shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

八代亜紀と素敵な紳士の音楽会 ~LIVE IN QUEST~

2012-08-30 | Jazz Vocal
 坂本冬ミン怒涛の3連発に続くのは、みながわ最高顧問との演歌談義で盛り上がった八代亜紀だ。とは言ってももちろん演歌のレコードではない。冬ミンのは “演歌の歌手がJ-POP の名曲を歌う” という企画だったが、アッキーナ(笑)の方は持ち前のハスキー・ヴォイスを活かしてジャズのスタンダードを歌ったライヴ盤。どことなく同じハスキー系ヴォーカルの青江三奈がジャズを歌った「ザ・シャドウ・オブ・ラヴ」や「パッション・ミナ・イン・NY」に相通じるものを感じさせるアルバムだ。
 八代亜紀というと演歌一筋というイメージが強く、ジャズというと意外に聞こえるかもしれないが、彼女のルーツを知れば意外どころかむしろ必然というか、やっと出たか... という感じすらする。実は彼女は幼い頃自分のハスキー・ヴォイスに若干のコンプレックスを持っていたらしいのだが、ある時父親が買ってきたジュリー・ロンドンのレコードを聴いてその歌声に憧れ、自分も歌手になろうと決意して熊本から上京、レコード・デビューする前はクラブ・シンガーとしてジャズやポップスを歌っていたというのだ。
 又、当時流行っていたボサノヴァも大好きだったらしく、 “10代の頃は歩きながらボッサのリズムを練習していた” と語っているのを聞いたことがある。彼女の歌唱法は演歌独特の “クサさ” が希薄で凡百の演歌歌手とは激しく一線を画すソフィスティケーションを感じさせるのだが、演歌が苦手な私でも彼女の歌は抵抗なく聞けるというのはそのあたりに理由があるのかもしれない。
 そんな彼女にとっての “人生を変えた曲” がジュリー・ロンドンが歌う「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」で、最近はテレビでもステージでも事あるごとにこの曲を歌っているようだ。中でも一番印象に残っているのが「ミューズの晩餐」というテレビ番組に出演した時のもので、ヴァイオリンとのコラボでリズミカルに歌っている姿を見てビックリ(゜o゜)  ジュリー・ロンドンからの影響を随所に感じさせながらもそれを見事に消化し、彼女独自のスタイルで歌いこなしているところが凄い。
八代亜紀 - Fly Me To The Moon


 そんな彼女がデビュー27年目にして初めてリリースしたジャズ・アルバムがこの「八代亜紀と素敵な紳士の音楽会 ~LIVE IN QUEST~」。1997年に原宿のクエストホールで行われたワンナイト・コンサートのライブ盤で、世良譲(p)、水橋孝(b)、ジョージ川口(ds)に北村英治(cl)という豪華なメンツをバックに、クラブ・シンガー出身の彼女がジャズのスタンダード・ナンバーを生き生きと歌っている。
 そもそも演歌とは何の接点のない私がこの盤の存在を知ったのは、アマゾンの曲目検索で大好きなスタンダード・ナンバーの入っている盤を色々調べていたのがきっかけで、⑥「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」と⑫「バイ・ミア・ビスト・ドゥ・シェーン(素敵なあなた)」という超愛聴曲が2曲もこの盤に入っているのを発見して大コーフン(^o^)丿  八代亜紀のハスキーな声ならきっとカッコ良いジャズ・ヴォーカルになってるだろうと確信して即買いしたのだが、期待を裏切らない素晴らしい内容だ。
 まずは⑥だが、 “ニューヨークの青江三奈” の異名を取るヘレン・メリルの名唱で知られるこの曲をハスキーな歌声が売りの八代亜紀が歌うのだからこれ以上の選曲はないだろう。バックの演奏も秀逸で、百戦錬磨のベテランらしいツボを心得たプレイの連発には唸ってしまう。欲を言えば水橋孝のベース・ソロのパートをもっと迫力ある野太い音で録って欲しかった気もするが、コレばっかりはしゃあないか...(>_<)
You'd Be So Nice To Come Home To


 ⑫は薬師丸ひろ子の映画「メインテーマ」の中で桃井かおりが歌っているのを聴いてその哀愁のジューイッシュ・メロディの虜になり、それ以来アンドリュース・シスターズやマーサ・ティルトンを始めとしてこの曲の名演はすべて手に入れると心に決めているのだが、この八代亜紀ヴァージョンも聴き応え十分で、元クラブ・シンガーという経歴に偽りナシのジャジーな歌唱が楽しめる。知らない人が聴いたら絶対に演歌歌手だとは分からないのではないだろうか?
Bei Mir Bist Du Schon


 ⑥⑫と並んで気に入っているのが⑩「荒城の月」だ。ジャズ・ファンにはセロニアス・モンクの名演でお馴染みの曲だが、ここでも瀧廉太郎の名曲が見事にジャズ化されており、1分15秒を過ぎたあたりからのスインギーな展開がめちゃくちゃカッコイイ(≧▽≦) 歌心溢れる北村英治のソロ、変幻自在にヴォーカルにからみつく世良譲のオブリガート、そして貫録十分のアッキーナのヴォーカルと、絵に描いたような名曲名演に仕上がっている。
 又、②「雨の慕情」や⑪「舟歌」といった彼女の持ち歌もジャジーなアレンジで一味違う仕上がりになっており、ジャズ・ヴォーカルを愛する人なら気に入ること間違いなし。久々にジャズを歌うということでテンションが上がっているのか、ちょっとはしゃぎ過ぎな面もあるが、スタンダード・ナンバーを歌うのが楽しくって仕方がないという様子がヒシヒシと伝わってきて好感が持てる。 “演歌歌手のジャズ・ヴォーカル・アルバムなんて...” と聞かず嫌いを決め込むと損をする、八代亜紀の魅力爆発のカッコイイ1枚だ。
荒城の月
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Love Songs Ⅰ ~また君に恋してる~ / 坂本冬美

2012-08-26 | J-Rock/Pop
 今日もまたまた冬ミンだ(^.^) 前回取り上げたのは「Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~」というアルバムだが、Ⅱがあるということは当然Ⅰが存在するはず。ということで調べてみて見つけたのがこの「Love Songs Ⅰ ~また君に恋してる~」という盤だ。収録曲は、①「また君に恋してる」(ビリー・バンバン)、②「恋しくて(BEGIN)、③「あの日にかえりたい」(荒井由実)、④「会いたい」(沢田知可子)、⑤「言葉にできない」(オフコース)、⑥「恋」(松山千春)、⑦「夏をあきらめて」(サザンオールスターズ)、⑧「シルエット・ロマンス」(大橋純子)、⑨「片想い」(浜田省吾)、⑩「なごり雪」(イルカ)、⑪「時の過ぎゆくままに」(沢田研二)、⑫「大阪で生まれた女」(BORO)、⑬「また君に恋してる」(ビリー・バンバンとのデュエット・ヴァージョン)で、Ⅱと同様70~80年代の邦楽から選曲されているが、Ⅱのように “冬” を意識したコンセプトではない。
 曲目を見てまず思ったのは、Ⅱに比べて知ってる曲が少ないなぁ、ということ。原曲を知っていたのは③⑦⑧⑩⑪⑫の6曲のみというお寒い状況で、実際、①のビリー・バンバンや⑨の浜田省吾は名前だけは知っていても曲は聴いたことがなかったし(←邦楽は結構このパターンが多いな...)、②のBEGIN や④の沢田知可子に至っては名前すら知らない。しかも嫌いなオフコースや松山千春の曲まで入っているということでⅡほど親近感が湧かず、私はこの CD を買うかどうか迷っていた。
 しかし、しかしである。③の「あの日にかえりたい」を試聴してそんな迷いは木端微塵に吹き飛んだ。ユーミンが “ニュー・ミュージック(←懐かしいなぁこの言葉!)の旗手” として大ブレイクするきっかけとなった名曲を、何とクール&ライトなジャズ・アレンジで、演歌出身の冬ミンが歌っているのだ! まさに大胆不敵としか言いようがない発想だが、コブシを完全に封印し、大仰に感情を込めるのではなく一見サラッと軽く流して歌っているように思わせながらそのコトバの響きの中に儚さを滲ませていくという冬ミン唱法がジャジーなアレンジと絶妙にマッチ、あらゆる要素が音楽的かつ有機的に結びついてオリジナルとはまた違った世界観を作り上げているところが凄い。歌伴のお手本のような粋なピアノ、ボッサなギター、そしてムード満点のサックスをバックにユーミンを歌う冬ミン... ハッキリ言ってこの1曲のためだけにアルバムを買ってもいいぐらいカッコ良いカヴァーだ。
坂本冬美 あの日にかえりたい


 ユーミン以外で興味を引かれたのが⑦のサザンや⑪のジュリーのカヴァーだったが、どちらもアレンジがイマイチ好きになれない。⑦はゴテゴテ飾りすぎていてせっかくの彼女の歌声を邪魔しているように感じるし、⑪はウェットな色合いがちょっと濃すぎるように思える。この2曲はあれこれ策を弄さずにもっと原曲に近いシンプル&ストレートなアレンジで聴いてみたかった。
 そんなこんなで私が③に次いで気に入ったのが⑧の「シルエット・ロマンス」だ。圧倒的な歌唱力で歌い上げたこの冬ミン・ヴァージョンは原曲である大橋純子ヴァージョンや作者の来生たかおヴァージョンを遥かに凌駕する素晴らしさで、彼女の歌唱は曲の髄まで引き出す表現レベルにまで達しているように思う。その官能的と言ってもいいぐらい艶やかな歌声は実に瑞々しい響きで、サビの “もっと ロマンス 私に仕掛けてきて~♪”のラインなんかもうゾクゾクするぐらいのリアリティーを感じさせる。坂本冬美の魅力ここに極まれり!と言いたくなる絶品カヴァーだ。
シルエット・ロマンスー坂本冬美


 アルバム・タイトル曲の①「また君に恋してる」も素晴らしい。この曲のオリジナルはビリー・バンバンで “いいちこ” という焼酎のテレビCMソングとして使われていたが、旋律はキング・クリムゾンの「ムーンチャイルド」そのまんまやし脆弱なヴォーカルも自分の好みとはかけ離れているしでいまいちピンとこなかった。しかしこの冬ミン・ヴァージョンは凄い、いや凄すぎる!!! 彼女の力強い歌声が持つ凄まじいまでの吸引力によってロバート・フリップもビックリの出藍の誉れ高き「ムーン...」じゃなかった、「また君」へと昇華されており、初めて聴いた時は大袈裟ではなく魂を揺さぶられるような感じがした。
 この曲はシングルカットされてアルバムと共にヒットチャートのトップ3入りを果たすなど、演歌系歌手としては異例の大ヒットを記録したのだが、それを受けて彼女は「すべて清志郎さんのおかげです。20年前、駆け出しの私に “一緒に歌おう” と声をかけて下さった。おかげで歌手としての幅が広がり、今の私があるんです。」とインタビューで語っている。 SMI や HIS での経験が見事に実を結んだこの「Love Songs」シリーズ、これからもどんどん続編を出してもらって彼女の歌声で数々の名曲たちに新たな生命を吹き込んでほしいものだ。
2010/10/30 23:31 「 また君に恋してる」【HD】PV


【おまけ】J-POP にメタル魂を注入して新解釈で聴かせてくれるのがこの人、マーティ・フリードマン。「また君」は12分を過ぎたあたりからで、エモーショナルの一言に尽きるプレイが圧巻です!
MARTY FRIEDMAN ライヴ(天城越え~また君に恋してる)
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Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~ / 坂本冬美

2012-08-23 | J-Rock/Pop
 坂本冬美のアルバム「Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~」は元々「さらばシベリア鉄道」目当てで買ったのだが、他の曲も聴き所が満載でアルバムを一気通聴してみて彼女の歌声の魅力にすっかりハマってしまった。収録曲は、①「安奈」(甲斐バンド)、②「哀愁のカサブランカ」(郷ひろみ)、③「ずっとあなたが好きでした」(坂本冬美・新曲)、④「白い冬」(ふきのとう)、⑤「さらばシベリア鉄道」(太田裕美)、⑥「オリビアを聴きながら」(杏里)、⑦「ひとり上手」(中島みゆき)、⑧「想い出まくら」(小坂恭子)、⑨「神田川」(かぐや姫)、⑩「ワインレッドの心」(安全地帯)、⑪「さよなら」(オフコース)、⑫「クリスマス・イブ」(山下達郎)と、新曲③以外は超有名曲ばかりだ。
 オリジナル・シンガーの印象が強いこれらの曲を選んで1枚のカヴァー・アルバムを作るなんて普通なら無謀な企画だと思うのだが、彼女はシンガーとしての抜群のセンスと表現力で1曲1曲を丁寧に歌い込み、原曲を知らない人が聴けば彼女のオリジナル曲と思ってしまうかもしれないぐらい見事なカヴァー・アルバムに仕上げている。とにかく全ての曲が “坂本冬美の歌” として屹立しているところが凄い!!! 
 彼女が一番得意とするのはやはり女性シンガー・オリジナルの “じっくり歌い込み系” バラッドだろう。このアルバムでも杏里の⑥や小坂恭子の⑧という J-POP のスタンダード・ナンバーに新たに魂を吹き込むかのように力強い歌声を聴かせてくれるのだが(←かすかにコブシが入ってるところはご愛嬌…)、それらは彼女のキャリアを考えればあくまでも想定の範囲内。このアルバムで最も感銘を受けたのは彼女が歌う “ミディアム~アップテンポなポップス系” のナンバーで、その代表格と言えるのが前回取り上げた⑤「さらシベ」、そして⑦の「ひとり上手」である。
 この曲は数ある中島みゆき作品の中でも三指に入る愛聴曲で、日本人の心の琴線をビンビン震わせるその旋律はまさにみゆき・ナンバーの王道というべきものなのだが、そんな哀愁舞い散る名曲を坂本冬美がその艶のある伸びやかな歌声で聴かせてくれるのだ。そのしっとりとした質感はまさに絶品と言ってよく、女心を切なく坂本冬美流に表現して歌うくだりなんてもう鳥肌モノの素晴らしさ(≧▽≦)  この曲の、そして坂本冬美の素晴らしさが分かる日本人に生まれて良かったなぁ...と思わせてくれるキラー・チューンだ。
「ひとり上手」坂本冬美


 収録曲の半数以上が男性シンガーの曲というのもこのアルバムの興味深いところで、女性の歌声で女性の視点から歌われるこれらのナンバーは実に新鮮に響くのだが、そんな中で特に気に入ったのが甲斐バンドの名曲①「安奈」だ。演歌の世界で鍛え上げられたそのきめ細やかな表現力は特筆モノで、歌詞をしっかりと歌いながらそのコトバの端々に情感を滲ませていく歌唱法はさながら “日本のペギー・リー” だ。この曲でも主人公の孤独感、そして愛する人への想いがビンビン伝わってくるし、その歌声の向こうに立ち上る冬景色も実にリアル。 B'z「いつメリ」の “恋するハニカミ!ヴァージョン” を想わせる鈴の音もそんな冬景色に彩りを添えている。
「安奈」坂本冬美


 郷ひろみをカヴァーした②もめっちゃ好き(^o^)丿 彼女が他のシンガーと決定的に違うのはその歌声の中に漂うそこはかとない色気だと思うのだが、この曲でも彼女独特の儚いビブラート唱法が絶妙な味わいを醸し出しており、もう官能的と言ってもいいぐらいの抗し難い魅力で聴く者を坂本冬美ワールドへと誘う。それはバーティー・ヒギンズとも郷ひろみとも明らかに違う彼女独自の歌世界であり、彼女のスタンダード・シンガーとしての奥深さを感じさせる名唱だ。
 忌野清志郎が惚れ込んだその資質を見事に開花させ、新境地を切り開いた坂本冬美。演歌とはまた違った彼女の魅力が堪能できるこの CD は、どうせ演歌の歌手だからといって聴かずにいると絶対に損をする、邦楽スタンダード・カヴァー・アルバムの金字塔だ。
「哀愁のカサブランカ」坂本冬美
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さらばシベリア鉄道 / 坂本冬美

2012-08-19 | J-Rock/Pop
 「さらシベ」特集もいよいよ最終回。高校生の時に初めて裕美ヴァージョンを聴いて以来の超愛聴曲なので気に入ったカヴァーに出会ったら必ず買うようにはしていたが、今回特集をするにあたって見落としがないか調べていたところ、この夏最大の収穫といえる1枚に巡り合うことができた。きっかけを作って下さったみながわさんには足を向けて寝れないが、その1枚というのが何を隠そう坂本冬美の「Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~」である。
 坂本冬美といえば世間一般のイメージとしては “バリバリの演歌歌手” だろう。私は昔から演歌が大の苦手で、大好きなちあきなおみ姐さんですら演歌を歌った(歌わされた?)盤は聴く気がしないし、美空ひばりも同様だ。私はロックンロールの “グルーヴ” やジャズの “スイング” のように思わず身体が揺れるようなノリノリ感覚を楽しみたいがために音楽を聴いている人間なので、自分の身体感覚とはまったく異質な演歌の “コブシ” は生理的に受け付けないのだ。だから私の脳内では “演歌歌手 = コブシ = 絶対無理” という短絡的な思考回路が形成されていた。
 そんな私の “演歌歌手に対する偏見” を木端微塵に打ち砕いたのが他ならぬ坂本冬美だった。何年か前に大好きな「デイドリーム・ビリーバー」のカヴァーを色々探していた時にたまたま YouTube で彼女が忌野清志郎や三宅伸治らと共演しているライヴ映像を発見、目からウロコとはまさにこのことで、彼女の歌う「デイドリーム・ビリーバー」を聴いて演歌臭を微塵も感じさせずにポップスも楽々と歌いこなすその懐の深さに “優れた歌手にはジャンル分けなんか無意味” なんだということを再認識させられたのだ。
SMI 忌野清志郎 坂本冬美 デイドリームビリーバー


 これはエライコッチャと色々調べてみると、我が愛聴盤である RCサクセションの「カバーズ」には参加してるわ、清志郎や細野晴臣らと結成した HIS というユニットではビートルズの「アンド・アイ・ラヴ・ハー」を日本語カヴァーしてるわで(←その後、ビートルズ・カヴァー・コンピ盤「ラヴ・ラヴ・ラヴ」にて英語詞でもカヴァー!)、演歌というジャンルにとらわれない幅広~い活動をしてきた人なのだと判明、その時から私は彼女に一目も二目も置くようになった。
And I Love Her / HIS (1991)


 ということで凡百の演歌歌手によるカヴァーなら目もくれずにスルーするところだが、何と言っても坂本冬美である。彼女の歌う「さらシベ」って一体どんなんだろうと興味をかき立てられ早速試聴してみると、この曲は言うに及ばず、他のカヴァー曲も心に沁みる名唱ばかりでめちゃくちゃ良いではないか!!! 私は迷わず買いを決めた。
 このアルバムは全12曲収録、 “冬に聴きたいラヴ・ソング” というコンセプトで1970年代半ばから1980年代初め頃までのヒット曲の中から選曲されたカヴァー集で、そのほとんどはリアルタイムで聴いて知っている曲ばかりだ。そんな名曲ぞろいの中でもダントツに気に入ったのがアップテンポで軽快に歌われる⑤「さらばシベリア鉄道」で、先の「デイドリーム・ビリーバー」の時と同様に過剰なコブシを封印しながら一つ一つの言葉に気持ちを込めて大切に歌っており、スケールの大きなスタンダード・シンガーとしての彼女の巧さを堪能できるカヴァーになっている。その圧倒的な歌唱力で主人公の微細な心のひだひだまで捉えてリアルに描写した坂本冬美の「さらシベ」、 “うた” の原点に立ち返ってじっくりと耳を傾けたい珠玉の逸品だ。
さらばシベリア鉄道 坂本冬美
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アキラのさらばシベリア鉄道 / 小林旭

2012-08-16 | J-Rock/Pop
 「さらシベ」特集第3弾は私が愛聴している超個性派3連発です。

①小林旭
 そもそも今回の特集を思いついたきっかけというのが最高顧問のみながわさんに教えていただいたこの “マイトガイ・ヴァージョン”。恥ずかしながらその存在すら知らなかった私は早速 YouTube で試聴してみてその超個性的な節回しにブッ飛んだ(゜o゜)  オリジナルがナンボのモンじゃいとばかりにアッパレなまでの強引さで自由奔放に歌いまくる “アキラ・ワールド” が全開で、私のように骨の髄まで裕美ヴァージョンが沁みこんでいるリスナーは初めのうちはその豪快な譜割りに強烈な違和感を覚えるかもしれないが、何度も繰り返し聞くうちに、その潔いまでの “オレ流” 歌唱からダイレクトに伝わってくる熱き心に圧倒されるだろう。これこそまさに “アキラの” ザ・ワン・アンド・オンリーな「さらシベ」なのだ。
小林旭 「アキラのさらばシベリア鉄道」 /雪彷徨5


②ザ・ムスタングス
 フィンランドのエレキ・インスト・バンド、ムスタングスはこの曲を何度かレコーディングしているが、「ロック・ミー・フェンダー」収録ヴァージョンはベースが張り切りすぎでバランスがイマイチだし、「ペレストロイカ」収録ヴァージョンはドラムスが少々バタつき気味。私が愛聴しているのはこれらのスタジオ録音テイクを更に高速化したような「ライヴ・イン・ジャパン」収録のヴァージョンで、同じ北欧エレキの先輩格であるザ・サウンズ直系のイケイケの演奏は痛快そのもの(≧▽≦)  細かいことに拘らずにノリ一発で押しまくるノルディック・エレキ・サウンドが全開で、そんな彼らのプレイが気に入った大瀧師匠がリード・ギタリストのマッチ・ルータラに「フィヨルドの少女」への参加を依頼したというエピソードも納得のカッコ良いカヴァーになっている。
Siberia


③KAYO
 何年か前にアマゾンの曲名検索(←めっちゃ便利やったのに何でなくなったんやろ...?)で偶然見つけたのがこの KAYO という女性シンガーのミニ・アルバム「三つ編みヒロイン」。ディーヴォを信奉するポリシックスというシンセ・ポップ・バンドの元メンバーということで、シンセを駆使した打ち込み系デジタル・ビートが支配するサウンドをバックに彼女の透明感溢れるクールな歌声が楽しめる。どちらかと言うとシンセサイザーの音が苦手な私がコレを愛聴しているのも、ひとえにこの曲の旋律が持つ強烈な吸引力と原曲の疾走感を巧く活かしたポップ・センス抜群のアレンジ、そして正統派ガールズ・ポップ・シンガーとしての彼女の魅力によるところが大きいと思う。まさに21世紀型「さらシベ」であり、時代は変わろうとも名曲はこうやって歌い継がれていくのだなぁと実感した。
KAYO - saraba shiberia tetsudou 『さらばシベリア鉄道』
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さらばシベリア鉄道 / 大瀧詠一

2012-08-13 | J-Rock/Pop
 「さらばシベリア鉄道」特集の第2弾は早くもご本尊の登場だ。この曲の私的№1は何と言ってもリアルタイムでの衝撃が強かった太田裕美ヴァージョンなのだが、「ロンバケ」に収録された大瀧師匠によるセルフ・カヴァーも負けず劣らず素晴らしい。私がこの大瀧ヴァージョンを聴いたのはかなり後になってからだったこともあって最初は裕美ヴァージョンとの微妙な違いに少々戸惑ったが、繰り返し聴くうちにジワジワとその面白さが分かってきて “コレはエエわ(^o^)丿” と大いに納得、 “ドラマチックに歌い上げる感” が圧巻の裕美ヴァージョンとはまた違った魅力、すなわち抑制の効いたヴォーカルで寒風吹きすさぶシベリアの雪景色を連想させる大瀧ヴァージョンの素晴らしさに瞠目したのだった。
 私が大瀧師匠を心底凄いと思うのは、この曲を作ったこともさることながら、そんな自作曲の魅力を極限まで引き出す見事な器楽アレンジを施した点で、細部に至るまで凛とした雰囲気が横溢、まさに完璧と言ってもいいぐらいにピッタリとキマッているところに彼の天才を感じるのだ。裕美ヴァージョンも彼が渡したデモテープのインスト・アレンジがベースになっているというし、カヴァーするアーティストの多くもこの大瀧ヴァージョンのアレンジを踏襲しており、この曲はもうコレ以外考えられない!と断言したくなるぐらいの名アレンジだと思う。そういう意味ではエレキな歌心に涙ちょちょぎれる「スノー・タイム」収録のインスト・ヴァージョンも必聴だろう。
大瀧詠一 / 哀愁のさらばシベリア鉄道(SIBERIA) [インスト]


 話はちょっと逸れるが、この大瀧アレンジが神であることを逆説的に証明してしまったのが女性アーティストによるトリビュート盤「ア・ロング・バケーション・フロム・レイディーズ」収録の鈴木祥子ヴァージョンで、ゆるんだゴムひものようなヘタレなアレンジには正直ガッカリ(>_<) ヴォーカルが悪くないだけに余計に薄っぺらいバックの演奏との落差が浮き彫りになっており、せっかくの名曲が拷問に耐えているように響く。このアルバムはジャケットに魅かれて興味を持ったものの、 YouTube で試聴して一気に買う気が失せてしまった。「ロンバケ」ファンでこんなかったるいサウンド↓を好む人が果たしているのだろうか?
さらばシベリア鉄道 鈴木祥子


 話を大瀧ヴァージョンに戻そう。私が特に気に入っているのはロシア民謡も裸足で逃げ出しそうなその哀愁舞い散るメロディーをポップに料理しながらもピンと張り詰めた様な緊張感を保っているところで、風雲急を告げるようなイントロから始まって、様々な楽器が一体となって醸し出すドライヴ感が音楽を前へ前へと押し進めていく様は言葉に出来ない素晴らしさだし、何と言っても中間部の転調が最高にカッコイイ! ここでシフトアップしてエンジン全開、エンディングまで一気呵成に突っ走る感じがたまらんたまらん(≧▽≦)
 そんな名アレンジのバックの演奏と絶妙に溶け合った師匠のヴェルヴェット・ヴォイスもめっちゃエエ感じで、完璧にコントロールされたその歌声がメロウで気怠い雰囲気を巧く醸し出しているし、シベリアの澄んだ空気を想わせるクリアな音色のサウンドはこのクソ暑い季節に聴いても実に心地良く納涼効果も満点だ。この「さらばシベリア鉄道」という曲は日本が世界に誇るポップス職人、大瀧詠一が生んだ世紀の大傑作だと思う。
さらばシベリア鉄道/大瀧詠一【歌詞付】
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さらばシベリア鉄道 / 太田裕美

2012-08-11 | J-Rock/Pop
 「夢で逢えたら」の次は「さらばシベリア鉄道」だ。この曲は元々大瀧詠一がJohn Leyton の「Johnny Remember Me」(1961年)にインスパイアされて作ったもので、確かに全体的な雰囲気も細部のメロディー進行もよく似ている。更に The Tornados の「Ridin' The Wind」(1963年)の影響も強く感じさせるし、間奏部のギター・ソロなんかもスプートニクスのボー・ウィンバーグを想わせる北欧系だ。これら60'sポップスのエッセンスを絶妙なセンスで再構築し、元ネタ曲(?)を遥かに凌駕する大名曲を生み出した大瀧詠一おそるべしである。
Johnny Remember Me - John Leyton 霧の中のジョニー

RIDIN' THE WIND - THE TORNADOS


 しかし彼自身がレコーディングしていた時にこの曲は女性向きではないかと感じ、太田裕美に提供することになったらしい。結局、彼女のヴァージョンはヒットしなかったものの、その後大瀧師匠がアルバム「ロング・バケーション」でセルフ・カヴァーしたことにより世間一般の認知度が大きくアップ、「夢逢え」同様に J-POPのスタンダード曲として様々なカヴァー・ヴァージョンが作られることになったのだ。ということで特集の第1回は数ある「さらシベ」の中でも私が最高峰と信ずる太田裕美のヴァージョンを取り上げよう。
 「木綿のハンカチーフ」を聴いて彼女の大ファンになった私はそれ以降も「九月の雨」や「恋人たちの100の偽り」、「ドール」に「南風」と、舌っ足らずで愛らしい彼女の歌声に萌えまくっていたのだが(笑)、この曲を初めて聴いた時はそれまでの萌え路線ポップス(?)という次元を遥かに超越した緊張感漲る歌と演奏に大感激!!! その衝撃度はあの「木綿」をも凌駕するもので、疾走感溢れる流麗なメロディーにすっかり心を奪われてしまった。
 作詞は「木綿」と同じ松本隆で、女性の想いと男性の想いが交互に歌われるという一種の対話形式を取り入れている点も共通している。今回は男性からのプロポーズを待ち続けてついに待ちきれなくなり遠くシベリアへと傷心の旅に出てしまった女性と、自分の想いをハッキリと言葉で伝えられなかったせいで彼女を失い日本に残された男性が、一緒に過ごしていた時に相手に言えなかった想いをお互いに語りかけているという内容で、二人の微妙な心の綾を見事に描き切った歌詞が圧倒的に素晴らしい。特に “独りで決めた別れを責める言葉探して 不意に北の空を追う~♪” オトコの気持ち、痛いほど分かるなぁ...(>_<) それと、私は “君は近視 眼差しを読み取れない♪” の “近視” が聞き取れずに長いこと “厳しい眼差し” だと思い込んでいたのだが(←恥)、日本語の流れからすればここは “眼差し” を前置修飾する形容詞の方が自然だと感じるのは私だけかな?
 歌詞に負けず劣らずバックの演奏も文句なしに素晴らしい。聴く者の想像力をかきたてるような細やかな器楽アレンジが寒風吹きすさぶシベリアの大雪原をイメージさせ、細部に至るまで無駄な音が一つもない見事なオケと彼女の素朴で透明感溢れる歌声が絶妙にマッチして J-POP 史上屈指の名曲名演になっており、私なんか何十回何百回この曲を聴いたかわからないが全然飽きない。だからたとえヒット・チャート上の成績がイマイチでも、私の中で「さらシベ」といえば取りも直さず裕美たんのこのヴァージョンにトドメを刺すのである。
太田裕美 さらばシベリア鉄道

太田裕美さん さらばシベリア鉄道2012版
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メチター / Arahis

2012-08-06 | Cover Songs
 「夢逢え」祭りの最終回は “ロシアのザ・ピーナッツ” といわれる双子姉妹ユニット、アラヒスが日本語とロシア語を織り交ぜて歌う珍しいヴァージョンだ。日本に来るロシアの女性二人組といえばドタキャンやら何やらでお騒がせのタトゥーが真っ先に思い浮かぶが、このアラヒスはあんな話題先行のキワモノ・ユニットとはモノが違う。モスクワの音楽一家で生まれ育ったせいか音感も良く、しっかりした歌唱力を身につけており声もキレイだ。「恋のバカンス」や「恋のフーガ」といった懐かしいザ・ピーナッツの名曲ばかりを現代風アレンジでカヴァーしたデビュー・アルバム「ARAHIS」(2006年)を私は結構気に入り、次はどんな選曲でくるのか大いに楽しみにしていた。
 そんな彼女らのセカンド・アルバムが2007年にリリースされたこの「МЕЧТА(メチター)」で、今度は70年代~80年代初めの日本の女性アーティスト達の名曲をカヴァーしているのだが、その選曲が私の嗜好にピッタリ(^o^)丿  ①「六本木心中」(アン・ルイス)、②「真夏の出来事」(平山三紀)、③「夢で逢えたら」(シリア・ポール)、④「思秋期」(岩崎宏美)、⑤「飛んでイスタンブール」(庄野真代)、⑥「恋人よ」(五輪真弓)という珠玉の6曲が収録されており、昭和歌謡の王道メロディーをその美しいハーモニーで見事に歌い上げているのだ。
 前作同様にこのアルバムでも、歌詞は最初日本語でスタートして途中からロシア語で歌われており、その “日本語からロシア語へと切り替わる瞬間” が一番の聴きどころ。まさに ARAHIS ならではのユニークな世界が展開されており、耳慣れたメロディーと未知の言語との融合によって “懐かしいけど、どことなく新鮮...” という不思議な感覚が楽しめる。
 全6曲の中で一番気に入っているのが③「夢で逢えたら」で、流暢な日本語で歌われる前半部からごく自然な形でロシア語にチェンジ、例の語りの部分もロシア語というのがユニークで面白いし、この曲のお約束とでも言うべきカスタネットのアメアラレ攻撃も嬉しい。
夢で逢えたら


 ③以外では筒美京平先生の②⑤がお気に入り。②はその独特のリズムといいテンポ設定といい、日本人でも歌うのは中々難しいのではないかと思うが、それを20歳そこそこのロシア姉妹が見事に歌いこなしているところが凄い。⑤も同様で、起伏の大きい筒美メロディーをしっかりと捉えて歌っているし、ロシア語のパートなんかもう何の違和感も感じさせないぐらい流麗に歌い切っている。③に続いて在庫一掃セールのようにバックで打ち鳴らされるカスタネットも効果的だ。
真夏の出来事

飛んでイスタンブール


 ①はユーロビートっぽいチープなシンセのイントロが好きになれないが、アン・ルイスが歌謡ロックを極めたこの曲と彼女らとの相性は抜群で、水を得た魚のように日本語とロシア語を駆使してノリノリの歌声を聴かせてくれる。特にたたみ掛けるようなサビの盛り上がりは圧巻だ。これでバリバリのハードロック・アレンジやったら最高やのに...
 スロー・バラッド④⑥は共にかなりの歌唱力を要する楽曲で、所々日本語がぎこちなく響くところはご愛嬌だが、④のユニゾンでハモるパートなんかゾクゾクしてしまうし、情感豊かに歌うロシア語のパートにも耳を奪われる。切々と歌い上げる⑥も心に訴えかけてくるものがあり、言葉は分からなくてもその説得力溢れる歌声には唸ってしまう。
 このアラヒスは今のところ2枚のミニ・アルバムしか出ていないようだが、これだけクオリティーの高い作品を作れるのだから、次はぜひともフル・アルバムを期待したい。「ロシア姉妹、筒美京平を唄う」とか「鈴木邦彦作品集 ~モスクワのハーモニー~」(←パルナスかよ...)みたいなコンポーザー・シリーズなんか面白いと思うねんけど...
思秋期
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夢で逢えたら / シリア・ポール

2012-08-02 | Wall Of Sound
 ロンドンオリンピック TV 観戦による睡眠不足に連日の猛暑も相まって仕事中に何度も意識が飛びそうになる今日この頃、みなさん如何お過ごしですか? 五輪といえば開会式で「ヘイ・ジュード」を熱唱するポール・マッカートニーの雄姿とそれに合わせて会場全体が合唱するシーンに大感激!!! “ヘイ! 柔道” で笑わせて下さった shoppgirl 姐さん(←♪Better better~♪ と歌詞に引っ掛けたハイレベルなダジャレで返すところなんか、さすがは安曇野のダジャレ・クイーン!)もご自身のブログに書かれていたが、オリンピック開会式で聴く「ヘイ・ジュード」は格別だった(≧▽≦)
Paul McCartney at Olympics , Hey Jude


 ということで今日はポールつながりでシリア・ポール(←何という強引な展開...)にしよう。前にも書いたように、私と「夢逢え」との出会いはキリンのワインCMソングとしてTVから流れてきた森丘祥子ヴァージョンで、90年代の間はそれしか聴いたことがなく、まさかこんなに多くの歌手にカヴァーされている J-POP のスタンダード曲だなどとは夢にも思わなかった。もちろん大ヒットした(らしい?)ラッツ&スター・ヴァージョンなど全く記憶にない。
 21世紀に入ってネットで CD やレコードを買い始め、かつて毎週行っていた中古盤屋廻りも週一から月一、そして数ヶ月に一度と激減していったのだが、このシリア・ポール盤を手に入れたのはそんな頃だった。日本橋のディスクJJの CD 棚から微笑みかけているジャケットに魅かれて偶然手に取り、 “シリア・ポールって確か「ポップス・ベスト10」の DJ やってたお姉さんやん...めっちゃ美人やなぁ(^.^)” と鼻の下を伸ばしながら曲目を見ると、大好きな「夢逢え」の色んなミックスのヴァージョンが並んでいる。しかもシフォンズの④「ワン・ファイン・デイ」やジャズ・スタンダードの⑦「ザ・ヴェリー・ソート・オブ・ユー」、そして大好きなナンシー・シナトラの⑨「トゥナイト・ユー・ビロング・トゥ・ミー」までカヴァーしているのだ。これで買わねばポップス・ファンではない。
 今ではこの CD は廃盤になっており、その内容の素晴らしさや希少性も相まってアマゾンやヤフオクでは結構なプレミア付き価格で取り引きされているようだが、当時はまだそんなことはなく、私は1,000円台で買うことができた。話は逸れるが、私はこの “すぐに廃盤→プレミア付きボッタクリ価格で中古が流通” という構図に釈然としないものを感じてしまう人間で、時代を超えて愛され続けるこんな名盤は常に音楽ファンが聴けるようにカタログに残しておくのがレコード会社の責務ではないかと思っている。
 このアルバムは1977年に作られたキュートな王道ガール・ポップの傑作で、大瀧詠一によるウォール・オブ・サウンド全開のプロデュースが冴えわたる「夢で逢えたら」を始めとして胸キュン・ポップスが満載だ。1987年の初 CD 化盤(← CDケースを右側へ開く古いタイプのソニー盤ね)は曲順がオリジナルとは全然違うし、ストリングスによるインスト・ヴァージョンもカットされていたが、私が買ったのは1997年に CD 選書としてリリースされた再発盤。'87年盤をオリジナル通りの曲順に戻して全曲最リミックスを施し、更に「夢逢え」の3ヴァージョンを含むボートラが6曲も入り、大瀧氏の詳細なライナーノーツまで付いているという超お徳用盤である。
 ということでこの再発盤には「夢で逢えたら」がインストも含めれば5ヴァージョンも収められていることになる。①の “アルバム・ヴァージョン” がエコー強めなのに対し⑬の “シングル・ヴァージョン” はエコーが少なく感じられるのだが、これは大瀧氏の解説によるとラジオのオンエアーを想定して歌を際立たせるためにエコーを控え目にしたからとのこと。因みに⑭の “モノ・ヴァージョン” と⑮の “モノ・トラックス・オンリー” はこの ⑬“シングル・ヴァージョン” をモノ・ミックスにしたものだ。⑫の「夢で逢えたら、もう一度」は山下達郎のストリングス・アレンジをフィーチャーしたインスト・ヴァージョンで LPではB面ラストに置かれていたが、この “もう一度” というのは「ペパーズ」や「ラム」における “リプリーズ” みたいな位置付けなのだろう。
 まぁステレオであれモノであれ、ミックスは違えどシリア・ポールが歌う「夢逢え」こそがこの曲の最高峰であることは言うまでもない。時系列に従って考えればオリジナルは吉田美奈子ということになるが、世間的な認知は “シリア・ポールの曲” ということになるのではないか? とにかく恋する女性の気持ちをこれ以上ないぐらいストレートに表現した彼女のキュートな歌声がこの曲にピッタリ合っているし、何と言っても2分8秒から挿入される語りの部分 “もしも もしも 逢えたなら その時は力いっぱい 私を抱きしめてね... お願い...” における “お願い” の色っぽさがたまらない(≧▽≦) フニュフニャと腰砕け状態になっているところへ畳み掛けるように爆裂するハル・ブレイン直系ドラム(2分25秒)にもシビレてしまう。まさに日本人が作ったウォール・オブ・サウンドによるガール・ポップの魅力ここに極まれりという瞬間だ。
 「夢逢え」以外の曲では、クリスタルズの「オー・イェー・メイビ・ベイビー」を裏返しにした様な②「恋はメレンゲ」やドリーミーなガール・ポップ⑥「こんな時」といった大瀧氏のオリジナル曲も良いが、何と言ってもナンシー・シナトラの⑨「トゥナイト・ユー・ビロング・トゥ・ミー」(←「イチゴの片想い」という邦題で有名)やフィル・スペクターが在籍していたテディー・ベアーズの⑩「オー・ホワイ」といったカヴァーが最高だ。⑨⑩共に絶妙な音壁処理(?)によってロマンティックなムード満点の胸キュン・ポップスに仕上がっており、アルバムの隅々にまでスペクターな薫りが立ち込めているのが嬉しい。
 フィル・スペクターを意識したサウンド・プロダクションの面だけでなく、メロディー・タイプの曲だけを集めたアルバム作りという面でも4年後に発表されることになる名盤「ロング・バケーション」への伏線となったシリア・ポールのこのアルバム、リリースから35年の時を経た今でもその輝きを失わないエヴァーグリーンな1枚だ。
夢で逢えたら / シリア・ポール (アルバムバージョン)

夢で逢えたら、もう一度.wmv

Tonight You Belong To Me シリア・ポール

Oh Why-シリア・ポール(Celia Paul)
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