shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Jazz and '70s

2009-05-31 | Cover Songs
 2週間ほど前、「ジャズ・アンド・80s パート2」というCDを取り上げたが、その時点で “USカリフォルニアから直送中” だった姉妹盤「ジャズ・アンド・70s」が届いた。本当はもっと早くに届いていたのだが、例の「チック・ハビット」に端を発した “フレンチ・ポップス・パワープッシュ” による “イエイエ強調週間” によって紹介が遅れてしまった(>_<)
 この「ジャズ・アンド・70s」のようなコンピレイション・タイプのカヴァーCDは選曲が命と言ってよく、何の特徴もない定番曲オンパレードでは面白味に欠けるし、かといって奇をてらいすぎて不自然極まりない奇天烈カヴァー大会になってしまっては元も子もない。それでいてアルバムのコンセプトに沿った歌と演奏でなければいけないのだから中々大変だ。そういう意味でもこの「ジャズ・アンド・70s」はこの手の盤に求められる様々な基準を軽くクリアしていると思う。
 収録曲で真っ先に目を引いたのがクールトレーン・カルテットによるディープ・パープルのカヴァー④「スモーク・オン・ザ・ウォーター」だ。パープルをジャズに??? 期待半分不安半分でプレイボタンを押すと、スピーカーから流れてきたのはハードロックのハの字も感じさせない、実に粋でオシャレな女性ジャズ・ヴォーカルだった。あの有名すぎるほど有名なイントロのギター・リフがアンニュイな歌声で “ディンダンダン ディンダンディア~♪” とヴォーカライズされ、まるでケニー・バレルの「ミッドナイト・ブルー」を彷彿とさせるようなブルージーなジャズが展開されていく。瀟洒なブラッシュ・プレイも雰囲気抜群だ。ハッキリ言ってこの1曲だけでもCD代の3倍の価値がある。
 ステラ・スターライト・トリオによるピンク・フロイドのカヴァー①「タイム」にも驚かされた。イントロの時計の音で有名な、あの名盤「狂気」収録のヘヴィーなプログレ・ナンバーが、もうあり得ないっ!!!と思えるような洗練されたフォービート・ジャズと化しているのだ。ピンフロの余程の大ファンでない限り、何の予備知識もなしに聴かされれば “かっこええジャズやなぁ... (≧▽≦)” としか思わないだろう。 “コンコード・レーベルから出たギター入り女性ヴォーカルの新譜です!” で十分通用するのではないか?この曲もブラッシュが大活躍で、変幻自在のプレイでジャジーな雰囲気を大いに盛り上げている。
 イヴ・セント・ジョーンズが歌う⑥「ロンドン行き最終列車」ではELOのオリジナル・ヴァージョンの持つ煌びやかなポップ性を抑えて曲の髄を抽出し、浮かび上がってきた素朴なメロディーをしっとりした女性ヴォーカルが淡々と歌い綴っていく。これはアナケリーによるピーター・フランプトン(懐かしいっ!!!)のカヴァー⑧「ショウ・ミー・ザ・ウェイ」や48thセント・コレクティヴによるスーパートランプ(超懐かしいっ!!!)のカヴァー⑪「ブレックファスト・イン・アメリカ」にも言えることで、70sを飾った名曲たちが換骨堕胎され、ノスタルジーではなく “今の音” として屹立しているのだ。もう見事としか言いようがない。
 ヌ・メン4ソウルによるキャロル・キングのカヴァー⑩「君の友達」にもビックリ(゜o゜) 何と山下達郎もぶっ飛ぶヒップなアカペラ・ナンバーになっているのだ。これをジャズと呼ぶかどうかはさておき、その斬新な発想には舌を巻く。ここまでくるとオリジナルとは全くの別物と考えた方がいいかもしれない。賛否両論分かれそうなナンバーだが、そのオンザストリートコーナーなノリは一聴の価値アリだ。
 カレン・ソウザによるCCRのカヴァー⑤「雨を見たかい」のアーシーなグルーヴもジャズというよりはジャジーなブルースといった感じで、ロック・ファンにもすんなり受け入れられそうな逸品だ。ロッド・スチュワートの “金髪美人にヒョウ柄タイツ” 時代の大ヒット②「ダ・ヤ・シンク・アイム・セクシー」はあの軽いディスコ曲がこんなスクエアなジャズに変わるのかと感心するくらい良く出来ている。テンポを落として曲の重心を下げ、落ち着いたジャズ・ヴォーカルを聴かせてくれるのはカサンドラ・ベックだ。ジャズスティックスがそんな彼女をフィーチャーして仕上げたフリートウッド・マックのカヴァー⑦「ドント・ストップ」なんか完全にストレートアヘッドなジャズと化しているし、ザ・ブライアン・J・ホワイト・カルテットによるゼッペリンのカヴァー⑫「天国への階段」も数ある “階段カヴァー” 曲を集めた「ステアウェイズ・トゥ・ヘヴン」に収録されていてもおかしくないような落ち着いた男性ジャズ・ヴォーカル・ナンバーになっており、間奏部のギター・ソロなんかはもう完全にジャズのノリだ。
 「ジャズ・アンド・80s」「同パート2」「同70s」と、このシリーズは決して私の期待を裏切らない。勝手知ったるロック/ポップスの愛聴曲がジャズというフォーマットで新たな生命を吹き込まれていく様はスリリングですらある。これで同シリーズで持っていないのは90sだけになってしまった。原曲を1つも知らないのでそういう面での面白味は皆無に等しいが、まぁカヴァー集としてではなく、未知の新曲が12曲も入ったオシャレなジャズ・ヴォーカル・コンピCDと考えればいいのかもしれない。

Smoke On The Water_Jazz and '70s

Le temps des fleurs / Mary Hopkin

2009-05-30 | Oldies (50's & 60's)
 ロシア民謡の愁いを帯びた旋律には何故か人の心を魅きつける不思議な力がある。ポーリュシカポーレ、ダーク・アイズetc、挙げていけばきりがない。みんな哀愁たっぷりでメロディーはあくまでも美しく、それでいでどこか物悲しい。暑い国で生まれた音楽が主にリズム主体なのに対し、ロシアや北欧といった寒い国の厳しい自然と風土から生まれた音楽は郷愁を誘う美しいメロディーを湛えていることが多いのだ。この「Those Were The Days」も「長い道」というロシアの古い曲にジーン・ラスキンというアメリカ人が詞を付けロンドンの方々のクラブで自作曲として歌っていたものをポール・マッカートニーがたまたま聴いて気に入り、 “絶対に売れる” アレンジを施してアップルからデビューさせる新人歌手メリー・ホプキンに歌わせたというもので、やはり心の琴線をビンビン震わせる、哀愁舞い散るキラー・チューンに仕上がっている。歌詞は “若かったあの頃はよかったなぁ...” と青春時代をノスタルジックに振り返るという内容で、邦題の「悲しき天使」は “お約束ともいえる「悲しき」シリーズ” + “メリー・ホプキンの清楚なイメージ” からでっち上げたものだろう。
 彼女はこの曲をフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ヘブライ語(!)でも吹き込んでいるのだが、面白いのはフランス語ヴァージョンで、タイトルが Le temps des fleurs (花の季節)、歌詞の内容も英語ヴァージョンとはかなり違うものになっている。私の大好きなヨーロピアン・ポップスの歌姫たちも色んな言語で吹き込んでいるので、ここでいくつかご紹介:

①Mary Hopkin
 さすが本家である。英語ヴァージョン同様の可憐なヴォーカルが楽しめるが、何より凄いのはポールが仕切ったオケの完成度の高さ。イントロにバラライカの演奏をもってきたり、隠し味にクラリネットを使ったりと、曲の持つ哀愁を最大限まで引き出す見事なサウンド・プロダクションだ。こういうのを天才の仕事というのだろう。ピンク色が効いた好ジャケットゆえに愛蔵する1枚だ。
Mary Hopkin -Those were the days (le temps des fleurs)


②Dalida
 ダリダって誰だ?(笑)なんてアホなことを言っている場合ではない。エジプト生まれの彼女は映像からも分かるようにエキゾチックな超美人で、ちょっとハスキーにかすれる歌声がたまらない。本家そっくりのアレンジにより、メリー・ホプキンとは又違った彼女の魅力が浮き彫りになっている。
DALIDA Le temps des fleurs


③Gigliola Cinquetti
 ジリオラ・チンクエッティが歌う「悲しき天使」は当然イタリア語ヴァージョンだ。歌い上げるのを得意とする彼女の歌唱スタイルがこの壮大な曲にピッタリ合っていて、日本盤ベストCDに入ってないのが不思議なぐらいの名唱だ。
Gigliola Cinquetti - quelli erano i giorni (1968) live


④Vicky Leandros
 以前にも紹介したヴィッキーはギリシア系のポップ・シンガーで、高音部を伸ばす個性的な歌い方がこの曲と怖いぐらいに合っている。同じハイトーン・ヴォイスでも、メリーホプキンをあっさり系とすれば、こちらはこってり系と言えるかも。
Vicky Leandros -Le temps des fleurs


⑤Sandie Shaw
 “モッズのアイドル” こと、サンディー・ショウの少し鼻にかかったような、丸みを帯びた歌声が実にユニークで、ヴィブラートを効かせた堂々たる歌いっぷりも貫録十分だ。ファースト・コーラスをフランス語で歌った後、英語にスイッチするところがたまらなく好き。
Sandie Shaw - Les Temps Des Fleures (16:9)


う~ん、聴けば聴くほど名曲だ(笑) これ以外にもドリー・パートンの “ブルーグラス・ヴァージョン” や、ベンチャーズの “エレキシタール・ヴァージョン” なんかも面白い。尚、この曲は全英チャートでは見事6週連続№1に輝いたものの、全米チャートでは9週間1位に居座ったビートルズの「ヘイ・ジュード」の牙城を崩すことは出来ず、3週連続の2位に甘んじた。

【おまけ】日本人が作曲したロシア民謡(笑)の最高峰といえばコレ!!
     関西人なら知らぬ者はいない “モスクワの味” です↓
パルナス
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L'integrale Sixties / Annie Philippe

2009-05-29 | European Pops
 今、私は第2次イエイエ・ブームの真っ最中である。5年ぐらい前にフランス・ギャルを初めて聴いて感動し、そこから様々なイエイエ・シンガーを聴き漁っていったのが第1次。イエイエの持つ底抜けの楽しさに目覚めた私がギャルのシングル、アルバムをほぼ聴きつくし、次は誰をいったろかとイエイエ・シンガーについて色々調べてみたところ、アニー・フィリップがフランス・ギャルを頂点とする “ロリータ派” の一人としてシャンタル・ゴヤと並んで紹介されており、フランス・ギャルが好きならこの二人もきっと気に入るはずと書かれてあったのだ。フレンチやイタリアン・ポップスはギャルやバルタンのような超有名シンガー以外は中々試聴できるサイトがなく、ネットの文字情報だけを頼りに音を聴かずに一か八か勝負するいわゆる “見ずテン買い” を余儀なくされたCDも少なくないが、そんな中で予想を超える素晴らしさだったのがこのアニー・フィリップのベスト盤2枚組CD「コンプリート・シックスティーズ」である。
 当時のフレンチ・ポップス界は4曲入りEPを中心に動いていたようで、彼女に限らずオリジナルLPなんてレア中のレアという状況、しかも楽曲の漏れ落ちも多くなるということで、このCDでは彼女の12枚出たEPを年代順にコンプリート収録するという画期的な方法でのリイシューとなっている。同じ音源をたらい回しに切り売りしながら初出音源を小出しにしていく日本のレコード会社にも、このようにファンの視点に立った潔い発想をぜひ学んでほしい。
 彼女はポール・モーリアに見出され、64年にルルの「ヒー・ドント・ウォント・ユア・ラヴ・エニモア」のフレンチ・カヴァー①「何と言われても」でデビュー。確かに少し鼻にかかったような声質といい、舌っ足らずな歌い方といい、フランス・ギャルを少しアク抜き(?)したような感じである。しかしプレスリーの「ラヴ・ミー・テンダー」のカヴァー②「川辺のバラ」のようなバラッドではギャルっぽさはあまり感じられない。デイヴ・ベイビー・コーデッツみたいなハッピー・オルガンが大活躍する④「歌って踊って」は心がウキウキ弾むようなナンバーで初期の傑作だと思う。スプリームズのカヴァー⑤「ベイビー・ラヴ」はハンド・クラッピングに至るまでオリジナルに忠実されているのが嬉しい。フランス・ギャル色が濃厚なアイドル系ポップス⑥「落第しちゃった」やシャンタル・ゴヤあたりが歌いそうなメランコリックなバラッド⑦「サン=トロペでさようなら」に対し、⑧「明日まで待てない」や⑨「悲しい気持ち」ではアニーらしさ溢れるパンチの効いたヴォーカルが炸裂!徐々にオリジナリティーが確立されつつあるのが分かる。⑪「兵隊さんの太鼓」はこれぞイエイエ!といいたくなるようなナンセンスな擬音語 “ヤンバンババダバ ダバダンバン♪” の繰り返しが楽しい(^o^)丿 彼女再大のヒット曲⑬「片道切符と乗車券」は哀愁舞い散るハーモニカとアニーの一人二重唱が印象的だ。
 レーベルをフィリップスに移籍してすぐの大ヒット⑰「わたしの友達」は名曲の殿堂入りを推挙したくなるような涙ちょちょぎれるキラー・チューン。このしっとり感、たまりません(≧▽≦)  古き良きデキシーランド・ジャズっぽい伴奏が楽しい⑱「勝手におしゃべり」でも彼女の力強いヴォーカルが冴え渡る。これ大好き(^.^) イントロのリズム・ギターが快感の⑲「誰がため、何のため」は哀愁のメロディーが耳に焼き付いて離れない名曲。アニーはこの頃が楽曲的に一番充実していたように思う。⑳「チャカブン」はギャグとしか思えないようなオモロイ曲で、ひたすら“ブン チャカブン チャカブン チャカチャカチャカブン♪” とチャントする。何なん、これ?(笑) めっちゃカッコ良いファズ・ギターのイントロから始まる(21)「モードな毎日」は “これぞ60's!” と叫びたくなるキッチュなサウンドの波状攻撃が圧巻で、(26)「タクシー急いで」と共にフレンチ・ポップス・ファンだけでなくネオアコ・ファンにも強烈にアピールしそうなナンバーだ。
 ディスク2ではママス&パパスのカヴァーで爽快感溢れる①「どこへでも行くがいいわ」、ストリングス・アレンジでよりポップな味付けに成功した②「タクシー急いで」(シングル・ヴァージョン)、絵に描いたようなイエイエ・バラッドの傑作③「哀しみのマネキン」を最後に楽曲のパワー・ダウンが顕著になる。67年と言えばまさに「サージェント・ペパーズ」の時代... やがてイエイエの衰退とともにアニーも表舞台から姿を消してしまった。思えば世界のミュージック・シーンが物凄いスピードで変化し、混沌の中からニュー・ロックが生まれつつあった時、フランスだけいつまでもノーテンキにイエイエを踊っているわけにもいかなくなったのだろう。

Annie Philippe - Le mannequin

Sessions Acoustiques / Sylvie Vartan

2009-05-28 | European Pops
 全盛期の歌なり演奏なりを何十年もたってから再演したものにはどちらかというとトホホな、いわゆる “やめときゃあよかったのにねぇ盤” が多い。特に女性ヴォーカルの世界では瑞々しさや勢いに溢れた若い頃の歌声に勝るものはなく、過去の “最も輝いていた自分” と同じ土俵でまともに勝負して勝てる可能性は極端に低い。そんな “再演物” の中で例外的な素晴らしさ、それも圧倒的な素晴らしさを誇る超愛聴盤がシルヴィ・バルタンの「アイドルを探せ~フレンチ・アコースティック」(94年)である。
 私がよく聴くシルヴィはアルバムで言うと「哀しみのシンフォニー」入りのイタリア盤「イレジスティビルメンテ(←読み方これであってるのかな?)」(75年)ぐらいまでで、それ以降の “ケバい化粧で踊り狂うダンシング・ディーヴァ” キャラ、いわゆるフレンチ・ディスコ・クイーンとしての彼女には全く興味を持てなかった。ディスコ云々の音楽スタイルは抜きにしても、楽曲のクオリティーがそれまでのものとは比べ物にならないくらいダウンしており、私は「シルヴィは60年代から70年代初めまででエエわ」とタカをくくっていた。そんな折、偶然ネットでこのCDの存在を知り、 “50才になったシルヴィが往年のヒット曲をアコースティック・ヴァージョンで聴かせる” という企画に興味を引かれたのと選曲の良さ、それに中古で1,200円という安さに釣られてあまり期待せずに購入した。
 届いたCDの①「悲しき慕情」を聴いて私は驚いた。こういうのを円熟味というのだろう、それまで自分が歩んできた波瀾万丈の人生を振り返るかのように、実にゆったりと歌うシルヴィ。ニール・セダカが歌い、カーペンターズもカヴァーしたオールディーズ・クラシックスが品格滴り落ちるスタンダード・ソングに変身していた。ひょっとするとコレは掘り出し物かも?と色めき立って②「おセンチな17才」を聴く。ヨーロピアン・デルタ・ブルース(笑)といっていいようなネチこいアコギの伴奏とアンニュイな雰囲気を振りまくシルヴィのヴォーカルが絶妙な調和を見せ、30年前のオリジナルを芸術的に、圧倒的に、超越的に凌駕している。ビーチ・ボーイズ屈指の名曲をカヴァーした③「スループ・ジョンB」は曲の髄を見事に引き出したアレンジが素晴らしく、シルヴィとバック・コーラスの軽妙なコール&レスポンスに目が眩む。シルヴィのというよりイエイエの代表的名曲④「アイドルを探せ」は格調高いギターのイントロに???と思っているといきなり耳に馴染んだあのメロディーをシルヴィが一語一語じっくりと歌詞をかみしめながら歌い綴っていく。これがもう鳥肌モノで、聴き手を優しく包み込むようなストリングスも心の琴線をビンビン刺激する。カスケーズの⑤「悲しき雨音」でもレイドバックした雰囲気にフランス語がバッチリ合っていて、実にオシャレなヨーロピアン・ポップスになっている。
 YMOの「タイトゥン・アップ」みたいなハイテク・ベースが耳に残る⑧「愛とあわれみ」、シルヴィが力強いヴォーカルを聴かせるブルージーなロック⑨「裏切らないワ」、ブルーグラスの薫りを撒き散らしながら軽快に飛ばす⑩「オー・プリティ・ウーマン」、ゴージャスなフレンチ・ポップ⑪「太陽に向かって」と、様々なタイプの曲をこなす懐の深さを見せつけるシルヴィは貫録十分だ。
 ノリノリのアコギ・カッティングに被さるようなシルヴィの語りにゾクゾクするイントロから一気呵成に駆け抜ける⑫「カミン・ホーム・ベイビー」はベン・タッカーも泣いて喜ぶカッコよさ!故郷ブルガリアに対する想いを綴った彼女のパーソナル・ソング⑬「思い出のマリッツァ」では郷愁を誘うアコーディオンの音色が効果抜群だが、何と言っても万感胸に迫るような切々としたヴォーカルが圧巻だ。唯一のライブ録音⑮「テンダー・イヤーズ」は6万人の観衆を前にしてアカペラで歌ったもので、彼女がこのアルバムを作るきっかけとなった感動的なナンバーだ。
 これは当時流行りのアンプラグド・ライブとは激しく一線を画すもので、私は彼女のヴォーカリストとしての器の大きさを改めて実感させられた。キャッチーでポップなイエイエ・クラシックスを粋なスタンダード・ソングへと昇華させたこのアルバム、静かな夜に独りゆったりと聴きたい1枚だ。

SYLVIE VARTAN LA PLUS BELLE POUR ALLER DANSER ROUMANIE

Ukuyeye / Mareva

2009-05-27 | European Pops
 連日のイエイエ・ネタである。実は901さんの発見には続きがあって、Chick Habit が一段落すると、
「それともう一つ、フランス・ギャルのカヴァーも見つけてん!さっきの Chick Habit の原題入れて検索してみて」
「laisse tomber les filles ですね、ハイ、出ました。どれですか?」
「これや、この Mareva っていうの、めっちゃ妖しいねん!」
ということで再びみんなでYouTube 鑑賞。痴的な薫りをプンプンさせたお下げ髪の女の子が、椅子に座って本を読んだり電話をしたりで彼女に見向きもしない男の子の周りをまるで動物園の猛獣のようにウロウロしながら彼にチョッカイかけまくる(←これ、ホンマに笑えます!)という、いかにも60's風の安っぽい作りがたまらないおバカなビデオだ。
 「マレーヴァか... こんなイエイエ・アイドルおったんやなぁ。知らんかったわ...(>_<)」と思いながらアマゾンで調べると、何と2007年発売の新譜、つまり現役バリバリのフレンチ・ポップ・シンガーが60's風にギャルをカヴァーしていたのだった。全曲試聴可能だったので聴いてみると、これがもうシェイラあたりに通じるイエイエの王道サウンドのアメアラレ、しかも “1点在庫あり。ご注文はお早めに!” とある。私はこの言葉にめっちゃ弱い。早速その場でオーダーしたら、901さんもplincoさんも「もう買うたん?速攻やなぁ!」と大笑いしておられた。
 2日経ってCDが届いた。ジャケットにアップで写った彼女は、あのバカっぽさ全開のビデオとは別人のようなエキゾチックな雰囲気を湛えた超美人である。それもそのはずで、タヒチ出身で14才からモデルの仕事を始めたという彼女は98年にミス・タヒチ、99年にはミス・フランスに選ばれ、その後はファッション界と芸能界を股にかけ、最近はハリウッド映画にも出演しているというとんでもない経歴の持ち主なのだ。更に音楽好きな彼女は数年前から歌のレッスンを受け、ついに完成したのがこの「ウクイエイエ」である。
 「ウクイエイエ」というタイトルは、彼女が生まれ育ったタヒチで幼い頃から耳にしていた楽器ウクレレと、彼女が大好きというイエイエを組み合わせた造語である。とは言っても全曲ウクレレでイエイエを演っているのではなく、ウクレレがフィーチャーされているのは②⑥⑦⑧⑬⑭のみで、それ以外の楽曲ではイエイエの60's的な楽しさはそのままに、80'sっぽいチープなエレクトロ・ポップ・サウンドで巧くコーティングし、 “ヌーベル・イエイエ” とでも言うべき彼女独自のスタイルを聴かせてくれる。
 このCDを知るきっかけとなったフランス・ギャルのカヴァー⑤「娘たちにかまわないで」はチープなエレクトリック感がクセになるキラー・チューンで、エイプリル・マーチと共に脳内ループが止まらない(≧▽≦) ジャクリーヌ・タイエブのカヴァー①「午前7時」と⑫「暴走160キロ」では共にバリバリのガレージ・サウンドが楽しめる。特に①はデビッド・ボウイの「イッツ・ノー・ゲーム」を想わせるカッコよさだ。シェールを、というよりむしろナンシー・シナトラをカヴァーしたシェイラの歌声をイミテイトした感じの②「バン・バン」は正調イエイエ・ファン必聴の逸品だし、フランソワーズ・アルディのカヴァー④「愛の時間」なんかもうアンニュイな雰囲気バツグンで涙ちょちょぎれる。軽快なウクレレと口笛の相性が絶品の⑥「セ・ボン」は関口和之と竹中直人の「口笛とウクレレ」を彷彿とさせる心地良さだし、ニノ・フェレのキャッチーでゴキゲンなカヴァー⑨「レ・コルニション」なんかクラブやカフェーで絶対に大ウケしそうなサバービアな仕上がりだ。⑦「プークワ・パ・モワ」はイエイエ・テクノ・ポップと言ってもいくらいヒップなサウンドにウキウキ・ワクワクしてしまうし、その60's風リミックス⑭なんかピコピコ電子音を抑えたレトロなサウンドがこれまたエエ味出していて、シェイラの未発表テイクだと言われたら信じてしまうかもしれないくらい60'sしており、レコード盤のサーフェス・ノイズを被せる芸の細かさというか、マニアックな拘りも嬉しい。
 そういうわけでこの「ウクイエイエ」、すっかりそのカルトな魅力にハマッてしまい、現在ヘヴィー・ローテーションになっている。こういう楽しい出会いがあるから音楽はやめられない。901さん、いつも面白いネタを提供して下さってホンマに感謝してますっ!!!

03 - Mareva - Laisse tomber les filles


MAREVA GALANTER/ Pourquoi Pas Moi
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France Gall Long Box

2009-05-26 | European Pops
 901さんのエイプリル・マーチ熱に私もすっかり感染してしまったようで、この2日間イエイエばっかり聴いている(笑) しかしよくよく考えてみると「チック・ハビット」の本家にあたるフランス・ギャルはこのブログを始めた頃に「夢みるシャンソン人形」のシングル盤を取り上げたっきりになっていた。これでは本末転倒も甚だしい。それにフランス・ギャルこそが私を底無し沼のようなイエイエ地獄、じゃなかったイエイエ・ワンダーランドに引きずり込んだ張本人なのだ。ここらでちゃんと取り上げておかねばならない。
 「夢シャン」を聴いてすっかり彼女にハマッた私は早速CDを検索してみた。しかし日本でのCD化状況はシェイラやチンクエッティといった他の歌姫たちと同様にベスト盤数枚でお茶を濁されており未CD化音源もかなりあったので、彼女の代表的な作品のほとんどが集中しているフィリップス時代の音源をコンプリートに収録した輸入盤LONG BOX3枚組CDを買うことにした。アマゾンでは9,000円近くしていたが、たまたま行った難波のタワレコで5,000円というウソみたいな値段が付いてるのを発見!何かの間違いやろと思いながらポーカーフェイスでレジを済ませ、そそくさと店を出たのを覚えている。
 彼女の楽曲は大きく分けて次の3つのタイプに分けられると思う。

①日本人好みのマイナー調メロディーが心の琴線をビンビン刺激するナンバー:
 「夢見るシャンソン人形」を筆頭に、ゲンスブール節炸裂の「娘たちにかまわないで」、似たような曲調の「アイドルばかり聞かないで」、その直訳バリバリの邦題もうちょっと何とかならんかったんかと思わせる「あなたのキャプテンに言いなさい」、イントロの哀愁舞い散るハーモニカに涙ちょちょぎれる「涙のシャンソン日記」なんかが有名だが、他にも「恋の家路」、「羅針盤」、「恋のためいき(ポリシネル)」、「シャンソン戦争」etc の隠れ名曲が目白押し。そのどれもがどこかで聞いたような懐かしいメロディーが郷愁をかきたてるキラー・チューンで、まるで昭和歌謡を彷彿とさせるような泣きのメロディーを舌っ足らずに歌うギャルのセピア色の歌声がたまらない(≧▽≦)

②とても10代のアイドル歌手とは思えないジャジーなナンバー:
 グルーヴィーなオルガンに負けないスキャットを聴かせる「ジャズ・ア・ゴー・ゴー」、そして当時の洗練されたヨーロピアン・ファンキー・ジャズをバックにスイングする「ジャズる心」と、タイトルに“ジャズ”と付いた2曲は言わずもがなだが、他にもブルーベック・カルテットの「テイク・ファイヴ」を想わせるめちゃくちゃカッコイイ5/4拍子ジャズ「パンス・ア・モア」、瀟洒なブラッシュと歌心溢れるサックスをバックにリラックスして歌う「ブーム・ブーム」、またまたブラッシュをバックに得意の高音スキャットを聴かせる「テンポの時代」、サバービア感溢れるフレンチ・ボッサ「太陽をあげよう」、フルートやコンガなどが醸し出すエキゾチックなムードがエエ感じの「青い瞳に恋してる」etc、ただのカワイコチャン歌手と思っていると、ギャルの “裏の顔” とでも言うべき硬派なサウンドに驚倒するだろう。

③いかにもアイドルといった明るい感じのキャンディー・ポップ・ナンバー:
 「シャルマーニュ大王」、「天使のためいき」、「はじめてのヴァカンス」、「恋の忠告」、「恋のお返し」、「恋のサバ・サバ娘」、「バラ色のキッス」、「アニーとボンボン」、「クリスチャンセン」、「すてきな王子様」、「おしゃまな初恋」、「ボンソワール・ジョン・ジョン」etc、やはり本業はあくまでもアイドル歌手ということで、邦題通りの楽しいポップスのオンパレード。何も考えずに頭を空っぽにして聴きたいハッピー・チューンばかりだ。

 楽曲のスタイルやアレンジがどう変わろうとも彼女の一番の魅力はそのユニークな声と歌い方にある。天が二物を与えた少女フランス・ギャル、彼女がポップスからジャズ、ボサノヴァまで様々なスタイルに対応できるだけの懐の深さをもったヴォーカリストだということをこの3枚組BOXは如実に示している。

France Gall - Pense A moi (1963) (son HQ)

Paris In April / April March

2009-05-25 | European Pops
 昨日はG3の定例会があった。久々に顔を合わせた901さんは開口一番「YouTubeでChick Habit, Death Proofって入れてみて!」と仰る。映画に疎い私は何のことか分からず、言われるままに検索すると、いきなりズラ~ッと出るわ出るわ...(゜o゜) “Tarantino's Film” “song from the movie DEATH PROOF” “April March”... 要するにタランティーノの映画「デス・プルーフ」の中で「チック・ハビット」という曲が使われていて、歌っているのはエイプリル・マーチ、ということなのだが、エイプリル・マーチなら確かフランス・ギャルのカヴァー絡みでCDを持っている。この曲に限らずイエイエはフランス語がチンプンカンプンなので、曲名までは覚えてなかったけど...(>_<) 「車から投げ出した女の子の足がリズム取ってるヤツがめっちゃエエねん!」ということなので、とりあえずみんなでYouTube鑑賞。おぉ、やっぱりフランス・ギャルの「娘たちにかまわないで(Laisse Tomber Les Filles)」だ!ドリフのズンドコ節を想わせるゲンスブールなイントロからいかにもチープな雰囲気横溢のハスッパな女性ヴォーカルが炸裂する。カート・ラッセル扮する元スタントマンが愛車を凶器代わりにして狙った女性たちを次々と襲っていくという設定らしいのだが、今回目をつけたターゲットもいかにも軽薄そうなオネエチャンたち。ボンネットに寝そべってスタントライドをしているところ(←何やってんねん!)へいきなり車を横からぶつけて殺そうとするが、どうやら今度ばかりは相手が悪かったようだ。ド迫力のカーチェイスに決着をつけ、車から降りた3人のオネエチャンたちがカート・ラッセルをボコボコにいてまう壮絶なラスト・シーンはインパクト大!メリケンサック(?)による鉄拳制裁十数連発に続いてトドメの回し蹴りが決まり3人同時にガッツポーズでジ・エンドとなる(笑) まるでプライドやバーリ・トゥードを見ているようだ。本当はこの後にエンド・ロールのバックでこの「チック・ハビット」が流れるらしいのだが、面白いことに映画のダイジェストとして編集されたYouTubeの映像とこの曲のテンポが不思議なくらい見事に合っててついつい何度も見てしまう。901さんがハマったのもよくわかる。おかげでこちらもイエイエ熱が再燃しそうだ。それを見ていたplincoさんが「新型イエイエ・ウイルスに伝染したな」と大笑い。みなさんも下のYouTubeの映像を見たら感染するかも...(笑) 
 というわけでエイプリル・マーチである。 “4月・3月” って名前からして既にナメとるのだが、この人のことは何も知らないのでWikipediaで調べてみると、本名エリノア・ブレイク、フランスとは何の関係もないカリフォルニア生まれの生粋のアメリカ人だった。このCD「パリス・イン・エイプリル」(←このタイトルも中々シャレが効いててエエなぁ)を出した当時は30才ということで、 “フレンチかぶれのヤンキー娘” キャラが楽しいし、シンプルなテケテケ・ギター中心の音作りが懐かしさを増幅させる60'sフレンチ・イエイエ・ミュージックの波状攻撃もたまらない(≧▽≦) 
 上記の①「チック・ハビット」は今や彼女の代名詞となった感のある曲で、「デス・プルーフ」以外にも「GO!GO! チアーズ」という映画や英仏でのルノー車のテレビCMにも使われているとのこと。彼女の胡散臭さ全開のヘタウマ・ヴォーカルとバックの活きの良いリズムが脳内ループを起こさせるのだろう。一旦ハマるとクセになるアブナイ曲だ。
 バックで彼女が笑い転げる②「プアー・ローラ」はミカ・バンドの「怪傑シルバー・チャイルド・イン・パリ」って感じ(?)だし、③「ホワイル・ウィーァ・ヤング」なんか哀愁の60'sグループ・サウンズそのものだ。⑤「モト・シャグ」や⑨「トゥ・メンズ」なんかもバブルガム的な味わい溢れる60'sロックンロール。何よりも彼女が上手い下手なんかぶっ飛ばしてロックしているのがいい。⑦「ラ・シャンソン・デ・プレヴァー(?)」はフランソワーズ・アルディにマリー・ラフォレをサッとふりかけ、イエイエ・ソースでフォークソング仕立てにしてみましたというような徹底したフェイク・フレンチ・ワールドに大爆笑。この娘、なかなかやってくれます。尚、⑧⑩⑪⑫⑬⑭はそれぞれ①③②⑤⑥④のフランス語・ヴァージョンだ。
 全曲3分以内で一気呵成に聴かせてしまうこのCDは、イエイエ・ファンはもちろんのこと、ラモーンズあたりにも通じるシンプルなロックンロールが好きな人にもオススメの、B級名盤大賞最右翼だ。

THE GIRLS OF DEATH PROOF


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黒船 / サディスティック・ミカ・バンド

2009-05-24 | J-Rock/Pop
 サディスティック・ミカ・バンドを初めて耳にしたのはラジオだった... と言ってもちゃんとした音楽番組で聞いた、というのではない。 “来た、見た、買うたの喜多商店!”(日本橋にある電気屋さん)のラジオCMにミカ・バンドの③「タイムマシンにおねがい」が使われていたのだ。イントロのギター・リフに高橋幸宏のじわじわ加速していくようなドラムが絡み、ミカの“さぁ~♪”というヴォーカルが入ってくる瞬間のカッコ良さ!全身に電気が走るとはこのことだ。私はわずか30秒のラジオCMにこれほど魅せられたことはなかった。 “聞いたことのない声やけど一体誰が歌ってるんやろ?” “何ちゅー曲やろ?” と、この曲のことがめちゃくちゃ気になって何も手につかなくなった私は音楽好きな友達に訊いて回り、そのうちの一人がミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」やと教えてくれた。早速天王寺の三木楽器に直行し、この曲の入っている彼らの最高傑作アルバム「黒船」をゲットした。
 最初に針を落としたのはやはり「タイムマシン...」、大好きなこの曲をフル・ヴァージョンで聴ける幸せを何と表現しよう?バックの演奏もスリリングだったが、やはりこの曲は強烈な毒を撒き散らしながら聴く者の心をガッチリ掴むミカのヘタウマ・ヴォーカルのキッチュな魅力に尽きるだろう。彼女の素人っぽさ全開のぶっきらぼうな歌い方が躍動感溢れるこの曲にぴったりハマり、彼女にしか出せない絶妙なグルーヴを生み出しているのだ。あのユーミンがリスペクトしてやまないミカという女性、その圧倒的存在感はまさにザ・ワン・アンド・オンリーと言っていい。 又、歌詞もユニークで面白い。何と言っても “アンモナイトはお昼寝 ティラノザウルスお散歩 アハハァ~ン♪” である。 “ミンクをまとった娘が ボギーのソフトにいかれて デュッセンバーグを夢見る アハハァ~ン♪” なのである。何のこっちゃ分かったような分からんようなエキセントリックなフレーズだが、これをミカが歌うと不思議なマジックが生まれ、誰にも真似のできない素晴らしいロックンロールになるのだ。後半部のリフレイン怒涛の10連発の盛り上がりようはパンク・ロックもぶっ飛ぶ大迫力。そして演奏が最高潮に達したところでラストを “タイッ!” でスパッとぶった切ることによってこの曲のエンディングは完璧にキマッたのだ。とにかく私の知る洋楽邦楽すべてのガールズ・ロック曲の中でダントツ№1と信じるこの曲、ロック・ファンで万が一このオリジナル・ヴァージョンをまだ聴いたことがない人がいたら是非ともご一聴をオススメしたい。このワクワク・ドキドキ感はハンパではない。私と同様に彼女のヘタウマ・ヴォーカルにハマッた人にはベスト盤に入ってる「お花見ブギ」を大推薦!0分28秒、0分51秒、1分28秒で炸裂する彼女の “なんと!” で3メートルはぶっ飛ぶはずだ。お試しあれ(笑)
 ③のエンディングから間髪を入れずに始まる流れがたまらない④~⑥の「黒船」組曲(?)は鬼気迫るインスト・ナンバーで、高中のギターはまるでハイ・テンションのデイヴ・ギルモアのような凄まじさだ。
 遊び心溢れるチンドン屋サウンドが楽しい⑦「よろしくどうぞ」で始まるB面では、まさに “お祭り騒ぎぃ~♪” を体現したような疾走感溢れる和洋折衷ファンク・グルーヴに目も眩む⑧「どんたく」や、ファンキーなノリが圧巻の⑩「塀までひとっとび」なんかがインパクト大だが、私が大好きなのが⑪「颱風歌」。バンドが一体となって作り上げた分厚い音の壁が眼前に屹立し、聴く者を圧倒する。無駄な音は一つもない。74年の時点で日本人がこれほどのロックを作り上げていたという事実は、加藤和彦を始めとするメンバーたちがどれだけ時代の先端を行っていたかを雄弁にに物語っている。
 ビートルズの「ホワイト・アルバム」やポールの大名盤「バック・トゥ・ジ・エッグ」、ピンク・フロイドの「狂気」にも関わったクリス・トーマスが全面プロデュースしたこのアルバム、今聴いても十分刺激的な、時代を超えた不朽の名作だ。

この曲のヴォーカルはやっぱりミカじゃなきゃダメ!
高中、CHAR、ポンタらを従えて熱唱する97年のライブです↓
タイムマシンにおねがい
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Backtrackin' / Eric Clapton

2009-05-23 | Rock & Pops (70's)
 エリック・クラプトンのキャリアは長い。60年代中頃から数々の浮き沈みを経験しながらもずーっと第一線で活躍しているというのは凄いことだ。私がよく聴いたのは60年代中期のヤードバーズから81年の「アナザー・チケット」あたりまでの約15年間ぐらいで、それ以降の彼のことは91年のジョージの「ライヴ・イン・ジャパン」と、ポールと共演した2002年の「コンサート・フォー・ジョージ」を除けばほとんど知らないに等しい。いつだったかテレビでアンプラグド・ライブを見たような気もするがほとんど記憶に残っていない。 “枯れた味わい” とか言われても全盛期の彼を知る者としてはただ単に老け込んだようにしか思えなかった。
 高校時代から彼のLPは何枚か持っていたが、80年代半ばに世がCD時代に突入した頃、初めて行った東京買い付けツアー(笑)の時に忘れもしない渋谷のタワレコで見つけたのがこの「バックトラッキン」で、2枚組のくせに安かったのと、クラプトンの名演が手っ取り早く聴けるという理由で買ったのを覚えている。このCDはクリーム、ブラインド・フェイス、デレク&ザ・ドミノス、461バンドから80年代初めの武道館ライブまでの音源の中から幅広くチョイスされ、それそれ “シングルス”、“ヒストリー”、“クラシックス”、“ライブ” というテーマ別に4つのパートに分けられており、私のようなええかげんなリスナーにはピッタリの構成だ。
 彼の音楽のベースはあくまでもブルースにあるというのは周知の事実だが、その時代時代において彼の表現フォームは微妙に変化していく。そんな中で私が好きなのは、コテコテのブリティッシュ・ロックの原点とでも言うべきクリーム時代と、その延長線上にあるデレク&ザ・ドミノス時代の “ハードな” スタイルのクラプトンだ。正直言って全米№1になったⅠ-①「アイ・ショット・ザ・シェリフ」を始めとする70年代中期以降のレゲエやカントリーっぽい演奏は、バリバリ弾きまくるクラプトンが好きな私にはイマイチ物足りない。やはりジャック・ブルースやジンジャー・ベイカーとの身を削るようなつばぜり合いを通して異常なまでにテンションの高い演奏を繰り広げていた頃のクラプトンが一番好きだ。ギター・リフがゾクゾクするほどカッコ良いⅠ-⑦「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」、ジョージの “音” に涙ちょちょぎれるⅠ-⑨「バッジ」、めちゃくちゃシビレるブルース・ロックの聖典Ⅱ-③「スプーンフル」、あまりにスリリングな演奏に言葉を失う「クロスロード」と、名曲名演のアメアラレだ。しかし「ホワイト・ルーム」が入ってないのは何で???
 デレク&ザ・ドミノス時代のⅠ-⑪「いとしのレイラ」(これはジャケットも名盤!)からはやはりタイトル曲、コレしかない。これはもう言わずもがなの絵に描いたような大名曲で、有名すぎるほど有名なあのイントロからクラプトンはありとあらゆるテクニックを駆使して親友の妻への激しい恋心を綴っていく。彼のギターはどちらかというと感情の趣くままに流れを組み立て “ギターを通して自分の心の内にあるものを歌にしていく” という、まるでジャズのインプロヴィゼイションのようなスタイルなので、その時々の精神状態によって好不調・出来不出来の波が大きいように思うのだが、この曲ではパティへの情熱的な想いと親友を裏切れない苦しみという強烈な2つの感情の奔流がそのまま見事な演奏に反映されており、聴く者の心を魅きつけてやまない。後半部でピアノ・ソロからギターが加わり、バンド全体の演奏に移るあたりに人間的な優しさというか温かみが感じられるのはクリーム時代には決してなかったこと。もちろんデュアン・オールマンのむせび泣くスライド・ギターも絶品だ。とにかく何百回聴いても飽きないロック史に燦然と輝く名曲名演だと思う。又、同アルバムからチョイスされたジミヘンのⅠ-⑩「リトル・ウイング」も思わずヴォリュームを上げて音の洪水の中に身を委ねたくなるような濃厚なブルースが楽しめる5分40秒だ。
 ライブ・サイドでは80年の武道館ライブ「ジャスト・ワン・ナイト」収録のⅡ-⑩「ブルース・パワー」とⅡ-⑪「ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード」の2曲に尽きる。特に「ファーザー...」はノリノリの大ブルース・ロック大会で、桑田師匠もサザン初期のライブやAAA’99で取り上げておられた隠れ名曲。この選曲、めっちゃエエよ。まぁこれで「ホワイト・ルーム」の件はチャラにしとこ!
 こーやって聴いてみるとやはり自分は“ヒストリー” と “ライブ” ばっかり繰り返し聴いていることに改めて気づく。ブルース・ロック全開で共演者たちと切った貼ったの息詰まるようなインプロヴィゼイションを繰り広げるクラプトンのプレイに彼の最大の成果を見る思いがする。

83年ARMS Concertより3大ギタリスト夢の競演!
ジミー・ペイジのトリッキーな動きはいつ見ても笑えます↓

Layla - eric clapton, jimmy page, jeff beck

浜っ子伝説 / 王様

2009-05-22 | Cover Songs
 先日のブログでユーミンの「OLIVE」に入っている「甘い予感」の歌詞の中の “カーラジオ~ 流れてくるのはぁ~ ビーチボーイズ~♪” のフレーズが大好きと書いたら shoppgirl姐さんがご自身のブログで “その時流れていたBB5の曲は何だったのでしょう?” という問題提起をされ、多分「サーファー・ガール」ではないか、と見事な考察をされていた。単純な私はそれまで何も考えずにこの曲を30年近く聴いてきたのだが、こーやってビーチ・ボーイズについてあれやこれや考えながら聴くと実に楽しい(^o^)丿  shoppgirl姐さん、新たな愉しみ方を教えて下さって感謝感謝です!!!
 ということで今日は王様の「浜っ子伝説」にしよう(笑) 何でそこで王様が出てくんねん!と言われそうだが、そこはそれ、明日なき暴走の暴走たる由縁である。それにこのCD、案外奥が深いのだ。まずあの山下達郎氏がサウンド・アドヴァイザーを務めているというからバカにできない。細部にまで気を配った音作りは見事にあのBB5っぽい音を再現しているし、何よりも王様得意の直訳が炸裂しまくり、そのどれもが面白いようにサウンドにピタリとハマッているのだ。それでは9分にわたって展開される抱腹絶倒の “ビーチボーイズ日本語直訳メドレー” の聴き所をご紹介:

①「波乗り米国」 Surfin’ USA
 最初、普通の直訳カヴァーかなと思っていると “Inside outside USA~♪” のバック・コーラスが “うちがわ そとがわ べいこくぅ~♪” とくる。これで面白いと思わなければ王様は愉しめない。 “A bushy, bushy blonde haired~♪” を“ボサボサの金髪~♪” という風に音感まで似せて訳したところに王様のワザを感じる。
②「たの たの たのしい」 Fun, Fun, Fun
 この曲はヘッドフォンで聴くとその精巧な音作りの凄さが分かる仕掛けになっている。しかもレコーディング・データによるとコーラスはすべて王様一人の声を幾重にも重ねた多重録音。 “Fun, fun, fun 'Til her daddy takes her T-bird away~♪” を “たの たの たのしい パパに車を取られるまで~♪” とやったセンスは凄い。
③「オイラはころがす」 I Get Around
 “Around round get around, I get around~♪” が“コロコロ車をコロがせ~♪” である。この訳詞も絶妙だし、お約束のハンド・クラッピングにも涙ちょちょぎれる(T_T) 裏声を駆使したコーラス・ハーモニーもオリジナルの雰囲気を巧く再現している。
④「波乗り娘」 Surfer Girl
 “小さな波乗り女の子~♪ というフレーズの語呂が何故かコワイくらいメロディーにぴったりハマッててビックリ。 “僕を愛してくれるかい 波乗り娘~♪” のパートも見事にキマッてる!
⑤「いい振動」 Good Vibrations
 “彼女~ 色とりどりの服を着ている~♪” のハスキーな声のかすれ方はまるで甲斐よしひろのようだ。トドメは裏声で “いーっ、いーっ、いーっ、いっいー 振動ぉ~♪” ってもう面白すぎ(^o^)丿 サウンド・プロダクションも含め、まさにギャグがアートに代わる瞬間だ!
⑥「かわいいホンダ」 Little Honda
 “出発!”に始まり、“1速(ホンダホンダ 速く速く~♪)” で由緒正しいBB5ファンはイスから転げ落ちるかも...(^.^) レコーディングを見守る達郎氏の嬉しそうな表情が目に浮かぶような1曲だ。
⑦「カリフォルニアの娘さん」 California Girls
 前曲との繋ぎ方にもうひと工夫欲しかった感もあるが、この曲に始まる⑦⑧⑨の流れるようなメドレー・アレンジは完璧だ。
⑧「神のみぞ知る」 God Only Knows
 “神様お願い 君がいなけりゃ~♪” のリフレイン・パートに折り重なるように被せられたコーラス・ハーモニーに涙ちょちょぎれる。
⑨「素敵だね」 Wouldn't It Be Nice
 後半の⑦⑧⑨バラッド・メドレーは笑いを度外視して徹底的に作り込まれたサウンド・プロダクションが聴きもの。この残響音、たまらんなぁ... 溢れんばかりのリスペクトは本当に “素敵” だ。

どうです?めっちゃ面白そうでしょ?ナンセンス極まりないギャグも含めてこの楽しいカヴァーを王様は達郎氏の指導の下に長時間スタジオに籠って作り上げたらしいが、曲の隅々まで王様のBB5への愛が満ち溢れているのがビンビン伝わってきて思わず頬が緩んでしまう。ジャケットは言わずと知れたデビュー・アルバム「サーフィン・サファリ」のパロディー。これは是非ともブライアン・ウィルソンに聴かせたい笑撃のケッ作だ。

浜っ子伝説 王様

Homage / Three For Brazil

2009-05-21 | Cover Songs
 誰もが知っている人気曲を片っ端からボッサ化する企画がここ数年目立ってきていることはこれまで何度も書いた通りだが、そんな玉石混交の中から “玉” を見つけ出してはブログで取り上げているので、 ひょっとすると“コイツ、ホンマにボサノヴァ好っきゃなぁ...” と思われているかもしれない。一歩間違うと “週刊ボッサ” みたいになりかねない当ブログだが、実を言うと私はそんなに熱心なボサノヴァ・ファンではない。というか、本格的なボサノヴァの良さはほとんど理解出来ていないというのが正直なところだ。アントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトといった、いわゆる “本物のボサノヴァ” の良さがよく分からない(>_<) 本物の高級中華料理よりも王将やバーミヤンの日本人向け大衆中華料理の方が遙かに美味しく感じてしまうのと似ているかもしれない。
 そもそもボサノヴァの要諦はその抑制された歌い方にあり、メロディーの抑揚に乏しいことが多いので、知らない曲を特に男性ヴォーカルでブツブツ呟くように歌われるともう何が何だかサッパリわからなくなる。ヒドイ時なんか曲が違っても全部同じに聞こえてしまう。その点女性ヴォーカルはまだ幾分マシだが、それでも曲が魅力に乏しいとやはり辛い。つまり私が楽しめるボサノヴァの大半はポップスのヒット曲やジャズのスタンダード・ソングといった “メロディーの分かり易い曲” をボッサ化したものに限られるということだ。
 このスリー・フォー・ブラジルというグループとの出会いはもう7年ぐらい前のことになる。ちょうど富士通コンコード・ジャズ・フェスティバルに行かれたplincoさんが “スリー・フォー・ブラジルっていうグループがshiotch7さんの大好きな「ブルーライト・ヨコハマ」をボサノヴァで演っててんけど、それがもうめちゃくちゃ良かったで!” とコーフン気味に教えて下さった。あの「ブルーライト・ヨコハマ」をボサノヴァで??? あゆファンの私にとっては天地を揺るがすほどの大事件である。それは絶対に聴かねばならない。当時、導入してまだ数ヶ月しかたっていなかったパソコンを駆使して調べると、この「ハミッジ」(←クリックすると鳥肌モノのブルーライト・ヨコハマが試聴できます!)に入っていることが分かったので、すぐにCD屋に走り何とかゲットできた。
 彼らは紅一点の女性ヴォーカル(ポーランド人)、アコースティック・ギターを弾く男性ヴォーカル(ブラジル人)、そしてテナー・サックス(アメリカ人)という3人組ボッサ・ユニットである。全15曲中13曲が有名なボサノヴァ・スタンダード曲で、残りの2曲が何とスティングの名曲⑦「フラジャイル」とあゆの⑮「ブルーライト・ヨコハマ」なのだ。
 まずあゆの⑮を聴こう。このイントロは「男と女」だ... あれ?と思っていると1分21秒から満を持して例のメロディーが現れる。じらすだけじらした後だけに効果は抜群だ。スタン・ゲッツが憑依したかのような哀愁舞い散るテナー・サックスと品格滴り落ちるボッサ・ギターをバックに男性ヴォーカルと女性ヴォーカルが交互にリードを取り、最後の10秒で絶妙なハーモニーを聴かせて終わる... 完璧な3分20秒だ。スティングの⑦もやはり原曲のマイナー調メロディーを大切にしながら彼らのスタイルにアレンジされ、郷愁溢れる見事なボサノヴァに昇華されている。2曲とも、昨今流行りの脱力系ユルユル・ボッサではなく、バリバリの本格派ボッサである。もう参りましたと言うしかない。
 ボサノヴァ・スタンダード曲も実に分かり易いアレンジで心地良い演奏が目白押しだが、中でも洗練された⑥「イパネマの娘」、サバービアな⑧「マシュ・ケ・ナダ」、スタン・ゲッツ全開の⑪「黒いオルフェ」、スインギーな⑫「リカード・ボサノヴァ」、見事なハーモニーが堪能できる⑭「おいしい水」なんかは涙ちょちょぎれる名演だ。
 それもこれもすべてはplincoさんの一言から始まったのだ。持つべきものは音楽好きの友人である。plincoさん、素敵な盤を教えて下さって本当にありがとう!!!

スリー・フォー・ブラジル
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Love You Live / Rolling Stones

2009-05-20 | Rolling Stones / The Who
 私が一番よく聴くストーンズは以前にも書いたように60年代後半の “完全なるオリジナリティーを確立した” 頃の盤なのだが、70年代の盤も同じくらい愛聴している。ブライアン・ジョーンズの死、オルタモントの悲劇を乗り越え、ビートルズというライバルがいなくなったロック界で、いささかも初期の衝動を失うことなくその熱いロックンロール・スピリットを武器に彼らは転がり続けた。
 まずは彼らの代表曲の一つである「ブラウン・シュガー」入りで例のアンディ・ウォーホールの “ジッパー付きジャケット” でも有名な「スティッキー・フィンガーズ」、ロックンロールやブルースに加えてスワンプ・ロックにまで手を染めたごった煮風2枚組「メインストリートのならず者」、個人的には全米№1ソング「悲しみのアンジー」よりも「スター・スター」の疾走感に魅かれる「山羊の頭のスープ」、アルバム・タイトル曲が私のようなロックンロール愛好家のアンセムとなった「イッツ・オンリー・ロックンロール」、ロン・ウッド加入が吉と出てサウンドにふてぶてしさのようなものが加わった「ブラック・アンド・ブルー」と、もう出すアルバムすべてが傑作なのだから恐れ入る。これらのアルバム群はすべてリアルタイムで経験したものではなく60年代ストーンズを聴いた後で1枚ずつ買っていったのだが、そのきっかけとなったのが、個人的にはスタジオ・アルバムも含めて彼らのベストと信ずるこの2枚組ライブ・アルバム「ラヴ・ユー・ライヴ」である。
 今もパソコンに向かいながら聴いているのだが、それにしてもこのテンションの高さは何なのだろう!アグレッシヴでアナーキーでとてつもなくワイルドなロックンロールのアメアラレでこの時期の彼らがいかにノッていたかがダイレクトに伝わってくる熱い演奏だ。まずはリオのカーニバルのような打楽器の乱れ打ちからELPの「庶民のファンファーレ」のイントロが流れ、この究極のロックンロール・ショーがスタートする。いきなり響き渡る①「ホンキー・トンク・ウイメン」のギター・リフがたまらなくカッコイイ(≧▽≦) ②「イフ・ユー・キャント・ロック・ミー」が信じられないことにいつの間にか「ゲット・オフ・オブ・マイ・クラウド」に変わっている。この繋げ方、ニクイねぇ!キースが歌うノリノリの④「ハッピー」→このネチッコさにハマるともう抜け出せない⑤「ホット・スタッフ」→言葉を失う最高のロックンロール・ナンバー⑥「スター・スター」と、もうA面だけでメシ3杯は食えそうだ(^o^)丿 
 B面に入ると一転、①「ダイスをころがせ」、②「フィンガープリント・ファイル」、③「ユーガッタ・ムーヴ」、④「無情の世界」といったブルージーなナンバーの波状攻撃だ。更に4面中唯一トロントの小さなクラブで録られたC面はブルージーどころか完全なコテコテ・ブルースを嬉々として演奏しており、ミックのハーモニカも聞けるわ、ボ・ディドリーの曲も演ってるわで、これを聴けば彼らのルーツが明確に浮き彫りになるという寸法だ。
 ブルースもエエねんけど、やっぱりストーンズはアップテンポのロックンロールに尽きると考えている私のようなロックンロール・アディクトにはD面はこたえられない展開で、①「イッツ・オンリー・ロックンロール」、②「ブラウン・シュガー」、③「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」、そして④「悪魔を憐れむ歌」と、ストーンズ全キャリア中最高の19分32秒が満喫できると言っても過言ではない。特に④はスタジオ音源を遙かに凌ぐファンキーなノリが圧巻だ。もしあなたがロックンロール大好きで、万が一このアルバムをまだ聴いたことがないとしたら、ぜひとも一聴をオススメしたい。英語に See Naples and die. (ナポリを見て死ね)という諺があるが、まさにListen to LOVE YOU LIVE and die! と言いたくなるような、ロックンロール・ライブ名盤中の名盤だ。

Rolling Stones - Sympathy For The Devil

Lady Madonna / Leika & The Waiters

2009-05-19 | Beatles Tribute
 ビートルズを筆頭にお気に入りアーティスト達の面白いカヴァー・ヴァージョンを探し出してきて楽しむことは私のライフ・ワークの一つになっている。便利な世の中になったもので、今ではアマゾンやHMV、iTunesの曲目検索クリック一発で入手可能な音源がパソコン画面にすべて表示されるので、私のようなカヴァー・ソング・ハンターには大変ありがたいシステムだ。更にそれでも足らんとばかりにヤフオクで “○○ カヴァー” “○○ トリビュート” といった検索ワードを打ち込んで “現在価格” の安い順に並べ替えた(笑)ものをお気に入りに入れておいて毎週チェックしている。当然のことながら既に持っている盤やワケのわからん怪しい盤が殆どなのだが、時々 “これは!” と思わせるような掘り出し物に出会うことがある。レイカ & ザ・ウエイターズの「レディ・マドンナ」もそんな1枚だった。
 私はヤフオク検索時には “タイトルと画像” ではなく “画像” の表示設定にして画面に大量表示させて一気に見ていくのだが、目の覚めるような赤地バックにくわえタバコでギターを抱えたジャパニーズ・ゲイシャ・ガールのイラスト(オリジ盤はワンコのアップ写真)は私の目を引き付けるのに十分だった。 “ブルースをベースにしたアコースティックなサウンド” のビートルズ・カヴァー集というのも面白そうだし、600円という安値だったこともあり、即ビッドしてゲットした。
 レイカ & ザ・ウエイターズについて調べてみると、ロス在住の日系アメリカ人女性ヴォーカルを中心にしたハーモニカ、アコギ、ウッドベースの4人組バンドで、この「レディ・マドンナ」('92年)がデビューアルバムとのこと。まぁ百聞は一聴にしかずということで、とにかく聴いてみよう。
 まずはハーモニカが縦横無尽に響き渡るイントロに度肝を抜かれる①「デイ・トリッパー」、弾けるようなアコギのリズムに乗ってレイカの透明感溢れるヴォーカルが滑り込んでくる。ブルース、フォーク、カントリーといったアメリカン・ルーツ・ミュージックをベースにしたそのサウンドは、注意して聴かないとビートルズの曲だとは気付かないくらい換骨堕胎され、レイカ&ザ・ウエイターズの手法でバンド・アンサンブル化されている。今まで聴いたこのないような解釈だが、これはこれで中々面白い。②「レディ・マドンナ」はコンガのチャカポコ・リズムを隠し味に、ソウルフルなヴォーカルとファンキーなハーモニカがくんずほぐれつ疾走する。もうこの冒頭2曲で完全にレイカ&ザ・ウエイターズ流アコースティック・ブルースの世界だ。
 郷愁を感じさせるハーモニカのイントロがたまらない③「イン・マイ・ライフ」はそれまでの自由奔放な2曲に比べると原曲に近いアレンジながら、ドラムレス・アコースティック・ブルース・バンドならではの味わいが横溢している。④「ドゥー・ユー・ウォント・トゥ・ノウ・ア・シークレット」で、バンドが一体となって醸し出すドライヴ感が音楽を前へ前へと推し進めていく様はまさに圧巻といえるもので、私はこの躍動感に満ち溢れた演奏が大好きだ。
 ブルース魂全開の⑤「カム・トゥゲザー」、生音を活かした録音でライヴ感に溢れる⑥「グッドデイ・サンシャイン」、ウッド・ベースの深い響きがたまらない⑦「ジス・ボーイ」と続いて⑧「ホエン・アイム64」は何とアップテンポのブルー・グラスだ!1分2秒と1分52秒でみせるチェンジ・オブ・ペースの妙もお見事(^o^)丿 控え目なバッキングでレイカのヴォーカルを前面に押し出した⑨「イフ・アイ・フェル」に続く⑩「アイ・フィール・ファイン」はまるで年季の入った南部のブルース・バンドのような土の薫りが充満するコテコテのブルースで、1分31秒から炸裂するブルージーなハーモニカ・ソロが強烈だ。⑪「レヴォリューション~アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア~ラヴ・ミー・ドゥ~ユー・キャント・ドゥー・ザット~ドライヴ・マイ・カー」は①②と同じ路線のアメリカン・ルーツ・ミュージックのごった煮風な展開が面白い。⑫「キャント・バイ・ミー・ラヴ」はブルージーな中にモダン・ジャズのエッセンスが散りばめられたキラー・チューンで、イントロのベースといい、ツボを心得たギター・ワークといい、めちゃくちゃカッコイイ!どれか1曲と言われれば私はこの曲を彼らのベストに挙げたい。
 このアルバムには姉妹編として「レット・イット・ビー」(ジャケは青地にゲイシャ・ガールだが、赤ん坊の写真ヴァージョンのCDがオリジらしい)があり、そちらも期待を裏切らない同傾向の音が楽しめるので興味のある方は是非どーぞ。

レイカ&ザ・ウエイターズ

This Time / Culture Club

2009-05-18 | Rock & Pops (80's)
 80'sポップスの洗礼を受けた者にとって、その好き嫌いは別にして、カルチャー・クラブほどインパクトの強いグループはなかったのではないだろうか?その音楽はもちろんだが、何と言ってもヴォーカルのボーイ・ジョージの醸し出す中性的なムードは見る者の目を釘付けにするに十分な妖しさを湛えていた。だから彼らの成功はMTVのおかげというのもある意味真実だし、現にデュラン・デュランらと共に “第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン” の中心的存在としてアメリカで大ブレイクしたのだが、そういったヴィジュアル面ばかりに目がいってしまうと彼らの本質というか、真の魅力は見えてこない。
 私が初めて彼らの音楽を聴いたのは1983年の2月だったか、ケイシー・ケイサムのアメリカン・トップ40で流れてきた⑦「ドゥー・ユー・リアリー・ウォント・トゥ・ハート・ミー」(邦題:君は完璧さ)で、カリビアンなムード横溢のレゲエ・サウンドに乗ったボーイ・ジョージの歌声を聴いて “またイギリスからハイセンスなグループが出てきたなぁ” と感心したものだった。楽曲の完成度も文句なしに高く、“これは全米№1も当確やな” と思っていたら上には上がいるもので、結局マイコーの「ビリー・ジーン」の下で3週連続の2位に甘んじてしまった。
 続くシングル④「タイム」はファースト・アルバム未収録の新録音で、他の派手なシングル曲に比べるとやや地味な印象ながら、ボーイ・ジョージの翳りのあるヴォーカルが楽曲に微妙な陰影を与えていて、私は非常によく出来た良い曲だと思う。ただ不幸なことにこの曲もアイリーン・キャラの「フラッシュダンス」に阻まれ、2週連続の2位に留まってしまった。偶然とはいえ、その年を代表する2大ウルトラ・メガ・ヒットとチャートのピークが被ってしまうとはツイてないなぁと気の毒に思ったものだった。
 しかし更にパワーアップた彼らはその年の暮れにセカンド・アルバム「カラー・バイ・ナンバーズ」をリリース、前作よりも楽曲のクオリティーが格段に向上しており、80'sポップス史に残る傑作アルバムと言えた。“カ~マカマカマ...♪” で全米全英共に№1に輝いた①「カーマは気まぐれ」は、ちょうど1年前にホール&オーツが「マンイーター」で実践して見せたように、モータウン・サウンドのエッセンスを巧く取り入れながら洗練された80'sポップスに仕上げるという、いわゆる “ホワイト・ソウル・ヒット曲製造の方程式” に則った、絵に描いたような大名曲だ。
 アルバムからのセカンド・シングル③「ミス・ミー・ブラインド」は軽快なテンポが心地良いダンサブルなポップ・チューンで、ボーイ・ジョージの滑らかなヴォーカルといい、シックのナイル・ロジャースみたいなリズム・カッティングがかっこ良いロイ・ヘイのギターといい、全米5位にまで上がったのも当然と言える魅力的な1曲だ。尚、このCDではこの曲と次曲④「タイム」が間を開けずに収録されていて独特の緊張感を生み出すのに成功しており、ベスト・アルバムといえどもアルバム全体の流れに気を配っているのがわかる。
 しかし彼らの快進撃もここまでだった。サード・アルバムからの第1弾シングルが⑪「ザ・ウォー・ソング」、例の “センソー ハンタァ~イ♪” と声高に歌う反戦ソングである。前作の大ヒットでのぼせあがり、調子こいて “ついついやってもうた” のかどうかは知らないが、彼らはアメリカのポップスの世界で最もやってはイケナイこと、つまり歌の世界に露骨に政治を持ち込むという致命的なミスを犯してしまったのだ。この曲を含むサード・アルバム「ウェイキング・アップ・ウィズ・ザ・ハウス・オン・ファイア」も魅力的な曲に乏しく、彼らは完全に失速してしまった。
 一旦落ち目になると余程のことがない限り再浮上は難しいのがポップス界の現実だ。86年にリリースされた⑧「ムーヴ・アウェイ」は「カーマ」時代に立ち返ったかのようなキャッチーなメロディーとホワイト・ファンクとでもいうべきノリの良さが絶品で私は大好きだったのだが、チャート上は失地回復には至らず、しかもボーイ・ジョージのドラッグ・スキャンダルによってバンドは活動停止を余儀なくされてしまった。最近も麻薬所持やら男性監禁暴行(!)やらでシャバと別荘を行き来しているボーイ・ジョージ(しかし懲りひん奴やなぁ...何回捕まったら気ぃ済むねん!)だが、全盛期を知る者としてはそんなニュースを見るたびに淋しく思ってしまう。
 このアルバムには最も80'sらしかったバンドの、最もキラキラと煌いた4年間の歩みがしっかりと刻まれている。ヴィジュアル抜きで十分楽しめるそのサウンドはエヴァーグリーンな80'sポップスそのものなのだ。


OLIVE / 松任谷由実

2009-05-17 | J-Rock/Pop
 私はユーミンが好きでCDも結構持っている。さっき数えてみたら20枚近くあった。常日頃からノリノリのロックンロールとスインギーなフォービート・ジャズを愛好する私を知る人達は皆、それを聞くと「何で?」と怪訝そうな顔をする。もっとヒドイ時なんか「全然似合わへんわ!」と言われたこともあった(笑) ハイハイ、どーせ私はお洒落なユーミンの世界とは程遠い顔してますよ!そう、ユーミンの世界はお洒落なんである。
 私が抱くイメージは、ちょうどバブルの頃のトレンディー・ドラマの主人公たちが体現していたような、生活臭を感じさせないライフスタイル。青山や麻布のキレイなマンションに住み、お昼はイタメシで夜はカフェバー、胸ときめく出会いが毎日あってみんながみんな恋してるような(笑)、そんな感じなのだ。彼ら彼女らは恋に悩むことはあっても決して仕事上のストレスや生活費のやりくりで悩むことはない。何と言っても中央フリーウェイである。 “二人して流星になったみたい... まるで滑走路 夜空に続く~♪”... 狭い奈良にはそんな道あらへんし、ドライヴに出かけても西名阪のオービスに捉えられて罰金減点を食らった苦い思い出しかない私には遠い世界の夢物語だった。しかしだからこそというべきか、彼女の歌に強烈に魅かれたのだと思うし、70年代後半から80年代を通してずーっとそんな世界を歌い続けてきた彼女は、ある意味、時代を先取りしていたと言っていいだろう。
 そんな彼女のアルバムの中でも愛聴曲含有率がダントツに高いのが、「SURF & SNOW」とこの「OLIVE」で、2枚とも盤が擦り切れるくらい聴いたものだった。オモテの名曲が多い「サーフ...」に対し、「オリーヴ」はいわゆる隠れ名曲が満載だ。
 まず①「未来は霧の中に」では東京オリンピックやアポロの月着陸といった “科学も夢を見てた~♪” 60年代をリアルタイムで体験した彼女の少女時代の記憶がモノの見事に3分間ポップスという形に昇華されている。このアルバムがリリースされた1979年の時点でこんな歌詞を書き、客観的に歌える人は彼女をおいて他にいなかったように思う。バックのギターはビートルズ「オー・ダーリン」へのオマージュか。一途な恋心を歌った②「青いエアメイル」に続く、レゲエっぽい軽快なリズムでカムフラージュされた③「ツバメのように」は飛び降り自殺した女性について唄ったもので、そのシュールな情景描写には背筋が凍りつく。彼女をただの “お洒落な歌を歌うJ-Popシンガー” と思っていると大やけどをしてしまうだろう。ユーミン屈指の隠れ名曲④「最後の春休み」は誰にでも経験のある思春期特有の甘酸っぱい想いを見事に表現した歌詞が圧倒的に素晴らしい。 “たまに電車で目と目があっても もう制服じゃない~♪” なんて絶対に彼女にしか書けない歌詞だ。アン・ルイスが歌った⑤「甘い予感」はその軽快でポップな曲調と共に “カーラジオ~ 流れてくるのはぁ~ ビーチボーイズ~♪” というフレーズがたまらない愛聴曲。バックの演奏(特にドラムス!)もめっちゃ巧いなぁ... (≧▽≦)
 ⑥「帰愁」は後の「輪舞曲(ロンド)」を始めとするエスニック路線への伏線となるようなフォルクローレ調歌謡ポップスで、その哀愁舞い散るサウンドは当時高校生だった私には衝撃的だった。今の耳で聴いても圧倒的に、超越的に素晴らしい1曲だ。⑦「冷たい雨」はバンバンの「いちご白書」のB面に入ってた曲でハイファイセットなんかも歌っていた記憶があるが、ここでは作者としてセルフ・カヴァー、私はこのユーミン・ヴァージョンが一番好きだ。 “彼女の名前教えないでね 恨む相手はあなただけでいい~♪” なんてサラッと歌ってしまうところに逆に凄味を感じてしまう。⑧「風の中の栗毛」はいかにもユーミンといった感じの “ユーミンらしさ横溢曲” だが、彼女ならこれくらいの曲は30分ぐらいでササッと書き上げられそうだ。山下達郎のバック・コーラスが絶品の⑨「稲妻の少女」、このアルバムを買った当時はこの曲が一番好きで、特にサーファーの女の子を描写した “しーろいしぶきが 帽子なら あの娘は手品で飛び出す銀鳩~♪” というフレーズはいつ聴いても新鮮に響く。その発想の斬新さと表現力の豊かさは日本随一といっていいだろう。
 今回久々にユーミンを一気聴きしてみて、当時は気付かなかった歌詞の微妙なニュアンスや独創的なフレーズに改めて感じ入った次第だ。彼女が「あの日に帰りたい」でシーンに登場してきた時に盛んに使われた “ニュー・ミュージック” という言葉の意味が当時はよく分からず “フォーク・ソングとどこが違うねん?” と思っていたが、時代の先を行く “時をかける少女” ユーミンの音楽は、ノスタルジーの中でしか聴けないフォーク・ソングとは違い、何十年経っても風化することのない “新しい音楽” だったのだ。

帰愁 松任谷由実
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