shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

& Jazz / 森川七月

2009-08-23 | Jazz Vocal
 音楽ファンの楽しみの一つは未知のアーティストとの出会いである。特にリアルタイムで活動しているマイナーなアーティストの中からダイヤモンドの原石を掘り当てた時の喜びは格別なモノがある。私は古い音楽ばっかり聴いていてコンテンポラリーな音楽シーンに非常に疎いため、中々そういった幸運には恵まれないのだが、つい最近めちゃくちゃ素晴らしい女性ヴォーカリストに巡り合った。それが今日ご紹介する森川七月(なつき)、愛称 “なっちゃん” である。
 彼女のことを知ったのはいつものようにアマゾンでジャズ・ヴォーカル関連のアルバムを見ていて、例のおせっかいな(笑) “この商品を買った人はこんな商品も買っています” 欄にたまたま彼女のアルバムが入っていたのが事の始まり。何の気なしにクリックしてみるとアルバムの選曲がめっちゃツボだったのでとりあえず聴いてみたくなり、アマゾンには試聴システムがなかったので iTunes ストアで検索すると一発ヒット、試聴クリックしてみるとパソコンのショボいスピーカーからそんなハンデをものともしない、実に感じの良い歌声が聞こえてきたのだ。どの曲をクリックしてもハズレ無しの素晴らしさ。これは凄い!!!と大コーフンしてしまい、真夜中だというのに時間も忘れて彼女の他のアルバムを全てチェック、その声にすっかり惚れ込んだ私が彼女の全アルバムをオーダーし終えた頃には東の空が白み始めていた。
 2日後に届いたのは実姉の森田葉月とのデュオ・ライブ盤「ジャズ・カヴァー」、ソロになっての 1st 「& ジャズ」、 2nd 「P-リズム」、そして 3rd 「プリマヴェーラ」の計4枚である。それぞれ特徴があって素晴らしいのだが、中でも彼女にハマるきっかけとなったソロ・デビュー作「& ジャズ」が一番気に入った。
 私の場合、ヴォーカルでもインストでも初めて見るCDはまずその収録曲目をチェックする。過去の経験から言って、曲の趣味が似ているアーティストはたいてい歌や演奏も当たりの可能性が高い。上に書いたようにこのアルバムの収録曲はコワイほど私の愛聴曲ばかりで、特に①から④へと続くスインギーな流れは圧巻だ。その①「ララバイ・オブ・バードランド」、関西ジャズ界の重鎮である魚谷のぶまさ氏(高槻ジャズ・ストリートでの歌心溢れるベース・プレイは凄かった...)の力強いベース・ソロに続いて彼女の歌声がスルスルと滑り込んでくる瞬間がもうゾクゾクするほど素晴らしい!その水も滴るしっとりヴォーカルは絶品で、これがホンマに22才の歌声なのか??? と疑いたくなる。英語の発音も他の日本人シンガーに比べると遙かに上手く、magic が “マズィック” に聞こえる以外は違和感はまったくない。続く②「オール・オブ・ミー」では一転してジャンゴ・スタイルで軽やかにスイングする。その表現力はお見事、という他ない卓越したもので、私はポリー・ポードウェルの名唱を思い出してしまった。③「イッツ・ア・シン・トゥ・テル・ア・ライ」ではイントロから 1st ヴァースの部分に昔のラジオから聞こえてくるようなエフェクトをかけて古き良き時代の雰囲気を醸し出しておいて 2nd ヴァースからいきなり21世紀へと瞬間移動したかのような粋な演出で楽しませてくれる。これは彼女のアイデアなのかな?もしそうだとしたら空恐ろしい22才だ。それもこれも含めて、私が今まで聴いてきた中でこの曲のダントツ№1ヴァージョンだと思う。
 快調に飛ばすブラッシュに乗って絶妙なスイング感を披露する④「ラヴァー・カム・バック・トゥ・ミー」と、バラッドでも安定感抜群なところをみせる⑤「スターダスト」というこの2曲の流れはひょっとして美空ひばりを意識してのものだろうか?いやはや、まったく凄い新人が現れたものだ。意表を突くラテンでコモエスタな⑥「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」でも、とても新人とは思えない堂々たる歌いっぷりを披露する。ややアレンジが凝り過ぎの感があるがそれを補って余りあるような深~い歌声がたまらない⑦「アントニオズ・ソング」、ブルージーなスライド・ギターをバックにアンニュイなヴォーカルを聴かせる⑧「ホワイ・ドンチュー・ドゥ・ライト」、タンゴ・アレンジが斬新な⑨「ア・テイスト・オブ・ハニー」と実にヴァラエティーに富んだナツキ・ワールドは一度ハマると抜け出せない。
 キャロル・キングの⑩「イッツ・トゥー・レイト」とエルトン・ジョンの⑪「ユア・ソング」というポップス・カヴァーは多分彼女自身が好きで歌いたかったのだろう。どちらも気持ちの込もったヴォーカルを聴かせてくれる。それにしてもホントに惚れ惚れするような深みのある声の持ち主だ。この1週間、スーパー・ヘヴィー・ローテーションで聴きまくっているが、飽きるどころかずーっと聴いていたいと思わせる素晴らしさ。綾戸智絵系のソウルフルなヴォーカルとは対極をなす、深みのあるしっとり系の本格派ジャズ・ヴォーカルが好きな人に絶対的にオススメの、超大型新人の登場だ!!!

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