shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

P-Rhythm / 森川七月

2009-08-24 | Jazz Vocal
 昨日に続いて今日も森川七月、なっちゃんでいこう。彼女のデビュー・アルバム「& ジャズ」はスイング・ジャーナルみたいな音楽雑誌がプッシュする多くのエセ・ジャズ・ヴォーカル・アルバムを一瞬にして闇に葬り去るほどの衝撃性を持っていた。彼女はいかにも “日本人が歌っています” 的な不自然さがつきまとう凡百の日本人シンガーとは生まれ持った声質、リズムへの乗り方、ダイナミックなスイング感と、すべてにおいて次元が違う本格派ヴォーカリストで、私の知る限り、日本のジャズ・ヴォーカル界にとって10年に1人の逸材だと思う。しかし実力だけでは成功しないのがこの世界、サバイバル・レースの勝利者となるためにはその素晴らしい個性をいかに多くの人々に知ってもらうかが大きなポイントになってくる。そういう意味ではデビュー・アルバムで高い評価を得た彼女は新人としての第1ハードルを見事にクリアし、勝負を誰もが期待する2作目へと持ち込んだのだ。
 ジャンルを問わず音楽シーンのジンクスとして、新人にとって2作目のアルバムというのは鬼門である。デビュー・アルバムで自分のやりたいことをやり尽くしたというケースも多く、選曲面での新鮮味をも含めた楽曲の充実を継続するのも難しいのだ。ましてや1作目が好評であれば当然まわりの期待も高まるし、それに比例してプレッシャーも大きくなる。そんな中、彼女の 2nd アルバム「P-リズム」はまったくタイプの違う3人のアレンジャーを起用し、スインギーでストレートアヘッドなフォービート・ジャズ中心だった 1st に比べ、どちらかというとスロー・バラッド色の強い落ち着いた内容になっている。
 彼女の言葉によるとアルバム・タイトルの「P-リズム」は「プリズム」、つまりプリズムのレンズのようにジャズやポップスの名曲を通して7色の楽しみ(何ちゅーても “七月” やからね...)を聴く人に与えたいとのこと、しかもP は Pops の P をも意味し、 “ポップなリズム” という気持ちも込めたという。中々粋な発想だ。アルバムはビル・エヴァンスで有名な①「マイ・フーリッシュ・ハート」で始まるが、ギターとのデュオという超シンプルなフォーマットによって彼女の甘くて切ない歌声が際立っている。ムードたっぷりな歌い方が曲想とバッチリ合ってて中々エエ感じだ。②「ザ・シャドウ・オブ・ユア・スマイル(いそしぎ)」ではアコギのリズム・カッティングとパーカッションが生み出すレイドバックした雰囲気の中、しっとりとした歌声を聴かせる彼女には風格すら感じられる。「レッツ・ダンス」のヒットで知られるクリス・モンテスの1966年のカムバック・ヒット③「コール・ミー」ではギター、パーカッションとのトリオというシンプルな編成で、ミディアム・テンポで気持ち良さそうにスイングしており、バックの女性コーラスも清涼感アップに一役買っている。
 ④「愛のコリーダ」ではクインシー・ジョーンズの名刺代わりのダンス・ナンバーを大胆不敵に超スローの低空飛行。実に不思議なグルーヴ感だ。続く⑤「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」では1930年に作られたこの古い歌にパーカッションのチャカポコ・リズムやレゲエ独特のベース・ライン、そしてラスタなキーボードが付けるアクセントによって強調されたバック・ビートというユニークなレゲエ・アレンジを施しているが、何だか痛車のペイントをされたクラシック・カーみたいな感じは否めない。ドライバー(= 歌い手)が超一流なので救われてはいるが、前作でも見られたアレンジのやり過ぎが本作にも散見される。特に彼女のような素晴らしい歌手の場合は味付けに凝り過ぎて素材本来の美味さを殺してしまう下手くそな料理みたいにあれこれ小賢しいアレンジに走らず、もっとストレートに歌わせた方が絶対にエエと思うけどなぁ...(>_<) 所属レーベルの GIZA studio というのがビーイング傘下のレコード会社ということで、その点だけが心配だ。
 ⑥「マシュ・ケ・ナダ」はノリノリで弾けるようなボッサ・チューンで、慣れないポルトガル語に挑戦しながらも見事なグルーヴ感を生み出す彼女はただ者ではない。やっぱりアップ・テンポの曲が入るとアルバムが引き締まってエエもんだ。次作ではこの流れで「リカード・ボサノヴァ」あたりを歌ってくれたらめっちゃ嬉しいねんけど。マライア・・キャリーのカヴァー⑦「アイ・スティル・ビリーヴ」は小学生の時にこの曲ばかりを聴いていたという思い入れの深い曲ということで、なっちゃん気合い入りまくり...(^.^) 自らの持ち味を存分に活かしたメローでしっとりした歌声は言葉を失う素晴らしさだ。
 ⑧「クロース・トゥ・ユー」はアレンジがマヌーシュ・ギタリストの井上知樹氏(カフェ・マヌーシュの山本佳史氏とも共演していた人)だけあって、意表を突いてアップ・テンポのスインギーなジプシー・ジャズが展開される。ほぼ100%バラッドだろうとタカをくくっていたのでこれにはビックリするやら嬉しいやら...(^o^)丿 こんな楽しい「クロース・トゥ・ユー」は他ではちょっと聴けません。しかも彼女のヴォーカルはそれまでの自分のスタイルを少し変え、まるでカレン・カーペンターが乗り移ったかのような、しなやかさの中にも芯の強さを感じさせるような歌声なのだ。いやはや、まったく凄いヴォーカリストが現れたものだ(≧▽≦) ラストを締めくくる⑨「ミスティ」ではシンプル&ストレートにこのスタンダード・バラッドの定番曲を歌う。このシックな雰囲気がたまりません...(^.^)
 すっかり彼女の大ファンになった私はネットで彼女のオフィシャル・サイトを見つけ、そこから彼女のブログ(ブックマークにも入れときました)に辿り着いたのだが、読んでみるとこれがもうめちゃくちゃ面白い。素顔の彼女はこの7月に24才になったばかりのごくごくフツーの女の子で、それもコッテコテの大阪娘(笑)なのだ。それが一旦歌い出すとまったく別人のように風格さえ感じさせる圧倒的な歌声で聴く者を虜にしていく。そのギャップがこれまた面白い。 “声だけで聴きたくなる” シンガー、森川七月。次のアルバムが今からもう待ちきれない。

↓3分43秒からがなっちゃんの出番。前後の歌手とはヴォーカルの吸引力が月とスッポンほど違う。
6/21 hillsパン工場 saturday live