shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Midnight Blue / Kenny Burrell

2009-06-30 | Jazz
 どんな楽器にもいえることだと思うが、達人といわれるプレイヤーは他のミュージシャンがどんなに頑張っても出せない彼ら独特の音を持っている。他のギタリストがエディー・ヴァン・ヘイレンと同じギターで同じチューニングをしても、どうしてもあの音が出せないと語っていたのを何かの記事で読んだことがあるのだが、要するに表面的な音像を真似ることはできても、人間の持つ “体内リズム” に起因する “間” や “タメ” をコピーすることは不可能ということだろう。世界中に無数に存在するゼッペリンのコピー・バンドがどうしてもジミー・ペイジやジョン・ボーナム独特の “間” を再現できずに四苦八苦しているのを見ればよく分かる。この何分の一かの “タイミングのズレ” によって聴き手に与える印象がガラリと変わってしまうのだ。特にヴォーカルを入れないインスト中心のジャズにおいてはこれが演奏の出来を左右する重要な要素になってくる。黒人ミュージシャン特有のタイミングの粘りが高いテンションを作り上げ、いわゆる “揺れるようなブルース感覚” を生むのだろう。
 私がジャズを聴き始めて最初にハマッたミュージシャンはケニー・バレルというギタリストだった。華やかなサックスや日本人の大好きなピアノに比べると、ギターというのはジャズ・コンボの中では比較的地味な楽器と言えるのだが、この楽器はバレルの手にかかると水を得た魚のように活き活きとした音を発し、自由闊達に歌い始める。彼のプレイはアーシーなドライヴ感に溢れ、フロントのホーン陣と渡り合えるだけの力強さを兼ね備えているのだが、何よりも彼のプレイを特徴づけているのはそのハードボイルドなギターの音色であり、ジャジーなセンス溢れるコード・ワークなのである。そのブルース・フィーリングに根ざしたセンス溢れるプレイは唯一無比で、ブラインドをやってもすぐにバレる(笑)ぐらい個性的なサウンドなのだ。そんな彼の “都会的なブルース感覚” が最も顕著に表れたアルバムが63年にブルーノート・レーベルからリリースされた「ミッドナイト・ブルー」である。
 ギター、ベース、ドラムスというピアノレス・トリオにコンガが加わったカルテットに、曲によってはスタンリー・タレンタインのまっ黒けなテナーをフィーチャーしたサウンドはまさに深夜の大都会、それも世俗的な猥雑さと洗練されたクールネスというアンビバレンスが似合う街、ニューヨークの夜をイメージさせる。特にアルバム・タイトル曲の④「ミッドナイト・ブルー」はテナー抜きのベーシックな編成のため、彼のギターの魅力を思う存分堪能できる仕掛けになっており、ブルージーなフィーリングをモロに表出せずにアーバン感覚溢れるセンスの良い語り口に昇華させてしまうバレルのプレイが最高にカッコイイ。これはもう、ほとんどハンフリー・ボガードの世界である。サウンド面ではコンガが意外なほど効いており、全編を支配している軽快なスイング感がたまらない(≧▽≦) 
 それ以外の曲も絵に描いたようなカッコ良いモダン・ジャズのオンパレードで、クリアなタッチで歌心溢れるプレイを聴かせてくれる①「チトリンス・コン・カルネ」、ソフィスティケイトされたソウルフルなプレイが素晴らしい②「ミュール」、バレルの繊細な感覚が存分に発揮された哀愁舞い散る③「ソウル・ラメント」、黒っぽさ全開のアンサンブルの中で聴ける知的でコントロールされたソロに耳が吸い付く⑤「ウェイビー・グレイビー」、俗っぽさの中に人生の哀感を漂わせたようなプレイが渋い⑥「ジー・ベイビー・エイント・アイ・グッド・トゥ・ユー」、バレルが次々と繰り出すアーシーなフレーズが生み出すグルーヴが圧巻の⑦「サタデイ・ナイト・ブルース」と、捨て曲なしの完璧なアルバムなのだ。
 ジャズもロックも元をたどればブルースに行きつくというが、このバレル盤はそんなルーツ回帰サウンドを満喫できるモダン・ジャズ・アルバムの大傑作だ。

Kenny Burrell - Midnight Blue

Michael Jackson's Memorable Performance

2009-06-29 | Rock & Pops (80's)
 今日はマイケル・ジャクソンの偉大なる軌跡を映像で振り返ってみたい。とは言っても「スリラー」や「バッド」、「ビート・イット」のノーマルなビデオ・クリップではなく、グラミー賞を始め、彼が遺した様々なテレビ映像の中から特に印象に残っているものを選んでみた。題して “マイコーお宝映像5連発” だ。

①1995 MTV Video Music Awards
 マイケルのステージはどれもこれもみな凄いのだが、この1995 MTVビデオ・ミュージック・アウォードでのダンス・パフォーマンスは彼のキャリア中ベストの一つに挙げてもいいような素晴らしさで、そのキレのあるシャープな動きは鳥肌モノ。もう神懸かっているとしか言いようがない。ハッキリ言って人間国宝レベルやと思います(≧▽≦)
マイケル・ジャクソン~MTV AWARDS PERFORMANCE


②1993 Grammy Legend Award
 ジャネット・ジャクソンが敬愛する兄マイケルに “グラミー・レジェンド・アウォード” を贈るというこれ以上ないキャスティングに涙ちょちょぎれる。「これで長年の噂に終止符を打てるといいんだけど... 僕とジャネットは別人だよ。」と言って聴衆を笑わせるマイケルが微笑ましい。ジャネットも“スーパースター・ジャネット・ジャクソン” から “普通の妹” に戻っったようで心底嬉しそうだ。彼のスピーチの後半部、特に自らの幼年時代に関する話は聞いていて心が痛むが、子供たちに言及した彼の言葉からは大いなる優しさが伝わってくる。ダンス・シーンこそないが、ファンとしてはこの感動的なスピーチだけでもう十分だ。
Michael Jackson - Grammy Legend (1 of 2)

Michael Jackson - Grammy Legend (2 of 2)


③1993 Superbowl
 アメリカ人にとって最大のイベントと言えばスーパーボウルである。これはもう白人も黒人も関係なくアメリカ人にとっての国民的行事みたいなモンで、アメフトになじみの薄い日本人には到底想像のつかない世界である。その超特大イベントのハーフタイム・ショーで大観衆を熱狂の渦に叩き込むマイケルのカッコ良さにシビレてしまう(≧▽≦) これほど絵になるスーパースターが他にいるだろうか?
Michael Jackson Halftime Super Bowl 1993 Full Show


④2003 BET Awards
 BET(ブラック・エンターテイメント・テレビジョン)アウォードでマイケルが心の師匠ジェイムズ・ブラウンと共演した時の映像。いやはやコレは凄い超お宝映像ですわ(^o^)丿 二人が同じステージで踊るというのも凄いけど、「この人ほど僕に影響を与えた人はいないんだ!」と言って感極まるマイケルがめちゃくちゃ人間くさくてエエわぁ...
James Brown Dies (Tribute w/ Michael Jackson)


⑤2001 Michael Jackson 30th Anniversary Celebration
 21世紀に入ってからのパフォーマンスとしては私の知る限りコレがベスト。マジソン・スクエア・ガーデンが揺れてます(゜o゜) スラッシュもノリノリやし、やっぱりマイケルは何もかもが別格というか、スーパースターのオーラ出まくりですね。このコンサートのDVD出ぇへんかなぁ...
Michael Jackson - Black Or White Live 30th Anniversary HQ


いかがでしたか?こんな凄い人はもう二度と現れないと思います。
Michael Jackson... gone but never forgotten!!!
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The Jacksons Live

2009-06-28 | Rock & Pops (80's)
 マイケルの悲報から一夜明けて、今日は待ちに待ったオフの日なのに気分はどんよりと重い。昨日は「スリラー」や「バッド」を聴いて色々と思い出に浸っていたが、今日は「スリラー」以前のマイケル、つまりジャクソン5時代の「帰ってほしいの」から「オフ・ザ・ウォール」の頃までのソウルフルな歌声を無性に聴きたくなって、一日中ジャクソン5~ジャクソンズ時代の曲を聴いていた。
 ともすればその天才的なダンス・パフォーマンスに注目が集まり、ビデオ・クリップを始めとするヴィジュアル的な側面から語られることの多いマイケルだが、まだMTVなど存在していなかった70年代の作品の数々をガンガン聴きまくって感じたのは、「良い曲」と「彼の声」があればそれで十分だということである。ポップス、ソウル、ディスコ、R&B... たとえどんな外装、つまりサウンド・プロダクションを施そうとも彼が一声発すればそこにはジャンルを超えた “マイケル・ジャクソン” というスペシャルなジャンルが屹立する。よくあるマイケルのモノマネを見ていていつも思うのは例の “雄叫び” や “裏声” は模倣できても彼の歌声の芯の強さだけはどうしても再現できないということ。彼は素晴らしいエンターテイナーでありダンサーである以前に非常に優れたヴォーカリストなのだ。
 「スリラー」以前のマイケルといえば「帰ってほしいの」→「ABC」→「ザ・ラヴ・ユー・セイヴ」→「アイル・ビー・ゼア」という、デビュー作から4作連続全米№1という金字塔を打ち立てた頃にばかり注目が集まりがちでそれ以降は黙殺されているように感じられるのだが、75年のCBS移籍後は楽曲のクオリティーも格段に向上、72~74年頃のいわゆる低迷期の彼らに欠けていた “キャッチーな良い曲” が増え、あの名作「オフ・ザ・ウォール」誕生へとつながっていく。つまり70年代後半のジャクソンズというのはあまり話題に上らないが、マイケル好きにとっては結構オイシイ “宝の山” 的な時期なのだ。
 この「ザ・ジャクソンズ・ライブ」(81年)は80年のツアーの模様を収録した傑作ライブ・アルバム。モータウン時代のクラシックスがメドレーを含めて3曲、CBS時代のヒットが6曲、そして何と「オフ・ザ・ウォール」(79年)から4曲と、実にバランスの取れた選曲で “スリラー以前” のマイケルを一気聴き出来る超お徳用盤なのだ。
 アルバムはツアー時の最新アルバム「トライアンフ」収録のアップテンポなナンバー①「キャン・ユー・フィール・イット」で幕を開ける。長~いイントロに続いてまず他のメンバー(誰かは知らん)のヴォーカルで始まるのだが、何と言ってもマイケルが歌い始める3分4秒あたりが聴き所。それまでのモノクロの音世界がパッと鮮やかなカラーに変わるような瞬間が味わえる。そこが天才マイケルとその他4人の凡才兄弟(失礼!)の決定的な違いなのだ。マイケルが“Can you feel it?”と叫べば思わず“Yeah!!!”と答えたくなるし、“Everybody sing!”と煽れば一緒に歌いたくなる。つまりは説得力がちがうということだ。このツアーの時点で既に数百万枚売り上げていたマイケルのソロ作のタイトル・ナンバー③「オフ・ザ・ウォール」は絵に描いたようなブラック・コンテンポラリー・ミュージックの名曲で、⑬「今夜はドント・ストップ」と共に日本でもスズキのスクーターのCMソングとしてお茶の間にもガンガン流れていた記憶がある。それにしてもCMの映像で彼が見せるあどけない表情を見れば見るほど胸が痛む。この頃のマイケルは何だかんだ言いながらもまだ幸せだったような気がするなぁ...
 ④「ベンのテーマ」でダンス・ナンバーだけでなくスロー・バラッドを歌わせても超一流であることを示した後の⑤「ジス・プレイス・ホテル」は後の大ブレイクを予感させるようなドラマチックな曲想で、ダイナミックなヴォーカルを思う存分味わえる。マイケル屈指の隠れ名曲だ。⑦「あの娘が消えた」はややセンチメンタルに過ぎるというイメージがあったのだが、今日久々に聴いてその絶妙な感情表現に鳥肌が立った。こんな歌を聴かせてくれるのは彼だけだったのに...
 ⑦「ムービー&ラップ」ではステージに「帰ってほしいの」を歌う昔の映像(あの声はエド・サリバン!)が映し出され、ファンが大盛り上がりしているとマイケルが“Stop! Stop!”とそれを止めさせ、 “昔の曲を演ろうという兄弟たちvs新曲を歌いたいマイケル” という構図を作りファンをやきもきさせておいて “じゃあ君達ファンのために歌うよ” とマイケルがモータウン・メドレー⑧に突入していくというお約束の展開ながら、まさにアメリカン・エンターテイメントの王道を行く楽しさが伝わってくる。マイケルの “古いの好きなんだね... じゃあコレはどうだい!” というMCと共に始まる⑨「アイル・ビー・ゼア」にも涙ちょちょぎれる。このあたりはもうマイケルの独壇場で、その歌声に聴き惚れているとマイケルの“I think I wanna rock!” の掛け声と共に始まる⑩「ロック・ウィズ・ユー」のカッコ良さ!続いて⑪「ラヴリー・ワン」、⑫「ワーキン・デイ・アンド・ナイト」、⑬「今夜はドント・ストップ」と疾走感溢れるノリノリのナンバーが続くのだが、このアルバムは最初から最後まで名曲名演のアメアラレで、 “70年代マイケルの集大成” みたいな内容だ。
 81年に出たこのアルバムはそこそこ売れたにもかかわらず翌82年に出た「スリラー」の陰にすっかり隠れてしまい、あまり話題に上ることもない不憫な盤なのだが、内容自体は非常に素晴らしく絶好調のマイケル節が聴けるので、この盤の存在を知らない新しいファンだけでなく、すべてのポップス・ファンに自信を持ってオススメしたい1枚だ。

Michael Jackson on Japanese TVCF "SUZUKI LOVE"


Michael Jackson Suzuki Commercial (両目ウインクに注目!)


The Jacksons - This Place Hotel Live

R.I.P. Michael Jackson

2009-06-27 | Rock & Pops (80's)
 私は平日はいつも6時半に起き、リビングへ下りて行って寝ぼけ眼でテレビをつけ、天気予報を見るのが朝の日課になっている。今朝も眠いのを我慢して “今日1日乗り切ったら長かった1週間が終わる!” と自分に言い聞かせながら「おは朝」(関西朝のローカル番組「おはよう朝日です」のこと)にチャンネルを合わせると、司会の宮根さんから “つい先ほどマイケル・ジャクソンさんが亡くなったとのニュースがアメリカから飛び込んできました” の一言が... えっ?どーゆーこと??? (゜o゜) 私は一瞬何が何だか分からなくなってしまった。これまでも重病説が飛び交うなど、ネットで流されるゴシップには慣れていて気にも留めないが、テレビの、しかも朝の報道番組であの宮根さんが真顔で言っているのを聞いて事の重大性が分かってきた。慌ててネットを開くとヤフー・ニュースに “M.ジャクソンさん死亡と米報道” とあり、この “~と米報道” の部分に一縷の望みをつなぎ、とりあえず仕事に行かねばならない私は後ろ髪を引かれる思いで家を出た。
 しかしそのニュースが気になって仕事どころではなかった私が休憩時間にネットで確認してみると “~と米報道” の部分が消え、代わりに “病院へ搬送されて心停止”“世界中に衝撃!” の文字が目に飛び込んできた。あのマイケルが... 死んだ??? 仲良しの同僚にその事を話すと“知ってるで。朝のニュースでやってたわ。ファラ・フォーセットも亡くなったらしいやん!” と言われ又々ショック...(>_<) ファラ・フォーセットといえば忘れもしない「チャーリーズ・エンジェル」のジル役で活躍した美人女優。当時高校生だった私は彼女の大ファンで、透明下敷きに彼女のグラビアを挟んで悦に入っていたぐらいだ。そんなファラ・フォーセットが62歳で、そしてマイケルは50歳で同じ日にこの世を去ってしまうなんて... (*_*)
 今後しばらくは、やれ死因は何だ、やれ追悼企画だと、心ないマスゴミ連中が大騒ぎするだろう。ホンマ、ええかげんにせえと言いたくなってくる。一時代を築き、多くの人々に喜びと感銘を与え続けた不世出のアーティストに対する感謝とリスペクトの心を持とうではないか!ファン一人一人が彼の残した素晴らしい音楽、偉大なる遺産に耳を傾けながら古き良き80年代に思いを馳せる... それこそが最高の供養というものだろう。
 私は幸いなことにマイケル・ジャクソンと同時代を生き、ポップス界に革命を起こした “スリラー現象” の真っただ中に身を置き、「バッド」も「ムーンウォーカー」も「デンジャラス」もリアルタイムで体験することができた。私にとってギネスの売り上げ記録とかはハッキリ言ってどうでもいい。そんなもの、彼の偉業のオマケみたいなもんで、彼は多くの人々の記憶に残るスーパースターの中のスーパースター(USA・フォー・アフリカの映像を見れば分かります!)、まさにポップス界における唯一無比の存在だった。しかしそんなマイケルももういない。生であの歌声を聴くことも、あのシャープな動きを見ることも、もう出来ないのだ。
 人種差別の激しい国アメリカに黒人として生まれ、幼い頃から生き馬の目を抜くようなショー・ビジネス界で育ち、弱冠25才にしてアルバム売り上げ記録を樹立し、それ以降は常人には想像もつかないような絶大なプレッシャーに耐え、ゴシップ的に格好の標的となって世間の好奇の目に晒され続けたマイケル・ジャクソン... 思えば彼の人生は、その名声や栄光が大きくなればなるほど、それと反比例するかのように彼からごく当たり前の人間らしい生き方を奪い、彼を追い詰め、彼の心を蝕んでいったのだ。今、彼の魂はその肉体を離れて初めて安らぎを得たのではないかと思う。Thanks for all your great music. R.I.P. Michael Jackson.

BILLIE JEANS BEST EVER MOONWALK


Michael Jackson and The Jacksons Motown 25 Performance Part I
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Let It Be Hawaiian Style

2009-06-26 | Beatles Tribute
 ちょうど2年前の今頃だったと思うが、仕事の関係で神戸へ行く用事があった。私は大阪、京都、神戸方面へ出張した時は必ず地元のレコ屋を覗くことにしていて、この時もせっかく神戸まで出てきてそのまま帰るのはもったいないと思い、三宮~元町近辺のレコ屋を数軒廻ってみた。このあたりは昔はいくつかレコ屋があったのだが、震災後はLPを扱う店が激減し、今は生き残ったお店もほとんどがCD屋になっている。量・質共に別格の“ハックルベリー”を除けばあまり期待できないのが現状なのだが、この時はダークホースともいえるHMVで大収穫があった。実はあまりに暑かったのでちょっと涼みに(笑)HMVへ入っただけだったのだが、心地良い冷気に誘われてどんどん奥の方へ入っていくと試聴コーナーがあった。休憩がてらに涼みながら音楽を聴くのも悪くないと思い、すいている一角へと向かった。 “ワールド・ミュージック” のコーナーだ。何を聴こうかと見回すと1枚のCDが目にとまった。可愛らしいジャケットの左上隅の白地に赤でさりげなく “Let It Be Hawaiian Style” の文字が... (゜o゜) 何じゃこりゃ~と(←松田優作かよ!)急にテンションが上がった私は慌ててヘッドフォンをかぶった。おぉ、これはめっちゃエエやん!とすっかり気に入った私は大喜びでレジへと直行した。これで遠路はるばる神戸まで出てきた甲斐があったというものだ。
 この「レット・イット・ビー・ハワイアン・スタイル」はビートルズの名曲の数々をハワイのアーティスト達がウクレレを使ったり(ただしウクレレ一辺倒のサウンドではないのでウクレレ三昧を期待してると肩透かしを食います!)、ジャワイアン・アレンジ(ジャマイカ+ハワイアンのレゲエ風ビートを効かせたサウンド)で歌ったりしたアルバム。全15曲中6曲(①④⑧⑪⑫⑭)がこの企画のために新規に録音されたトラックで、残りはライセンスものという割合だ。何でも映画「フラガール」のヒットにあやかって夏に向けてビートルズのハワイアン・カヴァー・アルバムを、という安直な企画からスタートしたらしいが、聴く側にとってはありそうで無かった “ハワイアン・ビートルズ” という斬新な発想に興味津々だ。聞くところによるとタイトルに「ビートルズ」という名称を使用する場合は東芝EMIにお伺いを立てなければならないそうで、ソニーのこの盤では敢えて「ビートルズ」という表記をしなかったらしい。この業界も色々あるんやねぇ...(>_<) 内容の方はかなり充実していて、 “今のハワイで普通にラジオでかかっていてもおかしくない感じに仕上げたい” という当初の目標は十分にクリアしている。
 まずは何をさておき①「シー・ラヴズ・ユー」が圧倒的に素晴らしい。ハワイの超人気ガールズ・デュオ、ケアヒヴァイによるミディアム・スロー・テンポの絶妙なハーモニーが運んでくる甘酸っぱい薫りに胸がキュンとなる(≧▽≦) やっぱり一番出来の良い演奏を1曲目に持ってくるんやね。この1曲だけでも買ってよかったと思わせてくれるキラー・チューンだ。そしてそんな①と並んで気に入っているのが⑧「イエスタディ」で、サリーという新人アーティストの作品なのだが、原曲のメロディをストレートに歌って醸し出す素朴な味わいが実にエエ感じで、シンプル・イズ・ベストを地で行く名唱だと思う。とにかくこの2曲、脱力具合いが絶妙で、癒し効果は抜群だ。
 ②「ヒア・カムズ・ザ・サン」(リード・カポ・クー)は英語とハワイ語が交互に出てきて実に面白いし、③「ゲッティング・ベター」(ハワイアン・スタイル・バンド)は夏にピッタリのレイドバックしたサウンドが耳に心地良い。④「レディ・マドンナ」(イムア)はいわゆるバックヤード・スタイルのジャワイアンということで、ヤシの木の下でまったりと風に当たりながら聴きたいナンバーだ。ハワイのグラミーと呼ばれる“ナホク・アワード”最多受賞者ナレオの歌う⑤「ブラックバード」はユニークでありながらも原曲の良さを壊さない斬新なアレンジが面白い。これはかなり力入ってます(>_<) ショーン・イシモトの⑥「アイ・ウィル」はジェイク・シマブクロあたりを想わせる軽快なウクレレ・サウンドが楽しい。どこか歌い方の雰囲気がポールに似ていると感じるのは気のせいか?
 ケアリィ・レイシェルの⑦「イン・マイ・ライフ」は歌い上げる感じがちょっと胃にもたれる感じ。ウェイド・キャンバーンの⑨「ドント・レット・ミー・ダウン」やババBの⑩「サムシング」は③と同様の “ハワイアン・ビートルズ” そのものの常夏サウンド。マイラ・ギブソンの “ハワイアン・ダブ” ⑪「カム・トゥゲザー」は摩訶不思議な浮遊感覚がたまらない。これはかなりエエかも!ジョン・ヤマサトのライト&メロウなヴォーカルが爽やかな⑫「オール・マイ・ラヴィング」、ハワイアンなノリが新しいプカの⑬「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」と、夏の昼下がりにピッタリのナンバーが続く。
 ベン・ヴェガスの⑭「レット・イット・ビー」は原曲にかなり近いアレンジであまりハワイアン・スタイルという感じはしないが、これはこれでエエ感じの聴きごたえのあるナンバーに仕上がっている。ラストは「ウクレレ・ビートルズ」を彷彿とさせるようなイントロが印象的な⑮「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」。ロシェリー・ミドロという新人シンガーが歌っているのだが、ウクレレをバックに淡々と歌うこのトラックはハワイの夕暮れ時を想い起こさせる、ワイキキ・ビーチを車で流しながらゆったり気分で聴いたら絶対にハマるサウンドだ。
 ボッサ、ウクレレ、サルサ、ラテンetc 数ある夏向けビートルズ・カヴァー集の中で、この「レット・イット・ビー・ハワイアン・スタイル」は派手さはないものの、トップクラスの内容を誇る1枚だと思う。

シー・ラヴズ・ユー

Paul Simon Greatest Hits, Etc.

2009-06-25 | Rock & Pops (70's)
 ポール・サイモンというと一般的にはどうしてもサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」や「スカボロー・フェア」、そして「明日に架ける橋」といった、いわゆる “美しいバラッドを歌うフォーク・デュオ” のイメージが強いかもしれないが、それは彼のほんの一面にすぎず、決して本質ではない。特にS&G解散後の彼の諸作を聴くにつれ、その想いを強くする。あくまでも私見だが(ってゆーか、このブログは100%私見のカタマリやん!)、彼はS&G時代は常にアーティの美しい歌声を前提とした音作りをしており(だからバラッドの傑作が多いんよね)、彼が本当に好きなのはアコースティック・ギターで躍動感あふれるリズムをザクザク刻む「ミセス・ロビンソン」、「冬の散歩道」、「セシリア」、そして象徴的ともいえるエヴァリー・ブラザーズのカヴァー「バイ・バイ・ラヴ」あたりのサウンドではないか?これらの作品はアコギを使った力強いリズム・ストロークが凡百のエレキ・サウンドを凌駕するパワーを秘めていることを満天下に知らしめた傑作ぞろいだ。そして更にそこにフォルクローレ「コンドルは飛んでいく」あたりから芽生えたエスニックなサウンドへの尽きぬ関心が重なって花開いたのが解散後のソロとしての第1作「ポール・サイモン」(72年)だと思う。
 このアルバムの1曲目に収められていた⑫「母と子の絆」をリアルタイムで聞いたファンはぶっ飛んだに違いない。あの「サウンド・オブ・サイレンス」の歌い手が「明日に架ける橋」でゴスペルの本質を極めたと思ったらそのわずか2年後に今度はレゲエである。その肩の力を抜いた歌声がレゲエのまったりしたサウンドと絶妙なマッチングを見せており、1972年の時点でレゲエ・サウンドをこれ程見事に取り入れて完全に消化した上で自分の音楽として表現しているのだからもう凄いとしか言いようがない。彼のソロ諸作の中でも屈指の名曲名演だ。この盤には他にも「ボクサー」に「コンドルは飛んでいく」をふりかけてレンジでチンしたかのような「ダンカンの歌」やノリノリでリズムも弾む⑥「僕とフリオと校庭で」といった彼にとって重要な作品が数多く収めれらており、アルバムとしてのクオリティもハンパなく高いと思う。
 第2作「ひとりごと」(73年)からは⑧「僕のコダクローム」が全米2位まで上がる大ヒットを記録、お得意のドライヴ感溢れるノリノリのサウンドがたまらない。ディキシーハミングバーズをバックに従えた⑬「ラヴ・ミー・ライク・ア・ロック(母からの愛のように)」はCMソングなんかに使えばピッタリきそうな楽しい曲で、やはり2位まで上がる健闘を見せた。それにしてもフォーク、ゴスペル、レゲエ、フォルクローレにディキシーランド・ジャズと、様々なジャンルの音楽的要素を上手く消化してユニークなポップ・ソングを作り上げてしまう手腕は本当に大したものだと思う。
 第3作「ライブ・ライミン」(74年)は初のライブ盤で、何と言ってもその選曲が素晴らしい。怖いくらいに私の愛聴曲ばかり(あと、「フィーリン・グルーヴィー」と「ミセス・ロビンソン」が入ってたら完璧やね...)なのだ。LPのA面に当たる前半では弾き語り3曲の後、アンデスの民族音楽グループ “ウルバンバ” をバックに瑞々しいフォルクローレを聴かせ、B面に当たる後半ではゴスペル・グループの “ジェシー・ディクソン・シンガーズ” を従えてソウルフルな歌声を聴かせてくれる。特に⑤「ダンカンの歌」はスタジオ録音ヴァージョンを凌ぐ素晴らしさで、ウルバンバとの息の合った共演が生み出すグルーヴが絶品だし、フォルクローレ版「ボクサー」はこのアルバムでしか聴けない超貴重ヴァージョンだ。彼の弾き語りが心に染み入る⑪「アメリカの歌」は聴けば聴くほど味わい深いスルメ・チューン。セントラル・パーク・コンサートでのアーティ・ヴァージョンも良かったなぁ... (≧▽≦) ゴスペル・セットでは特に「ラヴ・ミー・ライク・ア・ロック」のノリが圧巻で、オーディエンスのハンド・クラッピングはS&G時代の「バイ・バイ・ラヴ」を彷彿とさせる心地良さだ。ライブで映えるナンバーの典型だろう。とにかくこのライブ盤、彼の作品中最も愛聴している1枚なのだ。
 第4作「時の流れに」(75年)はソロになって唯一の全米№1⑩「恋人と別れる50の方法」や③「時の流れに」といったヒット曲が入っていて世評も高いのだが、私は数回聴いてすぐに売り払ってしまった。バックのサウンドが洗練されすぎているというか、大嫌いなエレピの音が乱舞するいわゆるフュージョンぽいサウンドにどうもなじめないのだ。ボブ・ジェームズにリチャード・ティー、スティーヴ・ガッドとくればあの金太郎飴フュージョン・バンド “スタッフ” 一派だ。フュージョン嫌いの私としてはこれ以上はノー・コメント(>_<)
 77年に出たこのベスト・アルバム「グレイテスト・ヒッツ・エトセトラ」はそんな彼のソロ活動の軌跡をラクチン格安パック・ツアーで楽しめるお徳用の1枚だ。

Paul Simon - Mother And Child Reunion

Pres And Teddy / Lester Young

2009-06-24 | Jazz
 ジャズ・ファンの遊びのひとつに“ブラインド”というのがある。正確には “ブラインド・フォールド・テスト” と言い、要するに何の前情報もなしにいきなり演奏を聴いて誰がプレイしているのかを当てるというごくシンプルなゲームのことなのだが、このゲームの面白いところは、そのミュージシャンの演奏の特徴がしっかりと頭に入っておれば、たとえ知らない演奏であったとしてもかなりの確率で当てることができるという点だ。どんな楽器にも当てはまることだが、奏法には流派というか系譜のようなものが厳然と存在しており、同じフォービート・ジャズというフォーマットで演奏してもその音色や吹き方によって印象は全く違ってくるものだ。
 レスター・ヤングという人は1930年代にカウント・ベイシー楽団のスターとして脚光を浴び、それまでゴツゴツしたスタイル一辺倒だったテナー・サックス界に革命をもたらしたスタイリストで、後に“レスター派”と呼ばれるフォロワーを数多く生んだサックス・レジェンドである。特に30年代後半のベイシー時代から40年代前半のキイノート・セッションあたりのプレイは目も眩むばかりで、その滑らかなフレージング、ソフトなトーン、抜群のスイング感、そして究極のリラクセイションはモダン・テナーの源流と言ってよく、絶妙のタイミングでリズムに切り込み独創的なフレーズを次々に紡ぎ出す彼のプレイは唯一無比のものだった。
 しかしその後兵役に取られ、人種差別的迫害を受けて精神をボロボロにされた彼は演奏面でも精彩を欠くようになり、50年代に入ってヴァーヴから出された作品の中には正直聴いてて辛い演奏もあるが、そんなレスターが奇跡的に好調を取り戻したのがピアノの巨匠テディ・ウィルソンとのセッションだった。レスターとテディは共にスタンダード・ソングを素材にしてメロディアスなアドリブを展開していくスタイルであり、更に職人ジョー・ジョーンズが匠の技で二人を支えるというセッティングがレスターの好演を引き出したのかもしれないが、とにかく50年代レスター屈指の名演といっていいアルバムがこの「プレス・アンド・テディ」なのだ。
 テナーのレスター・ヤング、ピアノのテディ・ウィルソン、ドラムのジョー・ジョーンズ、ベースのジーン・ラミー... もうパーソネルを見ただけで音が聞こえてきそうな黄金のカルテットだ。快調なテンポでレスターが飛ばしまくる①「オール・オブ・ミー」は1分46秒からのテディー・ウィルソンの歌心溢れるピアノ・ソロとジョー・ジョーンズの瀟洒なブラッシュの競演に心を奪われる。音楽を知り尽くした2人の名人芸が素晴らしい。シナトラの名唱で知られる②「恋のとりこ」、スロー・テンポで歌い上げるレスターはまるで大切な曲を慈しみながら吹いているようだ。レスターがミディアム・テンポで気持ち良さそうにスイングする③「ルイーズ」ではジョー・ジョーンズの歯切れの良いブラッシュ・ソロに耳が吸い付く。
 名演揃いの本盤の中でも特に気に入ってるのが④「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」で、一段と気合の入ったプレイを聴かせるレスターといい、2分10秒から信じられないくらいよく歌うアドリブ・ソロを展開するテディーといい、大技小技を次々と繰り出しながらの変幻自在なプレイを繰り広げるジョー・ジョーンズといい、全員が一丸となって実に緊張感溢れる1曲に仕上げている。モダン・ジャズ史上屈指の大名演だ。ミディアム・スイングが心地良い⑤「テイキング・ア・チャンス・オン・ラヴ」はシャキッとしたテディーとホワッとしたレスターの対比の妙が聴き所。ややスロー・テンポの⑥「アワ・ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」はレスターのリラクセイション溢れるプレイに心が和む。この古くて新しい感覚... まさに一点の曇りもない、メインストリーム・ジャズ・アルバムの金字塔といえる1枚だ。

Lester Young & Teddy Wilson - All of Me

Meet The Beatles / The Inmates

2009-06-23 | Beatles Tribute
 音楽ファン(もちろん私も含めて)というのは勝手にライバル関係を作り上げてどっちが良いとか喧々諤々の議論をしながら楽しむ傾向が多々あると思う。ゼッペリンvsパープル、マイコーvsプリンス、キャンディーズvsピンク・レディー、拓郎vs陽水と、挙げていけば枚挙に暇がない。こういう “作られたライバル関係” というのは、実際には志向している音楽的方向性etcが違うということが多いものだが、見た目には絵になる構図なのでメディアはここぞとばかり煽りまくる。そんな中、王者ビートルズのライバルは、ある時はビーチ・ボーイズだったり、又ある時はベンチャーズだったり(65年当時の日本だけですけど...)するのだが、同じイギリス出身のロック・バンドということでよく比較の対象にされてきたのがローリング・ストーンズである。
 まぁ両者ともに現役の頃ならいざ知らず、今となっては全く不毛な議論だとは思うが、ロックンロールをベースにフォーク、ブルース、カントリーといった様々なスタイルを貪欲に取り入れながら独自のポピュラー・ミュージックを創造していったビートルズの “拡散美” に対し、あくまでも自らのルーツであるリズム&ブルースに拘ったストーンズの “様式美” の違いと言っていいと思う。後はもう各人の好みの問題だと思うし、私はビートルズ原理主義者(笑)だが、ストーンズも好きでよく聴いている。
 そんな私にとって、もしもビートルズの楽曲をローリング・ストーンズがカヴァーしたら... というのは想像してみるだけでも楽しい妄想だったが、何とそれを現実にしてしまったバンドがいるのである。インメイツ... この盤を知るまでは名前すら聞いたことのないバンドだった。この「ミート・ザ・ビートルズ~ライブ・イン・パリ~」は87年のライブで全曲ビートルズのカヴァー、しかもヴォーカルはミック・ジャガーそっくりだし、バンドのサウンドも60年代中期のストーンズを彷彿とさせるシンプル&ストレートなロックンロールで、細かいことを気にせずにガンガン攻める骨太ガレージ・パンクだ。選曲がこれ又ユニークで、滅多にカヴァーされることのない①「リトル・チャイルド」や②「アイル・ゲット・ユー」なんかも演っている。ひょっとしてコイツら、かなりのビートルマニアなのかも...
 とにかくこのバンド、①のアタマから全開で突っ走る。 “リルチャアィル~♪” のイントネーションがモロにミックしているのが面白い。②も大胆なアレンジでインメイツ流に料理しており、そのステイタス・クォーみたいなグルーヴがたまらない。③「シーズ・ア・ウーマン」は割と原曲に忠実なアレンジながらリズム隊が大活躍で、縦横無尽に低音部を埋めるベースの躍動感には目を見張るものがあるし、レノン&マッカートニーの隠れ名曲④「ユー・キャント・ドゥー・ザット」でもドラムの叩き出す重いビートがめちゃくちゃ気持ちいい(^o^)丿 凄まじい勢いで突き進む⑤「デイ・トリッパー」でのノリノリの演奏も痛快だ。間髪をいれずに始まる⑥「バック・イン・ザ・USSR」、このあたりまで聴いてくるとストーンズ風とかはもうどうでもよくなってきて、ただただ最高のロックンロールを楽しむだけという感じになってくる。⑦「ウィー・キャン・ワーク・イット・アウト」で少しクールダウンした後、⑧「アイ・ワナ・ビー・ユア・マン」をストーンズ・ヴァージョンでビシッとキメてくれる。これ、めちゃくちゃカッコイイ(≧▽≦) お次は何と⑨「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」だ。スタジオ・レコーディング・テクノロジーの塊のように思われている同アルバムのタイトル曲だが、私に言わせればライブ感溢れるロックンロール。それを見抜いた見事な選曲に脱帽だ。この曲以降5曲連続してポール作のロックンロールが並ぶが、⑩「バースデイ」の異様なまでの盛り上がりはライブならでは。⑪「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」の疾走感はもう圧巻と言う他ない。⑫「ゲット・バック」ではミック節が舌好調で、ある意味ミックよりもミックらしいかも...(笑) やりたい放題にガンガン弾きまくるラウドなギターもたまらない。⑬「アイム・ダウン」はご存知のように本家ビートルズのライブ・クロージング・ナンバーで、このインメイツのライブでも最後の大爆発といった感じでバンドが一体となって燃え上がる様がダイレクトに伝わってくる。ラストは⑭「ヘイ・ジュード」なのだが、ここまでハイスピード・ロックンロール1本でグイグイ押しておきながら、何で?と言いたくなる。ひょっとすると “ただ歌いたかっただけ” なのかもしれないが、私にはこの選曲だけが解せない。
 私の持っているCDは2002年に再発されたリマスター盤で、ボートラ3曲が新たに追加されたお徳用盤なのだが、特にエディ・コクランのカヴァー⑯「ジニー ジニー ジニー」が素晴らしい。⑰「テル・ミー・ホワッツ・ロング」のパワフルでスピード感溢れる演奏も特筆モノだ。購入時にはくれぐれも曲数をチェックしましょう。

The Inmates- Back to USSR

My Boyfriend's Back / The Angels

2009-06-22 | Oldies (50's & 60's)
 私はオールディーズ、とりわけガール・グループが大好きで、一頃なんか寝ても覚めてもガール・グループばかり聴いていた時期があり、周りから白い目で見られていたものだった(笑) ロネッツ、クリスタルズらのフィレス軍団、スプリームズやマーヴェレッツといったモータウン勢、シャングリラスやデキシー・カップスといったレッド・バード連合、シフォンズやジーンズらのローリー一派と、アメリカン・ポップスの明るくて楽しい “陽” の部分を最も分かりやすい形で提示してくれたのが彼女たちだった。時は1963年、ビートルズの全米上陸前夜である。そんな “ガール・グループ百花繚乱の時代” にひときわ輝く全米№1ヒットで歴史にその名を刻んだのがエンジェルズだった。
 彼女らは当初、40年代の白人女性コーラス・グループ直系のソフト&メロウなスタイルで活動しており、62年にカプリス・レーベルから1枚のアルバムを出し、そこからシングル・カットされた清純路線のバラッド「ティル」(愛の誓い)が全米14位まで上がるヒットを記録したものの、その後はジリ貧状態に陥り、リード・ヴォーカリストも交代、レコード会社もマーキュリーの子会社であるスマッシュに移籍する。この頃彼女らはフェルドマン=ゴールドスタイン=ゴッテラーというソングライター・トリオと出会い、「マイ・ボーイフレンズ・バック」を書いてもらう。このあたりの展開はスプリームズとホランド=ドジャー=ホランドとの関係にそっくりだ。彼らの所属していた音楽出版社はその曲をシュレルズに歌わせようとしたが彼らはそれをエンジェルズに廻し、スマッシュからの初シングルとしてこの曲をリリース、全米チャートでは75位→31位→10位→1位というとんでもないジャンプ・アップ(少しでも全米チャートを追っかけたことのある人ならこの数字がどんなに凄いことかおわかりですね...)で見事1位を獲得、3週に渡ってその座をキープした。
 同名タイトルのアルバムも、それまでの“古き良きアメリカ”を彷彿とさせるような洒落たコーラス・グループから60'sらしい元気印の典型的な“ガール・グループ・サウンド”へと変貌している。①「マイ・ボーイフレンズ・バック」は邦題が「あたしのボーイフレンド」で、活きのいいハンド・クラッピングを多用したキュートなコーラスがたまらない(≧▽≦) コール&レスポンスもばっちりキマッて完全無欠のガール・グループ・クラシックスの出来上がりだ。尚、この曲のカヴァーでは以前に紹介した「アメリカン・ドリームス」の中でステーシー・オリコが歌ったヴァージョンがダントツに素晴しいと思う。
 ②「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」(いつか王子様が)は泣く子も微笑むディズニーの名曲で、ジャズの世界ではスタンダード・ソングと化しているが、オールディーズ・ポップスの世界では結構レア。このエンジェルズのヴァージョンは彼女らのドリーミィーなコーラス・ワークが美しいディズニー・メロディーとバッチリ合っていて、この曲の隠れた名唱になっていると思う。私のようなディズニー好きのオールディーズ・ファンにはたまらない1曲だ。
 ①をアップテンポにしたような③「ハズ・エニイバディ・シーン・マイ・ボーイフレンド」やボビー・ヴィーのカヴァー⑤「ザ・ナイト・ハズ・ア・サウザンド・アイズ」(燃える瞳)ではエンジェルズお得意のキャピキャピ・コーラスが楽しめる。④「ティル」(愛の誓い)はカプリス時代の再録ヴァージョンで、先代ヴォーカリストとの違いを聴き比べるのも一興だ。⑦「ヒーズ・ソー・ファイン」(いかした彼氏)は言わずと知れたシフォンズの№1ヒットのカヴァーで、コーラス・アレンジもほぼ同じ。オリジナルと甲乙つけ難い名唱だ。
 ⑥「ホワイ・ドント・ザ・ボーイ・リーヴ・ミー・アローン」、⑨「ザ・ハーディ・ガーディ・マン」、⑪「ラヴ・ミー・ナウ」... これらのアップテンポな曲はそのどれもがはちきれんばかりの健康的なコーラス・ワークが全開で、頭の中を空っぽにして聴くに限る。⑩「ワールド・ウィズアウト・ラヴ」はレノン=マッカートニーが作り、ピーター&ゴードンが歌ったあの曲とは同名異曲。他の曲に比べるとかなり地味やね。⑫「ザ・ガイ・ウィズ・ザ・ブラック・アイ」は曲想からメロディー、コーラスに至るまで①にそっくりの曲で、ラストにこの曲を持ってきたのには何か意図があるのだろうか?まさかサージェント・ペパーズ的リプリーズの先駆け... なわけないか!(笑)
 ガール・グループの作品をアルバム単位でみた場合の完成度はフィレス・レーベルのロネッツ盤が史上最強だが、エンジェルズのこの「マイ・ボーイフレンズ・バック」はシフォンズのローリー諸作と共に、気楽に楽しめるガール・グループ・アルバムの最右翼に位置する好盤だと思う。

The Angels : My Boyfriend's Back

大人になりたい / 山口百恵, キャンディーズ, 南沙織etc

2009-06-21 | 昭和歌謡
 漣(さざなみ)健児という名前を聞いて “あぁ、あの人か!” とすぐにわかる人はかなりの音楽通、しかもある程度年配の方に限られるだろう。しかし “待ち遠しいのは 夏休み~♪” や “可愛いベイビー ハイハイ~♪” というフレーズを聞けば多くの人が “あっ、それ聞いたことある!” となるのではないだろうか?彼こそが1960年代に数々のオールディーズの訳詞を手掛けて日本の音楽シーンに “カヴァー・ポップス現象” を巻き起こした伝説の人物なのだ。
 ライナーノーツによると彼は早稲田大学在学中(!)にあの「ミュージック・ライフ」誌を創刊し、その後は同誌の編集長を務める傍らで様々な洋楽ポップスの訳詞を手掛け、一大ブームを巻き起こしていったという。その作品数は驚異の450余...(゜o゜)、しかもその殆んどが今でも人々の記憶に残っている傑作というのだから恐れ入る。“あの娘はルイジアナママ やって来たのはニューオリンズ~♪” なんて一度聞いたら忘れられないくらいのインパクトがあると思うし、「砂消え」の出だしのライン “青い月の光を浴びながら 私は砂の中に~♪” なんかもうオリジナルよりもしっくりくるほどの名訳で、“原曲のメロディーにぴったりハマリました感” が清々しい漣作品屈指の傑作だと思う。
 「漣健児のワンダーランド」シリーズは、ビクターの「可愛いベイビー(中尾ミエ他)」、コロムビアの「ルイジアナ・ママ(飯田久彦他)」、東芝の「ヴァケーション(弘田三枝子他)」、キングの「渚のデイト(伊東ゆかり他)」、テイチクの「好きさ好きさ好きさ(ザ・カーナビーツ他)」、そしてソニーの「大人になりたい(山口百恵他)」と、レコード会社6社の合同企画として各社から1998年にリリースされた統一フォーマット・ジャケット・デザイン採用のオムニバスCDで、シリーズ6枚のうち5枚は60年代音源をメインとするもので他の盤で結構持っていたりするのだが、ソニー盤だけは70年代前半のアイドル歌手の名前がズラリと並んでおり、非常にレアな音源のオンパレードなのだ。因みにこれらのCDは既に廃盤となっており、私は運良くアマゾンマーケットプレイスで良心的な出品者から格安で買えたのだが、今現在ネットではプレミア付きで5,000円前後で取り引きされているようだ。
 この「大人になりたい ~漣健児のワンダーランド~」、収録歌手は山口百恵(①「ヴァケーション」、②「可愛いベイビー」、③「大人になりたい」)、キャンディーズ(④「小さい悪魔」)、南沙織(⑤「悲しき天使」)、麻丘めぐみ(⑥「恋はボサノバ」、⑦「ブーベの恋人」)、浅田美代子(⑧「そよ風にのって」、⑨「ネイビーブルー」)、天地真理(⑩「恋は水色」)、小林麻美(⑪「砂に消えた涙」)、安西マリア(⑫「悲しき片想い」、⑬「ビー・マイ・ベイビー」)、ゴールデン・ハーフ(⑭「電話でキッス」)、小山ルミ⑮「悲しき街角」)、栗田ひろみ(⑯「パイナップル・プリンセス」)、リンリン・ランラン(⑰「想い出の冬休み」)、林寛子(⑱「ベイビーフェイス」)、岡田奈々(⑲「すてきな16才」)、山本リンダ(⑳「別離」)、松本伊代((21)プリーズ・プリーズ・ミー~抱きしめたい)の16人... どうです?凄い顔ぶれでしょ?聴いてみたくなったでしょ?これで触手が動かなければ昭和歌謡ファン失格である。70年代前半、デビューしたてのアイドル歌手というのはとにかくシングルヒットを出すのに必死でアルバム制作に時間も予算もかけていられないので、アルバムの “埋め草” 用に60年代のカヴァー・ポップスのカヴァーをレコーディングすることが多かったのだろう。
 まだデビューして間もない頃の百恵ちゃんの生硬な歌声が聴ける①②③、ミキちゃんのキュートなリード・ヴォーカルとバックに回った2人のコーラス・ハーモニーの絡みが絶妙な④、悲しき天使コレクターの私が “日本人の歌う同曲ではベスト!” と認定した⑤、イーディ・ゴーメもエエけどこっちもイイでぇ(笑)と言いたくなる⑥、中間部の語りが時代を感じさせる⑦、ヘタと言われようが何と言われようがその素人っぽさが魅力の⑧⑨、ダニエル・ビダルみたいな雰囲気が横溢する⑩、大好きな麻美さんの初々しい歌声に萌える⑪、間奏のギター・ソロだけがGSしてる⑫、ハスッパなヴォーカルが耳に新鮮に響く⑬、アイドル歌謡の王道を行くアレンジで大正解の⑭、コテコテの昭和歌謡的アレンジが何故かしっくりくる⑮、声質と曲想がバッチリ合った掘り出し物⑯、香港出身の双子姉妹ががぎこちない日本語でアメリカ産カヴァー・ポップスを歌うという趣向が楽しい⑰、元気印なヴォーカルがパワフルに響く⑱、ライブでの男性ファンのキモイ嬌声だけはカンベンしてほしい⑲、リンダ節全開のヴォーカルに大爆笑の⑳、無理やりくっつけたような不自然なメドレー・アレンジにもめげず “カモン!カモン!” と絶叫する伊代ちゃんが健気な(21)と、迷演珍演のアメアラレだ。
 これは “60年代にアメリカン・ポップスという現象を翻訳して日本の音楽シーンに定着させ、8ビートと日本語の融合に成功した” 漣健児の輝かしい作品集としてだけでなく、70年代アイドル歌謡のレアな音源集としても楽しめる、マニア必携の1枚だ。

小林麻美 - 砂に消えた涙



Time Out / Dave Brubeck

2009-06-20 | Jazz
 この前カーティス・フラーの「ファイヴ・スポット・アフター・ダーク」を取り上げた時、YouTubeでアリナミンVのCMを過去に遡って閲覧し、色んな “懐かCM” を見つけてノスタルジーに浸っていた。昔のCMは今と違って映像といい、音楽といい、本当によく考えられたモノが多かった。中でもこの武田薬品のアリナミンVドリンク・シリーズは90年代に入ると例のシュワちゃん&宮沢りえ・ペアの作品が主流になるが、80年代後半の一時期にはニューヨーカーのライフスタイルを紹介した映像のBGMに洒落たジャズを流していたことがあり、私の記憶が正しければそのシリーズの1回目がここで取り上げるデイヴ・ブルーベックの「テイク・ファイヴ」であり、2回目が「ファイヴ・スポット・アフター・ダーク」だったのだ。聴いてみればわかるが、この2曲にはマンハッタンの街並みがコワイほどよく似合う。カリフォルニアでもテネシーでもテキサスでもない、ニューヨークをイメージさせる音... 時間帯はもちろんアフター・ダークだ。因みに私が初めて買ったジャズCDはこの「テイク・ファイヴ」の入った「タイム・アウト」というアルバムであり、2枚目にあたるのが「ブルースエット」というわけ...(^.^) だからこのタケダのアリナミンVのCM に出会っていなかったらひょっとすると今ジャズを聴いていなかったかもしれない。
 CMソングというのはまず、広告主(クライアント)が複数の広告代理店に声をかけ、オリエンテーションの場でその商品説明を行い、それに対して最も効果的な広告プランニングをした代理店が制作を担当することに決定し、それから映像プロダクションや音楽プロダクションを選んでCMの詳細が煮詰められていくというプロセスを経るのだが、それにしても星の数ほどあるジャズ演奏の中からこの2曲を選んだ制作担当者のセンスは凄いとしか言いようがない。CMソングとして使う以上は単なる名演や傑作ではダメで、わずか15秒の間に視聴者の心を捉えるような、そんなキャッチーな魅力が最も要求されるのである。そういう意味でもこの2曲というのはベスト・オブ・ザ・ベストと言える究極の選曲だと思うし、私が常日頃から信奉している “聴き易い、分かり易い、楽しいジャズ” の原点は案外このあたりにあるのかもしれない。
 そんないいことだらけの③「テイク・ファイヴ」だが、楽理的にはかなり高度なことを演っており、ビートの変化を探求した、いわゆる “変拍子ジャズ” の代表作なのだ。こう書くと何か難解なジャズを演っているように聞こえるがとんでもない、繰り返すがCMに使えるほどの聴き易さである。そしてそれを可能にしているのが卓越したリズム・センスを持った名手ジョー・モレロの驚異のドラミングなのだ。モレロの変幻自在のドラムと超地味だが力強くて安定感のあるジーン・ライトのベースが一致団結して作り上げたリズムに乗って、ワン・アンド・オンリーというべき優しい音色を持ったポール・デズモンドのアルト・サックスと硬い音色で執拗なまでにブロック・コードで同じメロディーを繰り返すデイヴ・ブルーベックのピアノが生み出すコントラストこそがブルーベック・カルテットの1番の魅力だと思う。実は初心者の頃、“デズモンドのアルトこそがすべて” と思い込み、彼のソロ作品を買いまくったことがあったのだが、不思議なことにどれを聴いてもみな同じに聞こえ、退屈で仕方なかったのを覚えている。要するにデズモンドという人はブルーベックのガンガン叩きつけるようなブロック・コードの嵐の中を蝶のようにヒラヒラと舞うことによって初めてその美しい音色が活きてくるタイプのアーティストなのだろう。
 このようにブルーベックの「タイム・アウト」といえばリスナーのお目当ては「テイク・ファイヴ」で “それ以外の曲は何が入ってたかなぁ...???” 状態の人も結構多い(というかほとんどの人がそうだったりして...)と思うが、それ以外の曲も名演快演が揃っている。①「トルコ風ブルー・ロンド」は変拍子がユニークな曲構成だが、全然難解なところがなく聴いてて実に楽しいジャズ。ジャズ界一地味なベーシスト、ジーン・ライトが予想以上の頑張りを見せている。②「ストレンジ・メドゥ・ラーク」はデズモンドのアルトをたっぷり聴けて大満足。モレロの糸を引くようなブラッシュ・プレイが絶品だ。④「スリー・トゥ・ゲット・レディ」でもやはりモレロのプレイに耳がいってしまう。デズモンドばかり聴いてた人は騙されたと思って一度モレロのドラミングにご注目を!⑤「キャシーズ・ワルツ」は大変優雅な曲想のワルツ・ナンバーだが、今一つ汚れが欲しいような気も。⑥「エヴリバディーズ・ジャンピン」はブルーベック・カルテット独特のユニークなスイング感が楽しめるストレート・アヘッドなジャズ。3分15秒から始まるモレロのブラッシュ・ソロが圧巻だ。⑦「ピック・アップ・スティックス」は旋律の魅力に欠ける分を個々のプレイで何とか取り繕おうとしているように聞こえるが、曲がつまらなくてはアドリブも爆発しない。まぁ、あってもなくてもいいような1曲だ。
 ジャズ・ファンの中には “ジャズは黒人のもの” だと決めつける頭の固い人たちがいるが、私はそうは思わない。私にとっては黒いか白いかではなく、スイングしているかどうかこそが重要なポイントだ。そういう意味でこのアルバムは “クールに、軽やかに、粋にスイング” する白人ジャズの大傑作だと思う。

タケダ アリナミンV 80年代CM


Dave Brubeck - Take Five



Feed Back / Dr.K Project with friends

2009-06-19 | エレキ・インスト
 ボブ・ボーグルの死を悼んで昨日から “一人ベンチャーズ祭り” 開催中なのだが、本家ベンチャーズだけでなく彼らのフォロワーたちの盤も何枚か聴いた中で改めてその出来の良さに唸ってしまったのがドクターKこと徳武弘文さん率いる Dr.K Project のアルバムだ。
 徳武さんは日本におけるカントリー・ロック、ベンチャーズ系エレキ・インストの第一人者で、様々なアーティストのレコーディングに引っ張りダコのスタジオ・ミュージシャン。ノーキー・エドワーズやジェリー・マギーといったベンチャーズの歴代リード・ギタリストたちのワザを身につけた彼は90年代に入って自らのバンド Dr.K Project(外人ミュージシャンが “トクタケ”を“ドクターK”と呼んだことからこのニックネームが付いたという)を結成、その唯一無比のビートとグルーヴでベンチャーズの屋台骨を支えたドラマー、故メル・テイラーの遺志を継ぐ三浦晃嗣さんと共にエレキ・インストの楽しさを21世紀に伝えんと精力的にライブ活動を行っていた。そんな彼が96年のメル・テイラーの死に際し、ベンチャーズ、そしてメル・テイラーのグルーヴとスピリットを次の世代に伝えようという趣旨で開催したのが “メル・テイラー・トリビュート・ベンチャーズ・ナイト~僕らはエレキにしびれてた~” であり、その時の実況録音盤がこの「フィード・バック」なのだ。
 この2枚組CDには約110分にわたってベンチャーズ・クラシックスのカヴァー36曲が収録されており、Dr.K Project の5人をベースにベンチャーズ・フリークのミュージシャン達が入れ替わり立ち替わり客演するという形を取っている。尚、このライブでは “加山雄三&ハイパー・ランチャーズ” のステージもあったらしいが、権利関係がクリアできず残念ながらCDには未収録。その代わりと言っちゃ何ですが、加山さんが本家ベンチャーズと共演した98年のライブの模様がYouTubeにアップされてたので一緒に貼っときます。テケテケ・オールスターズって感じでエレキ・インスト・マニアは涙ちょちょぎれまっせー(T_T)
 Disc-1 は①「クルーエル・シー」でスタート。「ベンチャーズ・イン・ジャパンVol.2」を意識した選曲だろう。②「ブルドッグ」、③「バンブル・ビー・ツイスト」、④「朝日のあたる家」、⑤「007-0011」と、小気味よいテンポで繰り出される名曲名演の連続パンチに目も眩む。本家ベンチャーズから “日本一のエレキ・インスト・バンド” と賞賛されただけのことはある完璧なテクニックでエレキ・インストの楽しさを伝えてくれる。大好きな⑦「星への旅路」で展開される“温故知新”サウンドはダブル・ピックでトレモロ的な効果を出しながら音楽をグイグイ引っ張っていく Dr.K の独壇場。ベンチャーズの数少ないオリジナル曲の中でも屈指の名曲を見事に料理している。⑩「ペネトレイション」では現在の日本のエレキ・インスト・シーンを牽引する若手バンド、サーフコースターズのリード・ギタリスト、中シゲヲさんがゲスト参加、エレキ・インスト・バンドの定番曲とも言えるこの曲をガンガン弾きまくっている。続く⑪「ペダル・プッシャー」でもその熱いプレイは聴く者を圧倒する。これこそまさに60'sベンチャーズが体現していたロックンロール・スピリットだ。⑭「レッツ・ゴー」はベンチャーズのオリジ・ヴァージョンでも感じたことだが、 “レッツ・ゴー!” という掛け声が何かこそばゆい感じ。ましてやベタな日本語発音で “レッツ・ゴー!” と叫ばれた日にゃー、気恥かしさすら感じてしまう(>_<) ⑮「十番街の殺人」からドラマーが東原力哉さんに代わるのだが、全く破綻のないスムーズな演奏を聴かせる東原さんに対し、メル・テイラーのあのツッコミ気味の前ノリ・ドラムの再現は三浦さんに一日の長があるように思う。2度演奏された⑫(三浦)と⑲(東原)の「アパッチ」で2人のドラマーのプレイを聴き比べるのも一興だ。
 Disc-2 では③「ザ・クリーパー」を実に見事にステージで再現しているのにビックリ。これはマジで凄いです(≧▽≦) ドラマーは再び三浦さんにチェンジしているが、やはりメル・テイラーのグルーヴを出せるのは彼しかいないと改めて実感した次第。我が愛聴曲⑬「秘密諜報員」で聞ける渾身のプレイではその一打一打で金粉が飛び散るかのような凄まじさだ。⑦「サーフ・オン・ギター’96メドレー」ではベンチャーズの代表曲を14曲数珠つなぎで一気呵成に聴かせてくれる。とにかく全曲こんな感じでベンチャーズに対する深い愛情とリスペクトがダイレクトに伝わってくるこのアルバム、廃盤のままにしておくのはもったいないエレキ・インストの隠れ名盤だ。

Dr.K Project ♪♪ 十番街の殺人


The Ventures Nokie Edwards.Kayama Yuzo Hyper Launchers.Dr K Project.Shigeo Naka

Ventures In Japan

2009-06-18 | エレキ・インスト
 昨日plincoさんからベンチャーズのベーシスト、ボブ・ボーグルが亡くなったと知らされた時は寝耳に水で本当に信じられない思いだった。私が聴く音楽はロックであれジャズであれ50~60年代に活躍したバンドやシンガーが多いので、それから約半世紀が経ち、このような訃報に接することも仕方がないと言えばそれまでなのだが、それにしてもやはり寂しい。特にロック・バンドで一人減り、二人減りしていくのはファンとしては身につまされる思いだ。私はビートルズでこの悲哀をイヤと言うほど味わったが、ベンチャーズもメル・テイラーが逝き、今度はボブ・ボーグルが鬼籍に入ってしまった。ベンチャーズといえばどうしてもノーキー・エドワーズの神業プレイやドン・ウィルソンの “テケテケテケ~♪” に注目が集まりがちだが、あのドライヴ感溢れるロック・サウンドの根幹を成していたのは間違いなくメルとボブが生み出す強烈無比なグルーヴだったように思う。
 今日は仕事から帰ってきてずーっと彼らのアルバムばかりガンガン聴いているのだが、やっぱりどれもエエねぇ... 心にグッとくるねぇ... たまらんねぇ...(≧▽≦) ボブさんの追悼として50枚近く持っているアルバムのどれにしようかと迷ったが、こんな時こそ辛気臭さを吹き飛ばすような痛快なロックンロールということで、彼らの魅力を1枚にギュッと凝縮したような全盛期のライブ盤「ベンチャーズ・イン・ジャパン」にしよう。
 まずはライブの定番メドレー①「ウォーク・ドント・ラン~パーフィディア~木の葉の子守唄」からスタート、何と言ってもイントロのドラムの連打が凄すぎて言葉を失う。メル・テイラーの真骨頂というべきプレイが圧巻だ。この3曲はベンチャーズ結成当初からのレパートリーということでリード・ギターは多分ボブだったと思うが、トレモロ・アームを多用したプレイがめっちゃスリリング。②「ドライヴィング・ギター」は2分弱の短い曲だが様々なギター・テクニックの品評会のようなベンチャーズらしい1曲。③「ブルドッグ」はシンプルかつストレートなロックンロールで、ノーキーの変幻自在のギター・テクニックが満喫できる、ベンチャーズのエッセンスを見事に凝縮したようなナンバーだ。この曲が終わると “変な外人” の草分け的存在ビン・コンセプションの怪しい日本語によるMCが入るのだが、これがめちゃくちゃアホくさくて面白い。オーディエンスの反応ものどかな時代を感じさせるものだ。④「パイプライン」はイントロだけでもう鳥肌モノで、彼らの代名詞とでもいうべきモズライト・ギターのトレモロ・グリッサンドが圧巻だ。そのワイルドでダイナミックな “テケテケテケ~♪” は永遠に不滅なのだ。⑤「アパッチ」はシャドウズの代表的なレパートリーで、このベンチャーズ・ヴァージョンでは “ヒュッヒュッ、ヒュッヒュッ” という弦を爪でこすったような音が効果的に使われている。
 ⑥「10番街の殺人」は元々超スロー・バラッドだったブロードウェイ・ミュージカル曲をスリリングなロックンロールへと生まれ変わらせた、ベンチャーズ・アレンジの最高傑作!コードのスライド・ダウンで始まる強烈なイントロからメル・テイラーのイケイケ・ドラミングへとつながるあたりで私はもう完全にノックアウト(≧▽≦) とにかくカッコイイとしかいいようのない、ベンチャーズ屈指の名演だ。続くは⑦「ウォーク・ドント・ラン’64」、もう名曲名演のこれでもか攻撃だ。ボブ・ボーグルはこの曲のチェット・アトキンス・ヴァージョンを聴いてギターを本気でやる気になったということで、 “世界で一番好きな曲” だと公言している。ドン・ウィルソンの “テケテケテケ~♪” が最高だ。⑧「バンブル・ビー・ツイスト」はクラシックの有名曲「熊蜂の飛行」をビー・バンブル&ザ・スティンガーズがカヴァーしたものをツイストにアレンジ、絶妙なトレモロ・プレイで蜂が飛んでいる様子を見事に表現しているのはさすがと言う他ない。こういうのを本物のテクニックというのだろう。⑨「ワイプ・アウト」はドライヴ感溢れる3コード・ロックンロールで、メル・テイラーの真価がハッキリとわかるダイナミックなドラミングが最大の聴き所。ラストはお約束アンコール・ナンバーの⑩「キャラバン’65」で、長尺ドラム・ソロを含む8分弱の大作だ。ノーキーの縦横無尽に弾きまくるギターやドンの正確無比なリズム・カッティングも凄いが、やはりメルの豪快なドラミングに尽きるだろう。コンサートの締めに相応しいナンバーだ。
 彼らをただの “オールディーズ・テケテケ・バンド” “夏になるとやって来て全国を廻る出稼ぎバンド” などと思っている人がいたらとにかく一度このアルバムをフル・ヴォリュームで聴いてみることだ。驚倒するだろう。ジミー・ペイジが、エリック・クラプトンが、そしてエディ・ヴァン・ヘイレンが愛してやまないロックの原点がここにある。ベンチャーズがいなければ、多くのロック・ファンの人生はきっと違ったもの、それもかなり味気ないものになっていただろう。素晴らしい音楽をありがとう!R.I.P. Bob Bogle.

Slaughter on 10th Avenue (10番街の殺人)- The Ventures


The Ventures "Walk Don't Run '64"

B'z 新曲「DIVE」 1コーラス・プロモーション

2009-06-17 | B'z
 去年のB'zは20周年記念ということで「ウルトラ・プレジャー」、「ウルトラ・トレジャー」という2種類の超ベストCD、それに20年間の集大成DVD「ヒドゥン・プレジャー」、そして意表を突いたNHK特番への出演と、八面六臂の大活躍で、ファンとしてはB'z三昧の素晴らしい1年を満喫させてもらった。年が明けてもそのコーフンは覚めやらず、「グローリー・デイズ」DVDで20周年記念フィーバーの余韻に浸ることができたものの、ファンとは贅沢なものでそろそろ新曲が聴きたくなってくる。ちょうど去年の4月にリリースされた「BURN -フメツノフェイス-」以来1年以上のインターバルが空き、飢餓状態もだんだん臨界点に近づきつつあった頃、テレビで “キリンZERO” のCM(「しかも...」でバックに本物の鹿が映り込んでくるのにはワロタ...)を見て “あ~早く新曲聴きたい!” と思っていた矢先に“Suzuki Swift” の車のCMソングに新曲「DIVE」が決定。といっても私は基本的にテレビを見ないのでどうしたものかと悩んでいた(CMは待ち伏せでけへんし...)ところ、YouTube で見られるのを知り、早速チェック。わずか15秒のCMながら、新曲の持つ “快適なスピード感” と鮮やかなブルーが眩しい海岸線を風を受けて疾走する車の映像がピッタリ合っている。“ラララララ~♪”のフレーズが耳に残るアップテンポのロック・サウンドが耳に心地良い。早よフル・ヴァージョン聴きたいなーと思っていると、今度は本家本元のビーイングから“B'z 新曲「DIVE」1コーラスプロモーション映像” が YouTube にアップされたのだ。
 B'zファン178さんのブログによると初日だけで2万8千回の再生回数を達成、Most Viewed の第7位にランクインしたというが、やっぱり15秒CMに比べると1コーラス71秒、しかも花火打ち上げまくりのライブ映像付きというのは全然印象もインパクトも違う。CMの方がキーが高かったので多分間奏後に転調しているのだろう。「ウォーク・ドント・ラン」なギター・リフに名盤「ビッグ・マシーン」的なハードロック処理を施し、それで名曲「ステイ・グリーン」を包んでじっくり焼き上げ、仕上げにライブを意識して「BANZAI」の打ち上げ花火的なフレイヴァーをたっぷり効かせて出来上がり、という感じの、実にカッコイイ曲なのだ。キャッチーなメロディー、心地良い疾走感、圧倒的なテンションの高さ... もうお世辞抜きで何回聴いても鳥肌モノだ。松本さんのハードなギターに続いて大量投下される “ラララララ~♪” がこれまたB'zファンの心の琴線をビンビン刺激する。私は鼻歌で歌えるメロディーこそが最高だと常日頃から思っているのだが、これこそまさに稲葉さんの鼻歌ではないか!ロック・スピリット溢れるカッコ良いギター・サウンドと唯一無比の力強いヴォーカルの絶妙なコンビネーションこそがB'z最大の魅力だと云い切ってしまいたくなるカッコ良さ。ライブでドッカンドッカン花火が上がり、稲葉さんの “せ~のでDIVE!” の掛け声で会場全体が大きく揺れる様子が手に取るように目に浮かぶ。とにかくライブで映える、というかライブを前提にして書かれた、夏にピッタリのノリノリのハードロックに仕上がっている。様々なニーズに合った曲を書くことのできる “職業作家・松本孝弘” 会心の1曲といえるだろう。それと、これは両A面シングルということなのでもう1曲の方も大いに楽しみだ。スローなバラッドでくるのか、それともポップなミディアム調でくるのか、と想像するだけでも楽しい。8月5日の発売日が待ちきれない!!! それにしてもこの曲はクセになるなぁ... (≧▽≦)

B'z 新曲「DIVE」1コーラスプロモーション映像


B'z - BURN -フメツノフェイス-

「恋はあせらず」特集

2009-06-16 | Cover Songs
 自分が “これは大名曲!” と信じた曲がチャート上でイマイチな成績だったり、逆に “一体コレのどこがエエねん?” と感じた曲が1位になったりして大衆の好みと自分の感覚のズレを痛感するというのはポップス・ファンなら誰でも経験のあることだと思うが、フィル・コリンズの「恋はあせらず」の3週連続10位が最高位というのは私にとって “納得できないワースト5”ぐらいに入る摩訶不思議なチャート・アクションだった。私の感覚では “チャートを超特急で上がっていって2週連続№1、その後急降下(笑)” ぐらいのヒットにはなると思ったのだが... とにかく最高10位というのは低すぎる!このフィルのヴァージョンは60'sのモータウン・サウンドを細部に至るまで巧く80's風にリメイクしてあり、実によく出来たカヴァーだと思う。私はオリジナルのスプリームズよりも先にこのフィル・コリンズ・ヴァージョンを聴いてすっかりこの曲のファンになったという完全な80's世代の人間なので、今でも私にとっての「恋あせ」といえばスプリームズよりもフィル・コリンズなんである。ということで、今回は「恋あせ」のカヴァー比較でいってみます:

①Supremes
 元祖「恋あせ」は弾むようなベースにタンバリンで強調されたビートという、典型的なモータウン・サウンドの傑作。ホール&オーツの「マンイーター」やスティーヴィー・ワンダーの「パートタイム・ラヴァー」、そして桑田師匠の「太陽は罪な奴」の原点にもなった、真に偉大な曲なのだ。全米チャートでは66位→28位→7位→4位→1位という急上昇ぶりで、同時期にリリースされたビートルズの「イエロー・サブマリン」の1位攻略を阻むほどの大ヒットになった。
You Can't Hurry Love/The Supremes


②Jackson 5
 マイコーがまだ子供だった頃のジャクソン5の未発表音源。この曲をバックに次々と登場するマイコーの写真には感無量だ。外見的には「今夜はドント・ストップ」~「スリラー」あたりの頃が一番かっこ良かったと思うのだが、「バッド」の頃からの外見的変化を見るにつけ、 “人種差別” というアメリカ社会のダーク・サイドが彼のようなスーパースターの心をもむしばんでいたことを痛感させられる。
Can't Hurry Love: Jackson 5


③Phil Collins
 フィル・コリンズのこの曲を語るのにビデオ・クリップは外せない。このキューピーおじさん、とにかく一人三役で歌い踊ってその身体の動きがめっちゃコミカルでキュート(笑)やし、歌うのが大好きって感じがダイレクトに伝わってきて、見てるこっちも楽しい気分になってくる(^o^)丿 それにしても聴けば聴くほどエエ声してます。


④Dixie Chicks
 映画「プリティ・ブライド」に使われたディキシー・チックスによるカヴァー・ヴァージョンをバックに「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「ヘラクレス」といった数々のディズニー映画の名場面の映像を繋げた「ディズニー・チックス」、何故かこの曲のテンポとキャラの動きが何気にマッチしていて見ていて実に楽しい作品になっている。これ見てるとディズニー映画を見たくなってきた(笑)
Disney Chicks- Can't hurry love


⑤Alison Krauss
 アメリカvsヨーロッパのマッチ・プレー・ゴルフ対抗戦 “ライダー・カップ2004” のオープニング・セレモニーで、ブルーグラス界の歌姫、アリソン “グラミー” クラウスがこの曲を歌った貴重な映像。大好きな彼女の歌声でこの曲を聴けるなんて夢にも思わなんだ... YouTubeに感謝やね(≧▽≦) それにしてもブルーグラスのファンってかなり保守的な白人層みたいで、ステージとは対照的にオーディエンスのシラケっぷりときたらハンパではない。もう完全に引いちゃってますなぁ...(゜o゜) カメラもそのあたりの微妙な空気を察知してか客席を頻繁に映してるような気がするのは私だけ?
Alison Krauss - You Can't Hurry Love
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