「Who Are You?」はそのジャケットやインナー・スリーヴの写真からもわかるように所属プロダクションやレコード会社が彼女をアイドル路線で売り出そうとしていたのがミエミエで、アルバムのコンセプトを「Pocket Park」から大きく変えて弾むようなポップさを前面に打ち出している。特筆すべきは当時竹内まりやの「BEGINNING」や「UNIVERSITY STREET」への参加でノリにノッていた “日本のジェフ・リン” こと杉真理の起用で、シングルにもなったA①「あいつのブラウンシューズ」(←シングル・ヴァージョンとは異なるド派手なエンディングが面白い...)、そしてこのアルバム中で私が最も気に入っているA②「気まぐれうさぎ」と、アルバムのカラーを決定づけるホンワカしたポップさを見事に表現している。後にシングル・カットされるA⑤「Jazzy Night」も彼女の魅力溢れる名曲名演だ。「Pocket Park」を日本ポップス史に名を残す大名盤とするなら、このアルバムは彼女のファンが目を細めて聴き入るタイプの、長~く愛され続ける好盤だと思う。
MIKI MATSUBARA 松原みき — KIMAGURE USAGI —RUN RABBIT RUN—『 WHO ARE YOU?・2009・HQ VERSION 』


③Cupid
 アーバンな和製AORの1st、キャッチーで親しみやすいポップスの2ndに続く彼女の3rdアルバム「Cupid」はゴリゴリのファンキーな内容で、特にロス録音のA面はブラック・コンテンポラリー色が強く、バックを務めたファンク・バンド Dr. Strut の生み出す強烈なグルーヴに驚かされるし、どんなタイプの音楽でも歌いこなしてしまう彼女のヴォーカリストとしての資質にも惚れ惚れする。白眉は何と言ってもアルバム冒頭を飾るA①「10カラット・ラヴ」で、イントロからいきなり大爆発するブラスが痛快そのもの。負けじと挑んでいく彼女のソウルフルなヴォーカルとのガチンコ勝負に圧倒されること間違いなしだ。間奏で味のあるトロンボーン・ソロを聴かせる向井滋春もさすがと言う他ない。尚、このアルバムに収録されたB②「ニートな午後3時」は洗練されたシングル・ヴァージョンとは違い、よりゴージャスでグルーヴィーな仕上がりになっている。
Miki Matsubara (松原みき) - 10カラット・ラブ / 10 Carat Love (-Cupid- / 2009 / HQ Version)


④Cool Cut
 シングル盤特集の時に書いたように、松原みきのキャリアの後期の作品は水を得た魚のように活き活きと歌うアニソンやサントラ曲を除けば私的にはイマイチで、アルバムはどれもこれも心に残るメロディーの無い薄味な楽曲と歌心を感じられないフュージョンっぽいサウンドばかり。初期のアルバムとは違って彼女のヴォーカルが全く活かされていないのは「歌」をないがしろにしてサウンド志向に走ったプロデュースの失敗以外の何物でもないだろう。そんな駄盤凡盤だらけの後期だが(←あくまでも個人の感想です...)、1枚だけ突然変異的に初期のポップさが復活した貴重なアルバムがある。それが7作目の「Cool Cut」で、アイドル・ポップスみたいなA①「真夏のゲーム」、シングル・カットされたA②「Knock, Knock, My Heart」、クールでポップなA③「チャイナタウンの殺人鬼」(←それにしても凄いタイトルやな...)、軽快そのもののB①「ウイークエンドは軽い病気」、雰囲気抜群のB②「Caribbean Night」など、聴いてて思わず口ずさみたくなるようなメロディーに溢れているのだ。これはおそらくプロデュースを担当した森園勝敏の力によるところが大きいと思う。とにかく後期の松原みきはアニソンとこの「Cool Cut」で決まり!なのだ。
Miki Matsubara (松原みき) - チャイナタウンの殺人鬼

松原みきのシングル盤特集②

2021-08-22 | J-Rock/Pop

⑤倖せにボンソワール
 最近の世間の音楽の聴き方はダウンロードが主流らしいが、私にとってはジャケットのない音源など問題外で、サブスクとか言われても全く食指が動かない。私はレコードで育った世代なので、音楽は “ジャケットを見ながら聴く” というのが当然であり、視覚との相乗効果によって中身の音楽がより一層魅力的に聞こえるという聴き方が骨の髄まで沁みついているのだ。このレコードなんかその最たる例で、ジャケット写真は数ある松原みきのシングル盤の中でも三指に入るのではないか。そして何よりも凄いのは、このアンニュイなムード横溢のジャケット写真が中身の音楽を見事に体現していることで、実際に聴いてみるとそのオシャレで洗練されたメロウな曲想とジャケット写真が見事にマッチしていることに驚かされる。“ジャケットを聴く” 極上のシティ・ポップとして忘れられない1枚だ。
Miki Matsubara (松原みき) - 倖せにボンソワール


⑥Jazzy Night
 繰り返すがレコードはジャケットだ。これに関してはCDが何ビットになろうがハイレゾの周波数がいくらになろうがアナログ・レコードの敵ではない。松原みきに関して言えば彼女の全シングル盤ジャケット写真の中で私の一番のお気に入りがこの「Jazzy Night」だ。彼女の素朴な人柄が伝わってくる笑顔はまさにpriceless!! 曲の方は「真夜中のドア」と同じ三浦徳子&林哲司のペアが書いたマイナー調のアッパー・チューンだが、どんなタイプの曲でも歌いこなしてしまう彼女の良さが最も際立つのはやっぱりこの手の曲やなぁと確信させられる名曲名唱だ。バックの演奏もキレッキレで、彼女のアグレッシヴなヴォーカルと相まって圧倒的な疾走感を生み出している。サビの“何もかも... ケセラ セェラァ~♪” の歌い回しがたまらなく好きだ。尚、このシングル・ヴァージョンは元々2ndアルバムに入っていた同曲を新たに録り直したもので、歌も演奏もよりタイトでシャープになっている。
Miki Matsubara JAZZY NIGHT


⑦ガンモ・ドキッ
 私はビートルズの「赤盤」と「青盤」から音楽を聴き始めたせいか、他のアーティストのキャリアも “前期” と “後期” に分けて考える癖がある。松原みきの場合は前期の作品が “都会的な歌謡ポップス” なのに対し、後期は “フュージョン色の濃いAOR” という感じで彼女の歌よりもサウンド・コンセプトに比重が置かれている印象が強く、フュージョン嫌いの私はイマイチ好きになれない。しかしそんな後期の作品の中でも彼女が歌ったアニメ主題歌だけは例外で(←当然フュージョン色は皆無!)、「GU GU ガンモ」の主題歌「ガンモ・ドキッ」ではラッツ&スターの「め組のひと」と中原めいこの「君たちキウイパパイヤマンゴーだね」をかき混ぜて田原俊彦の「チャールストンにはまだ早い」をひとつまみ振りかけたようなキャッチーなメロディーをキュートに歌っており、何度聴いてもウキウキワクワクさせてくれる。やっぱり松原みきはこうでなくっちゃ!!! B面の「ヒョコポン関係」もA面に勝るとも劣らないポップ・チューンで、小泉今日子の名盤「ナツメロ」を濃縮還元したような親しみやすいメロディーに耳が吸い付く。とにかくA面B面共にただのアニソンとしてスルーするには勿体ないキラー・チューンだ。尚、このレコードは「スージー松原」名義でリリースされているが、これは登場人物の名前(がんもどき、はんぺん、つくね)に引っ掛けておでんネタの“すじ”をもじったもので、そのあたりのユーモアのセンスも大阪出身の彼女らしいコテコテぶりだ。
Gu Gu ガンモ OP/ED


⑧サファリ・アイズ
 私はアニメ映画には全く興味が無いのでこの「サファリ・アイズ」がオープニング曲になっている「ダーティ・ペア」という作品は観たことがないが、この曲自体は結構好き。エキゾチックなムード溢れるイントロに導かれ、80年代の王道を行くダンサブルなシンセ・サウンドをバックにまるで杏里が憑依したかのような(笑)伸びやかな歌声を聴かせる彼女のバーサタイルでフレキシブルなヴォーカルに唸ってしまう。この人、ホンマにシンガーとしての引き出しが多いわ... (≧▽≦) B面曲の「パ・ド・ドゥ」は同じ映画のエンディング曲で、当時ブレイクしていたジャネット・ジャクソンへのオマージュっぽいサウンドがこれまた時代を感じさせるが、変拍子を使ったダンサブルな曲調が妙に印象に残るナンバーだ。
ダーティペア劇場版 オープニング曲「サファリアイズ-Safari Eyes」(松原みき)

松原みきのシングル盤特集①

2021-08-15 | J-Rock/Pop
①ハロー・トゥデイ
 松原みきの3rdシングル「ハロー・トゥデイ」は彼女が得意とするマイナー調のアッパー・チューンで、彼女のクールで都会的なヴォーカルとバッチリ合っており、アルバム未収録のせいか知名度がイマイチ低くてベスト盤の選曲にも漏れていることがあるが、私は彼女の全楽曲中でも「真夜中のドア」に次ぐ名曲ではないかと思っている。歌詞の素晴らしさも特筆モノで、“郵便受け...はみ出す手紙の文字は...肩並べ歩いた女友達...マドリッド消印雨にかすれ...別々の人生 思わせる...♪” のラインなんかもうカッコ良すぎて、作詞家三浦徳子の天才ここに極まれりという感じ。タイトでシャープなバックの演奏がうねるようなグルーヴを生み、躍動感溢れる歌謡ポップスに仕上がっている。
Miki Matsubara - ハロー・トゥデイ~Hello Today


②あいつのブラウンシューズ
 「真夜中のドア」や「ハロー・トゥデイ」のアーバンでクールな路線から一転してホンワカしたポップな感じが耳に新鮮な4thシングル。有象無象のアイドル・ポップスとは一線を画するユニークな歌詞の世界(←文字通り「靴」について歌ったもの...)をキュートで溌溂とした歌いっぷりで見事に表現したヴォーカリストとしての懐の深さはさすがという他ない。いかにも杉真理らしいポップなメロディーにオールド・ジャズのフレーバーを散りばめた親しみやすいアレンジを施したこの曲はビートルズで例えると “Honey Pie” 的な立ち位置だが、そんな曲をデビュー2年目の女性歌手のシングルとして切ってくるところが大胆というか無謀というか、ポニー・キャニオンもやりよるなぁと感心してしまった(笑)
松原みき あいつのブラウンシューズ プロモーションビデオ


③ニートな午後3時(通常盤)
 資生堂のキャンペーンソングというだけあって、歌詞もメロディーも当時の歌謡ポップスの王道を行くストレートな作りになっているが、彼女のヴォーカリストとしての優れた資質が圧倒的な説得力を生み、単なるヒット・ソングで終わらない、スピーカーに対峙して聴くに値するキラー・チューンに仕上がっている。バックの演奏も素晴らしく、うねる様なチョッパー・ベースと短くカッティングするギターがこの曲のドライヴ感に拍車をかけているし(←“あの頃” のサウンドの典型...)、力強く乱舞するブラスや絶妙なストリングスのアレンジ(←筒美京平の影響大...)もまさに “プロの仕事!” という感じで、当時の彼女がバック・ミュージシャンに恵まれていたことがよくわかる1曲だ。
松原みき ニートな午後3時 プロモーションビデオ


④ニートな午後3時(サンプル盤)
 まだコロナのコの字もなく自由自在に大阪や京都の中古盤屋を廻っていた時のこと、確か梅田の第2ビルだったか第3ビルだったかの地下にあるレコ屋(←あの辺は何度行っても迷ってしまう...)で歌謡曲のシングル盤を漁っていて偶然このサンプル盤を見つけたのだが、自分の手持ちの通常盤と全く違うジャケット写真にビックリ(゜o゜)  へぇ~、こんなん出てたんか... めっちゃエエ写真やん!と感心すると同時に無性に欲しくなってジャケット観賞用に衝動買いしてしまった。今回 “松原みき祭り” をするにあたって久々に棚から引っ張り出してきて何の気なしにマトを確認したところ(←B-SELSの影響が大きいな...)、スタンパーが通常盤の 1-C-1 とは違う 1-P-1 だという事実を発見。それらがポニー・キャニオンのPとCを表しているのかどうかは分からないが、とにかくじっくり聴き比べてみるとサンプル盤の方がより生々しいというか鮮度の高い音で鳴っており “やっぱり最初期プレス盤はエエ音しとるのぉ... (≧▽≦)” と嬉しくなってしまった。まぁ、松原みきのレコードでスタンパー云々言うて大騒ぎしてるのは私ぐらいやろうけど...

真夜中のドア / 松原みき

2021-08-08 | J-Rock/Pop
 先日、職場で仲良しの同僚Aさんが “shiotchさんってレコードとかCDいっぱい持ってはったよね?” と話しかけてきた。“まぁ、ジャンルはめっちゃ偏ってるけどいっぱいあるで。” と答えると “松原みきのレコードって持ってない?” と仰る。松原みきとはこれまた懐かしい名前だ。何を隠そう私は彼女の大ファンで、特に高校~大学時代にかけては彼女のレコードをよく聴いたものだった。
 当時の邦楽界はちょうど過渡期といえる時期で、古き良き昭和歌謡とは一線を画す大貫妙子や門あさ美、尾崎亜美、EPOといったフレッシュな女性シンガー達が次々とシーンに現れ、レコード会社も彼女らを一括りにして “ニュー・ミュージック” というワケのわからない新ジャンルの旗手として喧伝していたような記憶があるが、そんな中で私がその声に惚れ込んで聴きまくっていたのが松原みきだった。
 彼女のデビュー曲「真夜中のドア」を初めて聴いたのは確かラジオの音楽番組だったように思うが、彼女の歌声がラジオから流れてきたのを聴いて “めっちゃエエ曲やん!!!” と一発で気に入ってすぐにシングル盤を買いに走ったし、デビュー・アルバム「Pocket Park」に付いてきたポスターを眺めながら “エエ歌手見つけたわ...” と悦に入っていたのも今となっては懐かしい思い出だ。
 今回の私的リバイバルのきっかけを作ってくれたAさんは大のクラシック・ファンで(←何故かリッチー・ブラックモアも好きらしいが...)彼の口から邦楽のアーティストの名前なんてそれまで聞いたことがなかったのだが、そんな彼が今頃になって急に松原みきとは一体どういう風の吹き回しなのだろう?と興味をそそられた私が “何で松原みき知ってるん?” と聞くと “これでも昔ファンやったんですよ。で、今朝ラジオから「真夜中のドア」が流れてきて懐かしゅうなったんです。でもレコードとかもうどっかいってしもうて聴けへんし、ひょっとしてshiotchさんやったら持ってはるかなぁ...と思うたんですわ。” とのこと。
 へぇ~、Aさんも彼女のファンやったんか... とすっかり嬉しくなった私は帰ってすぐにレコード棚を引っ掻き回して手持ちのみきちゃん音源をすべてCDに焼いてさしあげたのだが、久々に聴く松原みきは懐かしいと同時にすっごく新鮮で、当時は気付かなかった発見が随所にあって聴くのがめっちゃ楽しい。それをきっかけに最近ヘビーローテーションで彼女のレコードを聴いているのでこのブログでも特集することにした。第1弾は彼女の代名詞的存在と言っても過言ではない日本ポップス史上屈指の大名曲「真夜中のドア」だ。
 ポップスの世界で言えばコニー・フランシスの「Vacation」やリトル・エヴァの「The Loco-motion」、ジャズの世界で言えばドリス・デイの「Sentimental Journey」やリー・ワイリーの「Manhattan」のように、優れたシンガーには必ず “極めつけのこの1曲” というものが存在し、歌い手の声質や歌唱法と楽曲の旋律との絶妙なマッチングによって時代を超えて聴き継がれるレベルの奇跡的名曲名唱が生まれるものだが、松原みきにとって「真夜中のドア」という曲はまさにそんな1曲であり、ヴォーカル・演奏・歌詞・メロディー・アレンジと、全く文句のつけようがない完全無欠のスーパーウルトラ大名演だと思う。
 そもそも松原みきという人はジャズもバリバリに歌いこなせるくらいの実力派シンガーで、ジャズ・クラブで飛び入りで歌ったところをジャズ・ピアニストの世良譲氏に見い出されてデビューしたという凄いエピソードの持ち主なのだが、この曲でも天性の伸びやかな歌声で歌詞の世界を見事に表現し、聴く者をグイグイ引き込んでいくところが実に素晴らしい。そのクールで洗練されていて親しみやすいヴォーカルは唯一無比で、まさに松原みき一世一代の名唱と言っていいと思う。
 そんな彼女を支えるバックのミュージシャンたちの演奏も見事という他なく、歌心溢れる松原正樹(←あの「微笑み返し」のソロで有名な超一流スタジオ・ミュージシャン)のギター、特にエンディングのドラマチックなソロ・フレーズにはもう参りましたと平伏すしかない。私の知る限り間違いなく彼のベスト・ソロだと思う。又、闊達なフレーズで楽曲にえもいわれぬドライヴ感を生み出す後藤次利のベースも、正確無比なリズムを刻み続ける林立夫のドラムも圧倒的に、超越的に、すんばらしい!!! いやぁ、ホンマに最高ですわ... (≧▽≦)
 聞くところによるとこの曲はストリーミング回数を集計したグローバル・チャートで去年の末に約3週間にわたって世界1位を記録したという。繰り返すが41年前の日本の曲が “世界1位” をとったのだ。まさに空前にして絶後の快挙である。彼女が若くして亡くなってしまったことが返す返すも残念だが、色褪せない彼女の歌声はこれからも国境を超え、世代を超え、時代を超えて聴き継がれていくことだろう。
松原みき 真夜中のドア STAY WITH ME | Miki Matsubara | Japan

サディスティック・ミカ・バンド 1st アルバム +「サイクリング・ブギ」7"

2018-09-09 | J-Rock/Pop
 今朝ネットを見ようとパソコンをつけてみてビックリ... ウチのブラウザは Google Chrome を使っているのだが、何故かタブが丸みを帯びたダサいデザインに変わってしまっており、しかも今まで難なく見れていた Flash Playerを使うサイトを開く度に Chrome に「許可」の確認を取らなければならないというアホバカ仕様に勝手に変更されていたのだ。慌ててネットで調べてみると、Chromeはユーザーの意思に関係なく強制的に最新ヴァージョンにアップデートされるようになっているとのことで(←何様のつもりじゃ!)、昨日が “10周年の大幅リニューアル” の日だったらしいのだ。何が “劇的に使いやすい新デザイン” やねん???  めっちゃ使いにくいんじゃ、ボケ!!! ブチ切れた私はブラウザを他のものに変更することも考えたが、今更新しいシステムに慣れるのも面倒くさいので、とりあえず新しい Chromeを即アンインストールして古いヴァージョンを再インストール。更に管理ツールをいじって Chromeのアップデートを無効にしてようやく一件落着... と思ったのも束の間、再起動してみると何故か最新ヴァージョンに戻ってしまっている。あー、めっちゃムカつく! こーなったら意地でも元通りにしてやろうと色々ネット検索してついに解決法を見つけた。自分用の備忘録として書き記しておくと、
 ①URLに chrome://flags/#top-chrome-md と入力。
 ②UI Layout for the browser's top chrome を Default から Normal に変更。
 ③Enable Ephemeral Flash Permissions をDefault から Disabled に変更。
 ④ブラウザ右下部の RELAUNCH NOW という青いボタンをクリックして完了。
これでどうにか無事元に戻り今のところ問題なく使えているが、おかげで半日無駄にしてしまった。レコードを買うためとはいえ、パソコン使うのってホンマにストレス溜まるわ...(>_<)  そもそもITエンジニアという人種は何故上手くいっているものをいじってあれこれ変えようとするのかねぇ...

 ということで思わず怒りの展開になってしまったが、気を取り直して音楽の話に行こう。今回も前回に引き続いてミカ・バンドだ。彼らの3枚のオリジナル・アルバムの中で一番ターンテーブルに乗る回数が多いのはセルフ・タイトルの 1st アルバム「サディスティック・ミカ・バンド」。世間の評価は 2ndアルバムの「黒船」の方が圧倒的に高いし、キラー・チューン「タイムマシンにおねがい」もそちらに入っているのだが、A面の和製プログレ風組曲っぽい作りがどうも苦手で(←「タイムマシン...」だけがめっちゃ浮いてるように思える...)、凄い作品だとは思うけれどもアルバム1枚を通して聴くことは滅多になく、いつも「タイムマシン」「颱風歌」「どんたく」「塀までひとっとび」の4曲だけをつまみ聴きしている。もちろん歌物が激減しフュージョンに色目を使った中途半端な 3rdアルバム「Hot! Menu」なんぞ全くの論外だ。私が好きなミカ・バンドの音楽性はあくまでも “歌心とユーモア溢れるキラキラしたポップ・ロック” であり、それを見事なまでに体現したのがこのデビュー・アルバムなのだ。
 このレコード、まずは A面のアタマでガツン!とやられる。ステイタス・クオーも顔負けのハードなつんのめり系ブギー・ロック A①「ダンス・ハ・スンダ」と極太ドラム・ブレイクに圧倒される A②「快傑シルヴァー・チャイルド」の連続コンボだ。特に②はサンプリング・ネタとして引っ張りだこの名演で、ユキヒロ入魂の超絶ドラミングといい、クリームばりにガンガン弾きまくる高中のギターといい、実にカッコ良い演奏だ。妖しげに響き渡るミカの笑い声も絶妙なスパイスになっている。尚、これ以外の曲も T.レックスの上位互換(笑)みたいな A③「宇宙時計」や、トノバンならではの叙情的な世界が愉しめるソフト&メロウな A④「シトロン・ガール」、そしてグルーヴィーなスロー・ブギ A⑤「影絵小屋」と、駄曲が1曲も無いのが素晴らしい。
 B面もメルヘンチックな B①「空の果てに腰かけて」、リゾート・ムード横溢の B②「銀河列車」、リラクセイション溢れるユキヒロのヴォーカルがエエ味出してるジャマイカン・テイストの B④「恋のミルキーウェイ」、そしてキッチュでポップなミカバンド・ミュージックの王道を行く B⑤「ピクニック・ブギ」など名曲名演のオンパレードなのだが、私の一番のお気に入りは B③「アリエヌ共和国」。ストーンズの「ブラウン・シュガー」の三軒隣りに住んでいるようなカッコイイ曲で、最も輝いていた頃のストーンズのグルーヴをしっかりと吸収・消化し、トノバン流に再構築して創り上げた至高の名曲名演だ。「タイムマシンにおねがい」でも作詞家としての非凡な才を如何なく発揮した松山猛が書いた “ジルバを踊る星屑と 目くばせ三日月薄化粧~♪” のラインがたまらなく好きだ。
 加藤和彦と言えば1968年にフォークルの「帰ってきたヨッパライ」でミリオン・セラーをカッ飛ばし、その後も絵に描いたような名曲「あの素晴らしい愛をもう一度」をヒットさせるなど、どちらかと言うとロックとは畑違いのイメージがあっただけに、初めてこのアルバムを聴いた時は(←もちろん後追いですが...)ホンマにビックリした。今改めて振り返ってみると、高中正義、高橋幸宏、小原礼といった強力なメンツを揃えて1973年という邦楽ロックの黎明期にこんな凄いアルバムを作ってしまうところに加藤和彦というアーティストの天才を見る思いがする。グラム・ロックが席巻していた当時のブリティッシュ・ロック・シーンに対するトノバンの憧憬が最良の形で結実したスーパーウルトラ大名盤であり、ミカ・バンドでどれか1枚と言うなら間違いなくこの 1stアルバムだ。
Sadistic Mika Band - Sadistic Mika Band (Full album)


 尚、このアルバムの初回盤のみ見開き仕様になっており、「サイクリング・ブギ / レコーディング・データ」というボーナス・シングル(BRT-1001)が付いていて、ネット上では結構な高値で取り引きされているようだ。A面の「サイクリング・ブギ」は先行リリースされた同名シングルとは別ヴァージョンで、より深いエコーがかけられ、ベースの音がかなり大きくミックスされている。“コケッコ ケコ ケコ ケコ ケコ~♪” で終わるエンディングでトノバンが悪戯っぽく “ケコ!” と呟くところも楽しい(^.^)  B面の「レコーディング・データ」というのは「快傑シルヴァー・チャイルド」をバックに当時の人気ラジオDJの高崎一郎氏がメンバー紹介、亀淵昭信氏がアルバム紹介をするというもの。特に “最近たいへん流行っておりますシンセサイザー...” や “ビートルズも使ったといわれるメロトロン...” のくだりが時代を感じさせて面白い(^.^)  そもそもサディスティック・ミカ・バンドというバンド名からして当時ブイブイいわしていたジョンのプラスティック・オノ・バンドをもじって付けたというのだから、ビートルズの影響力ってホンマに凄いですな...(^.^)
Sadistic Mika Band 1st Bonus 7inch


【おまけ】
「サイクリング・ブギ / オーロラ・ガール」(DTP-2681)
 デビュー・アルバムの前年にリリースされたミカ・バンド初のシングル盤がコレ。メンバーは加藤和彦、ミカ、そしてつのだひろ(ドラムス)の3人だけで、高中、高橋、小原はまだ参加していない。A面の「サイクリング・ブギ」はシンプルなスリー・コードを上手く使ったノリノリの疾走系チューンで、軽妙洒脱なコーラス・ハーモニーも含め、加藤和彦のアレンジ・センスがキラリと光っている。つのだひろが書いた “マンボ・ズボンに白いマフラー~♪”や“ポニーテールに粋なサンダル~♪”、“今日も峠の小径~♪”に“明日は銀座の街角~♪”と、60年代昭和歌謡の必殺フレーズが次々と飛び出す歌詞も曲のドライヴ感に拍車をかけており、この曲の名演度アップに大きく貢献している。尚、イントロでミカが“レッツゴー、ドーナッツ!”と叫んでいるのはこのレコードが記念すべき第1弾となった加藤和彦の個人レーベルである“ドーナッツ・レコード”のことだ。
 B面の「オーロラ・ガール」は、もろにT.レックスのイミテーションをしてみました... という感じの遊び心溢れるナンバーで(←ミディアム・テンポにこのコーラス・ワーク... 本家 T.レックスよりも T.レックスっぽいやん...笑)、「テレグラム・サム」に「ニューヨーク・シティ」をたっぷり振りかけてレンジでチンしたら出来上がり(?)みたいな笑撃のケッ作。オリジナル・アルバム未収録で、このシングル盤とベスト盤 CDでしか聴けない貴重な音源だ。
Sadistic Mika Band - Aurora Girl 1972

タイムマシンにおねがい / サディスティック・ミカ・バンド

2018-09-01 | J-Rock/Pop
 私は日々音楽漬けの生活を送っているせいか、何の前触れもなく突然頭の中で音楽が鳴り出すことがよくある。その大半は印象的なギター・リフのイントロを持った曲で、ある時は「レイラ」だったり、ある時は「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」だったり、またある時は「20thセンチュリー・ボーイ」だったりと洋楽が圧倒的に多いのだが、邦楽ではサディスティック・ミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」が定番中の定番だ。つい先日も仕事の真っ最中にこの曲が頭の中で何度も何度もヘビロテしてしまい(←全然仕事に集中してへんな... 笑)そそくさと家に帰って久々にミカ・バンドを大音響で聴いたのだが、やっぱりエエですなぁ... (≧▽≦)  というワケで、今日は「タイムマシンにおねがい」特集です。

①福井ミカ・オリジナル Ver. (with オリジナル・ミカ・バンド) [1974]
 彼らの代表作であると同時に邦楽ロックの最高峰と言っても過言ではないこのオリジナル・シングル盤(DTP-20053)も今となっては入手困難らしく、ヤフオクでは3,000~4,000円ぐらいの高値で取り引きされているようだが、CDで聴き慣れたこの曲をシングル盤の45回転で聴くとその桁違いの爆音に圧倒されること間違いなし! いきなり炸裂するイントロのリフ攻撃だけで軽く3メートルはぶっ飛ぶはずだ。ミカのヴォーカルのド迫力もハンパない。今回の特集でかれんやカエラといった他のヴォーカリストを聴いた後に初代のミカを聴くと、やっぱり本家本元には敵わんなぁと痛感させられる。素人感覚丸出しの彼女のヴォーカルが無ければ初期ミカ・バンドのポップでキッチュなサウンドは成り立たないのではないかとさえ思えてくる、究極のヘタウマ・ヴォーカルだ。
サディスティック・ミカ・バンド/タイムマシンにおねがい(1974年)


②桐島かれん Ver.(with 第2期ミカ・バンド) [1989年]
 歴代のミカ・バンド女性ヴォーカリストの中で、上手いヘタは抜きにして最もこのバンドのサウンドに合っているのは初代のミカだと思うが、ヴィジュアル的に言うと2代目の桐島かれんが断トツにいい。“華がある” とでもいえばいいのか、彼女の細やかな動作の一つ一つが妖艶な魅力を振りまいて観る者を魅了するし、ミカ・バンドならではの無国籍サウンドもこの時代のバブリーな感覚に絶妙にマッチしている。目で見て楽しめるゴージャスなミカ・バンドならこの第2期だ。
タイムマシンにおねがい - SADISTIC MICA BAND LIVE IN TOKYO 1989


③福井ミカ Ver.(with ユーミン, 高中正義, 高橋幸宏) [1996年]
 1996年に中野サンプラザで行われた「荒井由実復活コンサート」にミカがゲスト出演した時の映像がこれ。頭おかしいとしか思えないほどスイッチングを多用したカメラワークには吐き気がするが、貫録十分のミカのヴォーカルにユーミンがハモるところなんかもう鳥肌モノ。絵に描いたようなヘタウマ・ヴォーカルの二人が生み出すケミストリーにゾクゾクさせられること間違いなし! “ずっとミカに憧れていた” というユーミンはもうノリノリで、実に楽しそうに “憧れの人” ミカとの共演を楽しんでいる。高中“さかなクン”正義(笑)のギターもキレッキレだ。
タイムマシンにお願い


④福井ミカ Ver.(with 高中正義, Char, 村上ポンタ秀一, 吉田建, そうる透) [1997年]
 これは1997年に日本武道館で行われた高中正義の「虹伝説Ⅱライヴ」にミカがゲストとして参加した時の映像で、長年のイギリス生活で見た目はすっかり和製アン・ウィルソン(笑)と化してしまったが、そのパンチのあるヴォーカルはまだまだ健在で、怖いもの知らずの無勝手流唱法で圧倒的な存在感を示している。ゲスト参加した Char の遊び心溢れるプレイも必見で、茶目っ気たっぷりに “鉄腕アトム” のフレーズを挟むなど、このスーパーセッションを心から楽しんでいるようだ。
タイムマシンにおねがい


⑤木村カエラ Ver.(with 第3期ミカ・バンド) [2007年]
 私はJ-Popには全く興味がないので、この木村カエラというシンガーのことはミカ・バンドの3代目ヴォーカリストを務めたということ以外何も知らなかった。だから聴く前は大して期待していなかったのだが、実際に聴いてみてビックリ(゜o゜)  ミカやかれんほどの強烈な個性には欠けるものの、歌の上手さでは彼女が一番で、コンテンポラリーなJ-Popシンガーとは思えないような堂々たるパフォーマンスでミカバンドのヴォーカルという大役を立派にこなしていることに大いに感銘を受けた。いやホンマ、この娘すごいわ... 彼女を選んだトノバンの眼力に敬服!
タイムマシンにおねがい - SADISTIC MICA BAND

Romantist Taste 2012 / The Yellow Monkey

2012-10-16 | J-Rock/Pop
 確か9月の初め頃だったと思うが、ネットの音楽ニュースを見ていて “The Yellow Monkey、デビュー曲「Romantist Taste」を新たな装いで11年8か月ぶりのシングルとして緊急発売!!!” という記事が目に留まった。それによると、メジャー・デビュー20周年を記念して全アルバム曲&ミュージック・ビデオの一斉配信を開始することが決まり、その際にデビュー曲の「Romantist Taste」をニュー・ミックスで出したら面白そうだということになったという。
 ここで私は一瞬 “イエロー・モンキーも今流行りのリマスター再発かいな...” と思ったのだが、その先を読んでみるとどうやら単なる音圧増強リマスターではないらしい。何とオリジナル・ミックスを担当したエンジニアを中心に4人のメンバー立会いの下でニュー・ミックスが作られ、更にあのテッド・ジェンセンがマスタリングを担当したというからこれはエライコッチャである。
 ファンの人の中には “テッド・ジェンセンって一体誰やねん???” という人が少なくないかもしれないが、この人はビリー・ジョエルを始めとして、イーグルスからマドンナ、ノラ・ジョーンズ、メタリカに至るまで、幅広いジャンルで数多くの名作のマスタリングを手掛けてきた巨匠エンジニアなんである。スカスカのサウンドでチープな味わいが売りだったデビュー曲がニュー・リミックス&リマスターでどう変身するのか... コレはファンとしては非常に興味深いところだ。
 しかしこのシングルの真価はむしろその豪華すぎるボーナス・トラックにある。近々リリースされるDVD「TRUE MIND "NAKED"」から何と12曲ものライヴ音源が収められているのだ(゜o゜)  収録曲は②「SPARK」、③「FOUR SEASONS」、④「熱帯夜」、⑤「ROCK STAR」、⑥「嘆くなり我が夜のFantasy」、⑦「太陽が燃えている」、⑧「LOVE COMMUNICATION」、⑨「JAM」、⑩「THIS IS FOR YOU」、⑪「悲しきASIAN BOY」、⑫「FATHER」、⑬「空の青と本当の気持ち」で、②~⑨は1996年7月21日のNHKホール公演から、⑩~⑬は1996年1月12日の日本武道館公演からの音源だ。
 それにしても1,050円のシングルに、バンドとして1番脂が乗っていた1996年のライヴ・ツアーからほとんどライヴ盤1枚分に相当する12曲がボートラ、つまりオマケとして付いてくるというのは、例えるなら「ラヴ・ミー・ドゥ」のニュー・ミックス・シングルのボートラとしてシェア・スタジアムや日本武道館のライヴ音源がそっくり丸ごと入っているようなもの... もうどっちがボートラか分からん主客転倒状態だが、私も含めてこのシングルの購入者のほとんどはこっちが本命なのではないだろうか。イエロー・モンキー・サイドからすればニューDVD「TRUE MIND "NAKED"」のプロモーションを兼ねた戦略商品なのだろうが、音楽史上最強のコスパを誇るシングルであることだけは間違いない。
 届いた盤はちょうど NORMA のジャズ CD を想わせるような質素な紙ジャケCDで、歌詞カードは①の「Romantist Taste 2012」のみ。早速聴き比べてみたのだが、フェード・インでスタートしてネチネチと攻めてくるオリジナル・ヴァージョンとは違い、イントロからいきなりガツン!とくるヤクザな音に圧倒される。とにかく各楽器の重厚さが格段に増しており(←特にリズム隊!)、大蛇がとぐろを巻くような野太いグルーヴがたまらんたまらん(≧▽≦)  これはもうアンプのヴォリュームを上げて大音量で聴くしかない。
Romantist Taste 2012


 吉井さんの “よぉこそ~” で始まるスーパーウルトラ疾走系チューン②「SPARK」、アグレッシヴなギター・リフの波状攻撃にアドレナリンがドバーッと出まくる④「熱帯夜」、思わず身体が動いてしまうノリノリの⑤「ROCK STAR」、王道を行く爽やか系ポップンロール⑦「太陽が燃えている」といったアッパー・チューン中心で息をもつかせぬ展開の前半から、イントロを聴いただけで涙ちょちょぎれる⑨「JAM」やこの時期のライヴでしか聴けないレアな⑫「FATHER」といった感動系ナンバーで盛り上がる後半まで、まさに“中期イエロー・モンキーのライヴ・ベスト” 的な内容になっている(^o^)丿
 曲ごとにフェード・アウトしていたり、唐突な感じで始まるトラックもあったりで、ちゃんとした流れのある “ライヴ盤” とは言えないが、彼らの公式ライヴ盤は「SO ALIVE」だけだから、今回のこの太っ腹すぎるシングルはイエロー・モンキーのファンにとっては絶対に買い!の1枚だと思う。
SPARK ( LIVE )

[LIVE] THE YELLOW MONKEY - ROCK STAR

JAM

ROCK or DIE / 相川七瀬 (Pt. 2)

2012-09-21 | J-Rock/Pop
 私がリアルタイムで聴いて盛り上がっていた相川七瀬ナンバーはこのベスト・アルバムで言うと前半に収められた①「夢見る少女じゃいられない」から⑦「Sweet Emotion」までで、⑧から後は聞いたことがあるようなないような、その程度のあやふやな印象しかない。改めて今の耳で聴いてみても、楽曲のクオリティーは 2ndアルバム「パラドックス」からの3枚のシングル⑤「恋心」⑥「トラブルメイカー」⑦「Sweet Emotion」でピークに達し、それ以降は下降線を辿っているように思えるのだ。要するにコンポーザー兼プロデューサーの織田哲郎がそれまでのようなヒット・ポテンシャルの高い曲を書けなくなったということなのだろう。
 そんなオダテツのネタ切れ初期症状を如実に示しているのが⑧~⑩あたりのシングル曲で、もう見境なく80'sの洋楽ロック/ポップスからの引用を連発しており、あれやこれやと策を弄するあまりスカッと突き抜けるような一気通貫の爽快さが損なわれてしまっている感は否めない。ただ、百戦錬磨のオダテツだけあって凡百の J-POPS に比べれば曲のフックはまだまだ健在だし、私は元ネタとなった80'sヒット曲も大好きなので別の意味で大いに楽しめているのだが...(笑)
 中でも一番笑えたのが⑧の「Bad Girls」で、思わずドナ・サマーを思い浮かべてしまいそうな紛らわしいタイトルの曲なのだが、この印象的なベースラインはどこをどう聴いても1987年にイギリスで大ヒットした M/A/R/R/S の「Pump Up The Volume」そのまんま。ブリティッシュ・ファンク色濃厚なハウス・サウンドが生み出す独特のグルーヴ感と相川七瀬のツンデレ・ヴォーカルの組み合わせが実に新鮮で面白い。こういう楽しみ方は邪道なのかもしれないが、何の脈絡もなしに唐突に飛び出してくる T.REX の「テレグラム・サム」そっくりなサウンドに目が点になる②「バイバイ。」(←初めて聞いた時はイスから転げ落ちそうになった...)と並ぶ、洋楽ファン必聴(?)の摩訶不思議なナンバーだ。
相川七瀬 Bad Girls

MARRS - Pump Up The Volume 1987 [HD Official Video]


 ⑨「彼女と私の事情」はプリミティヴなドラムのビートにアグレッシヴなイケイケ・ギター、粗削りでパワフルなシャウトといった “ジョーン・ジェットらしさ” を随所に散りばめた面白い曲で、シングル・マーケット向きとは言えないかもしれないが、ライヴでは大盛り上がりしそうなロックンロールだ。日本人でこの手の曲を歌わせたら七瀬の右に出る者はいないだろう。
Aikawa Nanase 彼女と私の事情(Kanojo to watashi no jijou) 9S(ra)


 ジュリーの「六番目のユウウツ」みたいなイントロのリフからフーターズを彷彿とさせるハッピーな80'sポップンロールへとなだれ込み、途中 My Little Lover の「めぐり逢う世界」に傾きそうになりながらもぐっと踏ん張り、最後には中森明菜の「DESIRE」みたいにビシッとキメて、涼しい顔で再びジュリーへと戻っていく(←あくまでもイメージです...笑)⑩「nostalgia」もめっちゃ好き。昔どこかで聞いたような懐かしいフレーズ/サウンドがてんこ盛りのこの曲を “ノスタルジア” と名付けたセンスが素晴らしい。
相川七瀬 Nostalgia


 後期の曲で断トツに気に入っているのがアン・ルイスのカヴァー⑭「六本木心中」だ。さすがは歌謡ロックの代名詞と言われるだけあって、メロディーラインが地味すぎてほとんど印象に残らない⑪「Lovin' You」以降の楽曲群の中にあって圧倒的な存在感を示しているのだ。オリジナルのアン・ルイスを圧倒的なパワーでグイグイ加速していく大排気量のアメ車とするならば、七瀬のヴォーカルはシャープなハンドリングでワインディングを軽快に駆け抜けていく国産スポーツカーといった感じで、そんな彼女の持ち味を巧く活かしたアレンジがめっちゃカッコいい(←取って付けた様なかったるいエンディングだけはどうしても好きになれないが...)。やっぱり相川七瀬はエッジの効いたギターが前面に出たアップテンポな歌謡ロックが最高ですな(^o^)丿
Aikawa Nanase 六本木心中(Roppongi shinjuu) 21S(RD)

ROCK or DIE / 相川七瀬 (Pt. 1)

2012-09-17 | J-Rock/Pop
 前回に引き続き、今日も相川七瀬だ。マーティが参加した「EVERYBODY GOES」をきっかけに再び彼女を聴いてみようと思った私は取りあえず手頃なベスト盤を探すことにした。1999年以降の曲はほとんど知らないし、それ以前のヒット曲もリマスターされた “良い音” で聴いてみたかったからだ。で、何種類かあるベスト盤の中から選んだのがこの「ROCK or DIE」で、 “ロックか死か” というストレートなタイトルや鮮やかな赤を基調としたジャケットが気に入って購入決定。DVD が付いてない通常盤は人気が無いらしくヤフオクで500円だった。
 彼女のヒット曲にはいくつかのパターンがあるが、中でも最も彼女に合っているのがポップに弾けまくる疾走系ロックンロール。私に言わせれば “疾走せずに何の相川七瀬か!” という感じなのだが、そんなハイスピード・ロック・チューンの中で特に気に入っているのが⑥「トラブルメイカー」だ。私が初めて聴いた相川七瀬がこの曲で、グングン加速しながら疾走する曲想と見事にシンクロした PV もめちゃくちゃカッコ良く(←けっこう動体視力を試される映像で目が疲れるのだが...)、今でもこれが彼女の最高傑作だと思っている。
相川七瀬 【PV】 トラブルメイカー


 相川七瀬はその “元ヤン・ツッパリ” のイメージから “和製ジョーン・ジェット” と言われることが多い。確かに皮ジャンが似合う不良っぽいイメージはジョーン・ジェットを想わせるものがあるが、骨の髄までロックンロールが染み込んだ筋金入りのロッカーであるジョーン・ジェットとは違い、この頃の彼女はプロデューサーの織田哲郎が80'sポップスのオイシイ所を随所に散りばめて仕上げたJ-POP を歌うガールズ・ポップ・シンガーという側面が強い。そういう意味ではジョーン・ジェットというよりもむしろパット・ベネターあたりに近いところもあり、アグレッシヴなギター・サウンドを前面に押し出したデビュー曲①「夢見る少女じゃいられない」もマイク・チャップマンがプロデュースした初期ベネター的な薫りがするし、隠し味的に使われているキーボードにも80'sアメリカン・ポップスの影響が強く感じられる。
相川七瀬 【PV】 夢見る少女じゃいられない


 彼女にとって最大のヒット曲である⑤「恋心」は昭和歌謡を想わせる日本人好みの切ないメロディーをビートの効いたロックの形態で演奏した、まさに絵に描いたような歌謡ロックであり、 J-POP バブル黄金期を象徴するかのようなキャッチーなナンバーだ。ドラマ仕立ての PV もハードボイルドな味付けで、七瀬の元ヤン・キャラ故か、機関銃をガンガン撃ちまくる強盗犯役がぴったりハマっているのが面白い。
相川七瀬 【PV】 恋心


 ハードでソリッドなギター・サウンドとポップ・ソングの親しみやすさを見事に両立させたのが⑦「Sweet Emotion」で、そのライヴ感溢れるキャッチーなロックンロールはまさに相川七瀬の真骨頂。曲想としてはジョーン・ジェットの「グッド・ミュージック」あたりが元ネタだと思うし、彼女が皮ジャン姿でオーディエンスを煽りまくる PV なんかもろにジョーン・ジェットのパロディーだが、 “それがどーした” の勢いで一気呵成に聴かせてしまうところはさすがの一言。オダテツ・マジックというべきか、時間差攻撃でメロディーを追いかけるストリングス・アレンジも効果抜群で、相川七瀬と織田哲郎のコラボがこの時期ピークにあったことが実感できる名曲名演だ。 (つづく)
(相川七瀬) Sweet Emotion


【おまけ】コレ↓めっちゃオモロイわ(^o^)丿
相川七瀬替え歌「夢見るアラフォーじゃいられない」本人です。さんまのからくりTV
コメント (2)

R.U.O.K?! / 相川七瀬

2012-09-13 | J-Rock/Pop
 今日もマーティ絡みのアルバムでいこう。私は80年代以降の邦楽、特に J-POP と呼ばれるジャンルの音楽は趣味に合わないのでほとんど聴かないが、そんな私で1996~1998年あたりの3年間だけは J-POP をよく聴いていた。ちょうどグランジ/オルタナ・ロックやヒップホップに汚染された洋楽と絶縁して何か面白い音楽はないもんかと探していた時にたまたま耳にした B'z やイエロー・モンキーに大感激して彼ら見たさにテレビの歌番組を見始め、そのついでに他のアーティストの音楽も耳にすることになった。その頃のヒット曲には何故か私の嗜好に合うものが多く、お気に入りのアーティストもできて怪しげな台湾盤(!)やブックオフの激安CDを買って楽しんでいたのだが、この相川七瀬も当時よく聴いたうちの一人だった。
 やがて2000年代に入って J-POP が急速につまらなくなり、それに比例するかのように彼女のシングル曲のクオリティーが低下したこともあって私の中ではすっかり “七瀬=懐メロ” と化していたのだが、そんな私が再び彼女の曲を聴くきっかけになったのが他でもないマーティ・フリードマンだった。彼の本「いーじゃん! J-POP」には八代亜紀や石川さゆりといった憧れの人と共演できて夢みたいだったとコーフン気味に書かれてあるのだが、日本に来たばかりの彼に最初に J-POP の仕事をくれたのは他でもない相川七瀬であり、彼女のバンドの一員として全国ツアーにも参加したというのだ。早速 YouTube で調べてみてマーティが彼女のバックでガンガン弾いてる映像を発見、それが2005年リリースのアルバム「R.U.O.K?!」からシングルカットされた⑦「EVERYBODY GOES」である。
 彼女はお世辞にも歌が上手いとは言えない。特にスローな曲は苦手なようで(←以前サッカーの試合前の国歌斉唱で聞かされた「君が代」は思わず脱力してしまうレベルやった...)、私の知る限りでは彼女が歌うバラッドで心に残るものはない。逆に彼女のスイートスポットであるアップテンポなポップ・ロック・チューンにハマった時はそのキュートでありながらパワフルな歌声と相まって他のシンガーには真似の出来ない名演が生まれるのだ。この⑦でもイントロからエンディングまで一気呵成に聴かせる吸引力は凄まじいものがあるし、マーティのメタル魂溢れるギター・ソロもめちゃくちゃカッコイイ(^o^)丿 ロックンロールの楽しさがビンビン伝わってくる PV もめっちゃエエ感じに仕上がっていて言うことナシだ。
Aikawa Nanase EVERYBODY GOES 27S(RD)


 このアルバムはマーティ以外にも “超豪華ミュージシャンがレコーディングに参加” とのことなのだが、日本のロックシーンには疎いので正直言ってよく分からない。しかしそんなバック・バンドのメンバーが一致団結して生み出すライヴ感溢れる骨太ロック・サウンドは快感そのもの。全盛期を彷彿とさせるその躍動感溢れる彼女の歌声も “相川七瀬、ココに完全復活!!!” と!を3つも付けたくなるようなノリの良さだ。⑦以外ではアルバム・タイトル曲の②「R.U.O.K?!」と③「FLY TO RAINBOW RAY」が特に気に入っているのだが、どちらもキャッチーなメロディーと心地良い疾走感がたまらないハイスピード・チューンだ。やっぱり相川七瀬はこうでなくっちゃ!
相川七瀬 - R.U.O.K?! [JAPAN TOUR 2006 R.U.O.K?!]

相川七瀬 - FLY TO RAINBOW RAY [JAPAN TOUR 2006 R.U.O.K?!]


Love Songs Ⅰ ~また君に恋してる~ / 坂本冬美

2012-08-26 | J-Rock/Pop
 今日もまたまた冬ミンだ(^.^) 前回取り上げたのは「Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~」というアルバムだが、Ⅱがあるということは当然Ⅰが存在するはず。ということで調べてみて見つけたのがこの「Love Songs Ⅰ ~また君に恋してる~」という盤だ。収録曲は、①「また君に恋してる」(ビリー・バンバン)、②「恋しくて(BEGIN)、③「あの日にかえりたい」(荒井由実)、④「会いたい」(沢田知可子)、⑤「言葉にできない」(オフコース)、⑥「恋」(松山千春)、⑦「夏をあきらめて」(サザンオールスターズ)、⑧「シルエット・ロマンス」(大橋純子)、⑨「片想い」(浜田省吾)、⑩「なごり雪」(イルカ)、⑪「時の過ぎゆくままに」(沢田研二)、⑫「大阪で生まれた女」(BORO)、⑬「また君に恋してる」(ビリー・バンバンとのデュエット・ヴァージョン)で、Ⅱと同様70~80年代の邦楽から選曲されているが、Ⅱのように “冬” を意識したコンセプトではない。
 曲目を見てまず思ったのは、Ⅱに比べて知ってる曲が少ないなぁ、ということ。原曲を知っていたのは③⑦⑧⑩⑪⑫の6曲のみというお寒い状況で、実際、①のビリー・バンバンや⑨の浜田省吾は名前だけは知っていても曲は聴いたことがなかったし(←邦楽は結構このパターンが多いな...)、②のBEGIN や④の沢田知可子に至っては名前すら知らない。しかも嫌いなオフコースや松山千春の曲まで入っているということでⅡほど親近感が湧かず、私はこの CD を買うかどうか迷っていた。
 しかし、しかしである。③の「あの日にかえりたい」を試聴してそんな迷いは木端微塵に吹き飛んだ。ユーミンが “ニュー・ミュージック(←懐かしいなぁこの言葉!)の旗手” として大ブレイクするきっかけとなった名曲を、何とクール&ライトなジャズ・アレンジで、演歌出身の冬ミンが歌っているのだ! まさに大胆不敵としか言いようがない発想だが、コブシを完全に封印し、大仰に感情を込めるのではなく一見サラッと軽く流して歌っているように思わせながらそのコトバの響きの中に儚さを滲ませていくという冬ミン唱法がジャジーなアレンジと絶妙にマッチ、あらゆる要素が音楽的かつ有機的に結びついてオリジナルとはまた違った世界観を作り上げているところが凄い。歌伴のお手本のような粋なピアノ、ボッサなギター、そしてムード満点のサックスをバックにユーミンを歌う冬ミン... ハッキリ言ってこの1曲のためだけにアルバムを買ってもいいぐらいカッコ良いカヴァーだ。
坂本冬美 あの日にかえりたい


 ユーミン以外で興味を引かれたのが⑦のサザンや⑪のジュリーのカヴァーだったが、どちらもアレンジがイマイチ好きになれない。⑦はゴテゴテ飾りすぎていてせっかくの彼女の歌声を邪魔しているように感じるし、⑪はウェットな色合いがちょっと濃すぎるように思える。この2曲はあれこれ策を弄さずにもっと原曲に近いシンプル&ストレートなアレンジで聴いてみたかった。
 そんなこんなで私が③に次いで気に入ったのが⑧の「シルエット・ロマンス」だ。圧倒的な歌唱力で歌い上げたこの冬ミン・ヴァージョンは原曲である大橋純子ヴァージョンや作者の来生たかおヴァージョンを遥かに凌駕する素晴らしさで、彼女の歌唱は曲の髄まで引き出す表現レベルにまで達しているように思う。その官能的と言ってもいいぐらい艶やかな歌声は実に瑞々しい響きで、サビの “もっと ロマンス 私に仕掛けてきて~♪”のラインなんかもうゾクゾクするぐらいのリアリティーを感じさせる。坂本冬美の魅力ここに極まれり!と言いたくなる絶品カヴァーだ。
シルエット・ロマンスー坂本冬美


 アルバム・タイトル曲の①「また君に恋してる」も素晴らしい。この曲のオリジナルはビリー・バンバンで “いいちこ” という焼酎のテレビCMソングとして使われていたが、旋律はキング・クリムゾンの「ムーンチャイルド」そのまんまやし脆弱なヴォーカルも自分の好みとはかけ離れているしでいまいちピンとこなかった。しかしこの冬ミン・ヴァージョンは凄い、いや凄すぎる!!! 彼女の力強い歌声が持つ凄まじいまでの吸引力によってロバート・フリップもビックリの出藍の誉れ高き「ムーン...」じゃなかった、「また君」へと昇華されており、初めて聴いた時は大袈裟ではなく魂を揺さぶられるような感じがした。
 この曲はシングルカットされてアルバムと共にヒットチャートのトップ3入りを果たすなど、演歌系歌手としては異例の大ヒットを記録したのだが、それを受けて彼女は「すべて清志郎さんのおかげです。20年前、駆け出しの私に “一緒に歌おう” と声をかけて下さった。おかげで歌手としての幅が広がり、今の私があるんです。」とインタビューで語っている。 SMI や HIS での経験が見事に実を結んだこの「Love Songs」シリーズ、これからもどんどん続編を出してもらって彼女の歌声で数々の名曲たちに新たな生命を吹き込んでほしいものだ。
2010/10/30 23:31 「 また君に恋してる」【HD】PV


【おまけ】J-POP にメタル魂を注入して新解釈で聴かせてくれるのがこの人、マーティ・フリードマン。「また君」は12分を過ぎたあたりからで、エモーショナルの一言に尽きるプレイが圧巻です!
MARTY FRIEDMAN ライヴ(天城越え~また君に恋してる)
コメント (2)

Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~ / 坂本冬美

2012-08-23 | J-Rock/Pop
 坂本冬美のアルバム「Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~」は元々「さらばシベリア鉄道」目当てで買ったのだが、他の曲も聴き所が満載でアルバムを一気通聴してみて彼女の歌声の魅力にすっかりハマってしまった。収録曲は、①「安奈」(甲斐バンド)、②「哀愁のカサブランカ」(郷ひろみ)、③「ずっとあなたが好きでした」(坂本冬美・新曲)、④「白い冬」(ふきのとう)、⑤「さらばシベリア鉄道」(太田裕美)、⑥「オリビアを聴きながら」(杏里)、⑦「ひとり上手」(中島みゆき)、⑧「想い出まくら」(小坂恭子)、⑨「神田川」(かぐや姫)、⑩「ワインレッドの心」(安全地帯)、⑪「さよなら」(オフコース)、⑫「クリスマス・イブ」(山下達郎)と、新曲③以外は超有名曲ばかりだ。
 オリジナル・シンガーの印象が強いこれらの曲を選んで1枚のカヴァー・アルバムを作るなんて普通なら無謀な企画だと思うのだが、彼女はシンガーとしての抜群のセンスと表現力で1曲1曲を丁寧に歌い込み、原曲を知らない人が聴けば彼女のオリジナル曲と思ってしまうかもしれないぐらい見事なカヴァー・アルバムに仕上げている。とにかく全ての曲が “坂本冬美の歌” として屹立しているところが凄い!!! 
 彼女が一番得意とするのはやはり女性シンガー・オリジナルの “じっくり歌い込み系” バラッドだろう。このアルバムでも杏里の⑥や小坂恭子の⑧という J-POP のスタンダード・ナンバーに新たに魂を吹き込むかのように力強い歌声を聴かせてくれるのだが(←かすかにコブシが入ってるところはご愛嬌…)、それらは彼女のキャリアを考えればあくまでも想定の範囲内。このアルバムで最も感銘を受けたのは彼女が歌う “ミディアム~アップテンポなポップス系” のナンバーで、その代表格と言えるのが前回取り上げた⑤「さらシベ」、そして⑦の「ひとり上手」である。
 この曲は数ある中島みゆき作品の中でも三指に入る愛聴曲で、日本人の心の琴線をビンビン震わせるその旋律はまさにみゆき・ナンバーの王道というべきものなのだが、そんな哀愁舞い散る名曲を坂本冬美がその艶のある伸びやかな歌声で聴かせてくれるのだ。そのしっとりとした質感はまさに絶品と言ってよく、女心を切なく坂本冬美流に表現して歌うくだりなんてもう鳥肌モノの素晴らしさ(≧▽≦)  この曲の、そして坂本冬美の素晴らしさが分かる日本人に生まれて良かったなぁ...と思わせてくれるキラー・チューンだ。
「ひとり上手」坂本冬美


 収録曲の半数以上が男性シンガーの曲というのもこのアルバムの興味深いところで、女性の歌声で女性の視点から歌われるこれらのナンバーは実に新鮮に響くのだが、そんな中で特に気に入ったのが甲斐バンドの名曲①「安奈」だ。演歌の世界で鍛え上げられたそのきめ細やかな表現力は特筆モノで、歌詞をしっかりと歌いながらそのコトバの端々に情感を滲ませていく歌唱法はさながら “日本のペギー・リー” だ。この曲でも主人公の孤独感、そして愛する人への想いがビンビン伝わってくるし、その歌声の向こうに立ち上る冬景色も実にリアル。 B'z「いつメリ」の “恋するハニカミ!ヴァージョン” を想わせる鈴の音もそんな冬景色に彩りを添えている。
「安奈」坂本冬美


 郷ひろみをカヴァーした②もめっちゃ好き(^o^)丿 彼女が他のシンガーと決定的に違うのはその歌声の中に漂うそこはかとない色気だと思うのだが、この曲でも彼女独特の儚いビブラート唱法が絶妙な味わいを醸し出しており、もう官能的と言ってもいいぐらいの抗し難い魅力で聴く者を坂本冬美ワールドへと誘う。それはバーティー・ヒギンズとも郷ひろみとも明らかに違う彼女独自の歌世界であり、彼女のスタンダード・シンガーとしての奥深さを感じさせる名唱だ。
 忌野清志郎が惚れ込んだその資質を見事に開花させ、新境地を切り開いた坂本冬美。演歌とはまた違った彼女の魅力が堪能できるこの CD は、どうせ演歌の歌手だからといって聴かずにいると絶対に損をする、邦楽スタンダード・カヴァー・アルバムの金字塔だ。
「哀愁のカサブランカ」坂本冬美
コメント (4)

さらばシベリア鉄道 / 坂本冬美

2012-08-19 | J-Rock/Pop
 「さらシベ」特集もいよいよ最終回。高校生の時に初めて裕美ヴァージョンを聴いて以来の超愛聴曲なので気に入ったカヴァーに出会ったら必ず買うようにはしていたが、今回特集をするにあたって見落としがないか調べていたところ、この夏最大の収穫といえる1枚に巡り合うことができた。きっかけを作って下さったみながわさんには足を向けて寝れないが、その1枚というのが何を隠そう坂本冬美の「Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~」である。
 坂本冬美といえば世間一般のイメージとしては “バリバリの演歌歌手” だろう。私は昔から演歌が大の苦手で、大好きなちあきなおみ姐さんですら演歌を歌った(歌わされた?)盤は聴く気がしないし、美空ひばりも同様だ。私はロックンロールの “グルーヴ” やジャズの “スイング” のように思わず身体が揺れるようなノリノリ感覚を楽しみたいがために音楽を聴いている人間なので、自分の身体感覚とはまったく異質な演歌の “コブシ” は生理的に受け付けないのだ。だから私の脳内では “演歌歌手 = コブシ = 絶対無理” という短絡的な思考回路が形成されていた。
 そんな私の “演歌歌手に対する偏見” を木端微塵に打ち砕いたのが他ならぬ坂本冬美だった。何年か前に大好きな「デイドリーム・ビリーバー」のカヴァーを色々探していた時にたまたま YouTube で彼女が忌野清志郎や三宅伸治らと共演しているライヴ映像を発見、目からウロコとはまさにこのことで、彼女の歌う「デイドリーム・ビリーバー」を聴いて演歌臭を微塵も感じさせずにポップスも楽々と歌いこなすその懐の深さに “優れた歌手にはジャンル分けなんか無意味” なんだということを再認識させられたのだ。
SMI 忌野清志郎 坂本冬美 デイドリームビリーバー


 これはエライコッチャと色々調べてみると、我が愛聴盤である RCサクセションの「カバーズ」には参加してるわ、清志郎や細野晴臣らと結成した HIS というユニットではビートルズの「アンド・アイ・ラヴ・ハー」を日本語カヴァーしてるわで(←その後、ビートルズ・カヴァー・コンピ盤「ラヴ・ラヴ・ラヴ」にて英語詞でもカヴァー!)、演歌というジャンルにとらわれない幅広~い活動をしてきた人なのだと判明、その時から私は彼女に一目も二目も置くようになった。
And I Love Her / HIS (1991)


 ということで凡百の演歌歌手によるカヴァーなら目もくれずにスルーするところだが、何と言っても坂本冬美である。彼女の歌う「さらシベ」って一体どんなんだろうと興味をかき立てられ早速試聴してみると、この曲は言うに及ばず、他のカヴァー曲も心に沁みる名唱ばかりでめちゃくちゃ良いではないか!!! 私は迷わず買いを決めた。
 このアルバムは全12曲収録、 “冬に聴きたいラヴ・ソング” というコンセプトで1970年代半ばから1980年代初め頃までのヒット曲の中から選曲されたカヴァー集で、そのほとんどはリアルタイムで聴いて知っている曲ばかりだ。そんな名曲ぞろいの中でもダントツに気に入ったのがアップテンポで軽快に歌われる⑤「さらばシベリア鉄道」で、先の「デイドリーム・ビリーバー」の時と同様に過剰なコブシを封印しながら一つ一つの言葉に気持ちを込めて大切に歌っており、スケールの大きなスタンダード・シンガーとしての彼女の巧さを堪能できるカヴァーになっている。その圧倒的な歌唱力で主人公の微細な心のひだひだまで捉えてリアルに描写した坂本冬美の「さらシベ」、 “うた” の原点に立ち返ってじっくりと耳を傾けたい珠玉の逸品だ。
さらばシベリア鉄道 坂本冬美
コメント (2)

アキラのさらばシベリア鉄道 / 小林旭

2012-08-16 | J-Rock/Pop
 「さらシベ」特集第3弾は私が愛聴している超個性派3連発です。

①小林旭
 そもそも今回の特集を思いついたきっかけというのが最高顧問のみながわさんに教えていただいたこの “マイトガイ・ヴァージョン”。恥ずかしながらその存在すら知らなかった私は早速 YouTube で試聴してみてその超個性的な節回しにブッ飛んだ(゜o゜)  オリジナルがナンボのモンじゃいとばかりにアッパレなまでの強引さで自由奔放に歌いまくる “アキラ・ワールド” が全開で、私のように骨の髄まで裕美ヴァージョンが沁みこんでいるリスナーは初めのうちはその豪快な譜割りに強烈な違和感を覚えるかもしれないが、何度も繰り返し聞くうちに、その潔いまでの “オレ流” 歌唱からダイレクトに伝わってくる熱き心に圧倒されるだろう。これこそまさに “アキラの” ザ・ワン・アンド・オンリーな「さらシベ」なのだ。
小林旭 「アキラのさらばシベリア鉄道」 /雪彷徨5


②ザ・ムスタングス
 フィンランドのエレキ・インスト・バンド、ムスタングスはこの曲を何度かレコーディングしているが、「ロック・ミー・フェンダー」収録ヴァージョンはベースが張り切りすぎでバランスがイマイチだし、「ペレストロイカ」収録ヴァージョンはドラムスが少々バタつき気味。私が愛聴しているのはこれらのスタジオ録音テイクを更に高速化したような「ライヴ・イン・ジャパン」収録のヴァージョンで、同じ北欧エレキの先輩格であるザ・サウンズ直系のイケイケの演奏は痛快そのもの(≧▽≦)  細かいことに拘らずにノリ一発で押しまくるノルディック・エレキ・サウンドが全開で、そんな彼らのプレイが気に入った大瀧師匠がリード・ギタリストのマッチ・ルータラに「フィヨルドの少女」への参加を依頼したというエピソードも納得のカッコ良いカヴァーになっている。
Siberia


③KAYO
 何年か前にアマゾンの曲名検索(←めっちゃ便利やったのに何でなくなったんやろ...?)で偶然見つけたのがこの KAYO という女性シンガーのミニ・アルバム「三つ編みヒロイン」。ディーヴォを信奉するポリシックスというシンセ・ポップ・バンドの元メンバーということで、シンセを駆使した打ち込み系デジタル・ビートが支配するサウンドをバックに彼女の透明感溢れるクールな歌声が楽しめる。どちらかと言うとシンセサイザーの音が苦手な私がコレを愛聴しているのも、ひとえにこの曲の旋律が持つ強烈な吸引力と原曲の疾走感を巧く活かしたポップ・センス抜群のアレンジ、そして正統派ガールズ・ポップ・シンガーとしての彼女の魅力によるところが大きいと思う。まさに21世紀型「さらシベ」であり、時代は変わろうとも名曲はこうやって歌い継がれていくのだなぁと実感した。
KAYO - saraba shiberia tetsudou 『さらばシベリア鉄道』
コメント (4)