shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

ビートルズのインド盤特集③「Revolver」

2016-11-27 | The Beatles
 私がビートルズのインド盤に興味を持ったきっかけは “インド盤はシタールの音が違う!” という腰巻コピーで物議を醸した湯浅学氏の「アナログ・ミステリー・ツアー」だったが、その本の中で氏が “世界最強盤はインド盤と決めつけたくなるほど” と「ラバー・ソウル」以上の高評価を与えていたのがインド盤の「リヴォルヴァー」だ。“世界最強” とはまた大きく出たものだが、本の中でそこまで断言する以上、氏には絶対の自信があるのだろう。
 確かにこれまで何枚か聴いてきてインド盤の音が良いのは分かるが、かといってオリジナルのUKファースト・プレス盤をも凌駕して “世界最強” と言えるほど凄いのかというと、私としては “ホンマかいな?” と懐疑的にならざるを得ない。しかも対象となっているのはビートルズの全アルバム中でも一二を争う私のお気に入り盤「リヴォルヴァー」だ。ここはやはり自分の耳で実際に確かめてみるしかないだろう。
 ということで早速ゲットしましたインド盤「リヴォルヴァー」。一昔前なら奈良に住んでいてインドのレコードをササッと手に入れるなんて不可能に近いことだったが、インターネットの発達のお蔭で今ではインド盤であろうがデンマーク盤であろうがチェコスロバキア盤であろうが簡単に海外から送ってもらうことが出来るようになった。ホンマにありがたい世の中になったものだ。
 私が買ったのはオランダのセラーからで、“Excellent vinyl and sleeve, hardly any wear” という商品説明を見て €29.90 で即決。インド盤を買う時は盤質が一番心配なのだが 100%ポジティヴ評価のセラーが excellent というのならまず間違いないだろう。ついでに同じセラーが同一コレクションから出品していたインド盤の「サージェント・ペパーズ」も併せて購入。こっちは「リヴォルヴァー」以上にレアらしく値段も €39.90 と少々高くついたが、eBayでの相場を考えれば(←インド盤に€100も€200も出せるかいな!)これでもかなり安い方だし、盤質の良いインド盤が安く市場に出てくること自体が極めて稀なので、“出物を見つけたら即買い” が鉄則なのだ。もちろん2枚一緒に買うことで送料が浮くのも大きい。
 届いたレコードは手にずっしりと重く、それだけで良い音がしそうな期待を抱かせてくれる。実際に量ってみると176gもあり、UK盤の155gよりも遥かに重い(←因みに前々回に取り上げた「ラバー・ソウル」の142gと比べても30g以上の重量アップ!)。ジャケットは「ラバー・ソウル」と同じくノン・ラミネートで、表ジャケと裏ジャケのコピーをボール紙に貼り付けただけというシンプルな仕様だが作りはしっかりしており、他のインド盤のようにスパインやエッジの部分がボロボロになっていないので補修しなくていいのが嬉しい。
 盤質もセラーの説明通りのNM盤で(←ラッキーなことに今のところインド・プレスのガチャ盤には当たってない...)、実際に聴いてみた感想としては、まず第一に音がごっつい。武骨な音とでも言えばいいのか、とにかく細かいことを気にせずに音の塊がドバーッと押し寄せてくるのだ。私のリファレンスであるUK初回盤の音と比べると、全体的なエネルギー感ではエエ勝負なのだが、音の立体感や切れ味で一歩譲るという感じ。例えるならUK盤がゾーリンゲンのナイフでインド盤はナマクラのナタのイメージだ。
 音がクリアーで細部まで見通せるようなUK盤とは違い、音が混然一体となってスピーカーから出てくるような感じなので、A③「アイム・オンリー・スリーピング」やA⑦「シー・セッド・シー・セッド」、そしてB⑦「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」といった、いわゆるひとつの “リヴォッてる曲” との相性は抜群だ。又、湯浅氏は本の中で “A④「ラヴ・ユー・トゥ」ではシタールの倍音成分が増え、前面に出てきてしっかりインド音楽の響きになるのは魔法のよう” と書かれているが、それは多分このあたりのことを言っておられるのだろう。マトリクスが -1/-1 であることからも分かるように、「ラバー・ソウル」の「ノーウェジアン・ウッド」みたいにインドでリカットされてシタールが大きく聞こえる、などということは決してない。
 ただ、“A⑤「ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア」のようなバラッドも繊細に聞かせ...” というくだりに関しては、少なくともウチでは “平均点以上ではあるけれどもUK盤ほどではない” という感じ。まぁこればっかりは試聴システム、レコードの盤質や個体差、そして何よりもリスナーの耳によって全然違うインプレッションになることも多いので、湯浅氏の再生システムではそのように鳴ったのだろう。
 ということで「リヴォルヴァー」のインド盤に対する私の正直な感想としては、“世界最強”は言い過ぎだが、“芯のある普通に良い音が楽しめる好盤” というところか。このレコードはUK盤ともドイツ盤とも違う独自の音が聴けるので、その日の気分によって各国盤を取っかえ引っかえしながら楽しんでいる。これってひょっとするとビートルズ・マニアにとっては最高の贅沢なのかもしれない。アナログ・レコード・コレクターに与えられた最大の喜びが聴き比べなのだから...(^.^)

ビートルズのインド盤特集②「赤盤」「青盤」

2016-11-20 | The Beatles
 先週の火曜日、まさかまさかのトランプ大統領爆誕で世界中に激震が走った。暴言乱発セクハラおやじ vs 根性ババの嘘つき女、という前代未聞の “嫌われ者対決” を制したワケだが、イギリスEU離脱時の夢よもう一度(笑)と世界経済の大混乱による円高の再現を願っていた私はトランプが勝って大喜び(^o^)丿  しかし悲しいことに私の期待は大きく裏切られ、何故かドルは110円台まで、ポンドも136円台へと上がってしまい、円高どころか大統領選前よりも超円安になってしまった...(>_<)  こんなことやったら開票中にトランプ優勢が伝わって一時的に $1=101円台に突入した時にウォッチしてあるレコードを根こそぎ買っとけばよかったわ。 “このままトランプが勝てば一気に95円ぐらいまで下がるかもしれんからもーちょっと待っとこ...” と欲をかいたのがアカンかったんか。トランプがぼろを出して(←メキシコ国境に壁を造るとかいう話はどーなったんや?)ドルが暴落するまでしばらくの間はアメリカのセラーからレコード買えへんな...
 ということで私の目線は今ヨーロッパに向いているのだが、今回もヨーロッパ経由で手に入れたインド盤の話である。記念すべきインド盤第1号としてゲットした「ラバー・ソウル」が最高とはいかないまでも結構面白い音で鳴ったこともあってもう少しインド盤を聴いてみたくなった私は次のターゲットとして「赤盤」と「青盤」に目を付けた。インドのレコードは70年代プレスの盤でもチューブ(真空管)カッティングされているということで、他国プレス盤とは一味違う温かみのある音が聴けるのではないかと思ったのと、このベスト盤2セットを手に入れればとりあえずビートルズ全214曲の内の約1/4をインディアン・プレスで聴けるという理由からだ。お試しセットとしてはコスパ的にベストのチョイスだろう。
 eBayやDiscogsでインド盤を検索してみてまず気が付いたのは、何故かハンガリーのセラーが滅多やたらに多いということ。インドとハンガリーって地理的にかなり離れてると思うんやけど歴史的に何か繋がりがあるんかいな? まぁハンガリーのセラーはユーロ決済やし送料も安いしでこちらとしてはラッキーだ。それと、盤質表記が日頃滅多に目にしない “P(POOR)”“F(FAIR)”“G(GOOD)” というガチャ盤の類がめっちゃ多いのにもビックリ。どうやらインドにはレコードを大切に扱うという文化はないらしい。それとも50度近い高温多湿な気候でレコードがダメになってしまうのだろうか?
 そんな玉石混交 “石だらけ” 状態の中から「赤盤」「青盤」共にNM状態の盤をどちらも€18というお買い得価格でゲット。送料込みでも3,000円台だからラッキーだ。センター・レーベルはUK盤とは違うノーマルなアップル・デザインで、1978年にイエロー・パーロフォン、その後シルバー・パーロフォン・レーベルで再発されたらしいのだが(←オークション市場では黄パロ盤が一番人気のようだ)、このあたりのレーベル・デザインの変遷に関してはいまいちハッキリしたデータがないのでよく分からない。インド盤に関してはまだまだ謎の部分が多いのだ。
 先に届いたのは赤盤で、“どんな音がするんやろ?” とワクワクドキドキしながらA面に針を落としたのだが、私の期待感に冷や水を浴びせかけるようなショボイ音にガッカリ。ハッキリ言ってEAS型番の日本盤とトントンなレベルだ。A面はずーっとそんな調子で、B面になると音は急に良くなって “A面とのこの格差は何なん?” という感じなのだが、C面に入ると再びもっさりした音に逆戻り(特にC③④は濁った音で最悪、C⑥はインド版「ラバー・ソウル」に入ってたのとは違うノーマルなミックス)。ところがD面は全曲シャキッとしためっちゃエエ音で、各楽器の音やコーラス・ハーモニーも超クリア(^.^)  こうなってくると一体何がどーなっているのかワケが分からない。やっぱりインドは謎である(笑)
 「青盤」が届いたのはその2日後。「赤盤」のA・C面みたいなつまらん音やったら嫌やな~と思いながら聴き始めたところ、こちらの方は初っ端から太くて力強い音が楽しめて大喜び(^_^)/  これこそチューブ・カッティングの音である。A①「ストロベリー・フィールズ」なんかもう凄いの一言で、ついついヴォリュームを上げていってサウンドの大海原に身を投げ出すようにして聴いてしまう。A②「ペニー・レイン」やA⑤「ルーシー・イン・ザ・スカイ」ではベースの音が太く入っていて実に気持ちいいし、A⑥「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」におけるポールの闊達なベース・ラインやオーケストラの “ジャーン!” も見事に再生されるなど、どのトラックもホンマに文句のつけようのないエエ音で、先に届いた「赤盤」とはエライ違いだ。「青盤」はUKファースト・プレスもシャープな良い音だったが、このインド盤はそこに中域の分厚さをプラスしたような感じの太い音になっている。
 B面に入っても音に関しては相変わらず文句なしに素晴らしいのだが、しばらくして何かちょっと変やなぁと気付いた。A面では予想を遥かに上回る音の良さに感心して気付かなかったのだが、B④「マジカル・ミステリー・ツアー」~B⑤「レディ・マドンナ」とアップテンポの曲が続くあたりで、聴いてて何かせっつかれてるような、そんな感じがしたのだ。そこで念のためにストップウォッチで測ってみると、案の定1曲3分前後の曲で約3~4秒短い... 要するにピッチが狂っているのだ。湯浅氏の本によると「アビー・ロード」のインド盤もハイ・ピッチらしいが、この青盤も聴く時にはピッチの調整が必要だ。やっぱりインドは... もうエエか(笑)
 インドの「赤盤」は曲によって、レコード面によって音のバラつきが顕著だったが、こちらの「青盤」の方はC・D面もA・B面と同じく素晴らしい音で、大袈裟ではなくこのレコードに出会えただけでもインド盤に手を出して良かったと思えるほど...(^.^) こういう掘り出し物があるからレコード・コレクターはやめられない。それにしてもビートルズのレコードはホンマに奥が深いですな...
 アルバム・ジャケットは他のインド盤と同じくノンラミネートのボール紙仕様なのだが、この「赤盤」「青盤」は共にジャケットが他のアルバムより何故かタテヨコ数ミリずつ大きく、レコード棚でこの2枚だけがピョコンと頭一つ飛び出している。それと、紙質のせいなのかもしれないがインド盤はジャケットの造りがヤワで seam split、すなわちLP取り出し口の上部が大きく裂けているブツが多く、私の青盤もご多分に漏れず数㎝ほど縁割れしていてサイド&トップ・ローディング・ジャケ(笑)になっていたので久々にジャケット補修をする羽目になった。
 ということで「ラバー・ソウル」に続いて「赤盤」「青盤」もゲットし、私はインド盤蒐集のミステリー・ツアーを満喫中。最近は “次はどれにしようかな...” とか、“どんな音がするのかな...” とか、そんなことばかり考えながらレコード三昧の日々を過ごしている。これでドルが下がってくれたら言うことないんやけど...

ビートルズのインド盤特集①「Rubber Soul」

2016-11-13 | The Beatles
 何年か前にジャズのUSオリジナル盤とそのヨーロッパ・プレス盤を色々持ち寄って聴き比べ会をやった時のこと、アート・ペッパーの英ロンドン盤からレイ・ブライアント・トリオの怪しげなイタリア盤に至るまで、様々な珍盤でひとしきり盛り上がった後で “shiotchさんのことやからビートルズもUK盤だけやのうてヨーロッパ盤とかブラジル盤とかの各国盤まで行かはるんちゃいますか?” と焚き付けられ、“いやいや、ビートルズはUKモノラル盤の1stプレスがあればそれで十分ですわ。同じタイトルで色んな国の盤を揃えていったらそれこそキリがないですし、第一お金がいくらあっても足りませんやろ?” と言って一笑に付したのを今でもハッキリと覚えている。
 そして2016年の今、気が付けばあれほど “UKモノ一筋” を金科玉条としていたこの私が UK黄パロのステレオ盤は言うに及ばずドイツ盤がスベっただの、オージー盤がコロんだだのと言って大はしゃぎしているのだから一体どの口が言うてんねん!と突っ込まれても返す言葉がない(>_<) ここはもう男らしく前言撤回して “今、各国盤にハマってまーす(^.^)” と宣言してしまおう(笑)
 各国盤と言うぐらいだからターゲットは無限と言ってもいいくらい広く、何らかの指針となるガイド本の類が無いとどこから手を付けていいのかさえサッパリ分からない。ということで、ビートルズの各国盤を蒐集するにあたって避けて通れないのが湯浅学氏の「アナログ・ミステリー・ツアー~世界のビートルズ~」という本で、例えるならジャズ・レコード・コレクターにとっての「幻の名盤読本」のようなバイブル的存在としてその筋では有名だ。この本が出た当時はUK盤以外は眼中になかったので見向きもしなかったのだが、去年たまたま時間つぶしに立ち寄った本屋で立ち読みし、そのあまりの面白さに上下巻併せて衝動買いしてしまったのだ。
 この本はイギリス、ドイツ、アメリカ、オーストラリア、日本といったメジャーな国からニュージーランド、スウェーデン、ハンガリー、チェコスロバキア、ユーゴスラビア、ペルー、インド、シンガポールといったマイナーな国に至るまで、世界の様々な国々でリリースされたビートルズ・レコードの音質インプレッションが載っており、特にイギリスとドイツに関してはセカンド・プレスやサード・プレスまでカヴァーしているのだからアナログ・レコード・コレクターにとってはこんなに面白い本はそう無いのではないか。それにしてもこれだけ膨大な量のレコードを蒐集し、尚且つ聴きまくった湯浅氏は凄いとしか言いようがない。
 リイシュー盤や日本盤には全く興味がない私にとっては上記の “マイナーな” 国々のレコード・インプレッションが面白かったが、そんな中で私が一番興味を引かれたのが他でもない「ラバー・ソウル」のインド盤に関する記述だ。この盤はA面のみインド独自のカッティングになっており、湯浅氏曰く “UKマザーの「ノーウェジアン・ウッド」のシタールの音にインド人のカッティング・エンジニアが我慢できず自分でカッティングしたのだろう” とのこと。その結果、“シタールの音が大きく倍音も豊富で他国プレスの追従を許さない、さすがインドと思わせる素晴らしい音”になっていると絶賛しているのだ。ここまで言われて “聴いてみたい” と思わなければビートルズ・ファンではない。
 私は早速ネット・オークション・サイトをいくつか覗いてみたのだが、この本の影響か、ヤフオクでは1万5千円近い値付けがされていて問題外。私は興味本位で買うレコードの上限は5千円と決めているので全くお話にならない。続いてeBayで検索してみると、インド盤自体がレアなせいか真っ当な盤質のレコードはどれもこれもが数百ドル(←「アビー・ロード」$250、「ヘルプ」$300、「ホワイト・アルバム」$400って... そんなん一体誰が買うっちゅーねん!)で、数十ドルで買えるのはジャケットがボロボロに剥がれ落ちてるものや盤質の悪いものばかりという悲惨な状況だ。そんな中で1枚だけ盤質が VG+ 〜 Near Ex表記でジャケットも奇跡的に無事な(笑)「ラバー・ソウル」が BUY IT NOW 送料込み$48で出ているのを発見、“これを逃したら一生聴けへんやろなぁ...” と思った私は即決で買いを決めた。
 届いた盤を聴いた感想としては、まず第一に音圧が結構高いということ。UK黄パロのステレオ盤よりも1割増しぐらいの音の大きさだ。しかしそのせいでUK盤とは似ても似つかぬ強烈な “左右泣き別れミックス” が強調されてしまっていて、曲によっては左chから聞こえる演奏に右chから聞こえるヴォーカルが負けてしまっているように感じられるのが難点。倍音がどうこうと言う以前に音のバランスがオリジナルとは違うのだ。だから問題の「ノーウェジアン・ウッド」も左chに入っているシタールの音が相対的に大きく聞こえる、というだけの話で、何もインド人エンジニアがシタールの音だけを大きくミックスしたのではないように思えるのだが...(>_<)  まぁシタールの音とジョンのヴォーカルが同音量に聞こえる珍盤であることだけは間違いない(笑)
 それと、全体的に高域がキツめに入っているので、特に「ユー・ウォント・シー・ミー」や「ザ・ワード」ではギターの音が耳にキンキン響いて人によっては聴き辛いと感じるかもしれない。私的には上記の「ノーウェジアン・ウッド」も含めて “良い音” というよりは “面白い音” という印象で、音質的に決してUK盤を凌駕するものではない(←それでもUS盤や日本盤に比べれば遥かに良い音だと思うが...)と感じた。ただ、これはこれで面白いミックスだし音圧も高いので自分としては思い切って買って大正解で、時々取り出して聴きたくなるような愛着の湧くレコードになった。ガイド本の高評価に踊らされて1万円以上も出す価値は無いと思うが、数千円で買えるならお買い得の1枚と言えるかもしれない。

Let It Be 南アフリカ盤

2016-11-06 | The Beatles
 私は何事においても実際に自分の目や耳で確かめるまでは絶対に信用しない主義なのだが、一旦それが良いモノだと納得すれば今度はとことんまで極めないと気が済まない。「ラバー・ソウル」のUKオリジナル・モノ・マト1盤に衝撃を受けてからというもの、私は“ラウドカット”という言葉を聞いただけでパブロフの犬みたいに条件反射でモチベーションのスイッチが入る体質になってしまった(笑) 「ウィズ・ザ・ビートルズ」しかり、「バンド・オン・ザ・ラン」しかり、「エスキモー・カヴァー」しかりで、ラウドカット盤というだけでアドレナリンが出まくるのだ。
 ご存知のようにビートルズの公式オリジナル盤のうち、ラスト2枚の「アビー・ロード」と「レット・イット・ビー」にはモノラル盤が存在しない(←音の悪いブラジル盤とかは論外です...)。爆音好きの私はこの2枚もモノラルのごっつい音で聴いてみたいなぁ(←音楽的にはモノラルに超不向きやけど...)と常日頃から考えていたのだが、そんな折、ビートルズ・コレクターのサイトみたいな所で気になる内容の記事を発見。それによると、「レット・イット・ビー」の南アフリカ盤 1stプレスはマト枝番が -1/-1 で、何とUKのテスト盤に使われたスタンパーでプレスされており、以前このブログでも取り上げたUKボックス・セット付属の初回盤(-2U/-2U)よりも音圧が高いラウドカット盤の可能性があるというのだ。イギリス本国でボツになったスタンパーが海外に送られたというのはにわかには信じがたい話だったが、火のないところに煙は立たないともいうし、万が一それが本当だったとしたらえらいこっちゃである。これは何としても確かめなければならない(←何でやねん!)。しかし南ア盤は例の「ヘイ・ジュード」で失敗した過去がトラウマになっているのでどうしても眉に唾をつけて見てしまう。それにその時はまだ他に欲しい盤が山ほどあったこともあり、何やかんやで後回しになったまま私の記憶の中でいつの間にかフェードアウトしていった。
 それから何年も経った今年の6月、例のポンド暴落を機に「レット・イット・ビー」のUK盤ボックス・セット入手を画策した時に、その副産物(?)として “Let It Be South Africa One Box EMI” という商品タイトルで出品されていた南ア盤も私の網(“beatles let it be box” というキーワードで登録)に引っ掛かってきたのだ。おぉ、これはもしや、と思ってマトを確認すると YEX 773-1 / YEX 774-1 となっている。商品説明には “TOP AUDIO COPY”や“SUPERB SOUND REPRODUCTION”といった魅力的な表現が並んでおり、理性という名のブレーキを木端微塵に破壊された私は£12.99という安さもあって迷わず買いを決めた。
 私は“ホンマに「レット・イット・ビー」にラウドカット盤なんてあるんかいな...”と疑いながらも心のどこかで “もしあったら世界がひっくり返るなぁ(←そんな大袈裟な...)” とハラハラドキドキしながら届いたレコードをターンテーブルに乗せた。A①「トゥー・オブ・アス」のアタマの部分でジョンの例のジョーク “I dig a pigmy...” に続いてリンゴのドラムがさぞかしバシッ!!!とシャープに炸裂するのかと思いきや、力なくペシッという感じで思いっ切り肩透かしを喰らう。“リンゴ、眠たいんか!” と言いたくなるようなかったるい音で、ヴォーカルもギターもどこをどう聞いてもラウドカットではないし、ましてやマト-2Uを凌駕する生々しさなど微塵も感じられない。
 慌てて針を上げてUK初盤と聴き比べてみるとその差は歴然で、UK盤では音像が3次元的にパーッと広がって眼前に屹立するのに対し、この南ア盤では音が平面的でスピーカーにまとわりつくように鳴っており奥行き感があまり感じられない。低音はそれなりに出ているのでアンプのヴォリュームを上げてやるとB①②のようなロック曲ではポールのベースがボディーブローのように効いてきて面白いしB④のジョンのスライドギターもマッタリ感満点で楽しいのだが、やはり高域がスキッと突き抜けないために全体的にどんよりした脱力系(?)のサウンドになっているのだ。そういう意味では切れ込み重視で元気ハツラツな音を聴かせるBell SoundのUS盤とは対極に位置する音作りと言えるだろう。
 結局「レット・イット・ビー」南ア盤のラウドカット説はガセだということが判明したが、このアルバムが内包している “ちょっと疲れたビートルズ” 的な空気に浸りたい気分の時には合いそうな緩~いサウンドなので、同じ南ア盤の「ヘイ・ジュード」のように隣室行きにはせず、レコード棚のビートルズ・各国盤コーナー末席に置いておくことにした。それにしても「レット・イット・ビー」だけで一体何枚買うたら気ぃすむんやろ...